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毒の爪の使い魔-30b


五体のワルドとの戦いにジャンガは苦戦を強いられた。
デルフリンガーの魔法を吸収するという特性で、戦いが有利に進むというジャンガの考えは直ぐに改めさせられた。
ワルドは魔法の吸収を防ぐため、発射ではなく手持ちの武器にすると言う方法を取ったのだ。
『エア・ニードル』、回転する空気の渦を杖に纏わり付かせ、剣の如き鋭利さを宿らせる風系統の魔法。
杖自体が魔法の発生源であるため、まとめて吸収…と言うわけには行かない。
故に、折角の”魔法の吸収”と言うデルフリンガーの特性を生かす事ができなかった。
更に左腕を失ったのも痛い。利き腕ではないが、やはり支障はある。
相手も左腕を失っているが、殆ど魔法で戦っているので然程支障は無いだろう。
加えて四体の分身。分身も左腕は無いが、やはり支障があるようには感じられない。
寧ろ数の差がある分、あちらとしてはとても有利だろう。

数の差、力の差、それらが合わさり、結果としてジャンガはワルドに徐々に追い詰められる事となった。

風を纏わり付かせて青白く発光し、鋭利な切っ先と化した五本の杖を、五体のワルドは次々に突き出す。
その攻撃をジャンガは残った右腕の爪で、左腕に縛り付けたデルフリンガーで受け、流す。
だが、相手は五体、こちらは一人……受けきれなかった一撃が左肩を貫く。
「ぐっ!?」
ジャンガは激痛に呻く。
それを堪えながら、ジャンガは肩を貫くワルド目掛けて蹴りを放つ。
しかし、目の前のワルドは素早く杖を引き抜き、飛び退る。
ジャンガは舌打する。
――やはり五対一の戦力差は大き過ぎる。
相手は未だ左腕を失っただけだが、こちらは徐々にけがを負ってきてるのがその証拠だ。
このままではジリ貧だ。とはいえ……状況を覆すような手段も無い。
ジャンガはデルフリンガーに声を掛ける。
「オイ、自称左腕」
「何だ、相棒?」
「六千年前にも”前”のガンダールヴに握られてたんだってな?」
「いかにもそのとおり」
「そんなテメェに尋ねるゼ。…この状況を覆すような手段を持ってるか?」
「無い」
「そうかよ」
「ガッカリしないのか?」
「最初から期待してねェよ」
「…酷ぇ。魔法を吸い込んだり、光ったりしたのに…」
「あのヒゲヅラが今使っている魔法は吸い込めねェ…、光ったのも錆が取れただけ…、
これで何を期待すりゃいいんだよ?」
「……」
痛すぎる突っ込みに、デルフリンガーは沈黙せざるをえない。
ジャンガは、はぁ~、と大きくため息を吐く。
そして、目の前の五体のワルドを睨み付けた。
当然と言えば当然だが、余裕綽々と言った様子であった。
ワルド達は一様に笑う。
「どうした? もう終わりか?」
「るせェ」
それだけ返し、ジャンガは再び構えを取った。
このままでは勝てそうにない…、正直敗北は決定的だ。
だからと言って今更引く気も無いが…。
ワルド達が再び笑う。…自分よりも弱い存在を嘲笑う。
それはジャンガ自身、騙し、殺した相手に向けていた物。
それが今、自分に向けられている。

――不愉快だった。

――思い出したくない事も思い出してしまう。

――黙らせてやる。

ジャンガは殺気を隠しもせず、獣のような雄叫びを上げながら突進する。
真正面にいたワルド目掛けてデルフリンガーを振るう。
それをワルドは容易くかわす。
その隙に、他のワルドが一斉に躍りかかる。
四方から突き出される杖をデルフリンガーと爪で受け流し、杖の動きを見切ってかわす。
だが、五体目の攻撃が見切れない。
――突き出された杖が左の脇腹を貫いた。
「がっ!?」
激痛に苦悶の声を漏らす。
杖が引き抜かれるや、ジャンガはその場に蹲る。
押さえた右腕の隙間から血が滴り落ちる。
そのジャンガの周囲を五体のワルドが取り囲む。
――不味い、非常に不味い。
ワルド達はバカにするような、ゆっくりとした動作で杖を掲げる。
そして悠長にルーンを唱え始めた。
バカにするような…ではない。…本気でバカにしているのだ。
目の前のワルドがニヤリと笑う。
「これで今度こそお別れだ…、”元”ガンダールヴ」
「…”毒の爪のジャンガ”様だって言っただろうが……ボケ」
荒い呼吸を繰り返しながら、苦しそうにジャンガは言った。
「ジャンガ!?」
ルイズの声が響き渡る。
ワルドはルイズの方へ顔を向ける。
「安心したまえ、ルイズ…君の次に彼の元へ送ってあげよう」
非情なまでに淡々と元婚約者に死刑宣告をするワルド。
ジャンガへと向き直り、最後のルーンを唱えた。
「では…さようならだ!」
「チッ…」
ワルドが叫びながら杖を振り下ろそうとした――その時だ。

ボコッ!

