あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

男爵

「おかしいな。女の子がキスしてきたら、そうすればもっと親密になれると、ベルニーニが言っていたが」
 トリステイン魔法学院女子寮塔。
 リーゼントに黒ぶち眼鏡、ワイルドに上着の袖を破り取った姿の男が、一心不乱にメモ帳を書き込むのは一種異様な光景であった。
「女の子を押し倒してはいけない、と。まいったな、この星系のコモンセンスを一から覚え直しか」

「あなた、ルイズの使い魔じゃない。どうしたの、廊下になんて座り込んで」
 男は立ち上がり、声の主へと視線を向ける。赤い髪に褐色の肌の女性、キュルケの名前を、当然ながら男は知らない。
「ルイズが鍵をかけて、僕を中に入れてくれないんだ」
「ありそうなことね。ちょっと待ってなさい」
 キュルケが杖をかざすと、音もなく扉が開く。

 ルイズは不機嫌な様子で、
「あら、ツェルプストーが何の用? アンロックは校則違反よ」
「用があるのはあたしじゃなくて――」
 キュルケは男を指差す。
 するとルイズは有無を言わさず扉を閉める。
中から聞こえる音からして、ありったけの家具を、扉の裏に積み上げているようである。



「ベッドに押し倒したァ!?」

 男とキュルケは向かい合って座っている。
 自ら自室に招き入れたとはいえ、流石のキュルケもドン引きである。

「僕の行為はタブーだったようだね。状況からして可能だと思ったのだが」
「うーん、どうしたものやら……。貴族にそんなことして、あなたが使い魔じゃなかったら打ち首よ」
 キュルケは頭を抱える。
「どうしてだい?」
「どうしてもなにも――」
「ルイズは自ら、僕に接吻を求めてきたじゃないか」
 そう言われて初めて、キュルケは使い魔召喚の儀に思い至る。
「えーと、あれは儀式のようなもので」
「なるほど、参考になる。――キスは儀式、と」
 男は手帳を取り出し書き付ける。
 キュルケはぽかんと口を開け、その行動を観察するほかない。

「書き留めておかないと覚えられないんだよ」
 キュルケが問うと、男はそう答える。
「ともだち手帳?」
「うん」
「見せてもらってもいいかしら?」
 男はキュルケに手帳を手渡す。
「……教訓――相手の目を見ながら話す、名前を覚える、女性に年齢を尋ねない――」

 びっしりと書き込まれたのは、社会常識ばかりである。
「でも、この手帳はもう役に立たない。君達のモラルやコモンセンスを、一から学び受け入れなければ」
「なぜ?」
「それは――」
 急に男は思案する様子で、
「新たな星系での円滑なコミュニケーションのためには、明かすべきか、明かさないべきか――」
 と呟く。

「なによ、話しちゃえばいいじゃない」
 しかし男はキュルケの言葉に応じ、再び彼女の目を見つめた。
「そうだね。――僕はレティクル座人なんだ」
「れてぃくる……なに?」
「そうか、この星系の座標からいうと――、僕は、あの方向から来た」
 男は天井を指差す。
「空?」
「君達にとってはそういうことになる」
「じゃあなに? 神か精霊か――」
「ああそうか、まだこの星系では空間の認識が発達していないのか。
――そうだね、僕が別の世界からやってきたと思ってもらって差し支えないよ」

「じゃあなに、そうやって手帳に書き付けるのは、あなたがハルケギニアの人間じゃないからなの?」
「そうだ。この星系の人間にも精神感応能力があれば、こんな失敗はしないのだが」
「テレパシー?」
「レティクル人は中枢神経にそのための器官を持っているんだよ。
同じ器官を持つ者同士なら、意思や感情を表に表さなくとも相手に伝わるんだ」
「……でもルイズにそれを試してみたら」
「今の僕の体は、君達と同じなのさ。もうテレパシー器官はないんだ」
 淡々と語る様子が、キュルケには淋しげなものに見えた。



「ねぇルイズ。だから、彼はそんな人じゃないんだってば」
「あれの話はしないで。顔も見たくないわ」
「そりゃああんな行動をされちゃ、あなたも怖いかもしれないけど、悪気があって――」
「そうね。ゲルマニア人の倫理観にはお似合いね」
 ルイズは教科書を揃えると、キュルケを振りほどくようにして、教室から出ていった。
「ちょっとルイズ、約束よ! 夕食が終わったら待ってるから!」


「――来ないわね」
 星空の下、キュルケと男はヴェストリの広場の一角に腰掛けていた。
「帰る?」
「いや、もう少しいるよ。たった今、気が向いた所かもしれない。
僕はルイズに失礼なことをしたんだ。謝らなければ」
「うーん……」

