あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

蒼い使い魔-36


「……………あの馬鹿はどこにいったのよぉ!!! "待て"も出来やしないの!?」
バージルとシルフィードがそんなやり取りをしている時、ようやく待ち合わせの場所に到着したルイズは悪魔の咆哮をあげた
「ひでぇぜ相棒……娘っ子たちに見つけてもらえなかったらどうするつもりだったんだ……」
ルイズの手には先ほどバージルに投げ捨てられたデルフがしくしくとすすり泣いていた。
「ボロ剣! あいつ変なことしようとしてなかったでしょうね!?」
ルイズが手元のデルフに向かい怒鳴りつける、ルイズ達が馬で街へ向かっている途中
運よく道の真ん中に突き刺さりさめざめと泣いているデルフを発見し回収したのであった。
「なんもしてねぇよ、ちょーっとからかっただけなのに投げ捨てるなんてよ……」
「前から思ってたけど、あんたって意外と冒険者よね……、まぁいいわ、タバサ? あいつが今どこにいるかわかる?」
ルイズが少し呆れたように言うとタバサにシルフィードの場所を尋ねる。
「わからない、彼の背中が見える」
目をつむっていたタバサが短く答えた、おそらくシルフィードが背中にしがみついているからだろう
「んなっ!! あぁぁぁもう! あのばか! なんで抵抗しないのよ!」
その言葉を聞きルイズは地団太を踏みながら怒りを爆発させる、手に握られているデルフが振り回されるたびに悲鳴を上げる
「いいなぁ、ダーリンの背中に抱きつくなんて、そんなマネ命捨てる覚悟がなきゃ出来ないわよ」
以前から挑戦し続けその度に当て身を入れられ地に伏してきたキュルケが両手を頬にあてうらやましそうに言った。
「あぁ、あの頼りがいのある背中、それを独り占めできるなんて……想像するだけでゾクゾクしちゃう」
キュルケがルイズをからかうように体をくねらせうっとりとした口調で言う、
すると、ミシッっと言う何かが軋むような音が、ルイズが持っていたデルフから、そしてタバサの持つ杖から聞こえてきた。
「……急いで追うわよ、これ以上好き勝手やらせるもんですか……!」
答えるようにタバサも頷き、ずんずんと音を立てながら足早に街の中へと入ってゆく
デビルトリガーを引いた二人にキュルケが思わず後ずさる、そしてはっと我に返ると急ぎ二人を追いかける、
二人の魔人をこのまま街に入れるわけにはいかない、この状態でバージル達を発見してしまっては大変なことになる。
「ちょ、ちょっと二人とも!? お願いだから落ち着いて! ね!?」
キュルケの悲痛な叫びが朝の街に響き渡って行った。

秘薬屋へ向かうために大通りをバージルとシルフィードが歩いてゆく
先ほどと違うのは、シルフィードがバージルに後ろから腕を回し背中にしがみついている点か、
そのおかげで非常に歩きづらそうだ。
「……食わんのか」
バージルが自分の胸元に視線を落としシルフィードの手に掴まれている包みを見る、
先ほど手渡されてから、中の串焼きには手を付けずに背中にずっとしがみついたままここまで歩いていたのだった。
「きゅい、いいの、後でおにいさまと一緒に食べるのね」
そう言いながら甘えるようにぐりぐりと背中に頭を押し付けてきた、押し付けられている部分が妙にむず痒い。
バージルは鬱陶しそうな表情を浮かべると、視線を背中のシルフィードに向ける
「いい加減離れろ、歩きづらくてかなわん」
「いやなの」
次に聞き分けのないことを抜かしたら殺す、と宣言されているにも関わらずシルフィードが拒否する、
眉間に皺をよせバージルが口を開く
「次はないと言ったはずだ、忘れたのか? これが最後だ、離れろ」
「それでもいやなの、シルフィはもうおにいさまに殺されちゃっても後悔はないのね、だってそのくらいうれしかったんですもの」
シルフィードは静かに、そしてきっぱりと言い切るとしがみつく腕に力をこめさらに強く抱きしめてくる。
どうやら本気でそう言っているらしい、突き飛ばし閻魔刀を突きつけたところで、今のシルフィードは喜んでその刃を受け入れるだろう
