あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

超力ガーヂアン-01b


 嗚呼、全く! 忌々しいったりゃありゃしない!
 昼下がりの食堂にて、私は午前の授業のことを思い返していた。
 テーブルに片肘をついてイライラとしながら、フォークで料理に八つ当たりをする。
 思い出しただけでも腹立たしい。
 少し失敗したからといって、その後始末を私1人に押し付けるなんて、明らかに教育システムの不備を感じる。
 そりゃあ、ミセス・シュヴルーズに怪我をさせたのは申し訳ないと思うけど、ちゃんと粛々と謝ったし、反省もした。
 それなのに、あのおばさんときたら罰だなんて言って、私に講義室の後片付けをさせたのよ。全く、器の小さいおばさんだ。
 モー・ショボーは遊びながらやるから無駄に時間がかかるし、お陰で服も汚れちゃったわ!

「あっ……」

 気づくと、皿に盛られた料理は無残な姿へと変貌していた。 
 取り替えてもらおうかとも考えるが、別に味は変わらないのだから気にする必要はない、と思い直す。
 それに、こんなにイライラしていては、料理の盛りつけを楽しむどころではない。
 何時までも不機嫌にしていたところで、時間が過ぎていくだけだ。
 既に昼休みも半分以上が過ぎている。ノロノロしていると、午後の授業に差し支えてしまう。
 力任せにテーブルを叩くと、皿が音を立ててスープに波紋が踊る。
 しかめっ面でソレを見つめながら、気持ちを落ち着かせる。
 ナイフで平目の香草包みを食べやすい大きさに切り分けると、フォークで突き刺し口へと運ぶ。
 うん、美味しい。馥郁たる香草の香りが食欲を増進させ、怒りを忘れさせてくれる。料理は偉大だ。
 ふと、頭上に小さな影が落ちた。
 咀嚼しながら見上げてみると、そこには給仕のエプロンを身につけたモー・ショボーがいた。
 何をやってるのだろう?
 たしか、食堂に入る前にシエスタを見つけて押し付けてきたはずだが、どうして給仕の格好をしているのだか分からない。
 怪訝に思いながらも、嚥下してから問いかける。

「なにしてるの?」
「えへっ、たんていゴッコ! コレあげるー」
「何これ?」

 手渡された物を目の高さまで持ち上げて、よく観察する。
 それは、紫色の液体が入った小壜であった。
 栓を開けてみると、素晴らしい香気が私の鼻をくすぐる。
 どうやら香水のようだ。それも、上々の代物である。

「どうしたの、これ?」
「そこでひろったの」

 どうにも、落し物のようだ。
 それにしても、誰が落としたのだろうか? しばし、黙考する。
 もしかしたら…… と、心当たりに気がついた。
 『香水』のモンモランシー、私の同級生で香水の扱いに長けた少女である。
 そういえば、この香りは彼女が調合した物と良く似ている気がする。
 態々落し物を届けるなんて面倒臭いが、少しくらいは努力してみてもいいだろう。
 食堂の中を見渡す。
 ……いた。私と同じ列の席に腰掛け、何やら難しい顔をしている。
 落し物を届けるのに遠慮をする必要もないだろう。
 私はモー・ショボーに香水の小壜を突き返すと、モンモランシーの方を指差して告げる。

「落し物みたいだから、向こうに居る金髪の子に渡してきなさい」
「はーい」

 能天気な返事をすると、モー・ショボーはモンモランシーの方へとフヨフヨと空中を歩いていった。
 さて、昼休みも後残りわずかだ。しっかりと腹ごしらえしておかないと、ね。
 残りの料理に取りかかる。
 スープは既に冷めてしまっているが、それでも美味しく平らげられる。料理長の腕前は確かだ。
 白パンを一口大に千切って頬張る。柔らかいパンはほんのりと甘く、麦の味が良く分かる。