「ねェ、あなたは、どうしてそんな体になったの?」
 すると男の鋭い視線がキュルケを貫いた。おそらく、同様の質問を幾度も投げかけられ続けているのだろう。
「いや……、まあ、話したくないならいいけど……」
 一瞬の沈黙の後、男はキュルケを見ずに語りだした。

「……銀河連邦調査局辺境文明観察隊の隊員として、僕は単独である惑星に来た。
この惑星に来る以前のことだ。まだ若かった僕には、退屈な任務だった。
――だから僕は、いろんなイタズラをしたよ。牛の体に穴を開けて殺したり、麦の穂を倒して落書きしたり」

 話半分に聞いていたキュルケであるが、静かに感情を込める様子に、だんだんと表情が変わる。
「惑星の人間が頭を抱えて右往左往するのを見て笑った。テレパシーが通じなかったから、彼らの気持ちは無視できたんだ」

「でも、それは重罪だった。僕は裁かれ、罰としてこの体に作り変えられた。
それで前にいた星系に放置されたんだ。はじめはそんな仕打ちを呪った。
でもやがて環境に慣れ、自分に下された罰の意味を考えるようになった。
――またこの惑星に移されたってことは、まだ、考える途中なのかもしれないね」

 男が口を閉じるのを見て、思わずキュルケは、優しく言葉を発さずにはいられない。
「……そう、あなたも、いろいろあって大変なのね」
 男はキュルケに顔を向ける。
「……最後まで聞いてくれたのは君が二人目だ。僕の話を信じてくれるのか?」
「……信じるわ」
「――なぜ?」
「なぜって言っても――、目で分かるわ。この学院にいる男達よりも、ね」

「――ありがとう、ミス・ツェルプストー」
 男は初めて微笑んだ。

「あら、ツェルプストーなんて他人行儀ね。キュルケでいいわ。どう、今夜もあたしの部屋に泊まってく?」
 しかし男は、キュルケの言葉に構わぬようにして、勢いよく立ち上がった。
「ルイズ!」
「え? あ!」



「うわっ、まだいたの!?」
 塔と塔を結ぶ通路を、ちょうどルイズが通りかかっていた。一瞬ひるんだルイズに男が駆け寄り、キュルケも後を追う。
「来てくれたのか、ありがとう」
「部屋に戻るから通っただけよ」
 あからさまに嫌な顔をするルイズ。
 しかし男はルイズが言葉を続けるよりも早く、
「昨日はごめん」
 深々と頭を下げた。

 どうしたものかと呆気に取られるルイズだが、いつまで経っても男が顔を上げないことを見かねた様子である。
「……わ、わたしもやっと召喚できた使い魔をどうこうするつもりはないわ。
でも、謝る気持ちがあるなら、誠意で示しなさい。それ如何では考えなくもないわ。面を上げなさい」

 それが彼女なりの最大限の譲歩なのであろう。
「まあ、彼がやったことを考えれば仕方ないわね」
 彼が信用されたわけではないが、キュルケも妥協点として納得している様子である。

 だが男は、ルイズの目を見据えると、更に言葉を続ける。
「でも」
「なに? 言い訳は認めないわよ」
「君の唇の感触はとてもステキだった。ありがとう」
「……こ、こっ、こっ、この! 盛りのついた犬ぅぅぅっ!」
 自身とキュルケを巻き込んで、ルイズの爆発魔法が男に炸裂した。


「――ああ、やっぱりダメだったわね」
 キュルケはふたたび頭を抱える。
「この星系のコモンセンスについて知らないから――。ん?」
「どうしたの?」

「ルイズ、君は精神感応能力があるのかい?」
 ぼろ布のようになったルイズは、恨めしげに男を睨みつけているが、ふいに表情が緩む。

「なによ――、なに、これ。この声、考え、あなたの――」
「ルイズ! いったいどうしたの?」
「考えてることが、流れ込んでくる――。本当に悪気はなかったのね――、ごめん、あなたのいうことを信じられなくて――」

「……僕も驚いたよ。テレパシー器官がないのに、ルイズと精神感応できるだなんて」
「そういえば、使い魔は主人と感覚を共有できるっていうわね。
人間どうしだったら、考えていることが共有できてもおかしくないわ」
 ルイズは男の手を取ると、自室へと引き連れていく。
「ほら、行くわよ! あんたの考えることは分かったけど、ツェルプストーと一緒にいるなんて、許さないんだから」
「……あらあら、一日しか経ってないとはいえ、なんだか寂しいわね」

 すると遠くから男が叫ぶ。
「おやすみ、ミス・ツェルプストー! ――ルイズは君のことが大好きなみたいだ!」
 キュルケは苦笑しつつ、男に手を振った。



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