あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロの使い魔~我は魔を断つ双剣なり~-17


走れ、ただ今は走れ。そう足に命じて路地を駆け抜けて行く。
何処を走っているかわからない。息切れがして苦しい。足がもつれてこけそうになる。
何かに引っ掛けてブラウスが破れる。スカートがこけて泥だらけになる。
だけど、止まれない。止まってはいけない。

――GIIIIII’AAAAAAAAHHHHH!

今まで聞いてきたどんな獣の声ともつかない、魂まで凍りつかせるおぞましい咆哮が背を撫ぜた。
冷や水をかけられたような悪寒が走り抜け、全身が総毛立つ。
振向いたら最後、その声から逃れるすべはない。脅迫めいた思考がルイズの足を動かす。
眼の前の建物が後ろに流れて行き、背後ですぐさま崩れる音がする。
アレが、建物を壊しながらやってきているのだ。自分を狙って追いかけているのだ。
そうだと限らないのに、だけど、そうだと理解できた。
だから走る、走り続ける。
いったい、どうしてこんな事になったんだろうとルイズは考える。
ただ、ちょっと追い出してしまった自分の使い魔を連れ戻すだけだったはずなのに。
見つけて、怒って、連れて帰るだけだった筈なのに。
それがどうしてこんな事に。
ルイズの脳裏に【あれ】の姿がよぎる。
病的に生々しい白色をうねらせた、自分の肩幅よりふた周りも大きな胴回りの、巨大な、巨大な、それ。
瞳はなく、こちらに向けた口腔にはびっしりと埋め尽くされた牙は汚濁した粘液で濡れていて。
突然現れたバケモノ、もしあのまま逃げられなかったらと思う。
牙に裂かれる皮膚、引き千切られる四肢、咀嚼され嚥下される肉、残るものはない。
血に塗れ虚ろな目を向ける自分の生首を想像し、全身から熱が去るのを覚えた。
とにかく逃げなければ、それだけを考えルイズは路地を駆け抜ける。
でも、どうして誰も気づかないのだろうか。こんなに大きな音をたてているのに、こんなに
地響きがするのに。
誰も来ない。誰も気づかない。
まるで自分だけがこの世界に取り残されたような錯覚。

――そりゃそうさ、君と騎士殿に必要なイベントだからね。御都合主義というやつさ

「……っ」
一瞬の忘我、ルイズは頭の中で何かが聞こえたような気がした。だが、それは気のせいだった
気もする。
いや、それよりも逃げなければ。思考を切り替える。言い聞かせる。脳に命じる。
迷路のような路地を駆け抜け、右、左、斜め右と、ジグザグに逃げる。
遠くで人の声がした。だが、そちらに逃げることはできない。もし逃げればどんな事になるか
なんて考えるまでもない。
しかし、体力の限界は、いよいよ本当の限界を迎える。
「きゃあっ!」
足がもつれ、前につんのめり、勢いは殺される事なく前方に三回転して盛大にこけてしまう。
「ううっ……」
呻き、立ち上がろうとするが、疲れきった足は悲鳴を上げていてもう動きようがない。
腕が震えて、起き上がることすら出来ない。
そして、

――GIIIIII’AAAAAAAAHHHHH!
また、あの咆哮が。
逃げなければ、そう思考するが、体が言う事をきかない。地響きは確実に自分の元に近づき、
路地裏に漂うそれとは異なる、吐き気を催す、据えた匂いが鼻を突く。
「ッ――!?」
脳内を、今まで感じた事のない灼熱が疾走(はし)るのを覚える。
それは痛みという感覚からかけ離れていた。
人の言語では到底表す事の出来ないソレは脳内を反響して肉体の隅から隅までくまなく
伝播していく。

――蛆!
――■ドウ■ク・プ■ン
――■e ■er■is M■steriis!
──蛆、妖■、蟲、■蛆──!

頭の中を語【ワード】が走る。意味を成さず、流れていく。今のルイズには理解すら出来ない
語句は流れ泡沫となって消える。


――閲覧接続異常発生
術師、魔導書閲覧位階に未到達、魔導書閲覧不可
魔導書閲覧の接続を強制解除→承認
異界領域からの接続を遮断
結界外からの接続を遮断
――第192542182167世界への接続を全遮断
――情報削除
――記録削除
 ・
 ・
 ・
 ・
――削除完了


怒涛のように押し寄せた情報は一瞬の内にルイズの中から失われた。消失した記憶は再び一瞬の
忘我となる。だが、それをルイズが認識する事はない。
「逃げな……きゃ」
生まれたばかりの子鹿のように足を震わせて立ち上がろうとする。こんな事になるのなら
来なければ良かったと思う。だが、既に起きてしまった事を悔やむ暇は今はない。
今は逃げなければ。
壁に手を付き、ようやく立ち上がろうとしたその瞬間、

――GuuuuuruuuI’iiiiiiHHHHHHH!

