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虚無のパズル-14


ギーシュやキュルケが騒いでいる頃、ティトォたちは『桟橋』へと続く、長い長い階段を上っていた。
そうして丘の上に出ると、そこには山ほどもある巨大な樹があった。夜空に隠れて、てっぺんが見えないほどである。
四方八方に枝を伸ばしていて、枝のそれぞれに、まるで木の実のように、大きな船がぶら下がっている。
「これが『桟橋』?あれが『船』?空を飛ぶ『船』なの?」
ティトォが驚いた声で言うと、ルイズは怪訝な顔で聞き返した。
「そうよ。海に浮かぶ船もあるけどね。あんたたちの世界じゃ違うの?」
「ぼくらのとこじゃ、空を飛ぶのは『飛行機』って言うんだ」
もっとも乗ったことはないんだけどね、とティトォは付け加える。
ティトォたちの世界の『飛行機』とは、高度に発達したメモリアの技術で作られた乗り物で、
巨大な丸い機体に、たくさんの小さなプロペラが付いている。
バーロゲンと呼ばれる新物質が反重力場を6000倍の収縮率で起こし、ジェットで自由に向きを変えられるのだ。
もっともこれは飛行機を売り込みたい旅客会社の触れ込みで、真っ赤なウソであるので、本当かどうなのかは誰も知らないのだった。
話を戻そう。
樹の根元には、各枝に繋がる階段があって、鉄のプレートが行き先を示していた。
ワルドが目当ての階段を見つけ、駆け上がった。
階段を登る三人を、大きな木の影に隠れて見つめる者がいた。
白い仮面と、黒いマント。フーケを脱獄させた、あのレコン・キスタの貴族であった。
貴族はティトォを見つめながら、黒塗りの杖を懐から取り出したが……
しかしなにを思ったか、杖をおさめると、きびすを返した。その姿が、風のように夜の闇に消えた。

階段を上がった先には、一本の枝が伸びていた。その枝に添って、一艘の船が停泊している。
帆船に似た形状で、空に浮かぶためだろうか、舷側にも羽が突き出ている。
船はロープで枝にぶら下がっていて、枝の端からタラップが甲板に伸びていた。
ワルドは船上に降りると、甲板で酒瓶を抱えて眠っている船員を怒鳴りつけた。
「船長はいるか!」
「な、なんでえ、おめえら!」
酔っぱらって濁った目をした船員は、あわを食って跳ね起きた。
ワルドは答えず、杖を引き抜いてみせた。
「緊急の用件である。船長を呼んでもらおうか」
「き、貴族!」
杖を見た船員は、あわてて船長室へすっ飛んで行った。
しばらくして、寝ぼけ顔の初老の男がやって来た。彼が船長らしかった。
「女王陛下の魔法衛士隊体調、ワルド子爵だ」
ワルドが名乗ると、船長の目が丸くなる。相手が身分の高い貴族と知って、急に愛想のいい笑顔になった。
「これはこれは。して、当船にどういったご用向きで……」
「アルビオンへ、今すぐ出航してもらいたい。これは王室の勅命だ」
「無茶を言いなさる!今宵は『スヴェル』の月夜!アルビオンはまだ遠い、今から出航などしては、とても風石が足りませんや!」
「風石って?」
ティトォは小声で、横のルイズに尋ねる。
「『風』の魔法力を蓄えた石のことよ。それでフネを空へ浮かばせるの」
「子爵様、当船が積んだ『風石』は、アルビオンへの最短距離分しかありません。それ以上積んだら、足が出ちまいますゆえ。したがって、アルビオンがもっとラ・ロシェールに近付くまで待たないと出航できません。途中で地面に落っこちてしまいまさあ」
「足りぬ『風石』の分は、ぼくが補う。ぼくは『風』のスクウェアだ」
船長と船員は、顔を見合わせた。それから船長がワルドの方を向いて頷く。
「ならば結構で。運賃は弾んでもらいますよ」
商談が成立し、船長は矢継ぎ早に命令を下した。
「出航だ!もやいを放て!帆を打て!」
もやい縄を解かれ、『風石』の力で宙に浮かんだ船は、帆にぶわっと風を受け、ぐんぐんと上昇した。
