あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

雪と雪風_始祖と神(12)


 長門有希という存在は、もはやハルケギニアにない。

 意識を取り戻すと、彼女は椅子に座り、アーハンブラ城とよく似た、灰色の空間に一人佇んでいる。

「閉鎖空間……」

 そう言葉を漏らすのが早いか、どこからかミョズニトニルン、いや、ただの涼宮ハルヒが現れる。

「おはよう、有希。やっとあなたと、二人で話ができるわね」
「――わたしに何の用?」
「とぼけないで。あたしが話したいことは分かるでしょう?」

 言葉の陰に棘を見せるハルヒに対し、長門は淡々と受け答える。
 それは彼女なりの決意表明。神と観測者ではなく、一対一の人間として、彼女と勝負する態度であった。

「わたしは、わたしのしたい行動をとっただけ」
「有希は、説明しないとわたしの気持ちが分からなかったのかしら?」
「あなたが彼に恋愛感情を抱いていることは理解している。そのこととわたしの感情は、別問題」

「……あたしの気持ちに気付いていて、それで横取りしようと思ったの?」
「あなたの言葉に従えばそうなる」
「悪いことだって思わなかった?」
「あなたは彼と交際関係にない」
「それはそうだけど――」

「あなたとわたしは対等。ともに、彼に恋慕の情を抱いているだけ」
「対等……?」
「そう」
「でも、わたしは団長で、あなたは団員――」

 長門有希の眉がぴくりと動く。


「団長と、団員。その言葉を引き出したかった」
「なによ、いきなり」
「あなたはわたしを団員と定義づけた。つまりそれが、あなたの他人に対する認識。自己を中心に置いている」
「そ、そんなことないわ。ただあたしは、団員の幸せを願って……」
「違わない。そもそも世界の中心に自身を置くのは、有機生命体として当然の行動」
「なにが言いたいの?」
「わたしにも、あなたと同様、わたしの幸せを掴み取る権利がある」


 しかし涼宮ハルヒは一笑に付し、話を打ち切りにかかった。

「なにを言い出すかと思えば……。話にならないわ。それなら有希が勝手にやればいいじゃない。
終わりよ、終わり。もっと面白い話ができるかと思ったわ。無駄な夢を見ちゃった」
「――まだ終わらない。あなたがわたしの言葉を不安に思えば思うほど、この空間はいっそう強固になる」

 事実、アーハンブラ宮殿を模した閉鎖空間は、いっこうに消えようとはしない。

「あなたは、自分の思い通りにならないのがそんなに嫌?」
「誰しもそうよ」
「……あなたは幸運。世界が希望通りに動いている」
「そのために行動しているわ」
「違う。自分に都合の悪い世界を、勝手に切り捨てているだけ」
「そんなこと……」
「事実」

 おそらく涼宮ハルヒ自身、周囲の環境にうっすらと違和感を感じてはいたのであろう。
長門有希の言葉は、深々と彼女の心をえぐる。

「あたしはそんな勝手な人間じゃないわ。だいたい、有希の言うことが本当だとしても、切り捨てて何が悪いの?」
「ならばあなたは、どうして切り捨てるの?」

 質問に対して質問で返す、詭弁である。しかし涼宮ハルヒには、そのことに気付く心的余裕もない。

「それは……」
「不安だから」
「不安?」
「自分と関係のないところで世界が回るという不安」

「そりゃあ誰しも感じるでしょうね、そんな感情」
「あなたは感じていない。ただ逃げているだけ」
「――有希、どれだけあたしを馬鹿にしたら気が済むの?」
「その言葉も不安から逃げるためのもの」
「じゃあ、どうすればいいってのよ!?」

