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雪と雪風_始祖と神(10)


 上空のアルビオン旗艦・レキシントン号は、既にトリステイン艦隊を主砲の射程圏内に収めていた。
しかし、いつまで経っても砲撃命令は下されない。
トリステインのグリフォン、マンティコア、ヒポグリフを掃討した竜騎士たちは、
次なる目標を敵艦隊に定めるが、一騎、また一騎と、トリステイン艦隊の対空射撃によってあえなく落とされていく。
アウトレンジから相手を狙い撃つことができる貴重な時間を無為に過ごすことに、アルビオン空軍将兵は苛立ちを募らせていた。

 しかし彼らの知るに及ばない場所で、レコン・キスタにとっての切り札が、ついにその力を発現させようとしていたのである。

「ルイズ、来たわよ、あなたの力を見せつけるときが」
「そう、ついに――。見ていてください、姫様、ウェールズ殿下。わたしの虚無を目の当たりにすれば、
レコン・キスタの大儀が正しいということを、理解していただけるはずです。……甲板に出ましょう、ハルヒ。一瞬でかたをつけるわ」
「もう爆発でもなんでも、やっちゃいなさい!」
 二人は上空の寒風が吹きすさぶ甲板の中央に立つ。トリステインの諸幻獣隊を追い払い、
敵艦隊の攻撃が不可能であるわずかな時間が、彼女たちの待った機会なのである。

「始めるわ……」
 ルイズは目蓋を閉じ、意識を前方のトリステイン艦隊に集中させると、
始祖のオルゴールが歌ったスペルから、エクスプロージョン、爆発のスペルを唱え始める。
 ルーン文字の流れるような詩が、ルイズの周囲を囲む。
もはやトリステイン軍も、アルビオンの竜騎士隊も、ミョズニトニルンでさえ、
彼女の虚無を止めようとするものはいない。

 ルイズは長い長い詠唱を終えると、目を見開き、杖をトリステイン艦隊の中央へと差し向けた。
すると、ルイズの杖は七色の光の矢に変化する。
心臓の鼓動の一拍一拍、その間の、身体が最も静寂を感じる瞬間に合わせ、ルイズは声を響かせた。

「エクスプロージョン!」

 しかし、前方のトリステイン艦隊に、全く変化はない。
そして精神力を集めたはずのルイズの杖もまた、元の木の棒に戻っている。

「……ルイズ? ちょっと、成功したの?」
 拍子抜けしたように、ルイズに問う涼宮ハルヒ。
しかしルイズもまた、事態を理解することができていなかったのだ。

「わからない……。確かに、直前までは虚無の魔法の手応えを感じていたわ。
だけど、スペルを発動しようとしたら、全ての精神力が、
身体の力が抜けるみたいにして、すっと消えちゃったのよ……。どうして――」
「いいわ、ルイズ。初めてだもの。もう一度試せばいいじゃない」

「……だめよ、無理だわ」
 ルイズはその場にしゃがみ込む。彼女の心を支配するのは、
かつて彼女が何度も感じた、そして二度と感じることを望まない感触、すなわちトラウマである。
「……分かるの。この感覚、ゼロだった頃のわたしと一緒。
正しい手順を踏んでいるのに、直前で力が逃げる感じ……。
系統魔法は使えるようになったけど、この感覚をまた味わうなんて」
「もうっ! うだうだ言わないの! あたしがなんであなたについてきてるか分かってるの? ただのメイジには興味ないのよ!」
 涼宮ハルヒはルイズへ感情を露にする。

しかしその声も、突如巻き起こった轟音に掻き消された。アルビオン旗艦は安定を失い、急速に水平を失っていく。
「なに!?」
 涼宮ハルヒが舷側に駆け寄ると、船底近くに大穴が開き、そこには火災が発生していた。

