時刻は深夜。
星明かりと月明かりがあるおかげで幾分かは明るいが、それでも夜闇にまぎれるには十分すぎる暗さである。よほど接近しなければ、相手の顔を確認することも出来ない。
ユーゼスとルイズ、そしてギーシュとモンモランシーはカモフラージュのために木陰に潜み、加えて黒いローブを着込んで、水の精霊を攻撃する襲撃者を待ち構えていた。
「や、やっぱり、来るのかしら……」
「……ここ連日は毎晩襲撃してるって話だから、多分……」
「……………」
「……………」
緊張をどうにか振り払おうと震える声で会話を行うギーシュとモンモランシー。だが自分たち二人しか会話をしていないので余計に沈黙が際立ち、結果として更に緊張を募らせてしまう。
(……そろそろだな)
実際に戦った経験はあまりないが、多くの戦いを『見て』きたユーゼスの予感が、戦闘が近付いていると告げている。
(上手く行けば良いが……)
二重三重に罠や策を用意しても、突破される時は突破されてしまうものだ。
問題は、どうやってその突破の芽を潰すか。
これにはやはり、相手を可能な限り早く確実に仕留めることが要求されるのだが……。
(我々は戦闘に関しては、素人の集団だからな……)
7人の中で唯一の『戦い慣れている人間』であるシュウ・シラカワは、直接には戦闘に参加していない。
せめて一人くらいは場数を踏んだ人間が欲しかった。
……見れば、隣には不安げな顔で自分のローブの裾を掴んでいるルイズがいる。
ハッキリ言って、今の主人も戦闘において役に立つとは言い難いのだが、それでも作戦の『詰め』においてはかなり重要な役割を担っている。
ルイズの精神状態がかなり危ういため、不安はかなりあるが、しかし。
(……無い物ねだりをしても始まらないか……)
もうこうなったら、手持ちの材料でどうにかするしかない。
気持ちを切り替えて、ユーゼスは襲撃者を待った。
星明かりと月明かりがあるおかげで幾分かは明るいが、それでも夜闇にまぎれるには十分すぎる暗さである。よほど接近しなければ、相手の顔を確認することも出来ない。
ユーゼスとルイズ、そしてギーシュとモンモランシーはカモフラージュのために木陰に潜み、加えて黒いローブを着込んで、水の精霊を攻撃する襲撃者を待ち構えていた。
「や、やっぱり、来るのかしら……」
「……ここ連日は毎晩襲撃してるって話だから、多分……」
「……………」
「……………」
緊張をどうにか振り払おうと震える声で会話を行うギーシュとモンモランシー。だが自分たち二人しか会話をしていないので余計に沈黙が際立ち、結果として更に緊張を募らせてしまう。
(……そろそろだな)
実際に戦った経験はあまりないが、多くの戦いを『見て』きたユーゼスの予感が、戦闘が近付いていると告げている。
(上手く行けば良いが……)
二重三重に罠や策を用意しても、突破される時は突破されてしまうものだ。
問題は、どうやってその突破の芽を潰すか。
これにはやはり、相手を可能な限り早く確実に仕留めることが要求されるのだが……。
(我々は戦闘に関しては、素人の集団だからな……)
7人の中で唯一の『戦い慣れている人間』であるシュウ・シラカワは、直接には戦闘に参加していない。
せめて一人くらいは場数を踏んだ人間が欲しかった。
……見れば、隣には不安げな顔で自分のローブの裾を掴んでいるルイズがいる。
ハッキリ言って、今の主人も戦闘において役に立つとは言い難いのだが、それでも作戦の『詰め』においてはかなり重要な役割を担っている。
ルイズの精神状態がかなり危ういため、不安はかなりあるが、しかし。
(……無い物ねだりをしても始まらないか……)
もうこうなったら、手持ちの材料でどうにかするしかない。
気持ちを切り替えて、ユーゼスは襲撃者を待った。
そして1時間もした頃、岸辺に人影が出現する。
人数は二人。
自分たちと同じく漆黒のローブで身を包み、更に深くフードを被っているので男か女かも分からない。
「き、来た……!」
「アレが襲撃者……なのかしら……?」
いくら何でも『ただ岸辺に現れただけ』の人間を問答無用で攻撃するわけにもいかないので、取りあえずは様子を見る。
そうして観察していると、謎の二人組は水辺に立って杖を掲げ始めた。
おそらくは呪文を唱えているのだろう。
この段階になれば、いちいち躊躇している暇などは無い。すぐにユーゼスはギーシュへ指示を飛ばした。
「やるぞ」
「わ、分かった」
音を立てないようにしながら、ユーゼスは木陰の間から二人組の背後へと向かった。
取りあえずの初手としては、横で控えているギーシュが虚を突いて二人組に隙を作り、その隙を突いて背後から自分が攻撃……という手筈である。
実力に大きな差がある相手と戦う場合は、ワルド戦のように虚や隙を突くしか突破口は無い。
まあ、それも毎回通用する訳ではないが。
何しろ、お互い正体不明なのである。
相手がこちらについての情報を持っている場合は油断も生まれてくる可能性があるのだが、いきなり襲撃されてはこちらの実力を警戒しない方がおかしい。
よって、今回の作戦のコンセプトは『相手を驚かせて、隙を作る』ことに重点を置いていた。
人数は二人。
自分たちと同じく漆黒のローブで身を包み、更に深くフードを被っているので男か女かも分からない。
「き、来た……!」
「アレが襲撃者……なのかしら……?」
いくら何でも『ただ岸辺に現れただけ』の人間を問答無用で攻撃するわけにもいかないので、取りあえずは様子を見る。
そうして観察していると、謎の二人組は水辺に立って杖を掲げ始めた。
おそらくは呪文を唱えているのだろう。
この段階になれば、いちいち躊躇している暇などは無い。すぐにユーゼスはギーシュへ指示を飛ばした。
「やるぞ」
「わ、分かった」
音を立てないようにしながら、ユーゼスは木陰の間から二人組の背後へと向かった。
取りあえずの初手としては、横で控えているギーシュが虚を突いて二人組に隙を作り、その隙を突いて背後から自分が攻撃……という手筈である。
実力に大きな差がある相手と戦う場合は、ワルド戦のように虚や隙を突くしか突破口は無い。
まあ、それも毎回通用する訳ではないが。
何しろ、お互い正体不明なのである。
相手がこちらについての情報を持っている場合は油断も生まれてくる可能性があるのだが、いきなり襲撃されてはこちらの実力を警戒しない方がおかしい。
よって、今回の作戦のコンセプトは『相手を驚かせて、隙を作る』ことに重点を置いていた。
ユーゼスは無事に二人組の背後に移動し、隠れると、デルフリンガーを取り出してギーシュたちにしか見えないように掲げた。『準備完了』の合図である。
ちなみにデルフリンガーに対しては『声を出したら湖に投げ捨てる』と言い含めてあるので、迂闊に声を出すような真似はしないはずだ。出したら本気で捨てるつもりだが。
そして合図を受けたギーシュが呪文の詠唱を開始する。
次の瞬間には、二人組の立っている地点の土がうごめき、触手のようにして二人組の足に絡みついた。
(いけるか……?)
