あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゴーストステップ・ゼロ-15


ワルドの部屋に来ていたルイズは困惑していた、なにしろワルドが自分の事を褒めちぎるのである。

曰く、きっと素晴らしい才能をもっている。
曰く、魔法が爆発してしまうのは、きっとその才能が目覚めきれていないからだ。
曰く、その才能が目覚めれば、きっと始祖ブリミルに匹敵するほどのメイジになれるに違いない。

等々、そういった賛辞を情熱的な台詞に織り交ぜて語りかけてきたのだ。
確かに嬉しい、今まで自分の事をそこまで評価してくれる人はいなかったのだから。
今までの人生で、自分が家族以外の他人から得た評価は、常に低く、侮蔑と嘲笑が混じったものだった。
だからこそ、困惑する。
確かに、ヒューからも似たような事は言われた。しかし、それは彼がハルケギニアの常識を知らないが故に言えた事だろう。
だが、ワルドは違う。彼はこのハルケギニアで貴族として生きている、ならば何故この様に言いきれる?

一体、何を根拠にそこまでの事を言いきれるのか。



ゴーストステップ・ゼロ  シーン15 “Night of la-losier”

    シーンカード:カゲ(死/これまで潜伏していた勢力が動き出す。刺客襲来。昇華。)




もしかして、今日まで放っておいた罪滅ぼしや罪悪感から言っているのだろうか。いや、もしかしたら単にご機嫌取りの言葉かもしれない。
実際、可能性としてはそれが一番ありえそうな話だ。自分の実家であるヴァリエール公爵家は、ここトリステインでも有数の名家だ、誼を結ぶ事が出来れば貴族としての格も上がる。その上、この任務を無事にこなせば姫様からの覚えもめでたくなるだろう。

そこまで考えて、ルイズはふと引っかかりを感じた。
何かがおかしい、奇妙な感じ…というか不快感を覚える、何かが食い違っている様な、喉まで出かかっている言葉が出てこない…そんな感覚だ。
思考の海を漂うルイズだったが、ワルドが告げた言葉に無理矢理引き戻される。

「ルイズ、この任務が終わったら結婚しよう。」

ルイズは一瞬、息をする事も忘れていた。
ぽかんと、間抜けな顔のままワルドを見返す。
今、何を言われた?任務が終わったら結婚しようとか言わなかったか?

ルイズの表情がゆっくりと変わっていく、間が抜けた表情から真剣な表情へ。そして瞳はワルドの目をしっかりと見据えている。
対するワルドはルイズの変化に驚き戸惑っていた。この部屋に招き入れた当初、彼はルイズを篭絡するため、自らの推測をある程度ぼかしながら会話を進めた。実際、宮廷にいる大概の貴族は、ここまで褒め称えれば自らの自尊心を満足させて、表情を緩めて油断する事を、彼は自らの経験上承知していたのだ。
しかし、目の前にいる少女は、自分が何か言う度に眉根を寄せて考え込んでしまった。
ワルドは困惑する、かなり長い間放っていたとはいえ、朝方から交わした会話の感触から見ても悪感情は持たれていないと確信していたのに、この部屋に招き入れて会話を交わし始めた時から何かが狂い始めたのだ。
何をもって彼女に警戒心を抱かせたのか、ワルドには全く分からなかった。

そんなワルドにルイズが言葉を返す、その言葉にはほんの少し棘が含まれていた。

「ワルド、いきなり何を言いだすの。」
「いきなりじゃないよ、ルイズ。僕はね、誰からも認められるような男になったら君を迎えに行こう、と常々思っていたんだ。」
「それは、ヴァリエール家に相応しくという意味かしら?」

ワルドは内心ほくそえんだ。なるほど、ルイズは「自分ではなく家の力を欲しているのでは」と思っていたのだろう。
しかし、とワルドは心の内で頭を振る。真実、自分は欲しているのだ、彼女の『虚無』を。



