次回予告
「バスオンでい! おい姫さん、ルイズの嬢ちゃんに勝手な頼みするんじゃねえ! おいおい、アルビオンが大変な事になっちまってるぜ!? あれを? 急ぐ? 皇太子?
GP-12 姫君ライホウ
――GO ON!!」
「バスオンでい! おい姫さん、ルイズの嬢ちゃんに勝手な頼みするんじゃねえ! おいおい、アルビオンが大変な事になっちまってるぜ!? あれを? 急ぐ? 皇太子?
GP-12 姫君ライホウ
――GO ON!!」
新聞騒動から数日後、リンテンバンキのばら撒いた新聞記事による諸々は無かった事となっていた。影響といえば街のあちこちに捨てられた大量のゴミの後始末程度で、魔法学院はすっかり日常を取り戻していた。
「最強の系統とは何か判るかね?」
授業中、前座を務める風属性担当教師・ギトーが質問した。
「虚無ですか?」
生徒の1人の答えに教壇に立っているギトーは不機嫌そうな表情で、
「現実での話だ。ミス・ヴァリエール、答えなさい」
「そんなものは存在しません。攻撃するだけなら確かに火が最強でしょうが、そんなもの個人の実力差と戦術でどうにでもなります。ミスタ・ギトーは常々風が最強と言っていますけれど、風を使われなければオールド・オスマンにも勝てるとお思いですか? さらに言えば戦略・謀略によって持てる力を十分発揮できなかったとしたら?」
「なるほど、確かに私とて属性の強さだけでオールド・オスマンに勝てるなどとは思っていない。だがメイジの実力差が同程度であれば最強は風属性に他ならない」
「たいそうな自信ですね?」
「君の得意な魔法で私にかかってきたまえ」
「それならば私が相手になるぞよ」
ルイズの背後からした男の声に全員がその声の主に視線を向ける。
「キタネイダス……」
「ミスタ・キタネイダス、確かあなたは大気……つまり風属性でしたな。ひとつお手合わせ願いましょうか」
「いいぞよ」
ギトーの挑戦を受けたキタネイダスの言葉に、2人の間にいる生徒達が慌てて批難していく。
「それではどうぞ」
「それではいくぞよ」
そう言うが早いか杖を振り呪文を詠唱するギトー。風の刃がキタネイダスに殺到する。
それに平然と耐えてキタネイダスは黒煙をギトーに浴びせた。
「ゲホッゲホッ、ゲホゲホゲホ!」
激しく咳き込み行動不能に陥ったギトーの隙を突いて、キタネイダスはその喉に自身の杖を突きつける。
「お前がさっき言ったとおり風属性には大気、すなわち空気もまた含まれるぞよ。空気を吸わずに生きられる者は少ない。そこを工夫すべきだぞよ」
「最強の系統とは何か判るかね?」
授業中、前座を務める風属性担当教師・ギトーが質問した。
「虚無ですか?」
生徒の1人の答えに教壇に立っているギトーは不機嫌そうな表情で、
「現実での話だ。ミス・ヴァリエール、答えなさい」
「そんなものは存在しません。攻撃するだけなら確かに火が最強でしょうが、そんなもの個人の実力差と戦術でどうにでもなります。ミスタ・ギトーは常々風が最強と言っていますけれど、風を使われなければオールド・オスマンにも勝てるとお思いですか? さらに言えば戦略・謀略によって持てる力を十分発揮できなかったとしたら?」
「なるほど、確かに私とて属性の強さだけでオールド・オスマンに勝てるなどとは思っていない。だがメイジの実力差が同程度であれば最強は風属性に他ならない」
「たいそうな自信ですね?」
「君の得意な魔法で私にかかってきたまえ」
「それならば私が相手になるぞよ」
ルイズの背後からした男の声に全員がその声の主に視線を向ける。
「キタネイダス……」
