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毒の爪の使い魔-28


夕日が辺りを紅く染める。
ジャンガは切り立った崖の上の手すりに凭れ掛かり、ボーっとしていた。
消えたルーンやら、決闘の敗北やら、著しい身体能力低下やら、悩む事が多すぎて考えが纏まらない。
ゆえに今はボーっとしていようとそう考え、先程からずーーーっと人気の無いここにいた。

どれだけそうしていたか――突然、後ろから声が掛けられた。

「ジャンガ、こんな所に居たの…」
後ろを振り向くまでも無い。今の声が誰のかなど、考えるのは愚問だ。
ジャンガは特に感情を込めずに返事を返す。
「…ンだ?」
「何だも何も無いわよ。探したじゃない?」
「フン…、今はほっときやがれ…」
ジャンガの言葉にルイズは表情を曇らせる。
「もしかして…泣いてたの?」
「……」
返す言葉が無い。事実、あの敗北の後、大泣きしたのだから。
その様子にルイズは、自分の言った事が的を得ている事を確信した。
「朝の事を気にしてるの? 相手は魔法衛士隊の隊長、陛下を守る守護隊長なのよ?
あんたが相手にしたメイジとは比べ物にならない腕を持ってるんだから。
それに…あんたはまだ怪我が治りきっていないんだから、負けたって…」
「…怪我が治ってたって負けたさ」
「え?」
突然返された言葉にルイズは思わず声を漏らす。
「それってどう言う事?」
「……」
ジャンガは答えない。
ルイズはジャンガに駆け寄り、肩を掴んで揺さぶる。
「ちょっと、今のはどう言う意味よ? ちゃんと答えなさいよ!」
ジャンガは無言で左の袖を捲くり、左手の甲をルイズの眼前に突きつけた。
突然の事に一瞬呆気に取られたが、直ぐにルイズはそこに在るべき物が無い事に気が付いた。
「…ルーンが、無い?」
「…ああ、そうさ」
にべも無く、肯定される。
ルイズは更に問い質す。
「ルーンが無いって…どう言う事よ!? 使い魔の契約は一生の物のはずよ!?
どうして消えてるのよ!? と言うよりも、いつ、どうして、消えたのよ!?」
「消えたのはタバサ嬢ちゃんを助けた帰り道…、どうして消えたかは知らねェ…」
淡々と返すジャンガの言葉にルイズはムッとなる。
「じゃあ何!? あんたはルーンが消えたからあんなに弱くなったって、そう言うの!?」
「…他に理由が在るか?」
言われてルイズは黙ってしまう。
ジャンガは大きなため息を吐いた。
「ったく…嫌な物だな、使い魔ってのはよ。散々主人に逆らったら、勝手に放り出して、
更にそいつを著しく弱体化……最悪過ぎるな。よくこんな残酷極まりない物を考え付いた物だゼ」
「そ、そんな事言われたって……使い魔のルーンが消えるなんて、初めて聞いたわよ」
「フン」
忌々しげに鼻を鳴らすジャンガ。
「まァ…これで俺は晴れて自由の身だ。テメェにあーだこーだ言われる筋合いは、もう無ェんだ。
清々したゼ…キキキキキ」
そう言って笑うジャンガだったが、その笑い声に力が籠もってないようにルイズには感じとれた。
「…悪かったわ」
「…ケッ、何を今更」
ジャンガの言葉が胸に突き刺さる。そう…、確かに今更だ。
元々の原因であり使い魔扱いをしていた自分に、ジャンガの今の境遇に同情する資格は無い。
…だが、それでも悪かったと言いたかったのだ。

「…今更だってのは解ってるわよ。でも、原因はわたしだし、せめてあんたの体調を戻す手伝い位は…」
「必要無ェ…。テメェにこれ以上借りなんか作らせるか…」
その言葉にルイズは再びムッとなる。
「何よ! 心配してあげてるのに、その態度は!?」
「ウルセェ…、今はほっとけってんだよ…」
そう言ってジャンガは口を閉ざした。
ルイズはジャンガの背に向かって言った。
「ジャンガ…、わたし…ワルドと結婚するわ」
「ああ…そうかよ」
それだけ…、ただそれだけ…、ジャンガは返事を返した。
そう…、とルイズは呟き、ジャンガに背を向ける。
そして歩き出そうとした所に、声が掛けられた。

