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鋼の使い魔-39


 ロベルトの打った『アローレイン』で騎兵隊から逃れた二人は、今度は村の南側、シエスタ一家の家へ向かって走っていた。住民が避難している西の森に進めなくなったわけだが、南側の丘にある家に行った方が、多少なりとも安全だろうという目算だった。
 村を抜け、勾配のある坂道を二人は懸命に走っていた。二人は背後から騎兵が追いかけてくるのではないかと思っていたからだ。
 家までの道を中腹まで来た所で、シエスタの後にいたロベルト老は大きく咳き込んで俯いた。
「大爺ちゃん?!」
 気の急いていたシエスタは反転して老人に駆け寄り、背中を撫でて様子を見た。
 ロベルトの咳は徐々に収まっていたが辛そうに息をして隙間風のような音をさせていた。
「しっかりして大爺ちゃん。お水飲んでゆっくり息して…」
 避難の時に持たされてそれっきりだった水筒を腰元から引っ張り出し、栓を外してロベルトに手渡す。
 震える手でロベルトはそれを大きく喉を鳴らして一口飲み、二度息を吸ってから、水をさらに二口飲んだ。
「はっ…はっ…はぁっ……やはり、年には、勝てんな。若い頃なら走りながらでも矢を打っていられたのだが」
「まだそんなこと言って!」
「ははは…。しかしここまでくれば一応、安心だろう。ヴィクトリア」
 中身が半分ほどになった水筒を返して、老人は汗を拭った。必死で走っていたせいか腰の矢筒に入っていた矢が毀れ、来た道に続いている。
「…追っ手もいないようだ。あとはエドが戻ってくるまで、お前さんの家で静かに待っていようや」
「うん、そうね…」
 そうして二人が歩調を先ほどより落として、坂道を登ろうとした時、シエスタが足を止めて眼下の村を見た。
「待って。南の入り口から村に人が沢山、入っていくよ…」
 ロベルトを待たせ、近くに生えていた杉に蹴り昇って枝に立つと、村の南から整然と並んだ兵隊が、村の中央に向かってどんどんと進んでくるのが見えた。掲げている旗には白と緑のチェックに白百合の紋章がはためいていた。



 『タルブ戦役・六―両軍衝突/降り立つ明暗―』



 アンリエッタはまずタルブに入ると配下2400の兵から騎兵100を集め、村を抜けて北で奮闘する銀狼旅団を救援させた。そして自らは残る2300とともに一度タルブで陣を整えた。精鋭メイジ兵500を先頭に置く中央突破の陣だ。
「敵軍は烏合の衆。誇り高きトリステインの貴族なら打ち払って見せなさい」
「承知仕りました。行くぞ!先行する部隊と合流して敵軍を切り崩すのだ」
 檄に震える兵士達が突破陣を組んで最前線に突撃していく。


 一方、アルビオン軍は地上、艦隊ともに徐々に停滞状態に陥り始めていた。
 地上部隊は銀狼旅団と石板の砦によって進撃が停止してから、隊長のワルドが手勢を率いて戦線から居なくなり、傭兵を主体としていたために統率を下げた事で効果的な戦術を殆ど取ることができず、戦線に沿った散発的な攻撃しか出来ない状態となってしまった。それでも壊走しないのは圧倒的戦力差の賜物であった。
 他方上空で対地支援を負っていたはずのアルビオン分艦隊は、初めこそ『火竜弾』で支援をしたものの、やはり銀狼旅団が戦線に参上した辺りから対地攻撃の手が滞っていた。
 東の丘に陣取った銀狼旅団の一隊が仕掛ける対艦砲撃を受けていた為だが、もう一つは艦隊指揮を任されたボーウッドの心理にあった。

 丘と丘に挟まれた隘路の上空一杯に浮かぶアルビオン分艦隊。しかし左翼を形成する『ルプラコーン』級フリゲート6隻はそれぞれに大小規模の火災を起こしていた。東の丘よりの砲撃を受けてである。
 本来ならば回避運動から反撃に転じるのが定石なのだが、対地支援攻撃に向けて低い高度を保っていた為に適切な機動を行う事が出来ず、また『ルプラコーン』級は側面に艦砲を搭載していなかった為に反撃も出来なかった。幸いにも旗艦『レキシントン』まで砲撃は届いてはいない上、砲撃自体が小規模のものの為、火災を上げていても撃沈には到っていない。
 勿論、『レキシントン』艦橋で総指揮を取るボーウッドにも報告が行っていたが、彼は「陣形を崩さない程度に回避を行うように」と通達したのみで、そのまま眼下の趨勢を見守る姿勢を崩さなかった。

