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重攻の使い魔-04


第4話 『少女の憂鬱』


 その日も校庭の端で爆発が起きていた。この一週間というもの、毎日学院に爆発音が響き渡り、そして爆心地にはいつも桃色がかったブロンドを煤けさせた少女と、鮮やかな真紅の鎧を纏うゴーレムがいた。5回ほど爆発を起こした後、少女は盛大に溜息を付くと校舎に背を預けて座り込んでしまった。

「はぁ……、やっぱり駄目ね。どうやっても成功しないわ」

 ルイズは思わず独り言を呟いてしまう。相変わらず身動き一つなく立ち尽くしているゴーレムに話しかけた所で返事が帰ってくるはずもない。この場に愚痴を零せる相手がいないため、ルイズは結局ぶつぶつと文句を垂れ流していた。
 一週間前のギーシュとの決闘でルイズの使い魔であるゴーレムは圧勝したものの、その後のギーシュの辛辣な指摘により、有頂天になっていたルイズの鼻先はへし折られた。使い魔が強力であることに越したことはないが、真に認められたければメイジとしての実力をつける以外に道はない。それまでの思い上がりを反省し改めて魔法の練習をすることにしたルイズであったが、生まれてこの方満足に使えなかった魔法が一週間程度の練習で使える様になる筈もなく、成果と呼べるものはたった一度小石を不純物だらけの青銅へ錬金できたくらいであった。

「なんでわたしがあんたみたいなゴーレムを使い魔にできたのかしらね。あんただってもっと優秀なメイジに呼び出されたかったでしょうに」

 返事はないと分かってはいるが、ルイズはついゴーレムに話し掛けてしまう。自虐的な愚痴を黙って聞いてくれるという意味では、このゴーレムは実に適役だった。
 空を見上げ、この世の理不尽さを嘆くルイズに近付いてくる2つの影があった。ルイズの前に立ち、見下ろしてきたのはサラマンダーを引き連れたキュルケと、青みがかった銀髪の少女だった。

「あらルイズ、今日も魔法の練習? 相変わらず爆発ばっかりさせてるみたいね」
「……あんたもこんな所にわざわざ来るなんてよっぽど暇なのね。男漁りしてる時間があるならもうちょっと勉強でもしなさいよ」

 あからさまに小馬鹿にしたキュルケの言動に、自然とルイズの反応も刺々しくなる。もっとも日常的にいがみ合っているため、特に珍しい光景という訳でもなかった。

「こないだの決闘騒ぎで随分と落ち込んでるじゃない。この一週間あなたを眺めてたけど酷い有様だわ。人のことをとやかく言える立場かしら?」

 キュルケの挑発にルイズは噛み付くことはしなかった。事実、今週のルイズは様々な意味で散々な目にあっていた。授業中、決闘時の自分を思い返し、どうすれば使い魔だのみの現状を打破できるか。それにはどれだけ失敗しようとも魔法の練習をするしかないのか、などと一人悩んでいたせいで教師に指名された時、咄嗟に回答することが出来なかった。当然教師には何を聞いていたのかと叱られてしまった。
 魔法の実技では散々な結果を残しているルイズだが、筆記・暗記等の学問としての成績は非常によい。魔法関連の不出来を何とか補うため、毎日夜遅くまで勉強しているのだ。教師の質問には完璧な回答を。それがルイズの信条だというのに、この一週間は何かと回答ミスを犯し幾度も教師に叱られていた。それが更にルイズの憂鬱に拍車をかけることになっている。

「そのゴーレムを召喚したからっていい気になっていた罰ね。いい気味だわ。あなたなんていつまでもそうやって落ち込んでいればいいのよ」
「……あっそ。言いたいこと言ったならとっとと帰りなさいよ」

 キュルケは更にルイズを挑発するが、当のルイズの反応は極めて薄いものであった。今までならそれこそ顔を真っ赤にして言い返してくるほどだというのに、どうでもいいから早く帰れと言われ、キュルケは面食らう。

