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とある魔術の使い魔と主-30


シエスタと当麻がタルブの村に行く為に消費した三日間、
ルイズはずっと授業を休んで部屋に閉じこもっていた。
もっとも、食事と入浴の時だけは外に出たが、それも出来るかぎり他の人に会わぬよう時間を遅らせたりした。
そして、部屋に戻ったらまたベッドに身を預ける。出し尽くした涙がシーツにこびりついているが、気にかける余裕もない。
心の中にぽっかり穴が空いてしまったような感覚。人形の気分をルイズは味わった。
最初は、『なんであいつの事を考えなきゃいけないのよ!』と自分に逆切れしてきたが、当麻が寝ていた藁の束や、未だに倒れている本棚を見ると、寂しくなってしまう。
気分転換に何をしても、やっぱり当麻の存在を考えてしまうのだ。
(わたしはトウマにどうして欲しかったんだろ……)
口ではああ言ったが、それは望んでいなかったのではないか?
当たり前だ。トウマに死んでほしくないに決まっている。じゃあなんで言っちゃったんだろう?
やるせなさが自分を支配していき、ギュッと枕を胸元で抱きしめる。
いまさら何を考えたってもう当麻は戻ってこない。あのメイドと仲良く幸せに暮らしているのだろう。
幸せに……暮らしている?
(そんなの……やだ)
今は怒りに身を任していない。落ち着きを取り戻した分、冷静に考えた結果導き出された結論。
やっぱり、当麻には居てほしい。理由とか、理屈とか、そんなの関係ない。
ただ居てほしいのだ。
今この場に、目の前に居てほしい。
決して叶う事のできない願いを少女は願う。
神様に、お祈りするかのように。
ぽたぽた、と。水滴が落ちるような音が聞こえた。
とうの昔に出し尽くしたはずの涙腺から、再び透明な雫が落ちていた。

しばらくすると、コンコンと扉を叩く音がした。
(トウマ……?)
正常に働かない思考は、最高の客が来る事を望む。次第に景色が、思考がクリアになってくる。
もし当麻だったら嬉しい。凄い嬉しい。嬉しいけど許さない。一発ぶん殴ってやるんだから……!
しかし、世の中はそううまくできていない。
いつまで経っても返事をしないルイズに我慢しきれなかったのか、がちゃりと扉が開いた。
ぐすっ、とルイズは鼻をすすり、目頭に溜まった涙を手で拭き取る。
確認をとらずに叫んでいた。
「バカ! トウマの……、あ」
「トウマじゃなくて、ごめんなさいね」
扉の所から現れたのはキュルケだった。ルイズの思い違いに、キュルケはにやっと笑う。
「な、何しにきたのよ!」
恥ずかしくなったのか、ルイズは顔を赤くしてシーツに潜り込んだ。
どうあってもこの場から離れてたくないという意志表示を示す。
はぁ、とキュルケはため息を吐くと、ベッドの目の前まで歩み寄り、がばっと毛布をはいだ。
ネグリジェ姿のルイズが、キッとキュルケを睨む。なによ、と言わんばかりの眼差しでもある。
「あなたが三日も休んでいるから、見にきてあげたんじゃないの」
キュルケにとっては予想外であったのだ。まさかメイドが食事を持ってきたぐらいで、ルイズが当麻を追い出すとは思わなかったのだ。
さすがのキュルケもこれには良心が痛む。
キュルケは本棚が倒れているのをルイズの仕業だと思うと、正直呆れた。ここまでするのか、と。
「で、どーすんの。使い魔追い出しちゃって」
「あんたに関係ないじゃない」
毅然とした態度に、キュルケは冷たい視線を送る。よく見ると、ベッドにはいくつものしみがついている。どうやら相当の量の涙を流したようだ。