「まァ、精々裏切られても泣きべそかくなよ」

その言葉にルイズは勢いよく振り返る。
ジャンガはこちらに背を向けたままだ。
「…今の言葉、どう言う意味よ…?」
「どう言うも何も…言ったまでの意味だゼ?」
ルイズは拳を力強く握り締める。

裏切り?

誰が?

ワルドが?

幾らなんでも、今の言葉は聞き捨てなら無い。
「あんた! 幾ら負けたのが悔しいからって、言っていい事と悪い事があるわ!」
「なら別にいいだろうが? 事実だしよ…」
「何を根拠にそんな事が言えるのよ!?」
ジャンガは頭を掻く。
「目がな…」
「目?」
「冷たいんだよ。ありゃ、裏の世界で生きる者に良くある目だ。他者を利益の対象としてしか見ないな。
テメェの事も自分の利益になる物としてしか見て無いゼ、あのヒゲヅラはよ。
まァ、そんな小難しい事は抜きにしても…あの野郎が裏切るってのは解るゼ。
何しろ、俺が裏切り者だからな。嫌でも解るんだよ。どう言う奴が裏切るのかってよ。キキキ」
笑うジャンガに対し、ルイズは怒りで体中の血が沸騰しそうだった。
無理も無い、自分の婚約者を…憧れの人を、裏切り者と貶されているのだから。
「…いいわよ。あんたはそう言っていればいいわよ。でも、わたしはワルドと結婚するわ。
あんたは何も知らないからそう言えるけど、わたしはあの人の事を小さい時から知っている。
とても優しくて、気品があって、あんたなんかとは大違いなんだから!」
「キ、キキキ、キーーッキキキキーーーーッ!」
突然大声で笑い始めたジャンガに、ルイズは一瞬気圧された。
「な、何が可笑しいのよ!?」
ジャンガはルイズを振り返る。
「…いや、テメェがあまりにも”お約束”な台詞を言う物だからよ。
言うんだよな…裏切られた奴は、どいつもこいつも”あいつは違う”とか”自分は良く知ってる”とか。
そう言って信頼を寄せた先にあるのは―――裏切りだけ。
そこで初めて自分の愚かさに気が付くんだよな。馬鹿馬鹿しいゼ…」
手を広げ、やれやれと言った顔付きで首を振る。
「テメェも結局、そいつらと同じさ。俺自身裏切り者だしよ、断言してやる…」
ジャンガはルイズに爪を突き付け、言い放った。

「テメェは、あのヒゲヅラに裏切られる、絶対にな! キーーーッキキキキキキッ!!!」

その言葉に、ルイズは完全に我慢の限界を超えてしまった。
笑うジャンガに静かに歩み寄る。
「ねぇ…、ジャンガ…」
「あン? 何だ――」

パァァァァァン!

乾いた音が辺りに響いた。

突然の事にジャンガの思考は一瞬麻痺した。
歩み寄ってきたガキの言葉に笑いを止め、顔を覗き込もうとした瞬間、視界が横を向いた。
乾いた音が遅れて聞こえ、左の頬が熱を持ったように熱くなる。
視界を目の前に戻すとガキが右手を大きく振るった格好で身体を震わせている。
そこで、ようやくジャンガは、自分が左の頬を叩かれた事に気が付いた。