「…………!?」
「…………っ!」

 ……それにしても、周りが騒がしい。
 こう騒がしくては、オチオチ食事も摂れやしない。
 傍にあるワインの瓶を取る。
 ……空だ。逆さに振ってみても、グラスに赤紫色の水滴が落ちるだけで、一口分も残っていない。
 さっきまでは半分以上残っていたというのに、意地汚い奴もいたものだ。
 私の断りもなくワインを飲み干すなど、断じてあってはならないことだというのに。
 全く困ったものだ…… あまり私を怒らせない方がいい。

「ルイズ! おいこら『ゼロ』のルイズ! 無視するんじゃない!」

 『ゼロ』と呼ばれて大人しくしていられるほど、私はおおらかではない。
 険のある目つきで、『ゼロ』と言ったヤツを睨み返す。

「どうしてくれるんだ『ゼロ』のルイズ!
 君の使い魔の所為で、2人のレディの名誉が傷ついてしまったではないか!」
「はぁーん?」

 頭に血が昇った真っ赤な顔でそう捲し立ててきたのは、『青銅』のギーシュであった。
 何を言っているのか分からないが、二度も『ゼロ』と言った罪は重い。
 如何してくれようか、このスケコマシは?
 とりあえず、言い訳だけは聞いてやろう。

「……何を怒ってるのよ? お腹空いてるの?」
「そんな訳ないだろ!
 君の使い魔が軽率にも香水を届けたりするものだから、2人の乙女に涙を流させてしまった!
 どうしてくれるのかね!?」

 何を言っているのか欠片も見えてこないが、どうせコイツのことだから、女絡みだろう。
 2人の乙女がどうとか言ってる所から、二股でもばれたのだと予想する。
 そんなもの、二股を掛けている方が悪い。
 だからこう言い返してやる。

「そんなの、私が知るわけないでしょ?
 二股掛けてたアンタが悪いんだから、床に頭擦りつけて謝ってきなさいよ」
「そうだギーシュ、お前が悪い! 今回ばかりは『ゼロ』のルイズが正しいぞ!」

 ギーシュの周りの奴等がドッと沸きたつ。
 今『ゼロ』っていった奴、顔は覚えたわよ。後で見てなさい……
 それよりも今はギーシュのことだ。これで、大人しく引き下がれば良いのだけれど。

「け、け、け……」
「け?」

 ここで大人しく引き下がるヤツだったら、二股なんて掛けてないか。
 にしても、何を言うつもりだろうか?
 『け』から始まる言葉ねぇ……

「決闘だーーっ!」

 ギーシュは私に指を突き付けてそう叫んだ。

「…………」

 ……は?
 唐突過ぎて、目が点になってしまった。
 あれだけ騒がしかった周りの連中も、1人残らず言葉を失い、ギーシュに視線を集中させている。

「何馬鹿なこと言ってるの? 決闘なんて、今日日流行らないわよ。それに、貴族同士の決闘は禁止されてるでしょ」

 言うに事欠いて決闘とは…… なんともはや。
 まさかそんな世迷い言を言う程に、追い詰められているとは思わなかった。
 まあ、だからといって、同情する気にもならないが。

「ふっ…… 誰が僕と君で決闘をするなんて言ったかね?
 決闘をするのは、お互いの使い魔同士だっ!」

 使い魔同士?
 確かにそれなら、貴族同士の決闘にはならないが、モー・ショボーが戦えるとは思えない。
 ギーシュの使い魔が何なのか知らないけれど、向こうから勝負を振ってきたのだ。戦いが得意な使い魔に決まっている。
 圧倒的に私が不利だ。
 そもそも、決闘をしなければならない理由が見当たらない。

「話をすり替えようとするんじゃないわよ。アンタが二股掛けてた子達に謝るのが筋ってもんでしょ!」
「ええい、うるさいっ! やるのかやらないのか、どっちだ!」
「やる訳ないでしょ、常識的に考えて」

 こんな決闘、私には何の利益もない。ギーシュのちっぽけで、薄っぺらなプライドを増長させるだけだ。
 そう易々と、ギーシュの目論見などに乗るものか。

「ああ……、怖いんだな?
 どうせ、『ゼロ』の使い魔だ。負けるのが怖くて逃げてるんだろ。このっ、腰抜けめ!」

 コイツ…… 言うに事欠いて『腰抜け』ですって?
 そんな事、誰にも言わせないわ……っ!
 背中を見せない者を貴族と呼ぶのよぉぉぉ!?