「……ふんっ、つまらないわね。もういいわ。タバサ、帰りましょう」

 傍らに無言で佇む青髪の少女にそう言うと、キュルケたちはルイズの元から去っていった。ルイズはもう一度ゴーレムを見上げ、またも溜息をついた。今しがたキュルケが挑発してきたが、もしかしたら落ち込んでいる自分を励まそうとしたのかもしれない。そこまで考えた所で、ルイズは落ち込んでいるときは馬鹿げた発想をするものだと自嘲した。あのツェルプストーがそんな気の効いたことをするものか。ルイズは立ち上がり服に付いた土ぼこりをぱんぱんと叩いて落とすと、着替えるために自室へと向かった。




 夕食を終え、ルイズが自室で自習をしていると、扉が控えめに叩かれた。入るようにいうと、シエスタがポットを持って入ってきた。

「ミス・ヴァリエール、紅茶はいかがですか?」
「ちょっと待ってちょうだい。今片付けるから」

 ルイズはごそごそと勉強道具を片付け、シエスタが用意してくれた紅茶を飲むためにテーブルへ向かう。散々だった一週間、このひと時だけが気の休まる時間であった。紅茶を飲みながらシエスタととりとめのない世間話をする。今使用人の間で飛び交っている噂や誰が誰と付き合っているという色恋話、回し読みされている流行の官能小説。ルイズにとってどうでもいい話題も多かったが、そのどうでもいい時間がルイズの心を癒していた。
 ギーシュとの決闘があった翌日から、シエスタは決まってこの時間に紅茶の差し入れを持ってくるようになった。最初はただ助けてもらった恩から気を効かしているだけだろうと無愛想に接していたのだが、それでもめげずに差し入れを持って来てくれるシエスタの姿に、少しずつではあるがルイズの他人を拒絶する硬く凍った心は溶け始めていた。平民と親しくするなど、ついこの間の自分からは想像できない。しかしそれも気にしなくなりつつあった。孤独な思春期を送っていたルイズにとって、友人という存在ができたことは一種の革命とも呼べるものだった。表面上は若干つんけんしているが、自覚していない内心ではやはり喜んでいた。

「そういえば、なんでもフーケがまた盗みをしたらしいですよ。今度は自分の屋敷が狙われるんじゃないかって貴族の方々が怖がってるとか」
「フーケねぇ……。王宮は何やってんのかしら。凄腕のメイジったって王宮総出で捕まえようとすれば捕まえれるでしょうに」
「そうですねぇ……。ここまで好き勝手されちゃ王宮の面目も危ないんじゃないんでしょうか」

 今度は巷を騒がす大怪盗、『土くれ』のフーケの話題に移る。強力な土のメイジであるということ以外、全くの素性不明の怪盗は厳重な警備を掻い潜り、有力貴族の屋敷や王宮管轄の保管庫から容易く貴重な宝を盗み出す。去り際には『お宝は頂きました』の書置きも忘れないという実に貴族を小ばかにした態度を貫くフーケは、当然のことながら王宮から目を付けられ、幾度も討伐隊が編成されるほどであったが、未だ捕縛には至っていない。何度か人死にも発生しており、早急な逮捕が望まれている。

「ま、いくらフーケといっても、流石にここには盗みに入れないでしょうね。メイジの巣に飛び込む人間がいるとしたら相当の馬鹿に違いないわ」
「うふふ、そうですね」

 シエスタと雑談をしていると、だいぶ夜も更けてきた。シエスタはそろそろ戻ります、とルイズに言うとポットを手に退室していった。静かになった部屋を、ルイズは少し寂しく感じた。ゴーレムは話し相手として頭数には入っておらず、しかもその感情の無さには寒々しさすら感じる。他の生徒と違い生物ではないので感情が無いのも当然なのだが、それでも話しかけても完全に無視する大柄なゴーレムにルイズはかすかな怖れを抱いていた。
 明日も早い、ルイズは頭を振ると寝巻きに着替える。ベッドに潜りながら明日は成功するだろうかと、どうしても考えてしまう。いい加減授業中に無関係なことを考えるのはやめよう。ルイズはそう決めると、さっさと眠ることにした。




 生徒や教師が皆寝静まった丑三つ時、校舎本塔の宝物庫の前で声がする。普段誰も通らず、いるとすれば当直の教師だけというこの寂しげな空間に、二人の人間の声が響く。一方の人間の声はくぐもっていてはっきりしない。