ルイズは肩を振るわせ続けている。俯いている為、表情は伺えないが、時折雫のような物が垂れている。
ジャンガが眉を顰めると、ルイズは顔を上げる。
両目は涙が溢れ、顔にはハッキリと怒りの表情が浮かんでいる。
「テメェ…」
「あんた…、あんた…、何様のつもり? 偉そうに口を聞いているけど、そんなに自分の言っている事が正しいの!?
そんなに自分は世界で偉いの!? …そんなに偉いわけないじゃない。あんたは、向こうでも裏切り者だったんだしね。
そんな奴に…わたしの思いを、好きな人を否定されたくない。侮辱されたくない!」
一気に自分の中の思いを捲くし立てるルイズ。
そんなルイズに気圧されたのか、ジャンガは何も答えない。
「最近、少しは柔らかくなったかな? とか思ったけど…そんな事なかったわ。
あんたはやっぱり最低よ! 他人を嘲笑って楽しむ外道だわ! 心配なんかするんじゃなかった!
あんたなんか…、あんたなんか…、死んじゃえばいいんだわ! 死んで、地獄にでも落ちればいいのよ!!!」
そう叫ぶと、ルイズはジャンガに背を向け、その場を走り去った。
後にはジャンガ一人が残された。
ジャンガは夕日に向き直ると、手すりに頬杖を突き、ため息を吐いた。
「地獄か…」
デルフリンガーが鞘から飛び出す。
「相棒…、イライラしてんのは解るがよ。ちぃとばかり言いすぎじゃないのか?」
「…事実を言っただけだ。何が悪い?」
「いや…、普通信じられないと思うぜ? 自分の好きな人が裏切り者だ、なんて言われてもよ?」
「フン」
「…まぁ、それは置いといてだ。相棒に一つ聞きたい事が有るんだけどよ?」
「後にしろ」
「え? ちょっ、まっ――」
有無を言わせず、ジャンガはデルフリンガーを鞘に押し込んだ。



ルイズが去って、どれだけの時間が経っただろうか?
夕日は既に山の向こうに沈んでいる。
空は夜の帳が落ち始め、重なった二つの月が姿を見せている。
しかし、ジャンガは手すりに頬杖を突いたまま、ボーっとしていた。
そこに彼を探しに来たギーシュとキュルケが姿を現した。
「ジャンガ、探したぞ?」
「そろそろ出港の時間よ。急がないと、船に乗り遅れちゃうわ?」
「ああ…、そうかよ」
そんな二人の言葉を聞きながら、ジャンガは返す。
そのジャンガの言葉に二人は呆れた表情を浮かべた。
「そうかよ、って…君」
「まだ落ち込んでいたの? いい加減に立ち直りなさいよ。あなたらしくないわね」
キュルケがそう言った時だ。
突如、地震と間違うばかりの大きな地響きが起こった。
「な、なんだ?」
「地震?」
振り返ったジャンガは、慌てる二人の向こうを見るや叫んだ。
「テメェら、後ろだ!」
「「え!?」」
二人が振り返ると、地面を突き破り、巨大な全身が岩で出来たゴーレムが姿を現した。
突然の事に呆然とする三人の耳に、女の笑い声が聞こえてきた。
「あーはっはっはっはっはっ!」
その声にジャンガとキュルケは聞き覚えがあった。いや、ありすぎた。
「この声は…」
見上げると、ゴーレムの右肩にその姿は在った。
緑色の長い髪を棚引かせた女性だ。
ジャンガはその女性の名を忌々しそうに呟いた。
「フーケ…」

