あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

鋼の使い魔-38


 タルブ村北面街道は今、切り立つ石板の砦を挟んで両軍がぶつかる激戦を繰り広げていた。
 石板を遮蔽にした長銃射撃、それを背後に負った切り込みが統率力を落としているアルビオン兵を徐々に切り崩す。
 流れで押し切れると考えていたアルビオン上陸部隊は急いで頭上の艦隊に砦を砲撃するように伝え、アルビオン艦隊はそろそろと砲撃を眼下の石列に投げ込んでみようとした矢先。
 東の丘に配した銀狼旅団砲撃隊が、滞空するアルビオン艦隊へ砲撃を始めたのである。アルビオン艦隊の注意は、物言わぬ巨石の群から緑茂る丘から飛んでくる砲弾に流れ、砦を崩すはずの艦砲が地上から見るとあらぬ方向へ飛んでいく。

「でぃぃぃぃぃやぁっ!」
 アニエスの振るう湾刀が間近の兵士を縦に両断する。わずかに息を吐き、彼女は飛ぶように戦場を走った。
(トリステイン王軍が到着するまで、我々はタルブに一兵たりとも入れさせるわけには行かない…)
 村主幹部を落とされればアルビオンはそこを拠点に更なる強固な陣を組むことが出来るだろう。
 それに村まで兵士が入れば森に避難している住人にも危険が迫るのだ。

「ハァ、ハァ、ハァ…」
 シエスタとロベルトは激突する両軍の怒号が彼方に聞こえる中、必死に西の森へと向かっていた。
 足腰の衰えたロベルトを慮り、シエスタは村から森への最短ルートを取らず、領主の屋敷の方向へ一度抜けて森に向かうルートを取っていた。お屋敷の麓は葡萄畑の収穫を手早く運び出す為に、よく整備された小道が走っているのだ。
「もう少しだから頑張ってね。大爺ちゃん」
「やれやれ…ウィリアムさんのようにはいかんな。身体がしんどくてかなわん…」
 矍鑠して健康とはいえ齢100を越えたロベルトは、急ぎ足で進むシエスタについていくのが精一杯だった。
 二人の目の前に丘の一部を崩して作られた領主のお屋敷が見えた。麓を石垣で区分けされた葡萄の畑が広がっている。普段なら人が入っているだろう無人の畑に、東側から土煙を上げて前を横切っていく何かがいた。
「あっ…?!」
 遠景にしても、それは馬に乗った数人の兵士だった。10名にも満たない兵士が秘かに石板の砦を抜けてブドウ畑を横切り、領主の屋敷へと迫ろうとしていたのである。しかし騎兵達はシエスタ達の前を過ぎると向きを変えて此方に向かってきた。5メイルほどの距離を隔てて、騎兵は二人の前に止まった。
「隊長。村人らしき者がいましたぜ」
 手綱を取りながらどこか粗野な風情の騎兵が叫ぶ。
 隊長、と呼ばれた者は、ゆっくりと馬を進めて部下の騎兵に近づく。その格好は羽帽子に、鮮やかな浅緑の兵隊服。アルビオン兵士のものではなかった。
 張り詰めた緊張の中、シエスタとロベルトはじりじりと下がりながら無意識の内に互いの得物に手をかけていた。
「初めに言ったはずだ……ふぅ、目に見えた者は…殺して…しまえ」
 どこか曖昧な口調で、『魔法衛士大隊兵服』の男…ワルドは言った。



