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ウルトラ5番目の使い魔-33a


 第33話
 怪獣は、時空を超えて

 ウルトラマンメビウス
 ウルトラマンヒカリ
 凶獣 姑獲鳥
 ラグストーン・メカレーター 登場!


「ただいまーっ!」
 夏に入って強さを増す陽光を浴びながら、トリステイン魔法学院に才人の声が響き渡った。
 水の精霊の涙を得て、あれから丸一日、ようやく一行は懐かしき学び舎に帰還していた。
「おお、懐かしの学院よ。そして僕の愛でる花達よ、わずかばかりとはいえ、君達を寂しくさせてすまなかったね」
「モンモランシーに聞こえるぞ」
「ぎくっ! そ、そうだった、自重しよう」
 ギーシュもまた、はしゃいでいたところをレイナールにツッこまれて冷や汗をかく。
 だが、元気さを増す男子連中と違って、ルイズやモンモランシーはぐったりと疲れきった様子で、近づいてくる
学院の尖塔を見上げていた。
「はーっ、やっと帰ってきたわね……」
「まったく、男ってどうしてああ冒険が好きなのかしら」
 それは男にしか分からないだろう。二人の馬は男達に遅れてゆっくりと学院に歩いていた。
 とにかく、今は風呂にでも入ってぐっすり眠りたい気分だが、ルイズはともかくモンモランシーはこれから解毒薬の
調合にかからなければならない。まあ、自業自得で文句も言えないが、もう安心とばかりにはしゃいでいる
ギーシュの能天気ぶりを見ると腹が立ってくる。
「ほんとに、あれが水の精霊に土下座までした男とは思えないわね。けどまあ、またとない経験には違いないか」
「同感、濃い体験だったわね……そういえば、タバサはあれっきりどうしたのかしら」
 タバサの素性については、まだルイズ達は知らない。ふっと姿を消して後、キュルケから用事があって実家の
ほうへ帰ったと聞かされて、そのキュルケもタバサの実家に寄っていくと、あの後別れてきていた。
 ま、たった二人で怪獣に挑むほどの実力者だし、まず大丈夫だろうと楽観的に二人は思った。
「タバサはともかく、キュルケがいないと学院が静かでいいわ。ところでルイズ、あんたの使い魔、水の精霊に
アンドバリの指輪を取り戻してくるって簡単に約束しちゃったけど、大丈夫なの?」
「知らないわよ! まあ、期限は死ぬまででいいっていうし、そんなご大層な道具、使えばどっかで形跡くらい
残るでしょ。見込みが無いわけじゃ無し、見つかればラッキーと思っとけばいいわよ」
 実質期限は無いようなものだし、水の精霊に恩が売れるならそれも悪くはないだろう。もし盗んだ奴が見つかったら
気晴らしに盛大に吹き飛ばしてやろうと、ルイズは物騒な企みを抱いていた。
「ところで、その解毒薬ってのはどのくらいでできるの?」
「急げば数時間、これ以上疲れたくないんだけど、しょうがないわよねえ、彼も待ってることだし」
 モンモランシーはそう言って平原の一角を指差した。なんでもない原っぱが微小に揺れ動いている。もちろん
その下にヴェルダンデがいるためだ。
「あの子のためにも、急がないとね。なにせ、命の恩人ですもの」
 スコーピスにエースが追い詰められたとき、ヴェルダンデが勇敢にスコーピスに隙を作ってくれなかったら、
彼女達は今頃ここにはいられなかったかもしれない。本当にギーシュには過ぎた使い魔だ。
「ギーシュをあきらめて、ヴェルダンデと付き合ってみたら?」
「……それもいいかもしれないわね。ヴェルダンデが人間だったら、本気でプロポーズしてたかも。そこいくと
あなたはいいわよね。使い魔を恋人にできるんですもの」
「……なっ!?」
 冗談を思わぬ形で返されて、ルイズの顔が瞬時に真赤になった。
「ななななな、何言い出すのよ。つつ、使い魔を恋人!? そそ、そんなことあるわけないでしょ、あいつは所詮使い魔、
そう、犬、犬っころでしかないんだから!!」
 ここにキュルケがいたら大爆笑しただろう。本当に感情を隠すのが下手な子だ。
「でもさ、考えてみたらサイトも中々いい線いってるんじゃない? そこそこ強いし、頭も悪くないし」
「そりゃ買いかぶりすぎよ。ほっといたらすぐサボるし、面倒ごとは持ち込むし、な、なによりメ、メ、メイドとすっごく
楽しそうにいちゃついて、あたしのことなんか……」
 本当に分かりやすい。知らぬは当人ばかりなり、モンモランシーは恋愛上手だと自分を評価してはいなかったが、
上には上がいるものだとしみじみ思った。
「ふーん、わかったわ。けど彼、そのメイドとさっそく逢引してるわよ」
 モンモランシーに言われて見ると、先に走って行っていた才人が見覚えのあるメイド服の少女と早くも仲良しげに
話しているのを見つけて、ヴァリエール製瞬間湯沸かし器にスイッチが入った。
「あの犬、性懲りも無くまたあのメイドと!! こらぁ!! あんたにゃ溜まった仕事が山ほどあるでしょうが、戻ってきなさーい!!」
 鞭を風を切る音がするほどに振り回し、馬上から般若のごとき、牙でも生えてるんじゃないかと思えるくらいに、怖い
顔でルイズは怒鳴った。
「ぐっ!! ごっ、ごめんシエスタまた後で……とほほ、今日から掃除洗濯、雑用、召使い。んでもって使い魔生活か」
 苦笑しながら才人はぽつりとつぶやき、冒険の間に汚れたルイズの服を受け取ると、洗濯するために水場に駆けて行った。

