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雷撃のタバサ二話-4


おおおおおお……

風が唸りをあげる。哀しげな叫び声が聞こえるたびに、ますます雪風は強くなっていくようであった。

(人間などがこの吹雪の中をアイーシャに会いにくるものかよ……所詮、人間は人間、妖は妖……相容れることなどできぬ……)

雪の精霊はぎり、と唇を噛んだ。娘を誑かし、挙句に傷つけた人間への怒りがこみ上げる。
だが、村を凍りつかせてやろうとした彼女を、雪娘のアイーシャが泣いて止めたのだった。懇願する娘に、雪の精霊は一つの条件を出した。
二週間、この村に雪と嵐を呼び続けること。
そして、その間に男がアイーシャの元に姿を現せば、村を襲うのはやめて北に帰ること。
男が雪の妖精であるアイーシャを恐れて姿を見せなければ、村ごと凍らせること。

今日が約束の最後の日であった。
アイーシャは一人ライカ欅の上で、男を呼び続ける。だが、アイーシャが男を呼ぼうと声を上げれば上げるほど、雪風は強くなっていくのであった。

(もうすぐ約束の刻限が過ぎる。この村を凍らせて終わりにするさ……)

雪の精霊はじろりと村を眺めやった。
――人間、か。
かつて、雪の精霊にも人間との交わりがあった。はるか昔、人と妖精がまだ近くに生きていた頃……彼女は人の名を持ち、人と暮らしていたのだ。
だが、人の寿命は、精霊に比べれば蜉蝣のように儚い。夫を失ってから、精霊は北の山奥に暮らしていたのだった。

(アイーシャはたった一人の娘さ……愚かな人間などにくれてやるものかよ……)

おおおおおお……

風がまた少し強くなった、そのとき――
雪の精霊は、風を唸らせながら、金色の影が近づいてくるのを見つけた。


「見えたぜ! あそこが吹雪の中心で間違いねぇ!」

とらが指したのは、ひときわ高いライカ欅の頂上であった。とらの言うとおり、アイーシャの哀しげな声はそこからあたりに響いていた。
ヨシアが身を乗り出して叫んだ。

「アイーシャ! 俺だ、ヨシアだ! アイーシャ、君に会いに来た!!」

ライカ欅の頂上で、アイーシャはヨシアの叫びを聞いて、はっと目を見開いた。

「ヨシア! ヨシアなの!?」
「アイーシャ!」

アイーシャはライカ欅から、ヨシアのほうに飛び出そうとした、そのとき――

「あぶねぇ、ニンゲンッ!」

びょうッ!!!

咄嗟にとらがヨシアを引っつかんで、襲い来る雹の嵐を避けた。一つ一つが弾丸のような勢いで打ち出されるそれを喰らえば、人間などひとたまりもないだろう。

「くっくっく……でたなァ、雪女のババア……」
「ろくでもない妖怪が……人間ごときに雇われて私を殺しに来たかよ……! 下種めが……!」
「うるせぇ! いくぜッ……!!」

ゴッ!!!

とらの吐き出した炎が雪の精霊を襲う。雪女は一瞬で巨大な氷塊を作り出し、とらの炎を相殺した。

「け、まだまだこれからよ、わしの炎でぶっ殺して――――いて!」

さらに巨大な炎を放とうとしたとらの頭を、ポカリとシルフィードが叩く。

「駄目でしょ、とらさま!! 雪の精霊を殺してどーするの、きゅいきゅい! アイーシャさんも死んじゃうのよ?」
「だってよ、いまのは相手のほーから……」
「そーゆー問題じゃないの。とらさま、ヨシアを地面に降ろしてあげて」
「わーったよ……ったく……わしは悪くねぇのに……」

不平を言いながら、とらはひゅ、と地面に降りた。ヨシアがとらの背中から飛び降り、上空に浮かぶ雪の精霊に叫んだ。

「――雪の精霊、話を聞いてくれ! 俺の兄の振る舞いについては謝る。どうか……俺とアイーシャの仲を許して欲しい!」

雪の精霊の銀色の髪が、ざわりと怒りに震えた。
自分を見あげる人間の男――ちっぽけなその人間ごときが、娘との仲を許せだと?

「――娘を、私のアイーシャを奪おうとするかよ、人間風情が――ッ!!」

轟!!