「不安を自分の中に抱え込めばいい」
「無理よ」
「皆がやっていること」
「潰されちゃう」
「潰される程度の人間というだけ」
「不安が的中したら?」
「抱え込む」

 涼宮ハルヒは黙り込む。

「そう、あなたは声を出すこともできない。わたしの言葉が真実だから」

「それが生きること。感情を持つこと。そして、社会を持つこと」
「社会?」
「二人では社会と呼べない。あなたと、彼と、わたし。社会になった」

「……はっきり言って、あのときの有希の行動は許せない。
そんな感情を抱いて、有希と関わっていけると思う?」
「その感情も抱え込めばいい。それに――」
「それに?」
「あなたは今、自己の正直な感情を吐露した。わたしはあなたが嫌い――、
そんなこと、簡単に言えることではない。もうあなたは団長ではない。わたしは団員ではない。
初めて、対等の関係を持った」

「でもあたしは有希が嫌いなのよ?」

 その一言に、長門有希――彼女の中の、人間の長門有希が、涼宮ハルヒに笑いかけた。

「あなたがわたしを憎めるはずがない。――なぜならあなたは、涼宮ハルヒだから」
「トートロジー?」
「違う。涼宮ハルヒは涼宮ハルヒ。あなたを信じる」
「信じる? あたしは有希を信じられないわ」
「構わない。少しづつ信じて」
「甘いわね……。でもいいわ。対等……ね。
対等ならば、あたしは全力で、有希に勝とうとするわよ。それでいいの?」
「構わない。わたしも同じことをするだけ」

「そう。分かった。受けて立とうじゃない。有希、渡さないわ」

 + + +

 + + +

 図書館の前には、半年前と同じように、三人が立ち尽くしていた。
 涼宮ハルヒは無言で本を拾い集めると、一人立ち去る。

 と、振り返り、二人のいる場所へ叫ぶ。

「有希! 今日は貸してあげる! でも、明日からは負けないわよ!」


 長門有希は男の手を引き、図書館の中へ入っていく。

「なあ長門、こりゃ流石にまずいんじゃないか?」
「構わない。今日はあたしの勝ち」

 + + +

あくる日部室で、男が長門に尋ねる。
「――あのときの行動について、俺は何も言わない。
でも、教えてくれ。ハルヒは長門を笑って許したよな? いったいあいつに、何をしたんだ?」
「人は誰しも、心に閉鎖空間のようなものを抱えて生きている。
あたしがやったのは、涼宮ハルヒの創造されては消える閉鎖空間を、安定したものにしただけ」


 世界に飛び交うどんな情報の断片を集めても、平賀才人なる日本人の情報にたどり着くことはできなかった。
ならば、ハルケギニアは涼宮ハルヒの生み出した閉鎖空間に過ぎなかったのだろうか。
 そうであるとも、そうでないともいえる。
現に長門有希の制服のスカートには、今も主人に貰った杖が差されたままである。
少なくとも現在において、空間は存続している。
 あの空間が情報統合思念体によって観測されないであろうか。
そうすれば、ハルケギニアが涼宮ハルヒの想像下ではない、独立した空間であることの証明になる。
 主人、いや、友の生きる世界が末永く続き、そして願わくは、彼女に再び会えんことを――。

 + + +

 + + +

 タバサが幽閉されて一週間。ビダーシャルの調合する薬が完成するのは時間の問題であった。
 心残りは、正気を取り戻した母と別々に閉じ込められ、ほとんど会話を交わさぬままに終わったことであった。
いや、もし二人ともに正気を失えば、逆に同じ世界に生きられるかもしれない。
 そんな残酷な想像を巡らせていると、窓の外から、
魔法の発する光が飛び込んでくる。タバサは三人の姫と同じように、窓から外を見下ろした。


 エルフ、ビダーシャルの先住魔法は、ルイズの虚無の魔法「ディスペル」に敗れ去った。
 先陣を切ってタバサの幽閉された部屋に飛び込んできたのは才人である。

「タバサ、無事か!?」

部屋の片隅に座り込むタバサに、月明かりに照らされた才人が手を伸ばす。
 タバサが姫ならば、彼は王子。その手を取る以外の選択肢は存在しない。

「わたしは知識の姫にはならない。シャルロットでも、北花壇騎士でもなく――」

 母は正気を保ち続けていた。
 それが長門有希の情報操作によるものかは分からない。
 ルイズの系統魔法が消失している以上、母の心が元に戻ってもおかしくはないのだ。
 もしかすると、敗れたエルフの仕業である可能性もある。
 だがタバサは、それが自身の使い魔のおかげであることを信じずにはいられないのだ。

