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ジ・エルダースクロール外伝 ハルケギニア-34


34.本物のアンリエッタ

『何か、マズイか?』

脳天気にヴァーミルナは言った。
ノクターナル程ではないが、彼女も定命の存在からの盗難被害が多いデイドラ王子である。
ただ、バレたらその後一生悪夢の世界で過ごさせるので、こっちの方が性悪である。
サイトはまだそれらに会った事が無かった。
もしくは会ったとしても、骨とかゾンビとかになっているから分からなかったのだろう。

『まだ生きておるのだ。問題はなかろう』
「ありすぎだよっ!」

ノクターナルの答えにマチルダが叫んだ。思考がアレなのが二人に増えたので、
ハリセンを振り回す気力は起きなかった。
その横でうわ、とフォックスの顔が歪む。
袋を肩からさげている青年は、どう見ても普通の状態には見えない。

「もしかして…こいつ、コープラスか?」
「コープラス?」

タバサは以前、マーティンからその名前を聞いた事があるが、
その内容までは聞いていない。ルイズはそんな病気すら知らない。

「ああ、生きたままゾンビになる病気みたいなものですよ。ミス・ヴァリエール。
 感染するとか聞いた事がありますが…」

そう言って、フォックスはサイトから距離を取った。
他の皆も同様に距離を取って、サイトから離れた。

実際の所感染力は高くはないが、相当に問題のある病気である。
体の腐敗と共に精神にも異常をきたし、最終的に機能不全を起こして死んでしまうのだ。
尚、この病気中は他の病気に一切罹らない。
この性質からある学者は「神々しい病(the divine disease)」とも呼んでいる。
イカレてる学者だから言うのだ。普通そんな風には言われない。

『…本当か?』
「いえ、私に言われても」

こうさせたのはあなたでしょ?と灰色頭巾に目で言われる。
サァ、とヴァーミルナの顔から血の気が引いた。
そう言えば、何かおもしろい病原体ばらまこうかなとか、
こいつが来る前に少し仕掛けたような。これも仕込んでたか?
もしかしてやっちゃったか?やってしまったのか?

後先考えずにやってしまうと、色々問題が起こる良い例である。
彼女の世界で見る夢は基本的に全て忘れてしまうので、
それなりにハメを外して恐ろしい事をするのだ。

基本的に覚えている夢は、寝ている本人の脳内で見ているか、
もしくは他のデイドラなりエイドラなりが見せているのだ。

「どシタの?う゛ぁーミるな」

よく聞いてみれば発音が変だと、彼女はようやく気付く。
まずいと顔が青くなる。コープラスの治癒魔法を彼女は知らなかった。
もし彼女が病気に罹ったりするのなら話は別だが、デイドラは病気になったりしない。
それ故彼女が治癒できる病気は、一般的な病気と一部地域の吸血病だけである。
神様とはいえ万能ではない。そんな神様ならたくさん必要ないだろう?
顔を真っ青にさせて考えるヴァーミルナの肩を、ノクターナルがぽん、と叩いた。

『これを飲ませよ』

どこから取り出したのか、怪しげなポーションを持っていた。
この親父の通称と司る物が同じだから偉い、
とか抜かすデイドラ王子は色々とアレだが、
作る物の質については良い。装飾を除いて。
この男を死なせるのは凄く嫌だ。アズラの所に行くかどうかすら分からないし、
私の蘇生魔法が効くのかも分からない。
そう思ったヴァーミルナはノクターナルからその薬をもらうと、
サイトの口を強制的に開けてガラスビンを押し込んだ。

『さて、治るか…死ぬか』

コープラスの特効薬は、確認される限りたった一種類しかない。
ちょっとイカレた魔法学者が造りだしたそれは、
コープラスの持つ負の作用を消し、
とても素晴らしい効用のみを体に残す。
すなわち、それ以外の病気に煩わされない、
というコープラスの良い特徴のみを残すのだ。