大きな音と共に、ジャンガの蹲る床が陥没した。
「な!? おわっ!?」
突然の事にジャンガは対応できない。
床に開いた穴へと落ちてしまった。
ワルド達もまた動揺を隠せない。
暫し沈黙し、ようやく一人が呟いた。
「な、何が起きた?」
呟いた一人が穴の中を覗き込もうと首を伸ばし……刎ね飛ばされた。
首を失った一体が刎ね飛ばされた首と共に消滅する。
ワルド達の間に緊張が走る。今のは『エア・カッター』による風の刃だ。
一足飛びに穴から距離を取り、様子を伺う。
穴から小柄な人影が飛び出した。その人影が誰か気が付いたルイズは目を丸くする。
「タバサ!?」
そう、人影はタバサだった。

タバサは周囲を見渡し、状況を瞬時に理解する。
素早くルーンを唱え、杖を振る。幾本もの氷の矢が周囲に飛ぶ。
残ったワルド達はその氷の矢を何とかかわす。
と、突然飛んできた一発の火の玉が逃げるワルドの一体を飲み込んだ。
瞬時に焼き尽くされ、消滅する。
「あら? スクウェアともあろうお方が、このような不意打ちにやられるなんて、情けないですわね」
微妙に場にそぐわない声が響く。
今度は何だ? 残った三体のワルドの視線が声の方に向く。
燃えるような赤髪の少女が穴から出てきている。キュルケだった。
今し方、遍在の一つを燃やした『フレイム・ボール』を撃ったのは彼女である。
余計な邪魔が入った、とワルド達は一様に顔を顰めた。
キュルケの後にギーシュとモンモランシー、ヴェルダンデに押し上げられるようにしてジャンガも穴から出てきた。
「また…テメェに助けられるとはな」
ジャンガの言葉にギーシュは首を横に振る。
「いや、ヴェルダンデのお陰さ。ヴェルダンデが穴を掘り、ここまで辿り着かなければお手上げだったよ」
「…どっちにしろ、二度目には変わらないゼ」
そう言うジャンガにモンモランシーは『治癒』をかける。
「また酷くやられたわね…」
ジャンガの身体の怪我――特に肘から先を切断された左腕を見て、モンモランシーは顔を顰めた。
タバサが背中越しにジャンガに声を掛ける。
「また間に合わなかった…」
その申し訳なさそうな声を聞いて、ジャンガはため息を吐く。
「気にすんじゃねェよ…、この腕は俺のミスだ」
しかし、タバサは首を振る。
「それでも、間に合わなかったのは変わらない」
タバサはワルド達を真っ直ぐに見つめた。

――あいつがこの人を傷つけた。
そう思ったタバサの心中は複雑だった。
彼を傷つけたのは目の前の男。だが、自分が後れたのも事実。
自分は彼の騎士になると誓ったのに…、力になりたくて来たのに…、彼を傷つけてしまった。
タバサの小さな胸は申し訳ない気持ちで一杯だった。
でも、謝罪をしたところで彼の怪我が治るわけではない。
だから、せめて…彼を傷つけたあの男は自分が倒す。
そう心に決めると、自然と杖を握る手に力が籠もった。

ワルドは自分を見つめるタバサの目の冷たさに怪訝な表情を浮かべた。
――年端も行かない少女であるのに、なんという目をするのだろう?
彼はすぐにこの少女が見た目通りではない、相当な使い手である事を察した。
となれば子供と言えど油断はならない…、”あれ”も使う必要があるだろう。
(ここまでする事になるとはな)
ワルドは懐に手を入れ、三つの小さな玉を取り出す。
フーケの傍にいた遍在が取り出した物と寸分違わぬ代物だ。
それをワルドは放った。
地面に落ちるや、フーケの時と同じく青白いゲートが開き、中から幻獣が現れた。
持ち札はこれで全てだ。
(遍在は二つ潰されたが、何ら支障は無い)
三体の幻獣の力がどれほどの物かは見てみなければ解らないが、最低でも弾除け程度にはなる。
それに”あのピエロ”が自信を持って手渡した代物…、全くの役立たずでもあるまい。
ワルドは嫌みったらしい笑みを口元に浮かべた。

巨大な槍と盾を持った、三メイルはあろうかと言う漆黒の身体の幻獣。
一メイルほどの大きさの金色の鎧を身に纏った幻獣。
紫色の水晶球を持つ青い身体をした小型の幻獣。
突如現れた三体の幻獣。しかし、タバサ達は落ち着いていた。
当然だろう…、巨体の幻獣の姿がとても見覚えのある姿をしているのだから…。
「フーケといたのは、やはり彼だったみたいだね」
ギーシュはポツリと呟く。
キュルケもつまらなそうな表情を浮かべる。
「あの物取りだとか言っていた連中も、本当はあの男に雇われていた…ってところでしょうね」
そんな二人に向かってジャンガは声を掛ける。
「お前ら、ふざけてる場合じゃねェゼ? あの野郎…厄介な物を出しやがったゼ」