「ミスタ・キタネイダス、確かあなたは大気……つまり風属性でしたな。ひとつお手合わせ願いましょうか」
「いいぞよ」
ギトーの挑戦を受けたキタネイダスの言葉に、2人の間にいる生徒達が慌てて批難していく。
「それではどうぞ」
「それではいくぞよ」
そう言うが早いか杖を振り呪文を詠唱するギトー。風の刃がキタネイダスに殺到する。
それに平然と耐えてキタネイダスは黒煙をギトーに浴びせた。
「ゲホッゲホッ、ゲホゲホゲホ!」
激しく咳き込み行動不能に陥ったギトーの隙を突いて、キタネイダスはその喉に自身の杖を突きつける。
「お前がさっき言ったとおり風属性には大気、すなわち空気もまた含まれるぞよ。空気を吸わずに生きられる者は少ない。そこを工夫すべきだぞよ」
――GP-12 姫君ライホウ――
「ミスタ・ギトー、失礼します……どうしましたか?」
丁度その時コルベールが教室に入ってきた。
「本日の授業は全て中止です」
生徒達が歓声を上げる。
「いかなる理由があっての事ですかな?」
「最後まで聞いてください、ミスタ・ギトー。それをこれから説明するのです」
「最後から話してください、ミスタ・コルベール」
「……皆さんにお知らせです。恐れ多くも先の陛下の忘れ形見、我がトリステインがハルケギニアに誇る可憐な一輪の花、アンリエッタ姫殿下が本日ゲルマニアご訪問からのお帰りにこの魔法学院に行幸されます。そのため今度の使い魔品評会には姫様も御出席されます」
生徒達がざわめく。
「アンリエッタとは何者でおじゃる?」
「このトリステイン王国のお姫様よ」
「したがって粗相があってはいけません。急な事ですが授業は中止し、今から全力を挙げて歓迎式典の準備を行います。生徒諸君は正装し門に整列すること」
生徒達の間に緊張が走る。
「皆さんが立派な貴族に成長した姿を姫殿下にお見せする絶好の機会です。しっかり杖を磨いておきなさい。よろしいですか」
丁度その時コルベールが教室に入ってきた。
「本日の授業は全て中止です」
生徒達が歓声を上げる。
「いかなる理由があっての事ですかな?」
「最後まで聞いてください、ミスタ・ギトー。それをこれから説明するのです」
「最後から話してください、ミスタ・コルベール」
「……皆さんにお知らせです。恐れ多くも先の陛下の忘れ形見、我がトリステインがハルケギニアに誇る可憐な一輪の花、アンリエッタ姫殿下が本日ゲルマニアご訪問からのお帰りにこの魔法学院に行幸されます。そのため今度の使い魔品評会には姫様も御出席されます」
生徒達がざわめく。
「アンリエッタとは何者でおじゃる?」
「このトリステイン王国のお姫様よ」
「したがって粗相があってはいけません。急な事ですが授業は中止し、今から全力を挙げて歓迎式典の準備を行います。生徒諸君は正装し門に整列すること」
生徒達の間に緊張が走る。
「皆さんが立派な貴族に成長した姿を姫殿下にお見せする絶好の機会です。しっかり杖を磨いておきなさい。よろしいですか」
王女一行が魔法学院の正門をくぐった時、既に生徒達は整列していた。
――シャン!
いっせいに杖を振った音が見事に重なって喜びの挨拶を王女に伝える。
停車した馬車の横に代表者オールド・オスマンが迎える。
召使達が赤絨毯を素早く敷き詰める。
「トリステイン王国王女、アンリエッタ姫殿下のおなーりー!」
衛士が王女登場を告げる。
馬車から降りたアンリエッタはにっこり微笑んで優雅に手を振った。
彼女は童話から抜け出してきたようないかにもという姫がいた。すらりとした気品ある容貌、薄青の瞳、高い鼻が目をひく瑞々しい美女。男子ばかりか女子も歓声を上げている。
――シャン!
