あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

アクマがこんにちわ-16


港町ラ・ロシェールは山に囲まれており、いわゆる盆地になっている。
空に浮かぶ大陸アルビオンへの玄関口として知られているこの街へ行くには、峡谷に作られた道を通らねばならない。
数々のメイジが協力して道を切り開き、作り上げられた街道は、絶えず人と馬車が行き来していた。
ラ・ロシェールは人口三百人ほどの小さい街だが、交易の要所故か人通りが激しく、人口の十倍以上の人間がいるように見えるだろう。
巨大な一枚岩の岩壁を、優れたメイジ達が『練金』して、岩壁に埋め込まれた見事な建造物の数々を作り出した。
その見事な景観は、訪れた人にしか解らないだろう……



「岩壁に建造物か…日本にも似たようなものがあったなあ、投入堂だっけ」
人修羅は、コルベールから聞いたラ・ロシェールの様子を思い返し、ちょっとしたホームシックを感じてしまった。

ため息をつきつつ、前を行く馬一頭と、グリフォンを見る。
今は昼を過ぎたところだろうか、早朝に魔法学院を出発した一行は、休憩も食事も取らずに走り続けている。
ギーシュは既に疲れ切っており、馬の背に倒れるような恰好でしがみついている。
途中の駅で二度も馬を代えて走り続けるなど、馬に馴れたギーシュでも相当な負担なのだろう。

一方、ワルドはルイズをグリフォンに乗せて、休むことなく走らせ続けていた。
疲れを見せずに走り続けているグリフォンも凄いが、それに乗り続けるワルドもルイズも凄いと思えた。

「ギーシュのヤツ、大丈夫か?」
人修羅は最後尾を走っているが、時々馬から降りて、自分の足で併走し馬の負担を減らしていた。
砂漠と化したトウキョウに比べれば、踏み固められた街道はとても走りやすいので、疲れなど皆無だった。
人修羅は馬の背をかるく撫でて合図をすると、ひょいと馬に飛び乗り、ギーシュの隣へと移動し声をかけた。
「大丈夫かー」
「………」
ギーシュはグリフォンに追いつくのがやっとのようで、人修羅の方を振り向く余裕も、返事する元気もないらしい。
倒れそうになったら『ディア』で回復してやろう…と思いつつ、ギーシュの恰好が気になった。
寝そべるように馬に乗ると、少し楽かな?そう考えて馬の背に体を預けてみた。…震動が酷い。普通に座った方が良さそうだ。



「ちょっと、ペースが速くない?」
ルイズは、ワルドに抱かれるような格好でグリフォンに跨っていた。
ワルドはそれを聞いて少し首をかしげる。
「ギーシュも人修羅も、へばってるわ」
後ろを見ると、ギーシュも人修羅も、馬の背に倒れるような恰好でしがみついていた。
「ラ・ロシェールの港町までは、止まらずに行きたいんだが……」
「無理よ。普通は馬で二日かかる距離なのよ」
「へばったら、置いていけばいい」
「そういうわけにはいかないわよ、使い魔を置いていくなんて、メイジのすることじゃないわ。それにギーシュだって、一応仲間なんだし」
「やけにあの二人の肩を持つね。どちらかがきみの恋人かい?」
ワルドが笑いながら言う、とルイズは顔を赤らめて否定した。
「こ、恋人なんかじゃないわ」
「そうか。ならよかった。婚約者に恋人がいるなんて聞いたら、ショックで死んでしまうからね」
そう言いながらも、ワルドの顔は笑っていた。
ルイズをからかっているつもりだと一目で分かるのだが……後ろでその会話を聞いている人修羅には、冗談なのか本気なのか解らない。


「やっぱりロリコンだよなあ…いや、でも日本だって戦国時代には凄い年の差で結婚したと言うし…でも『ショックで死んでしまう』は恥ずかしい台詞だよなあ…」

人修羅は、文化の違いに戸惑っていた。


◆◆◆◆◆◆
走り続けて更に数時間、既に日が傾いており、街道沿いに生えた木の影が長く伸びている。

「うう…もう半日以上、走りっぱなしだ。どうなってるんだ。魔法衛士隊の連中は化け物か」
ぐったりとしたギーシュの呟きに、「どこかで聞いたことがある台詞だ」と人修羅が応える。
ギーシュはふと、人修羅の方を見た。
人修羅は馬から下りて己の足で走っている。

…走ってる!?

