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毒の爪の使い魔-27


アンリエッタからの依頼を受けた翌朝――

朝靄の中、ジャンガ、ルイズ、ギーシュ、キュルケの四人は馬に鞍を付けながら出発の準備をしていた。
キュルケはあまり馬に乗る事は無いらしいが、苦手と言うわけでもないらしい。
その事を指摘したルイズへ逆に、魔法の成功ゼロよりはマシ、と言ってからかう位だから、問題は無いだろう。

「ねぇ、ジャンガ?」
キュルケとの口喧嘩が一段落したルイズはジャンガに尋ねる。
馬の鞍に荷物を括り付けているジャンガは顔を上げずに答える。
「何だ?」
「何で馬を使うの? あんただったら普通に走るだけで十分だと思うけど?」
荷物を括り付け終えたジャンガは、ため息を一つ吐く。
「…別に。ただ、夕べの怪我が治りきってねェから本調子じゃねェだけだ…」
「そう…」
それだけ言うと、ルイズは右手に目を落とす。
薬指にはアンリエッタから渡された水のルビーが嵌っていた。
それを確認し、ポケットの中に入れていた物を取り出す。
青っぽい色をしたそれは水のルビーと共にアンリエッタに渡された物。
ジャンガが”元居た世界”に在った物。

「ヒーローメダル…か」



――昨夜の事



ジャンガの言葉に、その場に居た一同は唖然とした。
「”俺の居た世界”…って、どういう事?」
ルイズは思わず聞き返していた。
ああ…そうか、とジャンガは呟く。
「まァ…別に隠す事じゃねェし……タバサ嬢ちゃんにも話してるしよ」
そうしてジャンガは、自分が別の世界からルイズに召喚された事を簡単に説明する。
話の内容にルイズ達は驚いた。
「あなたが別の世界から来たなんて…」
「信じ難い話ね…」
モンモランシーもキュルケも流石に唸る。
だが、ルイズは不思議と納得できていた。
「…なるほど。それなら、前のあんたの話も全部納得が行くわね」
「前の?」
「あんたが目を覚ました時に、月がどうこう言っていた話よ」
「ああ…」
ジャンガは自分が召喚されて目を覚ました時の事を思い返した。
あの時は全く相手にされなかったが、『破壊の箱』や彼女自身が見た”夢”が、その証拠となっている。
「まぁ、それはそれでいいとするわ。で、本題なんだけど…」
「”これ”の事だろ?」
ジャンガは爪に乗っけた物=ヒーローメダルを見せた。
頷くルイズ。
「そう…、あんたの世界の物だって言うけど…どう言う物なのよ?」
ジャンガはヒーローメダルに視線を落とす。

「こいつはヒーローメダルって言ってな……俺の世界じゃ然程珍しくない代物だ」
その言葉にアンリエッタは口元に手を沿え、驚きの声を上げる。
「そうなのですか?」
「ああ。ヒーローを目指す者が手にする”ヒーローたる証”。
まァ…お前等に解り易く例えるなら、貴族の証として身に着けるマントみたいなもんだ」
ギーシュはジャンガの話を聞きながらメダルを覗き込んだ。
「これがぼく達貴族のマントと同じ物か」
「それがどう言う物かは解ったわ。けど…ヒーローってのは何なの?」
今度はキュルケが尋ねる。
「まァ……色々あるな」
それにモンモランシーが呆れた表情で言った。
「何よそれ? 全然説明になってないじゃない」
「しょうがねェだろうが? ヒーローメダルを持ってる奴は様々なんだよ。
純粋な人助けをしている奴も居れば、ただの賞金稼ぎも居るし、汚い仕事を受け持っている奴も居る。
更に付け加えればな、姫嬢ちゃんに似ていると言った悪党もヒーローメダルを持ってたさ」
全員開いた口が塞がらなかった。――あまりにも節操が無さ過ぎる。
「…そう。そんなに庶民的な物なんだ…これって」
ようやく、そう言ったルイズはヒーローメダルを見る。
ジャンガは爪で頬を掻く。
「ああ、そうそう……それとな」
「何?」
ジャンガの声にルイズは顔を上げる。
「そのヒーローメダルってのはな、持ち主の……その、なんて言うんだ。
心構えと言うか…態度と言うか…、そいつの”ヒーローの資質”って言えばいいのか?
そいつに応じて色が変わっていくんだ。種類は全部で四つ」
「ふぅ~ん…それは凄いわね。…で?」
「で…って、何だよ?」
「それはどうなの?」
ヒーローメダルを指し示す。
ジャンガは爪で耳の穴を穿りながら言った。
「これは『ブランクメダル』……ヒーローメダルの中で”最下級”だ」