「……ミス……、ま……君が……!」
「すい……ん、ミスタ……。あな……別れ…………残念で……」

 言い争う声は誰にも聞かれることはない。男と思われる者は必死に抵抗しているようだ。

「やめ……! ……なことをし…………ただで済むとお……か!」
「わたしをだ……とお思いにな……。さ、もうお別……間です」
「や、や…………!!」

 男の声は消え去り、宝物庫はまたそれまでの静寂さを取り戻す。目深にフードを被った人物は宝物庫の扉を開け、悠々と内部に侵入する。しばらくごそごそと探し物をしていると目的の代物を見つけたようで、万年筆と紙切れを一つ取り出すと、さらさらとメッセージを書き留める。それを宝物庫の扉に針で留めると、その人物は誰にも見つかることなく静かに立ち去っていった。
 その紙切れにはこのように書き留められていた。

『破壊の杖は確かに領収いただきました。土くれのフーケ』

 翌日、学院は前代未聞の大事件に騒然となる。




 その日、ルイズは騒がしさに目を覚ました。何やら廊下で教師が大声で叫んでいる。ぶつぶつとベッドから這い出ると扉を開けた。廊下には他の生徒達も出てきており、にわかに雑然とした空気が漂っている。ルイズはキュルケを見つけると、とりあえず話しかけることにした。

「ちょっとキュルケ、何があったのよ」
「……何でもあの土くれのフーケがここの宝物庫を襲ったらしいわ」
「はぁ!? フーケが、ここを!?」

 キュルケも流石に青い顔をしている。普段なら真っ先に出てくる皮肉を言うこともなく、素直にルイズの質問に答える。ルイズにしてみれば、つい昨日の夜にシエスタとそのフーケについて話しているのだ。まさか本当にこの学院に盗みに入るとは。想像の上を行ったフーケの行動にルイズは唖然となる。しかもそれを成功させてしまうとは予想以上である。

「宝物庫の前で当直だった先生が殺されてたらしいのよ。だからあんなに焦ってるんでしょうね」
「誰が殺されたの……?」
「さあ、そこまでは分からないわ。でも危険だから部屋で待機しているようにだって。今日の授業は中止になるんじゃないかしら」

 その後、教師に部屋に入るよう注意され、ルイズたち生徒は皆自室へと入った。部屋の中でルイズは月並みだが、何とも大変なことになったと怖くなった。どこかで国家間の小競り合いが起きても学院はいつも平和だった。血生臭い事件とは縁遠いここで、このような事件が起きるとは。もし自分が危険な状況に陥ったら、このゴーレムは守ってくれるだろうか。きっとその強靭な体を使って守ってくれるだろう。それでもやはり、ルイズは湧き上がってくる恐怖を抑えることは出来なかった。




 翌日からは普段どおりに授業が行われることとなったが、学院全体を覆う重い空気は如何ともし難かった。この日予定されていたフリッグの舞踏祭は中止になり、張り切っていたキュルケが肩を落としていたが、流石に事態の重さを理解しているのかその不満を口には出さず、若干顔色は良くなかったが普段どおりの態度を取っている。
 顔色が悪いのはルイズも同じであり、昨日は全く勉強に身が入らなかった。目的の宝を盗み出した以上、もうこの近辺にはいないとは思うが、それでも人が一人死んでいるという事実は、ルイズの未成熟な精神を大いに揺さぶった。そして他の生徒も大差はないようだった。
 生徒達の噂を聞いていると、第一発見者は学院長秘書のミス・ロングビルだということらしい。早朝の教員会議に顔を出さない教師に気付いたロングビルは学院長に許可を取って探しに行った。散々探し回った挙句、最後に向かった宝物庫の前で件の教師が首から血を流して倒れているのを発見した、という経緯のようだ。ロングビルは絹を引き裂くような悲鳴を上げ、他の教師達が駆けつけた、とそういうことらしい。伝聞なのでどこまで事実なのかは分からないが、少なくとも悲鳴を聞いた者はそれなりにいたようだ。
 事態を重く見た教師達は、すぐさま王宮に連絡を取り、駆けつけた王宮の監察官は昨日の夜から現場の検分を行っている。果たしてフーケを逮捕できるかどうか、事件を知る者の間では今回も駄目かもしれない、という意識が蔓延していた。