ダッ、と木陰から飛び出すユーゼス。
二人組までの距離は、おおよそ30メイルほど。自分の足なら5秒弱はかかる。
「!」
やはりと言うべきか、敵は即座に対応を行ってきた。
背の高い方のメイジは杖の先から炎を飛ばし、自分たちの足を束縛していた土の触手を焼き払う。どうやら水の精霊の情報通りに火のメイジらしい。
更に、背の低い方のメイジはユーゼスの存在を察知していたらしく、くるりと振り向くと自分に魔法を放ってきた。
(やはり、そう上手くはいかないか……!)
空気のカタマリが自分に向かって来るが、ユーゼスはそれをデルフリンガーを一振りすることで掻き消す。
しかし息をつく間もなく、今度は無数の氷の矢が飛んで来た。
「くっ!」
とっさに回避行動を取るが、そう簡単に避けきれる攻撃でもない。
自分に当たりそうな氷の矢をデルフリンガーで叩き落としながら、どうにか凌いだ、と思った直後……。
今度は背の高い方のメイジが、補うようにして火球を繰り出した。
「……!」
避けるのは無理だ、と判断したユーゼスはデルフリンガーを構え、その火球を吸収させる。
だが火球の熱波と舞い散る火の粉は吸収しきれなかったようで、ユーゼスはその余波を受けて立ちすくむことになった。
不味い。今の自分は隙だらけだ。
このままでは遠からず、やられる。
……だがそれは、戦っているのが『自分一人だけ』だった場合の話である。
その時、ガシャガシャガシャ、と金属がこすれる音が複数響いた。
二人組は思わずそちらの方に目をやって何が起こっているのかを確認し、ユーゼスはその隙に一旦距離を取る。
(出来ればもう少し早く出て来てもらいたかったが……)
無論、ユーゼスはその『金属音』の正体を知っている。
距離がそれなりに離れており、更に夜闇にまぎれさせるため黒く塗装させたので姿を確認することは出来ないが、現れたのはギーシュのワルキューレであった。
予定通りならば、その数は4体である。
「む……」
背の低い方のメイジは状況が切り替わったことを素早く看破したのか、即座に杖をワルキューレの集団に向けた。
……せっかくの戦力が潰されるのを黙って見逃すほど、ユーゼスは悠長な性格をしていない。
なので、かつて自分の難敵だった男が使っていた鞭を取り出し、それを思い切り、背の低いメイジに振るった。
鞭はかなりのスピードで相手に向かって行き、詠唱中の背の低いメイジへと……。
「っ!」
バシィン、と鞭は地面を叩く。
攻撃は避けられた。
自分が攻撃されることを察知した背の低いメイジは一瞬で詠唱を中断すると、咄嗟になりふり構わず地面に飛び転がって鞭をかわしたのである。
(推測通り、一筋縄ではいかんか……)
ギーシュやフーケのゴーレム、ワルドの『偏在』など、少々変則的な戦法を使う相手ならばそれなりにやりようはあるのだが、自分にとってはこのような『普通に強い』相手が最もやりにくい。
(やはり、ジェットビートルの機銃を使うべきだったな……)
ギーシュとモンモランシーだけでなく、エレオノールまで一緒になって『いや、さすがにそれはちょっと……』と止められてしまった攻撃方法に思いを馳せる。
アレを上手く使っていれば、今頃この二人は『穴だらけ』どころか『原型すらよく分からないほど細かく砕かれて』いたはずなのに。
(せめて、もう少し強力な手駒が欲しかった)
自分たちの戦力の低さと敵の手強さを改めて認識しつつ、ユーゼスは溜息を吐いた。
……今はまだ敵もこちらを侮ってくれて……いや、様子見の段階に留まってくれているから何とかなるものの、本気になられたら十中八九終わりである。
その前に、始末を付けなくてはならない。
ちなみにデルフリンガーに対しては『声を出したら湖に投げ捨てる』と言い含めてあるので、迂闊に声を出すような真似はしないはずだ。出したら本気で捨てるつもりだが。
そして合図を受けたギーシュが呪文の詠唱を開始する。
次の瞬間には、二人組の立っている地点の土がうごめき、触手のようにして二人組の足に絡みついた。
(いけるか……?)