「言ったわね!
 目に物見せてやるわ! 後で吠え面かくんじゃないわよ!」
「そっちこそ、吐いた唾は飲めないぞ!
 ヴェストリの広場にて君を待つ。怖気づかなければ来るがいい!」

 ギーシュはそう捨て台詞を吐くと、マントの裾を翻して食堂から去っていった。
 私も周りの話しかけてくる奴等を置き去りにして、モー・ショボーを引き連れて食堂から出ていく。
 そのまま本塔から中庭に出て、木陰で一休みする。
 ……嗚呼、しまった。つい勢いで喧嘩を買ってしまった。
 後になってから、後悔だけが押し寄せてくる。
 一縷の望みをかけて、隣にいるモー・ショボーに聞く。

「ねえ、モー・ショボー? アンタ、喧嘩とか得意?」
「ぼうりょくなら、けっこうとくいだよっ!」
「はぁ……
 ああそう? それは良かったわね……」

 溜息しか出てこない。
 よしんば、モー・ショボーの言う事が本当だとしても、子供の喧嘩程度の役にしか立たないだろう。 
 とてもではないけれど、使い魔同士の戦いで勝利をもぎ取ることなど出来はしない。
 はたして、どうしたものだろうか。



 ◆◇◆



「諸君! 決闘だ!」

 ギーシュが薔薇の造花を頭上に掲げてそう宣言した。
 それと同時に、一斉にブーイングが巻き起こる。

「ギーシュが決闘するぞ! 相手はルイズの使い魔の幼女だ!
 全人類の至宝を傷つけるなどもってのほか! ギーシュに死を!」
「「ギーシュに死を!」」

 目を血走らせながらそう力説するのは、同級生の…… マルッコイノだ。
 彼が腕を振り上げるのに合わせて、周りの幾人かが唱和する。
 視線を戻すと、ギーシュは造花を掲げた格好のまま硬直していた。いい気味だ。
 結局、何の解決策も見いだせず、このヴェストリの広場までやってきたが、これなら何とかなりそうだ。
 確かに、傍から見れば、ギーシュは小さな女の子を痛めつけようとする悪役にしか見えない。
 この声がさらに大きくなれば、ギーシュも無視できず、決闘騒ぎはお流れになるだろう。
 これはしめたものだ。
 ここで出ていき、ギーシュの悪辣非道さを涙ながらに力説すれば周りは私の味方だ。
 そう考え、大きく一歩を踏み出し、ギーシュへと向かう。モー・ショボーは能天気な笑顔を浮かべながら、私の後を追ってくる。

「むっ! 『ゼロ』のルイズが来たぞ!」

 こいつも『ゼロ』と言いやがりますかこんちきしょう。
 だが、我慢だ。ここで抑えなければ企みが水泡に帰す。
 私に気がついた野次馬の群れが左右に割れ、ギーシュへと続く道が出来上がった。
 その道を肩で風切って歩んでいき、広場の真ん中でギーシュと対峙する。
 私の登場にホッとしたのか、ギーシュは大仰な仕草で私の方へと造花を突き付け、叫ぶために息を吸い込んだ。
 しかし、その息が吐き出される事はなく、再びの怒声が上がった。

「もう1人の下手人の登場だ!
 『ゼロ』のルイズは、自分の使い魔だからといって、無理矢理幼女を戦いに追いやる冷酷な女だ!
 この非道を断じて許すまじ! ルイズに死を!」
「「ルイズに死を!」」