「な!?」
ルイズは大口を開けて絶句する。
無理も無い。まさか、一国の王女が持つメダルが”一番最低”などと誰が予想できよう?
そこへ追い討ちをかけるかのようなジャンガの言葉が聞こえた。
「ちなみに、先程話に出た悪党の持つメダルは金色の『ゴールドメダル』……ヒーローメダルの中で”最高位”だ」
「はぁぁぁーーー!!?」
殆ど悲鳴に近い叫び声が上がった。
これまた無理も無い。一国の王女よりも悪党が上…、それも”最低”と”最高”という差の開き。
――納得が行く訳が無かった。
ルイズはジャンガに詰め寄った。
「ちょっと、何かの間違いでしょう!? その悪党ってのがどういう奴か解らないけど、
悪党が最高で姫様が最低なんてありえないわ! 絶対にありえない!」
ルイズの猛烈な勢いに飲まれ、他の皆は何も言えない。
対してジャンガは涼しい顔。
「事実さ」
「嘘よ!!」
「おい……お前、ヒーローメダルを何か誤解してないか?」
「え?」
ルイズは呆気に取られた。
ジャンガは話を続ける。
「ヒーローメダルはそいつのヒーローの資質を表すんだよ。そして、ヒーローに善も悪も無い。
ヒーローってのは……テメェの中の信じる物、信じる事を真っ直ぐに貫ける奴を言うんだよ。つまり……」
言いながら、ルイズの背後のアンリエッタを爪で指し示す。
「その姫嬢ちゃんは、テメェの中のいろんな物を信じ切れてない、貫き通せてないって事だ。
ま、俺の知ってるあの悪党は、テメェの中の正義を信じて疑わなかった…。
やってる事自体はテメェらの目には不愉快に映るだろうが……その心はヒーローのそれだ。
少なくとも、テメェの尻拭いを他人任せにする”今の”姫嬢ちゃんじゃ…足元にも及ばねェな」
ルイズは悔しさに拳を強く握り締めた。
と、アンリエッタが声を掛けた。
「いいのですよ、ルイズ」
「姫さま…?」
ルイズはアンリエッタへ振り返る。
アンリエッタは静かに頷く。
「まだまだなのは、わたくし自身が一番良く解っています。
使い魔さんの居た世界はどういった所か解りませんが…、きっと意志の強い人達が大勢居るのでしょうね…」
「…まァな」
「わたくしもその世界の生まれならば…強くなれていたでしょうか?」
「知るかよ。大体、強くなるも弱くなるも、結局はテメェ次第だ」
「ですね…」
そこで会話が一旦やんだ。
暫しの沈黙が流れる。
アンリエッタが口を開く。
「わたくしも……自分の意思を貫けるように、もうこのような過ちを犯さないように。
そのメダルがあなたの言う金色の輝きを持つように…」
そこで一旦言葉を区切る。
「”今の”わたくしよりも強くなりましょう」
そう言って、アンリエッタはジャンガに向かって微笑んだ。
その顔にジャンガは軽く鼻を鳴らす。
(…解ってるじゃねェか)
――自分の言った”今の”と言う台詞が暗に示す”これから変わっていけ”と言う意味を一瞬で理解した。
こいつは道を間違えなければ化ける…、直感的にそう思った。