ダッ、と木陰から飛び出すユーゼス。
二人組までの距離は、おおよそ30メイルほど。自分の足なら5秒弱はかかる。
「!」
やはりと言うべきか、敵は即座に対応を行ってきた。
背の高い方のメイジは杖の先から炎を飛ばし、自分たちの足を束縛していた土の触手を焼き払う。どうやら水の精霊の情報通りに火のメイジらしい。
更に、背の低い方のメイジはユーゼスの存在を察知していたらしく、くるりと振り向くと自分に魔法を放ってきた。
(やはり、そう上手くはいかないか……!)
空気のカタマリが自分に向かって来るが、ユーゼスはそれをデルフリンガーを一振りすることで掻き消す。
しかし息をつく間もなく、今度は無数の氷の矢が飛んで来た。
「くっ!」
とっさに回避行動を取るが、そう簡単に避けきれる攻撃でもない。
自分に当たりそうな氷の矢をデルフリンガーで叩き落としながら、どうにか凌いだ、と思った直後……。
今度は背の高い方のメイジが、補うようにして火球を繰り出した。
「……!」
避けるのは無理だ、と判断したユーゼスはデルフリンガーを構え、その火球を吸収させる。
だが火球の熱波と舞い散る火の粉は吸収しきれなかったようで、ユーゼスはその余波を受けて立ちすくむことになった。
不味い。今の自分は隙だらけだ。
このままでは遠からず、やられる。
……だがそれは、戦っているのが『自分一人だけ』だった場合の話である。
その時、ガシャガシャガシャ、と金属がこすれる音が複数響いた。
二人組は思わずそちらの方に目をやって何が起こっているのかを確認し、ユーゼスはその隙に一旦距離を取る。
(出来ればもう少し早く出て来てもらいたかったが……)
無論、ユーゼスはその『金属音』の正体を知っている。
距離がそれなりに離れており、更に夜闇にまぎれさせるため黒く塗装させたので姿を確認することは出来ないが、現れたのはギーシュのワルキューレであった。
予定通りならば、その数は4体である。
「む……」
背の低い方のメイジは状況が切り替わったことを素早く看破したのか、即座に杖をワルキューレの集団に向けた。
……せっかくの戦力が潰されるのを黙って見逃すほど、ユーゼスは悠長な性格をしていない。
なので、かつて自分の難敵だった男が使っていた鞭を取り出し、それを思い切り、背の低いメイジに振るった。
鞭はかなりのスピードで相手に向かって行き、詠唱中の背の低いメイジへと……。
「っ!」
バシィン、と鞭は地面を叩く。
攻撃は避けられた。
自分が攻撃されることを察知した背の低いメイジは一瞬で詠唱を中断すると、咄嗟になりふり構わず地面に飛び転がって鞭をかわしたのである。
(推測通り、一筋縄ではいかんか……)
ギーシュやフーケのゴーレム、ワルドの『偏在』など、少々変則的な戦法を使う相手ならばそれなりにやりようはあるのだが、自分にとってはこのような『普通に強い』相手が最もやりにくい。
(やはり、ジェットビートルの機銃を使うべきだったな……)
ギーシュとモンモランシーだけでなく、エレオノールまで一緒になって『いや、さすがにそれはちょっと……』と止められてしまった攻撃方法に思いを馳せる。
アレを上手く使っていれば、今頃この二人は『穴だらけ』どころか『原型すらよく分からないほど細かく砕かれて』いたはずなのに。
(せめて、もう少し強力な手駒が欲しかった)
自分たちの戦力の低さと敵の手強さを改めて認識しつつ、ユーゼスは溜息を吐いた。
……今はまだ敵もこちらを侮ってくれて……いや、様子見の段階に留まってくれているから何とかなるものの、本気になられたら十中八九終わりである。
その前に、始末を付けなくてはならない。
火は水に弱い。
必ずしも『その通りだ』と言い切ることは出来ないが、大抵の人間が抱いている共通認識だ。
これはハルケギニアの魔法も同様で、同じクラスの水のメイジと火のメイジが、それぞれ同じランクの自分の属性魔法をぶつけ合った場合、多くの場合は水が勝つ(火球の総熱量にもよるが)。
まあ、つまるところ。
火のメイジは、少なくとも戦闘においては水のメイジと相性が悪いのだ。
必ずしも『その通りだ』と言い切ることは出来ないが、大抵の人間が抱いている共通認識だ。
これはハルケギニアの魔法も同様で、同じクラスの水のメイジと火のメイジが、それぞれ同じランクの自分の属性魔法をぶつけ合った場合、多くの場合は水が勝つ(火球の総熱量にもよるが)。
まあ、つまるところ。
火のメイジは、少なくとも戦闘においては水のメイジと相性が悪いのだ。
バジュンバジュン、と火球が水の盾にぶつかり、消えていく。
ギーシュが繰り出した4体の黒いワルキューレの前には、厚さ10サントほどの水の壁が展開されていた。
無論、水の盾の操っているのはモンモランシーだ。
ドットメイジの彼女は風属性と掛け合わせて『氷を作る』ことは出来ないが、ただ『水を操る』だけならば簡単である。
それにここは湖の岸辺であり、いちいち空気中の水分を凝結させるまでもなく至近距離に大量に水が存在している。それだけでも他の属性相手には大きな優位性を確保出来ていた。
「はっ!」
掛け声と共にモンモランシーが杖を一振りすると、水の壁から水の弾丸が飛び出して敵を襲う。
避けられてはいるが、それでも回避されている間は敵の攻撃の手は止まっている。
消費した分の水は湖から補充しているので、壁がなくなることはない。
「それっ!」
また、水の弾丸だけでは敵が何らかの対抗手段を講じてくる可能性があるため、合間をぬってワルキューレによる弓矢の攻撃も織り交ぜていた。
