あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ラスボスだった使い魔-26a


 ルイズは眠りについた意識の中で、もはやお馴染みとなった感覚を味わっていた。
 『ただ見ているだけ』だった最初の頃とは違い、今では感想を交えながら『観賞する』余裕さえある。
 そして、今回の夢でルイズが第一に抱いた感想は『疑問』だった。
(……また、この夢?)
 てっきり前の『仮面の男の敗北』で終わりだと思っていたのに、どういうことなのだろうか。
(アレの続きなのかしら?)
 しかし、死んだ後の続きなんてあるんだろうか。
 ……幽霊になった男の物語なんて、見たくはないのだが。

「40年前、ETFの攻撃によって瀕死の重傷を負った私は、皮肉にもそのETFのザラブ星人に助けられた……」

 まだら色の空、銀色の地面。
 重々しい口調で語る男と、それを聞く様々な人間たち。
(……コレって、あの『最後の戦い』の場面じゃないの)
 また同じ場面を見せようとしているのだろうか?

「そして……ETFに身を寄せた私は、光の巨人……ウルトラマンの研究を始めた」

(……だけど、覚えのない内容ね)
 似たようなことを話している場面はあったが、話している場所やそこにいる登場人物が違う。
 ということは、『今まで見ていなかった場面』なのだろう。
 思えば、あの舞台は主要な部分だけを抜き取った断片的なものだった。
 ならばコレは、『主要な部分以外の、語られなかった場面』ということになるのだろうか。

「彼らは素晴らしい……。悠久の時を生き、裁定者として宇宙に君臨している……。
 更に、深い慈愛の心と超越的な破壊力を併せ持ち……生命の謎をも解き明かしている。
 ウルトラマンは神に等しい存在だと言えよう……」
「………」

(へえ……)
 それはすごい。本当に神さまみたいだ。
 仮面の男が憧れる理由も、ちょっと分かる。
 ……その『神の力』を与えられたはずの丸い兜と黄色い服を身に付けた男は、仮面の男の言葉を厳しい顔で聞いているが。

「だが、彼らは神のように遠い存在ではない。ハヤタや郷 秀樹のように……人間と一心同体になれるのだ」
「………」
「……私はかつて地球で見た光の巨人たちに憧れた。あの素晴らしい力を欲した。
 私も……ウルトラマンになりたいと思った」

 言葉の端々から、妙な実感が込められていた。
 おそらく、その言葉は本音なのだろう。

「だが、ウルトラマンは新西暦155年の地球を境として……その姿を見せなくなった。地球を去ってから、私は彼らに会うことが出来なかった」

 仮面の男は、本当に残念そうに話す。

「……もっとも、私のように邪念を持つ人間とウルトラマンが同化しないことは分かっていたがね……」

(何なの、コイツ……?)
 自分のことを、よりによって『邪念を持つ人間』だと言い切った。
 普通、自分で自分を表現する時に、そんな言葉を使うだろうか?
 この仮面の男が分からない。
 理解の出来なさ加減では、自分の使い魔に匹敵するかもしれない。
 声もよく似てるし、もしかしたら本当に……などと考えながらも、ルイズは続けられていく『舞台』を見ていく。

「我々の力を手に入れて、何をしようと言うのだ!?」
「もちろん……この宇宙を調停するのだ」

 黄色い服の男の問いに、平坦な口調で答える仮面の男。

「お前たちのように正体を隠して他文明の危機を救うのではなく、当初から絶対者として宇宙に君臨する。
 それが……超絶的な力を持った者の定めだ!!」
「違う! 我々はあくまでも、人々の意思を尊重する!」

 仮面の男の主張を、黄色い服の男は真っ向から否定した。
 ……どうでもいいが、確かこの男はあくまで『光の巨人と一心同体になった』だけで、人格はあくまでも『黄色い服の男』であるはずなのに、なぜ完全に『光の巨人』の視点で話すのだろう。
(一心同体になりすぎて、完全に溶け合っちゃったのかしら)
 まあ、大して気にすることでもないのだが。
 ともあれ、『舞台』は続く。
 仮面の男は、苛立たしげに言葉を放っていた。