次はない、と言っておきながら、本来の目的はシルフィードを元に戻すための秘薬の材料を求め街へ来たのだ、
それを殺してしまってはここにきた意味どころか、貴重な移動手段まで失ってしまう、
さらに悪いことに、シルフィードはハルケギニアに伝わるスパーダの伝説を知っていると言う、
少しでも情報が欲しい今、なんとしてもそれは聞いておきたい、
先ほどより事態が悪化している、やはり買い与えるべきではなかった、軽く後悔しながらバージルは半ばあきらめたように溜息をついた。
「あぁしてみると……確かに恋人っぽい……っていうか完璧に恋人同士にしか見えないわね」
二人のその様子をキュルケが物陰から覗き込みながら呟く、
それに続く様に樽の中からルイズとタバサが顔を出した
「も、盛り上がってるのはシルフィードだけじゃない! バージルは全然相手にもしてないわよ!」
「でも、あの子の顔みてごらんなさいな……アレ、完全に女の顔よ? もう身も心も捧げますって感じの、あたしが言うんだもの、間違いないわ」
キュルケがシルフィードを指差す、確かに、さっき見た時とは違う雰囲気が漂っている、一方のバージルは醒めきっているが……。
惚れ薬の効果がより強くなったのであろうか? あれだけはしゃぎまくっていたシルフィードが、どことなくしおらしくなり、うっとりとした顔になっている。
「よく言うわ、あんたの"身も心も捧げます"ほどアテにならない言葉はないわよ」
「あたしだってそんな経験くらいあるわよ……、本当はまだ言ってないだけ、あぁ、この想い、ダーリンに届けばいいのに!」
両手を胸の前で組み歌うように言いきったキュルケを冷めた目で見ながらルイズが口を開く、
「そーいう割にはあんた、最近手を出してこないみたいじゃない?」
「んー? だってそれは……」
キュルケが何か言おうとしたその時に、不意にタバサが樽の中から飛び出した。
「移動する」
「あっ、ちょっとまってよ!」
それを急いでルイズが急いで樽の中から飛び出し後を追いかけて行った、
「あんたたち見てる方がおもしろいからね」
その二人の様子を見てキュルケはクスクスと笑いながら呟くと、二人の後を追いかけて行った。

「本当に道を知っているのか?」
バージルがようやく背中から離れ腕をからめて隣を歩くシルフィードに確認を取る、
先ほどから結構歩いているにも関わらず一向に目的地にたどり着かないことに、流石に不安を覚えたようだ
「きゅい、もちろんなの、でも……ちょっとだけ遠回りしてるのね」
「何だと?」
「もう少しこうしてたいからなの、だめ?」
シルフィードは頬を赤らめ、もじもじしながら上目づかいにバージルを見つめる
並の男性なら一撃で撃墜されかねないセリフとシチュエーションである。
「ダメだ、お前の都合など知らん、下らんことに時間を取らせるな」
そんなシルフィードにバージルはこれ以上ないほど冷たく言い放つとジロリと横目で睨む、
「きゅい……おにいさまはシルフィと時間、どっちが大切なの?」
「くだらんことを聞く暇があったら、さっさと秘薬屋に案内しろ、最短ルートでだ」
「……いじわるなのね、きゅい」
シルフィードは少し切なそうな表情をすると、絡めている腕にぎゅっと力を込めた、
「おにいさま……シルフィのこと好き?」
「二度も言わせるな、少しは静かにできんのか」
「ふんだ、もう決めたのね、おにいさまがシルフィのこと好きって言ってくれるまで、背中に乗せてあげないのね、きゅい」
そう言うと顔をぷいっとそむけてしまった、もちろん組んだ腕は外そうとしない。
これ以上シルフィードに付き合っているとこっちまでおかしくなりそうだ、
なぜ俺がこんな目に……、眉間にふっかーい皺をよせズキズキと痛む頭を抑える
しばらくそんな風にして歩いていると、ふとバージルが足を止める、そして先日アンリエッタから受け取った袋を開け中身を確認しだした。
袋は結構な大きさがあり、中には新金貨と宝飾品が入っている、
バージルは一個宝石を取り出すと何かを考えるようにそれを指先で弄んだ
「おにいさま? どうなさったのね?」
「……予定を変える、秘薬屋に行く前に宝石を金に換える、宝石屋かもしくは換金所のような場所は知っているか?」