 そして、かっきりと3時間後……待望の解毒薬は完成した。
「できたわーっ!! はーっ、疲れた」
 精魂尽き果てた様子で、モンモランシーはるつぼに入れたままの解毒薬をギーシュに差し出した。
「できたんだね!! よくやってくれたモンモランシー、ではさっそくヴェルダンデに持っていこう」
 待ちわびた解毒薬を受け取ったギーシュは、喜び勇んで学院の外壁の下で待っているように言ってある
ヴェルダンデの元へと飛んでいった。それにしても、せっかく苦労したんだから、行く前にもう少し何か言うことは
無いのだろうかと、いまいちモンモランシーは不満だった。
 しかし、モンモランシーには一抹の不安もあった。ヴェルダンデを巨大化させたのはあくまでも調合に失敗した
惚れ薬、それを解除するのに元の解毒薬で大丈夫なのかと。もし駄目だった場合には、今度こそ打つ手はない。
 けれど、それもしばらくたってギーシュが大はしゃぎしながら戻ってきたときには杞憂だったと分かった。
「成功したのね!?」
「そうとも! もう外にいるのは元の小さくて可愛いヴェルダンデさ、やっぱり君の調合の技術は本物だったよ。
さあ、この喜びを共に分かち合おうじゃないか」
「ち、ちょっと!!」
 すっかり舞い上がったギーシュは両手をいっぱいに広げてモンモランシーに飛びついていく。その後ろはベッド。
 しかし!!

「いやーっ!!」

 一瞬の詠唱の差、このときモンモランシーはスクウェアクラスに匹敵するんじゃないかというくらいの速さで、
『レビテーション』のスペルを完成させてギーシュの体を浮き上がらせると、そのままウルトラハリケーンばりの
大回転を加えて窓の外に吹っ飛ばした。
「あーれー……」
 ドップラー効果で小さくなっていく悲鳴を残しつつ、ギーシュは空のかなたへ飛んでいき、そして消えていった。
 そんな光景をギムリとレイナールは女子寮の外から見上げていたが。
「愛に生きた男、ギーシュ・ド・グラモン、星となって消ゆ」
「女ったらしの星、ギーシュ1等星の誕生だね」
 と、呆れ果てた様子で言って帰っていった。
 まあ、杖を持ったままだから墜落する前に助かるだろう。スペシウム光線で追撃をかけられなかっただけ、ましというものだ。
 だが、ギーシュが消えていった空を見上げながら、モンモランシーは顔を赤くしてうなだれていた。
「ばか……もっと、ムードってものを考えなさいよね」
 どうやら彼女も、ルイズのことを笑えないようだ。