 ……これは予想外だ。
 野次馬からしてみれば、決闘を受けて立った私もギーシュと変わらないという事か。
 チラリとギーシュの方を見やと、セリフを言うタイミングを奪われ、またまた固まってしまっている。しかも、なぜか造花を咥えたまま。
 マルッコイノに扇動されるがままの野次馬を無視して、ギーシュへと詰め寄る。
 そして、咥えられた造花を引ったくって投げ捨てると、シャツの襟元を鷲掴みにして顔を引きよせた。
 ギーシュは目を白黒させているが、そんな事などかまってはいられない。
 このままだと、ギーシュ共々株が暴落し、共倒れだ。それだけは、どうにかして避けねばならない。
 ここはひとつ、口裏を合わせてこの事態を乗り切ろう。

「ちょっとギーシュ、どうすんのよ?
 このままだったら、私等2人とも悪役よ。これから先、肩身の狭い思いをするのは御免だからね」
「う、うむ。こんな展開、僕だって望んでない。ここは、お互い力を合わせて乗り切ろう」
「ええ、そうしましょう」

 どうやら、ギーシュも同じ考えだったようで、協力体制はすぐに築かれた。
 さて、どうやって事態を収拾したものかしら?

「ねえ、どうしたらあいつ等を黙らせられると思う?」
「そうだな……
 マリコ……ヌル達は、君の使い魔にご執心のようだ。だったら、適当に戦って君の使い魔を勝たせればいい」

 マルッコイノではなく、マリコヌルだったか。
 これも何だか間違っている様な気もするけど、大した問題じゃないわね。

「八百長というわけね。
 で、アンタの使い魔は何なわけ?」
「ふっ……
 僕の使い魔は、ジャイアントモールのヴェルダンデさ」
「ジャイアントモール……」

 ジャイアントモールとは、平たく言うと巨大モグラのことだ。それ以上でもそれ以下でもない。
 一日に体重の半分の餌を食べ、地中で暮らしているため眼は小さく退化し、代わりに嗅覚が異常に優れているという、あのモグラの大きい版だ。
 地面を掘り進むために鋭い爪をもっているが、戦闘力が高いというわけではない。

「アンタ…… それでどうして決闘なんて吹っかけてきたのよ?」
「いや~、勢いって怖いね。気がついてたら、口が勝手に動いてたよ」
「大体モグラがどうやって戦うっていうのよ?」
「ふっ、モグラだといって侮ってもらっては困る。勝算もなしに決闘なんか挑まないさ。
 ヴァルダンデの穴を掘るスピードは尋常じゃないのだよ。
 だから、落とし穴を作って、そこに獲物が落ちれば勝利は確実さ!」
「……あの子、宙に浮かんでるのよ? 落とし穴なんかに落ちる訳ないじゃない」
「あっ……」

 今、言われて気がついたようで、ギーシュは口を半開きにして、ポカンとした表情を見せた。ホントに馬鹿だ。
 それにしても困った。モグラが相手では、戦いにすらならない。
 勝つとか負けるとか言う以前に、まともに戦えないだろう。
 片や地中、片や空中だ。どちらにも有効打がない以上、勝負はつかないだろう。

「もうどうでもいいから、さっさと呼びなさいよ」
「うむ。そうしたいのは山々なのだが、お昼寝中みたいで起きてくれないのだよ。困った困った」

 コイツ…… 使えない。本っ当に使えない。
 馬鹿で役立たずだなんて、最悪ね。馬鹿と鋏は使いようというが、生憎私には、コイツの有効な使い方が分からない。

「じゃあどうすんのよ!
 決闘なんか嘘でしたって言う? そんなみっともない真似なんかできると思うの? これだけ事態が大きくなってて!」

 とてもではないが、なにもせずにお開きというわけにはいかない。
 なにか、取り敢えずの決着をつけなければ、それこそ顰蹙ものだ。

「まあまあ、落ち着きたまえ。考えはあるから、聞きたまえ」
「当てにしていいんでしょうね?」

 やけに落ち着いた様子のギーシュに、僅かながら期待したいと思う。
 普段なら、絶対に信用したりはしないのだが、事情が事情だ。
 藁にもすがる思いでギーシュの提案に耳を傾ける。

