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虚無と賢女-03


ヴェストリの広場は魔法学院の西側にある広場で、日中は建物と塔に日差しが遮られてほとんど影になっている広場である。
普段から人気もなく決闘にはうってつけの場所であったのだが―――

「ギーシュが決闘するぞ! 相手はルイズの使い魔だ!」
「え? あの平民の? うわー……、一方的すぎじゃない? ドットとは言っても『青銅』のギーシュでしょ?」

―――今は噂を聞きつけた野次馬で溢れかえっていた。
野次馬のほとんどは、ギーシュが一方的に平民の使い魔であるエレアノールを叩きのめすところを想像していた。ただ、ルイズと同じクラスの生徒たちだけは、教室中を震え上がらせたエレアノールの殺気を思い返し、複雑そうな表情で十数歩ほどの距離で対峙している二人を見ていた。

「諸君! 決闘だ!」

ギーシュの宣言に野次馬たちは次々と歓声を上げる。それに腕を振って答え、エレアノールの方へと向き直る。一つ一つが芝居がかっており、見ようによってはオペラの演劇にも感じられる。

「それでは、決闘の前に名乗りあげさせてもらう。僕はギーシュ・ド・グラモン、二つ名は『青銅』! 『青銅』のギーシュだ!」

青銅の薔薇の造花をオーケストラの指揮棒のように振ってポーズを決める。どこまでもキザ男らしい振る舞いだが、内心は慌てていた、非常に慌てていた。

(さて、これからどうしよう!?)

食堂のことで、ギーシュは父であるグラモン元帥との組み手を思い出した。「手加減はせんぞ」という父の言葉と共に向けられた―――文字通り「本気で殺すつもり」の―――視線。その時は恥も外聞も無く泣き喚いた。
先ほどのエレアノールの視線はそれに勝るとも劣らない鋭さであったと……思い返す。『無礼な平民にちょっとした躾』程度の軽い気持ちで戦える相手ではないと、武門の生まれとしての本能が警告を出し続けている。

(だからといって本気を出すのも……論外だ)

目の前に立つエレアノールは、文句なしの見目麗しい気品ある女性。野次馬の中にも、その美しさに見とれている者もいる。
ギーシュとしても彼女のような美女とは戦うよりも、愛のささやきを交し合いたいと素直に思う。そんな彼女に本気で決闘を挑んで勝っても、「平民の女性相手に本気戦った」と不名誉な評価になるだろう、主に外見の補正で。そして、負けてしまえば言わずもがな。

「私はエレアノール。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの使い魔をしております」

名乗り返されて現実に意識を戻す。このままではすぐに決闘が始まってしまう。彼は覚悟を決めた。

「では、決闘を始める前に勝負方法を決めておこう! このまま戦っても勝敗は明らかだが、平民の身で貴族である僕の決闘を受けた勇気には、武門の者として敬意をもたなければならない!!」

薔薇の花を振ると花びらが七枚こぼれ落ち、宙をひらひらと舞って―――それぞれが甲冑を着た等身大女戦士の人形になった。その数は七体。野次馬たちから、おおおぉと歓声が上がる。
続いてもう一度同じように薔薇の花を振って花びらが今度は一枚こぼれ落ち、今度はエレアノールの足元までたどり着いて一本の剣になった。長さは1メイルほどの青銅製の長剣である。

「これから僕はこの七体の『ワルキューレ』で君を捕まえる、捕まったら僕の勝ちだ。そして君はその剣を使って対抗して、ワルキューレを全て倒すか、僕から杖を取り上げれば君の勝ちだ!」

エレアノールの方へ杖を向けて宣言し、反応をうかがう。彼女は少し考え込んでいたようだが、納得したのか大きく頷いた。

「ええ、その条件で構いません」

足元から剣を拾い上げて―――剣を握った瞬間、エレアノールの左手のルーンが輝き始める。光るルーンが気になるが、少なくとも勝っても負けても対等の勝負の結果という状況に持ち込めたことに、彼は胸中で安堵のため息をついた。