アンリエッタはルイズ達に改めて手紙の件を頼むと、ルイズの部屋から去って行った。



――そして、現在に至る。

ルイズはジャンガに尋ねた。
「ねぇ、今更聞くんだけど…」
「ンだ?」
「これって姫さまの物なのに、わたしが持ってても平気なの?」
「そんな事か。別に平気じゃねェか? 前に別の奴が持っていたゴールドが、
他の奴に渡ってブロンズになった事があるがよ…」
「だめじゃないの!?」
叫ぶルイズ。
ジャンガは大きくため息を吐く。
「前の所有者はその時くたばってたんだよ。だから、本来の持ち主が死なない限り別に平気だろ?」
「…不吉な事言わないでよ」
ルイズはメダルを暫く眺め、ポケットへと戻した。
そしてため息を一つ吐き、辺りを見渡す。
「護衛の人って……そろそろ来てもいいと思うけど?」
そうルイズが呟いた時だった。
ルイズの前方の地面が、唐突にモコモコと盛り上がり始める。
それに驚いたルイズは思わず声を上げた。
「な、何っ!?」
盛り上がった土を跳ね除け、茶色い生き物が顔を出した。
果たして、それはギーシュの使い魔のビッグモール=ヴェルダンデだった。
「ヴェルダンデ!」
ギーシュは己が愛する使い魔の出現に声を上げ、馬を下りるや駆け寄って抱き付き、頬擦りをする。
「ああ、ぼくの可愛いヴェルダンデ! ぼくがまた危険な目に遭うかどうか心配で出てきてくれたんだね。
ああ……きみはなんて優しいんだ。そんな君を召喚できたぼくは幸せ者だよ」
ヴェルダンデに惜しみない愛情を注ぎつつ、ギーシュは頬擦りを続ける。
その様子を冷めた表情で見つめる、ジャンガ、ルイズ、キュルケ。
ルイズは馬を下り、ギーシュへと近づく。
「あのね…言っておくけど、ビッグモールなんて連れていけないわよ?」
ルイズがそう言った時である。
ふいに、ヴェルダンデが鼻をヒクヒクと動かしながらギーシュの下を離れる。
そして、何かの匂いを嗅ぐかのように鼻を動かしながら、ルイズの下へと歩み寄る。
「な、なによ?」
近づいてくる巨大モグラに何かを感じ、足が自然と後ろへ下がる。
ヴェルダンデはルイズを見上げる。
そのまま暫く鼻をヒクヒクと動かしていたが…、徐にルイズに飛び掛った。
「きゃあ!?」
自分の身長と同程度の大きさのモグラに押し倒され、ルイズは悲鳴を上げた。
必死に手足をバタつかせ、ヴェルダンデを跳ね除けようとするが、重量がある為に上手くいかない。
ヴェルダンデは頻りに鼻をルイズの右手に――いや、ルイズの薬指に嵌る指輪に擦り付けている。
それに気が付いたキュルケがギーシュに尋ねた。
「ひょっとして、あなたの使い魔は宝石が好きなの?」
ギーシュは頷く。
「ああ、ヴェルダンデは宝石には目が無いんだ。しかも、貴重な物には特にね」
その言葉にルイズが叫んだ。
「冗談でしょ!? 姫さまから渡された大切な指輪をモグラなんかに食べられてたまるもんですか!!」
そんなふうに叫ぶルイズと彼女を押し倒すヴェルダンデを、ジャンガは静かに見つめる。
(まるでマイドゥみてェなモグラだな…。どっちかと言や、ホルドルが近いんだがよ…)

ジャンガがそんな事を考えた時だった。
一陣の風が巻き起こったかと思うと、ルイズの上に乗っかる巨大モグラを吹き飛ばした。
ヴェルダンデは暫く地面を転がり、目を回して仰向けに倒れた。
そんな使い魔を見て、ギーシュは目を見開いた。
「ヴェルダンデ!?」
今のは風の魔法だった…、つまり近くにメイジが居る。
ギーシュは造花の杖を手に取り、周囲を見渡す。
「誰だ!?」
ギーシュは朝靄に向かって叫ぶ。
と、ジャンガは何かの気配を感じ、空を見上げる。
朝靄に覆われた空に何かの影が浮かび上がったのが見えた。
「上だ」
「何?」
ジャンガの声にギーシュだけでなく、キュルケとルイズも空を見上げる。
空に浮かび上がった影は此方へと向かって降下してきているようだった。
低い唸り声のような物も聞こえる。
影は地面に近づくにつれて徐々にハッキリと姿を現していく。
地面に降り立ったそれは、鷲の頭と翼と上半身、獅子の下半身を持った幻獣グリフォンだった。
そして、グリフォンの上には一人の羽帽子を被った男が跨っている。
おそらくは、先程の風の魔法を唱えたメイジだろう。
ギーシュは自分の使い魔を吹き飛ばした男に杖を突き付け、怒りも露に叫ぶ。
「貴様、何者だ!?」
男はなんら臆する事も無く、グリフォンから華麗に降りると彼等の方へと静かな足取りで歩み寄る。
足を止めると帽子のつばを持ち上げ、顔を見せた。
男が顔を見せるや、ルイズとギーシュは驚きに目を見開き、キュルケは顔を赤らめ、ジャンガは特に反応無し。
「アンリエッタ様から君達に同行するよう命じられた、グリフォン隊隊長のワルドだ」

「あなたは!?」
ルイズは驚きの声を上げる。
その彼女にワルドと名乗った男は静かに歩み寄り、微笑んだ。
「驚かせてすまない。僕の婚約者が襲われているのを見ていられなくてね」
その言葉を聞き、ギーシュはあんぐりと口を開け、キュルケはつまらなそうな顔をし、ジャンガはやっぱり無反応。
そんな三人を他所に、ワルドはルイズに近づくとその身体を優しく抱き上げた。
「あ…」
突然の事にルイズは頬を恥ずかしさに染める。
「相変わらず軽いなきみは。まるで羽の様だ」
「いやですわ…ワルド様」
「恥ずかしがる事は無いじゃないか?」