……相手をするのが背の高い火のメイジではなく、背の低い風のメイジだった場合、メインの攻撃は『水の弾丸』ではなく『青銅の弓矢』の手筈になっていた。
弓矢などは風が少し吹けばアッサリと軌道を逸らされてしまうため、火のメイジよりも苦戦は必至である。火のメイジがギーシュ&モンモランシー組の相手に回ってくれたのは幸運だった。
その風のメイジも時折こちらに杖を向けて火のメイジのサポートはしているが、どうやらあちらはユーゼスの相手にウェイトを置いているようだ。
おそらく『水の壁』や『水の弾丸』、『弓矢』などの単純な攻撃方法よりも、『魔法を吸収する剣』や『鞭』などの特殊な攻撃方法の方が厄介だと判断したのだろう。
特に、この暗がりでは防御と攻撃の方法の詳細が掴みにくいだろうから、汎用性に優れている風のメイジがユーゼスを担当するのは妥当と言える。
ともあれトライアングル(あるいはスクウェア)の火のメイジが一人と、ドットの土のメイジと水のメイジの二人は、どうにかこうにか一進一退の攻防を繰り広げている。
(……それでも、こっちは決め手に欠けるんだよなぁ……)
(わたしとギーシュは、どっちもドットだし……)
(大技を使われでもしたら……いや、その隙を与えないための連続攻撃なんだけど)
(……ホントに大丈夫なんでしょうね、この作戦?)
取りあえずではあるが『戦いを同じ状態でしばらく続けさせろ』というユーゼスの事前指示に従い、ギーシュとモンモランシーは攻撃と防御を続けるのであった。
ギーシュが繰り出した4体の黒いワルキューレの前には、厚さ10サントほどの水の壁が展開されていた。
無論、水の盾の操っているのはモンモランシーだ。
ドットメイジの彼女は風属性と掛け合わせて『氷を作る』ことは出来ないが、ただ『水を操る』だけならば簡単である。
それにここは湖の岸辺であり、いちいち空気中の水分を凝結させるまでもなく至近距離に大量に水が存在している。それだけでも他の属性相手には大きな優位性を確保出来ていた。
「はっ!」
掛け声と共にモンモランシーが杖を一振りすると、水の壁から水の弾丸が飛び出して敵を襲う。
避けられてはいるが、それでも回避されている間は敵の攻撃の手は止まっている。
消費した分の水は湖から補充しているので、壁がなくなることはない。
「それっ!」
また、水の弾丸だけでは敵が何らかの対抗手段を講じてくる可能性があるため、合間をぬってワルキューレによる弓矢の攻撃も織り交ぜていた。
……相手をするのが背の高い火のメイジではなく、背の低い風のメイジだった場合、メインの攻撃は『水の弾丸』ではなく『青銅の弓矢』の手筈になっていた。
弓矢などは風が少し吹けばアッサリと軌道を逸らされてしまうため、火のメイジよりも苦戦は必至である。火のメイジがギーシュ&モンモランシー組の相手に回ってくれたのは幸運だった。
その風のメイジも時折こちらに杖を向けて火のメイジのサポートはしているが、どうやらあちらはユーゼスの相手にウェイトを置いているようだ。
おそらく『水の壁』や『水の弾丸』、『弓矢』などの単純な攻撃方法よりも、『魔法を吸収する剣』や『鞭』などの特殊な攻撃方法の方が厄介だと判断したのだろう。
特に、この暗がりでは防御と攻撃の方法の詳細が掴みにくいだろうから、汎用性に優れている風のメイジがユーゼスを担当するのは妥当と言える。
ともあれトライアングル(あるいはスクウェア)の火のメイジが一人と、ドットの土のメイジと水のメイジの二人は、どうにかこうにか一進一退の攻防を繰り広げている。
(……それでも、こっちは決め手に欠けるんだよなぁ……)
(わたしとギーシュは、どっちもドットだし……)
(大技を使われでもしたら……いや、その隙を与えないための連続攻撃なんだけど)
(……ホントに大丈夫なんでしょうね、この作戦?)
取りあえずではあるが『戦いを同じ状態でしばらく続けさせろ』というユーゼスの事前指示に従い、ギーシュとモンモランシーは攻撃と防御を続けるのであった。
……使用してくる魔法は『エア・ハンマー』や『エア・カッター』などの分かりやすい風魔法と、『ジャベリン』に『アイス・ストーム』などの氷系の魔法。
それらを巧みに組み合わせて、こちらの動きを封じ、また確実にダメージを与えようとしている。
こちらの戦闘方法が不可解だと思ったのか、途中から分析するような様子が加味された。判断力も高いようだ。
夜闇に黒いローブなどを着込んでいるせいで細かい動きは分からないが、身のこなしも普通ではない。
(手強いな……)
これがワルドのように余裕たっぷりで、もったいぶってこちらを痛めつけるなどしてくれていれば、もっと攻略は容易なのだが。
(実戦経験が豊富、ということか)
どうにもやりにくい相手、と言うか完全に自分の手には余る敵だ。
魔法を吸収するデルフリンガー、ガンダールヴのルーン効果、攻撃……と言うか牽制のための鞭の一つでも欠けていれば、とっくに自分は負けている。
(それに……)
そろそろ、体力も限界に近付きつつある。
何度も繰り返すが、ユーゼス・ゴッツォは戦う人間ではないのだ。
並行世界の『ユーゼス・ゴッツォ』とて、謀略や研究はしても生身で直接に戦うことはしない。……あちこちに手を出して暗躍したり、機動兵器を操縦したりはしているようだが。
何にせよ、そういう実戦はイングラム・プリスケンなどの『手駒』の仕事なのである。
(……もう一度『作る』のも手か?)