ラ・ロシェールの町がみるみるうちに小さくなって行く。
「アルビオンには、いつ着くんですか?」
ティトォが尋ねると、
「明日の昼過ぎには着きまさあ」
と、船長が答えた。
「明日の昼……」
ルイズが緊張した顔つきになる。
「どうやって王党派と連絡を取ったらいいのかしら。王党派が陣を置くニューカッスルは、貴族派に攻囲されてるって話じゃない」
「陣中突破しかあるまいな。フネが着くスカボローの港から、ニューカッスルまで馬で一日だ」
「貴族派の反乱軍のあいだをすり抜けて?」
ティトォが尋ねる。
「それしかないだろう。まあ、反乱軍もトリステインの貴族にはそうそう手出しできまい。包囲の目を盗んで、ニューカッスルの陣へ向かう」
ルイズは緊張した顔で頷く。
「とりあえず、今日は休んだ方がいい。明日に備え、体力を残しておくんだ」
そう言うと、ワルドは二人を船室に送り、自分は後甲板へ向かった。『風石』の魔力の補助をするためである。
ティトォは船室に座り込むと、うつらうつらと眠りに落ちた。
ルイズも眠ろうとしたが、緊張して、なかなか寝付くことができなかった。
ふと、船室の丸窓から外を見ると、ワルドのグリフォンがフネと並んで飛んでいるのが見えた。
その背中に、白い仮面を付けた人影が見えたような気がして、ルイズは目をぱちくりとさせた。
しかしもう一度見ると、人影らしきものは消えてなくなっていた。
見間違いだったのかしら、と、ルイズはふたたびベッドに横になった。


「アルビオンが見えたぞー!」
船員の大声で、ルイズとティトォは目を覚ました。
窓から差し込む光が眩しい。
二人が寝ぼけ眼をこすりながら、甲板へ出ると……、船の進路の先に、巨大な雲が浮かんでいた。
いや、雲だけではない。雲の切れ間から、黒々と大陸が覗いていた。
地表には山がそびえ、川が流れている。大河から溢れた水が、空に落ち込んでいる。その際、落ちた水は霧となり、霧は雲となり、すっぽりと大陸の下半分を覆っていた。
「これが浮遊大陸アルビオン。太洋の上をさまよう『白の国』よ」
ルイズがそう言うと、ティトォは息を呑んだ。
巨大な雲に包まれたその大陸の姿は、なるほど『白の国』と呼ぶにふさわしい、圧倒的な光景だった。
「驚いた?」
ルイズはぽかんと口を開けているティトォの顔を見て、少し嬉しそうに言った。
ティトォやアクアには驚かされてばかりだったので、ティトォの驚く顔を見ると、なんだか無性に愉快な気分になるのだった。
「うん。こんなの、見たことないよ」
甲板の上にはワルドのグリフォンもいて、羽をつくろっていた。どうやら飛ぶのに疲れて、フネの上で羽を休めていたようだ。
海の上に浮かんでいるアルビオンが、ハルケギニアに近付く周期などをルイズが得意げに説明していると、鐘楼に登った見張りの船員が、大声を上げた。
「右舷上方の雲中より、フネが接近してきます!」
ティトォは言われた方を向いた。なるほど、ティトォたちの乗ったフネより一回り大きいフネが一隻、こちらに近付いてくる。
フネの舷側に開いた穴からは、大砲が突き出ていた。
「大砲なんか積んでるよ。軍艦かな」
ティトォがとぼけた顔で呟くと、ルイズは眉をひそめた。
「いやだわ、反乱軍……、貴族派の軍艦かしら」
後甲板で、ワルドと並んで操船の指揮を取っていた船長は、見張りが指差した方角を見上げた。
黒くタールが塗られたフネは、まさに戦うフネを思わせた。距離を取って併走すると、舷側に並んだ二十数個もの大砲の口が、こちらを向く形になった。
「アルビオンの貴族派か?お前たちのための荷を運んでいるフネだと、教えてやれ」
船員は指示通りに手旗を振ったが、返ってきた返事は砲弾であった。
ボゴン!と鈍い音がして、フネの鼻先を砲弾が通り過ぎた。
突然の威嚇に船長が泡を喰っていると、見張りの船員が青ざめた顔で駆け寄ってきた。
「あのフネは旗を掲げておりません!」