もっとも、それがちゃんと効いたのはたった一度しかない。
そして、それ以外は皆死んでいる。

『ちょっと待て、今のはどういう意味だ!』

ノクターナルは笑っている。基本的に弟や妹で遊ぶのが好きなようだ。
そうでなければ誰か一神くらい友達はいるだろう。
彼女と親しくする神なんて誰もいないのだ。

『では、後は任せたぞ?我が妹よ』

そう言って夜の女王は影に消えた。逃げたな。誰もがそう思った。
皆がサイトを見守る中、ルイズはヴァーミルナと呼ばれた女性を見る。
妹って事は、この人もデイドラなのね。揃ってマトモそうで無いのは、
創り主はマトモじゃなかったという事かしら。そんな事を考えた。

「お、おお、体の色が!」

フォックスの声で、ルイズはヤバそうなオモロ顔の男を見る。
彼の体の色が元の色なのだろう、黄色に戻っていく。

流石は英雄になりうる存在とでも言うべきだろうか。
ぽかん、と口を開けた英雄のタマゴは辺りを見回して言った。

「あ、あれ?何か周りの色が…」

彼は色覚にまで異常をきたしていたらしい。危機一髪だった。
悪夢の女王はほっと安堵の息を吐く。

『すまなかったな、サイト』
「へ?あ、ああ。いいよ別に」

よく分かっていない彼は、のほほんとヴァーミルナに言った。
そういえば、初めて名前で呼ばれたような。
何とはなしに嬉しく思いながらも、サイトはとりあえず場所を確認する。

「ところで、ここってハルキゲニアとか暁の何とか(Dawn's Beauty)って所だっけ?」

悪夢を司る彼女が、タルブという村に来た事を言った。
その目的は手紙を渡す事であり、その手紙はタマネギ頭が持っている。
ああ、そういえば可愛らしいピンクがかったブロンド髪の女の子がいたな。
とサイトは水晶玉をのぞいて、少しばかりそれで見たことを思い出した。

「手紙…この筆跡は私の友の!」

タマネギ頭の熱狂的なファンが、頼まれた品を渡す。
親愛なるマーティンへ、から始まる手紙は、
それなりに長い文章だった。

要約すると、デイドラ王子達の依頼をこなしていく内に、
モリアン・ゼナスの様に神の世界を行き来できるようになった事や、
マーティンのお陰で帝国は平和である事。
ハルケギニアには最後の休暇として、アカトシュ神に頼み込んで行かせた事。
その地は遙か昔に竜の神が創った世界らしい事、
そして、かの神は君にとても感謝している事等が書かれていた。

アカトシュ神との約束でそちらには行けないけれど、
その内エセリウスで、ゆっくり話でも聞かせておくれ。
何だかよく分からない内に、帝国で七人目の英雄になった私より。

「そうか…シロディールは平和なのだな。友も元気そうで何よりだ。
変な事に関わっていないとよいのだが」

シロディールを旅した思い出が蘇る。少々気分が良い方向へ傾いていく。
何故か得た物は全て友が持って行ったな。前衛を任され続けた気もするな。
私は味方だ!(I’m your side!)とたくさん叫んだ事も、今は良い思い出だ。

英雄だって、現在の帝国が良い状況とは思っていない。
さらに言えば、通常邪神認定を受けている神様に成り行きでなってしまったのだが、
そんな事を書いてマーティンに心労を掛ける程愚かではない。
そこら辺は適当に書いてあるし、その事については言わないようにと頼んでいた。

『ま、そんなわけだ。で、アレは一体何をしでかした?』

夢の国の女王は、ノクターナルが何で薬なんて渡したのかを何となく理解した。
薬の代わりにここにいろといいたいのだろう。
効いた限りは頼みを聞いた方が良いだろう。無視して帰れば何をされるか…
それにすぐ帰るのもあれだ。ここに自力で来る事はひどく面倒なのだ。
ただでさえアカトシュの制約があるというのに。
そんな事を考えながら、彼女はマーティンが語る話を聞く事にした。


