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Zero May Cry - 07


Zero May Cry - 07


 その日の夜。
 昼の決闘の一件が嘘だったかのように何事もなく生徒達の一日は終わりを迎える。

 ―――はずだったが。

「……よく考えれば今日はロクなもの食ってないな」

 そう言ってネロは寝ているルイズを起こさぬように彼女の部屋を後にした。
 確かにネロはいくら腹が空いていようが飯で釣られるような男ではないが、流石に一日中何も食べなければ我慢するのも限界だ。

 そんな彼が廊下に出た時。

「あっ、ネロさん」
「シエスタか」

 そこにいたのはメイド服の少女だった。一応彼女も昼の決闘を見ていた者の一人だ。

「あの、昼間は……大丈夫でしたか?」
「あんたには俺が怪我したように見えたのか?」
「いえ……そんなことはないですけど……」

 タフな笑みを浮かべるネロに思わず苦笑いするシエスタ。
 そんな彼女はとある疑問を彼にぶつける。

「あの、それでネロさん。こんな時間に何処へ行くおつもりだったんですか?」
「ああそうだ。シエスタ、どっかに飯が食える場所はないのか?」

 ネロのその一言に、彼女は笑って答えた。

「残り物で宜しければ、食堂のほうにいけばありますよ」








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「中々旨いな、オッサン」
「ガッハッハッハ! 気取らねぇところも気に入ったぜ! 流石は貴族の小僧に勝った男だな!」
「あんなのは只の遊びだぜ。こっちは武器を抜いてもないんだからな」
「皆聞いたか!? 真の達人はこんなにも謙虚な物言いをするもんだぜ! こうなりゃ我らの剣じゃなくて我らの英雄か?」
「止めろよ、英雄なんて。ガラじゃねえ」

 そう言ってネロは相変わらず大声で笑う料理長、マルトーの方へ綺麗になった皿を差し出した。

「おうおう! イイ食いっぷりだねぇ! 残ってる分、全部食っちまいな!」

 マルトーはそう言うと鍋に残っていたシチューを大きい皿に盛ってネロの前に持ってきた。

「……流石に多すぎだろ、こいつは」
「何言ってんだ我らが英雄! これぐらい、ぺろりと食っちまいな!」
「……やれやれ。完璧なオーダーミスだな」

 口では皮肉を言いつつ、しかしネロはスプーンを手に取って目の前の大盛りシチューを食べ始めた。
 折角出してもらった料理を残すのも悪いなどという殊勝な思いがネロにあるはずもないが、この時ばかりはネロは目の前の料理を残すまいと手を動かした。

 やがてネロの前には綺麗になった皿だけが残った。
 口元を拭いながらネロは水を呷る。当のマルトーはネロの食べっぷりに感激したらしく、彼に向かってアツい抱擁をしようと飛びついてきた。

「お前さんって奴ぁ……! どこまでもイカした奴だよ!」
「おいおい、落ちつけよオッサン」

 すかさずネロはマルトーを避けるために左手で彼の顔を押し退けたが、そんな様子を見ていたシエスタが叫ぶ。

「ダメですよ、マルトーさん! ネロさん、右腕を怪我してるんですから!」

 言われて、マルトーは初めてネロの右腕が包帯とギプスで覆われてるのに気づく。そしてネロに済まなそうに頭を下げた。

「お、おっ。済まねぇ、ネロ! 気が付かなかったぜ」
「別に。気にすんなよ」
「それにしても、お前さん怪我した体で貴族の小僧を負かしたのか? てぇしたモンだな、オイ!」

 豪快に笑ってマルトーはネロの背中をばしばしと叩いた。
 本来ならばネロはこうした人付き合いは好むところではない。普段の彼ならば煩わしさでマルトーにも冷たく当たっていることろだろう。
 しかし食べるものを用意してもらった手前、ネロは何時もの皮肉なセリフを引っ込めて薄く笑うだけだった。
 そんな二人を見ながら、シエスタも嬉しそうにその顔から笑みをこぼしていた。