(よし、後は出来るだけ穏便に勝負をつけるだけだ……)





「へぇ~……ギーシュったら珍しく頭を働かせたみたいね? タバサはどう思う?」
「……別に勝負方法はどうでもいい」

野次馬の最前列に陣取って決闘の名乗りと作法の宣言を聞いてたキュルケは、隣に座る青髪の少女―――タバサに話しかける。名乗りの間からずっと彼女は我関せず本を読みふけっていた。彼女たちから見てちょうど反対側にルイズが黒髪のメイド―――確かシエスタって名前だったわねと思い出す―――と一緒に見守っているのも見える。

「それで、この決闘の勝負はどっちに軍配があがるかしら? あたしはエレアノールが勝つと思うけど」
「……エレアノール」
「あら、意見が一致したわね。困ったわ、これじゃあ賭けにもならないわよ」

パタンという軽い音を立ててタバサは本を閉じる。それにキュルケは驚きの声をあげる。

「貴女が本から目を離すなんて珍しいわね」

明日は雨かしらと、呟くキュルケにタバサは目線を決闘する二人に固定したまま答える。

「……決闘が始まる。多分、目を離していたら……全部見逃してしまう」

タバサの脳裏にあったのは午前の授業の時、爆発で混乱する教室で見せたエレアノールの動きだった。雑多に動き回る生徒たちと使い魔たちの間を止まることの無く流水のようにかき分けてルイズへと元へと向かった動き。教室の外から覗いてたタバサでもその動きを目で追うのが精一杯だった。

「……」

あの動きは易々と体得できるものではない。だからこそ、出来るだけ早く見極めるべきだと、タバサは判断した。





ルイズは不機嫌そうに名乗りを上げる二人を見ていた。主人の意思を無視して勝手に決闘を受ける使い魔。
主人を心配させるなんていい度胸ねと憤る気持ちと、主人の名誉のためにメイジに立ち向かう健気な忠誠を嬉しく思う気持ちが渾然一体となって、どういう顔をすれば分からなくなっていた。
一方、隣で一緒に立っているシエスタは余裕の表情を崩していない。まるで、最初から勝敗など分かっているかのようにも見える。

「ねぇ、ちょっと……。さっき言ってたことってどういう意味よ?」
「え? ああ……それはですね、女のカンみたいなものです」
「カン?」

シエスタは満面の笑みを浮かべてそのとおりと頷き返した。

「カンなんかで分かるわけないでしょ! 大体、ギーシュはドットとはいえ立派なメイジよ。いくら腕が立つからって言っても平民があっさり勝てる相手ではないわ!」
「ええ、普通に考えればそのとおりです、ミス・ヴァリエール。でも―――」

ギーシュの前に七体のワルキューレが並び、周囲からおおおぉと歓声があがる。その歓声でシエスタの言葉がかき消される。

「―――の言ってたとおり人なら―――ドットどころかトライアン―――」
「え? 何? 何言ってるのよ? 聞こえないわよ?」
「あ……、決闘が始まりますよ」

ルイズは聞き直すのを諦めて、顔を前に向けた。主人として、使い魔を見守る義務があるのだ。





長剣は手習い程度で使いこなせないと思いつつも、徒手空拳よりかマシと考えエレアノールは剣に手をかける。
剣を拾い上げると同時に左手のルーンが輝きだして、エレアノールは目を見張った。脳裏には長剣を使い方が浮かび上がる。試しに軽く振ってみたところ、ビュンという風切り音と共に振りたいと思い描いた軌道を正確に振るうことが出来た。

(これは……道具を正確に使うためのルーンの効果? いえ、ナイフやフォーク、羽ペンには反応してなかった)

戦いのための道具、すなわち武器を正確に使うことが出来るのだろうと考えを続ける。おそらくトラップカプセルも同じカテゴリーになっていたのだろう。そして、昨夜は気付かなかったが、長剣を持っていると身体が羽のように軽くなった。これもルーンの効果なのかと推察する。