そう考えて、すぐ却下する。
かなりややこしいことになりそうな上に、何より『作ったモノ』が下手に『自意識』などを持ち始めでもしたら、前回の二の舞になりかねない。
自意識を持った人造人間であるサブローやワルダー、トップガンダーなどは命令を聞かないことがザラにあったし、戦う時も変に自分のプライドにこだわったせいで負けていた。
それに色々と別の世界も覗いてみたのだが、余計な知力を備えさせると創造者の意図を外れて勝手に暴走してしまう……という例は枚挙に暇がない。
『マシンナリーチルドレン』、『ガンエデンの巫女』、『バルシェム』、『Wシリーズ』、『テクニティ・パイデス』、『知の記録者』、どれもこれも『手駒』として使うには不適当だ。
(洗脳も駄目だろうしな……)
『精神操作の失敗例』は、今のルイズとミス・ロングビルを見れば一目瞭然である。
(やはり、自分で行動するしかないか)
無駄な思考だったな、と気持ちを切り替え、改めて目の前の敵に集中した。
(……ふむ)
互いに様子見と牽制をし合って、今では一種の膠着状態に陥りつつある。
詳しい状況までは分からないが、どうやらギーシュたちの方も似たような状況らしい。
(ここまでは予定通りか……)
ある程度は拮抗してくれているようで、何よりである。
二人のメイジが分散してくれたから何とかなったものの、これが本格的な……ギャバン・シャリバン・シャイダーや、キカイダー兄弟レベルの連携を取られたら危険だった。
その場合の対策も考えてはいたが、今よりももっと苦戦していたのは間違いない。
どうやらこの二人は、個々の実力はかなり高いし『それなりの連携』も取れるらしいが、『実際に二人一緒に戦った経験』はあまり無いようだ。
とは言え実力では負けているのだから、このままではジリジリと押されて負けるのは明らかである。
(頃合だな)
それでは『相手を驚かせて、隙を作る』コンセプトに従って、この二人を仕留めにかかろう。
それらを巧みに組み合わせて、こちらの動きを封じ、また確実にダメージを与えようとしている。
こちらの戦闘方法が不可解だと思ったのか、途中から分析するような様子が加味された。判断力も高いようだ。
夜闇に黒いローブなどを着込んでいるせいで細かい動きは分からないが、身のこなしも普通ではない。
(手強いな……)
これがワルドのように余裕たっぷりで、もったいぶってこちらを痛めつけるなどしてくれていれば、もっと攻略は容易なのだが。
(実戦経験が豊富、ということか)
どうにもやりにくい相手、と言うか完全に自分の手には余る敵だ。
魔法を吸収するデルフリンガー、ガンダールヴのルーン効果、攻撃……と言うか牽制のための鞭の一つでも欠けていれば、とっくに自分は負けている。
(それに……)
そろそろ、体力も限界に近付きつつある。
何度も繰り返すが、ユーゼス・ゴッツォは戦う人間ではないのだ。
並行世界の『ユーゼス・ゴッツォ』とて、謀略や研究はしても生身で直接に戦うことはしない。……あちこちに手を出して暗躍したり、機動兵器を操縦したりはしているようだが。
何にせよ、そういう実戦はイングラム・プリスケンなどの『手駒』の仕事なのである。
(……もう一度『作る』のも手か?)
そう考えて、すぐ却下する。
かなりややこしいことになりそうな上に、何より『作ったモノ』が下手に『自意識』などを持ち始めでもしたら、前回の二の舞になりかねない。
自意識を持った人造人間であるサブローやワルダー、トップガンダーなどは命令を聞かないことがザラにあったし、戦う時も変に自分のプライドにこだわったせいで負けていた。
それに色々と別の世界も覗いてみたのだが、余計な知力を備えさせると創造者の意図を外れて勝手に暴走してしまう……という例は枚挙に暇がない。
『マシンナリーチルドレン』、『ガンエデンの巫女』、『バルシェム』、『Wシリーズ』、『テクニティ・パイデス』、『知の記録者』、どれもこれも『手駒』として使うには不適当だ。
(洗脳も駄目だろうしな……)
『精神操作の失敗例』は、今のルイズとミス・ロングビルを見れば一目瞭然である。
(やはり、自分で行動するしかないか)
無駄な思考だったな、と気持ちを切り替え、改めて目の前の敵に集中した。
(……ふむ)
互いに様子見と牽制をし合って、今では一種の膠着状態に陥りつつある。
詳しい状況までは分からないが、どうやらギーシュたちの方も似たような状況らしい。
(ここまでは予定通りか……)
ある程度は拮抗してくれているようで、何よりである。
二人のメイジが分散してくれたから何とかなったものの、これが本格的な……ギャバン・シャリバン・シャイダーや、キカイダー兄弟レベルの連携を取られたら危険だった。
その場合の対策も考えてはいたが、今よりももっと苦戦していたのは間違いない。
どうやらこの二人は、個々の実力はかなり高いし『それなりの連携』も取れるらしいが、『実際に二人一緒に戦った経験』はあまり無いようだ。
とは言え実力では負けているのだから、このままではジリジリと押されて負けるのは明らかである。
(頃合だな)
それでは『相手を驚かせて、隙を作る』コンセプトに従って、この二人を仕留めにかかろう。
「フッ!」
呼気を吐き出し、デルフリンガーを無意味に三度ほど振る。
それが、後方で控えている主人に対する合図だ。
『自分の指示以外の行動をするな、自分の指示には絶対に従え、もしこの言葉に背いたらお前とは一生口を聞かない』と言ってはおいたし、ルイズもそれに対してガクンガクンと首を激しく上下に動かして了解してくれたのだが、ちゃんと従ってくれるのだろうか。
そう思った、次の瞬間。
戦っているユーゼスたちの頭上で、盛大な爆発が発生した。
ルイズの魔法である。
『エクスプロージョン』ではなく失敗魔法の爆発だが、派手に爆音を響かせるのが目的なのでこちらの方が好都合だと判断したのだ。
(よし……)
案の定、二人組のメイジは面食らっている様子を見せている。
(……む?)