「……私や銀河連邦警察の宇宙刑事たちに不可能なことを、お前たちはアッサリと成し遂げ、無力な人々に奇跡を見せる。
 その結果、人々に与える印象は何だ?
 私がどんなに汚れた大気を浄化しようとも……宇宙刑事たちが命をかけて犯罪者を捕まえようとも……。
 ウルトラマンの存在を知った人々が思うことは一つ……」

 そして憎しみすら込めて、仮面の男は『その言葉』を口にする。
 ……他でもない、仮面の男自身が強く抱いたその思いは……。

「『ウルトラマンがいれば何とかしてくれる』」
「!! そ、それは……」

(……!)
 『舞台上』の黄色い服の男だけではなく、見ているルイズもドキリとした。
 思えば……自分も、使い魔に対してそんなことを考えていなかっただろうか?
(で、でも、わたしだって『虚無』を使えるようになったんだから……)
 そう思って何とか意思がくじけそうになるのをこらえるが、仮面の男は追及の手を緩めない。

「……お前たちは、自分たちより弱い立場にいる者を甘やかしているだけだ。偽善者面で神を気取っているだけなのだ。
 お前たちは弱者の自立を遅らせている! 宇宙はお前たちの存在など必要とはしていない!!」
「………」

 憧れていた。その存在になりたいと思った。
 だからその憧れが強い分だけ、不満も強い。
(う、うう……)
 そして、この男の声でこんなに強く責められると、何だか『力』を持っていることが、とてつもなく悪いことのような気がしてくる。

「この宇宙に必要なものは……全てを支配する者! そう……因果律を調整する者なのだ!!」



「……っ!!」
 目が覚める。
 部屋の中は真っ暗だった。
「嫌な、夢……」
 額を手で押さえながら、ルイズはかぶりを振る。
「……わたしは、わたしの力を……」
 あの夢の最後の結論はどうかと思うが、その直前までの理屈はルイズを打ちのめしていた。
 無力な人々に奇跡を見せる。
 偽善者面をして神を気取る。
 弱者を甘やかし、自立を遅らせているだけ。
 救世主など必要とはしていない。
「わたしの『虚無』も……そうなのかしら?」
 アレは、確かにすごい力だった。聞いた話だが、城下では『奇跡の光』などと呼ばれているとか。
 ……もし他の人間がアレを見たら、自分を頼ろうとするのも……まあ、分かる。立場が違ったら、自分だってそうするかもしれない。
「でも……」
 しかし、その人々の期待や願いに応えて、危機から救ったとして。
 それが本当に『助けられた人々』ためになるのか、と言うと……。
「……………」
 分からない。
 何とかしなきゃいけない状況になって、他の人には何にも出来なくて、でも自分には何とか出来る力があって。
 自分がその状況を解決するのは……いけないことなのだろうか?
「分かんないわ……」
 ……早くも考えに行き詰まったので、ベッドに体重を預ける。
「…………ユーゼスなら、分かるのかしら」
 ルイズは溜息をつきながら、ポツリとそんなことを呟く。
 でも、この問題は自分自身で解決しなければいけない。……漠然とだが、そんな気がする。
「少なくとも、アイツに相談することだけはやめよう……」
 これは自分で考えて、自分で結論を出しておかなくてはならないことだ。
 ―――しかし、もしも実際にその時が来たら自分はどうすれば……いや、どうするのだろうか?


 トリステイン魔法学院の図書館は、巨大である。
 30メイルほどもある本棚がギッシリと敷き詰められ、それが延々と続いている。
 本塔の大部分は、この図書館で占められているほどだ。
 なので、当然ながら扱っている蔵書も多岐に渡る。
 門外不出の秘伝書、子供用の簡単な文章が書かれているもの、始祖の使い魔について記されている本、……そしてポーションのレシピが書かれた書物など。
「うーん、『リラックス用』や『イライラさせる用』を応用すれば、何とかなると思うんだけど……」
 そんなポーションのレシピをじっと熟読しながら、金髪巻き毛に青い瞳の少女、モンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシは悩んでいた。
 『悩んでいた』と言っても、アルビオンとの国交や戦争、トリステインの今後の政治などについてなどではなく、ごく個人的な用件についてである。
 学生にとっては『戦争』など、あくまで遠い世界の出来事でしかないのだ。
「あー、やっぱりダメだわ。……もうこうなったら、闇ルートを使うしかないのかしら」
「随分と熱心だな、ミス・モンモランシ」
「っ!?」
 ブツブツ独り言を言っていたら、横から突然に声をかけられる。びっくりしたモンモランシーが、自分に声をかけてきた人物の正体を確かめるために視線を動かすと、そこには……。
「……って、な、何よ、ユーゼスじゃないの。いきなり話しかけないで」
「それは失礼した」
 焦った様子で自分に話しかけてきた、白衣を着た銀髪の男……ユーゼス・ゴッツォに注意を行うモンモランシー。
「図書館に来てみれば見知った顔がいたので、声をかけてみようかと思ったのだが、邪魔だったか?」
 なら他の席に移るが、とユーゼスは無表情に言う。
 モンモランシーは少し悩んだが、やがて意を決したようにユーゼスにこの場に残るように頼んだ。
 彼女が作ろうとしているポーションについて、この男から何かアドバイスをもらえるかも知れない、と考えたのだ。
 …………無論、そのポーションをこの男に使うつもりなどは全く無い。