「準備はいいかね? では、正々堂々とした決闘を始めよう!!」

ギーシュの宣言と共に決闘が始まった。
開始宣言と同時に七体のワルキューレが動き出し、二体が正面に、一体ずつ左右に、残り三体がギーシュの周りに残った。前衛、右翼、左翼、後衛。堅実かつ基本的な陣形。
エレアノールは遺跡の中での戦闘経験から、酷似した魔物を思い浮かべる。女神像とそれに操られる騎士鎧、騎士鎧が前衛を固めて、後衛の女神像が天井より柱を落としてくる性質。そこまで思い出した彼女は、まずは様子見して相手のパターンを読み取るべきと判断し、軽く地を蹴り前衛の二体のワルキューレへ―――

「……えッ!?」

刹那、エレアノールはワルキューレと触れ合いそうになるほど、間合いを詰めていることに気付いた。反射的に長剣を向かって右手側のワルキューレに対して振るう。

―――弾け飛ぶ鋭い金属音。
周囲の歓声が水を打ったように静まり返る。エレアノールが一瞬で距離を詰めてワルキューレを弾き飛ばした、と周りからは見えた。

―――激突する荒々しい金属音。
弾き飛ばされたワルキューレは野次馬の頭のはるか上を飛び越えて、学院の壁に激しく衝突してバラバラになる。

(今のは……いったい!?)

間合いを詰めすぎて長剣の腹でワルキューレを打ち据えるだけだったはずと、エレアノールは考える。少なくとも、あんなに激しく飛んでいくほどの―――野次馬の頭上数メイルを越えて、数十メイル離れた建物に激突した―――力は込めていない。
左手のルーン―――長剣を振るう瞬間、輝きが増したように見えた―――に一瞬視線を向け、続いて左手側のワルキューレに今度は力を押さえ気味に斬りかかる。体勢を整え、しっかり踏み込み、正しく力を込めて長剣を振るう。

―――かん高く響く金属音。
二体目のワルキューレはバターのように斬られ、綺麗な切断面を見せて倒れた。

(今度は上手く斬れました……が、身体がまるで暴れ馬になったみたいですね)

苦笑しながらバックステップをして―――力加減を間違えて、思ったよりも二倍以上も後ろに下がった。背後にどよめく野次馬の気配を感じる。正面を見れば、ワルキューレを密集隊形に整えてるギーシュ。攻撃より防御を優先したのだろうと、エレアノールは判断する。

「行き―――ます!!」

地を蹴り、再びワルキューレ目掛けて駆ける。たった一歩でその距離の半分を稼ぎ、さらに一歩で移動を終わらせる。眼前にはワルキューレが五体。エレアノールの疾さに全く対応できていない。

「―――えいッ!」

―――切断される耳障りな金属音。
横薙ぎの一閃、三体のワルキューレが胴体を両断され倒れる。残りは二体、ようやくエレアノールの動きに反応して手を伸ばしてくるが―――遅い。振り切った剣を構え直す時間は十分にあった。

「はぁッ―――!!」

―――押し潰される重々しい金属音。
斜めに振り下ろされた長剣により、二体のワルキューレは重なり合うようにして倒れた。エレアノールの手にあった長剣も過負荷に耐え切れずに折れ曲がり、剣として―――武器としての機能を失う。左手のルーンの輝きが消え去り、同時に羽のように軽かった身体が元に戻る。
エレアノールは使命を終えた元・長剣をワルキューレの残骸の上に放り投げ、

―――軽やかな金属音が響いた。
その音を聞きながら呆然と立っているギーシュに身体ごと向き直る。

「七体のワルキューレを倒させていただきました。私の勝ちでよろしいですね?」
「あ……ああ、そうだ。この勝負は君の勝ち、だ……」
「それでは食堂での約束を守っていただけますね?」

エレアノールは微笑みながら確認をしてくる。食堂で見せた鋭い眼差し、先ほどの決闘の最中に見せた凛々しい表情、そして今の微笑み。一瞬、ギーシュはそれに見惚れてしまいそうになる。