船長の顔も、みるみる青ざめる。
「してみると、く、空賊か?」
黒船のマストに、四色の旗流信号がするすると登る。停船信号である。
船長は歯がみした。このフネにも武装がないわけではないが、空賊の戦闘艇とやり合えるとはとても思えない。
船長はすがるようにワルドに視線をやったが、ワルドは首を振るだけだった。
「魔法は、このフネを浮かべるために打ち止めだよ。あのフネに従うんだな」
船長は天を仰ぎ、「これで破産だ」と呟くと、停船命令を出した。

フネが止まると、黒船もこちらの舷側に停船した。
黒船の舷側には、フリントロック銃を持った男たちが並び、こちらに狙いを定めている。
ただならぬ様子に、ルイズは怯え、後じさった。
後甲板にいたはずのワルドは、いつの間にやらルイズのそばに来ていて、震えるルイズの肩を抱いてやっていた。
「空賊だ!抵抗するな!」
黒船から、メガホンを持った男が大声で叫んだ。
鉤の付いたロープが放たれ、ルイズたちの乗ったフネに引っかかる。
手に斧や極東などを持った屈強な男たちが、フネの間に張られたロープを伝ってやってくる。その数およそ数十人。
ワルドのグリフォンが、こちらに乗り移ろうとする空賊たちに驚きギャンギャンと喚いたが、その瞬間、グリフォンの頭が青白い雲で覆われた。
グリフォンは甲板に倒れ、寝息を立てはじめた。
「あれは確か、本で読んだ……、そうだ、『眠りの雲』風系統の呪文だったかな。向こうには魔法使いもいるのか」
ティトォは緊張した面持ちで、空賊たちを見ていた。
どすんと音を立て、甲板に空賊たちが降り立った。
その中から、派手な格好の一人の空賊が、一歩前に出た。
グリース油で汚れて真っ黒になったシャツをはだけ、そこから赤銅色に日焼けしたたくましい胸板が覗いている。
ぼさぼさの長い黒髪は、赤い布で乱暴にまとめられ、無精髭が顔中に生えている。
腰布に曲刀と小型のフリントロック銃を差し、左目に眼帯を巻いていた。
しつらえたかのような空賊姿であった。どうやらこの男が、空賊の頭であるらしかった。
「船長はどこでえ」
荒っぽい仕草と言葉遣いで、辺りを見渡す。
「わたしだが」
震えながら、それでも勢一杯の威厳を保とうとしながら、船長が名乗りを上げた。
「フネの名前は」
「トリステインの『マリー・ガラント』号」
「いい名だ」
空賊の頭はにやっと笑うと、船長から帽子を取り上げ、頭に乗せた。
「よろしい。今からおれが船長だ。乗組員を全員、甲板に集めな。おかしな真似したら、心苦しいがここでフネを降りてもらうことになるぜ」
ほどなくして乗組員たちと、ルイズたちが甲板にひとかたまりに集められた。曲刀や拳銃を持った空賊たちが、周りを油断なく取り囲んでいる。
「頭!積荷は硫黄ですぜ!」
フネを探り回っていた空賊の一人が、大声で駆け寄って頭に報告した。
「そうか、硫黄か!こりゃ結構!『新しい秩序』とやらを建設するには、火薬と火の秘薬が大量に要るだろうからな。黄金並の値がつくだろうよ!」
頭が興奮して叫んだ。空賊たちからも、ほうと溜息が漏れた。
「貴族派に売りつけるつもり?」
突然声が上がり、空賊たちはいっせいにそちらに顔を向けた。
マリー・ガラント号の乗組員たちも、驚いた顔で声の主を見つめていた。
声を上げたのはルイズであった。空賊たちが貴族派に与する者と知って、思わず口が出てしまったのだった。
「おや、貴族の客まで乗せてるのか」
頭は、船員たちに混じったルイズとワルドの姿を見て言った。
ルイズに近付き、顎を手で持ち上げた。
「こりゃ別嬪だ。お前、おれのフネで皿洗いをやらねえか?」
男たちは下卑た笑い声を上げた。ルイズはその手をぴしゃりとはねつけた。
「薄汚い貴族派の反乱軍が、わたしに触れるんじゃありません」
燃えるような怒りを込めて、男を睨みつける。
空賊たちは、おお、怖い怖い!などとおどけて笑い出した。