 『タルブ戦役・五―集結―』



 突然現れたルイズが目の前から消えさり、残されたギュスターヴは傍らに倒れているコルベールに駆け寄った。
「コルベール師、しっかりしてくれ!」
「ぅ…ミスタ・ギュス……」
 コルベールは気色が蝋人形のように白くなり、息も絶え絶えとなっていた。
 彼の身を起こしていたギュスターヴに、女子寮から二人の人影が駆け足でやってくる。
「ギュ~ス!、ミスタ・コルベール!」
 キュルケとタバサはただならぬ状態にある二人を見て声を上げた。
「どうしたの一体?!」
「こっちが聞きたい位だ…。教えてくれキュルケ、なぜルイズが女子寮から飛び出してきたんだ。いや、そもそも王宮に出かけているはずのルイズがなぜここに居たんだ?」
 タバサが杖を抜いてコルベールに寄り添う。
「話は後。まずミスタ・コルベールを助けてから」
 抜いた杖先をコルベールに向けてタバサがルーンを紡ぐ。治癒【ヒーリング】は本来、外科的な治療に効果を発揮するが、多少であれば内部疾患にも効果がある。タバサの魔法でコルベールの呼吸は緩やかになったが、蒼白の気色は変わらない。これ以上は専門の秘薬などが必要であった。
 三人は研究塔の中にあるコルベールのベッドに彼を運ぶ。最中キュルケは伏目がちながらも女子寮で見たことを話し始めた。
「お昼の後部屋に居たんだけど、隣…ルイズの部屋ね。そこで爆発が起きたの。幸い部屋壁が吹き飛んだりはしなかったんだけど、慌てて飛び出してルイズの部屋に入ったわ。そこにはルイズが居て、不思議な形の剣を持っていて、『ルイズ、どうしたの?』って聞くと、ニヤッって笑って窓を割って外に飛び出しちゃったの」
「いつ帰ってきていたか分かるか?」
「それが…全然」
「彼女は朝外出したきり部屋に戻っていなかった」
 タバサがいつもの風情で話し出す。
「爆発の起きる時、私はキュルケの部屋に居た。ルイズが部屋に入るなら扉の鍵を開けるはず。でも、彼女の部屋の鍵は閉まったままだった」
 音に敏感な風属性のメイジなら、隣の部屋鍵の開け閉めくらいはすぐに気が付くだろう。
「ルイズは突然部屋に現れた。そして窓を飛び出した。私達に分かるのはそれだけ」
「そうか…」
 ギュスターヴの前に現れた時のように、またそこから立ち去った時のように、ルイズは突然現れたとしか思えない。
「ミス…ヴァリエールは……」
「…コルベール師」
 ベッドに横たわるコルベールが途絶え途絶えに言葉を紡いでいた。
「私から…何かを吸い取っていました……それを『アニマ』と言ってました…」
「アニマ?」
 聞きなれないキュルケは首を傾げるが、ギュスターヴはルイズの語った事を思い出していた。
(アニマ……ルイズはコルベール師からアニマを奪い取った。そしてタルブに行くと言っていた…)
 ふと、ルイズが片手に握っていた卵のような物体が記憶に蘇る。
(なんだったんだ、あれは…。何か良くない物のような気がしてならない…)