「ルイズ! トリステイン艦隊の射程に収められたわ! はやく虚無の魔法を! 
あなたが虚無の使い手だって信じて、こんな張子の虎みたいな艦隊で、わざわざトリステインくんだりまでやってきたのよ!」
「無理よ! わたしが虚無の担い手だなんて、嘘だったのよ! 始祖のオルゴールが聞こえたのも、何かの間違いに違いないわ!」
「この土壇場になにを――きゃあっ!」
 二発目の砲弾が着弾し、その衝撃に二人は床に投げ出される。
レキシントン号はだんだんと、火に包まれ始めようとしていた。

 + + +

「ルイズ!?」
「どうしたの」
 零戦の操縦席で、才人は異変に気付き、思わず声を上げる。

「いきなり左目が……ぼやっとして……、ルイズの声が聞こえるんだ。
……火の海に包まれてる。これは……ルイズの見ているものが――?」
「本に書いてあった。使い魔と主人は、感覚の共有が可能だと。
ルイズの視覚情報が、あなたと共有されていると思われる」
「じゃあルイズは」
「おそらく、あの炎上している旗艦にいる」
「そうか、ルイズは――」

 才人は零戦のスロットルを開けると、レキシントン号へと全速で上昇する。
ハルケギニア最大の火力を誇る戦艦ではあるが、トリステイン艦隊から加えられる一方的な攻撃の前に、
取り付こうとする零戦を迎撃しようとする者などいない。

 いや、一人だけいた。風竜に跨り、零戦の進路を遮ろうとするのは、命からがらトリステイン艦隊から逃げ帰ったワルド子爵である。
「長門さん、前方に竜が。このままじゃぶつかる」
 しかし、高速で進行する才人には、竜を操るのが誰であるかなど、視認できるすべはない。
「わかった」
 長門有希は才人の言葉に応じ、竜の上の人間を対象に高速詠唱を開始する。
「せめて僕はルイズを守る。近づけさせんぞ、ヒラガ……サイ……ト……」
 長門は竜に跨った男を、情報操作によって眠らせる。
ワルドは、竜の背中に身を預け、操縦する主を失った風竜に乗ったまま、どことも知れずに飛んでいった。

「よし、邪魔者はもういないか。だけど……、よく考えたらどうやって乗り移りゃあいいんだよ! 
ちくちょう、ルイズが危ない目に遭ってるんだぞ!」
 才人は計器盤を叩く。それを見かねてか長門が提案した行動は、
これ以上大胆な、しかし、その他に取りようもないものであった。

「このまま突っ込んで」
「なんだって?」
「アルビオン艦との衝突により、運動エネルギーを熱エネルギーに変換する」
「……ようは特攻しろってことじゃないか!」
「信じて」
「長門、さん? そうか、そうだな。頼むぜ、長門さん」
 才人は、離陸する際に垣間見た長門有希の能力を思い出す。
彼女であれば、きっと何か、秘策があるのだろう。そう信じて、才人はレキシントン号の甲板へと、一直線に翼を走らせた。

「長門さん、ぶつかるぞ! 頼む!」
「わかった」
 才人は長門を完全に信頼し、大声で叫ぶ。すると長門有希は、おもむろに風防を空けた。
そして、後ろから才人のシートベルトを外すと、彼を抱えて機外に飛び出したではないか。
「んな無茶な!」
 長門有希は才人を包み込むかのように身を丸め、二人は甲板に転がった。
 零戦はマストへと直撃、爆発四散炎上する。
「長門さん! こんな手荒な方法を取るんなら、先に言っといてくれよ!」
 だが、どうやら二人ともに、目立った外傷はないようである。
「それより、ミス・ヴァリエールを――」

 + + +

「サイト……? 何しに来たの!」
 立ち上がろうとする才人に近づく影がある。
 声に気付き才人が面を上げると、そこには爆炎にマントの端を焦がされたルイズが立ち尽くしていた。
「ルイズ! 無事か? 助けに来たんだ!」
 しかしルイズは、才人から距離を取ったままに立ち止まる。
「助けに来た? ――なんのために? わたしは何もできなかった。大失敗よ。虚無が聞いて呆れるわ。
だからこの場で死ぬのよ、わたしは。それが神聖皇帝クロムウェル様への、せめてもの償いだわ!」
「クロムウェル? ルイズ、何を言って……」