 貴族は居らず、平民だけの食堂には何とも言えぬ暖かい時間が流れた―――。





 やがて食堂を後にしたネロはシエスタに見送られていた。

「ネロさん……。とてもお強いんですね。本当は魔法も使えるんじゃ……」

 シエスタのその言葉にネロはかぶりを振って答えた。

「俺は魔法のお勉強なんかしたことないぜ?」

 その言葉を受け、シエスタはネロを見やった。彼の顔は夜空に浮かぶ二つの月に向けられている。
 しかし、そんな彼の表情はどこか悲しさと寂しさを引き連れていた。

 ―――月が二つか……。やっぱり、俺の考えは正しかったんだな―――

 空に月が二つも存在しているのを普通の人間が見たら驚きに腰を抜かす所だが、ネロは一度己の中でこの世界を異世界と判断していたため、さほど驚きはなかった。

 それよりも、本当に自分は異世界に来てしまったという失意。もう元の世界には帰れないのかという不安。それらの方が大きかった。

「あの……ネロさん?」

 そんなネロの横顔を見ていたシエスタは少し悲しい瞳でネロへ声をかけた。
 ネロは彼女の心境を悟ったのか、それとも己の心境を悟られたくなかったのか、何時もの不敵な笑みを浮かべながら言った。

「そんなシケた顔すんなよ。こっちまで気が滅入るぜ」
「え………」

 そう言ったネロの顔を目にしてシエスタは思わず顔を赤らめたが、ネロはその言葉を放つと同時に彼女に背を向けて歩き出していた。
 その背中にシエスタは、勇気を出して、声をかけた。

「ネロさーん! おやすみなさーい!」

 背中から聞こえたその言葉にネロは思わず唇を笑みに歪め、振り返らずに手を振りながらその場を後にした。
 シエスタは素っ気無いネロの反応に満足したのか、僅かに笑みを浮かべたままネロの背中を見送った。








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 ルイズの部屋の前まで戻ってくると、巨大なトカゲのような生き物がネロを迎えた。思わずそれを凝視するネロ。
 無言の睨み合い――その前に相手は言葉を話せないが――の様にも見受けられる。しかし、大きなトカゲはネロの方へ近寄ってくると彼のコートの裾を口で引っ張ってきた。

「……なんだ? 遊んで欲しいのか?」

 その言葉を受けると、トカゲはキュルキュルと鳴きながらルイズの部屋の隣の部屋―――キュルケという名の生徒の部屋へ入ってゆく。扉は開いたままだ。
 訝しげに首を捻ったネロだが、恐らくは入って来いということなのだろう。ネロは好奇心に負けてトカゲの後を付いてゆく。

 そんなネロが部屋のドアを潜ると。

「……………」

 部屋の中は薄暗く、数本の蝋燭の火と、先ほどのでかいトカゲの尻尾に灯っている炎以外の光源はない。
 そんな部屋にいたのは何とも悩ましい服を来ているキュルケの姿だった。彼女はネロより年下とは言え、体型の方は抜群のプロポーションを持っている。
 思わずネロは彼女から視線を逸らして尋ねた。