無数の鋭い氷柱がヨシア目掛けて打ち出された。襲い来る氷柱の矢に、ヨシアは思わず目をつぶる。

「ち――!」

と一声叫び、とらが炎を吐き出そうとしたその時だった。
びょう!! と、激しい風が氷柱を吹き飛ばす。
氷柱はヨシアを避けるように地面に刺さった。ヨシアの前にゆっくりと白い着物を着た、雪の妖精が舞い降りてくる。
……いつの間にか、雪は止んでいた。
雲の切れ間から覗く二つの月が、少女の美しい横顔を照らし出す。
ヨシアが呟いた。

「アイーシャ……」

アイーシャはヨシアにそっと微笑みかけると、雪の精霊を仰ぎ見る。

「――母様! 約束の刻限、ヨシアは確かに間に合いました! ですが、私は北へは帰りません。アイーシャはヨシアと共に生きます、共に死にます!
 たとえ種族が違おうとも、この気持ちには偽りはありません」
「おお、おやめ、アイーシャ……! その男はお前を残して早く死ぬよ……! お前の肌はその男を凍らせてしまうよ……!
 それでもいいというのか? お前は孤独になるよ、ずっとずっと孤独になってしまうよ……!」

声を震わせる雪の精霊に、アイーシャは微笑んだ。

「構いません。ルシールかあさま」
「……そうか」

雪の精霊は、だらんと手を垂らした。その瞳から涙がぽろぽろと零れ、氷の粒となって落ちた。月の光を反射して、きらきらと輝く。

「――――なら、お前の望みどおり、その男と死ぬがいいさ」

ハッとアイーシャが目を見開く。次の瞬間、パシャ、と音を立ててアイーシャの全身が崩れた。

「アイーシャ!?」

咄嗟に伸ばしたヨシアの手をすり抜け、アイーシャの体は溶けて地面に水溜りをつくる。瞬間、それは凍りついて鏡のようにきらきらと光った。

「あ、あ、ああ……」

ヨシアは地面にひざをついた。震える手で、かつてアイーシャであった氷に手を伸ばす。

「アイーシャ……そんな……アイーシャァアアア!!! うわあああああああああッ!!!」

ヨシアの絶叫が夜の森に響いた。


「なんてことを……! じ、自分の娘を殺すなんて! それでも精霊なの!? 悪魔ッ!――って、ちょ、ちょっと、とらさま!」
「さーて、終わりだ、帰るぜ」

怒りに震えるシルフィードを、とらはひょいと担ぎ上げた。そして、ひゅ、と空中に飛び出す。じたばたともがきながらシルフィードが喚いた。

「なんでよ、とらさま! あの雪の精霊許せないわ! どうして放っておくの!?」
「あー、オメエはまだ若いから知らんかもしれねーがよ……雪女を人間にする方法ってのがあるんだってよ……ちとやり方は違うが……」

はっとシルフィードは下を見る。
ちょうどそのとき――パン、という音と共に、ヨシアの目の前で氷が割れた。
次の瞬間、少女が氷から現れる。

じっと抱き合う二人に、シルフィードは目を丸くしていた。
「に、人間になれたの? ヨシアが凍ってないってことは……」
「そーゆーこったな。……む。おい、しるふぃ。『雪の精霊』とやらのお出ましだぜ?」

二人の前に雪の精霊が浮かんでいた。苦しげな表情で、雪の精霊はポツリと呟いた。

「……娘は、幸せになるだろうか? あの人間と夫婦となって……」
「くっくっく……ババア、オメエはどうだったよ……?」

ニヤリと笑うとらに、しばし沈黙していた雪の精霊は、バサリと布を頭に被る。顔を隠した布の下から、ポロ、と氷の粒が零れた。

「忘れちまったよ……昔のことだからさ」

そう寂しそうに呟くと、雪の精霊は、ひゅう、と風を集めて北に飛び去っっていった。

「……竜のお嬢ちゃん、あんたも幸せにおなりよ……」

風がかすかに、そんな言葉を運んだ。



翌朝は晴天だった。
村は朝からにぎやかな騒ぎに包まれていた。シルフィードとタバサが発つ前にと、急遽、ヨシアとアイーシャの結婚式が執り行われているのであった。
式への出席もそこそこに、とらとシルフィードは村を離れて飛び立った。とらが背中にシルフィードを乗せている。

「さて、帰るかよ……なんだか、今回は戦ってねぇな……ったく、なんのためにたばさと代わったんだか……」
「いいじゃない、二人が幸せそうだもの。見て見て、とらさま! アイーシャの花嫁衣裳、真っ白ですごく綺麗なのだわ! きゅいきゅい!
 まるで雪みたいに真っ白なの! あーあ、シルフィも、あんな花嫁衣裳着たいわ! きゅいきゅい!」
「ああ、ずいぶん美味そう――いて!」
「ふふ、後でとらさまには、お姉さまに沢山たくさん『テロヤキバッカ』を貰ってあげる! るーるる、るるる!!」

上機嫌なシルフィードの歌声が、ガリアの森に響く。
『テロヤキバッカ』を思い浮かべて、ぐぅ、と腹を鳴らしたとらは、トリステイン魔法学院に急ぐべく、ぐん!とスピードを上げた。

ごぉおぉぉおぉおおおおう……

楽しそうに歌う青い髪の女を乗せて、巨大な幻獣は『黒い森』の空を駆ける。金色の風が唸りを上げた。


……こうして恋人たちは結婚し、めでたしめでたしで終わる。
これは、そんなお話。


るいずととら外伝 『雷撃のタバサ 二話』 おわり



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