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ジ・エルダースクロール外伝 ハルケギニア-40


40.スプーンのカトレア

ツタが屋敷――というよりも立派な城の外壁に絡まり、
いかにも年代物という雰囲気を醸し出している。
しかしこの建物は、まだ建てられて少ししか経っていない。
カトレアの趣味から、植物に手を加えずそのまま育てさせているのだ。
日が傾いて薄暗がりと赤が混じった色に、
照らされ始める城はどこか奇妙で、フォックスは何か不安を感じてしまう。
竜はその城の上を飛んでいる。ルイズはにこやかだった。

「ちいねえさまの家って、いつ見ても変わっているわ。
 それがおもしろいのだけれど」

変わりすぎだろ。とフォックスは心の中でツッコんだ。
ミス・フォンティーヌの噂はよく聞くが、その内容は病弱である事だけだ。
薄幸の美女で凄く――おっきぃ。という感じの噂がよく流れる。
まぁ、噂の元が微税官とかおっぱい大好き伯爵とかその同類だからなぁ。と、
フォックスは噂の不正確性をちゃんと理解している。

様々な情報を流して頭の固い役人を煙に巻く。
それは、彼が盗賊ギルドに入って初めに学んだ事の一つだ。
故に、火の無い所に煙は立たずといった常識を逆手に取ることも、しばしばあった。

だが、この屋敷を見る限り煙どころか夕焼けと勘違いする程の大きな炎が、
辺りを覆い尽くしている様な気がしてならない。その一部を火として見ているのではないのだろうか、と。

グレイ・フォックスは元々アンヴィルという街の伯爵である。そんな彼にとって病弱な公爵家の令嬢で、
名前を変えさせられているということが持つ意味は、
子供も生めぬ娘など意味がない。しかし殺すのは哀れだから僻地にでも置いて人目に触れさせないでおこう。
という事だ。しかし住まいを移してからも姉妹や両親との親交があった事を考えると、
名前の重さから解放しようとする親心とも思える。案外、良いお父さんなのだろうか。

しかし――とフォックスが考える。人の趣味をとやかく言うのもあれだが、
これは色々だめだろうと。ううむとフォックスが答えのない問題に唸っていると、
ルイズが声をかけた。

「どうしたの?」
「あ…いえ、なんでも。私は、どうしましょうかな」
「事情は話すから大丈夫よ。ここはちいねえさまの家だから、話の分かる人が多いわ」

逆に言えば、話の分からない視野の狭い者はここの使用人として相応しくないのだが、
そこまでルイズは分かっていない。
風竜が城の庭に降りていく。使用人の一人が駆け寄ってきた。
ルイズも見知った相手だ。彼は驚きの混じった声で竜から降りるルイズに話しかけた。

「ルイズお嬢様!?一体何があったのですか」
「薬よ!ちいねえさまはどこ?」

この屋敷で「薬」という単語が意味する事はたった一つしかない。

「なんと、ご主人様の病を治す薬が出来たと!?すぐに案内します。どうぞこちらへ!」

なるほど、本当に話が分かる。フォックスは二人の後を着いていく。
何でこんな内装なんだ。と思いながらフォックスがカトレアの屋敷を進むと、
途中でとんでもない生き物に出会った。

身の丈が2・5メイルはあるだろう体格に、
タムリエルのそれと比べても引けをとるどころか、
それらを圧倒する貫禄を持ち合わせている。
どちらかと言えばミノタウロスロードと言うべきかもしれない。
しかしまだ若いのか、全体的に黒い色だ。
ロードと呼ばれるミノタウロスは、雄牛の頭の毛が白いのだ。

「ミノタウロスゥ!?」
「使い魔よ。こんばんはラルカス」

ラルカスからミノタウロスの事を学んでいたから、
ルイズは市場でのマーティンの言葉を、冗談としてしか捉えられなかった。

流ちょうなハルケギニアの公用語が、ミノタウロスの口からわき出る。
フォックスは凄い違和感を持ちながらそれを聞いている。
あいつらはふごふご言ってるだけじゃないのか。
こんな風に話せるのか。とてつもないカルチャーショックであった。

「おお、ルイズではないか。実に…2年ぶりくらいかな?最近ご主人様が疎遠になったと嘆いていたよ」
「そうなんだ。去年の降臨祭の時、ねえさまは床に伏せっていたものね…聞いてラルカス!ちいねえさまの薬が出来たの」

ミノタウロスは目を丸くした。

「なんと!それはそれは…急いで渡さねばならんが、どうやって手に入れたのかね?」
「エルフに作ってもらったの!ちゃんと後で話すわ」

フォックスは奇異の目でラルカスを見ている。
ミノタウロスは特別にあしらえた服を着ていて、先ほどの使用人に比べて身なりは良かった。
少々不格好だが、この体格に合わせる事が難しいのは容易に理解できる。
視線に気付いたラルカスは、首をかしげて尋ねた。