「…なんで走ってるんだ」
「は?」
「いや、何で君は馬から下りてるんだ?」
「今頃気づいたのか。時々降りて併走すると馬の負担を減らせるんだよ、伊賀の影丸に書いてあった」
疲れた様子が感じられない人修羅に、ギーシュは絶句した。
まさしく開いた口がふさがらない様相のギーシュに顔を向けて、人修羅が口を開く。
「ところでさ、ギーシュ。……あの二人、年齢差があると思うんだけど…この国ではあれぐらいの年齢差で結婚するのは珍しくないのか?」
人修羅は辺りに気を配りつつ走っていたが、ルイズとワルドの様子もしっかりと見続けていた。
ワルドがルイズの体に触れるたびに、セクハラではないか、ロリコンではないか、ペドフィリアではないかと思ってしまう。
ルイズの実年齢は人修羅と大差ないので、日本でも結婚可能な年齢だったとは思うが、何しろルイズは見た目がちょっと幼い。
同級生にはタバサという少女もいるが、仮にワルドがタバサの婚約者だったらそれこそ『犯罪だー!』と叫んでしまうだろう。

ギーシュは、人修羅の質問を聞いて、ニヤニヤと笑った。
「ぷっ…もしかして、きみ……、やきもち焼いてるのかい?」
「やきもち?いやいや…どっちかって言うと倫理的な問題かなあ」
人修羅は、ハルケギニアの文化に、ボルテクス界とは違った意味でのギャップを感じ、ため息をついた。


◆◆◆◆◆◆


一行は馬を何度も替えて、ひたすら力走させてきた。
そのため、夜中にはラ・ロシェール入り口に到着することができた。

人修羅がラ・ロシェールの岩山を見上げると、峡谷の向こうに大きな月が見える。
よく見ると、峡谷の岩壁には明かりが漏れている箇所があった、あれがきっとラ・ロシェールの建物なのだろう。
「ホントに山なんだなあ」
人修羅の呟きを聞いて、ギーシュが怪訝な声で言った。
「きみは、ラ・ロシェールは初めてかい?」
「本でしか知らない、実際に空の港を見るのは初めてだよ。俺の故郷じゃ空の港と言えば平地が主なんだ」

ラ・ロシェールに到着すれば休めると思ったのか、ギーシュは少し元気を取り戻し、饒舌になっていた。
「はるか昔、優れた土系統のメイジがこの地を砦として作ったんだ。そのメイジは当時のトリステインから勲章を賜っているよ、今ではほとんどが宿や店になっているけどね」
「へぇー…ギーシュ!止まれっ!」
人修羅はすぐに馬を止め、次いでギーシュの馬を制止する。
直後に崖の上から何本かの松明が投げ込まれ、一行の姿が照らし出された。

「な、なんだ!」とギーシュが叫ぼうとしたが、人修羅はギーシュの頭を押さえつけ馬の影に伏せさせた。
戦の訓練を受けていない馬は、松明の炎を見ておびえたが、人修羅が「静まれ」と呟くと、ぴたりと動きを止めた。

そこに、何本もの矢が夜風を裂いて飛んで来た、スカッ、カッ、と軽い音を立てて、幾本もの矢が地面に突き刺さっていく。
「き、奇襲だっ!」
ギーシュが叫ぶと、無数の矢が人修羅とギーシュに殺到した。
「ギーシュ!後ろだ!伏せたままでいいからバックアタックを警戒しろ!」
そう指示をとばしつつ、人修羅は背中からデルフリンガーを抜き放つ。
次々に飛んでくる矢を弾き、弾き、弾き続ける。

夜目が効くお陰で、矢を放つ男達の姿はしっかりと見えている、ちらりとルイズ達を見ると、ワルドが魔法で風の障壁を作っていた。その質は高く、大抵の弓矢では傷一つつけられないだろう。

