あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

アクマがこんにちわ-15 A

ラ・ヴァリエール家の屋敷、裏庭。
練兵場として使われている一角に、すり鉢状の穴があった。
その縁にはラ・ヴァリエール公爵夫人、カリーヌ・デジレが立ちつくしている。
彼女の着る、過度な装飾を廃した浅紫色のドレスは、貴族婦人と言うより、家庭教師を思わせる凛とした雰囲気を漂わせている。

「ここに居たのか」
公爵が、カリーヌの後ろから声をかけた。
カリーヌは返事をせず、じっと地面を見つめている。
「凄まじいものだな」
公爵が隣に並び、呟く。

数分の沈黙の後、カリーヌが口を開いた。
「……最初、ルイズが連れてきた使い魔を見たとき、ルイズが騙されているのではないかと思ってしまいました」
「わしもだ。…それどころか、今でも彼がルイズの使い魔なのか、疑問に思っている」
公爵はどこか寂しそうに呟く、それはまるで、娘が戦地に向かっていると知りつつ、止めることのできない悔しさが滲み出ているようだった。

「あの少年は、どんな思惑でルイズと接しているのでしょうね」
「彼の言葉を信じるなら、自身のためなのだろう。彼は家族も友人も失って、ルイズに召喚されたようだ」
「戦いの虚しさを知っているのなら、ルイズを力に溺れさせることはないかもしれません。ですが私には、彼の力に群がる者達が現れる気がしてなりません、ルイズがそれに耐えられるでしょうか…」
「カリーヌ…それは、私も同じだ」

二人は、強大な力に不釣り合いなほど、純朴な性格の少年…人修羅の姿を思い浮かべた。
ディティクト・マジックで計りきれぬ強大な魔力、系統魔法とは違う、先住魔法らしき魔法。
そして別の文化圏という、ハルケギニアを冷静に判断する視点の持ちよう。
彼が戦争を望むのなら、ハルケギニアを戦乱の渦に陥れ、世界を破滅させることも可能かもしれない。
彼が戦争を望まなくとも、その力を欲する様々な者達が、彼とルイズを混乱へと導くかもしれない……。

「メイジとして一人前になれなくとも、せめて貴族として社交を身につけて欲しいと、そう思って魔法学院に行かせた。だが、ルイズは、とんでもないモノを召喚してしまった」
そう呟いた公爵を、カリーヌが諫めた。
「女々しいですよ、あなた。ルイズは私たちが思っているよりもずっと困難な道を歩むのかもしれませんが…これも始祖のお導きかもしれないのですから」
「うむ…そうだな、そうだな。カトレアを診てくれたミスタ・人修羅に対しても、些か失礼な物言いになってしまった」

そう言って公爵は空を見上げた。

あまりにも強大過ぎる力の出現は、ハルケギニアにどんな影響をもたらすのか……
二人は、その力がルイズと人修羅自身を傷つけることにならぬよう、祈る以外に無かった。


◆◆◆◆◆◆



朝早くラ・ヴァリエールの屋敷を出たルイズと人修羅は、ゴーレムの御者が手綱を握るブルーム・スタイルの馬車に乗ってトリステイン魔法学院を目指していた。
ルイズは揺れる馬車の座席に座り、人修羅に寄りかかって夢を見ている、人修羅は実家に帰っても気の休まる暇がないルイズを案じて、魔法学院に到着するまで余計な声はかけないように勤めていた。

ごとん、という地面からの衝撃で、ルイズの体が前へと傾きそうになると、人修羅はそっとルイズの肩を押さえて体を支える。
ラ・ヴァリエールの領地にある屋敷と、魔法学院の間はそれなりの距離がある。
平均的な馬で三日ほどの距離があるのだが、帰りは馬でなく竜を使って馬車を引かせているため、移動時間を大幅に短縮できるとのことだった。
その見返りとして、ちょっとした地面の凹凸が大きく響くいてしまう、人修羅は、ふと中世の戦車はこのような物だったのか?と考えた。
古い時代の武将や、レギオンを召喚できたら聞いてみよう…そう考えて、またルイズに目を向けた。