そんな二人をキュルケはつまらなそうに見つめる。
「ふん」
「…羨ましいのかよ、テメェ? あんだけ、男引っ掛けておいてよ?」
ジャンガの声にキュルケはチラリと横目で一瞥し、直ぐに視線を戻す。
「少し違うわ。…ヴァリエールにイイ男がなびいているのが気に食わないのよ」
「嫉妬とどこが違うんだよ?」
「あたしとあのこは家が敵同士だしね。それを抜きにしても、あたしは個人的にあのこが嫌いだし。
だから何においても負けたくないの。…それだけよ」
「そうかよ…」
そんなやりとりをしていると、ワルドの声が聞こえてきた。
「さて諸君、出撃だ」
ワルドの言葉にキュルケとギーシュは馬の下へと戻った。
ジャンガも舌打ちをしつつ、渋々馬に戻った。



晴れ渡った青空の下、ワルドのグリフォンを先頭に一行は緩々と旅路を行く。

「ふん…」
ジャンガはつまらなさそうに鼻を鳴らす。
チラリと隣を見る。
「ああ…、あの魔法衛士隊の隊長たるワルド子爵が、直々にぼく達の護衛を務めてくれるなんて…感激だ」
ギーシュはさっきからこんな調子だった。
今度は反対側を見る。
キュルケはジャンガと大差無い表情を浮かべている。
まぁ、無理も無いかもしれない。自分には愛を語らう相手が居ないのに、
その宿敵が今、見せ付けるかの如く、愛(?)を語り合っているのだから。
視線を前に戻す。
相変わらず、ルイズはワルドと談笑をしながら微笑んでいた。――心底嬉しそうだ。
(あのクソガキ……任務半ば忘れてんじゃねェか?)
そんな事を考えていると、ルイズと目が合った。
だが、直ぐにルイズは気恥ずかしそうに目を逸らす。

暫くすると、山の中へと差し掛かった。
ジャンガはある程度の予測を立ててはいたが、一応ギーシュに尋ねる。
「オイ、港なのに山ってのはどういう事だ?」
「ん? きみは知らないのか――と、知らなくても無理はないか」
ギーシュはジャンガがこの世界以外の出身だと言う事を思い出した。
「アルビオンは浮遊大陸なのさ」
「ほゥ?」
「だから、空を飛んでいくんだ」
「飛行機械があるのか?」
「ひこうきかい?」
「…違うのか?」
「きみの世界の物じゃないよ。空を飛ぶが、あくまで船だ」
「空飛ぶ船か…なるほどね」
ジャンガは納得し、視線を前に戻した――その時だ。

赤々と燃える松明が崖の上から次々に投げ込まれる。
訓練を受けていない馬は松明に驚き、ギーシュとキュルケは地面に放り出される。
ジャンガは馬から飛び降り地面に着地すると、崖の上を見上げた。
と、夜風を切り裂いて何本もの矢が飛んで来た。
「奇襲だ!」
ジャンガは叫ぶ。
その声にギーシュとキュルケは起き上がり、急いでその場を飛び退く。
飛んできた弓矢が二人の居た場所に次々と突き刺さる。
ジャンガは崖の上をギロリと睨み付ける。
「ざけやがって…」
呟きながら腕を大きく振るう。
カッターが飛び、崖の上の襲撃者を八つ裂きにする――筈だった。
「…何?」
出なかった…、いや…僅かにそよ風のような物は起きたが、いつものようなカッターは出なかった。
どういう事だ…などと悩んでいる暇は与えられない。
崖の上から次から次へと弓矢が雨あられと降り注いでくる。
「クソッ」
悠長に悩んでいる暇は無い。
と、突然小型の竜巻が起こり、矢を明後日の方向へと吹き飛ばす。
見れば、グリフォンに跨ったワルドが杖を掲げていた。
「大丈夫か!?」
ジャンガは眉間に皺を寄せる。
「ああ…」
そう呟くと、崖の上で爆発が起きた。
見ればキュルケが次々に崖の上に向けて『ファイヤーボール』を撃っていた。
ギーシュもワルキューレを出して応戦している。
ジャンガも崖を駆け上ろうとした。
だが、いつもの様な動きができない。
イライラしながら、爪を崖に突き立て、強引に上る。
崖の上には数人の男達がいた。
「舐めた真似してくれるじゃねェかよ…テメェら。覚悟は出来てるか?」
ギロリと睨み付ける。
男達は震え上がったが、直ぐに弓矢を構え、矢を射かけた。
ジャンガはそれをかわしていく…が、全てをかわしきれない。一本を腕に受け、一本が頬を掠める。
「チィッ!」
舌打しながら、ジャンガは両の爪を振るった。
胸を切り裂かれた男達が次々に宙を舞い、崖下へと血の糸を引きながら落ちていく。
それを見つめながらジャンガは忌々しげに鼻を鳴らした。
「相棒、大丈夫か?」
デルフリンガーの声に、ジャンガは腕に刺さった矢を抜きながら吐き捨てるように呟く。
「別にどうでもねェ」
そんなジャンガにデルフリンガーは言った。
「相棒……本当に大丈夫なのかい?」
「だから、どうでもねェと…」
「怪我じゃなくて、体調の事だよ」
「…フン」
再度忌々しそうに鼻を鳴らし、デルフリンガーを鞘の中に押しこんだ。

