あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゴーストステップ・ゼロ-14


ヒュー達を置き去りにして先行していたワルドは、グリフォンの足を些かも緩めることなく、ラ・ロシエールへの行程を進めていた。
朝靄に隠れていた太陽は中天にさしかかろうとしており、ワルド達を追っているヒューとギーシュの姿は最早豆粒程度にしか見えなくなっている。
このままでは2人を置き去りにしてしまうと思ったルイズが、ワルドに話しかける。

「ワルド様、少しスピードを落とされた方が…、この速さではヒューとギーシュを置き去りにしてしまいます。」
「ふむ、これでも馬に合わせてるのだが…。どうだろう、僕等だけでも先行しておかないか?」
「2人を置き去りにするつもりなのですか?ワルド様。」

ルイズの言葉に、僅かに篭った感情にワルドは気付いてはいたが、残念そうに話を続ける。



ゴーストステップ・ゼロ  シーン14 “Journey course to the sky / 空への旅路”

    シーンカード:ミストレス(豊穣/母性。女性ゲストの協力。物質的な恩恵を被る。)



「ああ、非情なようだが仕方があるまい、何しろこの任務はスピードが命だ、今は1分でも惜しい位だからね。」
「ですが…!」
「君にも分かっているはずだよルイズ。今、アルビオンの王党派は追い詰められて明日をも知れない状況だ、なればこそ今は一刻も早く動かねば。」

ワルドが言っている事は確かに正しい事だった、自分達が遅れれば遅れる程、状況は悪化していくことは間違いないのだ。
しかし、いくら急いでいるとはいえ、仲間を置いて行っていいものか…。意見を聞くためにヒューと連絡を取ってみたかったが、人前での使用はきつく止められていた。

(適当な所で休憩してもらって、その時に連絡をとるしかないのかしら…)

等とヒューとの連絡方法を思案していると、ワルドがおどけたような口調で話しかけて来た。

「やけに、あの2人を気にするね。もしやどちらかとお付き合いしてるのかな?」
「そっそんなわけないじゃない!あっ…」

ルイズは、思わずいつも通りの口調で返してしまった事に気付いて、思わず口に手を当て黙り込む。
真っ赤になったルイズを見たワルドは、快活に笑い声を上げてルイズの髪を軽く撫でながら話しかける。

「無理しなくていいよルイズ、どうか僕には飾らない君の姿を見せてくれ。
 しかし、良かったよ。婚約者に僕以外の恋人がいるとなると、婚約者失格の烙印を押されてしまう。」
「そんなことはありませんわ、ワルド様は十分以上に自慢できる婚約者ですもの。」
「ほら、また。」
「あ…。」
「いきなり直せと言うのも無理があるからね、少しずつ直していこうじゃないか。
 実際、僕も今日まで君を放っていた不出来な婚約者だ、この旅を機にもう少しお互いを知る事から始めよう。」
「は…うん。」
「そうそう、その調子。それじゃあ何から聞こうかな。」

2人は共通の思い出話や、ルイズの学校における話題、ワルドの苦労話等を語り合いながら、ラ・ロシエールへの空を行くのだった。


場面は代わり、地上を行くヒューとギーシュ。
空を行く2人、というかワルドは此方を一顧だにせず、ひたすらラ・ロシエールへ急いでいる。それと対照的に地上の2人
は、馬に負担を掛けない程度の早足で行程を消化していた。

「ヒュー、次の駅で一旦休憩を取ろう。」
「ああ、そうしてくれると助かる。」

余裕があるギーシュと違い、ヒューはかなり限界っぽかった。
しかし、それは無理もないだろう、一応乗馬の訓練をしているとはいえ、あくまで1日2時間かそこら[休憩付き]である、これほど長い時間、馬に乗って移動するなど良くやっている方だろう。

「くそ、せめてタバサがトリステインの貴族なら協力を要請出来たんだが。」
「しょうがないよ、それでなくともこれは隠密任務なんだ、知っている人間は少ない方がいいからね。」
「分かっちゃいるんだけどな…。」

ヒューの愚痴をギーシュがなだめるという、普段見られない状況がそこにはあった。人間、不慣れな事で疲れると、余裕が無くなるという事なのだろうか。
そうこうしている内に駅に着いた2人は、一旦休息をとる事にした。
ヒューは駅に着くなり、後の手続きをギーシュに任せて、駅に設置されている休憩所でひっくり返る。
しばらくして、手続きが終わったのだろう、ギーシュが消化にいい食べ物をトレイに乗せて、ヒューの所に持ってくる。