二階の別の部屋。
王子様とお姫さまは、同じ部屋で抱き合って眠っている。
正確には、爆発の影響で気絶して、そのまま眠っている。

ぴくり、とウェールズの体が動く。目を開けて辺りを確かめる。
月が綺麗な夜で、愛する人と一緒に眠っていた。

「ん…ああ、ここは?あ、アンリエッタ?」

と、月明かりしかないベッドの上で、最愛の人を抱きしめている事に気付いたウェールズは、
はう、と顔を真っ赤にして腕を離し、そう言えばとんでもないことを言ってしまったな。
と考え始めた。

「いや、だけど…あれはアンリエッタが誘って、でも、僕がそれにつられたのは良かったのか?けれど…」

と、そんな事をヤケ酒で痛む頭の中で考えていると、お姫様がもぞもぞと動き始めた。
体を起こし、可愛らしく欠伸をする。

「う、ん…?あ、ウェールズさま。おはようございます」

とろんとした顔のアンリエッタが、二つの月の光に照らされる。
この上なく美しい。ウェールズは惚れっぱなしではあるが、
また惚れ直して、何も言わずに彼女を抱きしめてしまう。

「うふふ、大好きですわ。ウェールズさま…」

ルンルン、と歌でも歌いそうな声で言って、
アンリエッタはウェールズに体重をかける。

「幸せですわ。国も、わたくしも」
「国?」

全くそんな事を考えていなさそうだから意外だった。
ウェールズは何となく聞き返す。

「はい。わたくしの身の振り方次第で、国はレコンキスタに飲まれてしまいますから。
 あまりわたくしや王宮の良い話は聞きませんわ。トリスタニアで流行っている歌ですけれどね。
 トリステインの王家には、美貌はあっても杖がない。杖を握るは枢機卿。
 灰色帽子の鳥の骨…」

おもしろそうに歌うが、良い歌とは言えなかった。
ウェールズは何か言うべきか迷ったが、とりあえず黙っていることにした。

「こんな歌が流れてしまうのですから、わたくしは好かれていないのでしょうね。
 ですが、わたくしはこの国が好きですわ。トリスタニア以外はあまり詳しくはありませんけれど」

クスクス、とアンリエッタは笑う。ウェールズは不思議がった。

「どうして?」

純粋な疑問だった。民に嫌われてこそ政をする者だ、という考え方はあるが、
それで好きでいるというのは、何か変じゃないかと彼は感じた。

「小さい頃、よく王宮を抜け出して街へ行きましたわ。
 皆、働いていました。活気づいた市場は人が多くて息がつまりそう。
 けれど、一生懸命な皆の様子を見ていると、全く違う世界にいる様にも思えましたわ」

まだ王家の意味を理解していなかった頃、
彼女は街へ事あるごとに繰り出した。
可愛らしくて、豪華な服を着た女の子が現れても、
何もしないように。したら打ち首。普通に仕事してれば良い。
というお触れがトリスタニア全体に出回っていたのと、
女の子には気付かれないように衛兵が常に近くにいた為、
彼女は安全に、様々な所を周る事が出来た。
衛兵さんも大変だねぇ。いえ、いつもの事ですから。
みたいな会話があったとかなかったとか。

「魅惑の妖精亭だったかしら。おもしろい所でしたわね。
 古いご先祖様がこの店に送った『魅惑の妖精のビスチェ』を着させてもらいましたわ」

王様が着させて構わない。むしろ着させて働かせるように。と命令したので、
スカロン氏の所で一日働く事になったアンリエッタ姫。
その日は平均より5~6倍はチップが増大したとか。
公務をサボった王様やその周りの諸侯がフェイス・チェンジをして現れて、
大量のチップを払ったのは公然の秘密である。
彼らは後でマリアンヌ王妃とマザリーニに、
こってり怒られたとか怒られなかったとか。
アンリエッタ姫はお咎め無しである。
何か、皆前提を色々間違っている気がしないでもない。