 だがそのころ、世界の混迷の度合いは様々な場所で深まっていっていた。

 トリスタニアの中心にそびえ立つトリステイン王宮の会議室、通常なら数十人の貴族を集めて議論が交わされる
べきそこに、たった二人だけの人影があった。
 壇上から、提出された書類に薄く青い瞳を向けている人物はトリステイン王女アンリエッタ、そして王女の目の前の
テーブルには長身の眼鏡をかけた金髪の女性が、王女の前だというのにまったく気負った様子も無く、自分が
提出した書類をアンリエッタが読み終わるのを待っていた。
「この報告……ある程度予測はしていましたが、こうして見るとあらためて驚愕せざるを得ませんわね」
 アンリエッタが読み終えた書類をたたみ、憔悴の色をわずかに感じさせる声で、感想を短く述べると、その眼鏡の
女性は立ち上がると、高くよく通る声で話し始めた。
「姫殿下のご推察通り、以前回収されました超獣の死骸と、王宮を襲ったゴーレムの残骸、ともに我々王立魔法アカデミーの
一同がほぼ1ヶ月をかけて研究しました」
 これは、以前エースに倒された超獣ホタルンガと、四次元ロボ獣メカギラスのことである。
「回収したサンプルの移送には大変手間がかかりましたが、まあこれはいいでしょう。アカデミーにて、あらゆる方面から
研究しました結果、超獣の皮膚はトライアングルクラスの火、水、風、土のどれもほとんど傷をつけられず。ゴーレムの装甲は、
いかなる方法を持ってしても破壊は不可能、内部に残っておりました砲弾を起爆してみたところ、スクウェアクラスの
土ゴーレムを一撃で粉砕する威力。結論から言いまして、敵の戦力は我々を大きく上回るということです」
 一気にまくし立てられた説明に、アンリエッタは目の前が暗くなりそうなのを、ぐっとこらえて話を続けた。
「そう……それで、敵に関する分析結果は、あなたの目から見てどんな具合なのでしょう。ミス・ヴァリエール」
 ヴァリエールと呼ばれた彼女は、眼鏡を指で押し上げると、アンリエッタに目を合わせた。
 彼女のフルネームは、エレオノール・アルベルティーヌ・ル・ブラン・ド・ラ・ブロワ・ド・ラ・ヴァリエール、名字からも
分かるとおり、ヴァリエール家の一員、つまりはルイズにとって姉にあたる存在である。容姿はあまり似ていないが、
これは彼女が父親似、ルイズが母親似だったせいだ。
 現在はトリスタニアにある王立魔法アカデミーの筆頭研究員を務めており、その道で彼女の名前を知らない者はいない。
「私も、ゴーレムの分解調査には加わりましたが、内部構造は恐ろしく複雑、精密な部品が緻密に組み合わされてできており、
歯車やピストンなどにいたっても、トリステインのいかなる冶金技術を持ってしても複製は不可能なほどの高精度。
また、魔力が検出されなかったために魔法以外のなんらかの手段を動力としていたのは明白ですが、その内部構造は
用途不明な箱や紐がぎっしりと、しかし一定の規則にそって配置されており、私の見ましたところ、その原理を解明するには
昼夜を問わずに研究し続けて200年、同じものを製造するにはさらに200年を必要とすると判断します」
「つまり、トリステインはヤプールに対して、最低でも400年の遅れをとっているというわけですね」
「端的に言えば、そのとおりです」
 王女相手に、トリステインは遅れた国ですと平気で言えるのは、何も考えてない馬鹿か、王家と対等に渡り合えるだけの
実力と胆力を備えた者のどちらかでしかない。そして、明らかにエレオノールは前者ではなかった。
 それにしても、地球でさえまだオーバーテクノロジーである宇宙人の技術を、理解できなかったとはいえここまで
分析した彼女と彼女の研究班はたいしたものである。
「それにしても、これほどの超技術を有するヤプールとは、いったい何者なんでしょう……」
「彼らは自らを異次元人……異なる世界の住人だと名乗っています。それが真実かどうかは分かりませんが、
空を割って超獣を送り込んでくる手口といい、人間技とはとても思えません」
 彼女は書類には載っていなかった自身の考察も含めて、アンリエッタに説明を続けた。
「アカデミーには、過去にエルフを始めとする亜人との戦いで蓄積された先住魔法に関する記録や、太古の文献
などが保存されていまして、それらとも照らし合わせましたが、合致するものは特にありませんでした。ただ……」
「ただ、なんです?」
「過去のアカデミーの記録に、空から落ちてきた謎の乗り物に関する記述がいくつかあったのです。年代は
数百年から2千年くらい前まで様々ですが、それらは銀とも金とも違う不思議な金属でできていて、とてつもなく
頑丈で、中には複雑な機構がぎっしり詰まっていたと記されています。さらには、中に亜人のような生き物の
死骸が残されていたこともあったそうです」
 それはまさしく、過去になんらかの理由でハルケギニアに墜落した異星人の宇宙船のことだった。
 地球でも、怪獣頻出期が始まる前からバルダック星人やオリオン星人、ボーズ星人が隠れ潜んでいたこと
からも、ハルケギニアにもたびたび異星人が来訪していたとしてもおかしくは無い。第一、一般には知られて
いないがミラクル星人という実例がすでにある。
「それでは……」
「どこか遠く離れた場所に、エルフのようにハルケギニアなど……いえ、エルフ達すら及びもつかないほど
高度な文明を持つ種族がいるのかもしれません」
「それは、本気で言っていますか?」
 アンリエッタの疑問ももっともだった。ハルケギニアの人間にとって、世界とは半島状になっている4国と