人修羅はデルフを左手に持ち替え、ガンダールヴのルーンに意識を向ける…するとルーンが輝きを増し、人修羅の体に『最適な力加減』が浸透していった。
右手でコルベールが作ったナイフを取り出すと、その使い方も、最適な力加減も、自然と体に染みこんでいく。
人修羅は自分の経験と、ルーンからもたらされる武器の使い方を照らし合わせながら、崖上の男達に向かってナイフを投げた。
「うわっ!」
崖の上から叫び声が聞こえた、人修羅の投げたナイフが山賊らしき男の腕に突き刺さったようだ。
それを機に矢の雨が止まり、ワルドとルイズが人修羅の元へ近づいてくる。
「夜盗か、山賊の類か?」
ワルドが呟くと、ルイズがはっとした顔でワルドを見上げた。
「もしかしたら、アルビオンの貴族の仕業かも……」
だがワルドはそれを否定する。
「貴族なら弓は使わないだろう…ん?」

ワルドは空に何かがいると思い、上空を見上げ、目を細めた。
人修羅も空を見上げる、すると聞いたことのある、ばっさばっさという羽音と共に、崖の上から男達の悲鳴が上がった。

人修羅は周囲に気を配りつつ、崖の上の、更に上へと目を懲らす…すると、そこにはタバサの使い魔シルフィードが居た。よく見ると数人を乗せて飛んでいる。
そのうち一人が風の魔法を使い竜巻を起こした、男達の放つ矢を反らすだけでなく、男達を吹き飛ばしてしまった。
「おや、風系統の呪文じゃないか」
ワルドが呟く。

弓を射っていた男達はごろごろと斜面を転がり、所々に体をぶつけ、崖の上から落ちてしまった。
体を打ち付けた男達は、骨の折れるような音、水っぽい音が聞こえてきたので、人修羅は「うわ…」としかめっ面で呟いた。
痛みのあまりうめき声を上げる男達を見ると、ちょっと可哀想な気もするが、こちらを殺そうとしたのだから死ななかっただけマシだろう。

「シルフィード?」
ルイズが空を見上げ、呟く……空にいた何者かの正体は、タバサ達だった。
シルフィードは地面に降りてくると、赤い髪の少女が風竜から飛び降り、髪をかきあげた。
「お待たせ」
ルイズはグリフォンから飛び降りキュルケの元に近寄ると、声を荒げた。
「お待たせじゃないわよッ! 何しにきたのよ!」
「助けにきてあげたんじゃないの。朝に偶然あんたたちを見かけたのよ、面白そうだから急いでタバサを叩き起こして後をつけたのよ」
キュルケは風竜の上のタバサを指差した。タバサはなんとパジャマ姿だったが、それでも気にした様子はない、黙々と本のページをめくっている。

そしてもう一人、ミス・ロングビルがシルフィードから降りて、こちらに近づいてきた。
「ミス・ロングビル?どうして貴方まで」
「それが……」
ルイズの質問にロングビルが答える。
ロングビルはオールド・オスマンに人修羅の監視を依頼されていた。
ラ・ロシェールから出航するまでは影ながら見届けるように…と言われていたが、ルイズ達があまりにも馬を急がせていたので、なかなか追いつかず困っていたらしい。
それを見つけたキュルケ達が、シルフィードに乗るよう勧めてくれたので、その好意に甘えて乗せて貰ったのだとか。


「あああもう…ミス・ロングビルはともかく。ツェルプストーには言っておくことがあるわ。これはお忍びの任務なのよ!遊覧気分で付いてこられちゃ困るのよ!」
ルイズが声を荒げるが、キュルケは気にした様子もない。
「お忍び? だったらそう言いなさいよ。言ってくれなきゃわからないじゃない?ま、あなたたちを襲った連中を捕まえた分は、感謝してくれても良いわよね」
そう呟きつつ、キュルケは倒れた男たちを指差しす。
怪我をして動けない男たちは、ルイズ達に罵声を浴びせかけており、丁度そこにギーシュが近づいて尋問を始めるところだった。