 学院内の一室で王宮からやってきた監察官と、学院長秘書のロングビルが顔を突き合わせていた。昨日の事件の詳細を聞くためである。この質疑応答は深夜から間断なく続けられており、ロングビルの顔には隠しきれない疲労の表情が浮かんでいた。

「最後にもう一度確認のために説明願います。ミス・ロングビル、あなたがミスタ・メレガニーの遺体を発見したときの状況を説明して下さい」
「……はい、私は昨日の朝、教員会議においてミスタ・メレガニーが欠席していることに気付き、放っておくわけにもいかなかったので学院長に許可を頂いて探しに行きました。ミスタ・メレガニーの自室や研究室を探し、そこで彼が宝物庫の当直に当っていたことを思い出したので、急いで宝物庫に向かいました」
「急いだ、というのは?」
「もうその時点で結構な時間が経っていたので、急がなければ会議が終わると考えたからです」
「ふむ、続きを」

 監察官がロングビルに先を促すと、ロングビルは訥々と当時の状況を語り始めた。

「宝物庫がある場所は薄暗かったのですが、それでも異変にはすぐに気が付きました……。近付くまでもなく、ミスタ・メレガニーが、その、し、死んでいるのが分かったんです。廊下が真赤に染まって……、ぅ、うおぇぇっ!」

 メレガニーの死を思い出し、ロングビルは思わず戻してしまう。監察官はロングビルの背中をさすると、捜査協力の感謝を述べる。

「ありがとうございました、ミス・ロングビル。あなたのような女性に酷な要求を何度もしてしまい申し訳ありません。あなたのもたらしてくれた情報は必ず生かしてみせます」

 ロングビルの嘔吐が落ち着くと、監察官は簡単に掃除をしてから一礼をして部屋を立ち去った。部屋には未だに胃液の酸っぱい臭いが残っている。ロングビルはよろよろと力無く立ち上がると、おぼつかない足取りで部屋から出た。扉を開けると、そこには心配そうな表情を浮かべたコルベールが立っていた。

「大丈夫ですか、ミス・ロングビル……。今回の件は本当にお気の毒です。あなたも、もちろんミスタ・メレガニーも……」
「……ミスタ・コルベール。まさか、こんな事件が起きるなんて……私、どうすればいいのか、全然分かりません……」

 青い顔をして弱音を吐くロングビルに、コルベールは励ましの言葉をかける。

「仕方がありませんよ。よもやこの学院がフーケに襲撃されるなど、誰も考えていなかったのですから。おそらくはミスタ・メレガニーも……。許されざるはフーケであってミス・ロングビルではありませんよ」
「……ミスタ・コルベール、申し訳ないのですが、学院長に今日は休ませていただく旨を伝えていただけませんか……。もう、気持ちが悪くて、とても仕事なんてできません……」
「分かりました。学院長には私から伝えておきます。ミス・ロングビルはゆっくり休んでください」

 コルベールが胸を張ってそう答えると、ロングビルは弱々しく微笑み、軽く会釈をしてよろよろと立ち去る。コルベールはふぅと息を吐くと、学院長の下に向かうためにロングビルに背を向けた。と、コルベールの背中に弱々しい声がかけられる。振り向くとロングビルもまた、コルベールの方向に振り返っていた。コルベールはもう自力で歩けないほど弱っているのかと心配になってロングビルの声に答える。

「どうかしましたか?」
「……励ましていただいてありがとうございます。ミスタ・コルベールのお陰で少しだけ元気になれました……」

 ロングビルはそう言って微笑むと、またよろよろと歩き始めた。ロングビルが廊下の角を曲がり、見えなくなるまでコルベールはぼうっと眺めていた。やつれてはいたものの、ロングビルの微笑みはコルベールの初心な男心をくすぐるには十分な美しさであった。しばらく廊下に棒立ちとなっていたが、はっと我に返るとコルベールは急いで学院長室へと向かった。




 早朝、まだ生徒は寝静まり、使用人たちの働く音だけが響く廊下を、ロングビルは壁を頼りに歩いていた。彼女の髪は乱れ、顔はやつれて蒼白になっている。それも当然だった。ロングビルにとってこのような血生臭い事件は無縁のものだったのだ。そう、ロングビルにとっては。


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