(まったく……)
はぁ、とキュルケは呆れながらも口を開いた。
「あなたって、バカで嫉妬深くて、高慢ちきなのは知っていたけど、そこまで冷たいと思わなかったわ。仲良く食事してたぐらい、いいじゃないの」
「それだけじゃないもん。よりによって、わたしのベッドで……」
ルイズは小さく呟いた。これにはキュルケも驚きを隠せない。どうやら予想外であったようだ。
「あらま、抱き合ってたの?」
違うもん、押し倒してたもん……と悲しげにルイズは頷く。さすがにそれはショックに違いない。
トウマって実は積極的なのね、とキュルケは関心した。といっても、本当はシエスタがした上、演技であったのだが、キュルケは知る由がない。
「そりゃ好きな男が他の女と自分のベッドの上で抱き合ってたら、ショックよねー」
「好きなんかじゃないわ! あんな奴! ただ、貴族のベッドを……」
「そんなの言い訳でしょ? 好きだから、追い出すほど怒ったんでしょ」
ぐっと言葉に詰まる。キュルケの言っている事は正しい。正しいのだが、認めたくないのだ。
「しょうがないじゃないの。あなた、どうせ何もさせてあげなかったんでしょ。そりゃ他の子といちゃつきたくもなるってものよ」
ルイズは黙ってしまった。キュルケはぐいっとルイズの顔をこちらに持ってきた。
「ラ・ヴァリエール、あなたがここで流した涙は一体なんなの? 悔しかったんじゃないの? 辛かったんじゃないの?」
キュルケは続ける。
「あなたはもう少し素直になるべきよ。殴ったり、蹴ったり、追い出したり、それを今後悔してどうするのよ?」
キュルケの言ってる事は正しい。自分の心の中を見透かしているかのように正しいのだ。
「前に進みなさい。一度躓いたからってなに諦めてるのよ? いい? 躓いたってことは、あなたは今まで歩いて来たのよ?」
キュルケの迷いない瞳から逃れようと顔を逸らす。しかし、キュルケは手を使って、ルイズの顔を再び目の前へ戻す。
「誰だっていつでも上手くいくわくないじゃないの。でもね、そこで立ち止まっちゃダメよ。そこでなにが悪かったか反省してまた立ち上がるんでしょ?
 起きてもう一回挑戦すればいいじゃない!」


ルイズは不意に少年の顔を思い出す。

もし、また会えるとしたら? また話せるチャンスを得たら?
そのためにはどうすればいい?
ここでベッドに引きこもって過ごしていたらできるのか?
違う。ルイズは断言する。自分から動かなくてはいけないのだ。いつまでもうじうじしているわけにはいけないのだ。
そうだ。ベッドに押し倒していたのはメイドであった。当麻がそれを望んでいたとは限らないのだ。
まだ、ルイズにもチャンスがある。まだ、終わったわけではない。

キュルケの言った通り、また立ち上がればいいのだ。

自然と、気持ちが沸いてくる。嬉しさが顔から零れてくる。どんなに違う表情に変えようと思っても、変えられない。
そんな自分に言い聞かせる。
(べ、別に好きだからというわけじゃないんだから! ただ、使い魔としてまだ居てほしいんだから。うん、そうに違いないんだから!)
やっぱり素直になれないのはちょっと問題かもしれない。
キュルケは立ち上がり、告げる。
「あたしはこれからトウマの所に行く。あのメイドに取られたまんまってのはいやだからね。それで? あなたはどうするの?」
少女は力強く頷く。
キュルケは笑った。ようやく見せた、ごくごく普通の笑みを。

「トウマさん……?」
シエスタが当麻の視界にひょっこりと現れる。呆然としている当麻を不安に思った様子であった。
「ん、ああ悪い悪い」
「ひょっとしてこの字を読めるのですか?」
シエスタは台座に書かれてある字を指差す。そりゃあここの字が読めないんだから、こっちの字は読めないよな、と当麻は納得する。
「ん、まあな」
「す、凄い! 異国の文字で誰も読めないに……なんて書いてあるんですか?」
えーと……、と当麻は悩む。
別にそのまま言っても構わないのだが、そのあとが問題である。
何せ当麻とシエスタは離れてはいるが血縁関係なのだ。実は俺達又々従兄弟なんだぜーとか笑って言ってしまうのもどうかと思う。
八分の一自分と同じ血が流れている。なるほど、だから黒髪黒瞳なのか。
言うべきか言わないべきか、当麻は悩んだすえ黙る事にした。言わない方がきっといいだろと感じたから。
「えーっと、土御門元春異界二眠ル」
友人の名前が出て来るのもまたしょうがない事である。
へぇ~、とシエスタは台座に書かれた文字を覗き込む。
「なあシエスタ? 他に何か遺品とかないのか?」
「あ、わかりません……。ここには『竜の羽衣』しかありませんからでも多分家にもないです……」
ごめんなさい、とぺこり謝るシエスタ。当麻はここに置かれている代物を見上げた。
「これ、竜の羽衣って言われてるのか?」
「あ、はい。……ってもしかしてちゃんとした名前を知っているのですか?」
目をキラキラ輝かせて迫ってくる。当麻は髪の毛をかくと、困った風に答える。
「あー、詳しい名前はわからんが。多分これ、戦闘機だな」
「せんとうき?」
「ああ、俺がこの前言ってた飛行機さ」
「こないだトウマさんが言っていたひこうき?」
ああ、と当麻は頷いた。