話はワルドがレコン・キスタに参加し、それなりの評価を受けるようになった頃に遡る。
その頃、ワルドはレコン・キスタの盟主であるオリヴァー・クロムウェルから、奇妙な指令を受けた。
その指令とは、“トリステインの貴族に魔法を使えない者がいる場合、その人物を監視せよ”というものだった。その時、彼の脳裏に浮かんだのは誰あろう、自分の名ばかりの婚約者であるルイズの事である。
確かに、指令の内容と見事に一致していた。しかし、ここでワルドは不審を覚える、何故この様な指令が出たのか…。
魔法が使えない以上、戦力になり得ないのは自明の理だ、ならばこの指令には何か裏があるのだろう。
戦力にならない存在を警戒する理由、それにはそれだけの理由があるはずだ。
そして、その“理由”は程なく理解できた、他ならぬレコン・キスタの蜂起によって。
彼等はこう宣言して立ち上がったのだ。

「始祖ブリミルの悲願を蔑ろにした王家に代わり、我等は始祖ブリミルの悲願を達成すべく立ち上がった。
 もはや王家に始祖ブリミルの恩寵はあらず、我等が盟主オリヴァー・クロムウェルこそ、始祖ブリミルの恩寵を新たに享けた存在である。
 そう、彼こそが始祖ブリミル以来、誰も扱い得なかった『虚無』の使い手なのだ。」

その宣言を聞いた時、ワルドはまるで雷をその身に受けたかのような衝撃を覚えた。
始祖のみが使えたと言われる、最強の系統『虚無』。それを手にするクロムウェルが何故、力を持たない者を恐れる?
否、彼は…クロムウェルは恐れていたのだ。自らと同じ者が『虚無』として覚醒してしまう事を。
それを確信した後、ワルドは始祖に関する情報をかき集めた。『虚無』とは何か、始祖はどのような行動をとったのか、それこそありとあらゆる情報を集め・調べ・検証した。殆どの情報は全く使えなかったが、いくつか確かな情報もあった。

“人、もしくは亜人が使い魔であった事。『虚無』の呪文は『系統』のそれと比して長い事。”

少ない情報だったが、使い魔に関しての情報は朗報だった。何しろトリステイン魔法学院では、2年の進級時に使い魔を召喚しなくてはならないのだ。この時、ルイズが人を召喚するようなら、ほぼ確実に『虚無』の使い手だろう。
もし、違っていてもルイズを娶れば、ヴァリエール公爵家に恩を売れる。レコン・キスタがトリステインを併呑するようなら切り捨てればいい。ワルドにとってみれば、なんとも都合が良い話だった。
そして、運命の日。ルイズはワルドが睨んだとおり、人を召喚し使い魔とする。何とも風変わりな男だったが、ワルドにとってみれば魔法を使えない平民など、気にする程のことでもなかった。

そうなると、ルイズとの間に出来た空白をいかにして埋めるかが思案の種だった。婚約者とはいえ所詮、双方の父親が酒の席で戯れに交わした口約束に過ぎない。ルイズの力をあの当初から知っていれば、何としてでも空白は作らなかっただろうが、流石に後の祭りというものだ。
年単位で放っておいた癖に、いきなり尋ねるわけにもいかず、どうしたものかと考えていると、ルイズとその使い魔の活躍が耳に入ってくる。
何と、召喚した男は風のスクエアだというのだ。その上、天下を騒がせていた盗賊“土くれ”のフーケから、盗品を奪い返したという話まで聞こえてきた。
ワルドは焦った、例の男は使い魔だから恋仲になるなどありえないだろうが、どのような事にもイレギュラーというものはありえる。ここはルイズの進級を名目に会いに行くべきか…等とゲルマニアからの帰還中に考えていると、レコン・キスタから、再び指示が舞い込んできた。王女とゲルマニア皇帝の婚姻に対する妨害工作である。

