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ご立派な使い魔-14


ラ・ロシェール。山間のこの町の、荒くれ者の集う酒場に、女が一人。
いかさま不自然なようにも見えるが、女の横顔はその違和感を消す刺々しさを備えていた。
ただし今はわりとそうでもない。
酒をちびちびとやりながら、頬杖をついてため息をついている様は、ある種の色気を感じさせる。
それこそこんな荒くれどもの酒場では、男の二十や三十は軽く引っ掛けられるような色気だ。
なのに女が一人で飲んでいられるのは、周りの荒くれがすっかり怯えているからとなっている。

「それで、俺たちを雇うってのは……」
「詳しい話は後から来る奴に聞いて。とにかく雇われるって意志表示だけしてくれればいいわ」
「はあ……」

男どもは首をかしげている。
女、つまるところのフーケは、それに目もやらずに酒を飲み続ける。

「……やれやれ、私もまったく……ああ……もう……
 ……珍しい経験だったわよそれは」

悩んでいるらしい。
その独り言は、後からやってきた白仮面の男によって荒くれどもに説明が行われても、続く。

「感心しないな。こんなところで自棄酒かね」
「仕方ないでしょ。牢屋の中じゃウサ晴らしも出来やしない」
「やることをやってくれれば、文句はないが……」
「だったら放っておきなさいよ。女にはね、男に理解できない悲しみってのがあるの」
「やれやれ」

白仮面は肩をすくめる。
フーケの荒れようについていけない、と言いたいようだ。

「ちゃんとその時が来たら仕事くらいするさ。
 ……ただね、正直なところアレの相手はどうにも……」
「それについては俺の方で手を考えている。問題はない」
「だといいけどね……」

また一杯、フーケは酒をあおった。


ワルドにしっかりしがみつきながら、ルイズは本当に久しぶりに開放感を味わっていた。
このグリフォンの速度は相当のものだし、これでマーラを引き離すことが出来れば完璧なのだが……
しかし残念なことに、地上を見ると実に余裕の表情でマーラは疾走している。
戦車を手に入れたことで、安定性、スピード、ともに更なる向上が図られているのだ。
しかも恐ろしいことには、ギーシュがいつの間にやらマーラの頭の上に立ち、やたらに格好いいポーズで決めている始末。

「あれは何をしているのかしら……」
「あそこまでやると清々しいな。見たくはねーけど」

そっちを気にしても不快になるばかりだ。
デルフリンガーの言葉にも一理あるが、そんなものに理があろうとなかろうとどうでもいい。
ルイズは、見なかったことにしてワルドの背に頬を寄せる。
広い背中だ。こういうものを頼りになるというのだ。

「ルイズ? その、いくら久しぶりでも少しくっつきすぎじゃあ……」
「いいえ、ワルド。わたし、もう、あなたしかこうして頼れる人がいないの……」
「はは、大げさだな。学院で辛い目にでもあっているのかい?」
「それは……その、まあ……」

学院というか。
今のままだと、人生どこにいっても辛い目しかない。

「とにかく! こうしてワルドが来てくれたお陰でわたし、本当に救われたの」
「なんだか照れくさいな。僕の小さなルイズ、こんなに積極的だったかい、君は」
「せ……積極的にならざるをえなかった、というかね……」

ニ、三、言葉を交わした時点で、ルイズは口調を崩していた。
ワルドがそうしてくれ、と言ったのも大きいが、なんといっても安心したのだ。

「しかしこの調子だとラ・ロシェールにはそれなりに早く辿り着けそうだな……
 君の使い魔どのの速度は相当なモノだ」
「や、やめて! あれの話はしないで!」
「あ、ああ……君が嫌がるんなら、それはやめておくが……」

そう言いつつもワルドは地表を眺める。
相も変わらず爆走するマーラと、その上に立って格好よく決めているギーシュの姿である。

「本当に君は凄いよ、ルイズ。あんなご……」
「やめてぇ! ご立派って言葉は聴きたくないのぉ!」
「そ、そうかい……」

ギーシュは実に格好よいポーズで、マーラの上に立っていた。
念のために言っておくが別に全裸ではない。マーラの上に立っているからって脱いだりはしないのだ。
脱ぐのは、もっと大事な時である。マーラほどではないギーシュは、溜め込んでおくのが重要なのだ。
さておきバランスが崩れそうなポーズだが、まったく揺らごうとしていない。