「街のはずれの貧民達とて、トリステインの民草ですわ。もちろん、お恵みもしましたわよ?」

こうべを垂れ、涙を流して彼らは喜んだ。
王家の方々が俺たちの事をちゃんと考えていてくださるなんて。
感激した彼らは国への忠を熱く誓っている。それは今も変わらない。
悪い貴族連中とはまた別に考えている。

国を抜け出すのは力を持った連中だけだ。
そして大抵の場合、戻る為の資金すらなくなってしまう。
だから、未だに不名誉な歌が歌われてしまう。

本当に悪い所かどうかを考えると、そこまで悪い訳でもない。ただ、
夢を追いかける時、人は現状を悪いと認識してしまうものだ。
武器屋の親父が戻ってきたのも、トリステインの良い所に気が付いたからだろう。

「ウェールズさま。わたくしは国を捨てて、あなた様と何処かへ行く事も出来ますわ。
 けれど、それは嫌ですの。だって、民草は皆明日を生きる為に働いているのに、
 王家のわたくしが、それを無視してどこかへ行ってはいけませんもの」

彼女はわがままで世間知らずだ。
街の皆は彼女が姫様だと分かって接していたから、
暗いところや辛いところは見せてはいない。

しかし、真っ白な彼女はとても影響を受けやすい。
わがままであると同時に、自分とは全く違う世界に住み、
活気ある生活を営むトリスタニアに住む人々を、
守りたいと、彼らの生活を見て思った。

これを優しいと捉えるか、所詮持ちうる者の自己満足と捉えるかは人それぞれだ。
だが、何かを守ろうと思うことは悪い事ではないと思う。

「…立派だね。アンリエッタ」

一度でも彼女と共に逃げ出そうと考えていたウェールズは、自分が恥ずかしくなった。
その言葉にいいえ。と姫殿下は首を横に振った。

「本当の王家に属する者なら、自分を捨ててゲルマニアへ行くべきなのでしょうけれど、
 わたくしにはそれは出来ませんでしたわ。それをすれば、
 きっとわたくしは壊れてしまっていたでしょうから」

ぎゅっと、アンリエッタはウェールズに抱きついた。
薄暗い月明かりの中、二人の間に距離は無い。
お互いの鼓動が聞こえる。少し早い。

「わたくしは幸せ者ですわ。民の平和も、自分の幸せも手に入れられたのですから」
「ぼくも、愛する君と共にいられて幸せだよ」

二号さんは嫌だけどね、とぼやく。アンリエッタはまた笑った。

「お慕いしておりますわ。ウェールズさま。だから…その…」

ぽ、と顔を赤らめる。ウェールズは何も言わず口づけを交わす。
心の中で始祖と母からの許しは得た。なら後は何も問題はない。
アンリエッタは、うっすらとこれから起こる事に期待した。


マーティンからだいたいの話を聞き終わったヴァーミルナが、
そんな事で一々泣いたりするから、我らから小さき者とか呼ばれるのだ。
と思いながら一言だけ言った。

『真に受けるな』

それで全てを終わらせようとしたが、
もうちょっと言い方があるのではないでしょうか?とルイズが言ったので、
ああ?と面倒くさげに続きを話し始めた。

『アレは親父の受け売りを頭から信じ込んでいるのだ。
 だいたい、ニルンをロルカーンが創造したのは間違いないが、
 かと言って竜神はお前達を消したがってもいないだろうさ。
 ジャガラクでもあるまいし、もう少々頭は柔らかいぞ』

昔はそうだとしても、気が変わる事もあるだろうに。
そう言ってヴァーミルナは笑う。
タマネギ頭とサイトは、何の話なのか分かっていない。

『それに、最近のエルフ共はデイドラを信仰しているが、
 その理由も現金なものだからな。私が言ったところで何の説得力も無いが、
 エイドラの方がお前達には合っているぞ?』

