あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ラスボスだった使い魔-26b


 モンモランシーが図書館の中でユーゼスに『とある評価』を下してから、数日後。
 そのユーゼスは、エレオノールと二人で自分の研究室にいた。
 『二人で』と言っても、やることは始祖ブリミルや『虚無』に関しての内容が記述された本を熟読したり、考察や推察を行ったり、それに関して互いの意見を出し合ったりするだけである。
 時折、ふとした拍子に二人の視線がかち合ったり、肩や腕や手がわずかに触れたり、妙に気まずい沈黙に支配されたり、その度にエレオノールがアワアワしたり顔を赤くしたりもしたが、特に問題はなく時間は流れていく。
 ……そう、特に問題はないはずだったのだが……。
(おかしい……)
 エレオノールと共に考えている『虚無』の魔法。異分子であると思われるアインスト。プラーナコンバーターの調整のために明日またやって来る予定のシュウ・シラカワ。そして突然出現した『ハルケギニアにとってのオーバーテクノロジー』。
 ユーゼスにとって現在考えるべきことは、それなりに多い。
 だが、それよりも気になることが存在していた。
(……なぜ、私は……)
 それは自分の心境……と言うか、『興味の対象』の変化である。
 ハルケギニアに召喚されたばかりの頃は、この世界の魔法や幻獣、自然環境などについて興味を抱いていた。いや、今でも抱いてはいるのだが。
 そして、先に挙げたような『この世界を取り巻く事象』。
 これらについては、このハルケギニアの自然を脅かし、下手をするとハルケギニアそのものを崩壊させかねない危険性を秘めているのだ。放置しておくわけには行くまい。
 つまり余計なことを考えている暇など、それほどない。
 だと言うのに。
(……なぜ、私はミス・ヴァリエールのことが気になっている?)
 理由はよく分からないが、あのタルブ戦から戻って来たあたりから、頭の片隅でエレオノールのことを考える時間が少しずつだが増えているのだ。
 最初は『同じ研究者に対する親切心や老婆心、あるいは興味のような物か』……と思っていたのだが、そう思えば思うほど違和感が生じてきた。
 クロスゲート・パラダイム・システムを使って調べても、自分とエレオノールを繋ぐ因果律が若干強くなっている以外にそれほど変化は見られない。
 ……むしろ『エレオノール』という存在が自分とハルケギニアを繋ぐ因果律になっている節もあるようだが、それについては今考えるべきではあるまい。問題は因果律ではなくて、自分の精神だ。
 しかし、軽く自己分析を行ってみても理由は分からない。
(?)
 首を傾げてみても、答えは出なかった。

 ……ここで、ユーゼス・ゴッツォという人間について少し解説しておく。
 彼のこれまでの人生は、ハッキリ言ってしまえば『研究一色』だった。 
 汚染された大気の浄化の研究、光の巨人の研究、時空間移動の研究、因果律の研究、ハルケギニアの魔法の研究……と、約68年の人生において、そのほとんどが『研究』なのである。
 ……そんなことばかりやっていては、人付き合いが上手くなる訳がない。
 辛うじて『友人』と呼べるのは、仕事上の付き合いがあった宇宙刑事ギャバンこと一条寺 烈くらいである。
 当たり前だが恋人などいたことは、無い。
 いや、そもそも誰かに『恋愛感情を抱いたこと』や『淡い好意を抱いたこと』すら、全く無い。
 『人に対する好意』など、向けたことも向けられたことも無い。
 ユーゼスはそのような感情について理解が出来ないと言うか、その類のモノに対して『それに何の意味がある?』と真顔で問いかけてしまうような男なのだ。
 当然、『人の心の機微』などは分からない。
 『自分の心の機微』すら、よく分かっていない。
 何せ『自分が地球を愛していたこと』や『自分の鏡像に自分の良心を反映させてしまった可能性』ですら、死に際になってようやく気付いたほどなのである。
 まあ、要するに。
 ユーゼス・ゴッツォは、『筋金入り』どころか『巨大な鉄骨入り』の鈍感なのだった。