護衛をしながら王女を見ると、確かに何やら悩み事があるように見える。
そういえば王女とルイズが幼馴染だった事を思い出したワルドは、周囲に人がいなくなった頃を見計らってルイズに相談するよう持ちかけた、もちろん彼女に有能なメイジの使い魔がいる事を匂わせながら。

自分の提言にまんまと乗った王女は、予想通りルイズにウェールズ皇太子が持つ手紙の奪還を依頼した。
遍在を使って2人の話を盗み聞いていたワルドは、この展開に笑い出したくなった。丁度良い、この機会にルイズをレコン・キスタに誘おう、そうすれば組織内における自分の地位はより磐石なものになる。その上で手紙を奪い、皇太子を暗殺できればもはや言うこと無しだ。

ルイズの部屋から戻って来た王女を言いくるめて、自分も任務に参加できるように仕向ける事は造作もなかった。なにしろこの身は自身を守護する魔法衛視隊の隊長である上、「婚約者が心配だ」「マザリーニ枢機卿からも姫殿下の命に従えと」等と告げれば良かったのだから。流石に任務の内容に関しては何も話さなかったが、十分知っていたので聞く気も無かった。

そう、自分が欲しいのはルイズの家系ではなく、ルイズの力なのだ。



ルイズの疑念が篭った声に、ワルドは明るく笑いながら答えを返す。

「やれやれ、何を言い出すかと思えば。僕の大事な人はそこまで僕を信用してくれないのかい?
 言っておくけど、僕が言った事は全て心からそう思ったからなんだよ?
 君に特別な力を感じたし、確信もしている。
 流石に、今まで放っておいて、会った途端に結婚を言い出したのは性急すぎたかもしれないけれど。ただ僕がどれほど君の事を思っているか、それだけでも分かってはくれないだろうか。」

ワルドは、じっとルイズの瞳を見つめながら話しかける。
そんな、ワルドの視線にルイズは頬を染めながら目を逸らし、口の中で何やら呟く。
実際、ルイズとて嬉しいのだ。これまでの人生、あまり褒められた事も口説かれた事も無かった。そういった意味ではルイズは本物の箱入り娘と言っていいだろう。

「そ、それは。疑ったりしてないわ。
 けど、私は未だ実技では失敗ばかりだもの。それなのに、いきなりあんな事を言われても理解できないのよ。
 第一、貴方があそこまで言える根拠って何なの?私にはメイジとして誇れるものなんて何もない…。」
「いや、君は忘れているだけだよ。」
「え?」
「君の使い魔の彼さ。確か、ヒュー・スペンサーだったか。
 聞いた話では、遍在すら使いこなす優秀なメイジだという話じゃないか。そんな人物を使い魔にできるほどの力を君は持っているんだよ。
 古来、幻獣や韻獣を使い魔にした例はあっても、メイジを使い魔にしたメイジなんて聞いた事が無い。これは誇っていい事なんだルイズ。
 君には力があるんだよ。」
「え、ええ。ヒューが凄い人だっていうのは分かっているけど…」

言いよどむルイズを見て、ワルドは少し焦りすぎたかと省みた後、偽りの笑顔を浮かべつつルイズに話しかける。

「すまない、思った以上に美しく成長した君を見て、焦ってしまったみたいだ。」
「ワ、ワルド。いきなり何を言い出すの!」
「醜い男の嫉妬ってやつだよ。
 笑ってくれルイズ、僕は君に再会してから今まで、ずっと君の事が頭から離れなかったんだ。
 叶うことなら、君を薔薇に包まれた屋敷に隠して、世の男共の目に触れさせたくない位さ。」
「そんな、そんなこと言われても困るわ。だって私達、これから姫殿下の任務を果たさなければならないのよ?」
「ああ、そうだね。
 残念だけどこの話は一度引っ込めよう、この話は任務が無事終わった後、改めて考えようじゃないか。」