キュルケは余裕の笑みでルイズを見る。
「勘違いしないで。あなたを助けにきたわけじゃないの。ねえ?」
キュルケはしなをつくると、グリフォンに跨ったままのワルドに近寄った。
「おひげが素敵よ。あなた、情熱はご存知?」
流し目を送るが、ワルドはちらりとキュルケを一瞥しただけで、左手で押しやった。
「あらん?」
「助けは嬉しいが、これ以上近づかないでくれたまえ」
「なんで? どうして? あたしが好きって言ってるのに!」

キュルケはとりつく島のないワルドの態度に驚いた、自分に言い寄られた男で、動揺しなかった男は居ないのを自慢にしていたからだ。
しかしワルドにはそれがなく、極めてドライな態度を崩さない…不思議に思ってワルドを見つめていると、ワルドがルイズの方を向いた。
「婚約者が誤解するといけないのでね」
その言葉と視線に気が付いたルイズは、頬を染めて、困ったようにもじもじし始めた。
「なあに? あんたの婚約者だったの?」
キュルケはつまらなそうに言うと、ワルドが頷く。
そんなワルドの様子を観察して、キュルケは、まるで氷のように冷たい瞳だと思い、鼻を鳴らした。
「つまんない」

人修羅を見ると、ロングビルと何かを話している。
キュルケはそーっと人修羅に近づくと、ぴょいと抱きついた。
「ほんとはね。人修羅が心配だったからよ!」
人修羅は驚いて、その場に硬直してしまった。
「ちょちょちょ何を!?」
慌てふためく人修羅は、まるでウブな学生のようであり、内包している魔力からは考えられないほど純情な少年だった。
「ツッ、ツェルプストー!」
ルイズが怒鳴る、と、キュルケは人修羅を放して、ルイズに近寄った。
「やきもち?」
「こ、この…」
ルイズは両腕を握りしめてぷるぷると震え、唇を噛んだ。
するとワルドが、そんなルイズの肩に優しく手を置き、ルイズに微笑みかける。
「ワルド……」
そこに、男たちを尋問していたギーシュが戻ってきた。
「子爵、あいつらはただの物取りだ、と言ってます」
「ふむ……、なら捨て置こう」
ワルドはひらりとグリフォンに跨り、颯爽とルイズを抱きかかえた。

「今日はラ・ロシェールに一泊して、朝一番の便でアルビオンに渡ろう」
一行にそう告げると、ワルドはグリフォンを走らせた。
ギーシュも馬に跨って後を追う、風竜の上のタバサは、本から視線を逸らして人修羅を見る…人修羅は何かを考え込んでいた。

不意に、人修羅が口を開く、
「タバサさん、キュルケさん、悪いけど先に行ってくれないか。俺はちょっと聞きたいことがある」
「聞きたいこと?」
キュルケが首をかしげた。
「最初、松明が投げ込まれたとき、先頭を走るワルドさんがグリフォンに乗っているのも理解できたはずだ。四人ばかりの物取りが、メイジ三人と従者一人の列を襲うと思うか?」
それに…と言いかけて口をつぐむ。
これは勘にすぎないのだが、物取りだと自称する連中が、どうも嘘をついているような気がしてならないのだ。

キュルケは人修羅の言いたいことを理解したのか、解ったわと呟いて微笑むと、シルフィードに飛び乗った。

「ロングビルさんは…俺の監視だから仕方ないですよね。俺の馬に乗って、ちょっと待っててください」
「それは良いですけど、何をするんですか?」
「飴と鞭ってやつですよ」
人修羅が笑った。


地面に転がっている男達に近づき、比較的元気そうな男を見やる。
男は太もも血を流していた、修羅が投げたナイフが当たったのだろう。

「なんだ、てめぇ…もう、俺たちに、用は、無いだろ」
「いや、ある。お前ら誰かに雇われたな?」
人修羅が視線を合わせて質問すると、男は微かに眉を震わせた。
「雇われたって、金貨を積まれたって、貴族なんか相手にするもんかい」
そう言い放つ男の前に、人修羅がポケットから取り出した金貨を落とす。
「悪いようにはしない」
「…し、しらねえ」
男は、あからさまに視線を逸らした。