 彼らの関係を一言で表すと、『研究仲間』である。
 最初はモンモランシーが『何で平民が、貴族しか入れない図書館にいるのよ』と突っかかり、ユーゼスは黙ってオールド・オスマンから貰った許可証を差し出しただけの関係だった。
 その後、両者は何度か図書館内で顔を合わせ、ユーゼスが水系統の書物を持っていた時に『あら、それは……』とモンモランシーが興味を引かれた。
 そしてモンモランシーが『ちょっと話をしてみるか』と気まぐれをおこし、互いの研究について説明しあう。
 結果、水系統専門のモンモランシーと、水に限らず全ての系統を網羅しているユーゼスの二人の分野が重複していたので『だったらお互いに情報を交換しよう』ということになったのだ。
 モンモランシーとしては、これまでにない視点や発想から繰り出されるユーゼスの意見や考察は、かなり新鮮だった。衝撃と言っても良いかも知れない。
 彼女は自分が作ったポーションを街で売っていたが、彼の意見を元に作成したポーションは、好調な売れ行きの人気商品だ。その点は感謝もしていた。
 ユーゼスとしても、実際に魔法を使えるメイジの意見を直接聞くことが出来るのはありがたかった。最も身近にいるメイジが魔法をほとんど使えないため、意見を聞こうにも聞けなかったのである。
 要するに、二人は利害が一致していたのだ。
「ほう、精神操作系のポーションか」
「……ええ。あなたのおかげで『感情をある程度操作する』研究は進んでるんだけど、それはあくまで『うわべだけの感情』なの。心の底からどうこう、って言うのは難しいのよ」
 モンモランシーとユーゼスは、図書館内の広めの机に向き合って座って話し始めた。
「人間の精神を、そう簡単に操れることの方が問題だと思うが」
「うっさいわね。……しかも、操れるのは喜怒哀楽とか興奮とかの『単純な感情』だけだし。悔しさとか好意とか、そういう『複雑な感情』はコントロール出来ないの。
 理論上は可能なはずなんだけど……」
 そんなモンモランシーの言葉を聞いて、ユーゼスは率直な意見を口にする。
「お前は人間を洗脳して、完全なコントロール下に置きたいのか?」
「そんなワケないでしょ。……理論上可能なんだったら、作ってみたいとは思わない?」
「確かにな」
 どうやら自分が持つ好奇心について、ユーゼスも心当たりがあるらしい。
「……しかしそこまで強力なポーションとなると、間違いなく禁制になるだろうな」
「うっ……」
 痛いところを突かれた。それを言われてしまうと何も出来なくなってしまう。
 いや、それでも好奇心はバリバリに存在をアピールして『作りたい作りたい』と心に叫ばせるのだが。
「だが、まあ……別に構わないか。作るだけで使用しなければ発覚する恐れは無いだろうし、仮に使用したとしても発覚さえしなければ罪にはならない」
「は、はあ……」
 まるで過去にそういう犯罪行為を行ったことがあるかのような口振りだ。
 ……ともあれ、自分の行為を見逃してくれるのはありがたい。おまけにアドバイスまでしてくれる。
「そこまで強力な精神操作を行うポーションは『通常の製法』や『通常の材料』では作成出来ないな。『裏』で出回っているものを手に入れるしかないだろう」
「やっぱりそうなっちゃうのね……。うーん、この際仕方ないか」
 どうしても値は張ってしまうが、元々は自分で稼いだ金だ。どう使おうが自分の勝手である。
 それじゃ、近い内にトリスタニアの『裏の魔法屋』に行ってレシピと材料を……などと考えていると、ドカッ、といきなりユーゼスが陣取っている位置の右隣に大量の本が置かれた。
「っ!?」
 びっくりしたモンモランシーがその『大量の本を置いた人物』の正体を確かめるために視線を動かすと、そこには……。
「……あーら、お邪魔だったかしら?」
 自分の髪にも負けない見事な長い金髪を微妙に揺らした眼鏡の美女、エレオノールが立っていた。