「やれやれ、魔法衛視隊は化け物揃いとは聞いていたんだけど、ここまでとはね。」
「いや、どっちかって言うとこれは馬とグリフォンの移動方法の違いだろう。」
「どういうことだね?」
「馬は地面を蹴って進むだろう?その反動は否応無しに、乗っている人間や馬そのものにかかってくる。対してグリフォンは飛んだり滑空したりする…恐らく先天的な魔法も使用している…事で進む、馬と違って反動は少ないだろう。
 違いは明白だよ。」
「なるほどね、ところで食えるかね?一応食いやすい物を選んできたんだが…」
「ああ、悪いな。」

そうして2人が軽めの昼食を摂っていると、表の方でなにやら騒動があったのか、馬の嘶きや人が騒ぐ声が聞こえてくる。
何やら「ドラゴンだー」とか「貴族様」とか聞こえてくるが、疲れ切っていたヒューには気にするほどの余裕が無かった。

「ヒュー、大変だよ!」
「何だよギーシュ、食べてる間位ゆっくりさせてくれ…」

ギーシュの言葉に嫌々ながら応えたヒューの耳に、ここにいない筈の少女の声が聞こえてきた。

「見つけたわよヒュー、私達に黙ってアルビオンに行こうだなんて薄情じゃなくて?」
「…ギーシュ、今日はここで一泊しようか、疲れのあまり幻聴まで聞こえてきやがった。」
「…ヒュー、信じたくない気持は僕にも分かるけどね、残念ながらこれは現実だよ。」

そう、ヒュー達の背後にいるのはキュルケとタバサだった。



「で、何でお嬢さん達がここに来ているんだ?授業はどうした。」

昼食を摂り終え、冷えた果汁で喉を潤しながら、ヒューは不機嫌そうに2人の少女に尋ねる。
ヒューの機嫌をまるっきり無視して、キュルケが答えた。

「貴方ね、昨日の夜あれだけ騒いでおいて、ばれていないとでも思っているの?」

小声で話していたはずだが…と考えているヒューの視界に、ハシバミ草のサラダをかきこむタバサが見えた。

「魔法か…」
「ええ、そうよ。昨日はちょうどタバサが遊びに来ていたの。で、廊下で何やら話していたから、ちょっと聞かせてもらったの。」
「もう少し、令嬢らしくするべきだと思うのは俺だけか?」
「あら、これ以上無いくらい貴族の令嬢らしいじゃない、私は嫌いだけどね。好奇心には逆らえないわ。
 それにね、ゲルマニアにとっても、私にとっても他人事じゃないのよ。」
「どういうことだ?」
「ツェルプストー家はゲルマニアでもかなり力を持っている。」
「という事よ、あのお姫様が輿入れしないと、私にまでお鉢が回ってくる可能性があるの。
 それにレコン・キスタがトリステインを併呑したら厄介だわ、私の家も最前線になっちゃうし。だからこの同盟は成功して欲しいのよ。」

キュルケの意見にヒューはしばらく考え込んだ後、2人に話しかける。

「条件を呑んでくれたら許可しよう。」
「何かしら。」
「他言無用。自分の命を最優先にする。こちらの言う事を聞く事。以上だ。」

たった3つ、しかも簡単な条件だったので、キュルケは拍子抜けした。

「あら、たったそれだけ?」
「トリステインの姫殿下から受けた用事で、他国の人間が死んだ…なんて事になってみろ、いきなり戦争沙汰だ。
 出来る事ならここから引き返して欲しい位さ。」
「ふーん、どうしようかタバサ。」
「ヒューの意見は真っ当。けど、私達もトリステインという緩衝地域は欲しい。」
「という事よヒュー、さっき言ったとおり私もタバサも引く気は無いから、受けるわその条件。」

晴れ晴れとした笑顔で、そう言い放ったキュルケを、ヒューは溜め息を吐きつつ見ていた。
当のキュルケは周囲を見回しながら、ギーシュに不思議そうに尋ねる。

「ギーシュ、そういえばルイズはどうしたのよ、一緒じゃないの?」
「ああ、ルイズだったら婚約者のワルド子爵と一緒に先を進んでいるよ。」
「ええっ、アンタ達置いてきぼりを食らったの?急いで追いかけないとダメじゃない!」
「いやいや、それがそうでもないんだよ。考えてもみたまえ、今日はまだスヴェルの夜じゃないんだ、ならばラ・ロシエールには明日までに着けばいいのさ。」
「…そういえばそうね。ギーシュ、貴方にしては冴えてるじゃない。」
「ま、まぁね、僕だって成長はするのさ。」
「という訳で、俺たちはしばらく休んでから再出発しようかと思ってたのさ。」
「ふぅん、ところでワルド子爵って誰。」
「魔法衛視隊・グリフォン隊の隊長さんで、ルイズお嬢さんの婚約者サマだよ」
「あの娘に婚約者なんていたの?」
「いたらしいな。と、失礼。」