自ら引いてくれたワルドにルイズは、なにやら申し訳ない気持を抱いた。その気持からだろうか、ワルドの部屋を辞する時にふと、言葉が零れたのは…。

「ごめんなさい、ワルド。でも、貴方の事を嫌ってるわけではないの。」
「ああ、分かっているとも。愛しい人。
 謝るのは僕の方さ。いきなり、あんな事を聞いたら普通は混乱してしまうからね。
 さあ、もう夜も更けてしまった。まだ旅は始まったばかりだ、疲れを残さない為にも早く休んだ方がいい。」
「ええ、ありがとう。ワルド、おやすみなさい。」
「おやすみ、ルイズ。」

ワルドはルイズの額に優しく接吻をした後、部屋から送り出した。

ルイズを送り出し、一人部屋に戻ったワルドは、ベランダでワインを傾けつつ、計画通りにいかない現実に歯噛みしていた。
自分の有能さをルイズに見せる為、ヒュー達を置き去りにした結果、予定外の戦力が増えた。
孤独な学生生活を送っていたはずのルイズにいた友人や、彼女の成長…予想外の事が次々と起きている。
恐らくこういった事の原因には、あの使い魔の男“ヒュー・スペンサー”が絡んでいるのだろう。認めたくはないが、あの男が緩衝材になることで、ルイズが周囲に対して目を向けるようになったのだ。
ルイズが孤独だったら篭絡する事は容易かっただろう。孤独な人間は一見、いくら強く見えても、容易く揺らぐ。恐怖で、そして、偽りであろうとも愛情で。

再びルイズを孤独にするには、あの使い魔が邪魔だった、ヒューをなんとかすればルイズは自分に頼らざるを得なくなるだろう。
何といっても自分とヒュー以外は学生しかいないのだ。ヤツを何とかすれば後の小娘や小童はどうとでもなる。
一番いいのは、ヤツを消してしまう事だが相手は自分と同等か少々劣る位の使い手だ。慎重に事を運ばなければ手痛いしっぺ返しを食らいかねない。
どうしたものかと、考えているとワルドの視界ギリギリに見覚えのある、コートが翻った。
よく見ると、今まで対策を考えていた男…ヒューだった、色街に行くつもりなのか、ギーシュを連れて行っていないのは都合が良い。
即座に遍在を唱え自分の分身を生み出して、ヒューを追わせる。すでに見えなくなっていたが、その場合は待ち伏せをさせる。
場所は、この宿へつながる路地裏、数箇所に配置しておけば、どこから戻ろうと必ずどれかに引っかかるだろう、相手が遍在を使う前に怪我の一つも負わせておけば、後々仕事もやりやすい。
ワルドは未だ、自分がついていると疑いもしていなかった。




ヒューは1人、宿を抜けてラ・ロシエールの街を歩いていた。
マチルダに教えてもらった、キンバリーという商店へ向かっているのだ。
元々、アルビオンへ渡った際、地元の協力者を得る為にマチルダに協力を依頼したのだが、タバサも参加した為、もはやただの配達人となっている。
<IANUS>経由で<ポケットロン>に移した地図を見ながら、街の影を縫うように歩いて商会に向かう。

「ここか…」

フネを意匠化した看板には、ハルケギニア語でキンバリーと記されていた。
周囲を確認して、人がいない時を見計らい商会の扉を叩く。
しばらく経った後、扉に備え付けられているスリットが開き、中から誰何の声が飛ぶ。

「どちら様でしょうか?本日の営業は終了しましたが…」

声に対して、ヒューは封筒の封蝋が見えるようにスリットにかざす。

「こちら様だよ、悪いけど入れてくれるか?」
「!少々お待ちを。」

暫く〔といっても5分もなかったが〕待った後、人一人やっと通れる位の隙間が開く。
滑り込む様にヒューが中に入ると、中には3人の男がいた。正面に初老の男が1人、右斜め前に少年が1人、そして扉を開けたであろう壮年の男が短剣を携えて左側に立っている。
ヒューはその立ち位置を確認すると、不敵な笑みを浮かべて両手を上げる。左手にはマチルダから受け取っていた封筒がある。
壮年の男が封筒を受け取ると、中央にいる男に渡す。