アルビオン、それからエルフのいるという東方が全てで、その先など想像もできない。
「そうですわね……姫様、例えばアリの巣を思い浮かべてください。アリも、女王を基準とした人間に似た
社会を形成する生き物です。ですが、アリは自分達の頭の上にいる人間が自分達より高等な社会構造を
有するものだとは知覚できません」
「我々は、アリだと……?」
 その例え話に、さすがにアンリエッタも眉を少ししかめた。だが、エレオノールの言葉がある意味で
正鵠を射ていることも認めざるを得ない。彼我の文明レベルの差はそれほどあり、かつてクール星人は人間の
ことを昆虫のようなものだと評したこともあるのだ。
「姫殿下、頭の固い将軍や貴族連中には、どうせ怒らせるだけでしょうので発表していませんが、敵はその気に
なればトリステインを、いえハルケギニアを簡単に滅ぼせるほどの強さがあるということを覚えておいてください」
「ならば、なぜ彼らはすぐにそれをしないのですか? 我々をいたぶって楽しんでいるとでも!?」
「それもあるでしょう。不愉快ですが、敵のやり口は破壊や殺戮そのものをゲーム感覚で楽しんでいるふしが
あります。最初のベロクロンの襲撃の際は、まさにそうでした。けれど、その後彼らのやり口は慎重に策を
練っておこなうものに転換してきています。その要因は……」
 エレオノールが言葉をそこで切って一呼吸おくと、アンリエッタはたった一つだけ浮かんだヤプールに敵対
できる存在の名を口にした。
「ウルトラマン……エース」
「はい、彼の存在がヤプールに対してかなりの抑止力になっているのは間違いないでしょう。なにせ、唯一
超獣と戦い、倒すことのできる存在ですから」
 アンリエッタとエレオノールの脳裏に、初めてエースがベロクロンと戦ったときの様子がありありと蘇ってきた。
 トリステイン軍の全戦力をあげても揺るがすことも出来なかった怪物と、彼は互角以上に戦い、そして倒した。
「いったい、彼は何者なのでしょうか?」
「それに関しましてはまったくわかりませんとしか言いようがありませんわ。どこから来て、なぜヤプールと戦うのか、
また、どこへ飛んでいくのか」
「世間一般では、始祖の化身だとか、神の使いだとかまことしやかに噂されているようですが、わたくしは、
そのようなことは信じません。ただし、彼の行動を見る限りでは、少なくとも人間の敵ではないと思います。
彼は魔法学院を守り、炎上するトリスタニアを救ってくれました」
「はい、まだ断定はできませんが、彼の行動は我々と敵対するものではないと思います。ですが期待しすぎるのも
危険でしょう。彼もまた、戦えば傷つき、倒れることもあるようです。世間ではウルトラマンがいれば軍は不要だ
などと楽観する者も少なからずいるようですが、我々はあくまでも独力でヤプールの侵略を排除すべきです」
「もちろんです。相手が何であろうと、民を守るのが王家と貴族の生まれたときからの責務です」
「姫殿下の平和への信念の強さには敬服するばかりです。我々は彼についても、研究を続けていく所存ですが、
あの力の秘密の一端でも解明できれば、それは我々にとって大きな戦力となるでしょう」
 彼女の眼鏡がそのときキラリと光ったように思えた。
 力というのは、それを持たない者にとって何よりも甘美な麻薬、禁断の果実の味を持っている。
「よろしくお願いします。貴女方の研究が、トリステイン、いえハルケギニアの命運を左右するかもしれませんわ」
 アンリエッタの言葉に、エレオノールは優雅に会釈して応えた。
「では、わたくしはこれで、新しい発見がありましたら、逐次報告いたします」
 報告を全て終えたエレオノールは、退室しようと扉に向かった。
 けれど、扉に手をかける前に、その扉が先に開き、そこで入室しようとしていた人物と鉢合わせすることになった。
「アニエス・シュヴァリエ・ド・ミラン、参上つかまつりました」
 入室したアニエスは、まずは壇上にいるアンリエッタに礼をすると、続いて自分に目を向けていたエレオノールと
視線を合わせた。歴戦の戦士と、冷徹な学者の鋭い視線が交差して、部屋の温度が一気に下がる。
 それから数秒間、互いに言葉を発さずに沈黙が続いたが、先に口火を切ったのはエレオノールだった。
「お初にお目にかかるわね。アニエス・シュヴァリエ・ド・ミラン殿、貴女と貴女の隊の勇名はかねがね聞いておりましたわ」
「光栄のいたり。ですが、エレオノール・アルベルティーヌ・ル・ブラン・ド・ラ・ブロワ・ド・ラ・ヴァリエール殿、貴公こそ、
軍を問わずに貴女と貴女の研究チームの名はとどろいておりますぞ」
 二人とも、にこりともせずに初対面だというのに相手の名を言い合った。国家の中枢にあっては、それだけの知名度を
有する者同士であるが、それは必ずしも友好を意味しない。
「いいえ、全員平民出身の部隊でありながら、魔法衛士隊を敗退させた敵を撃破し、貴族の称号を王女殿下からいただくなど、
昨今無かった出世ぶりですわ。まったく、最近のトリステインの貴族達の質の低下ぶりには常々嘆いていましたが、
腑抜けの男共に見習わせたいものですわ。淑女をモットーとするトリステインの貴族女子にはとてもできませんからね」
「過分な評価、恐れ入ります。ヴァリエール殿こそ、若くしてアカデミーの筆頭研究員……新型のポーションや
マジックアイテムの開発数では群を抜くとか。貴族夫人とは着飾り、男の前で踊るだけの者達ばかりではないのですね」
 一見すると、相手の業績を称える言葉にも聞こえるが、二人ともそれぞれ言外に。