そんな話をしている中、ヒューはおもむろに立ち上がって休憩所の隅に移動する。
懐から<ポケットロン>を取り出して、ディスプレイを見ると、ルイズから連絡が入っていた。

「はいよ、何かあったのかい?ルイズお嬢さん。」
【何言ってるの。貴方達が見えなくなったから心配になったんじゃない!】
「ああ、そりゃあすまない。けどまあ大丈夫だ、今日の夜までにはラ・ロシエールに到着できるよ。」
【そうなの?それじゃあ、遅くならないように気を付けて来なさいよ。】
「了解。ところで子爵には見られて無いよな?」
【大丈夫、休憩を取ってもらってから話しているから。じゃあね。】
「ああ、そっちも気を付けてな。」

そこまで言って通信を終了する。
3人の所に戻ったヒューにギーシュが話しかけてきた。

「気分でも悪いのかね?」
「まあ、良いとは言えないな。けどまぁそんな事も言ってられないし、行こうか。」
「そうね、じゃあお願いねタバサ。」

キュルケの言葉に頷いたタバサを先頭に休憩所を出ると、そこにはやはりというべきか、シルフィードが佇んでいた。
一行がシルフィードに乗った事を確認すると、タバサはシルフィードをラ・ロシエールへと飛翔させる。


その後、一行は夕方過ぎにラ・ロシエールに到着した。途中、傭兵崩れの山賊に襲われる事もなく無事に到着したのは、シルフィードで飛んでいたからだろう。本当ならもう少し早く着く予定ではあったが、長時間の乗馬で体力を消耗していたヒューがいた為、控えめな速度で飛ばざるを得なかったのである。

「さて、ルイズ達は何処に泊まっているのかしら?」
「ここで一番高い宿じゃないか?」
「…そりゃそうよね、何たってルイズだもの。」
「子爵も婚約者には格好良い所を見せたいだろうしな。」

キュルケとヒューの会話と共に一行が到着したのは、ここラ・ロシエールで最も高級かつ洗練された宿「女神の杵」亭だった。

一行は宿に入り、ルイズ達が逗留している事を確認した後、宿の1階にある酒場で夕食を摂る事になった。
その席上、ギーシュがふと思いついた疑問をヒューに尋ねる。

「よく2人がここに泊まっていると予想できたね。」
「絶対とは言いきれないけどな、かなりの確率でこの手の宿に来ているとは考えていた。」
「根拠」
「お嬢さんの性格と立場+婚約者である子爵の感情…いや見栄かな?」
「ルイズの立場とかは分かるんだけど、子爵の感情や見栄って、どういう理由なんだい?」

ギーシュの疑問に、ヒューは食事をしながら簡潔に答えていく。

「まずは、子爵の感情からいってみようか。お嬢さんに婚約者がいると知っていたかい?」
「いや、全くの初耳さ。けどまぁ、考えればおかしい事でも無いけどね。」
「私は知らなかったわね。」
「初耳。」
「俺も今朝方まで知らなかった。
 さて、キュルケここで問題だ、“婚約者が魔法衛視隊の隊長をしている”…ギーシュに聞いたらかなり凄い事らしいな。」
「そうね、あれだけの若さですもの、かなりの凄腕と見て間違いないわ。」
「さて、そんな凄い婚約者の話題を今の今までお嬢さんがちらつかせなかった理由は?」
「…そうね、あの子の性格もあるだろうけど…。ああ、なるほどね。」
「確かに…、理解した」
「ええっ?どういうことだい?僕には今一つ分かり難いんだが。」

キュルケとタバサが頷く傍らで、ギーシュが慌てている。そんなギーシュにキュルケとタバサが説明をする。

「2人には、ほとんど交流がなかったって事よ。忙しさにかまけていたのか分からないけどね、多分手紙のやりとりも無かったんじゃないかしら。」
「だからこそ、今、自分の優秀さをアピールする。」
「そう、優秀である事を示す役職。並のメイジでは御し得ない乗騎。金回りの良さ。その他もろもろ。
 恐らく今回の任務で、お嬢さんの気持を引き寄せる算段なんだろうさ。ここまで説明すれば見栄の方はいわずもがなだろう。」

