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マジシャン ザ ルイズ 3章 (54)

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マジシャン ザ ルイズ 3章 (54)虚空の大穴

全てを呑み込む穴の驚異は、ウルザを吸い込むだけに止まらなかった。

「うわああああああああ!!」

戦場に悲鳴が、こだまする。



ウェザーライト号のブリッジでは、アラートが騒がしくがなり立てていた。
それもそうだろう。今、ウェザーライトの船体は四五度近くの傾きをもって、船首を上にして斜めに傾いでいるのである。
ただ事ではない。
しかし、そのような窮状であるにも関わらず、周囲にウェザーライトを救おうというフネはない。
なぜなら、他のフネも大なり小なり似たような状況であるからだ。

艦隊は上空からの襲いかかる強力な吸引力に、必死に逆らっていた。
浮力を調整し、自重と重力で対抗する。
だが、重量級のフネなどはそれでいいが、船体の軽い船などは徐々にコントロールを失い、上空へと引き込まれて始めている。
フネは元来このような事態に対処できるようには作られてはいないのだ。

唯一幸いだったのは、このような状況の為に、両軍の戦闘行動が一時中断していることだろうか。

謎の力の影響を受けているのは、何も連合艦隊だけではない。アルビオン側のフネも同様である。
その証拠に、ベキベキという音を立てながら、一隻のアルビオン巡洋艦が、甲板を引きはがされて、破片をばらまきながら空中分解した。
両軍とも、現状を維持するだけで手一杯で戦闘どころでは無いのだ。



混乱の原因、それはプレインズウォーカー同士の戦いの余波に他ならない。
奇しくもそれは、象と蟻の例えを現実のものとしたのである。

ワルドが穿った奈落の大穴。
それはプレインズウォーカーであろうとも引き込んで捕らえる、恐るべきものであった。
だが、それだけの力が、周囲に影響を及ぼさないはずがない。
今のワルドにとってはささやかな余波でしかないそれが、戦場にある全てのものを大穴へと向かって引き込もうとしている力の正体だった。




「モンモランシー! ギーシュ!」
そんな混乱の中で、ウェザーライトのルイズは声を上げた。

ブリッジ内が強烈な風になぶられている。
ドラゴンに破壊されたブリッジの亀裂から、猛烈な勢いで空気が吸い出されているのだ。
吸い上げられる空気は濁流となって、周囲に激しい気流を発生させている。
外を見れば、フネ、人、飛竜、様々なものが上空へと巻き上げられているのが見て取れる。

そのような状況で、ギーシュは右手で必死にブリッジの縁に掴まり、自分とモンモランシー、二人分の体重を支えていた。
既にギーシュの体は浮き上がってしまっており、その手を離せば二人は直ぐにでも外へ放り出されてしまうだろう。

「モンモランシー! しっかりっ!」
「ギ、ギーシュ……」



そう、今や二人の命運は、ギーシュ一人の手にかかっているのである。

「ギーシュッ! 馬鹿なことは止めて手を放して! あなただけなら助かるわ!」
「馬鹿言っちゃいけないよモンモランシー! か弱い女性を見捨てて、自分だけがのうのうと生き残るなんて、そんなのはトリステイン貴族のやることじゃない!」
「でも、このままじゃ二人とも!」
「それこそ望むところだよ! 僕は君を守ってみせる、その為にここにいるんだっ!」

ギーシュ・ド・グラモンはこの戦場に、物見遊山で来ているわけではない。
彼は彼なりの決意を抱いて、この戦場に立っているのだ。

モンモランシーが最初、戦場へ出発するウェザーライトに忍び込むという計画を彼に打ち明けたとき、ギーシュは当然ながら猛反対した。
戦場の恐ろしさや死ぬかも知れないというということを、切々と訴えて説得しようとした。
だが、モンモランシーの決意は固く、彼女はその考えを曲げようとはしなかった。
これにはギーシュもほとほと困り果てた。
何が彼女をそこまで駆り立てるのか、モンモランシーは話してくれなかったが、ルイズが関係しているのだろうということは薄々察することができた。
だからといって彼女がこのまま危険に飛び込んでいくのを見過ごすことなどできはしない。けれど彼女は言って聞いてくれるような雰囲気でもない。
いっそ可哀想だが縄で縛ってでも阻止するべきだろうか、そんなふうに悩んでいるギーシュに、彼女はこう言ったのだ。