『ジャイアントやりムゥ』――様々な種類がいるムゥの中では最も戦闘に適し、尚且つ賢い種族『やりムゥ』の大型種。
名前通りの巨大な槍と『ジャイアントたてムゥ』のそれに匹敵する頑強さを誇る特殊鋼の盾を持っている。
巨大な槍での突進攻撃や、好きな遊びである”そり”を真似た盾に乗っての体当たりなどを得意としている。
漆黒の身体のこの個体は最上位の存在であり、槍は先端が秘宝”ダイヤムゥンド”でできている特別性。
それは、ありとあらゆる物を貫き、破壊する、恐るべき威力を持っている。

『よろいムゥ・きん』――『よろいムゥ・ぎん』の上位種。
西洋甲冑の兜の様な形をした、磨き抜かれた金色の鎧を身に纏っている。
鎧の頑強さはまだしも、腕力、脚力など全てにおいて『よろいムゥ・ぎん』を上回っている。

『バーニィ』――魔力の宿った水晶球を持った小型の幻獣。
ぬいぐるみの様な愛らしい姿をしているが、水晶球の魔力で自由自在に炎を呼び出し、操る事ができる。
炎は敵に飛ばして黒焦げにする攻撃手段のほか、周囲に張り巡らせてバリアにするなど防御手段としても使われる。
紫の水晶球を持った青い個体は最上位の存在。呼び出す炎は冷たく、敵を無慈悲に焼き尽くす。

「また、面倒な相手見たいね…」
キュルケはやれやれと言った感じでため息を吐く。
「なら、尻尾巻いて逃げるか?」
ジャンガの言葉にキュルケは杖を構えて笑う。
「冗談。厄介な相手だからって、幻獣の一匹や二匹で背を向けるわけないでしょ?」
ギーシュもワルキューレを呼び出す。
その目には失望と怒りが混じった感情が浮かんでいる。
造花の杖をワルドに突きつけ、高らかに叫ぶ。
「ジャン・ジャック・ド・ワルド! 祖国と姫殿下を裏切った報い、このギーシュ・ド・グラモンが与える!」
その様子をジャンガは笑いながら見つめる。
「キキキ、張り切ってるじゃねェか」
言いながら立ち上がる。
「ちょっ、ちょっと?」
モンモランシーは慌てて彼を止めようとした。…まだ怪我の治療は終わっていないのだ。
そんな彼女をジャンガは制する。
そしてルイズと一緒に離れてろと言うと、タバサの横に並ぶ。
タバサは彼を見ずに口を開く。
「危険」
「平気だ」
「無茶はダメ」
「その言葉…そっくりそのまま返してやる。国に単身ケンカ売ったお嬢ちゃんよ~?」
その言葉にタバサは恥ずかしそうに顔を赤らめ、口篭る。
そして逡巡し、口を開いた。
「……解った」
「最初からそう言えばいいんだよ」
「あなたはわたしが守る…絶対」
「無茶はすんじゃねェぞ?」
今し方の自分の台詞を返され、タバサは小さく頷いた。
そして、後ろの二人に声を掛ける。
「キュルケ、ギーシュ、力を貸して」
キュルケもギーシュもその言葉に”何を今更?”といった表情を浮かべる。
「水臭い事を言わないでよね、タバサ」
「それは愚問と言う物だ」
二人の返事にタバサは、ありがとう、と小さく呟く。
そして、ワルドへと視線を戻した。

「話は終わったかね?」
こちらの話が終わるまで、わざわざ待っていたらしい。
余裕の態度でワルドは声を掛けてくる。
そんなワルドにジャンガは小馬鹿にした笑みを向けた。
「ああ…テメェをどうボコボコにしてやるかの相談はな」
「それは面白い。…現実にはならないがな」
「そいつはどうかな? 結果はまだ出てねェんだからよ」
「解るとも。君達では僕には適わない」
その言葉にタバサ達が口を挟む。
「慢心は油断を生む」
「学院の生徒だからといって、この”微熱”を侮っていると、火傷ではすみませんわよ?」
「裏切り者に敗れる道理など無い!」
口々に叫ぶ彼女達の言葉をワルドは鼻で笑った。
「ならば、見せてもらおうか? 君達の力を」
ワルドは幻獣に向かって叫ぶ。
「さぁ、思う存分暴れるがいい!」
幻獣達が一斉に動き出し、三体のワルドも一斉に飛び掛る。
ジャンガ達もそれを真っ向から迎え撃った。