「だ、誰?」
 知らない顔がいきなり現れたので、取りあえずこの女性の知り合いらしいユーゼスに問いかけるモンモランシー。
 問われたユーゼスは、手短に互いを紹介する。
「御主人様の姉で、アカデミーの主席研究員でもあるエレオノール・アルベルティーヌ・ル・ブラン・ド・ラ・ブロワ・ド・ラ・ヴァリエールだ。
 ミス・ヴァリエール、こちらは御主人様のクラスメイトのモンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシ。たまに私の研究の相談に乗ってもらっている」
「ふぅん、モンモランシ家ねえ? 確か水の精霊の機嫌を損ねて、領地の干拓に失敗した落ち目の家だったかしら?」
「うっ……」
 モンモランシーを威圧するような視線を向けるエレオノール。
(な、なんでわたしに対してこんなに高圧的なのかしら……)
 『ルイズの姉』というだけで性格については大まかな推察が出来るが、それにしたって初対面の出会い頭にこの対応は無いのではないだろうか。
 そんな風にエレオノールに圧倒されていると、横から平然とユーゼスが口を挟んだ。
「ところで、わざわざ図書館に来るとは何の用だ?」
「な、『何の用』……!? ひ、人がせっかく、アカデミーから始祖ブリミルや『虚無』について書かれた文献を持って来たって言うのに……!」
「ふむ。……ご苦労なことだな」
 ユーゼスはチラリとモンモランシーを見て、少し考える素振りを見せた後に言う。
 そのユーゼスの視線の動きにエレオノールはビキッと表情を引きつらせたが、一瞬後には何かに納得が行ったかのような顔になって落ち着いた。
「……ああ、そうね。これは『私の個人的な研究』だから、後であなたの研究室で話しましょう」
「了解した。私も『始祖が使ったと伝えられている系統』については興味があるが、このように人が大勢いる図書館で大っぴらに話す内容ではないからな」
「?」
 そんな二人のやりとりに首を傾げるモンモランシー。
 二人で一緒に伝説の『虚無』の系統を研究していることは何となく分かるのだが、それは別に図書館でも出来るのではなかろうか。
 ますます首を傾げるが、それに構わずエレオノールはユーゼスの右隣に座る。
 しかし……。
(……何なのかしら、あれ?)
 ユーゼスとエレオノールの位置関係は、まさに『つかず離れず』の微妙な距離だった。
 近いと言うほど近くもなければ、遠いと言うほど遠くもない。
 と言うか、明らかに『もうちょっと近付きたい』、『でも近付けない』という2つの真逆の空気がエレオノールから同時に発せられているのだが……。
「……………」
 しかも、そのエレオノールは顔を少し赤くしながら横目でじっとユーゼスを見て、何やらヤキモキしているご様子である。
 表情をよく観察すれば、その顔は『何で私はこんなに悩んでるのに、あなたはそんなに平然としてるのよ』と自分の心境をアピールしていた。分かりやすい女性だ。
(し、しかもユーゼスはそれに全然気付いてないみたいだし……)
 いや、『視線』とか『自分に何らかの感情が向けられている』ことに気付いているようではある。たまに『ん?』とか言ってエレオノールを見たりするし。
 エレオノールは目が合った瞬間に恥ずかしそうに顔を伏せたりするが、それはこの場では置いといて。
 ……そんな風に『色々と向けられていること自体』には気付いているようなのだが、『それに込められた意味』には全然気付いていないようなのである。
(そう言えばコイツと話してて、たまに『人付き合いが苦手』とか『人の気持ちをほとんど察してない』とか思うこともあるけど……うーん……)
 それにしたって、こんなバレバレな態度に気付かないなんてことがあるかなぁ。
 『鈍感』とか『他人に無関心』とかのレベルを超えてるような気がする。
(コイツって人間がよく分かんないわ……)
 それは、ユーゼスに会ったハルケギニアの人間のほとんどが抱く感想であった。

