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雪と雪風_始祖と神(8)


「……はははっ、こりゃまた傑作だ。人形の使い魔に、これまた人形が召喚されるとはね」
 と、プティ・トロワに高笑いを響かせるのは、ガリア王女イザベラ、タバサの従妹である。
「まさかアルビオンから生きて帰ってくるとは思わなかったけど、そういうわけかい。
使い魔、あんたの実力は、これと同じガーゴイルで観察させてもらったよ」
 イザベラは、蛾を象った魔法人形を弄んでいる。

「それで、ウェールズは生きてるんだろうね? 報告しな」
「――ウェールズ王太子はトリステインに亡命。既に王宮に到着しているはず」
「そうかい。――父上も何を考えて、亡びる国に無駄な手出しをしたのかわからないけど、まあいい。
今日のあたしは機嫌がいいんだ。下がりな。次の任務があるまで、学校でお勉強でもしてるんだね」

 嫌がらせの一つもなしに開放されたことを怪訝に思いつつ、タバサは王宮を後にする。
しかし、すぐにある一線に思い至った。長門有希の行為は、ガリアから監視されていた、ということは――。
「ユキ、時間がない」
「どうしたの」
「母様が危ない。あなたの力は、全て観察されていた。ジョゼフは、あなたが母様を治せることを知っている」

 + + +

 いっぽう、王の暮らすグラン・トロワでは、ガリア王ジョゼフとその使い魔、
そしてフードを被った男――エルフである――が、リュティスの町中を馬で駆け抜けるタバサの狼狽振りを、遠見の鏡で眺めていた。

「――ほう、気付いたか。もう少し泳がせておくつもりだったが、有能過ぎる使い魔を持ったことが運のつきだったな、シャルロット。
しかしミューズ、おまえは構わぬのか。あの使い魔をリュティスに引き止めることもできたのだぞ。知人なのだろう?」
「だから、そのミューズって、石鹸みたいな呼び方やめなさいよ」

 ジョゼフが女神の名で呼ぶ使い魔、ミョズニトニルンは不機嫌そうに答える。
ガリア王とエルフの青年、長身の二人に挟まれ、子供のようにも見える彼女は、
長門有希と同じ制服に身を包み、頭には黄色いリボンを結んでいる。

「そうね……。有希は仲間だった。けど、裏切ったの、あたしを。信じてたのに――。
それに、魔法使いだってことを隠してたなんて。
……そうね、本当はどうすればいいのか、あたしは分かってないのかも――」
「ふふ、構わん。裏切り……か。おれも、ミューズのように悲しむことができるようになりたいものだよ」
「お話のところすまないが――」
「おお、ビダーシャル。うむ、行ってくれ。頼むぞ」
 顔も向けず言い放つジョゼフに対し、エルフの男は表情一つ変えずに従う。
彼が何かを呟いたかと思うと、つむじ風が舞い、エルフの姿をかき消した。

「なに? 今の。これも魔法?」
「先住魔法、らしいな」
「へぇっ。いろんな魔法使いがいるのね、この夢の中には」
「メイジではなくエルフではあるが。――夢、か。そうかもしれん、この世界は」
「……でも、魔法使いがいても宇宙人にも、未来人にも会えないのよね。
魔法使いだって超能力者と似たようなものだけど、いざ会ってみると――」
 ミョズニトニルンの少女は椅子に背を預け、小さく呟いた。

 + + +

 トリステインとの国境に位置する領地まで、最短距離の街道でも馬で四日。
その道のりを、タバサと長門は三日で走破した。
二人は、オルレアン公の屋敷へと続く最後の坂道を、満身創痍の状態で駆け上がる。
「だいじょうぶ、ユキ?」
「わたしの肉体には有機生命体の疲労の概念がない。それより、あなた。この一週間、無理のし通しで、もう限界」
「……もうすぐ、屋敷に着く」
 視界が開け、国境のラドグリアン湖を望む丘の上、白亜の城へと馬が横付けされた。しかし、
「遅かった……」

 木の無垢の扉は斧で破られ、当然の事ながら執事の出迎えはない。
そして中へ入ると、略奪とまではいかなくとも、壁にかけられた絵や家具、調度品の全てが持ち去られ、
がらんとした室内にはただ、開け放たれた窓から風だけが吹き込んでいた。