いや、それどころかギーシュとモンモランシーまで驚いているようだ。事前の打ち合わせはしておいたと言うのに。
(まったく……)
仕方がないので、少し危険だが声を上げて指示を行うことにする。
「やれ!!」
「……っ、わ、分かった!」
少々どもりながらではあるが、返事をよこすギーシュ。
そんな自分たちのやり取りがした直後、二人組のメイジは更に何かに驚いたようだったが、いちいち相手の事情を詮索している余裕はない。
ギーシュはバラの造花を二振りし、二体のワルキューレの腕に『錬金』をかけた。
そこから繰り出される攻撃は……。
「無限っ、パーーーーンチ!!」
拳に『錬金』をかけて新しい手首と拳に変化させ、その拳にまた『錬金』をかけ、現れた新しい拳にまた『錬金』……『錬金』、『錬金』、『錬金』、とにかく『錬金』。
結果としてズズズズ、と見る見る内に腕は伸びていき、敵に向かっていく。しかもそれが二体で二つ。
「!」「ええっ!?」
二人組のメイジは驚いているようだ。
まあ、こんな攻撃を見たら普通は驚く。
と言うか、驚いてくれないと困る。
「…………!!」
『錬金』をかけ続けるギーシュは、随分と集中しているようだ。
無理もない。ただでさえややこしいやり方で『錬金』を行っているのに、それを二つ同時にこなさなければならないのだから。
そして、伸び続ける二本の腕は……。
「っ!」
二人組のメイジを挟み込むようにして、綺麗に敵を素通りした。
その直後。
「……曲がれっ!」
ギーシュがまたバラの造花を二振りすると、二本の腕はグイッと曲がり、グルグルと二人組に巻きつき始める。
そして『腕』が二人組をまとめて束縛し終えた時点で、ギーシュは適度な長さを見計らって伸びた腕を切り離した。
「モンモランシー、後は……!」
「分かってるわよ! ……あんまり気は進まないけど……」
ブツブツ言いながら、ギーシュに言われたモンモランシーが前に出る。
「えっ、ちょっと待ちなさい! あなたたち……!」
敵が何か言っているが『命乞いは聞くな』、『下手に情けを見せたらその瞬間に殺されると思え』などとユーゼスとシュウから散々に言われているので、無視する。良心はかなり痛むが。
……敵の声に聞き覚えがあるような気もするが、そこは心を鬼にして無視させてもらおう。
「で、出来れば死なないで!」
言いながら杖を一振りするモンモランシー。
「ッ、ガ……ッ!」「ゴボッ!?」
すると二人組を包み込むように水柱が発生し、鎖で縛られた二人組のメイジはなすすべなく水の中に閉じ込められた。
「よ、よし、上手くいったみたいだね……」
「……あんまり嬉しくないけどね」
第一目標だった『敵の動きを封じること』がひとまず成功したことを見届けると、ギーシュは更に『仕上げ』を行うべくまたバラの造花を振る。
「……恨まないでくれよ、君たち」
その言葉が届いているのかいないのか、二人組のメイジ……特に背の高い方はこちらに向かって何かを訴えようとガボゴボやっているようだったが、その訴えは厚い青銅の壁によって閉ざされる。
ギーシュが『錬金』を使って青銅のタルを作り、水の束縛ごと二人を閉じ込めたのだ。
呼気を吐き出し、デルフリンガーを無意味に三度ほど振る。
それが、後方で控えている主人に対する合図だ。
『自分の指示以外の行動をするな、自分の指示には絶対に従え、もしこの言葉に背いたらお前とは一生口を聞かない』と言ってはおいたし、ルイズもそれに対してガクンガクンと首を激しく上下に動かして了解してくれたのだが、ちゃんと従ってくれるのだろうか。
そう思った、次の瞬間。
戦っているユーゼスたちの頭上で、盛大な爆発が発生した。
ルイズの魔法である。
『エクスプロージョン』ではなく失敗魔法の爆発だが、派手に爆音を響かせるのが目的なのでこちらの方が好都合だと判断したのだ。
(よし……)
案の定、二人組のメイジは面食らっている様子を見せている。
(……む?)
