あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

毒の爪の使い魔-31a


ルイズは、ぼんやりと夢を見ていた。
故郷であるラ・ヴァリエールの領地に在る、屋敷の夢だった。
夢の中のルイズは六歳ほどで、屋敷の中庭を逃げ回っている。
姉達と比べられ、魔法の覚えが悪い、と親に叱られ、それで逃げているのだ。
中庭をあっちこっちへ逃げ回り、そして…ルイズは自身が『秘密の場所』と呼んでいる所へ逃げ込んだ。
そこは中庭にある池で、ルイズが唯一安心できる場所だった。
その周囲には季節の花々が咲き乱れ、小鳥が集い合唱する綺麗な石のアーチとベンチがある。
池の中央に点在する小島には綺麗な白い石で作られた東屋が建っていた。
見た目にも非情に整った美しい池である。
その池には一艘の小船が浮かべてあった。
舟遊びを楽しむ為の物であったが、現在ではこの船で舟遊びを楽しむ者はこの屋敷にはいない。
姉達は成長し魔法の勉強で忙しく、軍務を退いた地方のお殿様である父は近隣の貴族との付き合いと狩猟以外に興味は無く、
母は娘達の教育とその嫁ぎ先以外、目に入らない様子だった。
故に、忘れ去られた場所であるこの池を気に留めるのはこの屋敷ではルイズ以外無く、
同時にルイズにとって嫌な事があった時のこの上ない、絶好の隠れ場所となった。

ルイズは小船に乗り込み、船着場から漕ぎ出す。
池の中央辺りに来たところでルイズは漕ぐのを止め、立てた膝に顔を埋めて泣き出した。
そんな風にしていると、小船の上に唐突に誰か他の人の気配がした。
誰だろう? とルイズは思った。
ふと、いつも自分を抱え上げ、この場所から連れ出してくれた優しい子爵の姿が頭に思い浮かんだ。
憧れの貴族であり、幼い頃に父同士で結婚の約束も交わした人。
しかし、ルイズは首を振った。
”もうここにあの子爵が来る事は無い”
子爵は薄汚い裏切り者だったのだ。自分が持っていると言う力を狙った貪欲な男。
皇太子の命を狙い、結婚を断った自分をも手にかけようとした残忍な殺人者。

そして、あの男は死んだ……。
あのピエロによってこの世から消された…、永遠に…欠片一つ残さず…。
だからここへあの子爵が来る事は無い。…では誰だろう?

すると、その何者かはルイズの肩を叩いた。
「誰?」
尋ねながら顔を上げ……ルイズは目を丸くした。
目の前に立っている、自分の肩を叩いたその人物はタバサだった。
「タバサ? な、何であなた此処に!?」
驚きながら立ち上がるルイズ。夢の中の事なので、ルイズの姿はいつの間にか現在の十六歳に戻っていた。
タバサは静かに首を振る。
「解らない。気が付いたらあなたが目の前にいた」
「…そう」
「それよりも、此処は何処?」
「何処って、わたしの実家の……って!?」
ルイズは周囲を見回し、絶句した。

いつの間にか…周囲の風景はガラリと変わっていた。
澄み渡った青空は赤黒くなっており、辺りに暗闇を振りまいている。
池は色鮮やかな真紅に染まり、何処までも大海の様に広がっている。
そう、周囲に岸辺は見当たらない。季節の花も、池の小島も、屋敷も、何もかもが見当たらなかった。
そんな周囲の光景にルイズは暫し呆然となった。
「…何よ、これ?」
「解らない」
ルイズの独り言にタバサが静かに返す。
ルイズは屈むと真紅に染まった池の水を眺める。
「何かしら? この赤い水」
言いながら手で掬う。ドロリとした感触が手に伝わる。
水とは思えないその感触に思わず背筋が震える。
「な、何よ、この水?」
「水じゃない」
タバサが言いながら、その真紅の液体を覗き込む。
ルイズは怪訝な表情でタバサを見つめる。
「水じゃない? じゃあ…何よ?」
ルイズの問いかけにタバサは直ぐに答えた。
「血」
「血!?」
驚き、反射的に掬った掌を裏返す。
掌に乗った真紅の液体が池に落ち、波紋を作る。
慌ててルイズは小船の上の毛布で手を拭った。
毛布が変わりに赤く染まったが気にしない。
手を拭い終わり、呼吸を整える。
そんなルイズと対照的に、タバサは血の池を目の前にしても実に落ち着いていた。
「あ、あなた…よく落ち着いていられるわね?」
「慣れてる」
「…そう」
少し考え、ルイズは納得する。
彼女はガリアの騎士団の一員として多くの任務をこなして来たのだ。
当然、血を見る様な事も多々あったはず。慣れているのは当たり前と言えた。