安心して眠るルイズの姿は、妹が居たらこんな感じだったのか、と想像させるに十分な可愛らしさがあった。



◆◆◆◆◆◆


ルイズは夢を見ていた、舞台はラ・ヴァリエールの領地にある屋敷、つい先ほどまで一時帰省していたはずなのだが、どこか雰囲気が違っていた。

夢の中のルイズは、屋敷の中庭を逃げ回っていた。
背丈と同じぐらいの高さだった植え込みが、まるで迷宮のようで、ルイズは誰かから逃げるようにその陰に隠れていた。
二つの月のうち、片方が隠れてしまう夕方のひととき、一つの太陽と一つの月が交差する時間。
「ルイズ!どこに行ったの? まだお説教は終わっていないのですよ!」

その声でルイズは、これが夢なのだと悟った。

聞こえてきた声は母。
ルイズはデキのいい姉たちと魔法の成績を比べられ、物覚えが悪いと叱られていた。
実際は母に叱られたことなど殆ど無い、だが、母の恐ろしさといったら家庭教師のそれとは比べものにもならない。
だから夢の中にも登場し、ルイズを叱りつけては、魔法のできが悪いと怒るのだろうか。
(これは、子供の頃の夢…)
そう思いながらも、夢から抜け出すことは出来ない。

だんだんと辺りが暗くなる頃、植え込みの下から、誰かの靴が見えた。
「ルイズお嬢様は難儀だねえ」
「まったくだ。上の二人のお嬢様はあんなに魔法がおできになるっていうのに……」

召使い達が自分のうわさ話をしている、それがとても悔しくて悲しくて、ルイズは両手を強く握りしめ、歯がみした。
召使い達が植え込みの中をがさごそと捜し始めたので、ルイズは植え込みの隙間を器用にくぐり抜け、中庭へと逃げ出した。


中庭にはあまり人が寄りつかない、が、その場所こそがルイズにとって最も落ち着ける場所だった。
池を中心に様々な花が咲き乱れ、小鳥が集う。石のアーチをくぐり抜けベンチの脇を通り過ぎ、池遊び用の小舟に乗り込むと、小さなオールを使って池の中心へと向かう。
池の真ん中には小さな島があり、そこには白い石で作られた東屋が建っている、ルイズはこの場所を『秘密の場所』と呼んでいた。

成長し、大人になった姉二人も、軍務を退いた両親も、昔はこの小さな池で船遊びをしていた。
だが今は忘れさられたのか、そこに浮かぶ小船を気に留めるものは、この屋敷にルイズ以外居ない。
ルイズは叱りを受けると、決まってこの中庭の池に浮かぶ小船の中に逃げ込み、一人でぼっちでただ時間が過ぎるのを待っていた。

幼いルイズは小船の中に忍び込むと、以前から用意してあった毛布に潜り込む。
毛布にくるまって顔だけを出していると、不意に誰かの姿が思い浮かんだ。

全身に入れ墨を入れた青年、人修羅の姿が、脳裏に浮かんだのだ。
すると不思議なことに、体に優しい暖かさが感じられた、人修羅が自分の肩を抱いてくれてくれている……そう思うと、ルイズの寂しさはいつの間にか暖かさに変わっていった。

「……?」


人修羅とは違う誰かの気配に、ふと顔を上げる。
いつの間にか小島には霧がかかっており、その向こうから誰かが近づいてくる。
その姿はマントを羽織った立派な貴族のようで、年のころは十六歳ぐらいに見える、人修羅と同じぐらいの男性だ。
「泣いているのかい? ルイズ」
その人物はつばの広い、羽根つきの帽子を被っていたので、顔を見ることができなかった。
だが、ルイズはその声を良く知っていた、彼が誰なのかすぐにわかったのだ。
夢の中で、ルイズは胸が熱くなるのを感じた。
すぐ隣の領地を相続した、憧れの子爵であり、晩餐会をよく共にし、自分を気にかけてくれる人である。

ルイズは、子爵と、父の間で交わされた約束を思い出した。

「子爵さま、いらしてたのですか?」
幼いルイズは慌てて毛布で顔を隠す、憧れの人にみっともないところを見られてしまった、その恥ずかしさでルイズの顔はますます赤くなった。
「今日はきみのお父上に呼ばれたのさ。あのお話のことでね」
「まあ!」
ルイズはさらに頬を染めて、俯いた。
「いけない人ですわ。子爵さまは……」
「ルイズ。ぼくの小さなルイズ。きみはぼくのことが嫌いかい?」
ほんの少しおどけた様子で子爵が言う、すると夢の中のルイズは、小さく左右に首を振った。
「いえ、そんなことはありませんわ。でも。わたし、まだ小さいし、よくわかりませんわ」
そう言って、ルイズははにかんだ。
子爵もにっこりと笑い、ルイズにそっと手をさしのべてくる。
「子爵さま」
「ミ・レィディ。手を貸してあげよう。もうじき晩餐会が始まるよ。さあ、掴まって」
ルイズは差し出された手に、自分の手を重ねようとしたが、母親に怒られていたことを思い出し手を引っ込めてしまった。
「でも、わたし」
「また怒られたんだね? 大丈夫だ、ぼくからお父上にとりなしてあげよう」