 馬車は、北花壇騎士として通い慣れた抜け道を通り、一路、トリステイン魔法学院に向かった。

 + + +

 魔法学院は何事もなかったかのようにタバサを迎え入れた。
一部の生徒から、彼女の長期欠席が許されたことへの不満の声も上がったが、
旅の間にスクエアクラスに成長したタバサが後に実力を見せ付けると、そのような声も止んだという。


 タバサが自室に戻ると、うっすらと埃が積もっただけで、開かれたままの本一つ、触られてはいない。
一人で暮らすには広すぎる部屋。使い魔が彼女に残したのは、異世界の膨大な知識の断片。
しかし彼女を偲ぶものは、違う言語で書かれた本一冊だけだった。
 おそらく長門有希が翻訳して読み聞かせた一冊だろう。
タバサはその本を手に取ると、読めもしないページをぱらぱらとめくった。
 自分は、かけがえのない母と引き換えに、かけがえのない友を失ったのだ。

 ベッドに倒れこみ、空虚な感覚に浸る。
 あと少しで涙が流れ出そうというとき――、アンロックの魔法で友人が押し入ってきた。

「アンロックは校則違反……」

 言うまでもなく、犯人はキュルケである。
「今日くらいいいじゃない。せっかくあなたが帰ってきたのだもの。
ユキは、元の世界に帰ったんでしょう? 元気にやってるかしらね……」

 後から入ってきたメイドのシエスタが、テーブルにワイングラスと瓶を並べる。
「ミス・ナガトは帰ってこなかったのですね――。サイトさんとミス・ナガトはタルブの英雄なのに――。残念です」

 そして既に酔っ払った様子の才人とギーシュ。ギーシュを介抱するモンモランシー。
「ったく、貴族ってのは、どうして何かにつけて酒を飲みたがるんだか」
「サイトぉう、きみは貴族を侮辱したなぁ!? 決闘だあぁぁぁ……」
「ギーシュ、飲んでるんだから無理しないで……。なんでわたし、ここにいるの……?」

 ルイズはルイズで、才人に呆れつつ、自分もグラスを取ると、一気に飲み干した。
「もう、男ってどうしてこうなのかしら――」
「まあいいじゃない」
「わたしの男性観はキュルケと違うのよ」
「ルイズもキュルケも、なんでタバサの部屋に来たのか忘れてるんじゃないのか?」
「サイトの言う通り。ルイズも酔っ払うにはまだ早いわよ。ほら、みんな、並んで、並んで」

 タバサの部屋にやってきた、事の次第を知る全員がタバサに向き直る。
 そして――、


「おかえり、タバサ!」


 皆が声を合わせた。

 タバサは呆気に取られた様子で、口を小さく開く。
 だが、皆の行動の意味に気付き、シャルロットでも北花壇騎士でもなく、タバサとして涙を流した。

「……ありがとう」

 タバサは初めて、満面の笑みを浮かべた。

「おお、盛り上がっとるようじゃのう」
「学院長、どうしてここに!?」
 喜びに満ちた空気の中、オールド・オスマンまでもが駆けつける。

「タバサ、学院長は……」
「大丈夫。知ってる」
 オスマンはタバサの正体も、そして漠然とながら長門の正体をも知っている。
だからこそ、この場にやって来たのだろう。
「ありがとうございます、学院長」
 礼を述べるキュルケ。
「うむ、生徒の復学とは、まことに喜ばしいことじゃ。ところで、ミス・タバサに渡したいものがあるのじゃが」
 確かにオスマンは書物を抱えている。
「何かしら、サイト」
「見たまんま、本だろ。タバサは本が好きだからな」

「ガリア王国シャルロット姫殿下。トリステイン魔法学院学院長オスマンより、この品をもって、お祝い申し上げます」
 オスマンはタバサに対し跪くと、両手で書物を差し出した。