「ッッ!?」
咆哮がルイズの鼓膜を震わせ、眼の前の石畳が――割れた。その振動に揺られ、尻餅をつく。
汚濁した粘液に覆われた死肉の色が、割れた石畳を突き破って噴出す。
1、2、3――5メイルに及ぼうかという巨体が影を生む。
見上げると、こちらに向けた口腔内、敷き詰められた牙が歓喜するように戦慄いた。
「……ぁ」
全身が金縛りにあったように、微動だにできなくなった。2メイルの幅もない路地裏を、戦慄く
肉壁が立ち塞ぐ。

嗚呼、駄目だ。
もう、助からない。

眼前の絶望に、全身の気力が抜け落ちた。限界まで疲労達した疲労が身体を微動だにもさせない。
諦観が、ルイズの心を塗りつぶしていく。だが、それでも肉体は恐怖に震える。
恐怖に震えるが、だが、何もできない。致命的な諦観がルイズの瞳を閉じさせる。

世界が暗闇に閉ざされていく――

疲弊し、怯え、竦む『殻』となりえる少女を蟲は見下ろした。それが持つ匂いを感じ取る器官が
その少女の肉がどれほど美味で、その臓物がどれほど美味いのかを察知する。
少女がここで生きるための『殻』としてだけではなく、食事にも適してる事に歓喜し戦慄つ。
背骨を抉り出し、髄をすすり、骨にこびりつく肉を削ぎ、血に照る腸を噛み千切り咀嚼する。
皮膚に残る肉を噛み砕き、嚥下する。眼球を噛み潰し、濃厚な汁をすする。
そうして肉を己の糧とする事で、蟲は少女の持つ肉の形を覚える。
そうする事で、己が少女の肉の内に納まることが出来るのを本能で知る。
故に、蟲は歓喜する。
芳しい香りを放つ少女の身の内に潜む厖大な魔力と甘美な肉の味を共に味わえる事に。
人とは異なる思考形態で蟲は少女を今まさに喰らわんと決断する。
牙をむき出し、口腔内を曝け出し、竦む少女へと狙いを定める。
叫ぶ少女の絶叫を耳にあたる器官で感じ取りつつ、迫る。
そして、

――GUuuuuuuuuRaaaaAAAAaaaaaaahhhhhhhhhhhh!

地響きと咆哮と共に、蟲は大地に、ルイズに、その悪怪なる歯牙をたたきつけた。
しかし、
「――!?」
割れた大地、たたきつけた汚濁した牙。だが、肉の感触はそこになかった。
香る少女の肉の美味がそこにない。
少女の姿が、汚濁した牙に貫かれ、美味なる血を垂れ流し、潰れた臓腑を撒き散らし、
痙攣する少女の姿が、か細い悲鳴をあげる少女の声が、そこに、そこに、どこにも、ない。
蟲の思考が、人の言う所の戸惑いを覚えた。瞬時に獲物の居場所を追おうとする本能が探る。
感覚器官を周囲にめぐらせ、消えた少女を追う。
嗅覚器官から伝わる少女の香りの残滓を追う。
聴覚器官から伝わる少女の心臓の鼓動を追う。
追う、追う、追う。
追って、追いかけ、探り、そして。
「――――!」
蟲は気づいてしまった。
そこにいる存在を感知してしまった。
それは圧倒的畏怖と、超越的絶望、宇宙的な悪意を持って蟲に受け入れられる存在。
それを蟲は気づいてしまった。

――そこにいる

――自分の近くに

――【我等の怨敵が】いる

退化した視覚器官ではなく、蟲自身が本来持つ、魔術的感知器官。この世界に生まれた事により
変化したその細胞が読み取り感知する。
それは少女の側にいた。それは少女を守るようにそこにいた。それは蟲を見ていた。
それは蟲が最も恐れるべき存在。
それは、それは――