 と、悠長にユーゼスとエレオノールについて考えている場合ではない。
 自分がやろうとしていることは、禁制の重罪行為だ。
 ユーゼスはたまたま『別に構わない』という意見の持ち主だったが、エレオノールがそうだとは限らない。……むしろ、普通はそうでない可能性の方が圧倒的に高い。
(……とっととこの場から退散しよう……)
 下手に自分に話が振られた場合にうまく言い逃れが出来ないかもしれないので、手早く離れることにする。今後の指針のようなものは決定しているのだから、この場に留まる理由もあまりない。
 そして手書きのメモや本棚から持って来た本などをテキパキとまとめ、エレオノールから遠ざかろうとした瞬間、ドカッ、といきなりユーゼスが陣取っている位置の左隣の席に腰掛ける人物が現れた。
「っ!? ……こ、今度は誰!?」
 ドキッとしたモンモランシーがその『ユーゼスの左隣に座った人物』の正体を確かめるために視線を動かすと、そこには……。
「……御主人様を放っておいて何をやってるのかしら、アンタは?」
 桃色の長髪をザワザワと揺らした美少女、ルイズがいた。
「ル、ルイズ?」
 ユーゼスの右隣に座るエレオノールに対抗するように、でーん、とユーゼスの左隣に座るルイズ。
 そんな妹に、姉は強い口調で告げた。
「…………ルイズ。私たちは今、あなたのために『二人で』『色々と』『あなたには難しい研究の話を』しているの。あなたは部屋の中で黙って一人で待ってなさい」
 随分と高圧的な物言いだったが、それにルイズは反論する。
「……ユーゼスはわたしの使い魔ですわ、エレオノール姉さま。使い魔は主人と四六時中一緒にいるものでしょう? ……『使い魔の監督はメイジの初歩』とおっしゃっていたのは、どこのどなたでしたっけ?」
 そのまま真ん中のユーゼスを挟んで睨み合う、ヴァリエール姉妹。
(す、凄い……)
 何が凄いって、挟まれているユーゼスが平然としているのが凄い。
 普通、ああいう場面ではアワアワするとか、二人をなだめようとするとか、言い訳するとか、逃げようとするとかしそうなものなのに。ギーシュみたいに。
「そう? じゃあ、あなたは義務感でユーゼスと一緒にいるのね、知らなかったわ」
「姉さまだって、研究のため『だけ』が目的でユーゼスと話をしていたなんて、全く存じ上げませんでしたわ」
「……………」
(だから、どーして平然と本なんか読んでるのよー!?)
 当事者であるユーゼスより、傍観者的な立場を取っているはずのモンモランシーの方が危機感を覚えている。何だ、この状況は。
「……ふむ」
 そんな感じにモンモランシーが冷や汗を浮かべていると、ユーゼスがパタンと読んでいる本を閉じて立ち上がった。
(つ、ついに行動を起こすのね!?)
 期待を込めた目で銀髪の男を見る、金髪巻き毛の少女。
 だがその銀髪の男は、
「では、3人揃ったのだし私の研究室に移動するか」
 そんなことを言い放った。
「…………」「…………」
 ヴァリエール姉妹は、2人揃って鳶色の瞳でじぃ~~っとユーゼス・ゴッツォを見る。
「どうした? 遊んでいないで早く行くぞ」
「………………そうね」
「分かったわ…………」
 盛大に溜息を吐いて、エレオノールとルイズは席を立った。
 エレオノールは持って来た本をドサッとユーゼスに持たせてズンズンと前に進み、ルイズはエレオノールの後ろに付いていく。
 二人は共通して、苛立ちと呆れと脱力感をにじませていた。
「それでは、いずれまた会おう。ミス・モンモランシ」
「え、ええ」
 重い本を持っているせいか、フラつきながら歩いていくユーゼス。何とも頼りない姿である。
「まあ、その人の良さなんて、分かる人にしか分からないものらしいけど……」
 あの男の『人間的な良さ』は自分には分からないが……少なくとも、これだけは断言が出来るだろう。
「―――アイツ、頭は良いんだけど馬鹿ね」