最後にまとめたヒューの説明に、ギーシュは納得して頷く。

「なるほど、ワルド子爵も大変だな。」
「そうだな、せいぜい頑張って欲しい所だ。」


食事も一段落つき、全員で食後の茶を楽しんでいると、宿の扉が開いて件の2人が入ってきた。

宿の扉を潜ったルイズは、酒場をぐるりと見回した後、信じられない光景を見つけた。何と、ここにいて欲しくない人物の上位に入る2人が、自分の使い魔やギーシュと談笑しているのだ。
一瞬で頭に血が上ったルイズは、そのテーブルに突進していく。その速さたるや、ワルドの制止が間に合わない程だった。

「ちょっと!キュルケにタバサ!なんで貴女達がここにいるのよ!
 ていうかヒュー!アンタこの間、私にあれだけの事言っておいて、何してるの!」

テーブルに到着したルイズは、一気にまくしたてると、ヒューに詰め寄る。
対するヒューは、驚きはしたものの、ルイズとワルドに席を勧めて座らせると、飲み物を注文して説明を始める。

「まぁ、落ち着きなってルイズお嬢さん、これには事情があるんだよ。」
「へぇー、聞かせてもらおうじゃない。」

一応、聞く気になったのか、運ばれた飲み物を一気に飲み干して、ワルド以外の4人を睨みつける。
苦笑しつつも説明を始めたのはキュルケだった。

「じゃあ、私から説明するわね。実は貴女達が何しにアルビオンに行こうとしてるか、大体のところは昨日の夜に廊下で話していたのを聞いてたから知っているのよ。
 でね、私としても貴女の国のお姫様には御輿入れ願いたいの、他ならぬ私と我が家の為にもね。」
「どういう事よ。」
「考えてごらんなさいな、トリステインが負けたら次はガリアかゲルマニアに決まっているでしょう?で、国力的に見るとガリアよりもウチの方が組し易いの。ゲルマニアは都市国家群の集合体だから、内部から切り崩しをするのが楽なのよ。
 それにね、実家はトリステインと領地を接しているから、トリステインが無くなると防御体制の見直しもしなきゃならないでしょ?面倒なのよ、お金もかかるし。
 後は本当に私事だけど、御輿入れがなくなったら、私にお鉢が回ってくる可能性があるの。だから協力する。理解した?」

キュルケのもっともな意見に、ルイズは納得するしかなかった。確かに最後のは馬鹿らしいが、前半の理由は頷ける。
連中の手先はトリステインにすらいた。それをゲルマニアに照らし合わせたら、あの国の体制からして惨憺たる状況になる事は間違いないだろう。
その後の防御体制に関する話もそうだ、トリステインはどちらかというと陸戦をメインにしている。キュルケの実家の防御体制も当然、対陸戦をメインにしているだろう。そこに空戦主体のアルビオン軍が来たら苦戦は免れない。見直しが間に合ったとしても、その費用は莫大なものになる事は想像に難くない。

「ぐぐぐ、分かったわよ。そういう事なら貴女も当事者だしね、けどタバサはどうして?」
「基本はキュルケと同じ。」
「基本は?じゃあ別の理由でもあるの?」
「情報拡散の防止」
「どういう事?」
「貴女達がいなくなった場合、多分私に調査の手が伸びる。」
「なるほど、なるべく情報を広げない方がいいという判断か。確かにそれは助かるよミス・タバサ。
 トリステイン貴族の1人として貴女方の協力に感謝しよう。」

キュルケとタバサの説明を聞いていたワルドが恭しく礼をする、それに対してキュルケは笑いながら応える。

「あら、気にする事ではありませんわ、先にも言ったとおり。これは私と我が家の為でもあるのですから。」
「同じく」
「じゃあ、言っとくけど。」
「分かってるわよルイズ。他言無用、自分の命第一。でしょう?ヒューに約束させられたもの。」
「そ、そう。ならいいのよ……」

とりあえずの問題が解決したからか、テーブルに弛緩した空気が流れる。
ルイズとワルドは夕食を摂り始め、ヒュー達は再び話しをはじめていた。ルイズ達の食事が一段落した所を見計らったのか、ギーシュが2人に会話を振った。

