あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロの黒魔道士-29


「せいっ!」
「わぁっ!?」
デルフとアニエス先生の剣が交叉する。
ギーシュのゴーレムや、ワルドの杖とは全然違う、重みのある一撃。
手にビリビリっとした衝撃が伝わる。
「ほぅ?多少は心得があるのか?」
「え……う、うん、まぁ、その、心得、かなぁ?」
ガンダールヴの力って、心得とかに入るのかなぁ?
「ふむ、なかなか悪くない反応だ、では、こう動けば――どう出る!」
「わたた!?」
重心をずらす、一歩を踏みこむ、剣をまっすぐ突き立てる。
それらを一度の動きで全部やってしまうアニエス先生。
こっちはそれを下からすくい上げるようにしてなんとかかわす。
「やるな、もう少し速く行くぞ!!」
「え、ちょ、ちょっと待っ……うわぁぁっ!?」
それは、まるでダンスのように、
打ち合う音は異国のお祭りの太鼓のようで、
お日さまの光を受けた剣がキラキラと輝きをこぼしながら、
ボクはその真っただ中にいたんだ……

―ゼロの黒魔道士―
~第二十九幕~ 少年は誇りを胸に


「ふんっ!甘いっ!!」
「く、てぇいっ!!」
何度目かの剣の交叉。
こちらから攻めようとしても届かない、届かせてくれない。
「攻めようとした途端アラが目立つな!無謀と勇猛は別物と知れ!」
「わわっ!?」
横なぎの一撃。
体に届く寸前で止める。
何とか、止められた。
でも、何度も何度も繰り返していると、
どんどん手がしびれてくる。
「遅い!相手をよく見ろ!」
重い。
剣そのものの重さよりもはるかに、重い。
相手を、よく見る。
鋭い目つきには隙がほとんど無い。
前に出れば上から、
横に出ればそのままなぎ払われる。
「どうした?もう終わりか?」
剣にこめられた力が、ぎりぎりと強くなる。
ふんばっていなくちゃ後ろにふっとばされ……
後ろに?
そっか!
「終わりじゃ……ないよっ!!」
後ろに、剣圧を逃がす。
受けるんじゃなくて、受け流す。
これで、相手にも隙が……
「ふむ、気づくのが遅いが、まぁ正解だ」
「え」
全然できていなかった。
ゴツンという鈍い痛み。
柄の部分で殴られたらしい。
「い……いたたたた……」
ズレた帽子を直しつつ、殴られた部分をさする。

「ふぅむ、実力はそこそこあるな。戦略眼も悪くない」
剣をクルッと回して鞘におさめるアニエス先生。
その姿は悔しくなるぐらい決まっていた。
「――だが、熱くなりすぎだ!攻勢に入ろうとしたときの単調さは何だ?」
キッときつい目で睨まれて、ちょっとひるんでしまった。
うーん……単調な……
あ、『ガンダールヴ』のせいかな?
『ガンダールヴ』の力は、ボクらのいたところの『バーサク』に近いものだと思う。
力や、素早さは上がっている。
そうじゃなきゃ、こうやってアニエス先生と打ち合うことすら無理じゃないかなぁって思う。
『バーサク』では、その代償に、戦うことしかできなくなる。
『ガンダールヴ』の力を使った時も、確かにザワザワする感じ、
なんか冷静になれないところがある。
攻め方が単調になるって、多分そういうことなんだろう。
……『トランス』のときは?
うーん、もしかして、あのときは偶々バランスが取れたってことなのかなぁ?
『トランス』で、『ガンダールヴ』のザワザワする感じを抑えられた、とか?
「いいか、心は熱くとも、頭は冷静に!これが基本だぞ!分かったか!返事!!」
「う、うんっ!!」
「――返事は『はい』だ!もう一度!」
「は、はいっ!!!」

「ところで――お前は、何のために強くなりたい?」
「え?」
アニエス先生が、真剣な顔で聞く。
「剣を合わせれば分かる。お前は、強さを求めている。何のためだ?」
剣を合わせれば分かるって、すごいなぁって思う。
何のために強さを求めるか?答えは、決まっていると思ったんだ。
「……大切な人を、泣かせたく、ないから」
そのために、もっともっと強くなりたい。
そうすれば、悲しませたりしなくて、すむんなら。
「――いい答えだ。その誇りを胸に、励むといい」
アニエス先生は、その答えにニッコリと微笑んだ。
あ、こんな顔もできるんだなぁって思った。
でも、ちょっとその顔は、寂しそうな感じがした。
「……先生は?先生は、何のために?」
だから、ついつい聞いてしまったんだ。
「ぬ?うーむ――」
アニエス先生は、その質問に言葉を濁す。
「ふむ、まだ日は高いな――もう一戦行くぞ!!答えはわたしに一撃を与えたら教えてやる!!」
「は、はいっ!!」
ともかく、いつも『トランス』できるとは限らない。
なら、心がけなくちゃいけない。
『ガンダールヴ』の力を使っても、冷静でいられるように。
……ルイズおねえちゃんを、二度と悲しませないために。
ボクは、この人から何かを学べるかもしれない。
デルフをしっかりと構えなおした。