「勿論だとも。大船に乗った気でいてくれていい。
 いいかね? 僕が錬金でゴーレムを作り出して適当に戦わせるんだ。そして、態と隙を見せるから、その時に僕の杖を奪ってくれたらそれでいい。
 どうだい? いい作戦だろ」
「ええ、それで良いわ。
 ……ところで、アンタが素直に負けるなんてどういう風の吹回し?
 見栄っぱりのアンタが態と負けるなんて、ちょっと信じられないわ」

 以外にまっとうな筋書きに、ギーシュの評価を上方修正する。やればできる子みたいだ。
 しかし、こうも素直に負けようとする姿勢に疑問も湧いてくる。
 いくら自分に非があるのを認めようとも、こうも素直になるものだろうか?
 何かよからぬ事を考えているのではないかと邪推してしまう。

「そうかい?
 まあ、相手が同年代の礼儀知らずの平民の男なら容赦はしないんだが、相手は亜人といえ、まだ小さい女の子じゃないか。
 子供に勝ちを譲るのは別に構わないさ。
 ……言っておくが、君に負けるわけじゃないぞ。そこは勘違いしてくれるなよ?」
「はいはい、分かってるわよ」

 先ほど上方修正した評価を改める。
 どうやら買いかぶりだったようだ。こいつは、女の子なら誰でもいいらしい。
 そんな風に呆れていると、不意にマントの裾が引っ張られ、そちらへ振り向く。

「ねえねえ、まだあそばないの~?」
「ああ、ごめんね。
 って、なによそれ?」
「あぶらみのおおい人間にもらったの。人間にもわけてあげる~」

 そう言って手渡されたのは、アーモンド製の柔らかな2枚の生地の間にジャムを挟んだお菓子、マカロンであった。
 話している間、どうにも静かだと思っていたら、マリコヌルからお菓子を貰っていたらしい。あいつ、生粋の変態紳士みたいね。
 手渡されたマカロンを食べる気にはなれず、だからといって捨てるわけにもいかない。
 モー・ショボーは親切でくれたのだろうけど、正直持て余してしまう。
 とりあえず、スカートのポケットに放り込んでおく。

「モー・ショボー、聞きなさい」
「なぁに?」
「いまから、あのお兄ちゃんが遊んでくれるから、アンタはアイツが持っている杖を取り上げるのよ。
 いい? 分かった?」
「つえをとりあげれば、い~いんだね? かんたんだよ!」
「そうよ。本気で行きなさい」
「はーい」

 モー・ショボーは元気よく返事をしてギーシュへと向き直る。
 既にギーシュは距離を取り、杖を構えていた。
 間合いは10メイル程だろうか、ギーシュは投げ捨てたはずの造花をまた口に咥えていた。ちゃんと拭いたのかしら?
 そして、何事もなかったように先程の口上を叫ぶ。

「諸君! 決闘だ!」

 薔薇の造花を突き付けてくる。
 またマリコヌルがいきり立っているが、それは無視して進める。始まってしまえば手出しはしてこないはずだ。
 ギーシュは気障ったらしく、花の香りを嗅ぐ仕草をしながら告げてくる。