渡された初老の男が封筒の中を確認している間、ヒューは警戒の視線にさらされたが、気にする風も無く上げていた両手を下ろし、扉に背を預けた。
手紙を読み終わったのか、初老の男がヒューに話しかけてくる。

「さてヒュー・スペンサー様でしたか、自己紹介が遅れましたな、私はキンバリーと申します。
 手紙によると何か依頼したい事があるとか…、ご要望をお聞きしましょうか。」
「情報が欲しい。王党派、レコン・キスタ双方のなるべく詳細な現状だ。それとなるべく詳しい地図があったら見せてくれ。」
「ほう、手紙には案内人の紹介云々とありましたが、それはいいのですかな?」
「ああ、そちらについては何とかなりそうだからな。」
「左様ですか。情報でしたな…大まかな所は巷で広がっている通りです、レコン・キスタの勢いに押され、王党派の軍は既に千を切っております。今ではニューカッスルに立て篭もっている者で全てでしょう。」
「対峙している軍の概要は?」
「王党派に対峙しているレコン・キスタの軍勢は傭兵も含め5万、フネの方はロイヤル・ソヴリン…レコン・キスタでレキシントンと改名した最新鋭の戦艦を始めとして10数隻が参戦しております。」
「よくもまぁ、それだけの戦力差がついたもんだな。アルビオンの王家っていうのはそこまで無能だったのか?」

ヒューの呆れたような感想にキンバリーは頭を振った。

「いいえ、可もなく不可もなくといったところでしょうか。」
「となると、何か理由があるのか?」
「はい、この騒動…いえ、内戦では度々奇妙な裏切りが続発しております。」
「奇妙な裏切り?」
「そうです、王に対して絶対的と言っても良いほどの忠臣の裏切りが多発しまして。」
「それが」
「ええ、恐らく彼等が言う『虚無』による力ではないかと。」

ヒューは、クロムウェルが『虚無』の使い手ではないという事は確信していた。何しろ覚醒に必要な要素が普通の方法では、まず手にする事が出来ない物なのだ。仮に王家の落胤だったとしても、残り二つを手にするには天文学的な確率の幸運が必要になってくるだろう。だからこそ、次にする質問は決まっていた。

「他に人の精神や心に干渉できる魔法やモノに心当たりは?」
「そうですな、禁制の水の秘薬なら可能性はありましょう。後は…そう、『先住』という可能性もあります。」
「レコン・キスタのクロムウェルっていう男は、水の使い手なのか?」

浮かびあがった疑問をキンバリーに聞く。

「例の司教ですか。いえ、系統魔法を使えるという話は聞いた事はありません。」
(となると何がしかの薬か道具という線か…。)

キンバリーの答えを聞いたヒューは、クロムウェルの力に関して考えを巡らせた後、別の質問をする。

「じゃあ、次は王党派だな、何か聞いているかい?」
「特に何も。王が体調を崩されている為、実質的に率いているのは皇太子だ、という事くらいでしょうか。」
「後、アルビオン関係で何か話を聞いていないか。」
「…そういえば、最近妙な空賊がよく出るという話です。」
「妙な空賊?」
「はい、大体ラ・ロシエールから出るフネを狙って襲っているという話ですよ。」
「その空賊は何かおかしいのか?」
「メイジの数です。」
「多いのか?」
「はい、逃げ帰った船乗りの話では、船長以下10名以上のメイジがいたとか。」
「普通はどれ位なんだ?」
「5名もいれば多い方でしょう。」
「なるほどな、参考になったよ。」