いっせいに杖を振った音が見事に重なって喜びの挨拶を王女に伝える。
停車した馬車の横に代表者オールド・オスマンが迎える。
召使達が赤絨毯を素早く敷き詰める。
「トリステイン王国王女、アンリエッタ姫殿下のおなーりー!」
衛士が王女登場を告げる。
馬車から降りたアンリエッタはにっこり微笑んで優雅に手を振った。
彼女は童話から抜け出してきたようないかにもという姫がいた。すらりとした気品ある容貌、薄青の瞳、高い鼻が目をひく瑞々しい美女。男子ばかりか女子も歓声を上げている。
大慌てで進められたわりには立派に準備が整った使い魔品評会会場。
キュルケ・タバサ・ギーシュ等が各自趣向を凝らして使い魔を披露していき、ついにルイズの順番が回ってきた。
「火竜山脈のサラマンダーや風竜にもできない事がケガレシア達にはできるのよ! それは素敵な歌を歌う事!」
「うん。だから目一杯歌うでおじゃるううう!」
ドラムスティックでヨゴシュタインがカウントを取り、
『サンギョーカクメイだ!!』
ルイズがギター、ケガレシアがベース、ヨゴシュタインがドラム、キタネイダスがキーボードでメタルサウンドに乗って高らかに歌い始めるのは「害悪産業革命宣言」。
「♪澄んだ空は気色悪い」
「♪豊かな大地反吐が出る」
「♪綺麗な水飲めやしない」
「♪夢や希望は邪魔なだけ」
『♪ケガれヨゴれてキタナくするぜ』
「ビックリウムエナジー発動!」
『♪サンギョーカクメイだ!(ジョッジョバー) 俺たちゃガイアーク(気高く)
サンギョーカクメイだ!(グチャグチャー) 俺たちゃガイアーク(かしこまれ)
地獄に悪の華咲かせ ガイアーク』
ノリにノッて歌う4人とは裏腹に、キュルケ達を含む観客の大部分は耳を押さえて悶絶していた。
「ぐああーっ! 何よこの酷い歌は!」
「歌って言うよりほとんど雑音じゃないか!」
キュルケ・タバサ・ギーシュ等が各自趣向を凝らして使い魔を披露していき、ついにルイズの順番が回ってきた。
「火竜山脈のサラマンダーや風竜にもできない事がケガレシア達にはできるのよ! それは素敵な歌を歌う事!」
「うん。だから目一杯歌うでおじゃるううう!」
ドラムスティックでヨゴシュタインがカウントを取り、
『サンギョーカクメイだ!!』
ルイズがギター、ケガレシアがベース、ヨゴシュタインがドラム、キタネイダスがキーボードでメタルサウンドに乗って高らかに歌い始めるのは「害悪産業革命宣言」。
「♪澄んだ空は気色悪い」
「♪豊かな大地反吐が出る」
「♪綺麗な水飲めやしない」
「♪夢や希望は邪魔なだけ」
『♪ケガれヨゴれてキタナくするぜ』
「ビックリウムエナジー発動!」
『♪サンギョーカクメイだ!(ジョッジョバー) 俺たちゃガイアーク(気高く)
サンギョーカクメイだ!(グチャグチャー) 俺たちゃガイアーク(かしこまれ)
地獄に悪の華咲かせ ガイアーク』
ノリにノッて歌う4人とは裏腹に、キュルケ達を含む観客の大部分は耳を押さえて悶絶していた。
「ぐああーっ! 何よこの酷い歌は!」
「歌って言うよりほとんど雑音じゃないか!」
――コーンコーン、コンコンコン……
夕食を終えたルイズが寝る支度を始めていると突然扉を叩く者が現れた。
「このような時間に何者でおじゃる?」
――コーンコーン、コンコンコン……
ルイズはその音の規則性に気付いて扉の方に向かうと扉を開いた。
その途端、真っ黒なフードを被った少女が室内に入ってきた。
「……何者ぞよ?」
キタネイダスの問いかけにフードを被った少女は「静かに」と口元に指を立て、杖をマントから取り出して軽く振り光の粉を室内に舞わせる。
「……ディティクトマジックなりか?」
ヨゴシュタインが尋ねると少女は静かに頷き、
「どこに目と耳が光ってるかわかりませんからね」
周囲を確認してフードを脱いだ少女は神々しいほどの高貴さを持つ美少女だった。
「姫殿下!」
慌てて膝を突くルイズにアンリエッタは笑みを浮かべ、
「お久しぶりね、ルイズ」
「姫殿下、いけません。こんな下賎な場所へお越しになられるなんて」
「ルイズ、そんな堅苦しい行儀はやめてちょうだいな。あなたと私はお友達じゃないの」