『それに、いざとなったらあなたが助けてくれるんでしょ? ギーシュ』

明らかに狙って言ったのは確実であろうに、その言葉はギーシュの頭にガーンときた。
モンモランシーが上目遣いに放った言葉に、ギーシュの頭とハートは一辺に打ち抜かれた。


考えてもみてほしい。
愛しい彼女が、危険な場所に行くのだという。
そしてそこでの頼りになるのは自分だけだと言うのだ。
自分だけを頼りにして、彼女は危険に飛び込むのだという。
自分はそれだけ彼女に信頼されているのだ。


迫る悪漢! モンモランシーのピンチ! そこに颯爽と現れる美しいナイト! ギーシュ・ド・グラモン!
ぱぱっと華麗に悪漢を打ち倒し、震える彼女を抱き上げる!

『大丈夫かい? モンモランシー、君は僕が守ってあげるよ』

そう格好良くキメると彼女は
『ギーシュ最高! 素敵! 全部あげちゃう! 抱いて!』
と言ってくるのだ。

(悪くない、悪くないぞ、ギーシュ・ド・グラモン!)
正に英雄譚ではないか。
沸騰した頭で、そんなことを思う。


最初からギーシュに選択権は無かった。
結局ギーシュはモンモランシーの企てに力を貸し、今こうして彼女と一緒にいるのだ。

そんな彼が、掴んだモンモランシーの手を放すわけにはいかない。
だが、心の決意とは裏腹に、肉体は徐々に限界を迎えつつある。
先ほどから縁を掴んでいる右手に、感覚が無くなっている。一点で体重を支えていることで、しびれ始めてきているのだ。
まだしばらくは持つが、長々と耐えられる保証はない。
だからといって、掴んだモンモランシーの手を離すなどは論外だ。

「ギーシュ! 早く手を放して! 私は『フライ』で飛ぶから!」
「馬鹿言っちゃいけない……。『フライ』で飛んだって、こんな状況じゃ焼け石に水さ。どのみちすぐに巻き上げられる」
「でも……」
「ぐうぅ……」

苦しそうにギーシュが呻く。
その声で、モンモランシーにもギーシュに余裕が無いのが伝わってきた。
だと言うのに、この馬鹿な幼なじみは自分の手を掴んで離そうとしない。
元はと言えば、自分が無理矢理連れてきたようなものなのに……
そんな彼の姿を見るモンモランシーの目尻から、光るものが流れていった。
「ギーシュ……」
「モンモランシー……」

しかし、そんなやりとりは、二人以上に焦りを含んだ声に遮られた。
「待ってて二人とも! 今すぐ防御のための『膜』をそっちにまで広げるから!」
ルイズである。

ルイズの周囲には、ウルザが施した強力な防御機構が働いている。
今の彼女は、ウルザが望まない限り、外界からの影響を殆ど受けることがない。
例えギーシュ達が吸い出されるほどの吸引力であっても、ルイズの周囲だけはそよ風が吹いた程度にしか感じないのである。
その防御のための不可視の力場を拡大し、ギーシュ達のところまで広げようというのがルイズの考えた、二人の危機を救う方法であった。

だが、その計画には大きな落とし穴がある。
ルイズの計画を実行するためにはウルザの施した術式に手を加え、自らの手で操作しなくてはならない。
それはただの人間であるルイズが、プレインズウォーカーに立ち向かうという意味であった。

人間とプレインズウォーカーとの間に横たわる溝は深く大きい。普通なら永久に埋められない程の差だ。
しかし、ルイズの手にはそれを狭めることを可能とする道具があった。

ルイズはまず右手に嵌めた、水のルビーに集中した。
そうして、自身とルビーとの『接続』を試みる。
生身のままでパワーストーンを操作しようなど、尋常ならざる技であるが、それがパワーストーンへの高すぎる順応性持ち、すでにその毒に犯されている彼女の武器だった。

ルイズはまずイメージした。
自分自身の境界線を朧気にしていくイメージ。そうして指先にある巨大な力と少しずつ自分を重ねていくことを想像する。
すると一秒ほどで、指先にピリッという電流が流れるような感覚が来た。
これで『接続』は完了である。
『接続』は、呆気ないほど簡単に済んだ。
これでルイズのマナの許容量は拡大され、パワーストーンの莫大な魔力を自身の精神力の延長として行使できるようになった訳である。
勿論、パワーストーンの力を行使すること自体はウルザからは堅く禁止されていることがらだったが、今はそんなことには構っていられない。
そうして水のルビーとの契約を済ませると、続いて風のルビーとも同様の接続を済ませる。