「とりあえず、逃げずに来た事は誉めてあげようじゃないか」
「それはどうもありがとう。でも、泣きを見るのは貴方の方よ?」

 我ながら、白々しいやり取りだと思うが、他に手はない。
 互いに睨みあう。

「ねえ人間。まだやっちゃダメなの?」
「もう少しだから我慢しなさい」
「もうっ、はやくしてよねっ」

 モー・ショボーは頬を膨らませてむくれる。既に焦れてきているようだ。
 野次馬連中も、いつ始まるのかとブーイングを飛ばしている者も出てきている。
 ここいらが潮時か……
 早いところ始めて、とっとと終わらせましょ。そう、ギーシュに視線を送る。
 私の言いたい事が通じたのか、ギーシュはコクリと頷くと、薔薇の造花を構える。

「僕はメイジだ。だから魔法で戦う。よもや、文句はあるまいね?」

 薔薇の造花から花弁が落ちる。そして、それが見る見るうちに膨れ上がり、甲冑を着こんだ女戦士の像が生まれ出た。
 手には槍を持ち、もう片方の手には小盾を持っている銀色の女戦士だ。おそらく、彼の二つ名通りの青銅製だろう。
 私はモー・ショボーの小さな背中に、小声でどう動いたらいいのかを伝える。

「モー・ショボー、あのゴーレムは無視して、ギーシュの持っている薔薇の造花を奪いなさい。
 アンタなら、上を飛び越えられるでしょ?」
「え~? それじゃつまんないよ~」
「言う事を聞きなさい!」
「むぅ~」

 私の指示にモー・ショボーは不満の様だ。
 アンタのために言ってるんだから、我慢しなさい。後でお菓子あげるから。
 そうこう言っている内に、ギーシュがワルキューレに号令を放つ。

「行けっ! ワルキューレ!」
「その決闘待ったーっ!」
「いいや! おもいっきりやっちゃえっ!」

 ワルキューレが突進してくると同時、横手からマリコヌルが飛び出してきた。
 そのままモー・ショボーの前で手を広げて盾になる。しかし、ワルキューレはそのまま真っ直ぐ突進し、勢いは緩まない。
 モー・ショボーは慌てもせず、両手を重ねて前へと突き出した。翼の様な髪の毛が、目一杯に広がる。
 何をやるつもりだろうか? なんだか、首筋がチリチリする。

「やっちゃうよー? しんくーじんっ!」

 そう叫ぶと同時、モー・ショボーを中心として凄まじい衝撃波が巻き起こった。
 それは真っ直ぐに、ギーシュへと伸びてゆく。音速で迫るソレを避ける術などない。
 当然それは、射線上に居るマリコヌルとワルキューレをも巻き込んだ。
 衝撃波は凄まじく、地面を抉り、巻き上げられた小石を粉々に砕く。
 まさに、圧巻の一言に尽きる。それ以外の言葉が出てこない。

「ぬわーーっっ!?」
「僕の名前はマリコルヌだーーっ!」

 ギーシュとマリコヌルは断末魔の悲鳴をあげて吹っ飛んでいった。何かを叫んでいたようだが、轟音で聞き取れなかった。
 余りにも予想外の出来事に、誰も言葉を発することができずにいる。、
 そんな雰囲気の中、モー・ショボーは破壊の跡を悠々と進んでいき、落ちていた薔薇の造花を拾い上げた。
 そして、無邪気にはしゃぐ。

「もうおわり? もっとあそんで!」

 うわょぅι゛ょつよい。



 ◆◇◆



 我が輩は業斗童子である。なに、そう畏まる事もない。気軽にゴウトと呼んでくれればそれでよい。
 今は訳あって猫の姿に身をやつしているが、我の過去に犯した罪を慮ればしようがない事であろう。
 そう、業斗童子とは、サマナーの禁忌を犯した罪人に与えられる罰であるのだ。
 たとえ、この身が砕けようとも死ぬことは許されず、再び新たな体を与えられ、罪を償うべく苦界を彷徨うであろう……
 おっと、話が逸れたな。
 今、我はとある人物のお目付け役を担っている。
 その人物はとは、14代目葛葉ライドウ。葛葉宗家に仕える四天王が1人である。
 彼の人物は、まだ少年といえる年齢であるが、ライドウを襲名したとあり、なかなかどうして、見どころのある奴だ。
 我も葛葉の先達として、将来有望な後輩が育っている事は、素直に喜ばしい。
 そして、ライドウと我に与えられた任務とは、超国家機関ヤタガラスと協力し帝都を守護すること、なのだが……