 果たして、それはナイツの一族が永年追いかけ続けた、あるグヴェルに酷似していたことなど、ギュスターヴに知る由もない…。

「ルイズったら、どうしちゃったのかしら。引っ掻き回した挙句もう何処にもいないし…」
「タルブだ」
「え?」
「ルイズはタルブに行くと言っていた。あそこは今、アルビオンとの戦場になってるんだ」
 言ってギュスターヴはキュルケとタバサにジェシカからの手紙を見せる。
「ルイズはタルブで…集まった大量の兵士からアニマを手に入れるつもりらしい。何のつもりかは、知らないが…」
「ねぇ、アニマって何なのよ?」
 キュルケの問いかけにギュスターヴはわずかに逡巡した後、タバサやルイズに聞かせた内容を説明した。キュルケは最初、ギュスターヴがハルケギニアの人間ではないと聞いて驚きはしたものの、次第に落ち着き、首肯してくれた。
「ふぅん。つまりアニマって精霊みたいなものなのかしら…」
 キュルケが一応納得していると、タバサがギュスターヴに向き合った。
「どうするつもり?」
「…ルイズをか」
「そう。多分、敵味方関係なくタルブで沢山の人間がミスタ・コルベールのようにアニマを吸い取られてしまう」
 戦場の混乱の中でアニマを奪い取れば双方に混乱を招くだろう。しかもルイズの変貌した様子から見れば、丁寧にアルビオン兵だけを狙って…というのは考えにくい。現に目の前でコルベールが倒れているのだから。
「連れ戻すなり顔ひっぱたいてやらないといけないわね。ってことでタバサ、シルフィード連れてきて「無理」ってどうしてよ?」
 意気揚々と踏み出そうとしたキュルケのマントを掴んでタバサが引き戻す。
「私達は外国人。下手に戦場に出ると外交問題になる」
「ぅ…そ、そうかもしれないけど。このままってわけにいかないでしょ」
 二人が言い合っている中で、ギュスターヴが立ち上がる。
「ミスタ…?」
 ギュスターヴは無言のまま塔内を歩き、部屋隅に置かれた自分の鎧に手をかけた。
 それは以前、ルイズの部屋からコルベールの部屋へ移していた、召喚された時に身に着けていた鋼の大鎧だ。
「俺が行く。ルイズがなぜああいう状態になったのか知らないが、このまま放っておくわけには行かないだろう。タルブにいるシエスタも心配だしな」
「でもシルフィードが使えないのにどうするつもり?」
「外の飛翔機を使う。燃料を全部使えば片道くらいは行けるはずだ」
 話しながらギュスターヴは服の上から鎧を身につけ始める。
「…俺はルイズの使い魔だからな。主人が乱心したら讒訴するくらいはしてやるさ」
 左右の盾甲、胴、手甲がつけられる。ギュスターヴの鎧は軽量化のために重要部分以外は革が多量に使われている。その分、使われている鋼の装甲は強靭である。
「どうやって止めるつもり?」
 足甲が付けられると、具合を確かめるように身体を動かした。
「どうやって、か。『引っぱたいて』でも止める」
 言われてキュルケがきょとんとした。タバサは軽く頷くだけだった。
 最後に折りたたまれていたマントが留め金に止められる。久しぶりの鎧は少し重いような気さえしたが、ギュスターヴはかまわず塔の扉を開いて外に出る。
 飛翔機の搭乗部に鎧のまま身体を押し込めると、機内に置かれたままだったデルフが鳴る。
「おおっ?!相棒随分とめかしこんでるじゃねーか。どうしたよ」
「何…」
 ベルトを無理矢理鎧の留め金に結びつけ、初めて空を飛んだときと同じように、レバーの様子を見て、リールを回した。
 そしてレバーを引いて噴射器が炎を吐く。
「ご主人様を連れ帰るだけだよ」

 炎と煙の尾を引いて飛翔機が飛び去っていくのを、キュルケとタバサが見送っていた。
「行っちゃったわね…」
「彼なら大丈夫。死にはしない」
「そりゃそうかもしれないけど…あぁもあっさり『引っぱたいても』って言われちゃうとね」
 キュルケはともかく、タバサはほんの少しだが、ギュスターヴのことが分かりかけていた。
 ギュスターヴはいつでも、引くか進むかなら進む方を選ぶ。その根底には自分の未来を自分で切り開いてきたという意志の強さがあるのだ。
(ルイズ。お前に何があったか知らないが、そんな乱暴な力で何ができる。そうじゃないだろう?ゼロと呼ばれたお前だから、自分の力で道を切り開くべきなんだ…)
 操縦スペースの脇に貼り付けられた簡易地図、方位磁石と視界を見比べながら、ギュスターヴの乗る飛翔機は一路、タルブを目指す…。