小さな島の岸辺、から小船に乗るルイズに手が差し伸べられる。
その手は大きな手で、憧れの手だった。
ルイズは立ち上がると、そっと…子爵の手を握った。

その時、風が吹いて子爵の帽子が飛んだ。

飛んでいった帽子を見ていると、その先に、人修羅の姿が見えた。

「ひとしゅら!」

霧のかかった池は、いつの間にか巨大な湖と化していた。
その向こうで人修羅が立っている。
まるで…ルイズを祝福するように笑顔を向けていた。


それがたまらなく寂しくて、ルイズは子爵の手を離し、人修羅へと向き直った。


「人修羅! ……ついてきて、くれないの」


◆◆◆◆◆◆


夕方。
魔法学院に到着したルイズと人修羅は、学院長に一時帰省の内容を報告した。
カトレアの治癒についていくつか報告した後、アンリエッタ姫殿下からの手紙を預かっているとのことで、ルイズだけが学院長室に残された。

人修羅が学院長室から出て、本塔の階段を下りていくと、途中でコルベールとロングビルの二人を見かけた。
「おやミスタ人修羅、いつの間に戻られたのですか」とコルベール。
「つい先ほどですよ」人修羅は笑顔で返す。
「ラ・ヴァリエール公爵にもお会いできましたかな?」
コルベールがそう聞くと、人修羅は顔を引きつらせた。
「むっちゃくちゃ緊張しました」
「ははは、まあ仕方ないでしょう」

と、そこで人修羅はあることを思いついた。
「あ、そうだ。ちょっと相談があるんですが」
「何でしょう?」
「実はまたルイズさんと外出することになりそうなんです。それで護衛に必要な道具が欲しくて」
「ほう。道具ですか…」
コルベールがううむと唸る。
「…道具を必要とするんですか?貴方が?」
ロングビルが不思議そうな顔で聞いてくる、すると、人修羅は苦笑いして答えた。
「手加減のために必要なんですよ」
「そ、そうですか…」
気のせいかロングビルの笑顔は、引きつっていた。


◆◆◆◆◆◆


しばらく後。
部屋に戻ったルイズは、人修羅の姿がないことに気が付き、ふん、と鼻を鳴らした。
「まったく、何処に行ったのかしら、人修羅ったら」
ぐるりと部屋を見渡すと、壁に立てかけているはずのデルフリンガーが無い。
また外で訓練をしているのだろうか?ルイズはそんなことを考えながら、窓から外を見た。

辺りを見回すと、魔法学院の塀の上に座っている影が見えた、よく見ると背中に剣らしきモノを背負っている…人修羅だ。
その隣には小柄な誰かが座っている、おそらくタバサだろう。
ルイズは驚いて口を開けたまま、並んで座る二人を凝視した。
「……っ!」
カーッと頭に血が上る、ご主人様を放っておいて何をやってるの!と叫びそうになるが、かろうじてそれを押しとどめ、ばたーんと勢いよく扉を開けて外へと駆けだしていった。


「ちょっとー!人修羅ー!」
「あ、ルイズさーん」
外壁の下からかけられた声に、人修羅はのんきな調子で答えた。
「ご主人様を放っておいて何やってるのよー!」
「ああ、ごめん。すぐ降りるよ」
そう言うと、人修羅は手の力だけで跳躍し、ルイズの隣へと着地した。
「ごめんごめん、ちょっと相談を受けててさ」
「相談ですって?……タバサが、貴方に?」

タバサという少女は、寡黙でしかも人付き合いが少ない。
自分から何かを相談するとは思えなかったが、人修羅が嘘を言っているようにも思えなかった。
人修羅は上を見上げると、塀の上からこちらを見下ろしているタバサに声をかける。
「タバサさん。さっき言った通り、ルイズさんにも説明してくれないかなあ」
「……わかった」
タバサは少し大げさに頷くと、レビテーションを使ってふわりと地面に降り立っち、服に付いた埃を払って、ルイズの瞳を見つめた。