――――

ピコン
ATE ~少女は誓いを胸に~

まったく、ビビはどこに行ってしまったのか。
ルイズは噴水前の広場を見渡して溜息をつく。
ここで待つと約束したではないか。

「そこのあなた、この辺でとんがり帽子の男の子を――」
屋台の店番に話しかける。
甘そうな香りがする屋台だ。
ビビさえいれば、即座に買い食いするのに。
泣いた分、ルイズのお腹は救難信号を告げていた。
前に進むにしても、涙以外栄養が必要だなと、小さく笑ってしまう。
「へいらっしゃい!あぁ、あのちまっこいガキですかい?
 それなら、ルーネスってぇ近所の悪ガキにひっぱられてっちまったなぁ~」
「悪ガキに?」
また何かトラブルに巻き込まれたか、とまた溜息一つ。
頼りになるんだかならないんだか、と自身の使い魔の姿を思い浮かべる。
自分より小さく、少々おっちょこちょいで、トロいところのある少年を。
しかし、イザというときには、その小さな背中を、実際よりも大きく大きく見せて、
ルイズを守ろうとしてくれる勇敢なその姿を。
「ルーネスのヤツなら、きっと西外れの空地だなぁ!
 最近、あそこで悪ガキ共とつるんで何かやってるらしいですぜ?」
「そ、ありがと!」
「あぁ、ちょい!せっかく質問に答えたんすし、買ってってくださいよぉ、お嬢さん!」
「――後で、買いにくるわ!」
ビビと、後で食べよう。
クックベリーパイよりは安っぽそうなお菓子だが、
今の気分を晴らすにはちょうどよさそうだった。

まったく、ビビは何をしているのか。
ルイズは西外れの空地に着いて溜息をつく。
なるほど、悪ガキらしい小さい姿が4つほど空地にいる。
そしてその視線はどれも、激しき剣舞に向けられていた。
驚くことに、一人は女性だ。平民にしては顔立ちの整った方だとルイズは思う。
そしてもう一人は、やはりというか、自分の探していた少年だった。

その剣舞は素人目に見ても鮮やかで、
銀色のリボンが舞うように、目まぐるしい光があたりにこぼれていた。
キィンキィンと剣と剣が合わさる音が拍子をとり、
それは放っておけば、無限に続くように見受けられた。

「ちょっとビビ!!待ってないってどういうことよ!!!」
だからこそ、割って入る。
放っておけば、明日の朝日が来るまで続きそうだったからだ。
「ルイズおねえちゃん!!」
「――迎えか?――貴族?」
女性の眉間に皺が寄る。
あからさまにこちらを威圧する空気。
貴族だから何だと言うのだ、ビビに何をしてるんだと、こちらもにらみ返す。
「お前すんげーなっ!!!」
「先生相手にあんなことできるなんてすごいよ、君!!」
「やるじゃない!」
「すごいなぁ――」
その空気を壊すように、少年達が歓声をあげて、ビビを囲んでしまった。
「あ、ちょ、ちょっと待っ……助けてぇぇ~……」
もみくちゃになる使い魔を見て、やっぱり頼りになるんだかならないんだかサッパリ分からなくなってしまう。

「コラ!お前たち!感心している場合か!お前たちも見習え!このたまねぎ共が!!」
女性が、声を荒げもみくちゃの中からビビをつまみあげる。
少年達の顔が、おもちゃを取り上げられたみたいになっているのに苦笑してしまうルイズ。
「――貴族の従者、というわけか、お前は」
ビビをルイズの方に放り投げ、女性はため息をつく。
「ちょ、ちょっと!?」
「わたたたたた!?……いたたた……」
乱暴なことをする女だと、ルイズは相手を睨みつけた。