「ああ、グラモン家の名誉にかけて履行する。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールへの侮辱は取り消す。あれは僕にとって最大の間違いだったと認める」

ルイズの方を向き、頭を下げる。相変わらず芝居がかった振る舞いではあったが、その表情はどこか朗らかであった。

「そして……戦乙女、ワルキューレの名前は……エレアノール、君にこそ相応しいと宣言する!」

ギーシュの宣言の瞬間、周囲の野次馬たちから一斉に歓声が上がる。その全ては―――心の底から平民を蔑視している少数の者を除いて―――エレアノールと、潔く負けを認めたギーシュへの歓声であった。





キュルケは周囲の歓声―――至近距離から聞けば怒号に等しい―――に耳を塞いで耐えていた。同じように歓声に耐えていた隣のタバサが杖を振り『サイレント』を自分とキュルケ、二人分のスペースを確保するようにかける。

『助かったわ、ありがとう』

ジェスチャーで礼を伝えると、キュルケはキーンと耳鳴りが残る両耳を軽く叩いて落ち着かせる。

一方のタバサはエレアノールの動きを頭の中で正確に思い返していた。僅か数十秒、恐らくは一分と経たずに七体のゴーレムを斬り捨てた技量。離れたところから、かつ注意深く見ていたのに全てを見切ることができなかった動き。およそ常人とは思えない運動能力。
最初は歴戦のメイジ殺しなのかと思ったが、どうにも腑に落ちない。

(……能力を持て余していた?)

もし自分の実力を把握しているのなら、決闘開始直後にギーシュのワルキューレを全て斬り倒していたはずだ。しかし、今の決闘は戸惑いながらも、まるで自分の力を推し量るように―――暴れ馬を御すように―――長剣を振っていた。

(……それに、あのルーン?)

長剣を握ったと同時に輝きだした左手の―――自分の知らないルーン。全てのルーンを把握してるわけではないし、今のように使い魔の身体能力を向上させるルーンもあるかもしれないと思うが……どこか引っかかる。
タバサの脳裏にエレアノールの正体について知りたいという好奇心と、左手で輝いてたルーン文字の形状がしっかりと
焼きついた。





歓声が周囲を包む中、ルイズはエレアノールへと駆け寄って抱きついた。その顔には満面の笑みが浮かんでいる。

「凄いじゃない! 凄いじゃないのよ!!」

有頂天に舞い上がってエレアノールを褒め称えるルイズに、微笑み返そうとして―――

―――くぎゅううぅぅぅ―――

歓声の中、ルイズにはハッキリと聞こえた、密着していた身体越しにしっかりと聞こえた。音源は……自分が抱きついているエレアノール。

「あ……」
「え? あぁ、そういえばお昼まだだったのよね?」
「はい……」

先ほどまでの凛々しさがウソのように、伏せた顔を顔を真っ赤にしてか細い返事を返す。

「こういう場面なんだから、もう少し我慢できればいいのにね」

ルイズの率直な感想にエレアノールは苦笑する。ルイズに遅れて寄ってきたシエスタが、彼女に助け舟を出してくる。もっとも、笑いをこらえようとして表情が少し歪んでいたが……。

「まぁまぁ、ミス・ヴァリエール。空腹は我慢できますが、お腹が鳴くのはどうしようもないですよ」

シエスタの言葉に少し考えて、そうね、と頷く。

「じゃあ、午後の授業のお供は遅れてもいいから食べてきなさい。教室の場所は誰かに聞いてくればいいわよ」
「はい……ありがとうございます」

ルイズの指示に頭を深く下げると、ゆっくりと確実な足取りで歓声の中を食堂の方へと歩き出す。野次馬たちもルート上に居た者たちは自然に左右に分かれて道を作る。

「本当にあっさりと勝っちゃったわね……」
「ええ……、ちょっと私も驚いたのですけど」
「……? どういうこと?」

シエスタの答え方に疑問を持って振り返る。エレアノールの背中に視線を合わせたまま、どこか呆然としているようにも見える。

「聞いていたより―――いえ、予想より凄いなぁ……と思いまして……」

ふぅん、と相槌をうって、

(カンって言っても大したこと無いのね)