 そんな微妙な空気を漂わせているユーゼスの研究室に、ノックもせずにルイズが肩を落としながら入って来る。
「……ただいま帰りました、姉さま」
「あら、ルイズ……どうしたの?」
 また自分に突っかかってくるのか、と少し身構えるエレオノールだったが、すぐに妹が沈んだ表情をしていることに気付いた。このあたりはさすがに姉妹である。
「アンリエッタ姫殿下……いえ、今はもう女王陛下だったわね。女王陛下にお呼ばれして、王宮に行ったのでしょう?」
「……はい」
「? それならどうして……」
 ルイズとアンリエッタの関係は、エレオノールも知っている。幼少の頃によく遊んでいて、今もその交友関係と言うか友情のようなものは続いているはずだったのだが……。
 そのアンリエッタと会って、なぜこんなに落ち込むのだろう? 酷いケンカでもしたのだろうか? それとも非常識な命令でも下されたのか?
 話す内容については、それなりに想像もついていたが……。
(……やっぱり、一応ユーゼスも付けておくべきだったかしら)
 王宮に呼ばれたのは『ルイズとその使い魔の男』だったのだが、ユーゼスはいかにも興味なさげに『どの道、メインは御主人様だろう。私が行く意味はそれほどない』と言って学院に残ったのである。
 ……実際、多くの人間にとってユーゼス・ゴッツォは『ルイズの付属品の、少し頭が良いらしい平民』として見られているので、エレオノールもその判断を無難と判断していた。
(それ以前に、この男とアンリエッタ女王陛下がどんな会話をするのか、ほとんど想像が出来なかったって言うのもあるにはあるんだけどね……)
 おそらくアンリエッタの言葉を徹底的にコキ下ろすか、あるいは徹底的に無関心&生返事で通すかのどちらかだと思うのだが、どちらにせよ女王相手にそんなことをやられてはたまらない。
 閑話休題。
 ともあれ、今はルイズがどのようなことを言われてきたのかを尋ねるべきだろう。
「それで、女王陛下とどんな話を?」
「はい、えっと……」
 ルイズはまず、『ビートルで飛行してアルビオンの竜騎士隊を全滅させ、艦隊を撃退したのが自分たちの仕業だとバレていた』ことを話す。
 と、ここでルイズが入室してから初めてユーゼスが口を開いた。
「妥当な状況だな」
「……どういう意味?」
 訝しげに聞くエレオノールに、平然とユーゼスは答える。
「『魔法学院に“空を飛ぶ妙なマジックアイテムのような物”がある』という情報程度なら、王宮もタルブ戦の前に掴んでいただろう。何せあれだけの外見と派手な飛行方法だ、噂はすぐに立つ。そして『その外見についての情報』も流れる」
 その言葉をまとめると、
「つまり『初手から目立ちすぎていた』ということ?」
「有り体に言えばそうだ」
 隠蔽工作や口止めを徹底しておくことは不可能に近かったから、これは仕方あるまい……とユーゼスは続ける。
 エレオノールは溜息を吐きつつ、ルイズに続きを促した。
 ルイズはどことなく気まずそうに言う。
「だけど、わたしたちに対して勲章や恩賞を与えるわけにはいかない、って……」
「……そうでしょうね」
 何せ艦隊を一瞬で壊滅させてしまうほどの力だ。それを個人が所有していると発覚してしまえば、色々と角が立ちすぎる。
 とは言え、アンリエッタの口からそれが漏れないとも限らないのだが……。