ルイズは怖くて、小さく震えていたが、気丈にも空賊たちを睨み続けた。
マリー・ガラント号の船員たちは、びくびくしながらルイズを見つめている。
ワルドは冷静を装っていたが、その顔はには隠しきれない緊張の色が浮かんでいる。
ティトォは、空賊の頭の顔をじっと見つめていた。そして、無意識にこめかみを指でトントンと叩きはじめると、
「カツラ……」
と、呟いた。
ぴくり、と頭の眉が吊り上がった。
この緊張した雰囲気にそぐわないティトォの発言に、船員たちはティトォのことを見つめた。
ティトォは注目を受けていることにも気付かないようで、どうにも空賊の頭のことが気になってしかたないようすであった。
「若ハゲ……、違うな……、もしかして……、いやでも、なんでまた……、ううん……」
なにごとかぶつぶつ呟き続けるティトォに、船員たちは哀れみの目を向けた。
かわいそうに、恐怖でおかしくなっちまったのか。
ルイズは呆れた目を向けた。
こいつ、何に気を取られてるのか知らないけど、今の状況分かってんのかしら。
空族の頭が、ルイズとティトォとワルドを指差した。
「てめえら。こいつらもフネに運びな。……ご立派な貴族様だ、たんまりと身代金がもらえるだろうぜ」


空賊に捕らえられたルイズたちは、空賊のフネの船倉に押し込められていた。
『マリー・ガラント』号の乗組員たちは、自分たちのものだったフネの曳航を手伝わされているらしい。
ルイズとワルドは杖を取り上げられ、ティトォはライターを取り上げられた。
したがって、鍵をかけられただけでもう、手足が出なくなってしまった。
杖のないメイジは、ただの人である。ルイズは余り関係なかったが。また火の気のないところにいるティトォも、魔法は使えなかった。
やがて、扉が開き、太った男がスープの入った皿を持って現れた。
「飯だ」
扉の近くにいたティトォが、受け取ろうとしたとき、男はその皿をひょいと持ち上げた。
「質問に答えてからだ。お前たち、アルビオンに何の用なんだ?」
「旅行よ」
ルイズは立ち上がり、腰に手を当てて、毅然とした声で言い放った。
「トリステイン貴族が、いまどきのアルビオンに旅行?いったい、何を見物するつもりだい?」
「そんなこと、あなたに言う必要はないわ」
ルイズは顔を背けた。
「威勢のいいこった。トリステインの貴族は、気ばっかり強くてどうしようもねえな」
男はせせら笑うと、皿と水の入ったコップを寄越した。ティトォはそれを受け取ると、ルイズの元へ持っていった。
「ほら」
「あんな連中の寄越したスープなんか飲めないわ」
ルイズはそっぽを向いた。
「食べないと、身体が持たないぞ」
ワルドがそう言うと、ルイズは渋々といった顔で、スープの皿を受け取った。
三人は一つの皿から、同じスープを飲んだ。
飲んでしまうと、やることがなくなった。
ルイズは気丈に振る舞っていたが、よく見ると肩が小さく震えている。本当は怖くてたまらないのだ。
ティトォはそんなルイズを少しでも安心させようと、声をかけた。
「ルイズ」
ティトォは、服の襟に手をやって、隠していたものをルイズに見せた。
「いざとなったら、これ、使うから」
ルイズとワルドは、ティトォの手に乗ったものを覗き込んだ。
「剃刀?こんなものを隠し持っていたのか。でもこれじゃ、とても武器にはならんよ」
ワルドはかぶりを振った。
しかしルイズは、ティトォが『いざとなったら』何をするつもりなのかを悟って、息を呑んだ。
小さな剃刀は、武器としては役に立たない。
しかし、首筋や脇の下などに走っている、重要な血管を傷付けるのには十分であった。
死ぬか、心臓が止まるか、心に死ぬほどの衝撃を受けるかすれば、ティトォたち不死の三人は『入れ替わる』。
ティトォは自ら命を絶つことで『存在変換』を引き起こし、身体の中に眠っている攻撃特化型の魔法使い・アクアの力を借りるつもりなのだ。