その日の夜、当麻はシエスタの家にお邪魔する事になった。
年頃の女の子が男を連れて家に帰ってきた、それだけで騒動になるのだが、シエスタが冗談で「わたしの夫です」と言ってしまった。
なので、当麻はシエスタの父親と命懸けの鬼ごっこを一時間ばかし繰り広げた。
寿命が一年は縮むという珍しい体験をやり過ごした当麻は、無事家族に受けいれられた。
正直、これが試練だとしても全くおかしくはないというのも怖い。
シエスタ達の家族は大家族であり、八人兄弟の長女である。
つまり、ここにいる人達はみんな当麻の遠い親戚になるのだ。
何と言うか、恐ろしい。ここは異世界であるはずなのに……。
家族に囲まれたシエスタは、幸せそうで、楽しそうであった。
普段からずっと一人暮らしだった当麻だからこそ、ここは家族との時間を優先して貰おうと思い、先に寝る事にした。


次の日の朝、当麻は草原を見つめていた。
朝日が眩しく、目が霞む。本当に今まで見たことがない景色である。
結局、ひいおじいさんの遺品は他になかった。ただ、あの字を読める者がいたら、あれを渡してくれ、という遺言のみ。
当麻には貰ったとしても使い道がない。だから、やんわりとシエスタの両親に断ったのだ。
ただ、手に入れた重要な情報はあった。どうやらひいじいさんは東にあるロバ・アル・カリイエの方からやってきたらしい。
つまり、そこにもしかしたらなんらかの手がかりがあるのかもしれない。
そうこう考えているうちに、呼び出したシエスタがやってきた。


「どうしたのですか?」
いつもの優しい声で当麻に話しかけてくる。当麻は黙って空を見ていた。
シエスタは、そんな当麻に首を傾げながらも続けた。
「ひいおじいちゃんと、同じ国の人と出会ったなんてなんだか運命的な物を感じちゃいました。
 父も、よかったらこの村に住んでくれないかって。そしたらわたしも……そ、その、ご奉公をやめて、いっしょに帰ってくればいいって」
嬉しかった。そう言ってくれて。
固く決断したのにも関わらず、その意志は揺らいでしまう。それだけ彼女の言葉には力がある。
シエスタはちらっと当麻を見て、手の指をいじった。そして諦めるように一言。
「でも、いいです。やっぱり、無理みたいね。トウマさんはどこか飛びだってしまいそうです」
その言葉を聞き、当麻は最後の後押しを貰った。
「なあ、シエスタ?」
はい? と聞き返すシエスタに当麻は告げる。
「俺や、ひいじいさんも、ここの世界の人間じゃないんだ」
真実を打ち明かさなければ、きっとシエスタは納得してくれないから。だから告げる。告げなければならない。
こんな自分を好きになってしまった人の為に。
え? とシエスタは確認を求めてきた。しかし、当麻はただシエスタを見つめるのみ。
「またからかってるんですか? イヤなら……、わたしが嫌いなら、そうはっきり言っていいのですよ?」
シエスタは口を尖らせた。
「信じてくれないのにわかっている。だけど、本当なんだ」
当麻はじっとシエスタを見つめる。真面目に、信じてもらう為に真面目な顔になった。
本当に冗談ではないんだ、とシエスタは悟った。
(でも……)
そう言われてもどうしようもない。異世界の人間であろうとも、好きになってしまったのだ。
しかし、この少年はわたしのきっと、

わたしの告白を断ってしまう。


「それで……そこに待たせている人でもいるの?」
「ああ、シエスタと同じぐらい大切な人が沢山いるんだ」
だから、俺はいつか帰らなくちゃいけないんだ。と続けた。
「そう……ですか」
「ああ、ここにいる間は誰かを守ることはできる。でも、誰かと過ごす資格はないと思う……」
悪い、と当麻はシエスタに頭を下げた。こればっかりかはわかってもらわないとどうしようもない。