先陣を切るはジャイアントやりムゥ。ムゥハルコンとダイヤムゥンドのコラボが生み出す、破壊の槍を構えて突撃する。
その槍をワルキューレが五体がかりで受け止め、盾を三体で押し止める。
凄まじい突進のスピードに振り払われそうになるが、ワルキューレはそれを何とか押さえつけた。
「今だ!」
ギーシュの声にタバサとキュルケが同時に魔法を放つ。
ジャベリンとファイヤーボールが飛ぶが、ジャイアントやりムゥには届かない。
ジャベリンは飛んできた炎に溶かされ、ファイヤーボールは風で霧散された。
二人はそれぞれの攻撃が飛んで来た方に顔を向ける。
杖を構えたワルドと周囲に青白い炎を浮かべているバーニィの姿が見えた。
バーニィは手を振り上げたり下ろしたりして念じる。
水晶球が輝き、青白い炎が意思を持つかのような動きで、タバサやキュルケに襲い掛かる。
まるでフレイム・ボールのような正確さだ。
二人は襲い来る炎を何とか相殺する。
だが、その間に二体のワルドとよろいムゥ・きんが、ジャイアントやりムゥを押さえるワルキューレを破壊した。
拘束から解放されたジャイアントやりムゥが再び突撃を開始し、徐に手にした槍を突き出す。
槍が完全に突き出されるより早く、ジャンガが叫ぶ。
「テメェら、伏せやがれェ!」
ジャンガの叫び声に全員一斉に床へ伏せる。
次の瞬間、頭上を何かが凄まじい勢いで通り過ぎて行ったかと思うと、背後で爆音が起きた。
何事かと思って振り返り、呆然となる。
「な、何よ…あれ?」
キュルケが呆然と呟く。
背後にあった頑丈そうな扉が周りの壁ごと吹き飛んでいたのだ。
槍を突き出した勢いに突撃の勢いが加わった結果、それは途方もない力を生んだ。
槍に押し出された空気は、エア・ハンマーの何十倍になろうかという大質量の塊となり、
扉を壁ごと粉砕しただけに止まらず、その向こうの壁、向こうの壁と穴を開け、遂には外にまで達していた。
その凄まじい破壊力に全員は息を呑む。
あれをまともに受ければ、人間なんか木の葉のように吹き飛ぶどころか、土くれのように粉々になってしまう。
そして、押し出された空気であれなのだから槍本体の破壊力は……正直考えたくもない。
「全く、次から次へと厄介ね。あなたの世界の幻獣…ちょっと異常過ぎない?」
キュルケが半ば呆れた表情でジャンガを見る。いつもと変わらない喋り方だが、顔には冷や汗が浮かんでいる。
ジャンガはため息を吐きながら返答する。
「この世界の幻獣が貧弱過ぎるんだよ…、とは言え……確かに、この破壊力はちょいと変だゼ」
ジャンガの疑問も尤もだ。
ジャイアントやりムゥは確かに攻撃力に秀でているが、これだけの力を持っているのは見た事が無い。
(まァ…大方”あの野郎”が弄くったやつなんだろうけどな…)
そう、幻獣のボスである”あいつ”ならばこれ位の強化など造作も無い事なのだろう。
だが、原因が解った所でどうするべきか…?

ジャイアントやりムゥが再び槍を構える。
突き出そうとしたその時、タバサが杖を振る。
風が吹き荒れ、ジャイアントやりムゥを小型の竜巻の中に閉じ込めた。
ジャイアントやりムゥは竜巻に阻まれ身動きが取れない。
それに止めを刺すべくタバサはジャベリンを作り出そうとする。
そこへ、一体のワルドとよろいムゥ・きんが襲い掛かる。
詠唱を中断し、タバサはその場を飛び退いた。
よろいムゥ・きんの爪が床を切り裂き、ワルドの青白く輝く杖がタバサの右足を掠める。
そのまま距離を離す。そこへ残りのワルドが加わる。
三体のワルドが一斉にライトニング・クラウドを放つ。
膨大な量の電撃がタバサに迫る。
だが、電撃は少女の身体に届かなかった。
間に割り込んだジャンガが構えたデルフリンガーに残らず吸収されたのだ。
ワルド達は一斉に舌打する。
「余計な真似を…」
「うるせェ。一対一じゃねェんだからよ…これ位は当然だろうが?
つうか…テメェも今し方やった事だろうが。キキキ」
最初のジャイアントやりムゥへの攻撃の妨害をジャンガは指摘した。
ワルドは更に顔を顰める。
と、よろいムゥ・きんがジャンガに突撃する。
とても重い鎧を着込んでいるとは思えない動きで爪を繰り出す。
それを何とか捌いていると、よろいムゥ・きんを横合いからワルキューレが殴り飛ばした。
吹き飛び、壁に激突する。
「やるじゃねェか…気障ガキ」
ギーシュにニヤリと笑ってみせるジャンガ。
対してギーシュもお返しとばかりに笑った。
「なに、大した事じゃないさ」
それは実に仲が良さそうな雰囲気だった。
しかし、今は暢気に友情を深めている(?)場合ではない。

バーニィの操る青白い炎が飛んできた。
その炎をジャンガはデルフリンガーで切り裂き、ギーシュはワルキューレで叩き落す。
だが、破壊しきれない物がワルキューレを焼いた。文字通り消し炭となるワルキューレ。