「……何の用だ?」
「まずは扉を閉めてくださらない……?」

 言われたとおりに部屋の扉を閉めるネロ。するとそんなネロにキュルケが歩み寄った。

「ようこそ、私のスウィートルームへ……。私はキュルケ。よろしくね。貴方はネロ……で宜しいかしら?」
「……一応な」

 相変わらずキュルケと視線を合わせないまま、ネロは言葉を続けた。

「それで? 俺に何の用があるんだ?」
「あなたをここに呼んだ理由……?」

 ネロはキュルケから視線を逸らしたまま、無言で頷いた。
 本当はすぐにでもこの部屋から出たかったがこの雰囲気がどうもそうさせてくれない。

「私の二つ名は、『微熱』。ご存知でしたかしら?」
「……生憎熱っぽいのは嫌いでね」

 皮肉なセリフを言い放つネロにも、キュルケはクスリと妖艶な笑みを浮かべるだけだ。
 彼女はいつまで経っても視線を合わせないネロのすぐ近くまで歩み寄ると、

「『微熱』の私は、松明みたいに燃え上がりやすいの。それがどういう事か……分かる?」

 と、艶めかしい態度でネロに尋ねる。
 しかしネロはやれやれと首を振ってウンザリしたように声を出した。

「俺の質問に答えてないぜ」

 「あら……」と呟きつつキュルケは悪戯っぽい笑みを浮かべてネロを見つめた。
 一方ネロの方は心底迷惑そうな顔を見せている。

「私……恋しちゃったのよ? あなたに」

 流石のネロもこの一言には面喰ったように驚いた。
 恐らく、異性の人からここまで露骨に告白されたことなど初めてのことだろう。

「はぁ……。恋って、突然よね。ホントに……」
「そりゃ大変だな」
「あなたがギーシュを素手で倒した姿を見た瞬間、私は痺れてしまったのよ!」
「おっと」

 突如抱き着いてきたキュルケを、ネロは咄嗟に華麗な回避をして――いわゆるテーブルホッパーという奴だ――床へ倒れたキュルケを見やった。
 当のキュルケは上半身を起こし、これまた悩まし顔をして彼へ言った。

「もしかして……激しいのはお嫌い?」

 万人を虜にさせる美少女がこんな顔をしてこんなセリフを言えば男なら誰しもが陶然としてしまうことだろう。
 しかしネロに限った話で言えば、彼には既に心に決めた人がいる。ネロは咄嗟にキュルケから視線を逸らして答えた。

「……そういう問題じゃないだろ」

 心なしか、声のトーンが先ほどより落ちているような気もしないでもない。
 甘えるような眼差しで己を見つめるキュルケに、流石のネロも動揺しているようだ。彼も男ということだろう。

「燃えるような恋の前ではどんな問題も些末なことよ?」

 ―――オイオイ、勘弁してくれ……。

 こういう手合の女性は、ネロが最も苦手とするところだった。彼の他人と関わりたがらない性格のせいもあるだろう。
 しかも彼はその性格とは裏腹に意外と純なところがあるせいか、愛しい人以外の女性とは付き合いが薄い。それゆえネロはこういうシーンに慣れていないのだ。
 ネロの鼻白ろんだ顔にキュルケの顔が近づいた瞬間―――部屋の窓が大きな音を立てて開いた。

「キュルケ!」

 声を上げた生徒の一人と思しき男が、部屋の窓越しにこちらを睨みつけている。
 それに対してキュルケは、まるでなんでもないように「あら、スティックス」とだけ言った。
 ステイックスと呼ばれた男はそんなキュルケに対して不満のこもった声で抗議する。

「待ち合わせの時間に君が来ないから来てみれば……!」
「じゃあ二時間後に変更して♪」
「話が違う!」

 さらりと酷い事をいうキュルケ。男の反論もやむなしというものだろう。しかし引き下がらない男に対して、キュルケはさらに酷い仕打ちを敢行した。
 蝋燭の炎を蛇のようにして男に撃ちだす。それに直撃した男は有無を言わずに落下して二人の前から姿を消した。

「いいのかよ?」
「いいのよ。レディのプライベートを邪魔する輩にはあれぐらい」

 「それより……」と呟いたキュルケの視線がネロへ戻る。その瞳に見つめられてネロは己の置かれていた状況を思い出した。
 今の内に逃げれば良かった―――と後悔するのも遅く、ネロは再びキュルケに迫られる。

「とにかく、今私が一番愛してるのは……」

 と、その時。

「キュルケ!」

 なんかさっきも似たような台詞を聞いたな―――そんな思考をするネロの視線の先は、先ほどと同じように窓へ向けられている。
 そこにいたのは先ほどとは別の男だったが先ほどの男と同じ理由で怒ってそうな男が一人。彼も学院の生徒のようだ。

「その男は誰だ! 今夜は僕と激しく燃え上が――のわああぁ!」

 ああ、不幸な奴だな―――とネロから心の中で同情された生徒は、台詞を皆まで言い終える事なく先ほどの男と同じようにキュルケ自身に撃ち落された。
 当のキュルケはまたすぐにネロの方へ向き直って愛の言葉を並べる。

