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絶望の街の魔王、降臨 - 12


 貴族派の兵士は困惑していた。あれほど堅く閉ざされていた城門が開かれた。完全包囲のこの状況、降伏以外のなにを想像しろというのか。
 門から現れたのは、見慣れぬ格好の女。貴族の特徴はなく、余計貴族達を混乱させた。
 と。
 その手に握られた金属の筒が、回転を始めた。
「よく見なさい、ハルケギニア人。これが戦争よ」
 筒が兵士に向けられ、火を──文字通り火を吹いた。そのまま横に素早く薙ぎ、悠然と門に消えた。誰もが、何があったか理解できなかった。死んだ者は痛みを感じず、怪我をした者は消えた手足を押さえて泣き叫び状況どころの話ではない。無傷の者はそれが何を示すのか理解できない。
 やがて、恐慌が蔓延し、混乱が起きる。たった百数十人が死傷しただけで、『得体の知れないモノ』は五万に恐怖を植え付けた。



「総員、戦闘配置! 作戦を開始する!」
 ウェールズが兵を率い、地下への隠し扉をくぐる。
「ジル、後は頼んだ!」
「師匠! どうかご無事で!」
 遠くから砲声と、爆音。その度にパラパラと降る砂や小石。そんな中でこういったやり取りをすると、まるで戦争映画の様だ、などと思ってしまう。
「貴方は私の部下よ。勝手に死ぬことは許さないわ」
「Sir!!」
 もう声だけしか聞こえないが、ギーシュは恐らく地下通路で敬礼をしているのだろう。
「さて」
 全員を見送り、仕掛けを作動させる。これで、もうここはただの壁だ。
「厄介事を制圧しないと」



『ドラケン、エンゲージ!』
『オライオン、交戦!』
『ジュラーヴリク、後退!』
『ハリアー、起爆!』
 次々に入ってくる情報に神経を尖らせ、城の見取り図に乗せた駒を、何人かの貴族が動かす。
 ジルはその様子を見ながら、改めて通信機と司令室の素晴らしさを感じていた。記憶の片隅にあった画像をもとに、一時間で構築した急拵えの司令室だが、あちこちの倉庫にあったボロボロの通信機と正確な見取り図のおかげで状況把握と的確な指示が出せた。
「ウォートホッグ、焼夷手榴弾と煙幕を使い、来賓室前まで後退、スターファイターと合流するまで待機。途中、クレイモアを設置」
『了解!』
「スターファイター、7メイル後退、曲がり角に身を隠し、敵の足止めを最大12分行え。12分経って連絡が無ければウォートホッグがいる場所まで後退」
『わかった!』
 身を隠し、足止め程度の攻撃で精神力を温存し、じわじわと後退、合流と分散を繰り返し、必要な場所に必要な兵力を送る。
「スカイレイダー、本隊は十字路まで後退、数名を厨房に派遣せよ。大量の油を熱しろ」
『へ!? 了解……』
「油の質は問わない。錬金してもいい。敵が来る前に階段を上がり、灼熱のシャワーをプレゼントしてやれ。ついでに火もつけろ」
 その言葉に過剰反応する男がいた。
「使い魔君、それはいささかやりすぎではないか?」
 ワルドがジルの命令に苦い顔をするが、
「戦争に手段は無いわ。生きるか死ぬか、殺すか殺されるか。勝てば正義だけど、敗けたら悪を押し付けられるのよ。あ、アードバーグ、クレイモアを起爆して次の角まで後退」
 と、さも当たり前と言わんばかりにジルは平然と別の命令を出す。
「兎に角、数が多いから減らさないと」
「減らすなら、使い魔君が自慢していた、あの赤い爆弾を使えばいいのではないかな?」
「デイビークロケットのことかしら? 弾頭だけで発射器が無いのよ。それに、貴方は一瞬で20万人を殺せる兵器を……いえ、アルビオンを未来永劫人の住めない土地にする気かしら?」
「は?」
 ワルドはジルの言っている意味が判らなかった。
 たった一発、あんなにも小さな爆弾で20万人。そして人の住めない土地になる。全く、理解の範疇に無い。
「そんなまさか、冗談にも……」
「じゃあ、使ってみる? 炸裂したらアルビオンは致命的に汚染され、世界中に汚染が広がるわ。あれの恐ろしさは単純な威力だけじゃないの。世界を汚染する、見えない毒が最も恐ろしいの」
「…………」
 ワルドは完全に沈黙した。
『ヴァルキリー、敵が……』
「どうしたヴァルキリー。何があった」
 一番端の小隊との連絡が取れない。
「……ワルド、指揮を任せるわ」
「どこに行くつもりだ?」
「ヴァルキリーが消息を絶った場所。危険な要素が侵入したみたいね」
「危険な要素? なんだそれは」
 ジルはそれには答えず、ワルドに微笑むと、
「貴方は、ウェスカーと同じ臭いがするのよ」
 と、風の様に去っていった。去り際に貴族の一人に何かを渡し、一言告げていった。
「……ウェスカー?」
 ワルドは気付かず、誰も指摘しないが、その背中には少量のC4が張り付けてあった。