「……やめてよ」
ルイズは顔をそむけて言った。
ルイズは、アクアが死んでしまったときのことを思い出していた。
悲しくて、苦しくて、目の前が真っ暗になった。
死んでも『入れ替わる』だけだというのは、頭では分かっているけど。でも、もうあんな思いはしたくない。
「わたし、いやだわ。そんなの」
ルイズが目を伏せるのを見て、ティトォは言った。
「いいんだよ。ぼくらは普通の人間とは違うんだ。常識も、倫理もね」
ティトォは少しだけ笑った。ルイズがそんなふうに考えてくれるのが、嬉しかったのだ。
「でも『換わる』必要はないかも。ちょっと気になることがあるんだ」
「何よ?」
「あの空賊の頭、変装してる」
ティトォの言葉に、ルイズは怪訝な顔をした。
「変装?」
「うん。あのぼさぼさの黒髪、カツラだよ。もみあげのあたりに、ちらっと金髪が覗いてた。それに、あごに糊の跡があった。多分、付けヒゲ」
ルイズは目をぱちくりさせて、ティトォの話を聞いていた。あの空賊の頭に顎を掴まれたとき、かなり近くで顔を見たというのに、ルイズはぜんぜんそんなことには気付かなかったのだ。
反対にティトォは、空賊の頭からはわりと離れた場所にいたはずであった。
「きみは、あの距離からそこまで観察したのか」
ワルドは感心したような、呆れたような声を上げる。
「でもなんで、空賊が変装なんかするのよ」
「うーん。もしかしたら……」
ティトォがなにか言いかけたとき、扉が開き、痩せぎすの空賊が現れた。
「頭がお呼びだ」


三人が通されたのは、立派な作りの部屋だった。後甲板にしつらえられたそこは、空賊船の船長室らしい。
豪華なディナーテーブルの向こうに、先ほど話題にしていた空賊の頭が座っていた。
大きな水晶の付いた杖をいじっている。こんな格好なのに、メイジらしかった。
頭の周りには、柄の悪い空賊たちがニヤニヤ笑いを浮かべて、こちらを見守っている。
先ほどの痩せぎすの男が、ルイズを後ろからつついた。
「頭の前だ、挨拶しろ」
しかしルイズはきっと頭を睨むばかり。頭はにやりと笑いを浮かべる。
「気の強い女は好きだぜ。子供でもな。それに威勢もいい。なんだっけな、『薄汚い貴族派の反乱軍が、わたしに触れるんじゃありません』」
ぎしっと椅子を揺らすと、頭はテーブルに身を乗り出した。
「お前たち、王党派のものか」
「ええそうよ。わたしたちはアルビオンの王室への使い。トリステインの貴族の代表としてやってきたわ。つまりは大使ね。大使としての扱いを要求するわ」
「ほう?なにしに行くんだ。王党派なぞ、明日にでも消えちまうよ」
「あんたらに言うことじゃないわ」
「貴族派に付く気はないかね?あいつらは、メイジを欲しがっている。たんまり礼金を弾んでくれるだろうさ」
「死んでもごめんよ」
ルイズは毅然と言い放った。頭は、くっくっと忍び笑いを漏らす。
「忠義深いのは美徳だがね、お前たち無事ではすまねえぞ。王党派が陣を張るニューカッスルは、貴族派に完全に包囲されている。さてはて、どうやってニューカッスルへ向かうってんだ?」
口を開こうとしたルイズより先に、ティトォが答えた。
「ぼくも心配だったんですけど。どうも、思ったよりかんたんに王党派と接触できそうです」
ティトォは、そう言ってかまをかけた。
「なんだてめえは」
頭はわずかに眉根を寄せて、胡散臭そうにティトォを睨んだ。人を射すくめるのに慣れた眼光だった。しかしティトォは物怖じした風もなく、頭に恭しく一礼した。
「失礼、閣下。ぼくは彼女の使い魔です」
「使い魔?」
「はい」
ティトォは、まるで貴族を相手にしているかのような丁寧な態度だった。
ルイズはそんなティトォをじろりと見る。
なにその態度。
こんな奴らに、そんな礼儀正しくすることないでしょ。
おまけに、閣下ってなに。なんなのそれ。
空賊に媚を売るなんて、トリステイン貴族の使い魔のすることじゃないわ!