「勿体無いお言葉でございます。姫殿下」
「……席を外した方がよいでおじゃるか?」
思わずそう声をかけてしまったケガレシアにアンリエッタは気付いていなかったようで彼女に視線を向け、
「あら、ごめんなさい。お邪魔だったかしら?」
「お邪魔? どうして?」
「だってそこの彼女、ルイズの恋人なのでしょう? 嫌だわ、私ったら懐かしさにかまけてとんだ粗相をしてしまったみたい」
「違います!」
「あら、では何でこんな時間に?」
「ケガレシア――そしてヨゴシュタインとキタネイダスは私の使い魔なのです」
「ルイズ、あなたって昔から変わっていたけれど相変わらずなのね」
「信じられないでしょうけれど実力は保障します。火竜山脈のサラマンダー以上、風竜の幼生体以上、『土くれ』のフーケのゴーレム以上です」
強く言い切ったルイズにアンリエッタは頷いて微笑む。
「いい使い魔を召喚しましたね。……これなら安心して頼めるというものです」
「……頼める?」
アンリエッタの依頼というのは以下の通りだ。
アルビオンでクーデターが発生、王朝は転覆寸前の状況になっている。
王朝転覆後の新政権とトリステインは確実に敵対するが、現時点でトリステインの軍事力は対抗策として大きな不安が残る。
そこでアンリエッタがゲルマニアの王と政略結婚をする事になったが、その政略結婚の障害となる可能性のある内容の手紙をアルビオン皇太子が所持している。
アンリエッタとしては王朝転覆前にそれを回収せねばならない。
しかしトリステイン貴族達はアルビオンクーデター派との内通の危険性が高いため、アンリエッタは信用できる人物としてルイズに依頼に来たという事だ。
「国王陛下とウェールズ皇太子はニューカッスル城に篭城、陣を構えておられます。『土くれ』のフーケを難無く捕まえたルイズ達ならば、この困難な仕事もきっと果たせるものと見込んで参りました。可能ならばお二方をも密かにお救いし王位奪還を成し遂げられるようご援助したいものですが。……しかしこれは危険な仕事です。だからこそ王女としての命令ではなく、受けるか否かをルイズの判断に任せられる依頼という形を取ったのですが……」
「姫様、涙をお拭きになってください。たとえ地獄の釜の中でも異世界ヒューマンワールドでも、この私は姫様と王国の危機を見過ごしません。その一件是非お任せください。必ず完遂した上で生還してご覧に入れます」
「その通りでおじゃる。ルイズとわらわ達が姫殿下の命を果たせぬはずがないでおじゃる」
「まあ、頼もしい方。私の大事なお友達をこれからもよろしくお願い致しますね」
「かしこまり」
アンリエッタは頷いてルイズの机を借り一筆したためる。最後に躊躇しつつも末尾の一文を書いた。
「始祖ブリミルよ……、この愚かな姫の自分勝手をお許しください……。でも私はやはりこの一文を書かざるを得ないのです……」
そう呟くとアンリエッタは手紙を巻き杖を振るった。手紙に封蝋がなされ花押が押される。
そして指から青いルビーの指輪を外し手紙と共にルイズに手渡す。
「ウェールズ皇太子にお会いしたらこの手紙を渡してください。すぐに件の手紙を返してくれるでしょうから。それと……、これは母君から頂いた『水のルビー』です。身分証明とせめてものお守りに持ってください。旅の資金が不安ならば売り払ってもかまいませんが……」
「そんな、王国に伝わる始祖の秘宝に値段など付きませんわ」
「この任務には我が国の未来がかかっています。この指輪がアルビオンの猛き風より貴女方を守りますように。……明日の早朝、学院正門前に来てください。案内の者を呼んでありますので」
夕食を終えたルイズが寝る支度を始めていると突然扉を叩く者が現れた。
「このような時間に何者でおじゃる?」
――コーンコーン、コンコンコン……
ルイズはその音の規則性に気付いて扉の方に向かうと扉を開いた。
その途端、真っ黒なフードを被った少女が室内に入ってきた。
「……何者ぞよ?」
キタネイダスの問いかけにフードを被った少女は「静かに」と口元に指を立て、杖をマントから取り出して軽く振り光の粉を室内に舞わせる。