人修羅はふぅとため息をつくと、すぐ側で倒れている男を見た。足と手があらぬ方向に曲がり、苦しんでいる。
「『ディア』」
手をかざして呪文を唱えると、薄緑色の光が男を包み込んだ。
「………あ、あれ?」
痛みが消えて、手足がまともに動くのが不思議なのか、その男は自分の手足を振ったり、さすったりして感触を確かめた。

「怪我は治した。さて…何故俺たちを襲ったか教えてくれないか?正直に答えてくれたらお前の怪我も治そう」
人修羅は、足を怪我した男に向き直り、もう一度質問する。
すると男は観念したのか、辺りを気にしながら、小声で呟き始めた。
「わ、わかった…実は……」



◆◆◆◆◆◆



ラ・ロシェールで一番上等な宿『女神の杵』亭。
ルイズとワルドを除く一行は、この宿の酒場で疲れを癒していた。
宿の一階部分が酒場になっており、その内装も貴族を相手にするだけあって、見事な石造りのものとなっている。
テーブルも床も、すべて岩壁を『練金』で削りだして作られたもので、それらには見事に見事に細工が施されている上、ピカピカに磨き上げられている。

ギーシュがテーブルに突っ伏していると、そこにワルドとルイズが帰ってきた。
二人は桟橋へおもむき、アルビオン行きの船を探して、乗船の交渉をしてきたのだ。
ワルドは席につくと、困ったように言った。
「アルビオンに渡る船は明後日にならないと、出ないそうだ」
「急ぎの任務なのに……」
ルイズは口を尖らせて呟く、と、そこで人修羅の姿が見えないことに気が付いた。
「人修羅は?」
「何か話があったみたいよ、すぐに来ると言っていたけど?」
キュルケが答える。
「そう…」
ルイズは残念そうな、寂しそうな雰囲気を瞳に漂わせて、俯いた。

「おー、見つけた見つけた。ここかここか」
と、その時人修羅が酒場へと入ってきた。
「人修羅!もう、何やってたのよ」
「ごめん、ちょっと調べごとがあって」
「調べごと?」
ルイズが聞き返す。
と、人修羅はギーシュとタバサの間に座り、タバサに顔を向けた。
「この場所はシルフィードが教えてくれたよ、ありがとう」
「………」
タバサはこくんと頷く。

人修羅はルイズに視線を合わせると、緊張感を漂わせて、口を開いた。
「…さっき、俺たちを襲ってきた物取りから、ちょっと聞き捨てならないことを聞いたんだ」

そう言うと、人修羅はルイズに着席を促した。

「『通りかかる貴族の一行を襲え』…って内容で、白い仮面とフードを被った男に雇われたらしいが……報酬としてエキュー金貨で15枚を渡されたそうだ。」
「なによそれ…明らかに私たちが狙われたんじゃない」
ルイズが呆れたように呟く。
「エキュー金貨で15枚!かなりの額じゃないか、それなら、メイジの傭兵だって何人も雇えるさ」
ギーシュも驚きの声を上げた。

人修羅はワルドに視線を移す。
「ええと…ワルドさん、どう思いますか」
「貴族の一行を襲えというのならば、我々を狙ったものとは限るまい。仮に野党を仕向けたのが貴族派だとして…おそらくアルビオンに渡るトリステイン貴族の動向が気になり、過敏な対応をしたのだろう」
「なるほどね…」
人修羅はワルドの意見を、肯定せず、否定もしない。
ただトリステインの貴族がどういった考えを導き出すのかを知りたかった。

キュルケに視線を移すと、キュルケは両手を肩の高さに挙げて、手のひらを上に向けた。タバサはキュルケの隣で本を読んだまま。
ギーシュは複雑そうな顔をして、人修羅を見ている。
「あの物盗りは、僕たちを妨害するために雇われたってことかい?そんな素直に喋るとは思えないけど、いったいどんな手を使って」
「飴と鞭さ」
人修羅がニッと笑うと、ギーシュは顔を引きつらせて、笑った。