 廊下を漂う、嗅ぎ慣れた臭い。人間を焼いた、あの臭いだ。
 このエリアで焼夷弾は使ってないから、恐らくは敵の攻撃だ。ヴァルキリー小隊は全滅しただろう。
 それにしては、敵が見えない。
「…………」
 しかしこう、あからさまに殺気を振り撒いてくれれば、場所の特定はできる。敵は一人、他に仲間はいない。
 殺気の方向へ進むと、炭化した何かが転がっていた。杖だ。そこから先に、焼死体が幾つか転がっていた。その中に一つ、一際派手にバラバラになった死体がある。手榴弾でも誘爆したのだろうか。
「来たな……」
 最初から、ベレッタは声の方向を向いていた。
「おい女。お前、かなり強いな? 焼いたらいい匂いがしそうだ」
「裏切者の次は変態? まったく、今日は厄日だわ」
 無造作に銃爪を引く。狙った頭は吹き飛ばず、かすりすらしない。
「面白い玩具だな。初めてだ、こんな火薬の匂いは」
「ああそう」
 次はM2に持ちかえる。
「こんなのはどうかしら」
「は────」
 かすっただけで腕が持っていかれる凶悪な弾がバカスカ飛んでくる。男は長年の勘から逃げることを選択した。
「くそ!」
 さっきまでの余裕は何だったのか。
「残念だけど、焼け死ぬのはごめんよ。そういうのは、ウェスカーもどきにやってくれないかしら? 壁くらいは走ってくれるわよ、たぶん」
 ジルは遊んでいる。殺す気なら、最初からガトリングでミンチにしている。相手が盲目で、何か別の感覚で物を『視て』いるのは既に理解した。そして、戦闘狂でかなりの強者の域に入ることも。敢えて『戦闘』を長引かせる事で、この世界の兵士のレベルがどのくらいかを見ている。
「何だあれは……? 面白い」
 廊下の角に隠れ、呪文を詠唱する。その声はジルにも聞こえ、しかしジルはそれを放置する。
「ファイアボール!」
 炎の塊がジルに向かう。そして爆発した。
「やったか!?」
 彼は感覚を研ぎ澄ます。人の焼ける臭いはする。しかし……
「あら、この程度?」
 ロケットランチャーを抱えるジルは、平気な顔で突っ立っていた。流石に髪が少し焦げたが、大したダメージは無い。
「じゃあ」
 ピン、と、小気味のいい不吉な音。
 カン、と、不気味な金属音。
 慌てて走り出すがもう遅い。
「ガッ……」
 一瞬の轟音が耳を貫く。顎をぶん殴られた様な衝撃。しかし、大切な感覚は潰されていない。潰されようがない。
「おのれ……」
 まだ頭がくらくらする。どうにか立ち上がり、相手の動きを見る。
「あら、まだ動けるのね。耳を潰されたら動けないかと思ったけど」
 リッカーの類かとスタングレネードを使ったが、見当が外れた。
「クソ……」
 声は聞こえていないだろうが、男は既に持ち直している。
「そう。ならトドメといこうかしら」
ジルはデルフに持ち替えた。