"剣を振るうしか能のない平民あがりが"
"舞踏会しか出番のない箱入り娘が"

 そう、相手を侮蔑する意思が込められていた。
 もちろん、アンリエッタ王女の手前、はっきりと無作法な言葉を発するようなことはしないが、二人の氷のように冷たい
目線がそれを何よりも表していた。
「貴公のような実力に溢れた新貴族がいるのであれば、トリステインも安泰でしょう。これからも、どうぞよろしく」
「こちらこそ、貴女のような人とは長く付き合っていきたいものです」
 二人はそうして、どちらともなく手を差し出し合い、握手をかわした。
 アニエスの硬くタコだらけになった手と、エレオノールの薬品と冷水でざらついた手が重なり合う。
 すると、二人の目じりが少しだけ振れて、握る手に力がこもった。
「……貴公の強さ、これからの戦いに、少なからぬ力となるでしょうね」
「そのときは、是非貴女の魔法薬での助力をお願いしたいものです」
 ほんの少しだけ、敬意を表した目を向き合わせた後、エレオノールはあらためてアンリエッタに一礼すると、
会議室を退室していった。

「アニエス・シュヴァリエ・ド・ミラン、ね。貴女が男だったら、バーガンディ伯爵のような軟弱者の相手をせずに
すんだかもしれないわね」
 誰もいない廊下を歩きながら、エレオノールのつぶやいた独り言を、耳にした者はいない。