「まあ、この宿なら大丈夫だろう。ラ・ロシェールは元々砦として作られているし、この宿は貴族専用だ。ここを襲おうとする奴らもいない。今日はもう寝よう。部屋を取ってある」
ワルドは鍵束を机の上に置いた。
「キュルケとタバサは相部屋だ。そして、ギーシュと使い魔くんが相部屋、僕とルイズは同室だ」
人修羅はぎょっとした表情でワルドを見た。
「婚約者だからな。当然だろう?」
「そんな、ダメよ! まだ、わたしたち結婚してるわけじゃないじゃない!」
ルイズが慌てたように言うが、ワルドは首を振ってルイズを見つめた。
「大事な話があるんだ。二人きりで話したい」


◆◆◆◆◆◆


ワルドとルイズが二階への階段を上ると、人修羅は神妙な面持ちでテーブルに肘をついた。
「…なあ、キュルケさん。あれぐらいの年齢差で結婚するのって、珍しくないのか?」
人修羅が呟くと、キュルケはあっけらかんと答える。
「あれぐらい普通よ、男の方はむしろ遅いぐらいじゃない?」
「そうなのかー」
「もしかして、あの男に嫉妬してるの?あんな男より人修羅の方が可愛いわよ」
人修羅の肘が滑った。
「か、可愛いとか言われたのは初めてだなあ。まあ嫉妬と言うより、文化の違いって言った方がいいかな…あ、すいません、水下さい」
人修羅はウェイトレスに水を注文しつつ、故郷の話をする。
「俺の故郷は、百年ぐらい前までは15歳で大人の仲間入りだったそうだ。その頃は平均年齢が50歳ぐらいかな?だから婚期も早い。
でも……俺が居た頃だと平均年齢も80歳を超えていたから、幼いころ婚約を交わすなんて、珍しいものになっていったんだ」
「平均年齢で80?それって、貴族階級のことかしら」
「いや、国民全体でだよ。前にも言ったけど、平民と貴族みたいな階級差は無いんだ」
ギーシュ、キュルケが驚く。
「本当かい?それは凄いな、70歳を超えられるのは希、オールド・オスマンのように年齢が解らないと言われるのは本当に極々希だと聞くよ、余程の長命種族なんだな」
「凄いわねえ、でも、しわくちゃのおばあちゃん時代が長かったら、ちょっと困るわね」
人修羅は、いつの間にか運ばれてきた水を飲み込むと、話を続けた。
「だからさ、ワルドさんのような見た目の人が、ルイズさんぐらいの人に堂々と求婚できるなんて、俺の故郷じゃ百年も前の話なんだ。
俺の生まれた頃は…だいたい25歳が結婚適齢期かなあ。ダンディなオジサンが高校生に求婚したら、『ロリコン』って言われてもおかしくないし」
その言葉にタバサが反応を示した。本から人修羅へと視線を移し、口を開く。
「ロリコン?」

「そう、ロリコン……なんて言うかな、年下の『女の子』しか愛せないってヤツ、そういう意味かなあ」

タバサは、そう…とだけ呟いて視線を本に戻すと、キュルケはタバサを見てにやりと笑った。
「年が近ければ問題ないんでしょ?」
「そうだよ。同年代ならまあ、フツーかな」
「良かったわねタバサ、年が離れてなければ大丈夫ですって」
キュルケの言葉に、タバサはほんの少しだけ不機嫌そうに眉をひそめて首を振った。
「ちょっと待て、なんの話だ」
困惑気味の人修羅がキュルケに問う。
「あら、だって貴方達を見つけて追いかけようとしたのは私だけど、タバサも凄かったなのよ。
貴方達が馬で出かけたと言ったら、パジャマ姿で飛んでいこうとするんだもの。タバサがそんなに慌てるなんてねえ…きっと春が来たのね」

タバサはぶんぶんと風を切る音が聞こえるほど首を左右に振っている。
ギーシュは、そんな様子を見て呟いた。
「ご主人様には婚約者が居て残念だったが、ミス・タバサが相手になってくれるなら破格の待遇じゃないか?やるなあ人修羅!」
「おい、ちょっとお前ら話を変な方向に持って行くな!」