 それは純粋な恐怖だった。いつもの、戦闘の高揚感なんて無い。一瞬で現れた剣────その速度は彼の理解を越えている。
 非常識な程の細腕で、非常識な速度で振るわれる、非常識な長さの剣。避けるのが精一杯で、こちらから攻めることができない。
 いや────もしかしたら、『まだ遅い』。鼻先を掠めた剣先は、直ぐに斬り返し、己を襲う。冷たい温度と鉄の匂い、そして風を斬る音が、それを教えてくれる。片手で扱っているとは、どうしても信じられないが、あらゆる感覚がそれが現実だと彼に教える。
「私を焼くんじゃ無かったの?」
 ちくしょうめ、此方には喋る余裕すら無いのに。心の中で愚痴るがしかし、ほんのわずかな集中の乱れが頬に一筋の切り傷を走らせる。詠唱など論外だ、口を開けば首が飛ぶ。
「そういえば、眼が見えない敵とは久し振りに戦うわね。リッカーは触ったり音を立てなかったら気付かれないけど────」
 背筋が凍りつく。反射的に足は地面を蹴っていた。直後に破裂音。
「あ、ハンターβ……とは回避の意味が違うわね。あれは発射してからでも避けるけど、人間は撃つ前にしか避けられない。でも、一番怖いのは生きてる人間よね。第六感、とでも言うのかしら?」
 距離が離れた。女は意味の判らないことを言っているが、それを気にする余裕は、メンヌヴィルには無い。追撃が無いのを幸いに、息を整える。
「人を焼き殺すのが好きみたいね? だったら……こんなのはどうかしら?」
「うわ……相棒、えげつねー」
 相手が何かを取り出したのは判った。しかし、それが一体なんなのか、メンヌヴィルには判らない。
 ピン、と小気味のいい音がして、何かが放り投げられる。それを避け、なるべくそれから逃げる。先ほどみたいに耳をやられたら、今度こそ殺られる。
 それは床に落ち、何度か跳ね、転がった後、何かを撒き散らし、未だかつて経験した覚えの無い温度で燃え上がった。
「な……」
「テルミット焼夷手榴弾。たいていの金属が簡単に熔ける温度よ。まったく、とんでもないものがあるわよね、宝物庫には」
「相棒のえげつなさよりはとんでもなくねーと思うがな」
「テルミット、体験してみる?」
「ごめんなさいもう言いませんSir」
 理不尽だ。こいつらは世界の理から外れている。化物? 奴はそんなに生温くはない。悪魔? 目前のこれよりは無慈悲ではない。
「? 成程、熱で見ていたのね。それと嗅覚。なら……」
 女は何か缶を手にする。
「鼻を潰してあげる」
 男の周りに、それがばら撒かれる。男はそれから逃れようとするが。
 缶の数と同じ破裂音、そして液体が缶から漏れる。デフォルトで膨らんでいる缶の内圧は高く、更に銃弾の衝撃波とベルヌーイの定理に従って内蔵物をぶちまけ、固形物混じりのそれはメンヌヴィルに向け襲い掛かり、その本質を余すことなく発揮した。
「────!!」
 最早声にならない。兵器転用すらできる、ヨーロッパはスウェーデンから、世界最臭の缶詰、シュールストレミング。悪臭はこれでもかとあらゆるものに染みつき、航空機持ち込みが禁じられ、人を失神させることも可能。『人体には』無害だが、精神には黒板で爪を研ぐような傷を与える。
「あ、相棒……」
「敵に情けは無用よ」
 ジルは臭いを避けて既に遠くに逃れて、敵の様子を見ていた。
 殺虫剤をかけられた害虫の様に動きが鈍くなり、やがて動かなくなる。
「今は……」