「無駄よ」
 ルイズの隣に、黄色いリボンの少女が歩み出た。
「今のルイズはアルビオン神聖皇帝に心を奪われているの。あなたの言うことなんて聞きやしないわ」
「誰だ、お前は!?」
「ミョズニトニルン。ガリア王ジョゼフの使い魔とでも名乗ればいいかしら」

 そして才人の横に、長門有希が立ち上がる。
「涼宮ハルヒ。この空間を作り出した、いわば、神」
「あら、有希、お出ましね。――ルイズが虚無を失ったのは、あなたのせいなんでしょう?」
「そうなのか、長門さん? そもそもルイズが虚無って――。伝説なんだろ?」
 長門は才人に小声で答える。
「おそらく、彼女は本物の虚無。以前わたしが彼女を噛んだ際に、
系統魔法を使えるよう情報操作を行った。おそらくその弊害として、虚無の使用が不可能になったと思われる」

「有希!」
 涼宮ハルヒは、爬虫類のように無機質な視線を長門有希へ向ける。
「どうやら図星のようね。――あなたは、あなたは! あたしの大切な人を奪うだけじゃなくて、
あたしの夢の中でもあたしを邪魔するの? せめてこんな夢の世界の中くらい、あたしの好き勝手にさせなさいよ!」
「平賀才人、ルイズをお願い」

 才人がルイズに近づこうとするのを見届け、長門有希は涼宮ハルヒに向き直る。
「たしかにわたしの取った行動は、深刻なエラーに裏打ちされていたかもしれない。
でも、わたしがただ一つでも感情を持とうとすることは、そんなにいけないこと?」
「もちろん有希にだって、有希の考え方があるわ。だけど、どうして――どうしてキョンなのよ!」
 轟音とともに、ハルヒの背後にある船室が崩れる。

 + + +

 しかし、甲板上に再び静寂が戻ると、彼女は溜息をつき、前触れもなしに語調を和らげた。
「……やっぱりやめた。有希、あなたに話をする気も失せちゃったわ。後ろを見て、有希。
――男って、どうしてすぐに、そうやって簡単に物事を誤魔化すのかしらね。――さよなら」
 涼宮ハルヒは彼女の愛する男の姿、彼が彼女を夢から覚めさせた行動を思い出しつつ、
硝煙に掻き消されるようにして、その姿をくらませた。

 長門有希は涼宮ハルヒが消失したことを確認すると、彼女の言葉に従い振り向く。
すると長門の背後では、平賀才人とルイズが、長い口づけを、今まさに終えようとしている。
長門有希もまた、涼宮ハルヒが去り際に残した言葉の意味を理解した。

「ルイズ、分かっただろ、俺が、お前をこんなにも大切に思っていること……?」
「サイト……」

「――なにをしているの?」
 長門有希は二人に乾いた視線を浴びせる。
しかし、どうやらルイズは、サイトによって正気を取り戻したようである。
「いや……、ただ俺は、俺がルイズにできる行動をしたまでだよ……」
「そう?」
 長門有希は、二人の世界に浸りきっている才人とルイズを追求することを諦めた。

「……もうすぐこの船は崩壊する。わたしは先にフライで降りる。あなたたちも急いで」
 それだけ言い残すと、長門有希は高度千メイルの船から飛び降りた。
とはいえ、彼女が使用できるのは情報の操作のみで、フライの魔法など使えるはずもない。
一直線に地面へ突き刺さる長門。しかし持ち前の身体能力のたまものであろうか、
キュルケとタバサが待つ目の前に颯爽と降り立った身のこなしは、どんな剣舞の達人であっても、
見事と賞賛の言葉を送ったであろうものであった。