一国の王女であるアンリエッタが直接手渡してきた宝石だ、紛い物ではなく上質な物であることには間違いない
だったらただ持っているより、現金に換えてしまうのが一番だ、そう判断する。
それに、キュルケの話によると『精霊の涙』は少々値の張る物らしい、万が一、ということもある、金は多く持っていることに越したことはない
「きゅい、宝石屋さんは……確か、そこの角を曲がったところなの、すぐそこなのね」
そう言うとシルフィードは通りを指差す、すると宝石を象った看板が目に入る、
バージルは持っていた宝石を袋に戻すと、シルフィードを連れ宝石店へと入って行った。
「なっ! なんで宝石屋に入ってくのよ! 秘薬屋に行くんじゃなかったの!?」
その様子をまたもや物陰から見ていたルイズが地団太を踏む、
そんなルイズをからかうようにキュルケがわざとらしく手をぽんと叩いた。
「あ、もしかしてシルフィードにプレゼントとか?」
「そっ、そんなの絶対にヤダ!!」
ルイズは少し涙を目尻に溜めながら胸元のペンダントをぎゅっと握りしめ、必死に首を振り否定する
「違うもん! ただあの子に無理やり引っ張って行かれただけだもん!」
「わ、悪かったわ、落ち着きなさいって、みんな見てるからほら……」
子供のようにキュルケを叩きながら喚き散らすルイズをなだめていたその時、
「そうです! あんなはしたない人が恋人だなんて絶対に認めません!」
「「うわっ!?」」
突然背後から聞こえてきた声にルイズとキュルケとタバサが驚きながら振り向く
そこには昨日、食堂で灰と化していたシエスタが立っていた、
泣き腫らしたのであろうか、目の周りが赤くなり、隈が出来てしまっている。
「シエスタ!? あなたいつの間にきてたの!?」
「朝にみなさんが出て行くのを見たんです! バージルさんだけ見当たらなかったので、おかしいとおもって急いで追いかけてきたんです!」
そう怒鳴るように言うとドンと地面を踏みつける。
「っていうかあなた仕事はどうしたの?」
「そんなことしてる場合じゃありません!」
「そんなことってあんた……」
ズバっと言い切ったシエスタは捲くし立てるようにルイズ達に質問をする
「あの人は一体誰なんですか!? あんな人、学院じゃ見たことないですよ!」
「えっと……それは……タバサ? いい? 説明しちゃって」
憤るシエスタを見てキュルケが困ったようにタバサに視線を送る、
タバサは少し目をつむり考えた後、静かに頷くと、シエスタにも事情を説明した。

「えぇっ!? それじゃあ、あの女の人って……ミス・タバサの使い魔のっ!?」
「声が大きい」
些かオーバーリアクション気味に驚くシエスタをタバサがピシャリと止める
「も、申し訳ありません……それにしても……惚れ薬ですか」
なんだか秘密もへったくれもないほどシルフィードの正体が周囲の人々にバレて行く
このままでは学院全体に知れ渡るのも時間の問題かもしれない。
「このことは秘密、誰にも言わないで」
軽い頭痛を覚えつつタバサはこれで三回目のセリフを言う。
「え、えぇ……もちろんです、これでも口の堅さには自信があります」
シエスタは口元を両手で押さえコクコクと首を縦に振った。
「でもちょっと安心しました、惚れ薬を飲んじゃったシルフィードさんが一人で暴走してるだけなんですね」
「大体そんなところよ、なんだか雲行きが怪しくなってきたけどね……」
ほぅっと安心したようなシエスタにキュルケが肩をすくめながら言った。
そんな中、ルイズはシエスタに昨日何があったのか尋ねてみることにした。
「それにしてもシエスタ、あなた昨日一日灰になってなにやら呟いてたけど、一体何を見たの?」
「えっ……えっと……それがですね、シルフィードさん、いきなりバージルさんに――」
「出てきた」
シエスタがきゅっと唇を噛み締め悔しそうな表情で昨日目の前で起こった事を言おうとした時、タバサが宝石店を指差す、
三人の視線が傍から見れば腕を組み仲睦まじげに歩くバージルとシルフィードに釘付けになる。
バージルの腕に組みついているシルフィードから明るい声が聞こえてきた。