「母様!」
 わずかな希望を込めて、タバサは母の寝室の戸を開け放つ。
 だが彼女の予感した通り、湖を望む大きな窓の前に、母の姿はない。その場にへたり込むタバサ。

 しかし長門は、そんな主人の様子ではなく、部屋の隅を見やっていた。
「誰?」
 すると、光にかき消されていた男が、二人の眼前に姿を現す。長い耳が、彼がエルフであることを表していた。

「精霊がわが身を隠していたはずだが……。同胞か?」
「ちがう」
 長門は平坦に問う。
「あなたの周りには情報操作の跡がある。なぜ?」
「情報――?」
 しかし、男は答えることを止める。タバサが男に飛び掛ったのだ。

「お母様を!」
 タバサの杖に光が集まり、氷の矢を作り出す。
それは、トライアングルのタバサには本来不可能なほど巨大な――。タバサの心の震えが、彼女をスクエアに覚醒させていた。
 しかし、
「タバサ――! だめ――」
「地の精霊よ――」
 長門が叫ぶのが早いか、男の目の前に土が集まると、そこに透明な壁を作り出した。タバサのウィンディ・アイシクルはあえなく砕け散る。
「土を珪素に変えた?」
 長門は相手の情報操作能力に舌を打つ。
 そして壁は土に戻るとタバサの四肢に絡みつく。土は杖を飲み込み、彼女の体を振り回すと、屋敷の壁へと放り投げた。

「……命までは取らぬ。しかし、これも契約のこと、われに同行願おう――。
む――、なおも抵抗するか。……争いは好まぬ、わが同胞に近きものよ」
 男、ビダーシャルは、長門有希へと向き直った。
長門は半身に構え、杖をビダーシャルへと指し向けている。
「……争いを望むか。愚かな」

 長門は高速言語を詠唱する。しかし――、
「情報の操作が――、接続が切断されている?」
 長門有希の試みたいかなる情報操作も、その対象にたどり着く前に、手応えもなくかき消される。
まるで、座ろうとした瞬間、椅子を後ろに引かれるがごとく。彼女でさえも驚愕の表情をわずかに浮かべざるを得ない。

「これは……。精霊を侵食しようとする者など! この悪魔め!」
 ビダーシャルもまた、長門有希の行動に困惑していた。精霊との契約によって物の理を改変するのではなく、
精霊の領域を力で支配する。エルフにとって長門有希は侵略者、まさに悪魔として捉えられたのである。

 宇宙人とエルフの間で、目に見えない情報、そして精霊の引き込み合いが続く。
 しかし突如としてビダーシャルが動いた。
 ビダーシャルは床を蹴ると、長門有希との物理的距離を詰める。それに呼応し、長門は空中に舞う。

 すると二人の間に、銀の刃が飛んだ。
 情報操作のせめぎ合いに全能力を傾けている長門には、物理攻撃を放つ余裕も、
そして、そうするための物理的媒体もない。刃――エルフが砂漠の生活に用いるナイフは、
長門有希の心臓を、正確に刺し貫いた。それと同時に、ナイフを伝い、長門有希を構成する肉体へと、精霊の情報が流れ込む。
 長門もまた、床へと倒れ臥した。もはや彼女には、流れ込む情報、精霊の力を無理に押さえ込むことしかできない。

 ビダーシャルは長門有希に近寄り、ナイフを引き抜こうとする。
「わが生活の道具を、このようにして血に染めるとは――」

 だが、ナイフを掴むという行動は、ビダーシャルにとって安易なものでありすぎた。
 彼がナイフを掴んだ瞬間、長門とビダーシャルの間に、物理的接触を介した情報連結が行われる。
その兆候を覚えた瞬間、すでに長門有希の情報操作は、ビダーシャルの周りの精霊を手中に収めていた。

 ビダーシャルはナイフを抜くと、身を翻し、逃げ出すようにして窓を破って屋敷から飛び出した。
「この屋敷の周囲の精霊を取り込んだ――か。悪魔め――。精霊を支配下に置かれては、近付くこともできぬ」
 ビダーシャルは、湖を囲む森へと消える。

 だが長門有希もまた、ビダーシャルのいう精霊によって、自身の情報を侵食されていた。
ナイフによる肉体の物理的損傷こそ塞がれてはいるが、
細菌のように長門有希の体へ侵入しようとする精霊、情報操作とのせめぎ合いに、彼女は身を起こすことができない。