不機嫌を顔全体を使って表現したルイズは、ティトォを陰険な目で睨みつけた。
頭はテーブルに肘を乗せて、ティトォを見ていたが……、やがて、わっはっは!と豪快に笑うと、立ち上がった。
突然の頭の変貌ぶりに、ルイズは戸惑い、頭の方を向いた。
「いやはや、きみの目を見ていると、なんだか自分がひどい間抜けを演じてるみたいに思えるよ。まるで、何もかも見透かされているようだ」
そう言うと、頭はルイズとワルドの方に目をやった。
「失礼した。貴族に名乗らせるのであれば、こちらから名乗らなくてはな」
その言葉に、周りに控えた空賊たちが、一斉に直立した。
頭は縮れた黒髪をはいだ。ルイズはあっと息を呑んだ。
それは、ティトォが言ったように、カツラであった。
眼帯を取り外し、付けひげをびりっとはがすと……、現れたのは、金髪の凛々しい若者の姿であった。
「わたしはアルビオン王立空軍大将、本国艦隊司令官……、艦隊とは言っても、既に本艦『イーグル』号しか存在しない、無力な艦隊だがね。まあ、その肩書き寄りはこちらの方が通りがいいだろう」
若者は居住まいを正し、威風堂々、名乗った。
「アルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダーだ」
ルイズは口をあんぐりと開けた。ワルドも驚いたようで、呆けたように立ち尽くしていた。
ウェールズは、にっこりと魅力的な笑みを浮かべると、ルイズたちに席を勧めた。
「ようこそ、アルビオン王国へ。いや、大使どのには、誠に失礼いたした。甲板でのやり取りで王党派への御用向きと当たりを付けたのだが、外国から我々へ使者が送られるなど、なかなか信じられなくてね。きみたちを試すような真似をしてすまない」
そこまでウェールズが言っても、ルイズは口をぽかんと開くばかり。いきなり目的の王子に出会ってしまったので、心の準備ができていないのだった。
「その顔は、どうして空賊風情に身をやつしたのか、といった顔だね。いや、金持ちの反乱軍には続々と補給物資が送り込まれる。敵の補給路を絶つのは戦の基本。
 しかしながら、堂々と王軍の軍艦旗を掲げていたのでは、あっという間に反乱軍のフネに囲まれてしまう。まあ、空賊を装うのも、いたしかたなしだ」
ウェールズは、イタズラっぽい顔で笑った。
「もっとも、きみには見透かされていたようだったけどね」
ウェールズの言葉に、ルイズはティトォのほうへ振り返った。ティトォは、まったくいつも通りのとぼけた顔をしていた。
「……知ってたの?」
ルイズが尋ねる。
「うん、まあ。確証はなかったけど、カツラの隙間から金髪がちらっと見えたし、ウェールズ皇太子は金髪碧眼って聞いたから」
「金髪碧眼なんて、珍しくないだろ?」
ウェールズが言う。
「でも、変装する空賊なんて、身分を隠したい人以外いませんよ。例えば、王党派の生き残りとか。
 有力な王党派貴族は既にほとんどが倒れたと聞きました。その中でこれくらいの年格好の若者と言えば、皇太子くらいのものです。
 あと、このフネに乗り移る時に、側舷に銃弾がめり込んでいる裂け目を見ました。黒い塗膜の下に、白い塗膜がありました。この黒船の黒い塗装は、ここ一年ほどに施された真新しいものです。
 だから、軍艦を空賊船に偽装したんじゃないかと。敗残兵が空賊に身をやつしたのかとも思ったんですけど、だったら軍の装備じゃなくて、わざわざ揃いの曲刀だの斧だのに持ち替えてるのはおかしいし……」
あれやこれやと疑問点を並べ立てるティトォに、ウェールズが感嘆の声を漏らした。
「いやはや!驚いたね、まったく」
「ええ、ほんとに……」
突然、ルイズがティトォの向こう脛を蹴飛ばした。
あう、とティトォは痛みに姿勢を崩す。
「ルイズ?」
よろめいたティトォがルイズの方を見ると、ルイズと目が合った。
ルイズは無表情であったが、鳶色の瞳の奥に、怒りの色が浮かんでいた。
「ねえティトォ、あなたのその、なんて言うのかしら。観察眼?驚かされるばかりだわ」