「おにいさまとってもお金持ちなの! おどろいちゃった! きゅい!」

――ぶちっ。
その言葉を聞いたルイズから何かが切れる音が聞こえてきた。
「ふっ……ふふっ、ふふふふ、そう、そうだったの……みんな、アイツのこと邪魔しちゃ悪いわ、行きましょ」
「どっ、どうしたの?」
ついに壊れた、その場にいた全員がそう思いながら突然不気味にクスクスと笑い始めたルイズを見る、
「私達もせっかく街に来たんだもの、お買いものしない? もうパーっとド派手に」
大げさに腕を広げると、とてもいい笑顔でルイズが言う、そんなルイズの提案に三人はお互いに顔を見合わせた。
「そうは言うけど、あたし達今日そんなにお金持ってきてないわよ? それにダーリンやシルフィードはどうするの?」
キュルケのその一言にシエスタとタバサが頷く、だがルイズはそれには構わずに急に真顔になるとさらりと言った。
「何言ってんの? 全額アイツ持ちに決まってんじゃない」
「えっ……そんな! バージルさんに怒られちゃいますよ!」
「怒られるだけならまだマシ」
ルイズの思いもよらぬ言葉に三人が首を横に振る、バージルのことだ、恐らく言葉の前に閻魔刀が飛んでくるだろう。
しかしルイズは知ったことではないと言わんばかりに腕を腰にあてふんぞり返る。
「わたしが許可するわ、文句なんて言わせるもんですか! シエスタも遠慮することなんかないわよ、もうガンガン買いなさい」
そう言うと、強くシエスタの手を引っ張り、近くにあった洋服店へと入ってゆく、
貴族専門の物を多く取りそろえた、トリスタニアでも有数の高級店だ。
突如暴走を始めたルイズに唖然としていたキュルケ達も急ぎ店内へと入ってゆく
「今期の新作! 全部頂戴! あとこの地味なメイドを着飾ってあげて!」
「じっ、地味……」
ルイズは店内に入るなりいきなり店員に向かい大声で服を持ってくるように指示を出す。
「キュルケ? なにボサっと突っ立ってるの? 早く好きなもの選びなさい、こんなこと二度とないわよ?
ほらほら、タバサも! 拒否は許さないわ! 好きなの買いなさい! 気に入ったのがないなら他のお店に行ってもいいわよ!」
「お客様、お支払いの方はいかがいたしましょう」
「請求はトリステイン魔法学院のバージルで!」
「はい、バージル様ですね、かしこまりました、ではここにサインを」
差し出された請求書にルイズがサラサラとサインを書きこんでゆく、
「ふふふふ、あいつの驚く姿が今から楽しみだわ……わたしを怒らせたらどうなるか……たっぷりと思い知らせてやるんだから……!」
ルイズはダンッ! と力強く机を叩くと高らかに笑い始める、
後日、その場にいた人間は語る、その姿はまるで悪魔のようだったと。

「そろそろ戻る」
思い出したかのようにタバサが口を開く、ショッピングに夢中になり時間を忘れていた、
太陽はもう少しで真上に来そうだ、タバサの言うとおりそろそろ学院に戻らなくては迎えの馬車を待たせてしまうだろう
「そう……それじゃあ気を付けて、シルフィードは任せておいて」
タバサはその言葉にコクリと頷くと踵を返し大通りを後にする、
「この子のことは任せておきなさい、じゃ、お先に失礼するわ」
それに続く様にキュルケも軽く手を振りながらタバサの後を追って行った。
「あ、私もお仕事をほったらかしたまま来ちゃったんでした! 私もそろそろ戻りますっ!」
「そう、じゃあ、私達のお供で街まで来た、そう言うことにしておきなさい、その代りに、この荷物を私の部屋に運んどいてね」
朝の仕事をすべて放棄してここまで来た事を思い出したのか、やや顔を青くするシエスタにルイズが軽いフォローを入れ、荷物を渡す。
何度もお辞儀をしながら学院へと戻るべく小走りで去って行くシエスタを見送った後、ルイズはバージルと合流すべく、秘薬屋へと向かって行った。

「久しぶりにたくさん買い物しちゃったわ~」
キュルケが満足そうに手に持った包みを見て微笑む、そしてふとタバサへと視線を落とした、
「ねぇねぇ、タバサ? 前々から思ってたけどあなた……随分ダーリン……ううん、バージルにご執心よね~?