ジャンガの言葉にフーケは満足そうに笑う。
「覚えててくれて感激だわ」
「テメェ、チェルノボーグとかって豚箱に入ってたんじゃなかったのかよ?」
「親切な人がいてね…、私みたいな美人はもっと世の中の為に尽くすべきだって言われてね。
それでこうして出してもらったのさ」
「ほゥ? それがその隣に佇んでる奴か?」
フーケの隣には黒マントを着込んだ貴族が立っている。
顔は白い仮面を付けている為に解らなかったが、どうも男のようだ。
ジャンガは視線をフーケに戻す。
「で? 折角シャバに出られたってのによ…、わざわざテメェはここに何しに来たんだよ?」
それを聞いてフーケの顔に凶悪な笑みが浮かぶ。
「それは勿論、素敵なバカンスをありがとうって、お礼を言いに来たんじゃない!」
叫ぶや、ゴーレムがその豪腕を振りかぶり、突き出してきた。
咄嗟に三人はその場を飛び退く。
ゴーレムの拳が地面にぶつかり、巨大なクレーターを穿つ。
飛び退くや、キュルケは杖を手にし、即座に詠唱を完成させる。
杖の先端から『ファイヤーボール』が飛ぶ。
しかし、フーケに衝突する直前、炎球は突如巻き起こった風に押し止められ霧散する。
風が起こる直前、隣の仮面の男が杖を振るったのが見え、キュルケは苦虫を噛み潰した様な表情になる。
「また風なの……いい加減にして欲しいわね」
以前、授業の時にギトーの風の魔法で、炎球ごと吹き飛ばされた苦い記憶が、キュルケの脳裏を過ぎる。
「…けど、やられてばかりの、あたしでもないけれどね」
杖を突きつけ、再度詠唱を開始する。
隣ではギーシュもワルキューレを出し、臨戦態勢を整えていた。
「『土くれ』のフーケ! このギーシュ・ド・グラモンが貴様を成敗してくれる!」
「面白いじゃない? やれるものならね! けど、その前に…」
フーケはジャンガに向き直り、怒りの籠もった目で睨みつける。
「あんたにまず礼をしなくちゃね!」
ゴーレムの腕が突き出される。
それを間一髪飛び退いてかわす。
「チッ」
「どうしたんだい? ご自慢の分身やカッターは使わないのかい?」
「ケッ、ザコにそこまでしてやる必要が無ェ…。と言うよりも、豚はブーブー豚箱で唸ってろ」
フーケの額に青筋が浮かぶ。
「言ってくれるじゃないさ!!」
再度、ゴーレムの豪腕が振るわれ、地面に三つ目のクレーターが生み出された。
地面を転がるようにしてその場を逃れるジャンガ。
立ち上がり、ゴーレムを睨みつけた。

「ふん、なんだいあいつ? 前とは比べ物にならない位、弱いじゃないさ?」
「おそらく、身体の怪我が響いているのだろう」
フーケの呟きに隣の仮面の男が答える。
「ふん、まぁいいさ。わたしはあいつにこの間の礼を出来ればいいからね」
男は答えない。耳を澄ますような仕草をすると、フーケに告げる。
「よし、ではここはお前に任せる。俺はラ・ヴァリエールの娘を追う」
「わたしはどうするのよ?」
呆れたように呟くフーケ。
「好きにしろ。…念の為に”これ”を置いていく」
そう言って男は懐に手を入れる。
取り出した手には何も握られていない。――否、指の間に何かが挟まっている。
ビー球位の大きさの、赤と黄色の縞模様のカラフルな色彩の玉だ。数は全部で三つ。
フーケは怪訝な表情でそれを見つめる。
「何だいそれは?」
男は返事をせず、無言で玉を放った。
玉は地面に落ちるや、パンッ、と音を立てて破裂。
途端、破裂した地点を中心として青白いゲートのような物が現れた。
フーケが驚く間も無く、ゲートから何かが迫り出して来た。
どうやらそれは幻獣のようだった。だが、どれも見た事が無い。
一匹は一メイルほどの大きさで、全身銀色の鉄のような肌をしている。
他の二匹は三メイルほどの大きさで、緑色をしており、巨大な盾を手にしている。
「何だい…こいつら?」
「幻獣だ。見れば解るだろう?」
「そりゃ、それ位は。…でも、見た事も無い奴じゃないさ?」
「見た目などどうでもいいだろう? ともかく、そいつ等も自由に使っていい。君の言う事は一応聞く。
では俺は行く、後は任せた」
そう言って、男は『フライ』で浮き上がると、その場を飛び去っていった。
その後姿を見送りながらフーケは鼻を鳴らした。
「まったく、掴み所の無い男だよ。…でも、まぁいいさ」
そうして思考を目の前の三人に戻す。