しばらく人修羅とタバサはからかわれていたが、タバサが殺気のこもった目でギーシュに杖を向けた辺りで流れが止まった。

そんなこんなで、ワインを飲み干すと…ギーシュが欠伸をし始めた。
「ふあ…すまないが、僕はそろそろ休ませて貰うよ」
「俺はもうちょっと飲んでるよ」
「じゃあ、鍵を渡しておこう」
自分は『ロック』があるから良いと言って、人修羅に鍵を渡し二階へと上がっていく。
ギーシュを見送った人修羅は、キュルケに向き直ると、少しばかり真剣な表情で話し出した。

「キュルケさん、すまないが、俺はこれから外に出てくる。その間何かあるかもしれない…もし襲撃があったら、戦力として期待させて貰うけど、いいかい?」
「あら?そういって一人で出かけて…女を買うつもりかしら」
「違うよ。野党から聞き出した話が気になってさ…一応それらしい酒場とかを見てくる」
「ずいぶん用心深いのね?」
「そうでもないよ。本当に用心深かったら、こんな任務にルイズさんを連れてこないよ…アルビオンは戦場かもしれない。それならここも何時戦場になってもおかしくないからな」

視線を逸らして呟く人修羅の表情からは、何を考えているのか想像も出来ない。
しかしその用心深さは、取り返しの付かない後悔から来ているのだと直感的に理解できた。

「あーあ、ルイズも幸せ者ねえ、貴方みたいな人にこれだけ大事にされてるんだから」
「どうかな、俺のせいで荒事に巻き込まれてるかもしれないぞ」
「今まで陰口をたたかれ続けてたルイズに、自信を付けさせようとしてるでしょう?端から見ていると仲の良い兄弟みたいに見えるわ」
「兄弟ねえ」
「そうよ…ま、心配しないで見ていらっしゃい」
「あいよ。悪いな」

手をヒラヒラさせて、キュルケが人修羅を見送る…人修羅は振り向かぬまま手を挙げてそれに応え、ラ・ロシェールの街へと繰り出していった。

人修羅を見送ると、キュルケはグラスに残ったワインを一気にあおる。
そしてタバサの頭をちょんと小突いた。
「私たちも寝ましょ」
「…わかった」

二人は二階へと上がり、部屋へと入って、寝る準備をし始めた。
タバサはパジャマ姿なのでこのまま寝てしまいそうだが、そのまえに体を軽くタオルで拭いている。
その隣ではキュルケが髪の毛をまとめている、ふと、タバサが呟く。
「どうして、興味を持ったの?」
「え?」
キュルケが首をかしげた。
「今まで、人修羅を避けてた…なのに今日は、親しそうにしている」
「ああ…そのことね」
くすりと笑って、キュルケがベッドに腰掛けた。

「別に避けていた訳じゃないわ、ただ、距離の取り方が解らなかったのよ。
…彼に近づこうと思ったけど、焼き尽くされそうな気持ちになるのよ、こんなの初めてだわ、そこには情熱も何もないのよ、無感情に焼き尽くされる…言うなれば虚無ね」
タバサはキュルケの言葉を聞きながら、隣に腰掛けた。
「でも、彼って…その魔力には不釣り合いな程純情よね。ルイズと同じで、からかうのが楽しそうだから、思い切ってからかうことにしたのよ」
「…そう」
タバサは納得したのか、こくりと頷いた。



「そういえば…」
タバサの呟きに、キュルケが怪訝な顔をした。
「ミス・ロングビルの姿が見えない」
「…わざわざ別の宿に泊まったのかしら……じゃあ、これから逢い引き…?人修羅って年増趣味? 故郷じゃ結婚適齢期が遅いって言ってたわね…」

その日タバサは考え込むキュルケを放って、早々に寝てしまったらしい。


◆◆◆◆◆◆


『女神の杵』亭からだいぶ離れた、町はずれといっても良い場所に、平民がよく利用する酒場兼宿があった。
ロングビルは狭い裏通りの奥へと入っていき、はね扉のついた酒場へと入っていく。
スクウェアメイジの魔法で、一枚岩を削りだして作られたラ・ロシェールの街は、岩の建物と木の建物で明確な格差がある。
この酒場はいわゆる平民の、その中でも粗野な者達が利用する酒場で、酒樽の形をした看板に『金の酒樽亭』と書かれているが、廃屋にしか見えないほど小汚い建物なので名前負けしている。
酒を飲んでいる者達も、ほとんどがならず者と思われるような風体の者であり、ロングビルを見ては下卑た笑みを浮かべている。