ワルキューレが燃え尽きるのを見て、ギーシュは歯を噛み締める。
最初に八体、そして今一体を破壊された。
残るワルキューレの数は五体、さてどう使うべきか?
――悩む必要など無い、ここまできたのなら。
造花を振り、五体のワルキューレを出す。
「盾代わりにでもなればいい」
ワルキューレを自分達の前方に配置…しようとして、一つの案が浮かんだ。――あまりにも単純すぎる物が。
「タバサ、ちょっといいか!?」

「無駄な事を」
ワルドは嘲り笑う。所詮子供の浅知恵だと。
三体のワルドが一斉に呪文を唱える。
「そんな付け焼刃なバリケードなど、容易く吹き飛ばしてくれる」
三対が一斉に『ウィンド・ブレイク』を唱える。
しかし、その詠唱が完成する前に敵のゴーレムが一斉に動き出す。
「ばかめ!」
叫びながら杖を突き出そうとした瞬間。
ゴーレムが一つ残らず爆発――否、粉砕された。
「何!?」
突然の事に頭がついていかない。そして、それが命取りとなった。
粉砕されたゴーレムの破片が無数の弾丸となり、ワルドや幻獣に襲い掛かったのだ。
ジャイアントやりムゥは自身を拘束している竜巻が盾代わりとなり届かない。
バーニィは炎のバリアに加えて身体が小さいのが幸いし、当たった破片は僅か。
よろいムゥ・きんは元々頑丈なので破片が当たっても傷一つ付かなかった。
しかし、幻獣はほぼ無傷であったが、生身なワルド達はそうもいかない。
三体の内、一体が対応が遅れ、破片の弾丸に全身を貫かれて消滅した。

「上手くいくもんだな?」
事の成り行きを見ていたジャンガは素直に驚いた表情を浮かべる。
ギーシュは得意げに胸を逸らす。
「まぁね。もともとはタバサと例のピエロの合わせ技だったのを真似ただけだがね。
だが、威力は申し分ない。…欠点なのは、ワルキューレを大分消費する事か?」
「でも威力は申し分ない」
ギーシュの言った言葉をタバサが反芻する。
今し方の事を簡単に説明すれば、ワルキューレ五体をタバサが後ろから特大のウィンド・ブレイクで吹き飛ばしたのだ。
ギーシュが以前、学院で戦ったタバサとジョーカーが使った氷の散弾をアレンジした…と言うかそっくり真似た物。
「さしずめ『ワルキューレ・ショット』と言った所かな?」
「もう少し考えるべき」
「ネーミングセンスが無さすぎるゼ、テメェ」
二人の痛すぎる突っ込みにギーシュは軽く鬱になった。

「くっ、おのれ…よくも!!」
残った二人のワルドが怒りのあまりに叫んだ。
「堪え性の無いヒゲヅラだゼ。まさにガキだな」
「黙れ!」
エア・ニードルを再び唱える。杖が青白く輝き、鋭利さを宿す。
呪文が完成するや、二体のワルドは一足飛びに距離を詰める。
「チッ」
あれだけは吸い込めない。ジャンガは舌打すると、距離を離すべくその場を飛び退く。
ギーシュもキュルケもその場を飛び退き、タバサも後に続く。杖が床を貫く。
素早く引き抜き、一番手近なタバサに杖の矛先を向ける。
タバサは更に飛び退こうとし――足に痛みが走った。
それは先程杖が掠めた右足の傷だ。
一瞬…ほんの一瞬、タバサの足が止まった。――それは致命的な一瞬だった。
しまった、と思った時には手遅れ。
二体のワルドが青白く構えた杖を自分に突き立てんと迫る。