「とにかく、夜は短いわ。あなたとの貴重な時間を………」
「「「キュルケ!!!」」」

 今度は三人分の叫びだった。ネロもこの部屋に来てから驚きの連続だ。

「「「何してる! 恋人はいないって言ってたじゃないか!!」」」

 ―――じゃあお前ら、今体引っ張り合ってる男は何だと思ってんだ―――と、ネロが最もなツッコミをする。勿論心の中で。
 流石のキュルケもこれには動揺したようで、焦った表情を見せている。

「マニカン! エイジャックス! ギムリン! ええと、それじゃ六時間後に!」
「「「朝じゃないか!!」」」

 最もな反論をする三人の対処に困ったのか、彼女は一言、

「フレイム!」

 と己の使い魔の名を呼ぶ。すると直後にその使い魔が起こした炎によって、三人まとめて吹っ飛ばされてしまった。
 三人分の悲鳴を聞きながらネロは彼らしくもなく冷や汗を流しながら呟いた。

「……オイオイ」

 そう言ったネロの顔を見つめ、キュルケは微笑すると今度こそネロへ抱き着く。
 どこぞの十七歳の高校生とは違って、ネロは身長も高く体付きも良い。流石にキュルケが押し倒すことはできないが、ネロが動揺するにはそれで十分だった。

「愛してるわ……ネロ……」
「……悪いが、夜の相手ならキャンセルするよ。さっきの男どもで元気をなくしちまったからな」

 相変わらずキュルケと視線を合わせないようにして――それがキュルケの女心をくすぐるのだが――ネロは彼女の体を引き剥がそうとした。
 するとその瞬間。

「キュルケ!!」

 先ほどの男たちよりも高く、大きな声が部屋に響いた。それも今度は窓からではない。扉の方からだ。
 声の正体はルイズだった。彼女はキュルケと共にいるネロを目にして柳眉を逆立てて叫ぶ。

「ネロ!!? あんた、やっぱりここにいたのね!!?」

 間違いなくご立腹の様子だ。恐らくネロがキュルケと親しげにしていると勘違いしているのだろう。
 ネロはそんなルイズを目にして面倒臭そうに嘆息した。

「あ、ああああんたご主人さまに内緒で、よよ、よりにもよってツェルプストーと一緒いるなんて………!」
「あらルイズ、ネロを取られて妬いてるの?」
「なっ、ななななな………!」

 ルイズに取っては、別に妬いているというよりも自分の使い魔が憎きツェルプストーと一緒にいるのが我慢できなかったのだが、何故か彼女は顔を真っ赤にさせて声を張り上げた。

「そそ、そんなわけないでしょ! とにかく、今すぐネロから離れなさいよ!」

 だが、その時既にネロはキュルケから離れ、部屋の扉―――即ちルイズの方へ歩き出していた。

「あっ、ダーリン……」

 名残惜しそうなキュルケに、やはりネロは迷惑そうな顔をしながら背を向けて言った。

「悪いな。その……こういうのは、またな」
「またなんてあるわけないでしょ! さっさと行くわよ!」

 ルイズは強引にネロを連れて行こうとしたが、誰かさんとは違って彼の体格ではそうは行かない。耳を掴もうにも耳へ手が届かない。
 ネロは逆にそんなルイズの体をひょいと持ち上げて、キュルケの方を見ないようにしながら彼女へ軽く手を振った。

「じゃあな」
「もしルイズに嫌になったらいつでも私のところへ来てね、ダーリン」

 ルイズは未だにネロへ未練を持つキュルケへ、ネロに抱えられた状態で子供のように「べー」と舌を出していた。
 キュルケはそんなルイズに対してまるで知らん顔をしていた。流石にこの辺りは大人らしい。


 ―――ともあれ、その後の部屋に戻ってのルイズの説教を含めれば、ネロにとっては散々な一日だったと言えよう。








―――to be continued…….


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