崖を下りるとキュルケの火の魔法で焼かれ、ギーシュのゴーレムに殴り飛ばされ、
ワルドの風の魔法に吹き飛ばされ、ジャンガの爪に切りつけられた男達が呻き声を上げていた。
ギーシュとキュルケは男達の尋問を行っているようだ。
その様子をルイズとワルドは少し離れた所で見守っている。
ジャンガは二人の下へと歩み寄る。
「終わったみたいだな…」
「あ、ジャンガ?」
「そちらも無事で何よりだな」
二人はそれぞれ声を掛けてくる。ジャンガは顔を顰めた。
ルイズはともかく、ワルドの声は何故か癪に障る。
何と言えばいいのだろう……? 何か値踏みするような…嘲りに近いような感じがする、嫌~な声だ。
先程の無様な戦いも連れ立って、ジャンガは眉間の皺を深くする。
「ん? 怪我をしているじゃないか……大丈夫か?」
ワルドが心配そうな様子で声を掛ける。
――それが心からの物でない事がジャンガには解った。
忌々しげに鼻を鳴らす。
「…別に。テメェに心配される筋合いは無ェ…」
「ちょっと、ジャンガ! ワルド様に失礼よ!?」
ジャンガに向かって怒鳴るルイズの肩に、ワルドの手が優しく置かれる。
ルイズは手を置いた婚約者を振り返った。
ワルドはニッコリと微笑む。
「いいんだよ、ルイズ。僕は別に気にはしていない」
「で、でも…」
申し訳無さそうに俯くルイズの頭を撫でるワルド。
そこへ、ギーシュとキュルケがやってきた。
「子爵、あの連中は”ただの物取りだ”と言っています」
「メイジとかも混ざってないし、間違いないんじゃないの?」
「ふむ、なら捨て置こう」
それだけ言い、ワルドはルイズを促しながらグリフォンに跨る。
「今日は港町のラ・ロシェールに一泊し、明日の便でアルビオンに向かう」
そして、ワルドはグリフォンを走らせる。
ジャンガ達もそれぞれの馬に跨り、後に続いた。



その晩、一行はラ・ロシェールで一番上等な宿である、『女神の杵』亭に泊まる事となった。
一階の酒場で食事を取りながら、旅の疲れを癒す一行。
「それにしても、魔法が出来ないと泣いていた君が、亜人を使い魔として召喚するとはね。凄いじゃないか」
「いやだわ、ワルド様。別にそんなに凄い事ではありません」
ワルドのからかう様な言葉にルイズは恥ずかしそうに頬を染める。
そんな彼女を優しげな…それでいて、真剣な色も含んだ目で見つめる。
「いや、君は気付いていないかもしれないが…君は凄い事をしたんだよ」
「え?」
言われた事が理解できず、ルイズはキョトンとする。
ワルドは、頬杖を突いて明後日の方へ目を向けているジャンガと、食事を楽しむギーシュを交互に見比べる。

「…君達は決闘をしたそうじゃないか?」

唐突なその言葉に驚くギーシュ。
食事が喉に詰まりそうになり、必死に胸を叩く。
詰まりかけたそれを何とか飲み込み、ギーシュはワルドに振り返る。
「あ、あの、それはですね…」
慌てて取り繕うとするが、それをワルドは手で制する。
そして、特に反応を示さないジャンガを見る。
「ジャンガ君、その決闘で君は彼を簡単に打ち負かしたそうじゃないか?」
「…ああ」
ジャンガは、つまらなそうに生返事をする。
「『破壊の箱』を用いて『土くれ』のフーケを捕まえた……これも事実だね?」
「…ああ」
「じゃあ…、君が伝説の使い魔――『ガンダールヴ』だと言う事も事実だね?」

ジャンガは目だけを動かし、ギロッとワルドを鋭い視線で睨みつける。

「…良く知ってるじゃねェか?」
ワルドは臆した風も無く、話を続ける。
「立場上、色々と情報が入ってくる物でね」

一方、ルイズはワルドの言った言葉が気になっていた。
(『ガンダールヴ』……何処かで――)
脳裏に浮かぶのは、あの学院の襲撃事件。
そして、コルベール先生の誘導でジョーカーと名乗った幻獣が喋った言葉。