 タルブの村の端で、シエスタとロベルトの二人は自分達を囲む騎兵達とにらみ合っていた。柄の悪そうな、明らかに正規の兵士ではない騎兵が馬上より二人を見下ろしている。
「へへへ…悪いなお嬢さん。隊長があんた達を殺せっていうからさ…」
「だからさぁ爺さん、その物騒な弓矢捨ててくれないかなぁ?」
 騎兵はいずれもメイジではなかったが、その手には机上槍(スピア)が握られている。
 シエスタも腰からプリムスラーヴスを抜いて構えてはいたが、足先がわずかに震えている。
 当然である。野犬や狼、クマの類を追い払うのとはわけが違う。相手は人間、しかも武器を持った兵隊なのだから。
「こっ…来ないで下さいっ!」
「アハハ、声が震えてるぜ…ほれっ」
 騎兵の一人が馬を操ってシエスタにけしかけると同時に槍を繰り出す。
「っ!」
 とっさにシエスタはプリムスラーヴスを横なぎに振るった。槍先は弾かれると、騎兵の握りが甘かったのか馬の前足の付け根に突き刺さった。勿論馬は驚いて暴れだし、馬上の兵士は慌てて手綱を取りなおした。
「くっ、このアマァ!」
「!」
 騎兵達の注意が反れた瞬間、シエスタの後ろに居たロベルトは矢筒から矢束を抜き、空に向かって束ごと弓で打ち上げた。
「あ?!」
「逃げるぞ!」
「えっ?」
 ロベルトはシエスタの手を引いて全速力でその場を離れ、来た道引き返し村主幹部へ逃げた。
「ちっ、追いかけるぞ!」
 いきり立つ兵士達は逃げるシエスタたちを追おうとした、その時。
「!!」
 静観していたワルドが馬から飛び降りる。瞬間、上空から矢が雨のように降り注いで騎兵達を刺し貫いた。
「「ぎゃぁぁぁぁ?!」」
 固まっていた騎兵達は全員が矢の餌食となった。あるものは脳天を刺し抜かれ絶命、もしくは落馬して一命を取り留めたものの、矢が当たり暴れだした馬に踏み殺された。
「がふっ…」
 10人に満たない騎兵隊は老人の矢で一瞬の内に壊滅するのだった。しかしたった一人、上陸部隊隊長にして騎兵を率いていたワルドは無傷のまま、悠然と倒れ付す部下達を見下ろしていた。
「た、隊長…助けて…」
 辛うじて息の残っていた兵士が呻く。頭を覗いていたワルドは、ゆっくりと近づくと、靴底を鉄板で補強したブーツを振り上げ、体重を乗せて振り落とした。

 ぐにゃりと硬くて軟らかいものを潰した感触を覚えたと同時に、まだ息のあった兵士から声が途絶えた。
「すまんなぁ。始めからお前達は殺してしまうつもりだったんだ…僕が一人で動けるように…」
 滑り止めの鋲の打たれたブーツで強かに、はっきりと、執拗なまでにワルドは踵を何度も何度も、兵士の柔らかな顔面に落しながら、踵に感じられたわずかな起伏がなだらかになっていく。

「あぁ…死んでしまった。あの老人、なかなかやるじゃぁないか…ふふふ、はははははは…」
 鋲の間から血が滴り、乾いた笑いを遠く響かせながら、ワルドはゆっくりと歩き出した…。


 タルブ村南面街道の入り口には、トリステイン王軍のうち、騎兵を中心に足の早い部隊が既に終結しつつあった。
「兵士の皆!私とともに行くのです!」
 勇ましくユニコーンの背に乗ったアンリエッタが檄を飛ばす。
「グラモン元帥。別働隊を任せます」
「はっ。全速を以って敵陣の背後を突きましょう!」
「ド・ゼッサールには制空するアルビオン艦隊へのけん制を任せます」
「はっ。ワルドめにて着せられし汚名を雪いで見せましょう」
「殿下!アンリエッタ殿下!」
 先行させていた偵察隊から伝令が舞い戻ってくる。
「アストン伯らとともに、見慣れぬ兵士が戦っております。東の丘にも陣を敷いて敵艦をけん制している模様」
 それを聞いて控えていたグラモン卿とド・ゼッサールが動揺する中、アンリエッタは自若として頷いた。
「問題ありません。その者たちは私が遣わしたのです。…兵士達よ!今こそ存亡の時!ここを抜かれれば明日はないと知りなさい!」
 アンリエッタの声がいっそうに兵士達を煽り立てる。
「では殿下。我々はこれより出陣します。行くぞ!」
 グラモン卿は今回の戦に借り出された3000の兵士の内、騎兵500を連れてタルブの東の丘を迂回するルートへ向かい、ド・ゼッサールも魔法衛士大隊45騎を連れて空へ上がったのだった。
「…これでよかったのですね」
「はい。やれるだけの事はしたかと」
 騎乗するアンリエッタの下でマザリーニが応えた。戦場への同行を命ざれたものの、マザリーニは最後方で100の兵とともに待機し、退路の確保を行う。
「殿下、ここで勝ったとしても、その先があることをお忘れなく」
「分かっています。…既に決めたことですから。それにまだ勝つと決まったわけではないでしょう」
「負けるおつもりで?」
「戯言を」

 アンリエッタはそれきりで前を向き、自ら戦旗を掲げる。
「兵士達よ!私に続きなさい!」
 一際の歓声とともに、アンリエッタ率いる兵士2400は集結後、タルブへ入っていった。


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