もう一度エレアノールに視線を合わせた時には、既に校舎の影に隠れて視界から消えていた。





学院長室の『遠見の鏡』で決闘を見ていたオスマンとコルベールは、決着と同時に顔を見合わせた。

「オールド・オスマン……。ミス・ヴァリエールの使い魔、圧倒的でしたね」
「うむ、凄まじい動きじゃったのぉ」

コルベールは先ほどの決闘を身震いと共に思い返した。

「ギーシュは一番レベルの低いドットですが、だからといってただの平民に遅れをとることなどありえません。それにあの動きは平民どころか、訓練された軍人でも不可能ですよ!」
「うむ」
「やはり、彼女は伝説の『ガンダールヴ』!! 一人で千人もの軍隊を壊滅させる力を持つ使い魔! 王宮やアカデミーへ至急連絡すべきでは!?」
「それには及ばん」

コルベールの提案をあっさりと切ってすてる。食い下がろうとするコルベールを手で制し、机の引き出しから水キセルを取り出すと、重々しく吸い始める。

「下手に王宮やアカデミーのボンクラどもに知らせてみよ。あやつらのことじゃ、戦争のオモチャにしてしまうじゃろう。……コルベール君、おぬしはそのことをよく知っているはずじゃ」
「確かに……冷静に考えればそのとおりですね」

コルベールは苦い記憶を思い出したような暗い声色で頷く。オスマンは水キセルを手に持って窓の外に視線を向ける。

「この件は当面、わしとコルベール君との間だけの話じゃ。くれぐれも口外するでないぞ?」
「はい! かしこまりました!」

窓の外はところどころに雲が浮かんでるが綺麗な青空が広がる。歴史の彼方に想いを馳せるには、お似合いの青空。

「伝説の使い魔『ガンダールヴ』か……。いったい、どのような姿をしておったのじゃろうなぁ……」





その時からルイズとエレアノールに対する周囲からの態度が一変した。

ルイズ。魔法の使えない『ゼロ』のルイズ。小馬鹿にし続けていた生徒たちも、そのルイズが召喚した平民がメイジを圧倒する力量を持っていることで口を潜めだしたのだ。『メイジの実力を知りたければ使い魔を見よ』の言葉どおりならばルイズの真の実力はエレアノールを従えるほどである、と考え出したのだ。
その結果、ルイズに面と向かって『ゼロ』と言うのは、犬猿の中であるキュルケだけになった。

エレアノール。『ゼロ』のルイズに召喚された平民の女性。使用人たちからは元から人気が高かったが、この決闘後からはその人気はさらに高まりを見せた。気難しい職人気質のコック長マルトーも『我らの戦乙女』と、崇拝している女神のようにエレアノールを讃えていた。
学院の生徒たちの中にもその凛々しさに惹かれ、隠れファンクラブを結成する者も―――男女問わず―――現れる。決闘で敗者となったギーシュもその一人で、同じく隠れファンクラブに参加したモンモランシーとファン活動を通じて、いつの間にか仲直りしていた。
一方で名を上げるために決闘を申し込もうとする野心的な生徒も現れだしたが、オールド・オスマンの命を受けた教師たちに阻まれて、誰もエレアノールに挑むことは出来なかった。

―――ただ、教師の目を潜り抜けて接触しようと機会を狙う者も居た。





数日後。
エレアノールは命じられていた部屋の掃除を終えて、借りていた水桶を水汲み場へと戻しに来ていた。見上げると視界一杯に抜けるような青空が広がっている。掃除の後は夕方まで自由時間と言い渡されており、久々にゆっくりと日向ぼっこもいいかも、と考える―――が、