そう、今は復讐の事だけを考えればいい。あの痛みは万倍返しにしなければ気がすまない。

「覚悟してもらうよ、化け猫!」



目の前に突如として現れた三匹の幻獣。
見た事もないそれにギーシュとキュルケは動揺を隠せないでいた。
「一体あれは何と言う種族なんだ?」
「あたしに聞かないでよ?」
悩む二人。そこへ響く声。
「よろいムゥ・ぎん、ジャイアントたてムゥ」
「「え?」」
同時に声の方へと振り返る。そこにいるのはジャンガ。
ジャンガはため息を吐く。
「また”あいつ”かよ…」
呟き、三匹の幻獣に目を向ける。

『よろいムゥ・ぎん』――ムゥンズ遺跡の遺産である金属『ムゥハルコン』を加工した鎧を身に纏ったムゥ。
鎧を身に着けただけの”ただのムゥ”であるが、鎧の頑丈さがムゥと決定的な違いを生み出している。
また、どう言う訳か通常のムゥよりも腕力的に優れているようであり、侮れない。
大きさも通常のムゥよりも大きくなっている個体が多いのも特徴。

『ジャイアントたてムゥ』――巨大な盾を持ったジャイアントムゥ。
盾は非常に頑丈な素材で出来ているらしく、並大抵の攻撃では傷一つ付かない。
鋭い爪を利用した攻撃はもとより、盾の頑丈さを生かしたタックル、
盾に乗って地面を滑ったりするなどの攻撃方法を身につけている。
この緑色をした個体は最弱の種だが、それでもその持久力は侮りがたい。

「君が知っていると言う事は……まさか!?」
ギーシュの考えを肯定するようにジャンガは頷く。
キュルケも眉を潜めた。
「また、あのピエロ? 本当にいい加減にしてほしいわ…」
「ぼやくんじゃねェよ…。あいつがいない分、まだマシだと思いやがれ」
そう言って爪を構えるジャンガを見て、キュルケとギーシュも目の前の敵に集中した。
フーケが腕を振り上げた。
「それじゃお前達! やってしまいな!」
「ムゥーーー!!!」
命令に従い、三匹の幻獣が一斉に動き出した。

先陣を切ったのは、よろいムゥ・ぎん。
突進しながらムゥハルコンでコーティングした爪を突き出す。
ギーシュはワルキューレを操作し、それを迎え撃つ。
一体が腕を掴み、二体がよろいムゥ・ぎんの突進を止める。
力と力がせめぎあう。だが、よろいムゥ・ぎんの力はワルキューレを上回った。
身体を振り回し、二体のワルキューレを跳ね除ける。
そして、腕を掴む一体に爪を叩き込む。
何の抵抗も無く、爪は青銅のボディにめり込んだ。
それはまるでゼリーにフォークを突き刺してるようであり、青銅とムゥハルコンの硬度の差を如実に物語っている。
紙を破り捨てるように、よろいムゥ・ぎんはワルキューレを引き裂いた。
その光景に歯噛みするギーシュ。
よろいムゥ・ぎんの背後から、二匹のジャイアントたてムゥが飛び掛ってきた。
盾を構えたのと反対の手の爪を振り翳す。
突き出された爪をワルキューレに受けさせ、ギーシュは何とかその場を離れる。
だが、ワルキューレがまた二体破壊された。
作り出せるワルキューレの総数は十四体…、決して多いとは言えない。
無駄な事は出来ないな、と考えながらギーシュは造花の杖を振り、ワルキューレを出す。
その時、キュルケの『ファイヤーボール』が三匹の幻獣に飛んだ。
しかし、ジャイアントたてムゥは、その巨大な盾で炎球を防ぐ。
よろいムゥ・ぎんはまともに受けたが、その鎧には焦げ後一つ付いていない。
自慢の炎がまるで効いていないのを見て、キュルケは顔を顰める。
「まったく…、盾を持ってる方はともかく、銀色の方は何て頑丈さなの?」
そんなキュルケに向かってジャンガが声を掛ける。
「よろいムゥの鎧は特殊合金『ムゥハルコン』製だ。ちょっとやそっとじゃ傷一つ付かねェゼ?
考えも無しにドカドカ魔法を撃つだけじゃ敵わねェんだよ、バカが!」
「バカは余計よ! 大体、そんな奴をどう相手しろってのよ!?」
「ンなのテメェで考えろ!」
「あなたこそ何も考えて無いじゃない!!?」
怒鳴りあう二人に、見かねたギーシュが口を挟む。
「君達、喧嘩をしている状況では無いぞ!?」
ギーシュの言葉に二人は同時に舌打し、幻獣に向き直る。
三匹の幻獣は三人に一匹ずつで渡り合う事に決めたらしい。
よろいムゥ・ぎんはジャンガに、二匹のジャイアントたてムゥはギーシュとキュルケに、それぞれ襲い掛かる。

