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ジ・エルダースクロール外伝 ハルケギニア-41


41. 病と嫉妬

ふと、ルイズが目を覚ます。
そこは湯船の上ではなく、カトレアの部屋だった。
使用人が掃除したらしく普段通りに戻っている。

「ティファニアだったわね。あんのコブ付きエルフ」

治ったのはありがたいけど、何であんな治し方なのよ。
ねえさま死ぬかと思ったじゃない。と一人頭の中であの憎たらしい胸を、
こね回しながらそんな事を考える。そうこうしていると、
どうしたの?だいじょうぶ?と言いたそうにつぶらな瞳の動物たちが、
ルイズの近くに集まって来た。

「大丈夫よ。心配してくれているの?ありがとう」

近くの何頭かの頭を撫でてから、ルイズはベッドにごろんとした。
治って良かった、とルイズは嬉しそうにコロコロ転がり、
私が治したんだ。と勢いよくゴロゴロ転がって、勢いよくベッドから落ちた。

「あいたたた…あら」

逆さまの視点の中、一つの物がルイズの目に映る。
古ぼけた本だ。隣には表紙に何も書かれていない真っ黒の本があった。
それが何かルイズに分かるはずもない。彼女は古ぼけた本を手に取った。

「これ、ちいねえさまの日記帳だわ。昔持っていたもの」

カトレアは外を走るどころか、まともに立って歩くことも出来ない時期があった。
ベッドの上で、じっとしたまま一日を過ごすのはあまりにも苦痛であろう。
そう思ったヴァリエール公爵はこの日記帳を送った。

人の秘密が書かれたそれ。特にカトレアの物となると見てみたい。
ルイズは誘惑に駆られて開きそうになる。

「だめ。だめよルイズ。そんなことしたらちいねえさまが悲しむわ。
 それ以前にロックの魔法が掛かっているから、下手に開けようとすると爆発してしまうわ」

誘惑に負けたルイズはどうしたものかと日記帳を見る。
自分の魔法をコントロール出来ている訳ではない。
コモン・マジックもいくつか試したが、凄惨な結果に終わってしまった。
これで諦めれば良いのだが、しかし変なところで頭が回るルイズは、
一つの方法を思いついた。本に付けられている鍵とは何の関係も無い『虚無』の呪文だ。

「リコードの魔法を使って、この日記が書かれた時に行けばいいじゃない」

そうと分かれば早速行こう。時間はだいたい八年前。
本当に、自分とカトレアが同じだったかどうかを調べるために、
ルイズはリコードの長い呪文を詠唱し本の記憶を探る事にした。
これなら中身を見ていないと言い訳も出来る。と屁理屈混じりの思考と共に。


「あんた誰?」

そこは抜けるような青空の下ではなく、白くて殺風景な部屋だった。
目の前には、大きなベッドで布団を被って寝ている女の子がいる。
背格好はルイズにそっくりで、手にはまだ新しい日記帳があった。

「ち、ちいねえさま?」

「はぁ?また幻覚かしら。幻聴まで聞こえるなんて。
ほんと、アカデミーは変な薬しか作らないわね。
 まぁ、エレオノールが丹精込めて作っているんでしょうけどぉ?」

イメージの違いからショックを受けるルイズを余所に、
その少女は病的なまでに真っ白な髪を面倒そうにかいた。
その顔は痩せこけていて、目は鋭くルイズを睨んでいる。
肌の色も土気色に近く、生気はほとんど感じられない。

「ああ、そういえば――背格好以外はそっくりかしら。
 ルイズに。私がこの世で一番嫌いなルイズに」

ルイズの視界がグラリと揺れる。自分でも分からない内に、
その言葉を聞いて倒れたのだ。

「どうでもいいわ。ああ、そうだ。もしあの子が来たらあんたが代わりに面倒見てくれない?
 もうたくさんよ。なんでわたしの所にばかり来るのかしら…
 頭痛い、お腹も変だし…もう嫌。おやすみ幻覚さん」