いや、それどころかギーシュとモンモランシーまで驚いているようだ。事前の打ち合わせはしておいたと言うのに。
(まったく……)
仕方がないので、少し危険だが声を上げて指示を行うことにする。
「やれ!!」
「……っ、わ、分かった!」
少々どもりながらではあるが、返事をよこすギーシュ。
そんな自分たちのやり取りがした直後、二人組のメイジは更に何かに驚いたようだったが、いちいち相手の事情を詮索している余裕はない。
ギーシュはバラの造花を二振りし、二体のワルキューレの腕に『錬金』をかけた。
そこから繰り出される攻撃は……。
「無限っ、パーーーーンチ!!」
拳に『錬金』をかけて新しい手首と拳に変化させ、その拳にまた『錬金』をかけ、現れた新しい拳にまた『錬金』……『錬金』、『錬金』、『錬金』、とにかく『錬金』。
結果としてズズズズ、と見る見る内に腕は伸びていき、敵に向かっていく。しかもそれが二体で二つ。
「!」「ええっ!?」
二人組のメイジは驚いているようだ。
まあ、こんな攻撃を見たら普通は驚く。
と言うか、驚いてくれないと困る。
「…………!!」
『錬金』をかけ続けるギーシュは、随分と集中しているようだ。
無理もない。ただでさえややこしいやり方で『錬金』を行っているのに、それを二つ同時にこなさなければならないのだから。
そして、伸び続ける二本の腕は……。
「っ!」
二人組のメイジを挟み込むようにして、綺麗に敵を素通りした。
その直後。
「……曲がれっ!」
ギーシュがまたバラの造花を二振りすると、二本の腕はグイッと曲がり、グルグルと二人組に巻きつき始める。
そして『腕』が二人組をまとめて束縛し終えた時点で、ギーシュは適度な長さを見計らって伸びた腕を切り離した。
「モンモランシー、後は……!」
「分かってるわよ! ……あんまり気は進まないけど……」
ブツブツ言いながら、ギーシュに言われたモンモランシーが前に出る。
「えっ、ちょっと待ちなさい! あなたたち……!」
敵が何か言っているが『命乞いは聞くな』、『下手に情けを見せたらその瞬間に殺されると思え』などとユーゼスとシュウから散々に言われているので、無視する。良心はかなり痛むが。
……敵の声に聞き覚えがあるような気もするが、そこは心を鬼にして無視させてもらおう。
「で、出来れば死なないで!」
言いながら杖を一振りするモンモランシー。
「ッ、ガ……ッ!」「ゴボッ!?」
すると二人組を包み込むように水柱が発生し、鎖で縛られた二人組のメイジはなすすべなく水の中に閉じ込められた。
「よ、よし、上手くいったみたいだね……」
「……あんまり嬉しくないけどね」
第一目標だった『敵の動きを封じること』がひとまず成功したことを見届けると、ギーシュは更に『仕上げ』を行うべくまたバラの造花を振る。
「……恨まないでくれよ、君たち」
その言葉が届いているのかいないのか、二人組のメイジ……特に背の高い方はこちらに向かって何かを訴えようとガボゴボやっているようだったが、その訴えは厚い青銅の壁によって閉ざされる。
ギーシュが『錬金』を使って青銅のタルを作り、水の束縛ごと二人を閉じ込めたのだ。
「……まあ、これだけやれば十分だとは思うけど、『詰め』はやっておかないといけないのよね……」
ゴンゴン、と内側から青銅のタルを叩く音がする。
しかし、トドメは刺さなければならない。開放した直後に逆襲される可能性も、決してゼロではないのだから。
「ううぅ…………え、えいっ!」
モンモランシーが嫌そうに杖を振ると、青銅のタルの中からゴガンゴガン、と『“人間大の何か”が派手にぶつかる音』が響いてきた。
……彼女の魔法によって、中の水がきりもみ回転をしているのだ。
これぞユーゼスが原案(無限パンチで伸ばした腕による束縛)、エレオノールが補足(念のため水で包む)、シュウが改良(青銅のタルで閉じ込めてきりもみ回転させる)した作戦である。
なお、『仕上げ』を考案したシュウ曰く。
「超電磁タツマキを受けた際の、実体験を元にしてみました」
だそうである。
しかしそれを実行してしまった人間は、少々精神的に参っていた。
「わ、わたし、人を、人を殺しちゃった……」
「……モンモランシー、それは君一人だけの罪じゃない。僕だって同罪だ。だから、君だけがそんなに自分を責める必要は……ないさ」
「ああ、ギーシュ……!」
ひし、と抱き合うギーシュとモンモランシー。
そんな二人をよそに、ユーゼスは今回の戦闘を反省する。
(……決定的に実力が不足している)
これはギーシュやモンモランシーではなく、自分自身のことである。
ガンダールヴの効果があるからどうにかなっているものの、そのカバーがあった上でも弱い。
弱すぎる。
今回はたまたま上手く行ったが、こんな騙し騙しの戦法がどんな敵にも通用するわけがない。
極端な話、今の自分とギーシュが戦った場合には、80%程度の確率でこちらが負けるだろうという予測している。……ちなみに残りの19%が引き分けで、勝つ確率は1%ほどだ。
ガンダールヴの力を発動させてもワルキューレ7体相手では負けるだろうし、仮に実力が同レベルだとしても攻撃のバリエーションが多い方が有利なのは明白だ。
また、デルフリンガーでは『錬金』で作られたゴーレムの吸収は出来ない。
数で攻められれば、剣や鞭などはあまり役に立たない。
何と言うか、『人間』には色々と限界があるのである。
(これがドモン・カッシュや東方不敗、早川健などであれば……いや……)
そこまで考えて、あの連中を引き合いに出すのは根本から間違っていると気付く。
素手でデスアーミーを倒したり、変身していない状態で不思議獣と渡り合ったりするような奴らなのだ。