 アルビオンの首都であるロンディニウムの南側に、ハヴィランド宮殿という建築物がある。
 『宮殿』の名が示す通り、国王が済む建築物だ。
 よってその中の一室に、神聖アルビオン共和国の皇帝であるオリヴァー・クロムウェルと、その付き人という名目の小太りな男がいるのは当然のことである。
 だが……。
「ワルドとかいう奴が死んだらしいな」
「……は、はい。優秀な、優秀なはずの男だったのですが……」
 『皇帝』であるはずのクロムウェルは立ったまま平身低頭で恐縮しており、逆に『付き人の男』が椅子に座ってふんぞり返っているという異常な事態が、そこには展開されていた。
 一体どちらが皇帝でどちらが付き人なのか、分からなくなってしまう図式である。
「フン、元々『こちらの人間』に対しては、あまり期待もしていなかったがな」
「しかし、ミスタ……、ミスタ・デブデダビデ。我が軍の人材不足は深刻です。元よりレコン・キスタが決起した際に優秀な将官や仕官は処刑してしまい、残った熟練者もタルブで……」
「……確かに、人材不足は問題だな」
 ある程度以上の規模を持つ組織にとって、それは十分に致命傷となり得る。
 加えてこの男がもたらした『新兵器の数々』も大した戦果を上げられはしなかったため、アルビオン軍全体の士気すら危ぶまれる状態にあった。
 その問題性を十分に理解しながら、デブデダビデと呼ばれた男はボリボリと頭を掻きながらこう言い放つ。
「だが、それがどうした?」
「なっ……!?」
 目の前の男の発言が信じられず、思わず目を見開いて驚くクロムウェル。
 そんな皇帝をさも興味がなさそうに見ながら、デブデダビデは続ける。
「まあ、俺のツテを使えば人材はある程度だが確保も出来るだろう。俺の『同類』は他にもいる」
「な、ならばその方々を……!」
「しかしそいつらは『別の場所』を担当しているんでな。こちらに回すことは出来ない」
 ……確か、エルフとかいう連中の中の一人が『主』の召喚主に接触してきたので、その召喚主の護衛と言うか付き人のようなことをやっているのが1体。
 そして召喚主の出身地の地中深くで眠っているのが1体。……まあ、アレの場合は『新型のガーゴイルだ』とでも言えば通用するような気もするのだが。
「何故なのです!? このままでは我が軍はガタガタに……!」
「―――そんなことは、今更お前に言われるまでもない」
 デブデダビデは殺気を込めて、ギロリとクロムウェルを睨みつける。
 その視線をまともに受けたクロムウェルはガタガタと震えて冷や汗を流しながらも、どうにか言葉を絞り出して自軍の不安材料を述べていった。
「そ、それにタルブで発生したという『巨大な光の玉』は一体……!? 未知の魔法、もしや本当に『虚無』なのですか!!?」
「知るか」
 出自不明の小太りな男は、すがりつくアルビオン共和国皇帝をアッサリと突き放す。
「―――いいか、お前の役割をもう一度だけ教えてやる。『このハルケギニアを混乱させる』、これだけだ。単純だろう?」
「うぅ、し、しかし……」
「お前はただ、『我が神』のために動いていれば良いんだよ。余計なことなど考えず、壊れたようにな」
 かなり酷薄な言い分だったが、クロムウェルはそのデブデダビデのセリフの中に一つの光明を見た気がした。
「『我が神』……おお、『あのお方』ですな! そうだ、我々の後ろには『あのお方』が付いていたのだ!! イザとなれば二国でトリステインとゲルマニアを迎え撃てば良い!!
 ……いや、連中もまさかガリアが敵に回るとは思っていまい! その虚を突いて背後から攻撃を行ってもらえば……!!」
「……………」
 興奮するクロムウェルを、デブデダビデは冷ややかな視線で見つめていた。
 皇帝の勝手な思い込みを、付き人であるはずの男は否定も肯定もしない。
(……フン、まずはあの死体を使ってみるか)
 ただ、更なる混乱を……『神』の糧となる負の想念を引き起こすためには、どのような手段が最も効果的なのかだけを考えていた。


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