「……葛葉ぁぁぁ!
 おぬしという奴は実に感心な男だな! その底無しの合体欲には畏怖すら覚える!
 おぬしの何度でも悪魔合体に挑む姿が、我が輩の研究者魂をすっかり熱したわ!
 ……今回の合体に限り、出血多量の大サービスを施してやろう!」

 この有様だ。
 顔色の悪い白衣を着た男が、頭を掻き毟りながら叫んでいる。
 場所は、主人曰く『帝都随一の古物商』金王屋。その地下に作られたDr.ヴィクトルの研究施設である。
 薄暗い地下に立ち並ぶ機械類は用途が知れず、余人には到底理解が出来まい。
 地下なので空は見えぬが、時は夜。今宵は、真円を描く月が天頂で妖しく輝いている。

「葛葉よ……
 クランケ…… いや、誕生する悪魔がどうなっても良いと、同意してくれんか?」

 先程から狂態を晒している顔色の悪い白衣の中年がDr.ヴィクトルだ。
 Dr.ヴィクトルの研究とは、自らの手による生命創造だそうだ。
 その研究過程において、人とは異なる強靭な生命を持つ悪魔に目をつけたわけである。
 それにより編み出された悪魔合体の秘儀は、我らサマナーにも有益である。
 我らは悪魔合体でより強力な仲魔を得る事が出来、Dr.ヴィクトルは研究材料である悪魔を得る事が出来ると、両者は持ちつ持たれつの関係というわけだ。

「よし、決まりだ!
 ……オペレーションの幕開けと行こう!」

 そうこう言っている内に、何やら妙な事になっている。
 Dr.ヴィクトルがおかしいのは何時ものことだが、今日はいつにも増して様子がおかしい。
 龍脈を利用した瞬間移動装置によって、より利用しやすくなったのは喜ばしい事であるが、こう入り浸られては帝都守護の任務に差し支えはしないだろうか? それが心配である。
 そもそも、14代目の考える事は我にはいまいち理解が出来ぬ。
 八方美人の気があるのは、金髪の青年に言われたとおりだが、それ以上に解せぬ所がある。

「まず…… アレをこうして、ソレをどうして…… うんぬんかんぬん……
 そうか! オニキスの魔性が我が輩の理論を奇跡の高みへと導くか!
 ……おい葛葉! オニキスを1個くれぬか!?」

 Dr.ヴィクトルが手を差し出すが、ライドウは無言で首を横に振る。
 これだ。ライドウは口数が非常に少ない。それ故に、あらぬ誤解を招くこともあるのだが、改める気はなさそうだ。
 まあ、必要な時は口を開くので、さしたる害はない。
 解せぬのは、鋭く尖ったモミアゲ……
 ……そうではなく、何を考えているのか、だ。

「……そ、そうか。
 では、別の理論を模索しよう……」

 今回の事にしてもそうだ。
 オニキスなど、仲魔からの譲与品で腐るほどあるというのに、渡さない意味が分からぬ。
 我には及びのつかない、何か深遠な考えがあってのことなのか、それとも、ただ単に何も考えていないだけなのか……

「……ん? ……んんん!? そうきたか! そうきたか!
 ……おい葛葉、今度はアクアマリンだ! 近い…… 近いぞぉ!
 おぬし、何をボサっとしている! アクアマリンを1個よこせ!」

 目が血走っている。流石の我も、この剣幕にはたじろぐしかない。
 ライドウはどうであろうと見上げてみると、何と驚くべき事に、再び首を横に振ったのであった。
 この肝の据わり様だけは、さすがの我も素直に舌を巻く。