今まで誰にも興味無いって感じだったのに、あたしも安心しちゃったわ~」
とうとうこの小さな友人に恋を知る時が来た、と何やら感動すらしている様子でうんうんと頷いた。
「違う」
ところが、そんなキュルケの考えとは裏腹にタバサは小さく首を横に振る、予想を裏切られたキュルケは「あらっ?」と肩をずるっと落とす。
――おそらく、違う
いや、もしかしたらそう言う気持ちも、少しは混じっているのかもしれない、
けれど彼に抱く感情はある種の憧れ、理想だ、言ってしまえば崇拝に近い、
己が無力を嘆き、ひたすら力のみを追求し闇へと堕ちた者、それが彼だ、
そのために己を殺し、心を殺し、人であることですら捨て、それでもなお足りぬと力を求め続ける苦行。
おそらくそれは、彼の命が尽きるまで終わらない。
それに挑み続ける彼は、復讐に生き、同じように力を求める自分にとっての理想だ、自分も彼のようにありたい、そう願っている
彼の姿は理想の自分、未来の自分に重ね合わせていた。
全てを薙ぎ払う強大な力、高密度の魔力の塊である幻影剣を大量に放っても息切れ一つ起こさぬほどの底なしの魔力
――彼の持つ全てが欲しい
奇しくもそれは、バージルが父スパーダに対し抱いた感情と同じであった。
その言葉を最後に黙りこくってしまったタバサにキュルケが別な話題はないかと慌てて切り出す。
「そういえばタバサ、どうしてこの時期に実家に?」
「異常気象」
その質問にタバサが短く返す、
「大雪」
その言葉を聞きキュルケは思わず空を見上げる、雲ひとつない快晴だ、さんさんと照りつける日差しに思わず目を細める。
もう少しで季節は夏に差しかかる、確かにこの時期に雪はあり得ない
タバサの実家はどこかは知らないが、地理的にここら辺にも多少影響が出てもいいはずだ、しかし最近の気温は上がって行くばかりである、
にもかかわらず局地的に大雪が降るなどあり得ることなのであろうか?
ともあれ実家の様子が心配になり様子見に帰るのだろう、キュルケはそう見当をつけるとタバサの頭にポンと手を乗せる。
「そう、この時期に大雪は確かにありえないわね……ま、大丈夫よ、寒かったらこの私の"微熱"で暖めてあげるわ、ふふっ」
キュルケは優しくそう言うとタバサの頭を自分の胸に抱き寄せた。

一方そのころ、シルフィードの案内でようやく秘薬屋にたどり着いたバージルは店内に入るなり、店主にメモを手渡し素材の秘薬を探させる、
しばらくすると、店主が少々困ったような表情をして秘薬を持ってきた。
「旦那、ウチで取りそろえられるのはここまでです、『精霊の涙』はもう入荷が絶望的でして……、ウチもですが、今はどこ探してもありませんぜ?」
「……どういうことだ」
バージルが眉間に深い皺をよせ店主に聞き返す、ここにきて『精霊の涙』が品切れ、まるで示し合わせたかのような展開に軽い眩暈を覚える。
「へぇ、実は、ガリアとの国境の近くにあるラグドリアン湖、そこに住んでる水の精霊と最近連絡がつかなくなっちまいましてねぇ……」
店主はそう言うと、深刻そうな表情で事情を話し始める、
「なんでも、機嫌を損ねちまったのかなんなのか、めっきり姿を現さなくなっちまった上に、
急に湖の水位が上昇しだしたり、さらに周辺では季節外れの大雪が降ってるって話でさぁ」
「その精霊とやらを湖から引っ張り出す方法はあるのか?」
バージルが不機嫌そうに尋ねると、店主はとんでもないと驚いたように首を横に振った。
「まさか精霊とやり合うおつもりですかい? 旦那ぁ、悪いことはいわねぇ、やめときなせぇ、
水の精霊は滅多に人前に現れない上に恐ろしく強い、万一怒らせるようなことがあっちゃ――」
「俺はそんな事を聞いているのではない、そいつを引きずり出す手段があるか否かを聞いているんだ」
バージルの射るような鋭い視線に店主が思わず竦み上がる、やり場のない怒り、それがひしひしと伝わってきた。