古来は神々への畏敬の念からの信仰が多かったが、
最近の信仰の理由はデイドラの魔法力目当てか、
お使いをすれば何かアイテムをくれるからだ。
心からの信仰ではない。デイドラ信仰は基本的に異端である為、
そんな事でもしないと人が寄って来ないのだが、
それが一般的な神の方にまで波及しつつある。

「では、では何故神々は私たちに何も…」

マーティンは辛そうに言った。

『甘えるな。と表向きには言いたいのだろうな。
 事あるごとに神に頼み事をしていたら、お前達はどうなる?
 いざという時、現人神にばかり頼んでいたモロウウインドの者達は、
 今一体どうなっている?…お前達の頭で考え、体で動け。
 それが定命の者として生まれた宿命だよ。
 こちらの奇跡はむこうの偶然。一度くらい聞いた事があるだろう?
 神が遊びでやった事が、お前達にとっては良きしるしとなる事もあるんだよ』

ある種納得のいく話と言えなくもないが、疑問が残る。

「では、裏向きは…?」

『面倒だからじゃないか?エイドラとデイドラは古来同じ存在だった。
 それはアカトシュの制約が、他のエイドラ達にも有効である事を示すな?
 で、お前達の領域に行く前に、オブリビオンを抜けなくてはならない。
 いくらかの連中は抜けようとすらしなかったなぁ。ま、抜けようとしてもだ。
 今回の騒動はおもしろかったからな。皆、エイドラ共を通さぬようにしていたわけだ。
 教会とかのは別だぞ?あれは契約でボエシアが通しているからな。
 だが、あの帝都が落ちる最後の最後でペライトが裏切りやがった。
 空気読めよな。ああ、まったく。あんなに面白いことは滅多に無いというのに』

信者を助けてもらったから、借りは返しておかないと。
とは生ある者にとっての空気が読める、緑色のドラゴンなデイドラ王子、ペライトの談である。
彼は悪魔的とも称されるが、実際のところ定命の存在の意志をとても尊重している。
そんな所が一部で人気を呼んでいるのだが、
その信者達が無謀にも彼の領域に行こうとした。
当然成功するはずもなく、その時とてもニルンと近くなっていた、
破壊神デイゴンの領域に魂を持って行かれてしまう。
ペライトといえども下手にその領域に行くと、
後でとても面倒な事態に陥るので困っている時、
通りすがりの旅人が彼の頼みを聞き、
見事信者達の御霊をこの世に返したのだ。

何故か肉体が傷だらけの信者達をよそに、
後のチャンピオンは褒美として、とても素晴らしい盾を授けられた。
義理堅いペライトは、それだけではまだ恩を返しきれていないと思い、
最後の一件の時に、アカトシュの力をニルンへと送る手助けをしたという訳である。


マーティンはまだ不安そうだ。己が信じる神があんなのに否定されたくらいで、
一々ウジウジすんなこのバカ皇帝が。と思いながら夢の国の女王は話を続ける。
刺激しちゃだめだから。と前もって言われていた。
サイトは、マーティンの隣にいる女の子に見とれている。
どんなサイトだって、普通の平賀才人ならそうなってしまうのだ。

『心配するな。アカトシュがお前を誉めていたのは真実だ。
 エセリウスには私も足を運んだからな。何だかんだで情も移っただろうよ』

切実な問題である。本来の信仰者であるはずのハイエルフ達はそっぽを向きつつある現状、
帝国に頼るしか策がない。その割に現在、帝国は崩壊のカウントダウンの真っ最中なので、
アカトシュも結構楽観的なのかもしれない。