「……のわっ! 手がすべった! 想定外…… 想定外だぞ、葛葉ぁ!
 ……気を取り直そう。もう少しで奇跡を目撃できるのだから!」

 一体全体どういうつもりなのか?
 仲魔をより強力に出来る機会があるのならば、逃すべきではないだろう。
 我の見立てでは、ライドウがそれをみすみす逃すことはないのだと思っていたのだが、これでは評価を改めなければならぬようだ。

「……おおおおお!? 現代科学が引っくり返る発見だ!
 ……頼む葛葉、これが最後だ! 我が輩にルビーを1個くれ!」

 Dr.ヴィクトルが三度吠える。だが、ライドウの反応は相変わらずだ。
 全く困ったものだ。いったい何を考えているのやら……
 我はもう、あれこれ口を挟んだりはせぬ、どうにでも好きにするが良い。
 椅子の上で丸まり傍観を決め込む。

「……葛葉ぁぁぁぁっ! おぬし、吾輩の研究の邪魔をする気か!?

 …………

 ……すまん。大人げなかったな……」

 そもそも、造り出そうとしている悪魔が悪魔だ。今更こんな悪魔を作ったところで、戦力になるとは思えない。
 それにもかかわらず、ライドウは苦楽を共にした強力な仲魔を材料にして御霊を作り出したのだ。さらに、素体悪魔に希少な魔力の香まで与える入れ込みようだ。
 ……仲魔を見た目で選ぶのも良いが、程度というものがあるだろう。

「……よしっ!
 いくぞ? いくぞ? いくぞ?
 運を信じて、ともに祈ろうではないか!」

 Dr.ヴィクトルが指をワキワキさせながら叫ぶ。怪しいことこの上ない。
 そして、おもむろに装置のレバーを倒すと、1体づつ仲魔を入れた2つの鉄格子の檻が上昇していく。
 刹那、凄まじいエネルギーが発生し、2体の悪魔が融合し1体の新たな悪魔が生まれ出る。

 ……筈であった。

 しかし、轟音と共に落下してきた檻には、悪魔はおろか、何者の影すら存在していなかったのである。
 一体何が起きたというのだろう?
 合体事故といえば、出来そこないの悪魔、スライムなどが出来るのが相場である。
 しかし、今回は全くの異例中の異例、悪魔そのものが消滅してしまったのだ。
 Dr.ヴィクトルは合体の余波を受け所々焦げているが、命に別状はなさそうである。
 ライドウの方をチラリと窺う。今回のことは、流石に平静ではいられない筈だ。
 しかし、ライドウの表情はピクリとも動かず、能面のようだ。
 だが、我には明らかな怒りを感じられる。その証拠に、我の髭がピリピリと震え、尻尾の毛が逆立つ。
 これは、バナナの皮ですっ転んだ時に匹敵する怒り様だ。話しかけるのは得策ではない。
 我は気づかれぬように、そっと椅子の上から飛び降りる。だが、逃げられはせぬようだ。
 ライドウは静かに振り返ると、おもむろに懐から恐るべき凶器を取り出し、我に差し向けてきたのであった。

「ぬぅ……
 合体事故が起きたからといって、我に八つ当たりをするのは、いささかお門違いというものだぞ、ライドウ?
 だから、それを懐に戻すのだ。今なら、我も穏便に済ませよう」

 しかし、ライドウは我の説得には耳を貸さず、学帽を目深に被り直し、視線を合わせようとしない。
 くっ……! どうしてもやるつもりか。だが、我とてタダでやられるわけにはいかぬ。存分に受けて立とう。

「…う、うぉ? く…くくぅ…!
 首からくるのか? お、おぉ…う…ぉ!」



 ・
 ・
 ・



 ルイズは仲魔から更なる忠誠を得て、称号が『ゼロ』から『新進気鋭』に変化し、『新進気鋭のルイズ』と呼ばれるようになった。



 第1話 -了-




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