肉を刃物が貫く音が聞こえた。
しかし、それは自分の物ではない。
何故それが解るか?
それは、杖が貫いている物が目の前に在るからだ。

タバサは呆然となった。
「ぐっ…」
呻き声が耳に届く。
ゆっくりと杖が引き抜かれ、自分を庇った相手が地面に崩れ落ちる。
「ジャンガ!?」
珍しく感情を露わにした叫びを上げ、タバサはジャンガの身体に縋り付く。
苦しそうな呻き声を上げるジャンガの身体を触ると、ぬるっとした感触を手に感じた。
見る必要も無い。それが血である事はタバサは十分に理解している。
激しく咳き込むジャンガ。咳き込む度に血が吐き出される。
床には瞬く間に鮮血の泉が広がっていく。
「クソッ…が…」
「ジャンガ…、しっかり」
タバサは既に半泣き状態だ。
守ると誓ったのに、自分のミスで彼をこんな目に合わせてしまった――その事実が彼女を苦しめる。
その二人の前に二体のワルドが立つ。
タバサは顔を上げ、目の前の男を睨みつける。
ワルドはそれを涼しげな表情で流す。
「そんな目で睨まれても怖くはないな」
言いながらワルドの片割れが杖を構えた。
キュルケが咄嗟にファイヤー・ボールを撃とうとするが、もう片割れの風に吹き飛ばされる。
「静かにしていたまえ」
ギーシュも何とかしようと思ったが、既にワルキューレを限界まで作り出したので精神力が打ち止めであった。
何の抵抗も出来ずに吹き飛ばされる。
片割れが他を威嚇している間、タバサとジャンガに杖を突きつけているワルドは詠唱を終わらせる。
電撃が纏わり付いていく、ライトニング・クラウドだ。
ジャンガは帯電する杖を見ながら舌打ちをする。
今の状態ではあれを避けられない。タバサだけでも逃がそうと思ったが、彼女の性格を考えれば言うだけ無駄だ。
自分は痛みで咄嗟に動けず、タバサは今から詠唱をしたところで間に合いそうにない。
向こうではタバサの竜巻の拘束を破るジャイアントやりムゥ、起き上がるよろいムゥ・きんとバーニィの姿が見えた。
三体の幻獣はどれも然程怪我は負っていない様子だった。
――不味い…本気で大ピンチだ。
ジャンガは焦った。…しかし、焦って状況が好転するはずが無い。
ワルドがニヤリと笑う。
「もはや万策尽きたかな、”元”ガンダールヴ?」
「”毒の爪のジャンガ”様だってんだろうが……いい加減覚えやがれ、バカが」
精一杯の悪態を吐くジャンガだが、ワルドは余裕の態度を崩さない。
「せいぜい吠えるがいい。最早、打つ手など無いのだからな」
ワルドがそう言った直後――隣でキュルケ達に杖を突きつけていたワルドが突如”引き裂かれた”。
突然の事にその場の全員が呆気に取られる。
そのワルドを引き裂いたのは…あろう事か、味方であるはずのよろいムゥ・きんだった。
「な、何を――」
ワルドの言葉は最後まで続かなかった。

ズバッ!

「なぁぁぁーーーーー!!?」

ワルドの絶叫が響き渡った。



あまりの展開にタバサもキュルケもギーシュもルイズもモンモランシーもジャンガも呆然とするしかなかった。
よろいムゥ・きんが背後から素早く駆け寄ったかと思うや、キュルケ達に杖を突きつけていたワルドを引き裂いた。
そしてタバサとジャンガに杖を突きつけていたワルド(これが本体らしかった)の胸を、
ジャイアントやりムゥの巨大な槍が刺し貫いたのだ。
何故? どうして? 疑問がジャンガ達の間を駆け抜ける。
――その疑問の答えは直ぐに出された。

「いけませんねぇ~~ワルドさん?」

突然、礼拝堂に惚けた感じの声が響いた。
その声はジャンガやタバサだけでなく、その場の全員が聞き覚えのある物だった。
と、いつの間にか――本当にいつの間にか――始祖の像の前、うつ伏せに倒れている若者の前にそいつはいた。
場の雰囲気にそぐわない滑稽な笑顔を貼り付けた白い顔。
腕や脚で繋がっていない手足。
赤とオレンジのカラフルな色彩の身体…もしくは頭。
ジャンガは突然の乱入者の名を呟いた。
「ジョーカー…」

ジョーカーはゆっくりとした足取りで歩き出すとワルドの方へと歩み寄る。
ワルドは首を回し、ジョーカーを見た。
「な、何故……何故…こんな…事を…?」
ジョーカーは表情を変えない。相変わらずの笑顔、いや…彼にしてみればこれが無表情なのだろう。
「はて? 何故こんな事を…ですか? 貴方…自分がやらかした事の重大さを理解していないようですね~?」
「な、なんだ…と…?」
「はい。ワタクシは確か貴方に幻獣を召喚するための玉を渡した際にこう言いましたよね?
”他の方々はどうしても構わないが、ガンダールヴだけは”なるべく”無傷で済ますように”と」
「…か、彼は……もう…ガンダールヴ…ではない。…ならば…何も支障は…」
ワルドの言葉にジョーカーは驚いた表情をする。
「はい? 何ですと? ジャンガちゃん…ガンダールヴでないって、本当ですか?」
ジョーカーの問いかけにジャンガは咳き込みながらも頷いて見せた。
その返答にジョーカーは一瞬呆然となったが、すぐに調子を取り戻すと言葉を続ける。
「なるほど、なるほど…、ジャンガちゃんはガンダールヴではないと? ほぅほぅ?」
「何が…そんなに興味深いん…だよ?」
「いえ、此方の事です。ルーンって生きている間にも消えるんですね…って感心しただけですよ」
のほほ、と笑い、ワルドへと向き直る。
「…なるほど。貴方がジャンガちゃんを平気で傷つけたのはそういう事でしたか…、いやはや…」
「解ったなら……早く、これを…」
「助けるわけないでしょう?」
冷たい返答…、ワルドの表情が曇る。
「な、何を…?」
「ワタクシはガンダールヴではなく、ジャンガちゃん本人が好きなんですよ、大事なんですよ。
それを…ワタクシの言葉が足りなかったからとはいえ、傷つけた貴方を見過ごすとお思いですか?」
口調は丁寧だが、その言葉の裏側に隠れた殺気をワルドは本能で察した。
「ま、待て……まだ…僕は……死にたく…」