「ルイズはどこだ……」
 ワルドは焦っていた。ルイズが昨日のパーティーが終わってから行方不明なのだ。司令室で見取り図にかじりついてもどこにも隠れられる場所などない。目ぼしい場所は探し尽くした。
「どこに……」
「既にトリステインよ」
「なん……」
「ふん!」
 それを目撃していた男が全員、股間を押さえる。
「お……おお……」
「貴方がレコン・キスタのスパイだなんて、最初からバレてるのよ。姫が流した偽情報でね」
 偏在にダメージを与えても本体は痛くも痒くもない。ならばとジルが考えたのは、精神的ダメージである。この攻撃は本人だけでなく周囲の『なにもされていない男』までにも多大なダメージを与える。
「レコン・キスタにハヴィランド襲撃を伝えたわね?」
「ああ……そうだ。ふ……ふはは……貴様の策略も無駄に……」
 絞り出すような声で、ジルを精一杯嘲笑う。が。
「馬鹿ね。『最初から』私達は知っていたのよ? 貴方がスパイだとか、今のレコン・キスタの頭、クロムウェルがスキルニルだなんてね。レコン・キスタだけが諜報活動しているんじゃないのよ」
 その首にデルフを突き付け鼻で笑う。
「な……」
「ルイズの居場所、最初は別室に隠していたわ。この城の隠し部屋にね。だけど、あの子を戦場に置くなんて危険なことはできないの。私を喚び出した責任を取ってもらうまで、死なれる訳にはいかないから」
「だからか……もうここにいないのは……」
「私達が乗ってきた貨物船、マリー・ガラントだったかしら? それで先に行ったわ。皇太子はハヴィランドを制圧してマリオネットの頭を潰して、この戦争は終わり」
 話はこれまでとばかりに、ジルはワルドの首をはねた。
「総員、撤退用意。爆破ライン以降まで下がりなさい」
 偏在は消え、それに眼もくれずにジルは叫ぶ。
『ジュラーヴリク了解!』
『ドラケン了解!』
『ジーク後退!』
 次々に入ってくる通信。その中にヴァルキリーの声はない。
「ジル、ヴァルキリーは……?」
 周りで報告を聞いていた一人が訊いてくる。
「10名の死亡を確認したわ。敵は駆逐」
「そうか……」
「22小隊の後退を確認!」
 哀しみにひたる時間もなく、通信士から報告が入る。今は時間との勝負だ。
「爆破」
「了解! 爆破!」
 大きな爆音が聞こえる。地下のドックに至る通路、その全てが崩れ落ちたのだ。
「最後の命令を伝える。総員、イーグル号に乗り込め。繰り返す。総員、イーグル号に乗り込め。以上」
『ナイトホーク、了解……』
『くそ……サンダーボルト、撤退する』
『こちらラースタチュカ、我々はまだ戦える!』
「ラースタチュカ、こちらにスパイがいたの。作戦は失敗。これ以上は無駄死によ。殿下の命令に叛く気?」
『畜生……了解だ!』
 通信の中には泣き声も聞こえた。しかし誰一人、命令に叛く者はいなかった。
「ラプター、聞こえる?」
 ジルは自分の通信機に問う。
『師匠!? 聞こえます!』
 雑音だらけのギーシュの声が返ってきた。
「こちらは撤退を始めたわ。そっちは?」
『殿下の説得に手間取って……』
「判ったわ。私が何とかするわ、絶対に乗せなさい」
『了解!』
「スピリット、応答して」
 次はハヴィランドで諜報活動しているエルザへ繋ぐ。
『…………ふう。はーい』
 少し間を置いて返事がくる。
「作戦は失敗。侵入の手引きはもういいわ。引き続き情報を送って。ワルドって名前の貴族には気をつけてね。次に帰ってきたら、直に吸っていいわ」
「本当!? やたっ! わっかりましたぁ!!」
 そしてジルが動き出す。
「予定通りここを放棄してドックに行きなさい。通信機は全て回収して、ギーシュに渡しなさい。私は殿下が来るまで敵の足止めをするわ」
 全ては皇太子を亡命させる為の茶番。HQにいる人間は、全員ジルが説得していた。ギーシュもウェールズもゲリラ小隊もワルドも、全てはジルの掌の上で踊っていたに過ぎない。今頃ワルドは永遠に来ないハヴィランド襲撃部隊に無駄に神経を尖らせ、そしてトリステイン離脱に必死だろう。後はルイズ達に任せ、この大陸からオサラバするだけ。
「は!」
「ご武運を!」
 貴族達に見送られ、ジルは階段を上がる。HQだった隠し部屋を出ると、すぐに走り出した。