――その通~~り! 彼女の使い魔たるジャンガちゃんは、正しく伝説の神の左手ガンダールヴ!――

ガンダールヴ……確かにそう言っていた。
気になったルイズはワルドに尋ねた。
「あの、ワルド様? ジャンガが”伝説の使い魔”…って、どう言う事ですか?
『ガンダールヴ』って一体…どういう」
ワルドは、後で話すよ、と答えるとジャンガに向き直る。
手を組み、ジャンガを真っ直ぐに見据える。
「そこで、きみに興味が湧いてね…。是非とも、一度手合わせを願いたいのだが?」
「「「え?」」」
ルイズ、ギーシュ、キュルケの三人の声がハモる。
当然だ。今は大切な任務の最中なのに、突然何を言い出すのだろうか?
そんな三人の反応を気にするでもなく、ワルドは続ける。
「無論、無理にとは言わないが?」
「別に…構わねェゼ?」
「ちょっ、ちょっとジャンガ、止めなさいよ!?」
あっさりと返事を返すジャンガにルイズは慌てて声を掛け、そしてワルドを振り返る。
「ワルド様、今はそんな事をしてる場合じゃ…」
心配そうに声を掛けてくるルイズを振り返り、ワルドは笑顔で答える。
「大丈夫。…ちゃんと手加減はするさ」


ブチッ!


――何かが切れる音が聞こえた。
音の方へ顔を向けると、俯くようにしているジャンガの姿が在った。
見れば、肩が小刻みに震えている。
そして、聞こえてくるのは――笑い声。
「キ、キキキ…、キ…キキ、キ…」
その笑い声にルイズは二度ほど聞き覚えがあった。
一つは、ギーシュとの決闘の時にギーシュのワルキューレに殴り倒された時。
もう一つは、フーケを捕まえに言った際、フーケに『破壊の箱』を突き付けられた時。
そして、どちらの時も笑い声を上げた後は――思い出したくない。
「ジャ、ジャンガ! 待って! 落ち着いて!」
ルイズは慌ててジャンガを落ち着かせようと声を掛ける。
しかし、ジャンガの身体の振るえ、笑い声は止まらない。
「キキキ……”手加減”ねェ…。たかだか魔法使えるだけの分際で…このジャンガ様に対して”手加減”ねェ…。
キキキ……いいねェ、実に面白い冗談だ……キキキ」
「ジャンガ! お願い!? 落ち着いて!!?」
必死にルイズは声を掛けた。しかし、願いは届かなかった。

ジャンガは立ち上がり、机の上に足を乗せる。そして、ワルドを凄まじい形相で睨みつけた。
「ざけた事ぬかしてくれるじゃねェか? このジャンガ様をあんま舐めんじゃねェよ…ヒゲヅラ!!」
「…では、手合わせをしてくれるんだね?」
「上等だ! テメェのそのスカした面、原型が無くなる位に刻んでやる! 今直ぐ表出ろ!」
叫び捲くるジャンガを、ワルドは手で制した。
「あン!?」
「今はもう時間も遅い。それに、先程の物取りの所為で互いに多少なりと疲労している。
だから、明日の朝にしようじゃないか」
「…いいゼ。今夜一晩、時間をくれてやらァ。…墓標に刻む文句でも考えときな!!」
ワルドは意味深な笑みを浮かべた。
そして、席を立つやルイズの手を取り、三人に部屋の鍵を渡し、自分達の部屋へと歩いていった。