ルイズは、言葉のほとんどが理解出来ていなかった。
ただ、ゆっくりと辺りを見回す。おそらく自分の家のカトレアの部屋で、
窓の外の色から今は昼間だと分かった。

カトレアが何度か、苦しげに呻きながら眠ろうとしてしばらく経ち、
ようやくウトウトとし始めた頃、扉が勢い良く開いた。

「ちいねえさま!」

小さなルイズがいた。泣いている。カトレアがピクリと動く。
モゾモゾと布団の中に入ろうとするが、小さなルイズがそれを阻止した。

「おきて、ちいねえさま。あねさまがいじめるの!」

カトレアはため息をついてから、布団から出る。
どうしようもなさそうな顔で見て、小さな子供の頭を撫でた。

「ルイズ、どういじめられたの?」
「もっとちゃんとしなさいって。わたしが魔法使えないのは変だって」

覚えてる。この次に私は励まされた。ルイズは自身の記憶を遡って、
過去の記憶を思い出した。

「大丈夫よ。変じゃないわ。ちっともね。すぐに使えるようになるわ。安心なさい」
「ほんとに?」

「ほんとうによ。さ、ここにいたらあねさまにもっと怒られるわよ?
 早く戻った方がいいわ」

「うん。ちいねえさまありがとう」

作り笑顔でカトレアは手を振り、扉が閉められてから今のルイズを見た。

「面倒見ろって、言わなかったっけ?」
「え、い、あ?」

混乱するルイズを、あらん限りの侮蔑の表情で見てから、カトレアは舌打ちした。

「幻覚に話しても無駄ね。無駄ついでに聞いてよ。こんなこと誰にも言えないし」

眠気が消されたカトレアは、暇つぶしをルイズに向けた。

「あの子ね。一々わたしの所に来てこんな事があったあんな事があったとか言うのよ。
 頭痛いってのに。しかも決まって後少しで眠れそうな時によ!?
 信じられないわ。空気が読めない星の下で生まれたのでしょうね。
 ああ、あの子はどうしたら静かになるのかしら…そうね、息しなくなったら何も言わなくなるわよね。
 ねぇ、そう思わない?幻覚さん。首でも絞めて…う、あ…」

急に、カトレアは酷く咳こんだ。ルイズははっとしてカトレアに近寄ろうとしたが、
カトレアの殺気が籠もった叫び声で近づくことが出来なかった。

「来るな!もう嫌よ。体が痛むだけの魔法も…苦い上に飲んだ後は体中が軋む薬も、
 母さまの意味のない努力もいらない!…楽にさせてよ。なんでこんな辛い思いしてまで、
 治る見込みの無い病気背負って生きなくちゃいけないのよ…なによ。
 魔法が使えない程度で泣いて。こちとら魔法どころか歩くことすらままならないっていうのに、
 皆ルイズルイズルイズルイズ……うるさいったらありゃしない」

ついにカトレアは血を吐いた。ルイズは、未だ殺気を放つカトレアに近づき、
ヒーリングを唱える。スクウェアクラスの効果で幾分かマシになったのだろう。
しかし、カトレアはルイズの頬を引っぱたいた。

「幻覚じゃないならあんた誰よ!さっさと出てけ。
 ここはわたしの部屋なんだから、わたし以外はいらないの!
 誰もいらない!何もいらない!皆、みんな嫌い!」

ルイズは何も言えず、部屋を走り去って――
気が付けば魔法が解除されて、フォンティーヌの寝室に戻っていた。


「私…わたしは…」

勝手に涙がこぼれていく。部屋の扉が開いた。
カトレアとラルカスが普段通りに部屋の中に入る。
ルイズの様に驚いたカトレアが言った。

「なにかあったの、ルイズ?」
「ごめんなさい。ごめんなさい…」

カトレアは不思議がった。にこやかにしていたのに、
一人ウィザーシンズ以外に何か変な事したかしら?と、ただ虚ろな目で泣いて、
謝るだけのルイズをじっくり見るとその原因が分かった。昔の日記帳である。