「何かね?」
「知性派ミノタウロスに出会った事がないもんで、つい」

ラルカスは牛の口を開けて思い切り笑った。
大地の唸りの様に大声で笑う様は、よくそうやって笑っていることの証といえた。

「それは、そうだろうとも。わたしも彼女に呼ばれていなければ、獣のままだ」

回復の魔法がひどく弱いが、こっちの魔法って相当凄くないか?
と、フレンドリーなミノタウロスを見て思う。
テファ以外でそこまで凄い部類を見たことが無いから、そんな事を考えてしまう。
タムリエルにも生物操作と呼ばれる生き物を操る魔法はあるが、
こうも上手くはいかないだろう。

「ほら、二人とも早く行くわよ!」

あ、ああ。とフォックスは返事して、隣を走るミノタウロスから襲われないか、
少々怖がりながら前に進む二人に着いていくのであった。

カトレアは、動物たちと一緒に自室にいた。
コロコロと笑いながら動物たちの世話をしている。
動物たちもベッドに座るカトレアに優しく寄り添い、
穏やかな空気が流れる。こうして動物たちと接している時間が、
カトレアは一番好きだった。こうしている間は発作でも起きない限り、
病気の事を忘れていられるからだ。
そうやって、ゆるやかに時間が流れる部屋のドアが勢いよく開く。
とても愛らしい、カトレアと同じ髪色の女の子がそこにいた。

「あら、ルイズじゃない。どうしたの?
 学院はまだ夏期休暇にはなっていないでしょう?」

「ちいねえさま!」

いつもと変わらぬ声色で、ルイズはカトレアの胸に飛び込んだ。
カトレアも優しく抱き返す。

「いつまでも甘えんぼうさんなんだから。
学院を抜け出したりしてはダメでしょう?お母さまに叱られますよ」

ルイズは薬を取り出してカトレアに手渡す。
カトレアは不思議そうにその薬を見た。
ガラスのビンに入れられたそれは、
ピンク色で何の臭いもしない。

「叱られてもいいの。ちいねえさま、ねえさまの病気が治せる薬よ!
 エルフに作ってもらったの!」

「うそ」とカトレアはびっくりして口を開けた。

「エルフに?どうやって?」
「詳しい事は後で話すわ。だからそれを飲んでちいねえさま」

カトレアは妹の頼みを聞き、ゆっくりとその薬を飲んだ。
常に感じていた体の芯の痛みが段々と引いていき――
彼女は激しく咳き込んだ。

「ねえさま!?」
「おお、ルイズ…いえ。大丈夫、何か体から…う」

カトレアの口から大量の血と共に、いくつかの赤い固まりが吐かれた。
彼女の嗚咽が止まり、ルイズと動物たちが泣きそうな顔でカトレアを見ている。
使用人はお付きの水メイジを呼びに走った。
ラルカスはカトレアに小振りの棒を向け、
それから何も無かったかの様に部屋の傍らに止まった。
フォックスは固まっている。血みどろ美人ってか。いや不謹慎だな。
と、頭が上手く働かないで、そんな事ばかり浮かんでしまう。肝心な所がダメなのだ。

「ねえさま!ちいねえさま!」
「体は大丈夫よ。心配しないでルイズ…ちょっと、いえ、とっても驚いたけれど」
「だって、こんなにたくさん血を吐いて…ひっく」

ルイズの目から涙がこぼれ始める。
自分のせいで大好きなねえさまが死んでしまうと思ったのだ。
カトレアは近くの布で口元を拭いて、ルイズを抱きしめた。

「効いているわ。ルイズ。わたしの可愛い小さなルイズ。大丈夫よ。
 確かに効いたの。昔から言うでしょう?良く効くお薬は体に負担がかかるのよ」

「でも、でも…うぇええええん」

カトレアが子供の頃からの掛かり付け医である水のメイジが駆けつけた時、
彼女は泣いているルイズをあやしていた。自分が今仕えている主人は笑っている。
昔からよくやっていた事だ。しかし何か変な固まりが浮いた血だまりの中でそんなことをしている。
その様はもう助からない事を分かりつつ、平然を装っている様にしか見えない。
昔から体が痛んでも、カトレアは敢えて我慢する事が多かったのだ。

ゴクリと医者は喉をならし、ついに来てしまったかと、
震えながら主人の体がどういう状態か調べる。
だが嫌な汗が混じる震えは、すぐに驚きに満ちたそれに変わる。
医者は叫んだ。ただ、叫ぶ他無かった。

「なんと…まさか、な、治っております!」

年老いたメイジの言葉に、ルイズは泣き声を止めた。
カトレアは、やはりコロコロと笑った。真っ赤に染まったドレスを着て。

「薬は効いているって言ったでしょ?」
「ちいねえさまぁあああああああ!!」

今度は、うれし涙であった。


「なるほど…エルフの薬とは興味深い」

水のメイジはフォックスの説明を聞いていた。
この男が何者かは知らないが、元主人の娘の病を治す手助けをした事には変わらない。
例え悪魔の化身であったとしても、感謝の思いで一杯だった。