『神も色々と大変なのだ。ノクターナルは違うようだがな。
 あれは何を考えているのかサッパリだ』

「大変…なのですか?」

ルイズが言った。ああ、そうだ。と信者でないし、
バラす事もないだろうからと悪夢の主は裏話を始める。

『信者達の前で何か奇跡でも起こさないと、すぐに別の奴の信者になるし、
 かといってやりすぎると、神殿が他の神に消されかねん。
 バランスが大事なんだよ。やりすぎたボエシアは神殿吹き飛ばされたからな。
 あいつは血が好きでな。確か年に一回訓練日とか修練の日等と称して信者を戦わせてな。
 何人か死なないと満足しなかったらしい。懲りずにまだやってるそうだ。
 神殿壊したのは多分シェオゴラスの仕業だ。あいつは嵐が好きだからな…
 シェオゴラスというのは乱心の神だ。なかなか楽しい奴だった』

定命の存在がちゃんと神様をやろうとすると、
気が狂ってしまうくらいに大変だ。
だから英雄は手を抜いて、冒険をしたりしながら神の業務をやっている。
具体的に言うと、真っ当に生きていくのが辛くなった人々の肩を叩き、
危ない事をしでかす前に、楽しい人生を送れるようにお手伝いをするのだ。

楽しい人生。といわれると色々思われるだろうが、
いわゆるその個人のみ楽しい人生である。他に迷惑がたくさん掛かったりする。
具体的には犬に生まれ変わったと錯覚したり、
子供食べたいとか真顔で言ったり、
光が見えるか?あの光が見えるか?と暗闇を指差したり、
お前凄いな。個人的には目ん玉くり抜きたいけどな!
とか言い出したりするということだ。
他にもフォークが大好きになったりする。

「歌うフォーク。岩の様に歌うんだ」

どんな歌かさっぱり分からない。

「はぁ…」

狂気の神様とかもいるのね。どんなのよ一体。
ルイズは、何だか自分の思考の中の神様像が、
ここ最近ずっと崩れっぱなしなのを感じながら、
ヴァーミルナの話を聞いている。

『ところで、私の事は覚えているか?ルイズ・フランソワーズ。
 最近、お前には何度か特別な夢を見せているからな』

あの時の人ってあなたなの!?そうだとも。
いつだったか、夢で出会った女性と全く違う姿に驚く。
やっぱり普通じゃないのね神様って。でも、
この神様達に物事を頼みたくはないわね。ルイズはそんな事を思った。

さて、とヴァーミルナは魔法を唱えて、鏡を造り出す。

『そう名残惜しくも無いが、私も帰るぞ。じゃあな竜の子よ。
 また私の領域で会うとしよう。怖い悪夢を揃えて待っているからな。
 お前が恐怖と共に目覚める様を、私は楽しんで眺める事にするよ。
 アカトシュに何か言いたい事があったら、直接言え。どうせその内逝くだろう?』

それはそうですが。と何か言おうとするマーティンの言葉に耳を貸さず、
ほら、行くぞと二人に呼びかける。タマネギは早々に帰っていった。

「んじゃ、失礼します」

あの子を気にしすぎて何か忘れたような。と思いながら行こうとするサイトに、
マーティンは待ったを掛ける。この青年は人間のようだが、
デイドラの信仰を…私が言えた義理ではないのだがな。
そんな事を思い、話しかける。

「君が何者かは知らないが、デイドラがどういう存在かは分かっているのかい?」
「え?あんまり考えてないですけど」

結構人っぽいですよ?と言うサイトの言葉に、
だと思ったよ。とマーティンは苦笑した。
昔の自分のような危なっかしさを、この青年から感じた。

「一言だけ、経験則から言わせてくれ」
「はぁ」

「そなたがオブリビオンに立ち入るとき、オブリビオンが汝に入り込む。
 オブリビオンの領域は危険だ。飲み込まれない様に気をつけるんだ。
 分かったかい?」

とりあえずサイトは頷き、ヴァーミルナと共に帰ろうとしたが、
肝心の夢の国の女王が、青い髪の女の子に止められていた。
ノクターナルに頼んでくれ?無茶を言うな。絶対に嫌だ。
それよりだな…と彼女は青髪の女の子に何かを言っている。