 エレオノールがそうして思考を展開していると、ユーゼスがルイズに話しかけた。
「御主人様の今後の身の振り方はどうなった? 王家や女王陛下に『虚無』を捧げる制約でもしたのか?」
 それを聞いて、エレオノールの表情が動く。
 ……最大の懸念事項はそれだ。
 ルイズならば、特に後先を考えもせず『神は姫さまをお助けするために、わたしにこの力を授けたに違いありません!』とか言って自分から兵器扱いされることを望んだとしても、何ら不思議はない。
 いや、むしろそうする可能性は極めて高いのでは……。
 ……と、そう思っていたのだが。
「…………するわけないでしょう、そんなこと」
「そうか」
 ルイズは少し悩んだ様子で、だがキッパリとユーゼスの言葉を否定した。
 そんな妹に、姉は大いに驚く。
(あのルイズが……?)
 自分の知っているルイズなら、多少悩んだとしてもアンリエッタに『虚無』を捧げるはずである。
 ルイズの性格とアンリエッタに対する敬愛から考えるに、てっきりそうするものとばかり予想していたのだが……。ついでに、そのことを叱りつけようとも思っていたのに。
(ルイズはルイズなりに成長してる、ってことかしら……)
 あのちびルイズが……などと、感慨深げに回想にひたり始めるエレオノール。
「でも、さすがに放っておくことは出来ないし、いずれ『虚無』のことを嗅ぎ付ける人間も現れるかもしれないから、取りあえずは『姫さまの直属の女官』ってことになったわ」
 言いながら、ルイズはアンリエッタの筆跡が書かれ、花押が押された羊皮紙を取り出す。
「ふむ……。これで少なくとも、トリステイン国内でのみだりな干渉は『ある程度』防げるだろうが……」
 難しい顔で考え込むユーゼス。
 『公爵家の三女』という立場に加えて『女王直属の女官』という地位まで手に入れたのだから、今のルイズにそう簡単に手は出せないのでは……とエレオノールは思い、それをユーゼスに言ってみる。
 しかしその返事は、
「甘いな」
 という、にべもない物だった。
「『力を求める人間』は、なりふり構わずそれを手に入れようとする。その力を持つ者の、人権や人格を無視してもな」
「……やけに詳しいわね」
「似たような経験があるだけだ」
(……そう言えば『神になろうとした』とか言ってたわね……)
 その途中で、そういう力を手に入れようとしたことでもあるのだろうか。
(興味はあるけど……って、あれ?)
 考えている途中で、何だかしっくり来ないことに気付く。
 そう言えば、ここ最近は自分とユーゼスがこんな風に会話をしていると、横からルイズが口を挟んできたり、ジーッと厳しい目つきで見つめてきたりしていたのだが、今回はそれが無い。
 やりやすくはあるのだが、全く無いとなると妙な寂しさを覚えてしまう。
 どうしたのかしら、とルイズを見てみると、そのルイズは何かを深く考え込んでいるようだった。
 そして、ふと気付いたように顔を上げて、持っていた鞄から袋を取り出す。
「……これ、姫さまからアンタにだって」
「?」
 何かがギッシリと詰まった袋を、ユーゼスが重そうに受け取る。
 その袋の中身をのぞき込んで見ると……。
「金か」
 金銀宝石がたっぷりと入れられていた。ざっと見積もって500エキューはあるだろう。
「せめてもの感謝の気持ち、だそうよ」
「分かった。貰えるのならば貰っておこう」
 アッサリとそれを受け取るユーゼス。
(コイツ、意外にお金に対しては執着してるのよね……。そういうものからは縁が遠いと思ってたんだけど)
 この男は別に守銭奴というわけではないのだが、金銭に対しては意外と主張が強かったりするのだ。
 何でも『手持ちの金は多すぎても問題はあるが、だからと言って少なすぎても問題がある』とか何とか。まあ、要するに『お金は大切です』ということか。
(ま、良いんだけどね。……そういう『執着』って言うのは、大事なような気もするし)
 なお、本人はほとんど自覚していないのだが、エレオノールはユーゼスのそのような『人間的な部分』を発見する度に、少しだけ嬉しくなったりしていた。

「ふう……」
 ルイズは息を吐いて、ユーゼスの対面の席に腰掛ける。
 その顔は控えめに見ても、悩みや憂いを抱えているように見えた。
 そんな主人に対して、使い魔は平坦な口調で話しかける。
「どうした御主人様、何か悩みごとか? ……『エクスプロージョン』の不発については、『精神力の不足』ということで落ち着いていたはずだが」
「……うっさいわね、それについてはいいのよ」
 タルブ戦の後、ルイズたちは『実験』という名目で小規模ながらも何度か『エクスプロージョン』を発動させようとしていたのだが、成功したのは最初の1~2回だけで、後は全て不発に終わっていた。
 この不発の原因を、ユーゼスとエレオノールの二人は『今まで蓄積していた精神力を、ほとんど使い果たしてしまったため』だと分析している。
 スクウェアメイジとて、スクウェアスペルが使用可能になるまで精神力が蓄積するのは長い期間がかかるのだ。それが伝説の『虚無』であれば、なおさらだろう。
 ちなみにその精神力が溜まるメドは、今の所ほとんど立っていない。
 ……念のため、かつて始祖ブリミルの使い魔であるガンダールヴに使われていた(と本人は言っている)デルフリンガーにも聞いてみたのだが……。

