あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

重攻の使い魔-02


第2話 『日常非日常』


 ルイズが自室で目を覚ました時、真っ先に視界に入ってきたのは昨日召喚した赤いゴーレムだった。あの後、ルイズは自室に戻り、ゴーレムを室内に入れようとしたが、ちょっとばかり苦労した。なにぶんこのゴーレムは身長が2.5メイルもあり、立っているだけで天井スレスレなのだ。横幅もこれまた相当に広く、そんな図体の大きい代物を廊下に置いておく訳にもいかない。共有空間の私物化で咎められる可能性もある。
 そのため、ルイズはゴーレムを室内に入れることに決めたのだ。しかし、廊下を歩くだけで窮屈そうなゴーレムは自室のドアをくぐるにも一筋縄ではいかず、まるでパズルを解くかのように腕を曲げ、足を曲げ、体をひねり、30分ほどかけてようやく部屋に入れることが出来たのだった。

「んー……、にひひ。わたしの使い魔かぁ」

 ルイズはしげしげと自らの使い魔となったゴーレムを眺めると、思わず破顔する。間違いなく同級生の中では一番の使い魔だ。もうあんな魔法が使えるだけの馬鹿な連中に大きな顔はさせない。これまでの不遇の反動からか、ルイズの思考は少しばかり暴走気味であった。

「名前、まだ決めてないけど、どうしようかなぁ。レッドドワーフ・ダハク・イーヴァルディ……。どれもいまいちしっくりこないのよね」

 昨日の夜からルイズは使い魔の名前をどうするかで悩んでいた。考え始めた最初に比べれば大分候補を絞ってはいるのだが、なかなか決めるには至らなかった。これから長い付き合いになるだけに、絶対に後悔したくはない。とびっきりの名前を付けてあげようとルイズは決めていた。

「まあ時間はあるんだし、もうちょっと考えてからでもいいわよね。……とと、もうこんな時間じゃない、そろそろ準備しなくちゃ」

 扉の外からはがやがやと生徒が話す声が聞こえる。朝食の時間が近くなったので生徒達はみな大食堂に向かっているのだ。ルイズはぽんぽんと寝巻きを脱ぎ、かごへと放り込んでいく。洗濯物が入れられたかごは後で使用人に渡せばいい。朝食を食いはぐれるのは御免だとばかりにルイズは身支度を整えていく。

「さ、行くわよ。昨日のでコツは掴んだから大丈夫!」

 ルイズはそう命令すると、ゴーレムはのっそりと動き始める。昨日散々苦労した扉をくぐるのも、体を器用に回転させながら割とすんなり通ることができた。ルイズが扉を閉め、さあ食堂へ向かおうとした時、隣の部屋の扉が開いた。中から炎のように赤い髪をたたえた少女が出てくる。少女はルイズと傍に立つゴーレムを見ると、心持ち慎重な態度で話しかけてきた。

「あら、おはようルイズ。……そのゴーレムがあなたの使い魔?」

 少女は異様な存在感を出しているゴーレムが気になるのか、若干引き気味である。普段ならこの少女に声を掛けられると、決まってルイズは不機嫌になるものだったのだが、この日は違った。明るく弾んだ声でルイズは返事をする。

「そうよ、驚いたでしょ。こんな立派なゴーレムを使い魔にしてる貴族なんていないわ。あの土くれのフーケだってこんなの使える訳ないってものよ」
「そ、そう。よかったわね」

 普段のルイズとはかけ離れた態度に、少女はいささか面食らったようであった。犬猿の仲といっても差し支えないほどルイズと少女の間柄は好ましいものではなかったのだが。

「で、キュルケ、あんたは何を使い魔にしたの?」
「う、えーと、……この子よ」

 キュルケと呼ばれた少女は、若干どもりながら後ろを振り向き手招きする。すると扉の中からのっそりと、赤い鱗を持った巨大な爬虫類が現れた。廊下がむわっとした熱気に包まれる。

「あら、これってサラマンダーじゃない。あんたも中々やるわねぇ」
「……くっ、ナメてるわねルイズ」
「いいえ、そんなことないわよ? サラマンダーだって立派じゃない。もっともわたしのゴーレムには及ばないけどね」

 ルイズはそう言うと、ゴーレムの体をこんこんと叩いた。ルイズとキュルケが話をしている間も、ゴーレムは微動だにしない。ルイズよりも頭一つ背が高いキュルケも、このゴーレムの前では幼児同然の大きさだった。巨体が特徴のサラマンダーでさえ、ゴーレムの威圧感の前では存在感が霞んで見える。