(そっか……)
シエスタは小さく微笑んだ。
わがままなら幾らでも言える。攻める手立てはまだ色々残っている。
しかし、それらは捨てた。当麻がそれを望んでいないのなら、それはきっとよくない事なのだと。
しかし、もちろん諦めない。失礼な言い方だが、もしかしたら帰れないかもしれない。
その時自分を選んでくれるように頑張ればいいのだ。だけど今はその時間ではない。
シエスタは、俯いている当麻にデコピンをしてやった。割と、本気で。
当麻が顔を上げて、目を丸くしている。
「シ、シエスタ?」
「そんな謝らないでください。別になにも悪いことはしてないじゃないですか」
そう言って、両手を広げ、ピョンと跳びはねる。
「でも……、せめてここにいる間は」
くるっと振り返り、優しい笑みを当麻に向けた。
「わたしを守ってくれませんか?」
少女の願いに、少年は悩みも考えもせずに、頷いた。


「それじゃあ先に行っててください。朝ごはんができてるので」
「シエスタは?」
「わたしは……もうちょっとこの景色を眺めてます」
そっかと、言い残し、去っていった。
当麻が見えなくなる所まで行くと、シエスタは体を小さくして座り込んだ。
「フラれちゃったなあ……」
ぽつりと呟く。いつの間にか、涙が目頭に溜まっていた。
「でも……、守ってくれるんですよ。約束してくれたし」
つー、と涙が頬を伝う。
「これで……よかったんですよね? これで……」
シエスタの視界に、タバサの使い魔であるシルフィードが目に入った。
おそらく、あそこにはルイズがいるのであろう。当麻を連れ戻しにきたようだ。
シエスタは誰もいないこの場所で一人話しかけた。
「今日まで……わたしが貰い過ぎちゃったから……、今回は譲ってあげる……」
シエスタは顔を伏せて、我慢できない涙を流した。
「トウマ!」

懐かしい声がした。見るとシルフィードが飛んでいた。
そこには、ルイズとキュルケとタバサが乗っている。どうやら当麻を連れ戻しにきたと見て間違いなかった。
地面に降りてくると、ルイズが真っ先に当麻のもとへと走ってくる。当麻は四日ぶりとは思えない普段の口調で迎えた。
「おうルイズか」
「おうルイズかじゃないでしょ!」
そう言って手が飛び出そうになる。しかし、寸での所で止まった。
頬を赤くして、ツン、とそっぽを向く。そんな仕種に当麻は小さく笑った。
「それで俺はクビになったんじゃないんですか?」
「う……、そうは言ったけどやっぱり使い魔と主の関係は残ってるでしょ!?」
「じゃあ幻想殺しで断ち切ろうか?」
「わー! ダメ! それだけはダメ!」

当麻の右手が左手に刻まれたルーンに触りそうになってルイズは慌てた。直ぐさま右手を両腕で押さえ込んだ。
「冗談だって……つかそういう態度はちょっとおかしくないですか?」
図星を突かれて、ルイズはたじろぐ。
「人様を勝手にクビにしちゃって、また戻ってきて下さいとかいうならもう少しそれなりの心構えが必要じゃねーか?」
「じゃ、じゃあどうすればいいのよ」
当麻は頭を傾げ、うーんと唸る。
「使い魔の上条当麻様、わたくしルイズが全てわるうございました。この通り、反省しておりますので、再びわたくしに仕えてくれないでしょうか? っかな」
すらすらと文字を並べた。この手に関してならば、当麻は色々あって強いのだ。
なっ……、とルイズは開いた口が塞がらない。そんな言葉、絶対に言えるわけがない。
(ダメよわたし……。ここでなんとかしなきゃメイドに負けてしまう。それだけは絶対に嫌!)
今回だけ、今回だけなんだからと自分に言い聞かせて小さな声で言った。
「つ、使い魔の上条当麻様……。わ、わたくしルイズが全てわるうございました。こ、この通り、反省しておりますので、ふ、再びわたくしに仕えてくれないでしょうか?」
「やだ」
次の瞬間、拳が飛んでいた。
意識せずに体が動くとはこの事を言うのだろう。油断していた当麻は物凄く吹っ飛ばされた。
「やれやれ、やっぱりルイズには無理なのかしらね」
「自業自得」
「あ、あああんたって人はぁぁああああ!」
「ちょ、タンマタンマ。冗談だってばー!」
当麻は再び鬼ごっこを体験するのであった。
結局ボコボコにされた当麻は、半ば強制的に使い魔としての職を再び手に入れて学院に戻る事にした。
シエスタはこのまま休みを貰っていたので、村に居座った。
そして道中、アルビオン艦隊はトリステイン艦隊を攻撃し、タルブ村を占領したのであった。


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