「ところで子爵はどちらに出かけられていたんですか?」
「アルビオンに渡るフネを探していたんだが…」
「ああ、まだ出せないと言われましたか。」
「ギーシュ君!なぜその事を。」
「いえいえ、簡単な話ですよ、ラ・ロシエールを出るフネはスヴェルの夜を迎えないと出れませんから。」
「ほほう、君のような若者がいるのなら、トリステインの未来は明るいな!うん、君が軍に入る時が今から楽しみだよ。」
「い、いやぁ…ははは。」

得意気に話すギーシュに驚いたワルドは、話題を切り替えながら懐から鍵を二つ取り出す。

「さて、残念な事に部屋は2つしか取っていないんだ。ミス・ツェルプストーとミス・タバサには自分達で部屋を取ってもらいたいんだが、構わないかね?」
「それは構いませんが、ワルド子爵。そちらはどういう部屋割りにされるの?」

部屋2つという言葉に疑問を抱いたキュルケが、ワルドに尋ねる。

「ギーシュ君とヒューが相部屋。僕とルイズが同室になろうと思っているんだが?」

ヒュー以外の視線が、ワルドとルイズに集まる。そんな視線を意に介したふうもなく、ワルドが全員に聞こえるように言った。

「僕とルイズは婚約者だからね、別に問題は無いだろう?」
「ワ、ワルド。いきなり何を!私達結婚しているわけじゃ無いのよ!」

意識が飛んでいたルイズだったが、ワルドの言葉で正気に戻ったのか、首から上を真っ赤にして抗議を始めた。

「大事な、とても大事な話しがあるんだ。君と2人きりで話がしたいんだよ。」
「だったら、その時だけ会えばいいだけじゃない!」

傍迷惑な2人の会話をよそに、ヒューがキュルケに話しかける。

「なぁ、3人部屋を取ってくれないか?」
「いいけど、どうして?」
「ルイズお嬢さんを泊めてやってくれ。」
「私は別にいいけど」
「ちょっと待ちなさい!ヒュー!」

ヒューの意見に噛み付いたのはルイズだった。

「何だい、ルイズお嬢さん。」
「あ、貴方。よりにもよってキュルケのお情けに縋れって言うの?」
「じゃあ、嫁入り前に男と同衾するかい?」
「ど、どどどど同衾って!そんな事するわけないでしょ!」
「なら、選択肢は無いだろう、言っておくが1人で寝るのは安全上却下だぞ。それに、もし子爵と一緒の部屋に泊まった事がご両親にバレたらやばいんじゃないのか?
 第一、キュルケに貸しを作るのが嫌なら、部屋代を折半すればいいだろう。」
「た、確かに。それなら一応の言い訳は立つわね…、じゃあお願いキュルケ。」

ヒューの意見にルイズはしぶしぶ応じる事にした。確かに、旅先でヒューと同じ部屋に泊まるわけにはいかなかったし、それが婚約者とはいえ、ワルドと同じ部屋で泊まるという事になると、ヒューが言うようにあの両親が怖すぎた。
宿代を折半にすれば貸しを作る事にもならないから、まだいい方だろう。

なんとか落ち着いたルイズを横目に、キュルケはワルドに話しかけていた。

「という事よ、ごめんなさいね色男さん。」
「いや、確かに彼が言うとおりだよ。
 婚約者とはいえ結婚前のお姫様と同じ部屋に泊まろうとは…、少し気が急いているのかな。
 それに、彼女のご両親にも睨まれたくは無いしね。」

冗談めかした会話をするワルドに、ヒューが横合いから話しかけてくる。

「歓談中済まないんだが子爵、俺とギーシュの部屋の鍵をくれないか。」
「ん?ああ、いいとも。」

鍵を受け取って、部屋へと去っていくヒューの疲れ切った背中を見たワルドは、不安そうにキュルケに零す。

「彼は、大丈夫なのか?」
「彼って…ああ、ヒューの事?慣れない乗馬なんてしたから疲れてるのよ。」
「乗馬に慣れていないだって?不思議な話もあるものだな。聞いた話では、彼はメイジだそうじゃないか。
 期待していたんだが、これは期待外れという事か。」
「馬で移動する習慣がなかったみたいね。乗馬の練習は、ここ最近始めたって話だもの。
 腕前の方は…、まぁ自分で確かめてみなさいな。」

幾分か、からかう様な口ぶりでヒューを評したキュルケが、同室になる2人を連れてカウンターへ向かう。
その場に残ったワルドは、ヒューとギーシュが登った階段を冷めた瞳で見て、一人呟いた。

「ああ、そうさせてもらおう。」




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