 そして、エレオノールと入れ替わりに入室したアニエスは、書簡をアンリエッタに提出すると、その前に
跪いて、アンリエッタが書簡に目を通すまで、微動だにせずに待った。
「……獅子身中の虫とは、まさにこのことですわね」
 そこには、アニエスらが独自に調査した。あの人身売買組織の行動の詳細から、その背後で手引きをして、
代わりに私腹を肥やしていた者達の名が記されていた。
「彼らの強欲のために、これまでこれほどの数の子供達が犠牲に、とても許しておけるものではありません」
 アンリエッタは歯を食いしばり、悔しそうに言った。
「すでに捕らえた者達は裁判を終え、それぞれにふさわしい罰を負わせました。しかし姫殿下、この事件は
それだけでは終わりません」
 内に秘めた思いを込めて、アニエスは言った。
 権力を利用して犯罪組織と結託して私腹を肥やす者は別に珍しい存在ではない。しかし、その書簡には
まだ続きがあった。
「ええ、組織から流れた金の行方の、その半分が消失しているというのは尋常ではありませんわね。これに
関しては書類も残っていない。彼らにとって、最重要機密ということなのでしょうね」
「ですが、だからこそ推測も立てられます。奴らの後ろ盾になっていたこの男、奴の屋敷の使用人に金を
つかませて得た情報ですが、最近アルビオンなまりを強く残す客が増えたとか……アルビオンにおいて、
大量に金を必要とし、なおかつトリステインの中枢の人間と手を組めるような勢力は二つ、ひとつはアルビオンの
王家ですが、彼らはトリステイン王家と友好関係にある以上、このようなことをする必要がありません。
そうなると必然的に残るのは」
「レコン・キスタ、ですね」
 現在、浮遊大陸を二分して、王家と戦っている貴族連合の名を、忌々しげにアンリエッタはつぶやいた。
「奴らは国境を超えたる貴族の連盟と聞きます。しかし、現在は王党派の反撃を受けてシティオブサウスゴータまで
押し返され、均衡状態が続いているといいますので、戦力増強のために戦費はいくらあっても足りないのでしょう」
「誇りのない人達は、自分達のためならどんなに弱い人達が苦しもうと、何も感じないのでしょうね」
「奴らは、元々王家に反逆を起こした不忠者ども、自分が王になりたいだけのならず者の集まりに、誇りなど
あろうはずがありません。この男、お裁きになりますか?」
「いえ、まだ証拠が足りません。しばらく泳がせて、尻尾を出すのを待ちましょう……それにしてもアニエス、
あなたは本当によくやってくれています。心から、お礼を申し上げますわ」
 アニエスは、あのツルク星人を倒した日からアンリエッタによって預けられた、王家の百合の紋章のつけられた
マントを握り締めた。
「私は、姫殿下にこの一身を捧げております。姫殿下は卑しき身分の私に、性と地位をお与えくださいました」
「いいえ、あなたはその地位に等しい武功を挙げました。当然の栄誉を受けているだけです。ですが、平民は
決して卑しき身分ではありません、あなたはご自分の部下や守るべき大勢の民衆を貶めるつもりですか?」
 アンリエッタの厳しい言葉に、アニエスは自分の失言を悟って、深く頭を下げた。
「申し訳ありません!! 私としたことが、知らないうちに自分の得た身分に自惚れていたようです。どうか、
お許しくださいませ」
「顔をお上げなさいアニエス、分かってくださればそれでよいのです。常に誇りを持ち、身分ではなく精神の
高貴さで人を判断すれば、あなたは誰よりも貴族らしい貴族になれるでしょう」
「はっ、肝に銘じておきます」
 壇上から降りて、跪いているアニエスの肩を、アンリエッタは優しく抱いた。
 そして一瞬だけ遠い目をすると、思い切ったようにアニエスに特命を下した。
「アルビオン王家との同盟強化を、急がなければならないようですね……アニエス、それに対してレコン・キスタから
どのような妨害があるかわかりません。あなたはこの男の監視を続け、他にも怪しい人物がいないか、目を光らせて
いてください。そして、彼らが焦って行動を起こしたときこそ」
「かしこまりました。姫殿下のご期待に副えますよう、全力を尽くします」
 この宮廷内に潜り込んでいる寄生虫の数が分からない以上、一匹をつぶしても残りの多数を潜伏させてしまう
だけだろう。リスクは大きいが、ここはこちらも気づいてない振りをしての化かし合い合戦だ。
 それに……アニエスには、"その男"に個人的にどうしても聞き出したいこともあった。
「では、私はこれで失礼いたします。最近トリスタニアで奇妙な事件が起こっていると聞き、我らにも応援要請が
ありましたので、その指揮にあたります」
 命を懸けて仕えるべき主君に深い敬意と感謝を込めて、アニエスは一礼すると退室しようとした。
 その背中にアンリエッタの言葉がかかる。
「くれぐれも、ご自分を大切にね」
「姫殿下のために死すべき日まで、私は死ぬ気はありません。姫殿下も、どうかご自愛くださいませ」
 アンリエッタの優しい瞳を目に焼き付けて、アニエスは会議室の重い扉を閉めた。



 後半部へ続く。



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