と、タバサの目付きが変わった
どうしたの? と尋ねながらルイズは彼女の視線の先へ目を向ける。
すると、そこに一つの人影が見えた。
誰だろう? そんな事を考えていると、徐々に人影の姿がハッキリと見えてきた。
それは実に見覚えのある人影だった。
二メイル近い長身に紫色のコートを着込み、同色の帽子と長いマフラーを身に着け、両の袖から爪を生やした猫の亜人。

「「ジャンガ」」

二人は同時に亜人の名を口にした。



自分の名を呼ばれてもジャンガは血の池の上に呆然と立ち尽くしている。
ただただ静かに足元に広がる血の池を見つめ続ける。
「どうしたのよ、ジャンガ?」
ルイズは再度声を掛けた。が、やはりジャンガは答えない。
返事を返さないジャンガにルイズは頭にきた。
怒鳴りつけてやろうとして……しかし、ジャンガの悲しげな表情に気が付いた。
どうしたんだ? と考えているとジャンガは爪で足元の血を掬う。
無論、爪の隙間から血は次々零れ落ちていく。
その様子をジャンガは静かに見つめる。

『随分、流れたな~…』

唐突に声が聞こえた。
それがジャンガの物である事は二人とも解ったが、聞こえ方が少々変だった。
目の前にジャンガはいるのに、声は目の前から聞こえているのではない。
なんと言えばいいのだろう? 周囲のあちらこちらから同時に聞こえてくるような感じだ。
洞窟の中で声を発すると辺りに響き渡って耳に届く、それと似ている。
ジャンガの言葉は続く。

『俺の爪で流れた血……これだけの量になっちまったんだな~……』

その言葉に二人は血の池を見渡す。
何処までも続く赤い池――これが全てジャンガの仕業だと言うのか?

『まぁ…そりゃそうだろうな…、何人殺したかも…覚えちゃいないんだしよ…』

そんな風に続けるジャンガは、誰かに話すと言うよりは独り言を呟いているような感じだった。

『最初に殺したのは……誰だったっけな…?』

ジャンガがそう呟いたと同時に、周囲の風景がグニャリと歪んだ。
歪んだ風景は別の物を形作っていく。
そして目の前に現れたのは、此処とは別の光景だった。
家の中らしいそこで、誰かが小さな子供を痛めつけている。
痛めつけている二人の男女も小さな子供もどうやら人ではなく亜人のようだった。
男女も子供も猫顔の亜人だ。
男女は鬼のような形相で子供を痛めつけていた。

――まったく、お前には困った物だ!――

――他所様の子に怪我を負わせるなんて…恥を知りなさい!――

怒鳴り散らしながら、男女は更に子供を痛めつける。
その子供は薄い紫色の毛をしており、両手は指の変わりに真っ赤な三本の爪が生えていた。
それを見てルイズとタバサは理解した。…あの子供はジャンガだと。
どうして一目見て解らなかったか? それは彼が子供だからだけではない。
彼はいつものコート姿ではなく、ボロボロの雑巾を張り合わせた様なみすぼらしい服を着ており、
首にはマフラーも巻いていなかったのだから。

幼いジャンガは傷付きながらも困ったような表情で男女を見上げる。

――だって……あいつら、俺を苛めるんだよ…。この手が不気味だって…、化け物って…――

しかし、幼いジャンガの訴えを男女は聞き入れない。
その頬面を男が引っ叩いた。

――うるさい! 口答えをするな! お前がどうなろうと知った事か!――

――そうよ! 貴方の手が不気味なのは見れば当然でしょ? 私達だってそんな手はしていないわ。
貴方だけなのよ…そんな気色の悪い、化け物みたいな手をしているのは!――