がすがすとティトォのすねに蹴りを入れながら、淡々とルイズは言った。
「な、なんで蹴るのさ」
わけが分からず、ティトォが尋ねる。完全に及び腰だ。
「あなたって、なんでもお見通しなのね。恐れ入っちゃう。で、何も知らないわたしが怯えてるのを横目で見てたってわけ?へえ。はあ。ふうん」
ぴたりとティトォを蹴る足が止まった。
ぶるぶるぶる、とルイズの身体が小刻みに震えだした。
あ、まずい。とティトォは思った。
これはルイズが爆発する予兆なのだ。
「いいいいいいい言いなさいよねええエエエエッッ!!わかってたんなら!わたしに!早く!教えなさいッ!」
ものすごい剣幕で、ルイズはティトォを蹴りまわした。
「いやだって!確証があったわけじゃないし!あう。あうあう」
ティトォは身体を小さくして、ルイズの攻撃に耐えた。
「使い魔と!主人は!一心同体なのッ!なにか気付いたら、その都度報告しなさい!なんなのもう!わたし一人怖がって、ばかみたいじゃないッ!この!くの!」
「ごめん。痛い。やめて。あう」
ウェールズは、この騒ぎを唖然と見ていた。空賊……、王立空軍のものたちも、ワルドも、ぽかんとした顔をしている。
そんな視線に気付くと、ルイズは顔を赤らめて、やたらめったらに踊っていた足を止めた。
ルイズはコホン、と一つ咳払いをする。
「……失礼いたしました、殿下。アンリエッタ姫殿下より大使の任をおおせつかりました、ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールです。
 こちらは、わたくしの使い魔にございます。そしてこちらが、トリステイン王国魔法衛士隊、グリフォン隊隊長、ワルド子爵にございます。」
居住まいをただすと、ルイズは努めて優雅に一礼し、ティトォとワルドを紹介した。
しかし、空軍のものたちがルイズを見る目は気抜けしたものだった。
正直、誤魔化せてなかった。
しかしウェールズは気を取り直すと、
「ふむ、姫殿下とな。して、どのようなご用向きで?」
と、ルイズに尋ねた。見なかったことにするつもりのようだ。
「あ、はい。その。姫殿下より密書を言付かって参りまして……」
ルイズは慌ててアンリエッタの手紙を取り出し、ウェールズに差し出そうとしたが……、
ふと躊躇うようにして、おずおずと口を開いた。
「あ、あの……、その、失礼ですが。ほんとに皇太子様?」
ウェールズは笑った。
「まあ、さっきまでの顔を見れば無理もない。僕はウェールズだよ。正真正銘の皇太子さ。なんなら証拠をお見せしよう」
ウェールズは、ルイズに右手を差し出した。その薬指には、指輪が光っている。
「この指輪は、アルビオン王家に伝わる『風のルビー』だ。きみが嵌めているのは、アンリエッタが嵌めていた『水のルビー』だろう?」
ウェールズは、ルイズの指に光る『水のルビー』を見つめながら、言った。
ルイズは頷いた。
「水と風は共鳴しあって、虹を作る。王家の間にかかる虹さ」
ウェールズはルイズの手を取ると、『風のルビー』と『水のルビー』を近付けた。
ふたつの宝石は、共鳴しあい、石と石の間に虹の橋をかけるはずであった。
しかし……
「……む?」
キィン、キィン、と甲高い音が響く。
宝石が共鳴している音だ。
しかし、ふたつの宝石の間に、虹の橋は架からなかった。
現れたのは、巨大な円の虹だった。
円の虹が、ルイズ、ウェールズ、そしてティトォの三人の真ん中に現れたのだ。
ルイズとウェールズは、それぞれの指に嵌まった『ルビー』が、共鳴して震えているのがわかった。
「おかしいな。石が、こんなに強く震えるなんて……」
ウェールズは困惑して呟いた。
ルイズもわけが分からず、ティトォを見る。
ティトォは、心臓の辺りを抑えていた。その顔には驚きの色が浮かんでいる。
ティトォは、誰にともなく呟いた。
「まさか……」
共鳴してる。
『星のたまご』が。


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