「ムゥムゥムゥムゥ~~!」
「クソッ!」
よろいムゥ・ぎんの猛ラッシュに、ジャンガは回避で手一杯だ。
本来ならば軽くいなせる相手であるのだが、今は大層な強敵となっている。
しかも特別製なのか…、動きは素早く、力もある。
とにかく今の身体能力が著しく低下しているジャンガには強敵であった。
そうして攻撃をかわし続けていると、いつの間にかフーケのゴーレムの方へと追いやられていた。
しまった、と思った時にはゴーレムの拳が振り下ろされていた。

「これで終わりだよ!」
凄まじい爆音と聞き間違えそうな巨大な音が響き渡り、地面にクレータがまた一つ出来た。
しかし、そこにジャンガの姿は無い。
「チッ、余計な事を…」
悪態をつくフーケの視線の先、ワルキューレに抱えられ、ゴーレムの拳から逃れたジャンガの姿が在った。

「大丈夫かい!?」
ギーシュの声が聞こえた。
ジャンガはワルキューレに抱えられたまま、首だけを動かしてギーシュを見るやため息を吐いた。
「…まさか、殺そうとしたガキに助けられる羽目になるなんてよ。情けねェ…」
「皮肉を言ってる場合じゃないでしょう!?」
ジャイアントたてムゥをファイヤーボールで牽制しながら、キュルケが声を掛けてくる。
ギーシュもワルキューレで応戦をしている。が、やはり俄然こちらが不利だ。
ジャンガはイライラしながらキュルケに怒鳴る。
「オイッ、雌牛! テメェ、前にジョーカーにぶっ放したあの特大の炎はどうしたんだよ!?」
「あれは今のあたしじゃ一発が限度。どれか一体を倒しても、あたしの精神力が底をついちゃうわよ」
使えねェ、とジャンガは心の中で悪態を吐いた。

唐突に二匹のジャイアントたてムゥが走り出したかと思うや、手にした盾の上に飛び乗った。
盾に乗ったジャイアントたてムゥは、そのままくるくると回転しながら走る。
岩の壁や手すりに当たると跳ね返り、その度に速度を増していく。
複雑な動きに三人は予測が立てられない。
やがて、一匹が死角からキュルケに突撃をかけた。
「え…? きゃあっ!!」
凄まじい勢いの変則的な突進をまともに受け、キュルケは大きく弾き飛ばされる。
地面に身体を強かに打ちつけ、そのままゴロゴロと転がる。
ようやく止まっても痛みに上手く身体が動かない。
ふと、自分の周りに影が差した。
「キュルケ! 危ない!」
ギーシュの声が響く。
見上げるとゴーレムが拳を振り被っているのが見えた。
「あ…」
フーケが笑った。
次いで突き出される巨大な岩の拳。
潰された自分の無残な姿が脳裏に浮かんだ次の瞬間、キュルケの身体は大きく横に突き飛ばされた。
何が起こった? 現状を確認しようと体を起こす前に、悲鳴が耳に届いた。