「ふんっ。得体の知れないゴーレムより、実績のあるサラマンダーの方がよっぽど価値があるわよ」
「へーぇ、こんなに精密に作られたゴーレムよりもねぇ。ま、いいけど。ほら早いとこ食堂に行くわよ」

 そう言い放つと、ルイズはゴーレムを引きつれ、食堂へと足を向ける。ルイズの使い魔を見た生徒の中には、後ずさりをする者もいた。狭い廊下いっぱいを使ってのしのしと歩くゴーレムの威圧感はとてつもなかった。
 その立ち去るルイズの後姿を眺めながら、キュルケは抑えきれない悔しさに臍を噛んでいた。自分の使い魔はそこら凡百の使い魔とは違う。事実、サラマンダーを使い魔とできる者はそう多くはなく、使い魔とした者は例外なく優秀なメイジとなっている。何も劣等感を感じる必要はなかったのだが、それでもゴーレムのあの姿を見ると、サラマンダーが見劣りしているような気分になってしまうのだった。




 今までになく上機嫌で朝食を終えたルイズは引き続きゴーレムを随伴させながら、気分は大臣とばかりの足取りで教室へと向かう。すれ違う生徒が畏怖を込めた視線を送ってくるというのは表現の仕様がない快感だった。朝食を取っている間も、自分の後ろに立たせていたのだが、食堂にいた生徒・使用人全ての視線を集めていた。

(ふふん、あんたたちの使い魔なんて、わたしのゴーレムの足元にも及ばないんだから)

 特に他の生徒の使い魔と手合わせをしたわけではないので、どちらが強いなどという結論を出せるはずもないのだが、このゴーレムの巨躯は、圧倒的な力を秘めていると思わせるに足る雰囲気を醸し出していた。普段は重い気分で開く教室の扉も、今日はさわやかな気分で開けることができた。
 ルイズに引き続き、ぐりぐりと体を回転させながらゴーレムが教室に入ってくると、先に来ていた生徒達は一斉にルイズの方向を向いた。ルイズと目が合い、彼女がにやりと笑って見せると、そそくさと視線を外す。ここにいる薄ら馬鹿どもはきっと報復を恐れているに違いないのだ。それも当然、今まで散々無能だと馬鹿にしてきた人間が、見るからに強靭なゴーレムを使い魔にしたとあっては心穏やかではいられない。
 ルイズがゆうゆうと自分の席に向かう間も、侮蔑の言葉を投げかける者はいなかった。そしてそれは授業が始まるまで続いたのである。

(ああ、この感覚、たまらないわ!)

 横目で、ルイズへの嫉妬を隠しきれていない様子のキュルケを眺めながら、ルイズがひとり優越感に浸っていると、教室前方の扉が開き、中年の女性が入ってきた。女性はルイズのゴーレムを目にすると、軽く目を見開いたが、特別驚くでもなくゆったりとした声で話し始める。

「皆さん。春の使い魔の召喚は大成功のようですね。このシュヴルーズ、こうやって春の新学期に様々な使い魔たちを見るのがとても楽しみなのですよ」

 ルイズは先程のシュヴルーズの反応から、自分が声を掛けられることを半ば確信していた。土のメイジであるシュヴルーズが、このゴーレムを気に掛けないはずがない。今か今かと、ルイズは思わずそわそわしてしまう。

「ミス・ヴァリエール。あなたは素晴らしい使い魔を召喚したようですね。土のメイジとして、あなたのゴーレムからはとても強い力を感じますよ」

 きた!とルイズは思わず声を上げそうになった。しかし長年鍛え続けた自制心により、つとめて冷静かつ謙虚な態度で受け答えする。

「ありがとうございます、ミセス・シュヴルーズ。わたしもこのようなゴーレムを使い魔とすることができて、感動しております。とはいえ、まだまだ若輩の身、今後も先生方の素晴らしいご指導を賜りたい所存であります」
「まあ、素晴らしい心がけですね。皆さんもミス・ヴァリエールを見習うように」