「ケッ! 腹立たしい野郎だゼ!」
ジャンガは椅子に座り直し、テーブルの上に足を投げ出す。
そんな彼を見ながらギーシュもキュルケもため息を吐いた。
「やれやれ、まったく君は恐れ知らずというか…、礼儀知らずというか…」
「今に始まった事じゃないでしょ? こいつの無礼千万な態度は」
呆れたような表情でキュルケは言う。
その言葉にギーシュも首を縦に振る。
「まぁ…あの男が気に喰わないという意見には同意するわ」
そう言うキュルケをジャンガは横目で見る。
「ほゥ? 男好きのお前にしちゃ…ドライな意見だな?」
キュルケはつまらなそうな表情で頭を掻く。
「あの男、氷の様に冷たい眼をしていたわ。それに、人としての”暖かさ”を感じられなかったのよ」
「いい観察眼してんじゃねェか? …あの目は人の物じゃねェ。
例えるならそう……”蛇”だ。それも獲物をじわじわと少しずつ弱らせていく”毒蛇”だ。
しかも、外面は巧妙にカモフラージュしてやがるときた。
可哀想によ……あのガキ、とんだ毒蛇に目を付けられたものだゼ」
言いながら、ジャンガは二人が上がって行った階段を見つめた。
そんなジャンガにギーシュが声を掛ける。
「…なぁ、ガンダールヴとはなんだい?」
「ン? テメェも気になるのか?」
ギーシュは頷いた。
「…学院襲撃の時に、あのピエロのような幻獣も言っていたからね」
「ああ……そうだったな」
「ねぇ、何の話? 学院襲撃の時って…あたしが到着する前に何があったの?」
「…大した事ではないのだがね」
ギーシュは手短にキュルケに説明をする。
キュルケはジャンガを少し鋭さを増した視線で見つめた。
「ねぇ、あなたは何を知っているの?」
「……」
「…とりあえず、知ってる事を簡単に話してくれないかしら? それとも、隠しておく必要でもあるの?」
「キキ、確かに隠しておく必要は、特に無いからな……いいゼ」
そして、小声で知っている事を二人に話した。
ジャンガの話を聞いて、二人は揃って不思議そうな表情をした。
「あらゆる武器を使いこなす伝説の使い魔…か」
「あなたみたいなのが、そんなものになるなんてね…」
「…俺自身意外だよ」
ジャンガはグラスに注がれていたワインを一気に飲み干す。
そして席を立つや、部屋の鍵を掴む。
「先に部屋に行かせてもらうゼ」
それだけ言うと、自分の部屋へと歩いていった。



――翌朝

ジャンガとワルドは、かつて貴族達が陛下の閲兵を受けたという練兵場で、二十歩ほど離れて向かい合っている。
二人が向かい合っている場所から離れた壁際には、介添え人として呼ばれたルイズと、
見学目的でこの場に居るキュルケとギーシュの姿があった。
最早使われていない練兵場は、樽や空き箱が所々に積み上げられており、ただの物置き場と化していた。
「昔……と言っても、きみには解らないだろうが、
かのフィリップ三世の治下には、ここでよく貴族が決闘をしたものさ」
「ほゥ…」
特に無関心なジャンガはそれだけ返す。
「古き良き時代、王がまだ力を持ち、貴族達がそれに従った時代…、貴族が貴族らしかった時代…、
名誉と誇りをかけて、僕たち貴族は魔法を唱えあった。
でも、実際には下らない理由で杖を抜きあったりもした。そう…、例えば女を取り合ったりね」
ワルドの言葉にジャンガは帽子を取って、頭を掻く、
「くだらねェ…、要するにテメェの婚約者にいいカッコ見せたいだけか? テメェの器の底が知れるゼ…」
ジャンガの挑発。…しかし、ワルドは余裕を崩さない。
「では、始めるとしようか」
「文句は既に考えて、メモにでも残したか?」
「その必要は無い」
「…そうかよ」
そう言って、静かに身構えるジャンガ。
ワルドも杖を抜いた。レイピアのような形の頑丈そうな杖だ。
フェンシングのそれに似た構えを取る。

「全力で来るがいい」
「後悔するなよ、ヒゲヅラァァァーーーーー!!!」

叫ぶや、ジャンガは駆け出す。距離を詰め、爪を振り下ろす。
振り下ろされた爪をワルドは杖で難なく受け止める。
ガキンッ! と音がし、火花が飛び散った。
ジャンガは立て続けに両の爪を振るう。
それをワルドは杖で受け止め、軽やかなステップでかわす。
何度目かの振り下ろされた爪を、ワルドは杖で大きく切り払う。
「くっ!?」
体制を崩すジャンガ。
そこへ、ワルドは驚くほどの速さで突きを繰り出す。
それを何とか爪で防ぎ、ワルドへ蹴りを叩き込む。
しかし、蹴られる直前、ワルドは後方へと飛び退き、蹴りの威力と勢いを緩和する。
大したダメージを与えられなかった事にジャンガは舌打ちをした。
「なんでぇ、あいつ魔法を使わないのか?」
鞘から出たデルフリンガーがそう呟く。
ジャンガは忌々しそうに歯を噛み締める。
明らかに手を抜いた戦いだった。それで苦戦する自分にイライラする。
「なんてザマだ……クソがァァァーーーーー!!!」
怒りの叫び声を上げながら、再度ジャンガはワルドに向かって駆けた。

ワルドとジャンガの決闘を見守るルイズ達三人はジャンガの様子がおかしい事に首を捻っていた。
先ほどから見ていれば、両手の爪を馬鹿の一つ覚えみたいに振り下ろすだけだ。
あの風のカッターも分身もまるで使う気配が無い。
更に言えば、その動き自体もいつもよりも鈍っている気がする。
「どうしたのかしらね…あいつ?」
キュルケの呟きにギーシュもルイズも唸った。

