あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

鋼の使い魔-41


 北面に再展開したトリステイン軍2000はその時窮地に立っていた。
 士気はアンリエッタの元で依然高くあったが、数度の激突は最精鋭であるはずのメイジ兵を激減させ、さらに今、敵アルビオン軍がタルブを背に負って対峙している。
 最前線で散開した銀狼旅団が一騎当千を体現する活躍で支えていたものの、敵が下がってしまえば軍略的敗北であり、かといって全力突撃すれば空からの砲撃を諸に受ける。
 漸減攻勢を維持するしかない状態だった。
 反面、アルビオン軍は勝利の一手前、いや、半手前という中だった。
 陸上指揮官の不在の中、艦砲を頼みの攻勢。統率の取れない烏合の衆でありながら、だからこそ集団維持のための突撃が活きていた。

 そう、そんな中のことだった。
 俄に変わった空模様、曇天と轟音に警戒した最中、突如の閃光の後にアルビオン分艦隊右翼のフリゲート一隻が爆発炎上する。船はそのまま真下に布陣するアルビオン地上部隊へと落下した。
 フリゲートを操舵する150人余りの乗組員が火達磨と化した瞬間に悉く炭塊になり、さらに真下に居た兵士約300人が爆沈に巻き込まれて焼死し、或いは崩れ撒かれる瓦礫によって圧死した。
 アルビオン軍はここで指揮官不在の弱点を露呈して攻勢に歯止めがかかり、さらにトリステイン軍は逆に反撃の機会を掴もうとしていた。

 全ては両軍ならぬ、第三者の手によって…。



 『タルブ戦役・八―始原者の亡霊―』



「一体…何が起こったんだ…」
 東の丘、中腹の林から戦況を見ていたギュスターヴの目に、地面に墜落して炎と瓦礫を飛散させる船が見える。
「上だよ」
「デルフ?」
 脇でデルフが鳴った。
「俺様目ないから眩しくても大丈夫なのよ、まぁもの見えるけど。…さっきな、船に向かって真上から何か光る玉みたいなのが落っこちたよ。そんで多分、それが船の火薬庫とかに当たったんじゃねーかな」
「真上だと…」
 たしかに閃光の直前、空に流星のような一筋の光が見えた気がしたのをギュスターヴは覚えていた。
「間違いねー。…相棒、ありゃ始祖の使った『術』だ」
「『術』?」
 ささやかな違和感が滲む口ぶりであった。
「おう。空の上のもっとずっと上から石や光を好きな場所に落せる。落す時のモノがでかいほど当たった時の威力が馬鹿にならねー。ブリミル達が使ってた時でも、一抱え位の石を落としてちょっとした林が一つなくなっちまうくらいの威力があった」
「ちょっと待て…始祖の術だというなら、これは…」
 驚くギュスターヴを知ってか知らずか、デルフが淡々と話す。
「相棒。『ガンダールヴ』はそもそも、始祖を守る盾なんだぜ?こんな事ができそうなのは今のところ一人しかいねーだろうよ」
「…ルイズか」
 戦慄を禁じえなかった。仮にも周りから『ゼロ』と呼ばれたルイズが、これほどの威力ある魔法を使ったなどと…。
 …と、そこでギュスターヴははたと、デルフの言葉に感じた違和感に行き着く。
「…待てデルフ。今『術』と言わなかったか?」
「言ったぜ?こいつはハルケギニアのメイジが遣う『魔法』とは違うんだ。世界全体から力を借りて世界に働きかける。俺の知る限り、ブリミル達は今のメイジが使う『魔法』は使えなかったし、だから俺様を作ったんだったと思うぜ」
 カタカタと鳴り続けるデルフが、人が咳払いをするように一旦止まる。
「…そんなことより相棒、急いだ方がいいぜ。俺様には船の落ちた辺りからどっかに向かって人が移動してるように見える」
「人が移動?」
 視線を麓に戻し目を凝らして見るが、ギュスターヴには燃える船とそれを遠巻きにして囲む兵隊しか見えなかった。
「見えるって言うか、感じるって言うかさ…とにかく人みたいな感じがどっか一点に向かって動いてるんだよ。お嬢ちゃんは死体からアニマを…世界の力を集めてるんだろ?」
 普段の砕けた具合とは少し様子の変わった魔剣に驚くギュスターヴ。饒舌に話すデルフリンガーが以前、己の出自について話したことを思い出した。
「…デルフ、お前記憶が」
 デルフは以前の使用者や、それ以前の記憶を失っていたはずなのだ。指摘された剣は嬉しそうに唾を鳴らした。
「まだ、ほんのちょびっとだけどな」
 驚くばかりのギュスターヴだったが、徐々に視界がまた、暗くなり始めて行くのを感じ取った。
 どうやらルイズらしき何者かが先ほどと同じように、戦場に光を落すつもりでいるようだ。
「デルフ!アニマの流れる先は何処だ?」
「こっから反対側の丘の天辺だ!おでれーた。俺様たちとんでもねー遠回りしてたみたいだぜ!」
 聞くや否や、ギュスターヴは林を抜けて丘を駆け下りていく。
(早くルイズを止めなければ。この力はどうしようもなく危険だ!)
 左腕のルーンに、じわりと光が差し始めていた。