その日の『金の酒樽亭』は、内戦状態のアルビオンから帰ってきた傭兵たちで溢れており、口々にアルビオンを笑い、けなし、乾杯していた。

「アルビオンの王さまはもう終わりだね!」
「いやはや!共和制ってやつの始まりだな!」
「では、『共和制』に乾杯だ!」

そう言って乾杯しあって、がははと笑っているが、共和制とは何なのか彼らは知らないだろう。
ただ、雇い主だったアルビオンの王党派が敗北寸前まで追いつめられたので、早々に逃げ出して貴族派に媚びを売っているだけである。

具合良く酒が回ってくると、この酒場には似つかわしくない、フードを被った女に目がいく。
目深にフードをかぶっているので、顔の下半分しか見えなかったが、それだけでもかなりの美人に見えた。
女は先ほどワインと肉料理を注文し、隅っこの席に腰掛けて、給仕にチップとして金貨を渡していた。
「こ、こんなに? よろしいんで?」
「泊まり賃も入ってるのよ。部屋は空いてる?」
ロングビルの上品な声を聞いて、男達は溜まらず顔をにやけさせた、女一人どうとでもなる…目つきがそう物語っていた。
給仕が頷いて去っていくと、幾人かの男たちが、目配せをしながら立ち上がり、ロングビルのの席に近づいた。
「お嬢さん。一人でこんな店に入っちゃいけねえよ」
「そうだそうだ、アブねえ連中が多いからなあ。でも、安心しな。俺たちが守ってやるからよ」
そう言いながら、ごろつきがロングビルのフードを持ち上げた。
ロングビルの切れ長の目に、細く、高い鼻筋…男達からすればまるで貴族のような上玉であった。
「こりゃ、上玉だ。見ろよ、肌が象牙みてえじゃねえか」
男がロングビルの顎を持ち上げようと手を伸ばすと、その手をぴしゃりと撥ねる。
すると別の男が、ロングビルの首にナイフを当てた。

だがロングビルは恐れる様子もなく、袖の中で握っていた杖に意識を向け、周囲に聞こえない程の小声で『練金』を詠唱する。
男の持ったナイフがぐにゃりと歪み、ぼろぼろと土くれに変わって、崩れた。

「きっ、貴族!」
男たちは慌ててロングビルから離れた、マントを羽織っていないので、男達はロングビルがメイジだと気づかなかったのだ。
「はん、わたしはメイジだけど、貴族じゃないよ…そうだね、迷惑料代わりにちょっと話を聞きたいんだ。あんたたち傭兵なんでしょ?」
ロングビルがそう言い放つと、男達は呆気にとられて、顔を見合わせた。顔にはどこか安堵が浮かんでいる。
何らかの理由で貴族でないメイジならば、ここにいる皆が討伐されることも無いだろうと思い、年長者らしき男がロングビルに近づいた。
「確かに傭兵だ、だが、あんたは?」
「この街に入る貴族を襲え…そう命令した奴がいるそうじゃないか、それについて話を聞きたいのさ」

瞬間、男達が顔色を変えた。
ロングビルの発言に驚いているのではない…いや、一度は驚いたがそれも一瞬のこと、男達の視線は別のものに向けられている。

男達の視線に合わせて、酒場の入り口を見ると、仮面を被った男が音もなく羽扉を開けて、中へと入ってきた。

顔を覆い隠す、真っ白な仮面を被った男は、傭兵たちを見回して一言「失せろ」と呟いた。

男達はいそいそと酒場の宿へと逃げていった、仮面の男はその間にロングビルへと近づくと、ヤケにくぐもった声でこう言った。

「奴らを雇ったのは私だ…探したぞ『土くれ』。いや、マチルダと呼んだ方がいいか」

ロングビルの顔から、血の気が引いていった。



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