「黙れゴミ」

…その一言で場が静まり返った。
それまでの彼の態度からは到底想像できないような、氷のように冷たい――冷たすぎる言葉だった。
ジョーカーは元の無表情に戻っていた。――滑稽な笑顔がより一層恐怖を増す。
「目的を十分に果たせず、自らの私情に走って正体を明かすなどと言うつまらないミスを犯す。
更にはジャンガちゃんを殺す一歩手前まで行くとは…使えない奴だ」
タバサやルイズは呆然となっている。
ジョーカーの口調はそれまで聞いた物とはまるで別の物だった。
それは、目の前のジョーカーがまるで別の存在なのではないかと思えるほどに…。
ジャンガだけは唯一、平然とジョーカーを見つめている。
ジョーカーは言葉を続ける。
「満足に任務も果たせないお前はもういらない。蛆虫と呼ぶのも躊躇われる。
蛆でも残飯を処理するくらいには役に立つ。お前はそれにも役立たない。
お前はゴミだ…、蛆虫以下のゴミ屑だ。そして…ゴミは排除する必要がある」
ジョーカーが片手を上げる。
ジャイアントやりムゥが槍を振り被り、力一杯振った。
反動でワルドの身体が宙を舞う。
ジョーカーは一瞬でフラワージョーカーに変身し、魔力を集中させる。
隣ではバーニィが水晶球の魔力を集中させ、巨大な青白い炎を生み出していた。
それが何を意味しているのか……悟ったワルドの身体を恐怖が駆け巡る。
「まっ、待ってく――」



「サヨウナラ」 



ジョーカーの冷たい一言が引き金となり、赤と青の炎がワルド目掛けて飛んだ。
断末魔を上げる暇すらない。
二色の炎は混じり合い、紫の炎となってワルドを瞬く間に包み込んだ。
炎は数秒燃え上がり、そして消えた。――後には消し炭すら残らなかった。
裏切り者だとは言え、ワルドのあまりに哀れな最後にジャンガを除いた一同は息を呑むしかなかった。
ジョーカーは元の姿に戻り、一同を振り返る。
「のほほ、いやいやいや…御見苦しい所を見せてしまいましたね」
タバサ達が知っている”いつもの調子”でジョーカーは喋った。
しかし、今のジョーカーの姿はタバサ達の脳裏に鮮明に焼きついた。
おそらく、二度と忘れる事は無いだろう。
目の前の道化師の本性を知ったタバサは油断無く杖を構える。
それを見て、ジョーカーは笑った。
「まぁまぁ、落ち着いてください、シャルロットさん。
ワタクシは何も貴方方とここで争うつもりは有りませんので。
…直ぐにそんな事を考える余裕も無くなりますのでね」
どう言う意味だ? と聞こうとしたタバサの耳に轟音が聞こえてきた。
穴が開いているので良く聞こえる。大砲や火の魔法の音、それらに混じり聞こえてくるのは大勢の人間の声。
ジョーカーはニヤリと笑ってみせる。
「とまぁそう言う訳ですよ。もうすぐここには『レコン・キスタ』の大群が攻め寄せてきます。
ので、ここは早く引いた方が身の為ですよ~?」
ルイズは怪訝な表情で怒鳴る。
「どうして…どうして見逃すの?」
「まぁ…ここで無理に命を頂戴する必要は無いわけですし。
曲がりなりにも貴方方はジャンガちゃんの恩人ですからね~。
それに……欲しい物は頂きましたから」
「え?」
ジョーカーは背後の倒れる若者を指差す。
「ウェールズ皇太子の命。そして…これです」
言いながら手を突き出してきた。その指の間に何かが挟まっているのにルイズは気が付いた。
ハッ、となり、慌てて懐を探る。――無い、皇太子から預かった手紙が無い。
ルイズはジョーカーを睨みつける。
「あ、あなた!?」
「のほほほほ♪ まぁ、ギブ&テイクと言うやつですね。今回のお助け代金として貰っていきますね~♪」
「返して、姫様の手紙!」
そのルイズの言葉にジャンガは目を見開いた。
「手紙……クソッ…」
ジャンガは激痛が支配する身体に鞭打って立ち上がる。
その様子にジョーカーは慌てる。演技などではない、素のリアクションだ。
「あわわわわ、ジャンガちゃん!? む、無理はいけませんよ!?」
「るせェ……その手紙…を…返し…やが……れ…」
息も絶え絶えにそれだけを告げる。
ジョーカーは心底困った表情を浮かべる。
「ふぅむ……困りましたね。こればっかりはジャンガちゃんの頼みでも聞けないんですよね…」
と、そこでジョーカーは言葉を止めるや、倒れたウェールズをジッと見つめる。
暫くそうして見つめ続けた後、ジョーカーは笑いながらジャンガに向き直る。
「では、別の物を置いていきますよ。これならば…ジャンガちゃんも許してくれますよね?」
「何?」
訳が分からない……何を置いていくと言うんだ?
悩んでいると、足元を何かが走り去っていく。
小さな…本当に小さな幻獣だ。