「に…に、良いのがないわね…まぁいいわ。勝手に読んだのかしら?」

ぽんと手を叩いてカトレアは納得した。おそらく『虚無』でも使ったのだろうと。
ルイズはただ謝っている。魔法の事はまだ何も言っていなかった。

「どこまで見たの?」

泣いているルイズを抱きしめて、カトレアは優しくルイズに聞いた。
ルイズは姉の胸の中で、消え入りそうな声を出す。

「…首、締めたいって。エレオノール姉さまに叱られた時」

どの時だろうか。と消えそうな声を聞いてカトレアは思った。
ただ、結論は一つだ。今もルイズは嫌い。

「そうね、そう思った時もあるわ。だってあなたの事嫌いなんだもの」

ビクリとルイズの体が震えた。ラルカスが驚いてカトレアを見る。

「か、カトレア?」
「ラルカスは黙っていてくれないかしら?これは姉妹の問題なの」

そう言われたら、黙るほか無い。カトレアはルイズを見る。
ルイズは目が涙に濡れているせいで、姉がどんな表情か分からなかった。

「それよりね、ルイズ。わたし今でもあなたの事嫌いよ。
 この世で一番嫌いだわ。何よりも嫌い。大嫌い」

ルイズはさらに大声で泣き出した。
全部私が悪いんだ。だから嫌われたって仕方ないんだと、
ただただ、涙を流して苦痛に耐える。カトレアに抱きしめられたまま。

「だって仕方ないじゃない。あなた――こんなに可愛らしいのに泣き虫なんだもの」
「ふぇ?」

カトレアがルイズの顔を拭いた。泣きはらしたルイズの真っ赤な目には、
普段通りコロコロ笑いそうな笑顔のカトレアが映った。

「ルイズ、覚えておいて。嫌いと好きは表裏一体なの。
 わたしがこの世で一番好きなあなたは、この世で一番嫌いでもあるのよ」

ルイズは訳が分からなそうな顔をしている。
カトレアは、ルイズのほっぺたを甘くつねった。
うにょーんと伸びる。

「柔らかいわね。エレオノール姉さまがよくされるのも分かるわ」
「ちいねえさま、怒ってない?」
「別に。一緒に日記の続き見ましょうか」
「やだ、もう見たくない」

そう言わずに。とカトレアがアンロックで鍵を外して中が開かれる。
ルイズはそれを恐る恐る覗いた。書き殴られた文字、内容はその日の出来事や体の痛みについて。
次のページには隅の方に小さく書かれた白い髪の女の子と、真ん中に書かれた桃色がかったブロンド髪の女の子の絵。
パラパラとめくっていくと時折血の後も見受けられた。

「昔、といっても二十四年前だけど。当時は、
わたしみたいなのが生まれてもすぐに殺されてたのよ。
表向きは流れた事にしてね」

よくあることよとカトレアは言った。
貴族とはなんだかんだいっても、最終的に見栄と伊達に生きる者達である。
そんな連中が体に不具合のある子供を育てたいと思うだろうか。
上流階級の中でも特に位の高い貴族などは、その意識が強く、
そうした子供は「無かったこと」にするのが暗黙の了解だった。

「母さまは、そういう生まれではなかったからでしょうね。
 頑張ってわたしを生かそうとしたの。お父さまや皆の反対を押し切ってね。
 お父様を悪いと思っちゃだめよ。それが「常識」だったのよ。
 お母様も戦傷の治し方はよく知っていたでしょうけれど、病については素人なのにね。
 悪い人じゃないわ。母親として立派だと思う。けれど死なせてくれた方が、
昔のわたしは喜んだわよ?例えそれが、後味を悪くする物にしかならないとしてもね。
結局私は生まれてからずぅっと毎日、酷い苦しみと闘う事になったわ」

ヴァリエール公爵の一目惚れから成立した結婚話は、
逆玉の代表例としてよく挙げられている。
挙げた連中の家が何故か何処かへ吹き飛ばされるのは、
トリステイン七不思議の一つにもなっている。

「それで、ねぇルイズ。
 あなたが気持ちよく眠れそうな時にたたき起こされたら、
 しかも毎日の様にそれをされたら、
 静かにさせるにはどうすればいいかとか、考えたりしてみないかしら?
わたしね。夜中とかに体中が痛くなって眠れなくなる日が多かったの。
だから少しでも昼間の間に寝たかったの。それにあなた、
わたしのベッドによく潜り込んできたわね」

笑顔のまま世間話をする様に話すカトレアは、逆に恐ろしく見えた。
ルイズは反射的に謝る。

「ご、ごめんなさい!」

そしてまた泣きそうになる。よしよしとカトレアはルイズを撫でた。

「怒っていないし、謝って欲しいわけでもないわ。
 ただ、どうかしら。というお話よ。
 結局わたしは八年くらい前にフォンティーヌに移り住む事になって――
 ああ、あったあった。ここからだわ」

ルイズは日記を見る。ただ、「寂しい」だけがページの最初から最後まで、
大量に書かれている。文字が、痛みを訴えていた。

「ルイズ。あなたがいてくれたから、わたしは正気でいられたのでしょうね。
 病気が悪化したのとわたしの体が大きくなったから、
こっちで本格的な治療をする事になったのよ。
 アカデミーの実験体代わりと言っても差し支え無いわね。
 でも、それ以治す外方法が無かったのよ。エレオノール姉さまは、
 よくわたしに泣いて謝ったわ。全部自分が悪いんだって。そんな事ないのにね。
そんな痛みと闘うだけの毎日よ。体はさらに軋んで痛んで大変よ。
 薬のせいで胸は大きくなったけれど、この方法はオススメしたくないわね」

と冗談交じりにカトレアは言うが、ルイズは真剣に聞いていた。
泣きそうな顔の妹をよしよししながら、カトレアは話を続ける。

「それでね、そんな生活が続くともう本当に頭の中にね、未練がなくなっちゃったの。
 楽になりたい。楽になりたい。それしか考えられなくなったわ。
 でも、時たまあなたの事を思い出して止まるの。お手紙を送ってくれていたしね」