「……あら?」

空から何か大きなものが降りてくるのが目に映った。今まで気付かなかったのは、その青い鱗が青空に溶けこんでいたからか。

「きゅいきゅいきゅい~♪」

エレアノールの目の前に降り立ったのは一匹の青いドラゴン、ご機嫌そうに鳴きながらつぶらな瞳でエレアノールをジッと見つめてきた。

「確か……生徒の使い魔でしたね?」

使用人たちから聞いた『今年の大当たり』を思い出す。―――ちなみに、エレアノール自身も大当たりに該当しているらしい、使用人たちも口を濁していたのでハッキリと確認したわけではないが。
シルフィードと名付けられていた所まで思い出して、何で自分の前に降り立ったのか疑問に思う。

「あの、何か用なのですか?」
「きゅい! きゅいきゅいきゅい!」

……会話がさっぱり成り立たない。エレアノールの言うことは理解しているようだが、シルフィードが言いたいことはエレアノールに通じるはずがなかった。

(困りましたね……、主の学生さん―――確かタバサさんしたね。彼女に通訳を頼むべきでしょうか?)

困り果てたエレアノールに、シルフィードは「きゅい♪」と鳴くと首を下げて背中を見せ付けてきた。

「乗れ? ということです?」
「きゅい! きゅいきゅい♪」

その通りと言わんばかりに頷く。人懐っこそうなシルフィードに、エレアノールは微笑んだ。

「じゃあ、お言葉に甘えて……、でもあまり遠くには行かないでくださいね」
「きゅい~♪」

シルフィードの背中によじ登って馬に乗る要領でまたがる。何本か生えてる背びれの一本に背中を預けて、両手で手前にある背びれを握り締めた。

「準備は整いました、いつでも大丈夫ですよ」
「きゅい♪ きゅいきゅい♪ きゅい~~~♪」

バサっと翼を広げるとシルフィードは、大きく羽ばたかせて宙に舞う。続いて学院を流れる風の中から上空に吹き抜ける風を選んでその流れに乗り、あっという間に数百メートル上空へと飛び上がった。





その夜。
寮のとある一室。

「きゅいきゅい♪ お姉さま! シルフィはエレアノールの監視だけじゃなくて探りを入れてきたのね! シルフィはとっても賢いのね! 言われただけの命令を守るだけなのは無能の証なのよね! だから一生懸命考えて頑張ったのよね♪ きゅいきゅい!」
「……」
「でもでも、エレアノールって人は寒がりなのよね! ちょっと二千メイルほど飛んだだけなのに顔を真っ青にして震えていたのよね! シルフィは平気なのに変なのよね! きゅいきゅい♪」
「……」
「これだけ頑張ったシルフィにお姉さまはお肉を山盛りプレゼントするのね! 山盛りじゃないとダメなのだからね♪」
「……」
「きゅい? お姉さま聞いてるの!?」
「……」
「きゅいきゅいきゅいきゅいきゅいきゅい!! 無視しないでよね! シルフィを早く褒めてお肉山盛りを持ってくるのよね!お腹が空いてきたのよね! お腹空いたのよね! 可愛いくて有能なシルフィのために早くお肉山も―――」

―――ドゴスッ(重量のある硬い物体を思いっきり振り下ろして、何かに叩きつけるような重々しい衝撃音)―――

「きゅいきゅいきゅい~!? 痛い痛い痛いのよね!? 頭が割れるように痛いのよね!? まるでお姉さまの杖で殴れたような激痛なのよね!?」
「……勝手なことはしない」
「きゅい~……、でもでもお姉さま!!」
「……貴女の役目は監視、何か気付いたら報告。これをしっかり守る」
「きゅいきゅい! 言われた命令だけを―――」
「命令違反は一ヶ月肉抜き」
「きゅい!! シルフィは全身全霊全力全精力全気力全存在、全財力全権力全火力全政治力をもってお姉さまの命令を守るのよね! きゅいきゅい!!」
「……あるの? 後半部分」

―――以上。寮のとある一室で行われた、とある生徒と学院の誰も聞き覚えのない声の女性の会話―――




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