 痺れを切らした『本来の』総司令ジョンストンは艦橋に飛び込んでくると興奮気味にボーウッドに捲くし立てた。
「艦長、なぜ左翼の被害を無視するのかね。このままでは撃沈されてしまうではないか!」
「サー。本来の任務である対地支援を完遂する為には陣形を維持する必要があります」
「ではなぜ先ほどから砲撃を行わないのだね!さっさと地上砲撃でかたを付けてしまえ!」
 激するジョンストンにボーウッドはあくまで冷静に…いささか嘲りの色を見せつつ答えた。
「サー。最初の対地支援の後、我が軍の地上部隊は進行の遅延を余儀なくされました。ですから自分の判断としては敵軍が後退を始めた頃合に対地攻撃を行い、追撃する地上部隊の支援とするつもりであります」
 ボーウッドが余りに得々と語るため、激していたはずのジョンストンは反って拳の下ろしどころに迷い、言葉の先をすぼめた。
「ぬ…そ、そうか。であればよい。しかしだ。できるだけ左翼の艦艇の損傷を少なくするように努力しろ。いいな」
 逃げ口上のようにそう言うと、ジョンストンは自室へと戻っていった。彼は戦闘の間、そうやって部屋に篭っているつもりなのである…。
(ふん…お前は黙って部屋でエールでも飲んでいればいいのだ)
 閉じられた扉を軽蔑の眼差しで見ていると、傍に立つ副官が声をかけた。
「…しかし、良いのですか」
「構わん。…少なくとも司令殿に説明した通りなのは間違いない。艦隊全体の高度を上げれば地面からの砲撃など気にも止まらないが、対地支援をせねばならない手前、細かに高度を変えるのは風石の無駄が多いじゃないか」
 しれっと言い放つボーウッド。だが副官はボーウッドの心理を少しだけ理解していた。
(艦長は始めから今回の作戦について不承知な部分があった。おまけに艦ではなく陸を狙えと言われ、このような振る舞いに出たのだろう。艦長は精神的なサボタージュをしているのだ…)
 副官はそれを否とは言えなかった。彼もまたこのような作戦は空の男の矜持を傷つけるものと考えていた。仮にフリゲートが撃沈されても、それは仕方が無いという自己正当化も出来る。何故なら、フリゲート艦を動かしていたのは生粋の空軍ではなく、レコン・キスタで闘っていた者達だったからだ…。


 戦場にトリステイン王軍が到着してから四半刻が過ぎようとしていた。
 戦況は戦線に王軍が加わった事で潰される間際だったトリステイン側が攻勢を続け、一方アルビオン側は指揮者不在のまま地上部隊が戦い、分艦隊も飛来を始めたトリステイン魔法衛士大隊との対空戦を開始し、一層地上から注意を離しつつあった。
 時に時刻1400。グラモン元帥率いるメイジ騎兵隊500が東の丘の迂回に成功してタルブ―ラ・ロシェール間街道上、アルビオン地上部隊の背後を取った。
「全兵、進めー!敵兵を蹴散らすのだ!」
 号令とともに各々が得意とする魔法を放ちながら騎兵隊が突撃する。完全に背後を突かれる格好となったアルビオン地上部隊は隘路一杯に完全に包囲される形となった。
「今です!全軍突撃!」
 前線にて自ら杖を揮うアンリエッタの声に兵士達が応える。
 アルビオン陸上部隊、まさに壊乱する狭間に立たされていた。指揮者不在、加えて空に鎮座する戦艦からは支援の音沙汰がなく、見捨てられたのではないかという不安に同士討ちすら発生し始めるのだった。
「畜生!一体どうなってるんだ!隊長はどこに行った?!艦砲支援はどうなったんだぁ?!」
 兵士達の怨嗟の声がタルブ盆地北東に沸き立つのだった。