『人間』というカテゴリーに当てはめて良いものかどうかすら怪しい。
……まあ、あんな怪獣のような人間は置いておくとして、今は自分のことだ。
正直、手段を選ばなければ、色々とやりようはある。
並行世界を検索して『戦闘の得意なユーゼス・ゴッツォ』を見つけ、それと融合、またはコピーして自分の意識を上書きする。
自分で自分の身体を改造する。
開き直って、戦闘の際には因果律を操作して相手を攻撃・消去する。
ダメで元々、DG細胞を自分に使ってみる。
やはり『手駒』を作って、戦闘はそれに任せる。
自分でも手軽に使える強力な兵器を持って来て、それを使う。
クロスゲート・パラダイム・システムを駆使して、ガンダールヴのルーンそのものを改良してみる。
(むう……)
この場で思いつく限りの方法を羅列してみたが、全てにおいて、それぞれかなり問題があるような気がする。
強いて言うなら『兵器を持って来る』が比較的良い案ではあるが、その兵器を常に携行しているとは限るまい。
(戦闘そのものには全く参加しない、というのも一つの手だが……)
このハルケギニアにおいて、それは通用しないだろう。戦いという物は、どんなに避けようとしても出くわしてしまう時には出くわしてしまう物だ。
(コンバットスーツのような物があれば……いや、アレは宇宙刑事の中でもかなり厳選された者のみが与えられる装備だし、私に扱い切れるとは思えん……)
自分の強化方法を思い浮かべては、それを否定するユーゼス。
―――しかし、ここで『真面目に身体を鍛える』という選択肢が発生しないあたりが、ユーゼス・ゴッツォのユーゼス・ゴッツォたる所以であった。
ゴンゴン、と内側から青銅のタルを叩く音がする。
しかし、トドメは刺さなければならない。開放した直後に逆襲される可能性も、決してゼロではないのだから。
「ううぅ…………え、えいっ!」
モンモランシーが嫌そうに杖を振ると、青銅のタルの中からゴガンゴガン、と『“人間大の何か”が派手にぶつかる音』が響いてきた。
……彼女の魔法によって、中の水がきりもみ回転をしているのだ。
これぞユーゼスが原案(無限パンチで伸ばした腕による束縛)、エレオノールが補足(念のため水で包む)、シュウが改良(青銅のタルで閉じ込めてきりもみ回転させる)した作戦である。
なお、『仕上げ』を考案したシュウ曰く。
「超電磁タツマキを受けた際の、実体験を元にしてみました」
だそうである。
しかしそれを実行してしまった人間は、少々精神的に参っていた。
「わ、わたし、人を、人を殺しちゃった……」
「……モンモランシー、それは君一人だけの罪じゃない。僕だって同罪だ。だから、君だけがそんなに自分を責める必要は……ないさ」
「ああ、ギーシュ……!」
ひし、と抱き合うギーシュとモンモランシー。
そんな二人をよそに、ユーゼスは今回の戦闘を反省する。
(……決定的に実力が不足している)
これはギーシュやモンモランシーではなく、自分自身のことである。
ガンダールヴの効果があるからどうにかなっているものの、そのカバーがあった上でも弱い。
弱すぎる。
今回はたまたま上手く行ったが、こんな騙し騙しの戦法がどんな敵にも通用するわけがない。
極端な話、今の自分とギーシュが戦った場合には、80%程度の確率でこちらが負けるだろうという予測している。……ちなみに残りの19%が引き分けで、勝つ確率は1%ほどだ。
ガンダールヴの力を発動させてもワルキューレ7体相手では負けるだろうし、仮に実力が同レベルだとしても攻撃のバリエーションが多い方が有利なのは明白だ。
また、デルフリンガーでは『錬金』で作られたゴーレムの吸収は出来ない。
数で攻められれば、剣や鞭などはあまり役に立たない。
何と言うか、『人間』には色々と限界があるのである。
(これがドモン・カッシュや東方不敗、早川健などであれば……いや……)
そこまで考えて、あの連中を引き合いに出すのは根本から間違っていると気付く。
素手でデスアーミーを倒したり、変身していない状態で不思議獣と渡り合ったりするような奴らなのだ。
『人間』というカテゴリーに当てはめて良いものかどうかすら怪しい。
……まあ、あんな怪獣のような人間は置いておくとして、今は自分のことだ。
正直、手段を選ばなければ、色々とやりようはある。
並行世界を検索して『戦闘の得意なユーゼス・ゴッツォ』を見つけ、それと融合、またはコピーして自分の意識を上書きする。
自分で自分の身体を改造する。
開き直って、戦闘の際には因果律を操作して相手を攻撃・消去する。
ダメで元々、DG細胞を自分に使ってみる。
やはり『手駒』を作って、戦闘はそれに任せる。
自分でも手軽に使える強力な兵器を持って来て、それを使う。
クロスゲート・パラダイム・システムを駆使して、ガンダールヴのルーンそのものを改良してみる。
(むう……)
この場で思いつく限りの方法を羅列してみたが、全てにおいて、それぞれかなり問題があるような気がする。
強いて言うなら『兵器を持って来る』が比較的良い案ではあるが、その兵器を常に携行しているとは限るまい。
(戦闘そのものには全く参加しない、というのも一つの手だが……)
このハルケギニアにおいて、それは通用しないだろう。戦いという物は、どんなに避けようとしても出くわしてしまう時には出くわしてしまう物だ。
(コンバットスーツのような物があれば……いや、アレは宇宙刑事の中でもかなり厳選された者のみが与えられる装備だし、私に扱い切れるとは思えん……)
自分の強化方法を思い浮かべては、それを否定するユーゼス。
―――しかし、ここで『真面目に身体を鍛える』という選択肢が発生しないあたりが、ユーゼス・ゴッツォのユーゼス・ゴッツォたる所以であった。