「へ、へぇ、引きずり出す方法は兎も角、高名な水の使い手のメイジ様ならお目通り叶うかもしれませんねぇ」
水のメイジ……こればかりはルイズに聞いてみなければ分からない、もしいなかったらさらに事態が悪化してしまう。
ますます悪くなるばかりの状況にバージルはギリと奥歯を鳴らす、この事態を長引かせた『水の精霊』、ただでは済まさん……。
「……そうか、代金だ、確認しろ」
「へい、確かに頂きました」
店主が差し出された新金貨の数を確認し、秘薬分の代金を受け取る、『精霊の涙』が手に入らなかったせいか、随分と安く済んでしまった。
バージルはそれを確認し、金貨の入った袋と、秘薬を受け取ると店の外に出る。
太陽は真上に来ており、陽射しが強くなり始めていた。
「きゅい……おにいさま?」
すると、今まで背中に張り付いていたシルフィードが話しかけてきた、
「何だ」
「ラグドリアン湖、そこはおねえさまのご実家の近くなのね、ちょっと心配なの、きゅい」
「湖の場所を知っているということか、丁度いい、そこまで道案内をしてもらう、無論最短ルートでだ」
そんなことはどうでもいいと言わんばかりに、またもやシルフィードに道案内を命じる、
タバサの実家の安否に関してはまるで興味がないらしい。
さて、『精霊の涙』は手に入らなかったものの目的は一応達した、もうここには用はない、後は学院へ戻るだけだ、
その前にルイズと合流しなくてはならないが……、
そう考えていると、小走りでこちらに走ってくる桃色の髪をした少女、ルイズの姿が見えた。
「バージル!」
「ルイズか、用は済んだ、帰るぞ」
「あんた第一声がそれ!? 街の外で待ってなさいって言ったじゃない! なんで勝手に行っちゃうのよ!」
あまりにぞんざいな扱いにルイズが眉を逆立て怒りを再燃させる、
「コイツが秘薬屋を知っていると言ったんでな、案内させた……拾っていたのか」
しれとバージルが受け流すと、ルイズの手に握られたデルフをみる、どうやら回収されていたらしい。
「ひでぇじゃねぇか相棒! いきなり投げ捨てんなよ! マジで泣いちまっただろうが!」
「フン……行くぞ」
カチカチと訴えかけるデルフを無視すると、学院へと戻るべくルイズを連れ歩きはじめた。
ルイズは隣を歩くバージルをチラと見る、背中には相変わらずシルフィードがべったり張り付いている、
それなのにバージルは何も言わずに前だけを見ており、隣を歩くルイズなど気にも留めていないようだった。
「(何よ……わたしだってこんなに甘えたことないのに、こいつもこいつよ、なんで何も言わないのよ……)」
「何をブツブツ言っている」
そんな風にルイズがぼそぼそと呟いていると、バージルが横目でルイズを見た、
「なっ、なんでもないわよ!」
ルイズは顔を赤くしながら俯く、もし自分が今のシルフィードみたく思いっきり甘えたら……
バージルは何も言わずにこんな風に気にも留めないのだろうか?
そんな事を考えながらおずおずとバージルの手を握る、今回も握り返して来なかったが……
鬱陶しそうにもせず、振り払いもしなかった。
本当はシルフィードみたくおもいっきり甘えてみたい、けど気持ちが邪魔をしてそこまですることが出来ないルイズであった。

そんな風にして街の外まで歩き、人目のつかない場所まで移動したバージルはシルフィードに相も変わらず傲岸な口調で命令を下す、
「学院に戻る、変化とやらを解け」
「嫌なのね、おにいさまがシルフィのこと好きって言ってくれるまで背中には乗せてあげないのね」
だが、シルフィードはツーンとそっぽを向くと、両腕で自分の身体を抱きしめうっとりとした表情で体をくねらせながら口を開く、
「それで理想としてはぁ、こうぎゅうーっと抱きしめて、耳元で『愛している、シルフィード』そう囁いてくれるだけでいいのね!