空を飛んでいた。大地を踏みしめる重さが身体から消失し、風が頬を撫でていた。
初めての浮遊感、自分一人で、空の中にいるその感覚に胸がかすかに高鳴るのを覚えた。
そして、生きていることに。
「え……?」
そして恐怖に瞑った瞳を開き、眼下に広がる光景を目にする。
そこはトリステインの城下町。今先ほどまでいた路地裏がそこにあり、蟲がそこにいた。
その頭上を自分は飛び越え、弧を描き、また町へと下っていた。
そしてルイズは気づく。自分を抱え、空を跳んでいた者を。そしてその姿を双眸に収める。
蒼銀が、朝の陽光を反射する河のように煌めき、たなびいていた。
若草が、揺り篭に寝る赤子のようにルイズを優しく抱きしめていた。
乳白が、中性的に整った顔を彩り、清潔な美しさを微笑の中に湛えていた。
翡翠が、桃色のブロンドを映し、ルイズを覗き込んでいた。
衝撃を殺し、住家の屋根に降り立つ。
それは美しい少女だった。それはまるで御伽噺の中の存在だった。妖精の様だった。
そして自分はそんな少女にお姫様抱っこされていた。
だが、それは紛れもなく、
「クザク……?」
どういう訳か女装をしていた自分の使い魔だった。ただでさえ女性じみた中性的な顔立ちが
薄化粧によって、完全に女性のそれとなっていた。
だが、間違いなく、自分の使い魔であるダイジュウジクザクだった。
「大丈夫か、ルイズ?」
「あ、う、うん。アタシは大丈夫だけど……」
お姫様抱っこで、しかも(一般的観点で)美男子に無事かどうか心配してもらえるなんて乙女的
観点からすればこれ以上は無いほどの好シチュエーション。
しかし、
「ルイズ、何処か怪我でもしたのか?」
心配げな眼差しに酷く何故か心が痛む。正直自分にはそういう属性とかそういう趣味はないはず
だったのだが、嗚呼どうしてか。
「そうじゃないけど……あの、その、えっと……」
「ん?」
「ご、ごきげんよう」
「……ごきげんよう」

――さわやかな昼過ぎの挨拶が、汚濁した大気の中に木霊した。

もちろん、別に深い意味はない。ただ言ってみたかっただけですね、良く分かります。
「ルイズ――」
「え?」
その瞬間クザクの瞳の色が変わる。翡翠が引絞られ、抱える腕が、全身が緊張に強張る。
「――跳ぶぞ!!」
「え……あ、きゃあっ!?」
言うが早いか再び空へと跳躍。同時、今先ほどまで立っていた屋根が崩れ去った。
そこに現れたのはあの巨大な蟲の腹、屋根を突き破り、口腔が再び牙を剥いていた。
「な、何なのよあれ!? ああ、あれ……おっきくなってる! それに太くなってる!」
その通りだった。先ほど2メイルかそこらしかなかった蟲の巨体、それが今では5メイルを
超えようとしている。
「叫ぶのは後だ! 逃げるぞ!」
蟲から距離を取るように路地裏に着地するや否や、九朔は二の句を告げさせる間もなく駆けた。
ルイズが悲鳴をあげるが、構いなしに右から左へと聞き流し、入り組んだ町中を走り抜ける。
「……しかし奇妙だ」
駆ける速度を落とすことなく九朔は呟く。
これほどの大騒ぎだというのに、周りに人の姿が見えない。周りは閑散とし、建物自体も数年は
人が住んでないようなものばかりではあったが、それにしても人一人見ないとはどういうことか。
人がいないと言う事は、必然的に二次的な被害は防げる事になるのだが、それにしても余りにも
異常なこの状況はなんだというのか。
「クザク……」
その不安はルイズも感じているのか、九朔の若草色のワンピースの袖を握り締め震えている。
――そうだ、ルイズだ。
彼女は自分が辿り着くまで独りであの蛆から逃げ切ったのだ。その恐怖、どれ程のものだったか。
本当に間に合ってよかった、心からそう思う。
そう、例え爆発魔法とやらをぶつけられて窓から放り捨てられようと、お仕置きと称して木に
括り付けられようと、はたまた爆発魔法で空に打ち上げられようと、良かったと思う。
……別に怨んじゃいない、うん。ちょっと、軽く、腹が立つだけ。
だが、それでも
「良く頑張ったな」
「え?」
「ここからは我に任せろ。我が、汝を守る」
それは本当だ。しかし、口を衝いて出た言葉に、ルイズの顔が一瞬固まるのを見た。
「なっ……な、ななっ……なあっ……!」
「なんだ?」
「な……何でもない!」
「そうか。――ならば、しっかり掴まっておれ!」
後ろから追いすがる蛆の戦慄きを大気に感じつつ、それを引き離さんと足に力を込める。
身の内から滾々と湧き上がる力は際限なく、疾風となって町を駆け抜ける。ギーシュと決闘を
したときと同じあの力が、五臓六腑に染み渡るのを感じる。
そうだ、今は何も考えず、彼女を守る事だけを考えねば。念じ、九朔は駆けた。
町中を駆ける。左へ、右へ、右斜め前へ、左斜め後ろへ、ジグザグに駆ける。
壁を駆け上がり、腐った木壁を蹴り倒す。
咆哮が背を撫ぜる。しかし、その咆哮すら押し退けるが如くにさらに疾走する。
疾走、疾走、疾走疾駆。
跳びあがり、屋根に飛び移る。蟲の姿は見えない。だが、止まらず駆ける。
駆ける。
駆ける。
駆ける。
疾走る。
疾走る。
疾走る。
跳ぶ。
跳ぶ。
跳ぶ。