一連の準備を終えると、ルイズは自分の席の前に据えられた平面映像が浮かんでいる磨かれた大理石の上に手を乗せた。
そうして粗くなった呼吸を少しの間整えて、そこに自分の魔力を流し込んだ。
ウルザが操作しているのを見たことはあったが、自分で操作するのは初めてである。そもそも『魔力を流し込む』ということ自体、彼女にとって初めての経験だ。
正直、すぐにうまくいくとは思っていなかった。
だが、意外なことにルイズはウェザーライトと繋がってから数秒で、その操作方法を理解が理解できてしまった。
一つ操作を行えば二つを、二つ操作を行えば四つを。
倍の倍で、操作を行えば行うほどどうやってこのフネを操作すればいいかがフィードバックされてくるのだ。

ウェザーライトの操作というのは、要は『自分の腕』と『魔法』との間のような存在だ。
マナ=精神力に命令を乗せて、それを端末から流し込めば思った通りに動かすことができる。
何も難しいことはない。メイジなら誰しもがやっていることだ。
ルイズはそれをルビーのバックアップを受けながらこなしていく。

一分ほどで表層的な操作について一通り試し終えたルイズは、顔を上げてギーシュ達を見た。
ギーシュは何とかまだ破損したブリッジ外壁近くの柵に掴まっていた。
だが、ルイズの霞む視界ではギーシュ達が今どのような状態にあるのかまでは判別できない。
あとどれだけそんな状況で耐えられるだろうか。
一分、二分?
それとも三十秒?
兎も角、急がねばならなかった。

ルイズは再び目の前のコンソールに向き直る。
次はもっと高度な操作を行うつもりだった。
ウェザーライトの操作はある意味潜水に似ている。自分自身であるマナ/精神力を、深く沈ませていく、その深さによって捜査できる範囲が変わってくる。
高度な操作になるほど、より深い深度へと精神を潜り込ませるため、多くのマナを消費する。
だが、幸いにも今のルイズはマナ/精神力に関してなら無尽蔵と言っても良い。


余談であるが、ルイズ自身の精神力は、ロマリアで思い出すのもおぞましい『アレ』と対峙した晩以来、枯渇した状態が続いていた。
普通なら精神力は一晩ぐっすりと寝れば回復してしまうものなのだが、どういう訳か虚無の魔法を行使するための精神力はなかなか回復しなかったのである。
原理はよく分からないのだが、虚無に関する魔法を使用するための精神力の充足には特殊な条件が必要らしく、それが何なのか分からない彼女には回復する術が無かったのだ。
だが、パワーストーンの支援さえあれば、魔力は使い放題である。
無論、代償は必要ではあるが……。


正規の手続きを無視して、強引にウェザーライトの操作系統へと深く潜っていく。
途中、二つほどルイズを拒もうとする障害があったが、そんなものは強引に焼き切ってやった。
そうやってどんどんと潜り込んで、ルイズの脳裏に閃く直感。
あと一層で、自分の周囲を固めている防御の力に手が届く。
そう思い、逸る心のままに新たなマナを注ぎ込んだとき、異変は起こった。

「かっ、はっ!?」
頭の中が爆発したような強烈な頭痛、そして焼け付くような右目の痛み。
「――――――っ!?」
ルイズは声にならない悲鳴を上げて、その手で右目を押さえた。
途端に、

   世界の半分がブラックアウトした。

(な、に……?)
ルイズは脳裏に疑問を浮かべる。
ひどい頭痛は治まっていない。だが、それすらも凌駕して、ルイズは放心した。
突然世界の右半分から光が消滅したのだ。

いいや、そんなことではない。
ルイズにも本当は分かっている。
これは支払うべき代価だ。
驚くようなことではない。

右目が光を失った。
ただ、それだけのことだった。


そう、最初から分かっていてやったことだ。

「何よ……たかだか右目じゃない、何を驚いているのよ、私は。はん、ばっかみたい、ただそれだけじゃないの」
言って、ルイズは震える手をきつく握りしめると、それをそのままそれを、コンソールへと叩き付けた。
「少し、不便になっただけよ……!」
きつく結んだ唇が切れて、そこから血が一筋流れた。

ルイズは直ぐさま作業を再開する。
最後の門を破り、最深部一歩手前の領域のコントロールを掌握する。
それで十分。ルイズの目的を果たすには、それで必要十分なレベルだった。
(……艦内非常用保安機構。これね)
ブリッジ内の様子がルイズの頭にイメージとして伝わってくる。
半径一メイル程度の円が自分を取り囲んでいるのが分かる。ルイズはそこに魔力の触覚を伸ばし、力場を発生させている術式に拡大の式を刻み込む。