『マイドゥ』――ゾウムシのような顔をした二本足の小型の幻獣。
皮膚が非常に柔らかく、口は通常の何倍にも広げる事が出来る。
お金が大好きで、何倍にも広げた口と猛烈な吸引力で小銭から金塊まで、金目の物は何でも吸い込む。
基本的にお金にしか興味が無く、凶暴性は皆無な幻獣。

マイドゥはあちらこちらから、ジョーカーの元に駆け寄る。
ジョーカーは薄く笑う。
「では、ジャンガちゃん…お身体お大事に。では、アーディオース!」
「待ちなさい!」
ルイズが叫ぶがジョーカーは一瞬でその場から消え去った。
幻獣達もまたその姿を掻き消した。
「姫様の…手紙が」
ルイズは呆然となる。
折角手に入れた手紙が、土壇場で奪われてしまったのだから無理も無い。
だが、悲観している暇は無い。
爆音や怒声や断末魔がどんどん迫ってきている。
急がなければ巻き込まれてしまう。
「ルイズ、しっかりなさい! はやく此処から逃げるわよ」
半ばキュルケに引きずられる形でルイズは歩かされた。
モンモランシーもギーシュもヴェルダンデの掘った穴へと飛び込む。
タバサもジャンガの腕を掴む。
が、ジャンガはタバサを見ると首を振る。
「どうして?」
「…チィとばかし、やる事がある…。先に行け…」
「わたしも」
「…脱出路を確保しとけ。直ぐに行く」
「……解った」
タバサは寂しげな表情を浮かべるも、頷くと穴へと飛び込んだ。

それを見届けたジャンガは倒れたウェールズへと歩み寄った。
床に広がる血溜り、胸の傷、普通ならば死んでいると思われるだろう状態。
だが、ジャンガはウェールズの肩を掴むと揺さぶった。
「おい、目を覚ませ……オイッ! ゲホッ……目を開けやがれ…」
吐血しながらも、ジャンガはウェールズに語りかける。
すると、ウェールズの目がゆっくりと開いた。
「…きみ…は?」
苦しそうだが、何とか言葉を搾り出している。…どうやら、急所はギリギリで逸れていたようだ。
だが、深い事に変わりは無い。このままでは不味いだろう。
「ウェールズ皇太子……で、間違いない…んだよな…?」
ウェールズは、ああ、とだけ返事する。
ジャンガは確認を終えるや、ウェールズの身体を肩に担ぐ。
そして、ゆっくりとした足取りで穴へと向かう。
ウェールズは彼が何をしようとしているのかを悟り、彼に声を掛ける。
「だめだ……私は置いて行って…くれたまえ…」
「やだね……」
「…私が亡命すれば……やつらに…『レコン・キスタ』に口実を…」
「うるせェ…テメェの言う事は聞かねェ…。聞く義理は……無ェ…。
テメェを…せめて連れて…いかなけりゃ……あいつに、姫嬢ちゃんに合わす顔が……無ェからよ…」
「…アンリエッタ…?」
「ああ…」
「なら…なら、尚更だ……。私は…彼女に迷惑を…」
「…死ぬ事は…迷惑じゃないのかよ?」
「な…」
「死ぬにしても……せめて…知り合いに見取ってもらえりゃいいじゃねぇかよ…。
誰にも…見取って…もらえずに……くたばる奴…なんか……吐いて捨てるほど…いるんだからよ…」
ウェールズは口篭る。
それに、とジャンガは続ける。
「”亡命”ってのは……自分から逃げる…事だろ? テメェは…俺が連れ出すんだ……亡命じゃねェ…、キキ、キ」
「…こじつけだな」
「理由なんてな…そんな物だ…」
ジャンガは穴へと飛び降りた。

穴を抜けるとそこはアルビオン大陸の真下、雲の中だった。
そこにはシルフィードが待機しており、落下してくるタバサ達を背中で受け止める。
「あいつは?」
キュルケがタバサに尋ねる。
「直ぐに来る」
「あのバカ……何をしてるのよ?」
言いながら、ルイズは手元に置いたジャンガの左腕を見る。
学院に戻れば何とか繋げられるかもしれないと思い、拾ってきたのだ。
「大丈夫なのかい? あの轟音では直ぐ近くまで迫ってたと思うが?」
ギーシュがそう言った時である。
穴から二つの人影がドサリとシルフィードの背に落ちてきた。
それは果たして、ジャンガとウェールズだった。
「ウェ、ウェールズ皇太子!?」
「う…うう…」
「生きてる!? モンモランシー、手当てを!?」
言われずとも、と言わんばかりにモンモランシーはウェールズに治癒を掛ける。
「キキキ……これで、なんとか……面子は…保てそうだゼ…」
苦しそうにそれだけ言うジャンガ。
そして、彼を例えようの無い脱力感が襲った。…限界だったのだ。
倒れたジャンガにルイズもタバサも力の限り彼の名を呼んだ。

だが、もう彼は答えなかった。


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