「ちいねえさま…」

自分が魔法を使えなくて抱いた負の感情が、ひどくちっぽけに思えた。
少なくても、そこまで思い詰めた事は無かったからだ。
精神的な苦痛は、肉体のそれに比べて遙かに楽なのだと、
今更ながらにルイズは理解した。少し悲しげな顔でカトレアは続ける。

「残念だけど、それも永遠には続かないのよね。
 どうやって死のうかと考えたとき、自分で死ぬのはダメだって思ったの。
 それは甘えだって。何でそう思ったのかは分からないわ。
 でも、死ぬのなら獣にでも食われるのがお似合いだって思ったのでしょうね。
 どうやってかは本当に思い出せないわ。けど、確かにわたしは近くの森に行ったの。
 嵐の日の真夜中にね。そこでおもしろい人に会ったわ」

「誰?」
「シェオゴラスというお年を召した王子さ――ルイズ?どうしたの」

ルイズは思いっきりむせた。カトレアの表情がああ、と変わる。
その目は、以前狂気の島を統治していた老人の目に少し似ていた。
鳶色の目の瞳が猫の様に細くなったのだ。

「ふうん、知っているのね。その反応を見ると」
「ち、ちいねえさま?」

カトレアは普段通りにコロコロと笑うが、雰囲気が違った。
冷たくなったわけではないし、かといって熱いわけでもない。
ただ言いしれぬ不気味さを持った笑顔だった。

カトレアは真っ黒な表紙の本を手にする。
名前すら無いその本は、全ての禁忌が記されたマジックアイテムだ。
オブリビオンのある書庫で入手する事が可能であり、
実際にモリアン・ゼナスという男もこの本を読んだ。
しかしその副作用として、見た者を普通のままではいさせない。
多少緩和されているとはいえ、常人なら死を選ぶ苦しい病を患っているのにコロコロ笑えて、
読めば気が触れる本を読んでも平気ということは、つまり――

本の力に飲み込まれないほどの、
とんでもなく強い精神力を持つに至ったということだが、
ルイズにはそんな事、分かるはずがない。
そもそも、この本が何かすらルイズは知らないのだから。

ばさり、と日記帳がベッドから落ちる。ルイズは考えたことすら無かったカトレアの部分が目に入ってしまった。

桃の空が笑ってる。暁に飲み込まれた私は極楽鳥についばまれ、
丸い顔した蝶になる。シェオゴラス様が踊る。だから猫目のわたしも踊る。
踊るわたしは何なのか?きれいな縄で飛ぶわたし。
フォークじゃないフォーク。だからスプーン。
そう、スプーンのカトレア。ビッグヘッドはおもしろい――

「ちいねえさま?これって…」

また息苦しさを感じながら、ルイズは尋ねた。
気分は最悪で自分がどんな表情をしているかさえ分からない。
カトレアは、うふふと含みを持った笑いと共に答えた。

「虚無の魔法の事は知っていたけれど、ヘルマイオス様との契約で教えちゃいけなかったのよ。ごめんねルイズ。
 けど、これでおあいこという事にしないかしら?ああ、この指輪はシェオゴラス様にもらった物だから」

どういうこと。わかんない。わけわかんない。
ルイズは、変わった指輪を嵌めるカトレアに恐怖を抱いた。
ほんの少し目が変わっただけだが、ルイズにとってはそれだけではない。
まるで今まで接してきたカトレアが全て演技であったかの様に錯覚してしまう。

実際の所どちらが演技なのか、それを判断することは難しい。
なにせカトレアは「昔の」シェオゴラスに感銘を受けたからこそ、今も生きているのだから。

「どうしたのルイズ?わたしはわたしのままよ。それともあなたが変わったのかしら?
答えは日記の中に。もう一度――入ってみたらどうかしら?」

コロコロ笑うカトレアが怖くなったルイズは、逃げるようにリコードで本の記憶に入っていく。
それがカトレアの目論見通りであるともしらずに。
ルイズが意識を手放すと、ラルカスはううむと頭を捻らせ、彼女に布団をかけた。

「いきなりすぎやしないかね?カトレア」

虚無だなんて初耳なのだが。とラルカスは言うが、
カトレアは意にも介さず歌うように口ずさむ。

「ねぇラルカス。雄牛のラルカス。あなたもわたしと同じかしら?少し違うかしら?
違っているのが普通だけれど。みんな違ってみんな良いって言うじゃない。
あなたもわたしもみんなと随分違っているけれど、それで良いのかしら?」

何も言わず、ラルカスはカトレアの頭を無骨な手で撫でた。
カトレアはいつもの様にコロコロと笑って、ミノタウロスの頬にキスをした。

「君がそういう風にごまかすときは、何かあるということだね」
「さぁ、どうかしら?」

どこまで本気でどこまでが演技なのか。なんとなく、
何度か出会ったあの老人の面影を主人に見るラルカスであった。


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