 トリステイン軍本陣は色めき立っていた。転変地異かと思う空の変異、そして謎の閃光の後に、空を漂うアルビオンの軍艦が爆沈して兵士の上に落ちたのであるから。
「今が好機!全軍、突撃せよ!」
 誰もが呆然とする中でいち早くグラモン元帥が声を上げた。満身創痍の部下達を鼓舞してアルビオン兵へ向かって躍り出る。
「トリステインの誇りを示せ!天の恩寵を取りこぼすな!」
 その声に周囲の兵士達が気がついたように動き出す。騎獣が負傷したため下馬していたド・ゼッサールもまた、檄を飛ばすと手勢とともに戦線を押し上げていく。
 アルビオン軍は混乱の最中でますます追い立てられた。船が落ちたことで街道が狭まる。
 逃げ場のなくなりつつある地上部隊の命脈が切れようとしていた。


「はっ…はっ…はっ…」
 全力で走るギュスターヴは鎧の重さも疲労の濃さも感じなかった。まるで馬に乗っているかのごとき速度で戦場の最北面、トリステイン軍の真後ろを移動していた。
「おでれーたぜ!相棒どうして『ガンダールヴ』が発動してるぜ!」
「みたいだな!俺もどうしてかわからんよ!」
 軽口を叩きながら尚も身体は軽く、早く、風を切って戦場を走る。
「けど『ガンダールヴ』が発動してるって事は、主人の危機って事なんだろう!」
 と、閃光の前と同じように、空から轟音が鳴り始める。空気が震え、曇天がさらに影を濃くしていく。
「また空から光が落ちるぜ!急ぐんだ相棒!」
 デルフが急かすまでも無く、ギュスターヴは西の丘の麓を駆け上った。


 アルビオン分艦隊旗艦『レキシントン』の艦橋に男の無様な悲鳴が響いた。
「な、な、なんということだ!!先の閃光はなんだ!僚艦が撃墜してしまった上に友軍を巻き込んだじゃないか!艦長、状況の報告を求めるぞ!このままでは本国で何を言われるか分からないではないか!!」
 閃光と爆音に再度、艦橋へ飛び込んできたジョンストンはボーウッドの前で無様に汗と鼻汁をまきながらすがりつく。
「サー。現在情報の整理をしております。他艦艇に異常はなし、艦砲にも不調はないとのことです」
「他の船の事はどうでもいいのだ!今問題にすべきは船を一隻失ったと言う事なのだよ!あぁ、このままではクロムウェル閣下はじめ議会は私を国有財産喪失の罪で叱責、最悪財産の没収を決定するかもしれん」
(自分の未来だけが大事か!)
 奥歯を噛み殺してボーウッドは呪詛を吐いた。軍帽を被り直して顔を作ると、目の前の無能な上官に正対する。
「サー。提案があります。地上部隊が後退を始めつつあります。タルブを占領できれば作戦目的は達成されるものと考えます」
「む。そうか!では本艦で敵軍を足止めして友軍の占領行動を支援しろ!」
「サー。しかし」
「作戦司令は私だ!これは命令だ!」
「…サー」
 命令である、と言われれば従わざるを得ない。先ほどのように目の前でボイコットする訳にもいかず、ボーウッドは苦渋の表情を背中に、操鑑を指示した。



 ギュスターヴは丘の斜面を駆け上る。斜面は切り立ち、本来登るには適さない所を『ガンダールヴ』で引き出された身体能力で強引に昇っていた。
「この上だ!もうちょいだぜ相棒!」
「ふっ…ふっ…ふっ…」
 『ガンダールヴ』の力が限界を迎えつつあった。ワルドを相手にしたことが今になって悔やまれる。恐らく『ダンダールヴ』の効果が切れれば暫く動く事もできないだろう。
 だが、一瞬たりとも休んでなどいられない。使い魔の契約の力か、それとも養われた直感か、今のギュスターヴにはこの丘の上にルイズがいるという確信があった。そして、コルベールを襲った時に振りかざした、灼熱に盛るファイアブランドの事が脳裏に掠める。
 一族の家宝とされながら、ギュスターヴ自身にとってどこまでも忌まわしき産物。親兄弟を解体し、弟を呪い、そして今はルイズ―異界ハルケギニアで無能と端弾かれていた者に握られている。
 これ以上、あんなものに振り回されるわけにもいかない。そしてそれに巻き込んでしまったかもしれない、ルイズを助けなければならない。