「殿下!アンリエッタ殿下は居られるか!」
 隘路を塞ぐトリステイン兵士達の中から二人の人影が、そう叫びながら此方に向かってくる。
「静まれ!殿下の御前であるぞ」
 ユニコーンに騎乗するアンリエッタに近寄ろうとする二人を、傍で護衛する兵士達が囲む。二人の内一方は血と泥に塗れていたが、立派なマントと杖を持ったメイジ。もう一方は派手なくらいに眩い銀のスケイル・ラメラーコートに身を包み、その上から銃と剣を佩びている。
「およしなさい。…そちらはタルブ領主アストン伯と見ました」
「はっ」
 名を言われたメイジ…アストン伯は姿勢を正す。
「この難事にあってよく生き残りました。後は地上の敵兵を下し、空の上の敵に降伏を迫るのみです」
「この度の出征、末代までの御恩にございます…っ」
 ふ、とアンリエッタは戦場にあってわずかに顔を綻ばせた。
「すべてはトリステインを、そして民草を守る為です。敢えて忠誠を確かめるまでもありません」
「なんと、勿体無いお言葉…っ」
 感極まるアストン伯。アンリエッタはそれを脇にもう一人の方へ視線を向けた。
「名を名乗られよ。傭兵部隊の者よ」
「銀狼旅団旅団長、アニエス」
「アニエス殿。此度の参上、一国を代表して礼を言います」
「礼には及びません。そしてまだこの戦、勝利したとはいえませぬ故」
 アストン伯とは正反対に、起立したまま、顔を見せぬままにアニエスは応える。
「…ではアニエス殿、この戦どうやって終わらせますか」
「船を落すのです。旗艦とは言いません。端の一隻でも落せば敵軍はここを抜けて何処ぞへと逃げるでしょう」
「このままではいけませんか」
「はい。仮に地上の兵を掃討しても、ここを移動すれば艦砲を受けましょう。しかし艦に傷を負わせた上に地上の兵を失ったとあれば相手もここを去らざるを得ません」
 と、その時、東にそびえる丘から砲撃音が響く。東の丘では変わらず銀狼旅団の一隊がアルビオン左翼の船に対して砲撃を続けていたのである。


 トリステイン兵士の一人がその者を見つけたのはまったくの偶然だった。
 その者は並ぶ兵隊の群から少し離れたところにぽつりと立っていたのである。
「おい!そこの!」
 兵士はその者に怒鳴りつけた。戦場の正念場で立ち休む者が居てたまるものかという気持ちだった。
「お前もさっさとこっちに来い!休むんじゃない!」
「あぁ…私のことか?」
 その格好は少しくたびれているがかなり上質な兵隊服だ。マントを付けているからメイジなのだろうと、兵士は思った。
「そうだ!あんたメイジならこっちで魔法使ってくれ!」
「魔法…魔法かぁ…わかった…」
 男は懐から一本の軍杖を抜き兵士に近寄ると、瞬間兵士の視界から姿を消した。
「ぐはっ?!」
 そのメイジ兵は次の瞬間、自らを呼んでいた兵士の背後に立っていた。杖を振り下ろし、その先に風の魔法で作り出した真空の切っ先兵士の背中を深く突き抜けていた。
「な…にを……?」
「ふふふ……ははははは……」
 乾いた笑いを上げて兵士を殺したメイジ兵に周囲の兵士が気付き始める。勝ち昇っている中で起きた謎の同士討ちだと、誰もが思った。
「おいあんた、一体何をして…げふっ?!」
 また次の瞬間、何かを言いかけていた兵士の頭が八重に砕け散った。骨と肉と血と、それ以外の何がしかの液体が悲惨し、首なしの兵士が最後にゆっくりと倒れた。
「ははははは……ははははははは!!」
 狂気を佩びた笑いを上げながら、謎のメイジ兵は次々に風の魔法を放つ。周囲のトリステイン兵が、いとも容易く行われるえげつない行為によって人とは思えないほどの肉塊になって穏やかで晴れやかだったはずの街道の原に散らばった。
「弱い、弱い、弱いじゃないか…やはり今のトリステインでは駄目だ……僕が、この僕がやらなければ……ふははははは…」
 ぶつぶつと何かをつぶやきながら、謎のメイジ…ワルドはトリステイン兵の中に入っていった…。