「ええ、詳しくはその――門外漢なので」
「構いませんとも。カトレア様の病が治った事が分かれば、ご家族の皆様もお喜びになるでしょう」

心からの笑顔だった。杞憂だったなと、フォックスはさっき作った推論を破り捨て、
水のメイジを見る。老齢のメイジはほうと一仕事が終わった様な顔だった。

「私だけでなく、様々な水のメイジがお嬢様の病気を治そうとしましたが、
 さじを投げる他無かったのです。ようやく、仕事が終わった気がしておるのですよ」

「医者の不養生とはよく言ったもの。今後は自身のお体を大切にして下さい」

へんてこな頭巾を被っている割に、マトモな事を言っている相手をいぶかしむ事もなく、
医者は朗らかに笑った。

「ああ、これからはそうしますかな」

フォックスも頭巾の下で、朗らかに笑った。

美しい桃色がかった金の髪の二人は、今浴場にいる。
先ほどの件で、二人とも全身が血にまみれてしまった。
だから綺麗に体を洗っているのだ。

「それで薬をもらえたの」

ルイズの話を頷きながらカトレアは聞きながら、
椅子に座る可愛らしい妹の背中を洗っている。

「けれど、危ない事をしたのね」
「…ごめんなさい」

カトレアはルイズを背中から優しく抱きしめた。

「こんな事は言いたくないけれど、もう少し自分の事を考えて。
 アルビオンで死んでしまったら、わたしはとても悲しんでいたわ」

ルイズが顔を下に向ける。カトレアは何も言わずに頭を撫でた。

「さ、お話はもうおしまい。ルイズ、こっちを向いて」
「ま、前は自分でするもん!」

ルイズが顔を真っ赤にして自分を見ているのがおもしろかったのか、
カトレアはコロコロと笑った。

「失礼なことを言ったわ。そうね、もう自分で洗えるものね」

子供扱いだったが、ルイズは姉の病気が治った事が嬉しくて、
そんな事すぐにどうでもよくなった。
ルイズは、そのままカトレアの胸に顔をうずめる。

「ねぇ、ちいねえさま」

カトレアは優しい目でルイズを見ている。

「私もちいねえさまみたいに膨らむかしら」

カトレアは吹き出し、ルイズの胸を優しく触る。
ひゃん!とルイズは悲鳴をあげた。

「素敵なあなたのことだから大丈夫。わたしよりもっと綺麗になるわ」
「ほんと?」
「せいぜいわたしもこのくらいだったわ。あなたくらいの年の頃はね」

ルイズは頭の中で思い出していた。カトレアは確か今二十四だから……、
十六の時は八年前。自分は八歳。その頃カトレアはどうだっただろう?
なにぶん幼かったのでよく思い出せない。

そんな事を考えていると、気が付けばカトレアがルイズを抱きかかえて、
湯船に浸かろうとしていた。

「ね、ねえさま?」

こんなに力持ちだったかしら。と持ち上げられるルイズは不思議がった。

「そうね…これはわたしが今まで試した薬の効果もあるわね。
 副作用よ。体の芯を治すには至らなかったけれど、
 薬の力は、わたしの体を少しずつ変えていったわ。
 けれど、これで普通の人くらいよ。あなたが軽いのよルイズ。まるで羽みたい」

ん、と抱きかかえられたルイズはそのまま湯船に入れられた。
よく見れば、カトレアの体には固そうな部分もあった。
薬で勝手に筋肉でもがついたのかしら。嫌だわそんなの。
とカトレアの柔らかい部分に自分の体を預ける。
湯船はほんのり暖かく、ルイズは良い気分になる。
カトレアが笑っていった。

「ただ、わたしのベッドで寝ている熊を持ち上げて、下に降ろしたりするくらいしかしないけれど」
「ちいねえさま。それ普通って言わないわ」

冷静にルイズは言った。カトレアは首をかしげてルイズを見る。

「違うわ、そっちが変なのよ。お母さまなんて火竜山脈でドラゴン相手に戦ったじゃない」
「それがおかしいの。普通たった一人であの山に登る人なんていないもの」

カトレアは俯き、そして両手を目に当てて泣き声を真似始めた。

「冷たいのね、わたしの可愛いルイズ。世間知らずのわたしをいじめるの?」
「そそそそ、そんなことしてない!」

やはりカトレアはコロコロと笑った。それでようやくルイズは自分が騙された事に気が付いた。

「ちいねえさま!」
「でもあり得ているじゃない。わたしにとっては、それが普通なのよ」

そう言われて抱きしめられる。自分を優しく抱いてくれるカトレアに何も言えなくなったルイズは、
その感触も手伝って、ゆっくりと頭にもやが漂い始める。暖かくて気持ちよくて、
このまま意識を手放して――

「どうしたのルイズ。ルイズ?」

きゅう。とルイズはのぼせたようだ。
カトレアはそんな自分の妹を抱えて湯船から出る。
右手の薬指にスプーンの頭を模した指輪を嵌めたまま。


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