そこまで聞いたヒューは、アルビオンの地図を見せてもらって商会を立ち去った。
街を歩いていると、デルフがヒューに小声で語りかけてくる。

【相棒、なんでまた空賊の事をあそこまで聞いたんだ?】
「可能性の問題かな。」
【可能性?】
「ああ、もしかしたら思ったより早く皇太子と会えるかもしれない。」
【そいつは、どういう意味だい?】
「こいつはもう推理とかそういったもの通り越して、ただの願望だからな。当たればもうけものっていうヤツさ。」
【良く分からんが、当たれば良いなその願望。そうそう、そういえばさっき言ってた話なんだけどな、心当たりがあるぜ。】
「というと?」
【心を操るとかいう話さ。】
「お前が知っているとなると、『虚無』関係になるのか?」
【いいや、『虚無』じゃない。確か『先住』にそういった類の…】

デルフリンガーと会話をしつつ、宿への近道とばかりに裏道へ入った瞬間、不意にヒューがデルフの口を止める。

「デルフ」
【どうした?相棒】
「お客さんだ。」

人がすれ違える事が出来るかどうかという位、狭い路地裏に1人の男が立ちふさがっていた。
杖にマント、貴族らしい出で立ちだ。顔は仮面をかぶっているので分からないが、露になった口元からは髭が覗いている。
ミラーシェード<弥勒>の下に隠れたヒューの目が、冷たい光を湛えた。

(貴族派か…となると、存外連中の手は長いようだな。上手い事捕まえる事が出来れば御の字だが。)
「どいてくれると有難いんだけどな。それともこちらがどこうか?」

まずは軽く話しかけてみる、敵対するにしろ懐柔するにしろ、相手の人となりは知っておきたい。
しかし、そんなヒューの思惑を知っているのか、男は杖を抜いてヒューに突きつける。どうやらバディにはなれないらしい。
男が構えた杖は、中々立派な拵えのもので武器としても十分機能しそうだった。
ヒューは内心、舌打ちをしながら戦闘態勢を整える。左手で懐からナイフを取り出し、右手にデルフを構える。
<IANUS>に音声と映像のバックアップを最大レベルで命じながら、相手の出方を伺う。相手を見ると不思議な事に、どこか戸惑っている様に見える、あたかも聞いていた話と違うモノを見たような反応だ。

「さて、人違いならいい加減、勘弁して欲しいところなんだが…。どうする?ミスタ」

ヒューのその軽口に激昂したのか、それとも元からそのつもりだったのか、男の杖から風の槌=エア・ハンマーがヒューに向かって飛ぶ。
ここが狭い路地裏だという事から、確かにこの選択は間違いではなかっただろう。左右にも後にも、そして下にも逃げる余地など無いのだ。フライだろうとレビテーションだろうと、唱えて宙に逃れる前に空気の槌に打ち据えられるだろう。
しかし、男が対峙しているのはメイジではなかった。災厄の街から来た“幽霊”ヒュー・スペンサーだ。
ヒューはエア・ハンマーが到達する刹那、周囲の壁を確認する、N◎VAと比べる事すら愚かしいほど起伏に富んだ壁面、なればこそ、可能な回避方法があった。

“それ”を見た時、仮面の男は自分の常識に疑惑を、対峙している男…ヒューの能力に驚愕を抱いた。路地を埋め尽くした回避不能のエア・ハンマー。しかし、あろう事かヒューは必中の攻撃を“壁を駆け上がって避けた”のだ!
しかも、左手に携えていたナイフを恐ろしい程の速さで投げつけて来る。その為、ヒューがフライやレビテーションで回避した際に使おうと準備していたエア・カッターで迎撃せざるをえなかった。
ナイフを打ち落とした後、辺りを見るがヒューの姿はどこにも見えない。あせってヒューを探す仮面の男の耳に、どこからともなく、からかう様な声が響いてくる。

「じゃあな、ミスタ・クラウン。風を吹かせたければ風車かフネの帆にでもやっている事だ。」

急ぎフライを唱え、周囲を上空から見回したが、ヒューの姿は大通りの人波にまぎれこんだのか、もはやどこにもなかった。
そう、あたかも“幽霊”の如くその姿を眩ませたのだ。



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