――だが、逃げども、逃げども、終わりは、ない

走れども走れども、何処にも辿り着く気配が無い。メビウスの輪のように終わりが無い。
それはまるで、自分たちの世界だけが切り離されたような、そんな感覚。
これほどの騒ぎにも関わらず、官警の一人すら出てこない。それは明らかな異常事態。
やはり、何かがおかしい。
ザラつくような不快感が胸で澱む。その不快感が何か、それを知る術も知識も九朔にはない。
にも関わらず、その不快感を九朔は『識っていた』。
意味不明な矛盾に混乱しそうになる思考、果たして自分は何を識っているというのか。
まるで何かに突き動かされるように、九朔はそれを思い出そうとする。
疾駆する肉体で思考を疾走らせ、深く深く、原初の記憶まで遡ろうとする。
穴あきの、字の欠けた書を保管するように探り、パズルを組み合わせるように思考する。
かすかに浮かぶワード、それがゆっくりとおぼろげに九朔の脳内で構築されていく。
それは――
それの名は――
その■■は――

――N#%rl?t⊿§∑ep
「が……は……っ!?」
脳を、何かが灼いた。知らないはずの――いや、知っていたはずの【何か】が灼いた。
それは、思い出してはいけないのか。それとも、思い出すべきなのか。
覚えているのに、覚えていない。
知らないはずなのに、知っている。だが、知らない。知っている。

――それは、世界と裏と表の狭間を裏返しにした三角形を外側に四次元的に開いた六尺三寸虫が
凡人に生卵をアイスの当たりくじに含めた衝撃的クライアントにこれはです奇妙なボールの座り
ますいえあげませんぼくはそのこれをいえませんいえますソレしっているだれだれきみぼくそれ
あれしってるしらないしりますしりません……尻?
知り私利四里尻シリシリシリカゲル死霊資料飼料支流しりりりりジリリリリジリリリリちりり
りりりチクタクチクタク

=死■秘■/わR% →???
→虚数魔術領域へのアクセス/%◇■#の記述へのアクセス/異界との接続
暗号解読不可―――■■■◇の断片情報の破損を確認
破損術式再構築を開始
破損領域再構築を開始
全情報への接続を停止

 *警告* *警告* *警告* *警告* *警告* *警告* *警告* *警告* *警告*
 *警告* *警告* *警告* *警告* *警告* *警告* *警告* *警告* *警告*
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 ・復元完了まで全術式をシャットダウン
 ・再起動まで全術式の使用を一時停止
                                   ――全術式、停止
「か……は……っ!」
脳を途方もない熱量が灼いた。その激痛、四肢を引き千切られたかのようにさえ錯覚する。
「きゃあっ!?」
悲鳴が上がる。だが、誰のものか一瞬判別が付かなかった。それほどに激痛はすさまじかった。
「あ……がぁ……」
「――ク!? ね、――え――ザク!? ――――たのよ!?」
遠くから、近くから、ルイズの声が山彦となって頭の中で反響した。視界は焦点が定まらないか
ぼやけ、彼女の姿を鮮明に捉えられない。
全身が痛みで麻痺する。
脂汗が額を伝う。
その汗さえも、痛みとして知覚する。
だが、今は。
だが、今は。
それよりも、今は。
「――――ッッッ!」
脳を灼く痛みとは別の、全身を駆け巡る悪寒が九朔の肉体を動かした。
ぼやける視界に映りこんだルイズを、激痛で麻痺する肉体で抱きかかえ、飛び退く。
ルイズの悲鳴が耳もとで山彦となって反響し――――

ゴッッッ――――!

同時、足元の石畳が崩壊した。
大騒音/大音響のシンフォニーが空間を満たし、大地が、石畳が、奈落に呑まれる。
立ち並ぶ家屋さえも巻き込み、路地裏の一角が陥没する。
飛び退いた筈も、しかし、奈落は一瞬で九朔達の足元へと迫り、人を呑んだ。
「ぐぅっ……!」
「きゃああああああっ!」
魔法世界にも関わらず働く物理法則に従い、二人の肉体は奈落の底へと落下する。

世界は一路、真昼の光の下から漆黒の闇へ。


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