――だって…――

何かを言おうとしたジャンガの頬面がまた叩かれた。
今度は女の方だ。

――口答えをするんじゃないわよ! はぁ……なんで、貴方みたいな化け物が産まれたのかしらね?
私はもっと…優しくて、理知的で、可愛い子供が欲しかったわ――

――お前の所為じゃない。…悪いのはこんな姿で産まれてきた、このガキだ――

ガックリと肩を落とす女を男が慰め、床に蹲るジャンガを憎々しく睨み付けた。


ルイズとタバサは男女の会話の中に気になる単語を聞いた。
目の前の女のジャンガに対する言葉……産まれた、子供。
「もしかして…」
「…ジャンガの両親?」

二人が頭を悩ます間にも目の前の話は進む。


――もう、限界…。こんな子要らないわ…――

――そうだな――

母親が呆れ果てた口調で言う。
父親もそれに同意し、頷く。
ジャンガは訳も解らずに自分の両親の顔を交互に見比べる。

――父ちゃん? 母ちゃん?――

そうジャンガが呟くと、父親がジャンガの首を絞め始めたのだ。
苦しさの余り、ジャンガは爪で父親の手を引っ掻いた。
父親は手に付けられた傷の痛みに思わず手を引っ込める。
解放されたジャンガは苦しそうに咳き込んだ。

――な、何するんだよ?――

――決まってるだろ!? お前はもう要らないんだよ!――

――要らない?――

――そうよ! 他所様には迷惑を掛けるわ、私達の言う事を聞かないわ、正直もう限界なの!――

――要らない…? 俺の事…好きじゃないの?――

――バカ言うな! 誰がお前みたいな化け物を好きになるんだよ!? その気色悪い手を自分で見てみろ!――

――ああ嫌だ嫌だ…、こんなのが私のお腹の中から出てきたなんて……気色悪い事この上ないわ――

――こんなの…、化け物…――

――好きになってほしいなら、大人しく死んでくれ! 死んでくれたら礼の一つも言ってやるよ!――

――貴方が生きている限り、私もこの人も幸せにはなれないの。だから…死んで頂戴!――


目の前の光景に二人は呆然となり、同時に激しい嫌悪感と怒りを覚えた。
ジャンガの両親の言葉はあまりにも酷い、酷過ぎる。
子供への親の愛情と言う物は欠片も感じられない。
魔法が出来ないルイズも叱られる事こそあったが、それでもここまでの酷い仕打ちを受けた事は無い。
タバサは論外だ。幼少時代は常に優しい両親と共にあったのだから当然と言える。
そんな二人はふと思い出した事があった。
以前のジャンガとの決闘…、その時の命乞いで彼は親に良い思い出が無いと言っていた。
その時はただの出任せかと思っていたが、それは違ったのだ。
――彼は本当に親に恵まれなかったのだ。
手の形が多少違うだけで化け物扱い…、苛められていたというのに庇ってももらえない。
これでは親と言う物を嫌悪するようになっても仕方がない。

『…ああまで言われて、黙ってられるかよ…』

ジャンガの声が聞こえ、二人は顔を上げる。そして、同時に目を見開いた。
目の前は真っ赤に染まっていた。迸る鮮血で彩られているのだ。
その鮮血の中央に幼い彼は立っていた…、量の爪から鮮血を滴らせ、体中に返り血を浴びながら。
彼の足元には体中を切り刻まれた両親の屍が横たわっている。
それを見下ろす彼は無表情だった。
彼は血の滴る爪を自分の目の前に持ってくると、ジッと見つめた。
それと地面に横たわる両親を交互に見比べる。
やがて、彼は冷たい視線を両親に向け、口を開く。

――なんだ…、こんなに弱かったのか…? 口だけかよ…ザコが――

幼いジャンガはそう吐き捨てた。


『…初めて殺したのがテメェの親だった…』

目の前の光景が消え失せ、あの血の池とその上に立ち尽くすジャンガが現れた。

『愛情だか何だか知らないが……俺は殺したあの二人には特に特別な感情は抱いていなかった…。
いや、寧ろ……目障りだった。やりたい事をやらせてもらえず、毎日毎日道具のように扱き使われて…最悪だった。
殺した瞬間、凄く気分が良かった。これでようやく静かになる…、自由になる…、そう考えると実に清々しい気分になった』

と、血の池が消え、また別の光景が姿を見せる。

暗い…路地裏と思われる場所。
そこで幼いジャンガは他の裕福そうな亜人の男を見下ろしていた。
男は身体に切り傷を負い、倒れたまま涙目で命乞いをしている。
幼いジャンガは召喚された当時、当たり前のように浮かべていた凶悪な笑みを浮かべている。