チラリ、とルイズに視線を向ける奇妙な服を着た青年を見て、
分かってないよなぁ。若い頃は無茶をしてしまうからなぁ。と、
マーティンは自分の昔を思い出した。とりあえずは何とか、心に平穏が戻っている。
友人の手紙の効果もある。しかしノクターナルの話が、
他のデイドラ王子に否定された事も大きかった。

「ねぇ、マーティン。その…」

ルイズがマーティンの顔を見る。考えてみれば、とんでもない所を見られてしまったな。
ようやくそう気付くと、マーティンは恥ずかしそうに目線を逸らして頭を掻いた。

まだ否定されたダメージは残っているが、
判断材料が少ない事に、彼はようやく気が付いた。
どんな事であろうとも、一つだけの情報を鵜呑みにしてはいけない。
研究者メイジとして、基本的な事柄を忘れてつい信じ込んでしまった。

見習いメイジがよくやる、初歩的なミスだというのに。
あまりにも衝撃的だったからこそ、信じてしまったな。
少々、顔を赤くしてルイズの方を向いた。

「あー、その、年甲斐もなくあんな姿を見せてしまって…」
「泣きたい時は、誰だって泣けば良い。そんな事に年は関係ないぞ?お若いの」

ジェームズが微笑んで言った。ほら、マスターだってこの意気だよ。
いや、でもなぁと、まだ立ち直るきっかけが現れないフォックスは、
嫁の手紙でも来ないかな、と思っている。
夫の事を完全に忘れているミローナ伯爵夫人は、明日の公務のためにもスヤスヤ眠っている。


「分かった」

タバサはそう言って話を終え、ティファニアの方へと向かう。
さて、帰るか。と鏡の方へと二人は歩く。

「あれに入ったら帰れるんじゃないの?」

「いや、オブリビオンに行くだけだ。ニルンには戻れないよ。
 それに生身で行きたい所でもないしね」

うん?とルイズは不思議がった。

「じゃあ、何で二人はここに来れたの?さっきの変な小さいエルフとは知り合いでしょ?」

「ああ、多分さっきの彼はアズラ信者だからじゃないかな。
 デイドラの領域に踏み込んでも、おそらく帰る事が出来るのだろう。
 私には知り合いのデイドラ王子がいることはいるんだが、世話になりたくないんだ。
 その内アカトシュ神が迎えに来てくれるみたいだしね。
 それと、どうもあの青年はタムリエルの生まれでは無い気がするが…」

その青年、平賀才人は何かを思い出したようで、ヴァーミルナに二言、三言呟いて振り向いた。

「えと、マーティンさんでしたっけ?」
「ああ。そうだ」
「これを。もし機会があれば渡してくれって」

今思い出しました。とサイトは肩からさげていた袋を渡した。
マーティンが中身を見ると、結構な量の本が入っていた。

「おお…重かっただろうに。ありがとう」

もらった本はタムリエルの魔法について書かれた本と、
いくつかの文学作品だった。正確に言うと、
魔法学の本は欲しかった『神秘論』に、
サイジックについて詳しく書かれている『アルテウムについて』、
フォックスに間違えて覚えられていた高名なメイジ、
ズーリン・アルクタス著の『魔法戦の技術』、
そしてアイレイドについて書かれた『栄光と嘆き』等だった。

文学書の方はというと続き物が多かった。
おそらく暇つぶしにでも、ということだろう。
絶版になって久しい、激動の第一紀の終わりを描いた名作歴史小説『2920』を始め、
ウォーヒン・ジャースの力作『火中に舞う』や、
その続編とも言える『アルゴニアン報告』等、読み応えのあるシリーズだ。
ここまでは何も問題なかった。これらをどこから持ってきたのかを考えなければ。

他にも、何故か『アルゴニアンの侍女』(Lusty Algonian maid)
とか『仁徳ある義賊』に『本物のバレンジア』、
そして『ハルガードの物語』もあった。
マーティンはううむと顔をしかめ、この年で何をしろというのだ?友よ。
と窓から見える二つの月を見ながら思った。


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