「乱暴な女だよなぁ~、相棒?」
デルフの気の抜けた声がする。
「な!?剣がしゃべった!?――インテリジェンス・ソードか!」
驚く女性。それにちょっと優越感を覚えるルイズ。
「……デルフ、あんまり失礼なこと言っちゃダメだよ?折角色々教えてもらったのに……」
剣をたしなめるビビ。
先生、と言ったか?なるほど、教師であればあのような険しい表情にもある程度納得がいく。
平民に何ごとかを、おそらくは武術でも教える職業についている者なのだろう。
「――貴女、ビビに何を?」
とはいえ、ビビを放り投げるような女は問いたださなければなるまい。
「――放り投げたことは詫びましょう、貴族様――ご従者を無碍に扱いまして」
嫌悪感を崩そうともしない謝り方に、怒りがおさえられそうになかった。
「な!!!何よその態度!!!大体ねぇ、ビビは従者じゃないわよっ!!!」
「ほう?それでは、何だと言うのだ?」

使い魔、と答えようとして、一瞬ためらうルイズ。
単純に使い魔とその主、そのような関係であるのかと、疑問に思ったのだ。
ときに、頼りになり、ときに、自分を励まし、常に、優しい少年。
彼は、自分にとって何なのか?
改めて、考える。
色々な単語が浮かんで消える。
一番当てはまりそうな言葉は、実にシンプルなものだった。
「――私の、友達よ!大切な、ね!!!」
友達、そう。友達だ。
越えたいと思う存在であり、一緒に歩いていきたいと思う存在。
友達以外に適切な言葉は無いだろうと、ルイズは納得した。
「友?友だと?――は、ははははははは!!」
険しかった女の顔が、何が可笑しいのか破顔する。
「ちょ、ちょっと!!あんたさっきから失礼じゃない!?」
思わず、怒るルイズ。
散々バカにされている気がしてならなかった。
「くくく、いや、くくく――すまない、すまない。まさか、そんな戯言を言う貴族がいるとはな!」
「ざ、戯言って何よ!!!」
ますます腹が立つ女だとルイズは思った。
「平民を友と言う貴族、か――そのような戯言、わたしは嫌いではない」
「へ?」
気の抜けた声が漏れ出てしまった。
それぐらい、女が見せたのは、気持ちのいい笑顔だった。
「ルイズ、と言ったな?――ビビよ、お前の守りたい者は、この貴族か?」
「え?う……うん……」
「――誇るがいい、守るに足りる人物らしいぞ!はははははは!!」
訳が分からない。笑いだす女と、戸惑うビビとルイズ。
「――行きましょ、ビビ!!」
「う、うん……えっと、先生、ありがとうございました」
「――あぁ、また来い!いつでもしごいてやる!!」
「またなー!」「いつでも来いよー!」「元気でねー!」「またね!」

まったく、ビビは何をしていたんだ。
ルイズは大通を歩き、また溜息をついた。
訳の分からないことを言う女と、ビビを慕う少年達に囲まれて、
一体何をしていたのかサッパリ分からない。
「いい?私に断らず、勝手に行っちゃわないこと!」
「う、うん……わたたたた……」
そう、勝手に行かないで欲しい。
自分に背中を見せたまま、勝手にどこかに行かないで欲しい。
「あ!ほら、またどっかに行こうとして!!」
「しょうがねーだろ、娘っ子よ~?相棒、人ごみに流されやすいんだからよぉ」
こういうところは、頼りないなとまた溜息が出る。
「あーもう!しょうがないわねぇ!!――ほら、手!手をつないでれば勝手に行かないでしょ!」
「あ、う、うん、ゴメンね、ルイズおねえちゃん」
ギュッと、その小さな手を、自分よりも小さなその手を握る。
こんな小さな手で、守ってくれたのかと、目の奥が熱くなる。
「……ルイズおねえちゃん?」
いけない、ビビが見ている。
そうだ、貴族たるもの、涙を流す時と場所は選ばなくては。

「な、なんでもないわよ!さぁ、行くわよ!!」
強い言葉で、また背伸びをしてしまう。
似合わない背伸びを。
誰かの背中に追いつきたくて、誰かと肩を並べたくて、
精一杯の背伸びを。
いつかきっと、いつかきっと、
背伸びをせずに、もっと自然に歩けたらいいな、と思う。
もっと気楽に、肩を並べて、歩けるようになりたいと思う。
自分より、はるかに小さな、使い魔――友達と。