「ああ……風を浴びるこの姿勢がこれほどに素晴らしいものとは……
 先生、感謝いたします。僕にこのような光栄な場を与えてくださるだなんて」
「お主の近頃の精進はなかなかのものじゃからの。なに、この程度容易きことよ」
「恐れ入ります」

道行く人々は、マーラとその上に立つギーシュを見て、みなぎょっとしていた。
やはり、その中には有難そうに拝む人もいる。
中には、

「いよ! ご立派!」
「そして夜の帝王!」

などと囃す者もいた。意味はよくわからない。
ギーシュはそれらの声援に、薔薇を振って応える。

「しかしそれにしても先生。ミス・ヴァリエールに婚約者がいたとは初耳です」
「ワシも聞いたことはなかったからのう。意外と言えば意外かもしれぬが、小娘は公爵家と聞く。
 で、あるならば、無理からぬことではあるわな」
「確かに。それが魔法衛士の隊長ということが、いささか珍しいことですが」

そう言いながら、ギーシュは声援を送った人々に向けて薔薇を振る。
すると道端に、ミニサイズの例の尖塔が生み出された。

「おお! こいつは……」
「ご立派からの贈り物だ!」
「ありがたや、ありがたや」

集まってくる人々を見て、ギーシュは僅かに微笑んだ。

「この程度のサービスはよろしいでしょうか、先生」
「うむ。乱発せんのならば、気の利いた行いであることよ」
「はい。乱発しないよう心に刻んでおきましょう」

なおこの後、ご立派の使いが生んだご立派の塔として、このオブジェは地元の信仰を集めていく。

ラ・ロシェールの町に着いたのは、日も落ちようとしている黄昏時だった。
予想よりは大分早く到着したものだ、とワルドは感心する。

「これというのも君の……あ、いや。今日はよく休めそうだね、ルイズ」
「そうね、ワルド……あ、宿についてなんだけど」
「宿? そうだね、それは……」

などと、のんびり話をしていると、ワルドの目に騒ぎが入ってきた。
地表のマーラと、その上のギーシュに向けて、無数の矢が飛んできたのだ。

「これは……どうやら奇襲のようだね」
「奇襲ですって! ……あ、でも、きっと無事よ。アレは」
「かもしれないけれど……君の学友もいるのだろう? 助けないとね」
「……ギーシュもこの際一緒に処分してくれてもわたしは……」
「はは、こんな時でもユーモアを忘れないとは可愛いものさ。はっ!」

グリフォンを駆るワルドにしがみつきながら、ルイズは地表の戦いを見つめる。
マーラの動きはないようだが……さて。

「でもあの程度の戦力では……
 敵の戦力も把握していないだなんて、この敵はせいぜいが物取りか、でなければ斥候といったところね」
「ルイズ、なかなか物を見る目があるじゃないか」
「わたしもその……色々鍛えられて」

タフでなければ生き残れない世界だったとルイズは述懐している。
生き残れないというのは語弊もあるのだがまあ……いいとして。

ギーシュは、格好いいポーズを維持したままマーラから飛び降りた。
そして飛び交う矢を見て、振り向かずに言う。

「先生。ここは僕にお任せを」
「よかろう。任せるぞ」
「はい。僕の鍛錬成果をお見せいたしましょう」

矢の勢いをものともせずに、ギーシュは薔薇を振るった。
七枚の花びらが散り、舞って落ちていく……すると、たちまち花びらは姿を変えた。
お馴染み、女戦士の彫像。ワルキューレである。

「さて、まずはあの無粋な矢を防ぐとしようか」

薔薇を振るその手振りは、まるで交響楽を指揮する名指揮者のようだ。
自分自身にも矢は降り注いでいるというのに、ギーシュはまったくものともしない。
そしてワルキューレが動き出すと、青銅のボディはたちまち降り注ぐ矢を止めた。