「殿下!報告がございます!」
 興奮とは別の気色を浮かべた兵士がアンリエッタの陣営に飛び込んでくる。
「どうしました」
「み、味方同士で殺し合いをしております!」
「何ですって?!」
 このまま勝ちを得ようとしていたトリステイン兵の中で正体不明のメイジ兵が味方を殺しているのだという。
「すぐにその者を捕らえなさい!最悪命を失うようでも……っ!!」
 話す途中でアンリエッタは視界の端に見えた血まみれのメイジ兵を見て、血の激流に顔の色を失った。
 伝令の兵士はアンリエッタの視線を追うと、見えたメイジを指して叫ぶ。
「あの者です!誰か!あいつを捕まえるんだ!」
 アンリエッタを護衛していた兵士達はその言葉に反応する。アンリエッタの指示を待たず、四方から現れたメイジに飛び込んだ。
「駄目!!」
「「?!」」
 アンリエッタが叫ぶも、兵士達は瞬間、メイジ兵から飛び出した風の刃を受けて絶命した。
「ははは…王女の護衛といっても、所詮この程度……」
「…何故お前がここに居る。ワルド子爵」
 護衛から湧き出る鮮血の噴水が大地を染める中、戦慄するアンリエッタに名を呼ばれたワルドが壊れるかというほどに顔を歪めて、嗤う。
「何故などとおかしなことを…私はもとより、トリステインを“解放”する為にここにいるのですよ。愚かなオヒメサマ」
「ふざけるな反逆者。お前はこの戦場で朽ち果て始祖の裁きを受けるのです」
「始祖!…はははは!始祖の裁きとは私の事……愚かなる王室を悉く、始祖の裁きで殺してくれましょう……」
 滅裂とする言葉を繰りながらワルドの杖が空をゆっくりと切った。その時、ワルドの背後から一人の兵士が剣を振り上げて飛び込んだ。
「覚悟ー!」
「ぁん…?」
 振り下ろされた兵士の剣はワルドの影を掠めて落ちた。
「っ!?」
「なんだ、その剣は…?」
「はっ!?」
 ワルドは剣を降ろした兵士からはるかに離れ、なんとアンリエッタのすぐ近くに動いていた。
「なっ…」
「なんだと、聞いているんだ…えぇ?この僕を…俺を……そんな溝鼠の骨で作ったしみったれたもんで殺せると思ってんのかぁ!!!」
 ワルドの叫びに呼応するように、瞬間視界が黒煙が撒かれたように覆われた。
「ぎゃあああああっ!!」
 次に聞こえたのは兵士の悲鳴だった。そして徐々に視界が正常へと戻っていく。
 そこに見えたのは、引き千切れたように八つ裂きに寸断された兵士の死体。そしてそれを睥睨とするワルドだった。
「はははは…さて…アンリエッタよ…」
「っ!…」
 その時、アンリエッタは見てしまった。ワルドの貌を。その狂気に塗り固められた貌を見て、アンリエッタは体験する異種の恐怖、無貌の恐怖を感じ取った。
「はいよぉー!」
 咄嗟手にある手綱を引き、ユニコーンがその場から飛び出して戦場の外縁に向かって走り出した。ワルドはそれをぼんやりと眺めていたが、次には再び曖昧な風情で嗤う。
「あははは…駄目じゃあないか……せっかく戦場に出てきたのに逃げるなんて…」


「はっ!はっ!はっ!…」
 戦線・東の外縁に向かってユニコーンをひた走らせるアンリエッタ。そこにはほんのすこし前まで顔を見せていたアニエスとアストン伯がいるのだ。


 時刻1445。包囲と砲撃、そして魔法衛士大隊による攻撃で陸空ともに詰みに迫ろうとしていた戦場は、徐々にトリステインに不利に、アルビオンに有利に働き始めた。
 隘路を防ぐトリステイン軍左翼で謎の同士討ちが発生、それに合せてアンリエッタが急に陣を移動させた。動いた本陣に合せ、隘路を塞いでいたトリステインの兵士の群が徐々に東に集まっていく。包囲の西側が薄くなったのをボーウッドは見逃さなかった。
「右翼、地上砲撃、敵の薄いところを狙え!」
 直ちに『ルプラコーン』フリゲートと『レキシントン』は準備していた艦砲から『火竜弾』を打ち出す。層の薄くなり始めていた左翼の兵士達は空から降る炎の雨を浴びて大混乱に陥った。
 ついに艦砲の支援を受けたアルビオン地上部隊が色めく。炎に炙られるトリステイン軍を突破して逆包囲に転じようとしていた。
 この時点でトリステイン全兵3000(+230)から2400(+190)、陸上アルビオン兵3800から3000と数を減らしていた。