 やがて、ウェールズ達ハヴィランド攻略部隊がドックに現れた。逃走経路も兼ねていた地下通路は、ここに直結していた。
「殿下! 早くお乗り下さい!」
「ああ……」
 一同は一列に並び、迅速に乗り込んだ。
「お疲れ様です」
「ありがとう……ジルは?」
 ウェールズは、消沈した表情で問う。希望の後の絶望は、これ程までに痛いのか。そんなことを考えながら。
「それが、まだ……敵の足止めをすると言って、まだ地上に」
「な、何だって!?」
 その報告に食い付いたのはギーシュだった。
「し、師匠! 早く来てください! 残りは師匠だけです!」
 無線機に向かって叫ぶ。
『船を出しなさい。そっちの通路はふさいだから、もう行けないわ』
 対してこちらの声は冷静だ。背後の爆音や銃声さえ無ければ、優雅にアフタヌーンティーでもやっていておかしくない穏やかさだ。
「そんな……爆破できるじゃないですか!」
『敵もそっちに行っちゃうじゃない。私は囮よ』
「死ぬ気ですか!?」
 ギーシュの眼は既に潤んでいた。
『私が? 人間に殺されるなんて、素晴らしいわね。でも、私が人間相手に死ぬと思うの?』
 抜けるような音と、それに続いて爆音。ギーシュの耳にこびりついた、あの『初めての音』。
「でも……」
『逃げ道もあるのよ。じゃあ、また後でね』
 通信が切られた。
「師匠!? ししょおおおおぉぉぉォ────!!」



「次から次に……ゾンビと変わらないわね」
 仲間の屍を踏み越え、爆発にも怯まず、敵は追ってくる。ジルの行く先は、倉庫の一つ。暴君の名を持つ人型兵器の眠る場所。
「しばらく黙ってなさい」
 走りながら、スタングレネードとスメルボム、更に催涙手榴弾をばらまく。おまけにスモークを焚く。視覚聴覚嗅覚を一気に駄目にされた敵兵士達は、文字通り煙に巻かれた。
 ついでにクレイモアを設置するのを忘れない。
「Ok……」
 要はタイラント覚醒までの時間が稼げればいい。
「T-103……まさかこんな形で会うとは思わなかったわ」
 インキュベータに繋がった端末の設定を変え、タイラントにインストールする。ジルの命令を聞くように。
「『こっちじゃない』だけは勘弁よ」
 サングラスの裏切者の間抜けな姿が瞼に浮かぶ。インキュベータが解放され、培養液が辺りに流れ出た。そしてタイラントはロケットランチャーを持つジルを見て、一歩踏み出す。
「この城から敵を叩き出しなさい。トラップに警戒」
 その命令は受け入れられ、タイラントはジルを避け、倉庫を出た。敵の概念が曖昧でも、味方は既にここにはいない。
「後はタバサが命綱ね」
 城の外、浮遊大陸の端の端、崖っぷちを目指す。Y2Kに乗っていた時から尾行には気付いていたが、敢えて放置していた。この時のために。
 敵はトラップとタイラントで足止めされているだろうから、運が良ければ合流できる。運が悪ければ────カーテンを幾つか縫って作ったパラシュートで降下するしかない。
 城のあちこちを爆破して、壁に抜け道を作り、通路を崩落させ、アルビオンの果てに向けて走る。
 城が遠くなり、小さくなる。そして、端の崖にたどり着く。
「天空の城から帰還する方が遥かに楽ね。あ、ここも天空の城だったわね」
 いつか観たアニメ映画、そのラストシーンが頭を過る。あれはグライダーみたいなもので滑空していたか。
『これが、世界初のHALO降下になる』
「?」
 幻聴を聞いた。まるで歴戦の兵士の様な、渋い声だった。
「夜明けね。流石に疲れてるのよ」
 腰にロープを結び付け、降下用意を始める。
「いたぞ!」
「全く、朝焼けすらゆっくり見せてくれないのね。まるであの時みたい」
 街が消えた、あの事件。未だにジルの記憶に焼き付いている。
「デイビークロケットでも叩き込んでやろうかしら」
 ジルがウェールズに使用をもちかけた、文字通りの禁断兵器。もっとも、ウェールズが使うと言ったら彼を見限って自分達だけで逃げただろうし、無論、ジルが使うはずもない。発射器たる無反動砲もなし、使うには死を覚悟する必要がある。ただの愚痴であり、独り言で、冗談だ。
「囲め! 囲め!」
「あれだけ罠に掛かって、反省してないみたいね。タクシーはこないし、仕方ないわ」
 布の塊を抱えて、ジルは崖を飛び降りる。手には、遠隔起爆信管のリモコン。
「I'll give you stars!」


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