「ぐぁぁぁぁぁっっっーーーーー!!!?」

岩の手すりに何かが吹き飛ぶのが見えた。――ジャンガだった。
拳を突き出す姿勢をとっているゴーレムと、吹き飛んだジャンガを見比べるキュルケ。
フーケの笑い声が聞こえた。
「はっ、あんなに学院の人間を虐げていたくせに、今更人助けかい?」
嘲りを含めたフーケの表情にキュルケは確信した。
「あいつ……あたしを助けた?」

手すりに叩き付けられたジャンガは荒く息を吐く。
次いで咳き込むと、僅かに血が飛び散った。
雌牛を突き飛ばした後、ゴーレムの拳を諸に受ける事は承知の事実。
しかし、ガードをしたとはいえ、やはりあの拳を浮け切る事は不可能だった。
明らかにダメージは大きい。しかも、手すりに衝突した際、左腕をやってしまった。
ダランと垂れ下がる左腕を横目で見ながら、ジャンガはため息を吐いた。
あの雌牛がゴーレムに潰される、と気が付いた瞬間、勝手に身体が動いていた。
いや…、実際は彼女の身に大事があるのはよくないと一瞬で考えたからだ。
何しろ…彼女は、あのタバサ嬢ちゃんの親友なのだから。
(甘ェ…、甘過ぎるゼ…)
内心で苦笑いしながら、ジャンガは立ち上がろうとする。
が、上手く立ち上がれない。…想像以上にダメージが大きい。

ボロボロのジャンガを見てフーケは高らかに笑った。
「あーはっはっはっはっ! いいザマだね? わたしに屈辱を味あわせてくれた奴だとは思えない惨めな姿だよ」
「ケッ…、ゴーレムの上から見下ろすしか出来ないくせに…。
テメェよりも小さなガキだってよ…その身を投げ出して命がけの戦いをしてるんだゼ?
恥ずかしくないのかよ……ババァ」
ジャンガの言葉にフーケは笑いを引っ込め、代わりに怒りの表情を浮かべる。
「誰がババァよ!? わたしは二十三よッ!」
ジャンガは一瞬目を丸くし、そして嫌みったらしい笑みを浮かべる。
「キキキキキ! 二十三!? テメェが!? に・じゅ・う・さ・ん!? キーキキキキキッ!!!
老け過ぎだってんだよ、テメェ! どう見ても俺には三十過ぎてるようにしか見えねェゼ!
ああ、そうか……だから『フーケ』か? ”老けてる”から”フーケ”か? キキキキキキキッ!!!」
フーケはギリギリと音がする位、強く歯を噛み締める。
「キーキキキキキッッ!!! だとすりゃテメェ、相当苦労してるんだな?
ま、盗みやってるくらいだから…当然だろうけどよ。ま、俺には関係ないがよ。
この先、男も捕まらないだろうな…、テメェのような不細工には誰も振り向かないだろうさ!
やってる事や性格もあれだからな…、家族やら友人やら、そんな”大切な奴”とかもいないんだろうな。
キキキキキ――キ?」

そこでジャンガは気が付いた。
一瞬、フーケの顔に寂しげな表情が浮かんだ事に。

だが、それは一瞬の事だった。フーケは凶悪な顔付きに戻りジャンガに怒鳴る。
「散々言ってくれたね!? その分、痛い目見てもらうわよ! 銀色、やってしまいな!」
「ムゥーーー!!!」
銀色と呼ばれて理解したのか、よろいムゥ・ぎんがジャンガ目掛けて突撃する。
ムゥハルコンでコーティングされた爪が輝く。
「チッ…」
身体は動かない。
キュルケも動けそうにない。
ギーシュのワルキューレはジャイアントたてムゥ相手で手一杯。
即ち…打つ手無し。