「あ、そうだ、さっき美味しそうな屋台があったけど、寄ってく?甘くてフワフワで――」
「え、ルイズおねえちゃん、また甘い物?ラ・ロシェールでも一杯食べてたような……」
「甘い物は別腹なの!行くわよ!!」
「ひ、ひっぱらないでよ~……」
今は、ちょっと背伸びをしてしまうかもしれない。
でも、いつか来るその日が来るように、明日からもっとがんばろう。
ルイズはその小さな胸に、小さな小さな誓いをした。


――――
ピコン
ATE ~男は怒りを胸に~

「――もう一度その口を開いてみろ、貴様っ!!」
「どうすると言うのかい?まったく、役者不足にもほどがあったよ、君の演技」
アルビオンはハヴィランド宮、男たちの口論はますます熱が入る。
最も、一方的に髭の男が怒気を露わにし、
それを軽々と銀髪の男が受け流すそれを、
口論と言えるのかどうかは、判断に困るところであろう。
「油断した?焦った?勝手に暴走した挙句、肝心の品は何一つ手に入れられない――
 失望の色を隠せないよ。実に茶番だね!」
「黙れ!貴様が、貴様が情報を寄越していれば!!あの帽子のガキを知っていたのだろう!?」
失った左腕がもし今あれば、間違いなくこの舐めきった態度をとる男を殴っただろう。
それほどに、ワルドの怒りは頂点付近にあった。
「言ったとして、聞いたかい?『小娘一人ぐらい楽に籠絡してみせる』と息まいてた君が?
 僕がフォローしなかったら、今頃この城すらも失っていたかもねぇ、誰かさんのせいで」
「き、貴様っ!!」
何がフォローだ、とワルドは思う。
隠れてコソコソ伺っていたのか、こちらの動きは全て抑えられていたらしい。
その上で、全てが終わった後にノコノコ出てきて手柄をかっさらいやがった。
かつての王子の亡骸と、その部下共のなれの果て、そして無傷の城。
わざわざ本隊の突入を遮って、「全てお任せを」などと断り、手柄を手中にしたと聞いた。
結局、俺はこいつに踊らされていただけなのか?
怒りで奥歯が噛み砕けんばかりに力が入る。

「その辺にしたまえ、クジャ君!」
「あぁ!クロムウェル『皇帝陛下』!お見苦しい所をお見せいたしまして!えぇ、ご随意に!」
よくもよくも舌が回るわ、態度も変えるわ、怒りを通り越して呆れてしまう。
礼拝堂に歩み入るは痩せた男、おおよそ『皇帝陛下』と呼ばれるには相応しくない男だと、ワルドは思う。
しかし、彼には『力』がある。
「ふむ、そして、『コレ』が戦利品というわけか!」
「えぇ!残念ながら、『手紙』と『ルビー』は失いましたが、陛下の就任祝いには十分ではないかと!」
大仰なクジャの仕草。
コイツは他人の神経を逆なでするコツを心得ているのだろうか、一つ一つが癇にさわる。
「はっはっはっ!無傷の城と『コレ』が何よりのプレゼントだよ!実にすばらしいね!」
『コレ』は静かに、死んだように眠っていた。
いや、間違いなく死んでいるだろう。
ウェールズ王子の亡骸、それだけは間違いなく自分が仕込んだものだと主張しなければならない。
だが、それすらもかなわない。
自分は、逃げて帰ってきた。
小僧相手に左腕を失った上で、だ。
それに比べ、この腹の立つ男はゴーレム軍団を率いて悠々の帰還を果たしている。
横から来て、全てを掻っ攫って。
これでは、どちらが功労者かと問われれば間違いなく後者が選ばれる。
それに異を唱えることは、僻みとしかとらえられないだろう。
血管が浮き出るほどに、ワルドは現状に、ふがいない自分に、卑怯なるクジャに怒っていた。

「さて、さて、さて!プレゼントの包みを開けるとしようかな!」
左手を、王子の遺骸にかざすクロムウェル。
虹をカンバスに押しつけてそのままずらしたような、禍々しい色合いの光がジワリとにじみ出る。
王子の躯が、ピクリと動く。
虚無の力、それは死者をも動かす力。
ワルドが、何よりも欲する力。
「――おはよう、皇太子」
クロムウェルの顔が、愉悦に歪む。
「――久しぶりだね、大司教」
生気の感じられない、虚ろな声で、王子が答える。
「今は皇帝だよ、このアルビオンの皇帝だ」
「これは失礼した、閣下――」
欲しい。
獲物を狙う輝きが、ワルドの瞳に宿る。