「な、何よ」
「人修羅が。貴方の姉を治癒して、一定の効果があったと聞いた……どうか、お願い。私にも治癒の力を貸して欲しい。母を、治したい」
「え?」
ルイズは、タバサの口から紡がれた言葉があまりにも意外だったので、言葉を失った。
そして、もしかしたら彼女の無口の理由はそこにあるのではないか…と勝手な想像を働かせてしまい、目をぱちくりとさせた。

「ルイズさん、ちょっと話はややこしいんだが…タバサさんの身内は、どうも普通の病気じゃないらしいんだ。
今までにも治癒のメイジに頼んだり、治癒の文献を読みあさって調べたらしいけど、全く原因もわからないらしい」
人修羅が説明をくわえる、と、ルイズは納得いったかのように頷いた。
「…そう、そうだったの。解ったわ、家族が病気なのは辛いわよね。でもしばらく待って貰えないかしら、私、明日からまたしばらく魔法学院を離れることになりそうなの。
帰ってきたら具体的な話を聞かせて、それで協力するかどうか決めるから」
「わかった」
タバサは小さく頷いて、そのまま魔法学院の寮塔へと戻っていった。



人修羅はタバサを見送った後、ルイズに促されて近くのベンチに座る。
「はあ…、そっか。タバサもそうだったんだ」
ルイズがため息を漏らす。
人修羅は少し間をおいてから、ルイズに声をかけた。
「ルイズさん、当分魔法学院を離れるって事は、王女様に会いに行くのと関係してるの?」
「え? そうなんだけど、ちょっと大変なことになりそうなの。オールド・オスマンが仰るには、明日にでもお忍びで姫殿下が来訪されるとか…」
どこか納得のいかなそうな顔で、ルイズはため息をついた。
「お姫様が来訪?ってことは、この魔法学院に?」
「そうよ…どうしても私と話したかったみたいなの……。なんか、私、複雑だわ」

幼なじみが政略結婚する…そんな経験は、人修羅にあるはずが無かった、かける言葉が見つからず、俯いたルイズを見守ることしかできない。

「あのね…姫様と会って、どんな話をすればいいのか解らないのもそうだけど…
私、立派なメイジになって姫様を助けたいって思ってたの。
お母様みたいに立派なメイジになれれば、何でもできるって思ってたのに、私はまだ何もできないのよ」
「だけどルイズさんは、俺を召喚したじゃないか」
「そうだけど、そうだけど……そうじゃないのよ。誰よりも強くて何よりも凄い使い魔を欲しがったのは私だけど。
だけど、オールド・オスマンも、お父様もお母様もお姉様も、人修羅を怖がるじゃないの。誰も、褒めてくれないわ…」

ずしりと、肩が重くなる気がした。

もし、ルイズが『もっと凄い使い魔が欲しかった』と駄々をこねたなら、人修羅は苦笑だけで済ませただろう。
もし、ルイズが『人修羅は最高の使い魔だからどんな敵も倒せる』と言ったなら、人修羅は怒っただろう。
もし、ルイズが『人修羅なんかいらない』と言ったなら、仕方ないと言ってそのまま旅に出ただろう。

しかしルイズは、ただひたすらに自分の不甲斐なさを責めていた。

「さっき、タバサがレビテーションを使って、外壁の上から降りてきたわ、私はまだレビテーションだって、アンロックだって確実にできないのに。なんだろう、私、悔しい……」

人修羅の出現で、皆の注目がルイズから人修羅へと移ってしまった。
その事で人修羅を責めるのは筋違いだと理解しているから、ルイズは自分を責めることを選んだ。

「ルイズさん」
そう言って、人修羅はルイズの肩を掴み、振り向かせた。

「悔しがらない人間はいない。悩まない人間は居ない。いや……何の悩みもなしに行動する人間より、悩んで、悩んで、それを乗り越えた人こそ、本当に尊敬されるべきだと思う」
ルイズはきょとん、とした顔で人修羅の言葉に耳を傾けている。
「ルイズさん、俺の力をどう使うか、ルイズさんの肩にかかってるんだ。俺は無闇に人を殺すつもりもないし争うつもりもない。
もしルイズさんが残酷な人だったら、俺はルイズさんの元に居ないよ、そうやって悩むことができるから、俺はルイズさんの元にいられるんだ」