よろいムゥ・ぎんが眼前に迫った瞬間。
ジャンガの目の前の地面が突如盛り上がり、それによろいムゥ・ぎんが足を引っ掛けた。
慣性の法則に従い、よろいムゥ・ぎんの身体は大きく前方に投げ出される。
大きく弧を描き、宙を舞うよろいムゥ・ぎんはそのまま手すりを越え、
「ムゥゥゥゥゥ~~~………」
崖下へと転落していった。
「な、なんだ?」
突然の事に頭が追いつかない。
と、盛り上がった地面を突き破り、地面を掘り返した主が姿を現した。
――それは巨大なモグラだった。
「ヴェルダンデ!?」
ギーシュは己が使い魔の姿を見て、思わず声を上げた。
ジャンガは呆然としてヴェルダンデを見つめた。
「…主に続いて、使い魔に助けられたか」
ここまでくると皮肉を言う気も起きない。
そんな状況にフーケは歯を噛み締める。
「チィッ、余計な邪魔が入るもんだね。だが、これで終いだよ!」
ジャイアントたてムゥが回転移動を解除し、通常のタックル攻撃へと移行する。
フーケのゴーレムも地響きを上げながら動き出した。


突如、何処からとも無く飛来した二本の氷の槍が、二匹のジャイアントたてムゥを串刺しにした。

フーケが驚く間に、今度は飛来した一抱えほどもある水球が、ゴーレムの左足を直撃した。


それは数秒の間の事だった。
氷の矢に串刺しにされたジャイアントたてムゥは消滅し、左足を水球に直撃されたゴーレムは地面に倒れていた。
突然の事にフーケも動揺を隠せない。
「チィッ、まったく…今度はなんだい!?」
と、フーケの喚き声に混じり、ジャンガ達の耳に聞き覚えのある羽ばたきの音が聞こえた。
巨大な竜が羽ばたく羽音……聞きなれている限り、それの主は一つしか心当たりがない。
三人は一斉に空を見上げる。
そこには一匹の見知った風竜が浮いており、その背には更に見知った人物が二人乗っていた。
キュルケとギーシュはその人物の名をほぼ同時に叫ぶ。
「タバサ!?」
「モンモランシー!?」
シルフィードはゆっくりと地面に降り立ち、その背からタバサとモンモランシーは降りる。
ジャンガはタバサとモンモランシーを見つめる。
「何で…ここにいやがる?」
「…あなたが心配だから来た」
ただそれだけタバサは答えるとジャンガの治療をモンモランシーに頼み、目の前のフーケと対峙する。
フーケはゴーレムから降りるとタバサを睨みつける。
「貴族のお嬢ちゃん、随分と良いタイミングで出てきたじゃないさ?」
「遅かった。だから、あの人はあんなに傷付いた。でも、これ以上は手を出させない」
「ふぅん? 随分とご執心だね…。あんなに酷い目に遭わされたってのに…どういう心変わりだい?」
「あなたには関係無い」
「そうかい。ま、確かに関係ない事だからね!」
言いながら杖を構える。
と、大勢の人の声が聞こえてきた。
階段を駆け上がり、人が押し寄せてくる。
どうやら、騒ぎの原因を確かめに来たようだ。
これは少々面倒になったとフーケは表情を曇らせる。
が、直ぐに笑みを浮かべるとジャンガ達に向き直る。

「まぁいいさ…、足止めは十分に出来たしね」
「?」

言葉の意味が解らないタバサは呆然となる。
フーケはそのまま『フライ』で飛び上がり、夜空の彼方に飛び去っていった。

フーケが去り、周囲に敵が居ない事を確認すると、タバサはジャンガの元へと歩み寄る。
ジャンガはモンモランシーの治癒魔法である程度持ち直していた。
ジャンガの視線とタバサの視線が混ざり合った。
「…ったく、母ちゃんと大人しく寝てりゃいいのによ?」
「母さまは大切。でも、あなたに何かあっても、わたしは悲しい」
「チッ…」
ジャンガが舌打ちした、その時だった。
大きな警笛のような音が夜空に鳴り響いた。
「な、なんだ!?」
ジャンガの言葉に答えたのはギーシュだった。

「あ、出港の合図だ!」


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