「……ディティクトマジックなりか?」
ヨゴシュタインが尋ねると少女は静かに頷き、
「どこに目と耳が光ってるかわかりませんからね」
周囲を確認してフードを脱いだ少女は神々しいほどの高貴さを持つ美少女だった。
「姫殿下!」
慌てて膝を突くルイズにアンリエッタは笑みを浮かべ、
「お久しぶりね、ルイズ」
「姫殿下、いけません。こんな下賎な場所へお越しになられるなんて」
「ルイズ、そんな堅苦しい行儀はやめてちょうだいな。あなたと私はお友達じゃないの」
「勿体無いお言葉でございます。姫殿下」
「……席を外した方がよいでおじゃるか?」
思わずそう声をかけてしまったケガレシアにアンリエッタは気付いていなかったようで彼女に視線を向け、
「あら、ごめんなさい。お邪魔だったかしら?」
「お邪魔? どうして?」
「だってそこの彼女、ルイズの恋人なのでしょう? 嫌だわ、私ったら懐かしさにかまけてとんだ粗相をしてしまったみたい」
「違います!」
「あら、では何でこんな時間に?」
「ケガレシア――そしてヨゴシュタインとキタネイダスは私の使い魔なのです」
「ルイズ、あなたって昔から変わっていたけれど相変わらずなのね」
「信じられないでしょうけれど実力は保障します。火竜山脈のサラマンダー以上、風竜の幼生体以上、『土くれ』のフーケのゴーレム以上です」
強く言い切ったルイズにアンリエッタは頷いて微笑む。
「いい使い魔を召喚しましたね。……これなら安心して頼めるというものです」
「……頼める?」
アンリエッタの依頼というのは以下の通りだ。
アルビオンでクーデターが発生、王朝は転覆寸前の状況になっている。
王朝転覆後の新政権とトリステインは確実に敵対するが、現時点でトリステインの軍事力は対抗策として大きな不安が残る。
そこでアンリエッタがゲルマニアの王と政略結婚をする事になったが、その政略結婚の障害となる可能性のある内容の手紙をアルビオン皇太子が所持している。
アンリエッタとしては王朝転覆前にそれを回収せねばならない。
しかしトリステイン貴族達はアルビオンクーデター派との内通の危険性が高いため、アンリエッタは信用できる人物としてルイズに依頼に来たという事だ。
「国王陛下とウェールズ皇太子はニューカッスル城に篭城、陣を構えておられます。『土くれ』のフーケを難無く捕まえたルイズ達ならば、この困難な仕事もきっと果たせるものと見込んで参りました。可能ならばお二方をも密かにお救いし王位奪還を成し遂げられるようご援助したいものですが。……しかしこれは危険な仕事です。だからこそ王女としての命令ではなく、受けるか否かをルイズの判断に任せられる依頼という形を取ったのですが……」
「姫様、涙をお拭きになってください。たとえ地獄の釜の中でも異世界ヒューマンワールドでも、この私は姫様と王国の危機を見過ごしません。その一件是非お任せください。必ず完遂した上で生還してご覧に入れます」
「その通りでおじゃる。ルイズとわらわ達が姫殿下の命を果たせぬはずがないでおじゃる」
「まあ、頼もしい方。私の大事なお友達をこれからもよろしくお願い致しますね」
「かしこまり」
アンリエッタは頷いてルイズの机を借り一筆したためる。最後に躊躇しつつも末尾の一文を書いた。
「始祖ブリミルよ……、この愚かな姫の自分勝手をお許しください……。でも私はやはりこの一文を書かざるを得ないのです……」
そう呟くとアンリエッタは手紙を巻き杖を振るった。手紙に封蝋がなされ花押が押される。
そして指から青いルビーの指輪を外し手紙と共にルイズに手渡す。
「ウェールズ皇太子にお会いしたらこの手紙を渡してください。すぐに件の手紙を返してくれるでしょうから。それと……、これは母君から頂いた『水のルビー』です。身分証明とせめてものお守りに持ってください。旅の資金が不安ならば売り払ってもかまいませんが……」
「そんな、王国に伝わる始祖の秘宝に値段など付きませんわ」
「この任務には我が国の未来がかかっています。この指輪がアルビオンの猛き風より貴女方を守りますように。……明日の早朝、学院正門前に来てください。案内の者を呼んでありますので」