――助かりたいのか? 残念だなァ~、テメェはあの世行き決定だゼ。ああ、金目の物は置いて行けや……キキキ――

そう言って幼いジャンガは爪を振り下ろした。
物を言わなくなった男からお金等を剥ぎ取ると、その場を意気揚々と引き上げた。

『…あのバカ親共を殺してからは、随分と長い間をボルクのスラム街で暮らしたもんだ…』

今のジャンガの声が響く中、目の前の場面は次々と変わる。
何れも幼いジャンガがスラム街で行った悪事の数々だった。

『時には盗み、時には脅し、時には殺した…。罪悪感も何も無ェ…、それが俺の生き方だからよ』

ジャンガのターゲットは相手を選ばなかった。小さな子供だった時もあれば、年老いた老人の時もあった。
何れの場合もジャンガは躊躇せずに相手から物を奪った。

『そんな生活が五年も続いた時だったか? ――あいつが現れたのはよ』

また別の光景が広がった。



ルイズやタバサと同年齢位のジャンガの姿が見えた。
手には奪った食料や水、金品の類が詰まった紙袋を抱えている。

――キキキ、大量大量。これだけありゃ暫くは困らねェゼ――

笑いながらジャンガは意気揚々と歩いていく。
と、前方に地面に倒れている人影を見つけた。
近寄ってみると、それはどうやら女性のようだった。
その小柄な体付きは、まだ少女と言ってもいいだろう。
長く綺麗な桃色の髪が背中に靡いている。

ルイズはその髪の色が自分や大好きな一つ下の姉に似ている事に気が付いた。

ジャンガは暫く地面に倒れる”それ”を見つめていたが、無視を決める事にしたようだ。
――行き倒れなど、ここでは珍しくないからだ。
そして、此処で暮らす者は自分が生きるので手一杯。他人を助けようなど、夢にも思わない。
ジャンガもそれに習い、横を通り過ぎるとそのまま歩き去ろうと、歩を進める。

グゥ~~…

――なんとも、間抜けな音が響き渡った。
その音にジャンガは後ろを振り返る。
そこには少女が倒れているだけだった、他には誰もいない。
気にしない事にしたのか、ジャンガは再び歩き出す。

グ、グゥ~~…

――またしても音が響いた。
イライラした様子でジャンガは後ろを振り返る。
少女は微動だにせずに倒れていた。

――誰もテメェの世話なんかしねェよ…、此処に来たのが運の尽きだゼ。じゃ、あばよ…――

冷たく突き放す言葉を吐き捨て、ジャンガは再び歩を進める。

グググ、グゥ~~…

――先程よりも一際大きい”腹の虫”が鳴いた。
ジャンガは遂に堪えきれなくなったのか、少女に向かって怒鳴った。

――だァァァ~~! ルセェんだよ!? 行き倒れなら行き倒れらしく、とっととくたばってやがれ!!?――

グゥ、ググゥ、ググググゥ~~…

――返事は更なる腹の虫の大合唱だった。



――ハム、ハグハグ、ングング、モグモグ――

ジャンガは呆然となっていた。
彼の目の前では、行き倒れの少女が凄まじい勢いでパンやら肉やらを平らげ、水を飲んでいる。
それらは彼女の腹の虫の大合唱に耐え切れなかったジャンガが差し出した物だ。

――ぷっっはぁ~~~……生き返ったぁ~~♪――

食料を粗方食いつくし、少女は満足げな表情を浮かべた。

その少女の顔を見てルイズは目を見開く。
「…わたし?」
そう、その少女は随分とルイズに似ていた。
ネコ耳や尻尾など、亜人としての特徴もあったが、顔は実に良く似ている。
だが、顔が似ているだけあり、ある一点の違いが彼女としては我慢が行かなかった。
それは…”胸”。
そう、顔がそっくりなその少女は胸があった。
特別大きいと言うわけではないが、一目見てハッキリと解る位には大きかった。
「…別に羨ましくないわ」
一言そう吐き捨てると、目の前の光景に向き直った。