 丘を登りきって頂上に辿り着く。そこは木々が倒されていて開けている、戦場が見えるような場所だった。
「ルイーズ!ルイズどこだー!」
 既に『ガンダールヴ』は殆ど用を成していない。肩を揺らしながら藪目を歩いて声を張った。
 「ぅっ…!」
 街道から吹き付ける一陣の風が視界を遮り、振り向きなおした時、揺れる桜色の波がギュスターヴの目に入り込んだ。
「『一つ…二つ…また一つ…心地いい躯の歌声が聞こえるわ。力があるということが、こんなに素晴しいことなのね。けれど』」
 聞こえる声はこの二月、聞かぬ日がまるで無かったもののはずなのに。
「『やはりまだ足りないわ。もっと強い力を使うためには』」
 提琴のような可憐な声が、今は悪魔のつぶやきにさえ思える。
 ルイズは居た。天に向かって燃え盛るFBを掲げ、もう片手に怪しげなる卵を握って。
 ルイズの掲げるFBが、空に漂う中で一際巨大な船を指した。
「『招来冥府星【ゼノサイド】』」
 刹那、黒く曇った空が割れ、一滴の光が落ちて…。

 二度目の閃光が戦場を包んだ。

「「っ!!」」
 光に遅れて爆音と暴風が駆け抜ける。目が開けられるようになった時、隘路に漂っていた巨艦は巨大な炎の塊と化していた。
「『さぁ、落ちなさい。落ちれば戦場は火の海となって多くのアニマを吹き上げるわ』」
「ルイズ!!」
 声に気付いて振り返ったルイズの金瞳が妖しく光っている。すぅっと細めた目が、まるで路傍の汚らしい石を見るようにギュスターヴを認めた。
「『何をしに来たの?あんたに用はないわ』」
「俺にはある。ルイズ、お前を止めに来た」
「『止める?何を。私はやらなくてはいけない。多くのアニマを集め、やってきた道を還れなければならない』」
「やってきた…道、だと…?」
 ルイズが身体をこちら向ける。風が髪とマントを揺らし、片手にある卵をはっきりと見せた。
 石を削って磨いたような卵が、火達磨の巨艦から照り映える炎をおぼろげに映しこんでいた。
「『吾々は遥かな昔、滅びの淵より混沌を飛び越え、この大地へやってきた。緑溢れるこの大地のアニマは芳醇だったが、その時の吾々には手が出せなかった。だからこの大地に吾々を馴染ませるために時間をかけたのだ』」
「何を言ってるんだか全然分からないな。肝要なのはルイズが今FBとその卵を使って多くの人間の命を散らしていると言う事だ」
 正対する距離にして4メイルの空間が、まるで練り固めているかのような重苦しさを作っている。
(ルイズの中に…何かがいる…のか…?)
 語り口、振る舞い、それらがギュスターヴに伝えてくる。ルイズがただ単に力に溺れているわけではないことを。
 ルイズの携える卵がやはり、元凶なのだろうか。