 ―――「何だよぅ、剣として使っておくれよぅ、あの宝探しの時にちょっとくらい使ってくれても良かったじゃねえかよぅ、せめてたまに話しかけておくれよぅ、“じぇっとびーとる”ってヤツを動かすときのサポートくらいは出来るよぅ……」―――

 と、愚痴とすすり泣きをするだけで全く何の役にも立たなかったので、もうこの剣の知識とやらに期待するのは止めた。
「今までの『失敗魔法』についても、仮説は立てているし……」
「……………」
 これに関しては、『普通の油を入れたランプ』と『ジェット燃料を入れたランプ(ユーゼスも少量はジェット燃料を確保していた)』という例えを使って仮説の解説を行った。
 『普通の油のランプ』に火を近付ければ、普通に火が灯って明かりとなる。
 『ジェット燃料のランプ』に火を近付ければ、爆発してランプは粉々になる。
 ここで言う『普通の油』は『通常の系統魔法のための精神力』に、『ジェット燃料』は『虚無の魔法のための精神力』、『火』は『詠唱する魔法や呪文』、更に『ランプの明かり』は『発現の仕方』へと変換される。
 つまり。

 ―――「使い方を根本から間違えていたのだな」―――

 そのユーゼスの言葉を聞いたルイズとエレオノールは『じゃあ始めから普通の系統魔法なんて成功するワケなかったんじゃないの』と肩を落とした。
 どうやら今までの苦労が水の泡になったことが、意外と堪えたらしい。
 今までさんざん努力していたルイズはともかく、エレオノールについては……ルイズがいない時に聞かされたが、彼女がアカデミーに入った理由の大部分は『妹のため』だったのだそうだ。
 もっとも、『これで“残りの方”に専念が出来るわ』などと言っていたし、問題が解決したのは確かなのだから、結果オーライというやつだろう。

 ……まあ、それらの『過去の問題』はともかくとして、今はルイズの悩みとやらである。
「適切な助言が出来るかどうかは分からないが、話を聞くだけならば私でも出来るぞ」
 その言葉を聞いたルイズは、ハッと顔を上げてユーゼスを見て……少し口ごもった後、ためらうように言葉を発した。
「……もし、大きすぎる力を使えるとして……」
 そこまで言ったところで、ルイズはセリフを途中で切る。
「?」
「…………何でもないわ、忘れて」
「ふむ。……御主人様がそう言うのであれば、そうしよう」
 相変わらず素っ気ないユーゼスの態度だったが、それにどこかホッとした様子を見せるルイズ。
 エレオノールはそんな妹に何か声をかけようとしていたが、その手を伸ばしかけたところで思い留まった。
(……口を出すのは簡単だけど……)
 おそらく妹が抱えているのは、本当の意味での『自分自身の問題』だ。横からアレコレ言って思考を矯正したりするのは簡単だろうが、それでは妹の成長には繋がるまい。
 自分に出来るのは、せいぜい見守ることと……。
(出した結論に対して、アレコレ文句を付けることくらいかしら)
 もしその結論に問題があるようだったら、引っぱたいてでもそれを叱責しなくてはならない。
 『虚無』についてはたとえ家族……父や母、ルイズがよく懐いている二番目の姉であっても易々と明かせはしない以上、道を正すのは自分の役割だ。
(……ついこの間までは、私に叱られてピーピー泣いてたのにね)
 エレオノールは11歳年下の妹の成長を、嬉しいような寂しいような気持ちで見つめる。
 ―――と同時に、ルイズが成長したってことは私は老けたのかしら、と軽くダメージを受けたりもしていたのだった。


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