少女はジャンガを真っ直ぐに見つめるとニッコリと微笑む。

――ありがとう、おかげで助かりました――

――ああ、そうかよ。…なら、とっとと失せろ――

そう言い、ジャンガはその場を立ち去るべく、歩き出した。

――ったく、余計な出費をしちまったゼ。…クソ――

そんな悪態を吐きながら歩くジャンガの背に、少女が抱きついた。
ジャンガは苦虫を噛み潰したような表情で背後の少女を振り向いた。

――何の真似だ?――

――ねぇ、貴方の名前は?――

――…俺は”とっとと失せろ”と言ったぞ?――

――名前は?――

――失せろ――

――名前――

――失せろ――

――教えて――

人でも殺せそうなジャンガの鋭い視線にも少女は怯まない。見た目に反して中々気の強い少女だ。
そのまま暫くやり取りは続き、互いに黙った。
ジャンガは少女を睨み付け、少女はジャンガを真っ直ぐに見つめる。
やがて、ジャンガは大きくため息を吐くと、渋々と言った感じで口を開く。

――…ジャンガ――

――え?――

――ジャンガ……それが俺の名前だ。知ってる奴からは”毒の爪のジャンガ”って呼ばれてるがよ――

――ジャンガ…、いい名前だね。”毒の爪のジャンガ”ってのもカッコいいかも――


『正直、自分の名前がどうとかなんて、考えた事も無かった。”毒の爪のジャンガ”の通り名もいつの間にか付いていた。
カッコいいかどうかなんて解らないし、解る必要も無かった。ただ、”ああ、そう呼ばれてるんだな”て位の認識だった。
だから……素直に自分の名前を褒められて、何となく胸が暖かくなった感じがした時は、正直と惑った…』


――な!?――

見て解る位、ハッキリとジャンガは同様の色を浮かべる。
その様子に少女は意地の悪そうな笑みを浮かべた。

――ああ~~照れてる~♪――

――ンだとコラッ!? テメェ、刻むぞ!?――

――そんな言葉使いなのに、可愛い~♪――

笑う少女は実に楽しそうだ。
ジャンガは暫く少女を睨み付けていたが、忌々しそうに鼻を鳴らすとそっぽを向いた。
少女はそんなジャンガに歩み寄る。

――ありがとね、ジャンガ――

――チッ、…名前は教えたんだから今度こそ失せろ――

そう吐き捨て、ジャンガは今度こそ立ち去るべく歩き出す。
その腕に少女が抱きついた。
ジャンガはため息すら出ない様子だ。
腕にしがみ付いた少女をジロリと睨みつける。

――まだ何かあんのかよ?――

――うん――

――…なんだよ?――

――連れてって――

――……はぁ?――

思わず間抜けな声がジャンガの口から漏れる。
無理も無い事だろう。初対面の男に面と向かっていきなり「連れてって」と言う奴が何処にいる?
――ジャンガの目の前に一人いるが…。

――何処へだ…?――

――貴方の行く所――

――…俺は寝床へ帰るんだよ――

――うん、そこでいい――

――一緒に来るつもりか?――

――そう言ったじゃない?――

――張っ倒すぞ!?――

――ふざけて言ってるんじゃないの…――

――ああ?――

――私……帰る家が無いの…――

――ああそうかよ? 俺には関係無ェな…――

歩き去ろうとすると、また腕を掴まれる。

――連れてって――

――…あのな――

――お願い…――

ウルウルとした瞳で見つめてくる少女にジャンガも流石に困った様子だった。

『女と…いや、他人とあんな風に話したのは初めてだったからな……正直、困ったゼ。
普段通りなら爪で切り捨ててるんだがよ…、どうにもな…あいつにだけは、それができなかった…。
理由は解らなかった……少なくともその時は』

ジャンガは暫し悩んでいたが、やがて盛大にため息を吐いた。

――勝手にしろ…――

――わ~い♪――

ジャンガの答えに少女は笑顔で飛び跳ね、喜びを表現する。
何処までも天真爛漫だった。
ため息を吐きながら歩き出すジャンガの後ろを、少女は嬉しそうに付いて行く。
暫く歩き、ジャンガは徐に少女を振り返る。

――そういや、テメェの名前を聞いてなかったな?――

――名前?――

――ああそうだ。これから…気に食わねェが、一緒に暮らすんだろうが?
…名前ぐらい教えろ、ってか…俺にだけ名前を喋らせるなよ?――

――そうだね。ごめんごめん――

てへ、と少女は舌を出して笑う。
そして自分の名前を嬉しそうにジャンガに教えた。

――私はシェリーだよ。宜しく、ジャンガ♪――

――ああ――

嬉しそうに語る少女=シェリーの言葉にジャンガはメンドくさそうに答えた。



『…そうだ。こうして俺はあいつに……シェリーに会ったんだ…』


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