「悩む…」
「そうだ。ルイズさんが悩んでいるのは、俺という存在がルイズさんの肩にかかっているからだろ、それは俺の行動の責任を取ろうとしてくれるからだろう。俺がもし他人の使い魔ならルイズさんはそんなに悩まないはずだ」

「うん…そう、そうよ、でも人修羅が嫌いって訳じゃないわ、今までと私の扱いが違って…だから……人修羅にふさわしい主人になりたいのよ」
「それこそ貴族じゃないか。ノーブレス・オブ…何だっけ。ええと、とにかくルイズさんは、貴族って立場の責任を取ろうとしているんだろ。その悩みこそ貴族の悩みじゃないか、立場と責任ある人の悩みじゃないか。
『ふさわしい』とか『ふさわしくない』じゃないんだ。ルイズさんが俺をどうしたいのか、自分がどうなりたいのかを決めるんだ。今はそれを決めるために悩んでいるんだろう?それこそ……貴族じゃないのかなあ」


ルイズは、頭の中でぐちゃぐちゃになっていたものが、少しずつ解けていく気がした。
ラ・ヴァリエール家の人間として教育を受け、領地を持つ貴族がどんな仕事をするのか理解しているつもりだったが、実は何も解っていなかったのだと、気づいてしまった。
大貴族は『領地』の管理を地方太守に任せているが、それはあくまでも現状維持を任せているだけである。
領地を発展させるには、領主がしっかりと方針を定めなくてはならない、例え部下が失敗したとしても、部下に仕事を任せた責任が付きまとう。

人修羅は、自分にとって唯一の『領地』であり『領民』なのかもしれない。

人修羅だけでもこんなに悩むのに、魔法学院を預かるオールド・オスマンは、領地を預かる父母は、王女たるアンリエッタ姫殿下はどれほどの苦悩の中にいるのだろうか。

ルイズはそこまで考えると、両肩に置かれていた人修羅の手をどかし、目に力を込めて人修羅を見返した。

「人修羅、ごめんなさい。私、泣き言を言っちゃったわ。
私が領主で、人修羅が領民なら、私の言葉は領民を不安にさせる失言だったわよね。
私より悩んでいる人なんていっぱい居るのに、それに今更人修羅の主人として相応しいか悩むなんて…駄目ね」

そう言ってルイズは笑顔を見せる、つられて人修羅の表情も軟らかくなり、二人で微笑みあった。
「しっかりしてくれよ」
「解っているわよ。…とりあえず、そろそろ部屋に戻りましょう」

ルイズが立ち上がる、が、人修羅はベンチに座ったまま近くの花壇に視線を向けた。
「悪いけど先に戻っていてくれないか?」
「…いいけど、早く戻ってきなさいよね」
そう言って、ルイズは早足で寮塔へと戻っていった。



ルイズを見送った後、人修羅は唐突に身をかがめ、まるでカエルのようにびょーんと跳躍し、10メイルほど離れた花壇の裏側へと着地する。

「のぞき見かっ?」
「うわああっ!?」
花壇の裏側にいたのは、マリコルヌだった。
人修羅が真後ろに着地したので、マリコルは驚き、丸っこい体で地面を転がる。
「デバガメか!覗きか!つーか何してるんだよ」
「わ、わ、いや、別に。ちょっとスカートがめくれ上がってベンチの後ろからパンティが見えていたとかそんなことは絶対にないよ!」

人修羅はコケた。
「マリコルヌ…その情熱は凄いと思うけど、みっともないとは思わないのかよ」
人修羅が呆れたように呟くと、マリコルヌは立ち上ってふんぞり返り、偉そうに口を開いた。
「何言ってるのさ、最近のヴァリエールは、いや、君が召喚されてからのヴァリエールはツンとしたところが半減してどこか物憂げな感じで、これはこれで良いんだ。
そんなパンツを覗かずにいられると思うかい?偶然見てしまうよ!これは事故だよ」
「どこが事故だよ…」

人修羅は頭を抱えたが、ふと何かを思いついて、マリコルヌに小声で話しかけた。
「ところでさ、話は聞こえていた?」
「ま、まあ不本意ながら」
申し訳なさそうにするマリコルヌを見て、人修羅は苦笑いした。
「一応秘密らしいから、黙っててくれないか」
「もちろんだ。女の子のスリーサイズと同じぐらい大事な秘密だからね。決して口外しないよ」
「やっぱり、バカだろうお前」


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