すると、ルイズの耳にキーンという耳鳴りのような音が聞こえた。
続いて、ごうごうと鳴っていた風音が止み、バタンと何かが落ちる音がする。
ルイズが慌ててそちらを見ると、重なるように床に倒れているギーシュとモンモランシーがいた。

「た、助かった、のか、僕たちは……」
「どうやらそうみたいね……って、きゃあ! ギーシュッ! どこ触ってるのよっ!?」
「おお、モンモランシー。そうは言っても君が上に乗っているのだから僕からはどうしようもないよ……もっふもっふ」
「いやあ! 顔を動かさないでぇ!」

そんな声を聞いて、ルイズは徐々に緊張を解いていった。
思えば一人ウェザーライトに乗り込んで以来、これが初めて気の抜けた瞬間だった。
気を許せる友人、それがどれだけ大切なものか、初めて分かった気がした。

だが、次に聞こえてきた音が、ルイズに再び緊張を強いた。

「……っ!? 何この音っ、警告音が……変わった?」
再び艦内に鳴り響くアラート。
先ほどまでものとは全く別種の耳障りな音。
そして続いて響いた声に、ルイズは驚愕した。

『コアに対する第三深度の不正な侵入を確認しました。緊急時非常マニュアルに基づき、これよりウェザーライトⅡは精霊による自立航行モードに移行します』

無機質な、声。
この船には闖入者であるモンモランシーを除けば、ルイズの他に乗組員はいない。
つまり、今の声はウェザーライトⅡから流れたこととなる。
ルイズはウェザーライトⅡが喋ることなど、このとき初めて知った。
だが、次に発せられた声は、最初の衝撃を遙かに上回るものだった。

『ただちに不正な設定を破棄。艦内非常用保安に関する設定を復元します』
それはとてつもなく、冷徹な声のようにルイズには感じられた。
「待っ……」

ルイズが言い切る前に、弦を弾いたようなピンッという音が響いた。
それを契機に、拡大したはずの防御の力場が消滅した。


防御が消失したことで、ブリッジ内を再び強風が襲った。
猛烈な勢いで、再び空気が吸い出される。

「う、わっ、わ……」
「え、何? ちょっと……」。
抵抗する力も残されていないモンモランシー達の体が浮き上る。
そして、今度こそ何にも掴まることができず、二人の体は、外へ。

ルイズは呆気にとられながら、二人が外へと放り出されていくのを見ているだけしかできなかった。
そんな彼女に去来するのは
(何で?)
という疑問。

「モンモランシーッ! ギーシュッ!」
ただ、そう叫んで手を伸ばす。

二人は遠い。
腕は虚空にあって、何も掴まない。
その手に意味なんて無い。それで何かが変わるわけでもない。
二人の姿はすでに見えない。

そう彼女は失敗したのだ。

(何で、何でよ?)
悔しさと怒りで、涙がにじむ。

力を手に入れたはずだった。
それはみんなを救える力だったはずだ。

彼女が思う、立派な貴族が持つべき力。
何事にも背を向けず、誰かの為に戦い抜く力。
決して負けず、誰かの笑顔を守る力。
気高く、誇り高い、そんな力。
魔法が使えなかった彼女が夢見た、理想の力。

ルイズはそれを手に入れたはずだった。

けれどその力は、友達を助けることもできないものだった。
命を削ってまで手に入れたものは、理想とはかけ離れた、ちっぽけなものだった。
ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールはここに現実を思い知らされた。
自分の望んだものは、神様にでもならなければ手に入らないと、思い知らされた。


「ぅ……ああっ、うわあああああっ!」
頬を冷たいものが伝うのを感じながら、ブリッジに開いた穴に手を伸ばす。
友達が消えてしまったその場所に、手を伸ばす。
後悔と未練が入り交じった感情を持て余して、嗚咽する。

結局何もできなかった。
そうルイズの心が絶望に塗りつぶされそうになったそのとき、彼女の半分しかない視界に、一瞬だけ影が差した。
ただ一瞬の交錯。
もうはっきりとした焦点を結べないルイズの瞳。彼女にはそれがなんだったのか分からない。

けれど彼女はその影に、希望を感じた。
だから彼女は、直感だけでその名を叫んだ。

「タバサ!」

                   空がどんなものかだって? そりゃあ怖いところだよ。
                   誰だって落ちれば分かる。
                                  ――ギーシュ

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