「オールド・オスマン。いったいこれは、なんなんです?」
「おお、これはじゃなあ……」

「半年分の宿題じゃよ」

「……はははっ、そうきたかぁ!」
 才人を皮切りに、部屋中が笑い声に包まれる。
タバサもまた、複雑そうな面持ちで笑い声を上げる。彼女が初めて覚えた苦笑いであった。


「ごめん、ちょっと気分が……」
 しかし笑いすぎたのか、才人は窓から身を乗り出すと、外に向かって嘔吐し始めた。
「サイト、大丈夫?」
 すかさずルイズが駆け寄り背中をさする。

「こりゃ大変だ、早くこのグラスをサイトに」
「それはワインよ!」
「殴ることないじゃないか、モンモランシー……」

 ギーシュの相手をしているモンモランシーの他に、水系統を持つメイジは自分しかいない。
すかさずタバサは空のグラスに魔法で水を満たし、才人に差し出した。
「……ありがとう、タバサ」
 一気に飲み干し、グラスをタバサに手渡す。
 その、才人が振り向いた一瞬を、タバサは見逃さなかった。
それは、単に才人の気分がすぐれなかっただけなのだろう、
それでも、虚ろな目とかすれた声が、確かに彼を、憂いの混じった王子のように見せたのである。

 タバサは未だ、恋を理解してはいない。
 それでも、恋を描いた寓話をいくつも読んではいた。
 今抱いた感情こそが、恋ではないだろうか。

 そして、長門有希の話した、恋に落ちた者が取る行動。
 平賀才人と接近している今しかチャンスはない。


 タバサはおもむろに腕を絡め、彼に寄りかかる。


「ぴと」


 本質は擬音であった。友の残した知識。
 恋した者が取るべき行動。それが、この一言に集約されていた。


 部屋にいる全員の視線が突き刺さる。

「タ、タバサ? なにをしているのかしら……?」
 問い詰めるルイズ。しかし返事はなく、ただタバサは、才人に寄り添うだけである。
「なあタバサ、ルイズも見てるしまずいって……」
 だが言葉と裏腹に、才人の視線は宙を泳いでいる。
「そう……。そうなのねサイト。メイドだけに飽き足らず、タバサまで……。
わたしやキュルケの友情に付け込んで、自分の色欲を満たそうとするなんて――」
「ま、待て、ルイズ、それは誤解だ!」
 才人が言い終わるが早いか、ルイズの爆発呪文が炸裂する。

「今までのわたしが甘すぎたみたいね……。
犬みたいな使い魔には、やっぱり躾が必要よ。サイト、明日からは――、って、いない!?」
 才人とタバサの姿はそこにない。
 開け放たれた窓から身を乗り出すと、才人を抱えたタバサがフライで去っていくのが見えた。
「ま、待ちなさい! サイトをどこに連れて行く気!?」
 飛び降りようとするルイズを、キュルケが後ろから羽交い絞めにする。
「ルイズ、早まらないで! 今のあなたは飛べないのよ!」
「もうっ! 虚無なんかいらないから、サイトを返して!」


「やっぱりまずいって。だいたい、俺にはルイズが……」
「構わない」
「いや、タバサの気持ちは嬉しいけど」
「略奪愛」
「はい?」
「成就しないかもしれない恋、それも恋。あなたをルイズだけのものにはさせない」

 そう、結局タバサも長門有希も、ハルヒやルイズといった、神や始祖にとっては脇役に過ぎなかった。
だからといって、脇役が幸せを求めて何が悪いのだろうか。
 物語の主役は、傍から見て主役に見えるというだけである。
 一人一人、長門の世界やタバサの世界を生きる人間にとって、
主役とは結局、意識の主体、自分自身にほかならない。
我思うゆえに我あり、自意識の幸せを考えずして何になろう。
 タバサの行動は、すなわちルイズに対する宣戦布告であった。
 神の怒りは棚上げされた。
 始祖の怒りはこれからが本番である。


雪と雪風_始祖と神 おしまい


新着情報

取得中です。