 ルイズの謙遜な態度は、シュヴルーズの目には輝かしく映ったようで、上機嫌で授業を始める。しかし、周囲の生徒にしてみれば、歯の浮くようなおべんちゃらを並べ立てているようにしか見えなかった。
 シュヴルーズがルイズよりの立場を取ってしまったため、どうにかルイズを茶化してやろうと考えていた生徒の出鼻は完全に挫かれてしまった。
 ルイズにしてみれば全て計算ずくのことで、このゴーレムを学院内での地位を確立する足がかりとする算段であった。これからは自分を侮辱するものは許さない。いまに誰もが恐れ敬うメイジとなってみせる。ルイズの意思は強固だった。

 授業はつつがなく進行し、錬金の実践の時間となった。シュヴルーズは教室を見回し、誰を指名するか迷っているように見える。しかし、彼女の中では誰を指名するかは決まっており、教室を見回したのは単なるポーズに過ぎなかった。そしてシュヴルーズは意中の人物を指名する。

「そうですねミス・ヴァリエール、あなたにやってもらいましょう。この石をあなたが望む金属に変えてご覧なさい」
「え、わたしですか?」

 シュヴルーズがルイズに魔法の実験に指名したことに、教室は騒然となる。するとキュルケがおもむろに立ち上がり、シュヴルーズへと進言する。

「あの……、ミセス・シュヴルーズはルイズを受け持つのは初めてですよね? できればルイズにやらせない方がいいと思うのですが……」
「何故ですか? ミス・ヴァリエールは高位のゴーレムを使い魔としたのです。錬金ぐらい行うのはわけないでしょう。しかも彼女は努力家だと他の先生方から聞いていますよ。さあ、気にしないでやってごらんなさい。大丈夫です。失敗したとしてもそれはマイナスにはならないのですからね」
「ルイズ、お願い。やめてちょうだい」

 事情を知っているキュルケが蒼白な顔で懇願するが、彼女の願いはルイズには届かなかった。

「分かりました。やります」

 ルイズが席を立ち教壇へと向かうと、ゴーレムも当然とばかりにルイズの後についていく。ここで成功させれば自分の評価はまた一段と確実なものになる。ルイズとしても失敗する不安はあったが、ここで同級生達に畳み掛けるのもいいかもしれない。なにより後ろに物静かに佇んでいる己の使い魔がルイズの心の支えとなっていた。

「ミス・ヴァリエール。錬金したい金属を強く心に思い浮かべるのです」

 ルイズは頷き、手にした杖を振り上げる。そして唇をきつく引き締め、錬金の呪文を唱え始める。生徒達は我先へと机の下にもぐりこむが、ルイズにとってそのようなことはどうでもよかった。今ルイズの脳内にあるのは錬金を成功させることだけ。
 呪文を唱え終え、杖を振り下ろしたその瞬間、ゴーレムは素早くルイズの前方に回りこむ。と同時に机ごと石が爆発した。爆風の直撃を受けたシュヴルーズは吹き飛ばされて黒板に叩きつけられ、その衝撃で意識を刈り取られた。シュヴルーズが目を回しながら倒れこむ。
 突然の爆発に他の生徒の使い魔は驚き、教室はにわかに恐慌状態へと陥っていた。使い魔が使い魔を飲み込み、マンティコアのような大型の幻獣が暴れまわり、そこかしこから悲鳴と抗議の声が上がる。

「もうっ、だからルイズにやらせるなって言ったのよ!」
「頼むからヴァリエールを退学にしてくれ!」
「おおおお俺のラッキーがっ! ラッキーがヘビに食われちまったぁ!」

 この騒ぎの原因となったルイズはというと、特に擦り傷一つなくぴんぴんしていた。ゴーレムがとっさにルイズを庇ったからである。ルイズが思わず瞑った目を開けると、目の前にはあの真紅のゴーレムがルイズを傷つけまいと、自らの体を盾にしていたのだ。ゴーレムはなんら損傷が無いようで、合いも変わらず物言わずに立っていた。

「あんた、わたしを守ってくれたの?」

 ルイズの声にゴーレムは何の反応も見せなかった。しかし自分を守ってくれたことには間違いなく、錬金に失敗したというのに余り落ち込んではいなかった。今まで家族以外でルイズに救いの手を差し伸べてくれた者はおらず、長い間孤立していたルイズにとって、この一件はゴーレムに更なる信頼を寄せるきっかけとなった。




 この後、ルイズは目を覚ましたシュヴルーズにこってりと絞られ、瓦礫の山となった教室の後片付けを言い渡された。周到なことにゴーレムを使って楽をしないようにキュルケが監視役として置かれ、しぶしぶとルイズは片付け始める。
 ルイズの計画が実現する日はまだまだ遠いようだった。


新着情報

取得中です。