「いやはや、素晴らしいお力ですな、陛下!――あぁ、ところで、御相談ですが」
「ふむ?何だね?」
下劣な笑顔のままで、クロムウェルがクジャにふりかえる。
「流石に、この連戦で僕のゴーレム部隊も摩耗してましてねぇ――
 メンテナンスをしなくてはならないので、一度引き返させてほしいんだ」
見ると、礼拝堂の外にはガチャガチャと大量の物言わぬ兵。
こんな連中に手柄を取られたのかと、またワルドは歯噛みする。
「ふむ?ゴーレムといえど消耗品か――残念だな!すぐにでもトリステインに攻め入りたいところだが!」
「戦いで貴重なデータも得ましたし、次回はもっと強化いたしますよ。
 あぁ、ついでに勝手ながら、船を一隻お借りしたく――何しろ、大部隊ですので」
「あぁ、よいよい!君との取引は今後も続けたいからね!クジャ君!また世話になるよ!」
「フフフ、それでは、お言葉に甘えて――僕の留守中の御用は、そこの秘書にお申し付けください」
クジャの指し示す方向には、いつの間にやらフーケの姿があった。
薄汚い盗賊風情の次なる狙いは小賢しい武器商人の秘書か、とワルド侮蔑の視線を送る。
どいつもこいつも、思い通りにならない力ばかり。
いいさ、そんな力ならば不要だ、とワルドは自分を慰める。
「クロムウェル皇帝陛下、以後よしなに――」
「これはこれは、美しい秘書殿だな!」
ニヤリ、とまたクロムウェルの野郎が顔を歪める。
どうせ夜に呼ぶことでも考えているのだろう。
力をそんなことにしか使わない下衆が。

「さて、それでは、皇帝陛下。またお会いする日まで――」
「あぁ、次なる戦でも色々頼むぞ」
最後まで舞台役者か色街の男娼かといった風情で如才なく一礼をして去る男。
ガチャガチャとお付きの物言わぬ兵どもを従えて凱旋か。
けっこうな御身分だと唾の一つもはきたくなる。
「あぁ、そうだ、ワルド君」
「――なんだ、武器商人」
嫌悪感を隠そうとせず、クジャを正面から見据えるワルド。
「見える『力』が全てじゃない、見えない『力』に足元をすくわれないように。
 ――これが僕からの忠告さ。ご迷惑じゃなけりゃ受け取ってくれよ」
「ふんっ!」
訳の分からない言葉で俺を煙に巻くつもりか、
とばかり鼻息でそのありがたい忠告とやらを吹き飛ばす。

クジャの姿が見なくなったことで、やっと心が落ち着いた。
あのような男は戦場を汚す。
ワルドは、その機会をぬい、クロムウェル『皇帝陛下』に話かける。
「――閣下、あのような男に頼ってはいずれ足下を――」
「――君には失望してるんだがね、ワルド君!」
しかしこれをアッサリと跳ね返す『皇帝陛下』。
「君が全てを入手してくれるのでは無かったのかね?
 嘘つきと、金さえ払えば全てを用意する武器商人。どちらを私が信用すると思う?」
クソッ。
ワルドは奥歯を噛みしめる。
事実が事実だけに言い返せない。
「だが、私はまだ君の力に期待しているよ。次はもっとうまくやりたまえ――
 それでは、行こうか、皇太子殿、秘書殿。――えーと」
「ロングビル、とお呼び下さい、皇帝陛下――」
「――ロングビルさんか、どこかで前に会ったっけ?」
「いえ、初対面だと存じますわよ、皇太子さま?」
左腕を失った男を残し、談笑する一団が場を後にする。

力だ。
礼拝堂に一人残ったワルドは、顔の無い始祖の像を睨みつける。
始祖よ、俺はあんたほどの力が欲しい。
全てを手に入れる力が、
全てを眼下におさめる力が、
死すら蹂躙する力が、
俺をコケにした連中をたたきのめす力が。
『聖地奪還』を標榜とする『レコン・キスタ』にあって、
ワルドは特に信心深いというわけではなかった。
そこにあるのは、単純な力への憧れ。
力さえあれば、力さえあれば、力さえあれば――

何も、失わなかった。
腕も、母も。

「始祖よ、俺はあんたを超えてみせる。『力』を手に入れてな」
男は、今は耐えることを誓う。
いずれは、『皇帝陛下』の虚無の力を奪い取れるなら奪い取り、
『力』でもって聖地を平らげ、
全てを、取り戻すために。
失ったもの、全てを。

怒りを胸に、男は礼拝堂を辞した。



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