 時刻1500現在、戦況は著しくトリステインに不利となっていた。東の丘を背にしたトリステイン王軍を囲むアルビオン地上部隊が徐々に包囲の輪を絞めていた。地上部隊の背面を突いたグラモン元帥騎兵部隊は、すぐさま包囲に穴を開ける突撃を敢行。かろうじて突破に成功し、トリステイン王軍は北に向けて包囲脱出を図りつつ、迫るアルビオン兵に漸減遊撃を繰り返した。
 たった15分の包囲でトリステインは兵力を2000まで減らしていた。一方、アルビオン側は依然兵力2500を保ち、さらに地上支援攻撃の放火に緩みもなかった。


「敵軍は包囲を抜け残存兵力の再編成を行う模様」
「敵軍幻獣騎兵による第四次攻勢、沈静化したようです」
「左翼艦艇の損傷、目下復旧中とのこと」
 『レキシントン』艦橋で次々に飛び込む報告に逐次指示を与えていたボーウッドは、静かに息を吐いた。
「…そろそろ詰みか」
 あとは敵軍の再突撃に合せて艦砲を打ち込み、地上部隊の追撃で敵軍を壊走状態に追い込めるだろう。
 そうボーウッドが目論み、眼下の敵軍の動向に目を注いでいたその時。
「艦長!上空8時方向から此方に向かってくる巨大な影があります!」
「なんだと?艦影か、騎獣か」
「わ、わかりません!」
 導管から聞こえる声に渋い顔をする。
「ばか者!それくらい分からんのか!」
「し、しかしこれは見たことがありません!きょ、距離3000強!依然こちらに向かって飛行しています!」
 眉をひそめたボーウッドは導管を閉じる。
「見たことが無い巨大な影だと?」



「ひょー、相棒もう大分飛んだぜ。そろそろ燃料も尽きるしよ」
 機上のギュスターヴはもう何度目かの『噴射機脱落』レバーを降ろす。飛翔機尾部の噴射推進器を抱えている爪が開き、弱弱しく火を噴いていた二本の噴射機を手離す。噴射機は落下しながらあらぬ方向にゆるゆると飛んで地面に落ちていった。そして尾部には新しい噴射機がせり出てきて、脇にあるハンマーが噴射機の先端を叩くと、轟音とともに炎を吹き出し始める。
「あと4本、二回分の燃料しかない。やはり往復は出来ないな」
 方位磁石と眼下の風景を見ながらギュスターヴは言った。

 ルイズを追ってタルブを目指したギュスターヴは飛翔機に乗って西へ西へと飛んだ。魔法学院を立っておよそ2時間、ついに目の前には数日前に見た覚えのある風景が広がっている。
「相棒!前、前!」
「!!」
 見下ろしてばかりだったギュスターヴは前方に首を伸ばした。そこには低く漂う軍艦と、その下で蠢く人の群がかろうじて確認できた。
「あそこが戦場だな…」
「相棒、どうやってあそこに降りるんだよ。まさか戦場のど真ん中に降りるってんじゃないよな?」
 そう話している間も飛翔機は飛び続け徐々に戦場との距離を詰めていく。
「村の中に降りてみよう。…ルイズがタルブの何処に居るかは分からないが、少なくとも空に漂っては居ないだろう」
 と、ギュスターヴが話していた時。空を砕く砲撃音が響いた。
「相棒!」
「!!」
 ばりばりばりっ、と布地の破れる音が一際大きく聞こえ、次に飛翔機はどんどんと高度を落し始めてた。
「戦艦から砲撃くらっちまったぜ?!」
「不時着するぞ!」
 とっさに『噴射機脱落』レバーを引いてまだ轟々と炎を吐く噴射機を切り離す。噴射機があらぬ方向に飛んでいくのを艦砲が狙っていく。
 砲撃で片翼が吹き飛んだ飛翔機を、ギュスターヴは懸命に立て直して地面に向かっていく。
「相棒!村じゃなくて戦場のど真ん中だぜ?!」
「選んでる場合じゃないだろう!!」
 丘と船の間をすり抜けるように飛翔機は飛ぶ。その間も何処からか大砲の発射音が木霊する。
「くぅっ!」
 飛翔機はそのまま、丘に茂る林へと落ちていった。


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