 ルイズは実に詰まらなそうな顔をして、FBをギュスターヴに向けて振った。学院の時と同じようにギュスターヴの身体を炎の波が包み込む。
「あっちぃぃぃ!!」
 腰元でデルフが悲鳴を上げている。それなのにギュスターヴは顔を覆ったまま、まるで怯む様子を見せなかった。やがて浴びせられた炎はギュスターヴのマントなどを焦がしつつ、消えた。
「『ふん。鉄の術阻害と自分の性質で殆ど術が効かないのか』」
 煤に汚れた顔をまんじりとせずに、その深い瞳でルイズを視る。
「ルイズ。いや…ルイズの中にいる、危うい何かよ。これ以上好き勝手な事を許すわけには行かない」
 ルイズは…いや、ルイズの中の何かがそれを聞いてニヤッと嗤った。
「『私はね、とても悔しかった。魔法が使えない、とても駄目な自分が大嫌いだった。…アルビオンと戦争になって、婚儀が沙汰止みになって…その時ね、自分の中が真っ暗になったの。すごく冷たくて、痛くて、淋しくて。私は知ったわ。自分が何者でもない屑だって』」
「黙れ!ルイズの口でそんなことを言うな!」
 ルイズに取り付く『何か』はひらひらと妖しく身体をくねらせながら、嗤う。
「『あら、少なくともこの身体の持ち主はそう思ったみたいよ。とても絶望したから、私はこの身体を借りる事ができた。自分の無力に絶望して、なんでもいいから力が欲しいと思ったから、私は力を貸してあげた。多くのアニマを操り、世界を動かす真実の力を』」
 さらにFBが振るわれて炎の術がギュスターヴに幾重にも叩きつけられる。ギュスターヴは火達磨になりながらも、一歩も下らずにそれを耐え、浴び続けた。
「『吾々が欲しかったのは身体だ。己の運命を嘆き、悲しみ、自分以外を貶めることになにも感じなくなった人間に手を差し伸べてやったのだ。空ろなお前には分からないだろう。アニマ無き出来損ないよ』」
 そう話す『何か』は絶え間なくFBから炎の術を浴びせ続ける。全身を炎に包まれたギュスターヴは、突然暴れるデルフを抜いた。ルイズはそれを見て身を固めたが、ギュスターヴはデルフを構えず、そばの藪に投げ捨ててしまった。
「あちぃぃぃー!!……って、相棒!」
「『どうした。血と汗と涙を流しても何も流れぬ者よ』」
 火達磨のまま、ギュスターヴは一歩、また一歩と歩き出す。そして…ルイズの目と鼻の先に立った。
「ルイズ……」
 炎に身を舐められ、満身創痍のギュスターヴを前に、ルイズはファイアブランドを振り上げた。
「『死ね』」
 灼熱の、斬るという性質が引き出せたFBがギュスターヴの脳天に振り下ろされる。
 ギュスターヴはそれを、かわさなかった。
「相棒ー!!」



「『ロイヤル・ソヴリン』が落ちてきます!」
「見れば分かります!全軍、後退せよ!」
 突撃攻勢に出ていたトリステイン本陣へ伝令が飛ぶ。
 アンリエッタは伝令を叱咤してユニコーンの手綱を握る。
 トリステイン軍の前には高度20メイルまで下った焼け落ちる巨艦が視界一杯を塞いでいる。
 そしてついに巨艦『レキシントン』は地面に落ちた。巨体を支えるだけの強度を持たない船は炎と瓦礫を撒き散らして戦場の中に崩れる。
 アンリエッタが枯れ尽くさんばかりにそのうららかな声を張り上げた。
「全軍反転!混乱する敵兵を叩くのです!」
 巨艦がその真下に布陣していたアルビオン兵700を巻き添えに爆沈し、敵陣に大きな穴を開けたのだ。
 トリステイン軍はさらに攻勢に出て、残るアルビオン地上部隊を駆逐していった…。


 燃え盛るFBはその姿に相応しい切れ味で、ギュスターヴを両断するはずだった。
「……の…」
「『何?…』」
 鋭くなった切っ先がギュスターヴの掌に食い込んで止まっている。引き裂かれた肉から鮮血が飛び散り、ルイズの頬を濡らす。
「借り物の力で…いい気になるな…ルイズ」
 裂けた手でFBの刀身をぐっと握り締める。力を込めると鮮血が沸き毀れた。
「『放せ』」
「ルイズ。お前が欲しかったのは、こんな…こんなただの力、だったのか?」
「『放せ』」
「お前が欲しかったのは、もっとありふれたものじゃなかったのか?」
「『…放せ』」
「学友と語らい、成績を競い、未来を想って、過去を笑う。それができるだけのものじゃないのか?」
「『……放せ』」
「ただの力で何ができる。そうじゃないだろう?ルイズ。…お前は、貴族である前に、メイジである前に、誰である前に…ルイズじゃないのか?」
「『は…な…せ…』」
 ルイズの身が暴れるのを押しとどめるように、FBを握りこんで引き寄せる。
「取り戻すんだ。手に入れるんだ。自分を」
 ルイズの身体が徐々に震え始めた。ギュスターヴは尚も力強くFBの刀身を握り締める。肉がさらに深く切り裂かれる痛みで顔が僅かに歪む。
「『ハ…ナ…セ…』」
「ルイズを返してもらうぞ…!」
 ギュスターヴの右手が腰に残した短剣を抜く。ルイズに潜む『何か』は強張りを見せる四肢を不自然に身体を揺らしている。が、足が地面に吸い付いたように、動こうとしなかった。
「『デキ…ソコ…ナイメ……』」
 ルイズを借りて『何か』がそう言ったと同時に、ギュスターヴは右手の短剣でルイズの左手に握る卵を叩き払った。
 払い落とした卵が藪に生える樹木に叩きつけられて、ルイズは突如意識を失いギュスターヴの身体にもたれかかるように倒れた。
「………」
「世話が、焼ける…」
 握り締めた左手が解かれて熱を失ったFBが地面に落ちた。ギュスターヴの胸で、親に抱かれた幼子のような顔でルイズは眠るのだった。


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