暫くの間、切り結んだ二人は再び距離を取る。
しかし、荒く息を吐くジャンガに対し、ワルドは然程疲れた様子は無い。
ジャンガはギリギリと音がするくらい、先程よりも強く歯を噛み締める。
ワルドはジャンガを見据えながら静かに口を開く。
「魔法衛士隊のメイジは、ただ魔法を唱えるだけじゃないんだ。詠唱さえ、戦いに特化されている。
杖を構える仕草、突き出す動作……、杖を剣のように扱いつつ、詠唱を完成させる。軍人の基本中の基本さ」
自慢げに語る口調が気に入らない。
ジャンガは壁に向かって跳んだ。
跳躍の勢いで壁に張り付き、更に壁を蹴ってワルドに飛び掛る。
見ていてイライラするヒゲヅラに爪を突き出す。
しかし、その攻撃も難なく杖で受け止められた。
「クソ!」
「きみは素早い、流石は亜人だと言おう。…だが、本物のメイジを相手にできるレベルではない」
爪を切り払い、ジャンガの胸に突きを繰り出す。
飛び掛った勢いと突き出される勢いがぶつかり合い、ジャンガの胸を強く打つ。
激痛にジャンガは呻き声を洩らす。
地面に倒れそうになるが、何とか踏み止まる。

そこで、ワルドは攻撃に転じた。
常人には見えないようなスピードで突きを繰り出す。
ジャンガはそれを受け流すのに精一杯だ。
「デル・イル・ソル・ラ・ウィンデ……」
「!?」
ワルドが呪文を唱えている事、杖が一定の間隔を持って突き出されている事にジャンガは気付く。
「いけねぇ! 相棒!」
デルフリンガーも警告を発したが…遅かった。



次の瞬間、杖の先端から発生した空気の塊に弾き飛ばされ、ジャンガは積まれた樽の山に吹き飛んでいた。



「ガ…、ガハ…」
ジャンガは苦しそうに息を吐き出しながら身悶える。
ルイズは急いでジャンガに駆け寄った。
「ちょっ、ちょっと…大丈夫!?」
「ぐっ……クソ…が……」
ジャンガは起き上がろうとするが、痛みでなかなか起き上がれない。
そこへ、ワルドが歩み寄ってきた。
ありったけの怒りを含ませた視線をワルドに叩きつける。
だが、ワルドは涼しい顔だ。
「解ったかいルイズ? 彼ではきみを守れない」
「だって、ジャンガはまだ怪我が全部治っていないのよ? 全力が出せないだけよ。
それに、あなたは魔法衛士隊の隊長じゃない? 適わないのも無理ないわよ」
「ならば、これから先の戦いでもそう説明するのかね? ”わたし達は弱いです。どうか杖を収めてください”と」
「それは……」
ワルドの言葉にルイズは何も言えない。
ワルドはそんなルイズの腕を掴む。
「あ?」
「今は一人にしておこう…。それが彼の為だ」
ルイズはジャンガを一度振り返る。
すると、キュルケとギーシュが自分に向かって、軽くウィンクを返していた。
それを見て、ルイズは軽く頷き返すと、ワルドに連れられて去っていった。

キュルケとギーシュは倒れたジャンガに近づき、声を掛ける。
「ねぇ、あなた…どうして本気を出さなかったの?」
「やっぱり、ルイズの言ったとおり…怪我が治りきっていないのが原因かい?」
ジャンガはそんな二人に返事をせず、ただ荒く息を吐いているだけだ。
やがて、徐に左手を上げると袖を捲くる。
そして手の甲を二人に見せた。
二人は顔を見合わせ、ジャンガに向き直る。
「手なんか見せて、どうしたんだい?」
「…何も無いだろう?」
ギーシュの問いかけを聞き、ジャンガはそう問いかける。
ギーシュとキュルケはジャンガの手を見る。
爪が直接生えた珍しい形の手だという事意外は変わりは無い。
「何も無いが?」
「それがなんだって言うの?」
「…ガンダールヴは、左手にルーンが現れるんだよ」
その言葉に二人は再び顔を見合わせる。
「ルーンなんか無いだろう?」
「ああ…無いが」
「…どういう事よ?」

二人の問いには答えず、ジャンガは笑った。
左腕を下ろし、右腕で顔を覆って笑った。笑いながら…泣いた。
「キキキキ……ルーンが消えた途端にこのザマたァな…。何だってんだよ…、何なんだよ?
クソが……、クソが……、…キキキキ……キキキキキ…」
ジャンガは笑って泣いた。悔し涙を流しながら、自棄になって笑った。

そんなジャンガをキュルケとギーシュは暫く呆然と見つめ続けた。


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