……ふがっ! 想像したら鼻血がっ!」
「なっ! 何勝手なことを! ダメ! 絶対そんなことしちゃダメ!」
ボタボタと鼻から血を流すシルフィードを心底ウンザリした表情で見ていたバージルは踵を返し街へと歩きだした
「ちょっ、ちょっと、どこ行くのよ」
「馬車があったな、それに乗って行く、金がかかるが仕方あるまい」
バージルは呼びとめるルイズにそう言うと、さっさと街の中に戻ってしまった。
ルイズは少し安心したような表情を浮かべると……すぐにバージルの後を追う
「きゅいきゅいきゅい! 好きって言うだけなのに! ひどいのね~~~~!」
その場に取り残されたシルフィードはきゅいきゅいと喚きながら小走りで後を追いかけた。

「それで、探し物は見つかったの?」
帰りの馬車に揺られながらルイズが隣に座るバージルに尋ねる、
バージルは眉間に皺をよせ、不愉快そうに答えた。
「いや……一つ秘薬が手に入らなかった。明日ラグドリアン湖へ向かう、そこで『精霊の涙』とやらを調達する」
「そこってガリアとの国境にある湖よね、確か距離的に馬で二日かかるわよ?」
ルイズがそう言うとバージルががっくりとうなだれる、どうやら馬で移動することを想定していなかったらしい。
シルフィードならば一日とかからず到着できる距離なのだが、馬だと話は別だ
事態がさらに悪くなっていく状況にバージルがギリと奥歯を鳴らす、
案の定、その話を聞いていたシルフィードがずいっと身を乗り出し指でバージルを顔を撫でながら見つめてきた。
「うふふふ、おにいさま? 素直になるのね、一言シルフィのこと好きって言えば、そこまでびゅーんと乗せて行ってあげるのね!」
「断る」
それを鬱陶しそうに手で払いのけ冷たく一蹴する、意地でも言うつもりはないらしい
「言うだけなの~~~! お願い言ってなのね~~!! きゅいきゅいきゅい!」
「ふんっ、ざまぁみなさい」
ルイズが腕を組みじたばたと駄々をこねるシルフィードを見ながら鼻で笑う、
同時に少し不安になる、目的の為なら手段を選ばないバージルが、どうしてここまで拒否するのだろうか?
そりゃ正直なところ、ギーシュの様に好きだ、とか、愛していると囁くこの男を想像することが出来ない、
出来ないのだが、バージルはその言葉自体、口に出すことすら嫌っている、そんな感じすらする。
「ところでルイズ、水のメイジに誰か心当たりは?」
そんな風に考えていると不意にバージルが話しかけてきた、少しビクっと反応するとルイズは答える。
「えっ、水のメイジ? それだったらモンモランシーがそうね」
どうやらこれ以上の事態の悪化は防げたようだ、首根っこを掴んででも連れていけば問題ないだろう
「あ、そうだ、おにいさまに買ってもらった串焼き! 食べるのね! きゅい!」
バージルがそんな事を考えているとシルフィードがなにやら思い出したかのように持っていた包みを開け、中から串焼きを取り出した、
冷めてしまっているのだろうが、タレのいい香りが漂ってきた。
「はいっ、おにいさま! 一緒に食べるのね!」
「……いらん」
バージルは目の前に突き出された串焼きを鬱陶しそうに手で払うと、足を組み目をつむってしまった。
「もぐもぐ……、おいしいのね! だから一緒に食べるの~~! きゅいきゅい!」
串焼きを食べながら落ち着きなく騒ぐシルフィードをよそに、ルイズがバージルのコートの裾を引っ張る
「……何だ」
「ねぇ、シルフィードに買ってあげたのって……あれだけ? 他に買ってあげたんじゃないの? 正直に言いなさい」
「何の話だ」
低いトーンで話すルイズに何の話だかさっぱりわからないと言わんばかりにバージルが返す
ルイズはむっとした表情になりながら口をへの字に曲げ質問を続ける
「とぼけないでよ、シルフィードと一緒に宝石店に入ったでしょ? わたし見たんだから……」
「宝石店? あの女から受け取った宝石を金に替えただけだ、他に何の用がある?」
その言葉にルイズの顔からサーっと血の気が引いてゆく、もしかしてわたし、とんでもない勘違いを?