「この程度ではまったく余裕だね……」

などと調子に乗っていたら、一本頭に刺さった。

「……ははは、この程度僕の愛の前には無力だよ」

血が結構流れているのだが、わりと気にしない。なかなかギーシュもさるものである。
そうしているうちに、矢の勢いが弱まってきた。
矢玉が尽きたのか、様子を見ているのか。
いずれにせよまだ油断は出来ないと、ギーシュは注意深く辺りをうかがう。
弓矢を射掛けてきたのは、どうにも崖上のようなので、易々と追撃はできないが。
次の一手はどうしたものかと考えていると、不意にばさばさという羽音が聞こえる。
ギーシュが空を見上げると、そこには風竜の姿があった。

「おや、あれは……確か、ミス・タバサの」
「青い小娘の仲魔、竜であったかのう」

シルフィード、という名であったはずだ。
その竜から風が飛び、弓の射手を叩き落していく。

「流石にやるものだね、ミス・タバサは。彼女を愛するのは容易ではないかな……」
「あの手の小娘には、日頃からの積み重ねが肝要なるぞ」
「ミス・ツェルプストーはその手で射止めたという訳ですか。なるほど……」

などとやっているうちに、ワルドのグリフォンも、タバサのシルフィードも降りてきた。
かくして一同集結する。

話題の中心はギーシュだった。
ワルドもてっきりマーラが片付けてしまうと踏んでいたし、それはルイズも例外ではなかったのだが。

「ギーシュ、あんた結構やるのね」
「なに、僕は愛の道を歩んでいるからね。戦闘もすなわち愛さ」
「愛とはもっとも掛け離れた行為でしょ」
「そうでもないのさ。愛と死は表裏一体、先生はその愛と死を司っておられる」
「……意味わかんないわよ」

反撃こそ出来なかったが、ワルキューレを操る腕は結構な上手に見えた。
これはまあ、褒めてやってもいいと、ルイズも少し表情を緩める。
頭に刺さった矢も痛々しいし。

「っていうか、それは大丈夫なの?」
「これが大丈夫なのさ。僕の愛しのモンモランシーから、特製の秘薬を貰っているからね」
「へえ……フラれたんじゃなかったっけ?」

やけに余裕のある仕草で、ギーシュはふふんと笑う。

「粘り強く交渉を続けた結果、今は雨降って地固まるといったところさ」
「嘘!」
「無論ケティとも付き合いは続けているよ」

予想外であった。まさかそう展開してくるとは……

「そういえば舞踏会でも二人からツッコミ受けてたけど……
 考えてみれば、本気で嫌われてたらあんな真似しないわよね」
「そういう訳さ」

道理で、妙な自信がついていると思った。
ルイズは感心したが、同時にその自信の源や、自信を生み出すギーシュの思想を思い、寒気を感じる。
確かに凄い。が、あまり歓迎したくない凄さだ。

「こいつはもう手遅れにしても、広がる前になんとかしなきゃ……」

ますますルイズは決意を深めた。

「ははは、不可能はないのさ、今の僕には。ワルキューレだって改良している」
「正直なとこ、あんたのその交友関係の進化が予想外すぎたけど……改良?」

ギーシュはもう一度薔薇を振る。
ワルキューレが整列したが、その姿は以前とあまり変わっているようには見えない。

「……どこを改良したのよ?」
「わからないかな。もう少し、目線を下に向けてみたまえ」
「下って……」

そこで。
ルイズはこのバカを見直したのが間違いだったと痛感する。
美しいワルキューレの像の、その股間部分。
そこが、もっこりと盛り上がって……

「……あああああああんた……このバカ! この大バカ! バカギーシュ! 
 底抜けのバカかあんたはぁぁぁ!」
「はははは、やはり形から入らないとね!」
「何の形よぉ!」

涙目になりながらギーシュを打ち据えるルイズの姿に、ワルドは声をかけられなかったという。
あと、キュルケとタバサも。口を出すタイミングを失って困っていた。


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