 いっぽう才人とルイズは、甲板から身を乗り出しているが、一歩が踏み出せずにいる。
「サイト、本当にここから飛ぶの」
「みんなに約束したんだ。絶対に、ルイズを連れて帰るって。飛ぼう、ルイズ」
「でも! 虚無の魔法が使えなかったわたしは、やっぱりゼロなのかもしれないのよ? 
やっぱりわたしはゼロだったのよ」
「何言ってるんだ、伝説なんて関係ない。ルイズにはルイズの魔法がある。
それが虚無じゃなくって、風だろうと土だろうと」
「本当に本当? そう思う?」
「ああ。だって、ルイズはまだ、魔法が使えるじゃないか!」
 船体に爆発が巻き起こり、二人の横顔を橙色に照らす。
「そう、そう――ね! わかった。飛ぶわ、わたし。飛びましょう、サイト」
「うん、行こう!」

 ルイズは杖を持った手を才人に差し出すと、二人の指を杖に絡ませた。
そして、目を合わせたまま、一息に船から飛び降りる。
 一瞬、自由落下に身を任せた二人であったが、すぐに杖が柔らかく輝き出し、
ふわりと二人の身体を持ち上げた。二人はもう一方の掌も指を絡ませ、
向かい合ったままゆっくりと、タルブの村へと降りていった。

「タバサ、ルイズとダーリンが!」
 だんだん大きくなる二人を見つけ、キュルケが歓声を上げる。風メイジ特有の目のよさによって、
親友よりも早く二人を発見していたタバサも無表情の中に喜びをたたえ、
その使い魔長門有希は、半ば呆れつつも、二人の姿を好ましいものとして捉えていた。

+ + +

 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールがアルビオンへと出向いたこと、
更に一時はレコン・キスタの手中にあったことを知る者は少ない。魔法学院の内部でさえ、
アンリエッタの行動を知るオールド・オスマン以外の教師は、彼女を単なる欠席として処理していた。

 しかし当然ながら、事に関わった数人の生徒は別である。

 あくまでも才人の"友人"であると主張しているメイドのシエスタが腕によりをかけ、
ルイズの部屋――いや、今はルイズと才人の部屋である――には、タルブ料理のフルコースが並んでいた。
部屋には二人の他に、タバサ、長門、キュルケ、そしてギーシュ、
なぜかギーシュの彼女――タバサと長門はモンモランシーという名前を知らない――も潜り込んでいた。

 最初はルイズが無事に帰ってきたことを祝うという大義名分があったのであろうが、
ワインのボトルが空けられていくにつれ、もはやこれが対アルビオン初戦戦勝記念であるのか、
アンリエッタ王女とウェールズ王太子の公式婚約記念であるのか、もはや誰も知る者はいなくなってしまう。
 結果的に初戦こそ勝利で飾ったものの、おそらくこれから、アルビオンとの本格的な戦争に突入するであろう。
そのことを、一晩だけでも忘れようとしていたのかもしれない。
 才人とルイズは既にベッドに転がり、シエスタはちゃっかりと才人の脇に腰掛けている。
 キュルケは、両脇を固められた才人をもはや諦めたのであろうか、
酔い潰れたギーシュが肩に寄りかかっているモンモランシーの、一方的な愚痴を聞きに回っていた。

 そして、タバサと長門有希は、一通りの料理を食べ尽くすと、静かに部屋を出る。

「終わった。でもこれは、わたしたちがしたことの尻拭い」
 タバサは、向かい合って座る長門有希へ呟く。長門もタバサの言葉に相槌を打った。
「これから再び、わたしの戦いが始まる」
「あなただけではない」
「――それは、なぜ?」
「ガリア王ジョゼフの使い魔もまた、わたしと同じ空間の住人」
「それは、あなたの言っていた――、始祖に相当する存在?」
「そう」

 タバサは、無能王が世界の絶対者をも手にしていることに、しばし言葉を失う。
しかし長門有希は、そんな彼女の空虚な苦悩を手に取っているかのように続けた。
「だいじょうぶ。これはあなたの戦いであると同時に、わたしの戦い。あなたの母は、わたしが治す」
「ユキ、でも――」
「それに、あくまでも彼女、涼宮ハルヒは人間。もしこの空間が崩壊する危機があったとしても、それはわたしがさせない」
「わかった。――ついてきて、ユキ。わたしの戦いが終わるまで」

 月明かりの下、部屋に積まれた書物の山が、青白く照らされていた。


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