「ほ、本当に? 何もしてない?」
「他に何をするというんだ、こいつに聞け」
バージルはそう言うと、シルフィードへと視線を送る、相変わらず串焼きをパクパクと幸せそうに食べていた。
「シ、シルフィード? バージルにそれ以外に何か買ってもらった?」
「きゅい? シルフィはこれだけで十分幸せなのね! もうおにいさま以外いらないのね! きゅいきゅい!」
「やめろ、コートが汚れる」
シルフィードがタレでベッタベタになった口元を拭おうともせずにバージルに頬を摺り寄せてきた
それを鬱陶しそうに払いながらルイズを見る、ルイズの顔は生気を失ったんじゃないかと思われるくらいに真っ青になっていた。
「顔色が悪いぞ? 吐くなら外だ、この速度なら飛び出しても問題あるまい」
そんなルイズを心配することもせずバージルが窓の外を顎でしゃくる、いざとなったら外に飛び出せということらしい。
「べべべべべべべ別になななななな何も? よよよよ酔ってなんかななななないわよ?」
ルイズがしどろもどろになりながらブンブンと首を横に振る、そんな態度に不信感を抱いたのかバージルが静かに口を開く。
「……何か、余計な事をしたのではないだろうな?」
「なななななんにも!? なんにもしてないわよわわわわわわたし!」
ジト目で睨みつけてくるバージルから必死に目をそらす、汗が滝のように流れてきた、手に持ったデルフが何も言わないのが救いだ。
もしバージル名義で思いっきり買い物をしたとバレてはどうなるか分からない……
しかも請求書が届いたら一巻の終わりだ、それまでに何とかして対処法を考えよう……ルイズは堅く心に誓うと馬車の隅で小さくなってしまった。
学院につくまでルイズは黙ったっきり一度も目を合わせなかったという。
日も傾き始めたころ、ようやく学院へと到着したバージル達は、
すぐさまモンモランシーの部屋へと移動する、
部屋の中で準備を進めていたモンモランシーに調達した秘薬を渡し『精霊の涙』が手に入らなかったことを伝えた。
「それで? どうするのよ、『精霊の涙』がなければ解除薬は完成しないわよ?」
自分の命がかかっているにも関わらずどこか他人事のような口調でモンモランシーが肩をすくめる、
「決まっている、売ってないのであれば直接取りに行くまでだ」
そんなモンモランシーの態度に眉を顰めながらバージルは言葉を続ける。
「無論貴様にもラグドリアン湖に来てもらう、水の精霊とやらを引きずり出すのに協力してもらう、拒否は許さん」
その言葉を聞きモンモランシーはいかにも行きたくなさそうな声を上げた。
「えええええ!? 学校どうすんのよ! それに水の精霊は滅多に人前に姿を現さないし、ものすごーく強いのよ! 怒らせちゃったりしたら大変よ!」
「モンモランシー……、この状況下でよくそんなことがいえるわね……」
ルイズが心底呆れたようにモンモランシーを見る、ここまでくると尊敬の念すら覚える。
「私は絶対に行きませ――」
そこまで言ったモンモランシーの言葉が止まる、
鼻の先1サント手前に妖しく光を放つ閻魔刀の切っ先が突きつけられていたからだ
「何か言ったか?」
「――す……行きます……」
これ以上ないほどの殺意がこもった視線を浴びへなへなと座り込んだモンモランシーは顔を青くしながらコクコクと頷いた。
「では、明日の早朝に出発する」
バージルがそう言うと閻魔刀を納刀する、するとシルフィードが背中におぶさるように抱きついてきた。
「きゅいきゅい! おにいさま知っていらっしゃる? ラグドリアン湖に伝わる伝説!」
「知らん、興味がない、離れろ」
淡々と言葉を並べ腕を振りほどこうとする、しかしシルフィードは構わずに言葉を続けた。
「ラグドリアン湖に住む水の精霊! その前でかわされた誓いは決して破られないって言い伝えがあるのね!
シルフィとおにいさまは、そこで永遠の愛を誓うのね! きゅいきゅいきゅい!」
「なっ! 何言ってるのよ! そんなこと絶対させないわよ! っていうかバージルから離れなさいこの雌竜ぅぅぅ!!」
その言葉を聞き真っ赤になりながらルイズがシルフィードを後ろから羽交い絞めにしてバージルから引きはがした。
そんな中シルフィードの拘束から解放されたバージルはコートを手で払いながら何やら苦々しげな表情を浮かべる
「愛だと? くだらん……」
憎悪すら感じさせるバージルの呟きは騒ぐルイズ達によって掻き消されていった。


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