 ――先に立ち上がったのはタバサであった。
全身を強く打ち、気を失ってはいたものの、朦朧とした意識の中で使い魔を抱き起こす。
一言も発さず、フライによって屋敷を出ると、屋敷の前に残されていた馬のうち一頭に跨り、全速力で屋敷を離れた。

 ほとんど眠ったような状態のまま、裏街道を昼夜の別なく進む。国境の関所を回避するなど、
北花壇騎士のタバサにとっては、眠っていてもこなせるほどに造作もないことである。
トリステインへ入ったのが、屋敷を出た日の夕刻、そしてトリステイン魔法学院へたどり着いたのは、翌々日の正午であった。
 魔法学院の厩舎へ馬を預けると、二人はその藁の上に、並んで倒れ臥した。

 + + +

 タバサが目を覚ますと、そこは魔法学院の救護室であった。そして傍らには、長門有希が本も読まずに座っている。

「ユキ……、あなたは?」
「あなたの領地から離れることで、情報操作――あの男のいう精霊による侵食から逃れられた。
あの男の情報操作は座標に依存しているよう。……礼を言う。あなたがわたしを助けた」
「いい。巻き込んだのはわたし」
「……ありがとう」

 すると、二人の声に気が付いたように、ドアが勢いよく開け放たれる。
「タバサ! 気が付いたの?」
 部屋に飛び込んできたのはもちろんキュルケである。そして才人、ギーシュもいる。
「よかった……。あなた、三日三晩眠り続けてたのよ。
打ち身だけで命に別状はないって言われてたけど、それでももうダメなんじゃないかって――」
 キュルケは、上半身だけ起こしたタバサを抱き締めた。

「本当に、なんともなくてよかったよ。タバサだって、ルイズの友達だもんな」
 才人も頬を緩める。
「友達?」
 タバサが問う。
「ああ。俺たちを追いかけて、あんな危ない場所にまで来るなんて、友達じゃなかったらなんだっていうんだ。
それに、ルイズもタバサもキュルケの友達なら、ルイズとタバサは友達だよ」
 才人は寂しげに言う。
「あら、誰がルイズの友達だったかしら?」
 キュルケもまた、寂しく笑った。

 タバサは友を騙した罪の重さを心に刻む。しかし、キュルケの胸から面を上げると、
友に託した、いや、押し付けたと言っていい、任務のその後を問いかけた。
「――ところで、ウェールズ王太子は?」
「ああ、そのことだが、まずいことになったよ」
 とギーシュ。
「やっぱり――」
 と呟いたタバサの声は、長門以外には聞こえない。ギーシュは言葉を続ける。
「姫様にはこれ以上なく感激していただけたけれども、その後に父――軍の元帥なんだが――に呼び出されて、
こっぴどくなんてものじゃない、怒られたよ。なんてことをしてくれたんだ、ってね。
確かにその通り、アルビオンの新政府はすぐにでも、トリステインに侵攻してくるだろうって、もっぱらの噂さ。
ああ――、僕は姫に殉じようとするあまり、亡国への道に加担してしまったのか……」
「ギーシュはそう言うけどさ、俺とタバサ、それに長門さんのやったことは正しいと思うよ。
ルイズだってそうしたはずだ。そうさ、ルイズだって――」
 ルイズのことを思う余り、才人はそれ以上言葉を紡ぐことができない。そしてタバサもまた――。

 + + +

 その日の午後、長門有希は、自室に移り身を休めるタバサを残し、一人広場で本を広げていた。
しかし、ページは殆ど繰られることがない。そんな彼女に、近付く者がいた。

「や、やあ。長門さん」
「平賀才人?」
「ああ。ちょっと、話があるんだけど、いいかな」
「……ここでいい?」
「――うーん、聞かれると、まずいかなあ、やっぱり」
「ならば場所を移すべき。わたしの部屋はタバサが眠っている。あなたの部屋は?」
「俺の部屋? 使用人の部屋だし、狭くてもいいなら。
だけどもしルイズが、自分以外の女の子を部屋に連れ込んだって知ったら……」
「ルイズは連れ込んだの?」
「へっ? い、いやなんでもない。口が滑った」
 才人はにやっと口を開ける。
「作り笑い」
「……ああ。やっぱり、笑えなんかしないさ、こんなときに」
 うつむく才人と、普段にも増して無口な長門。二人は塔へと並んで向かった。

 + + +

 しかし塔の入り口で、二人は唐突に呼び止められる。

「サイトさん!」
 振り返るとそこには、草木で染められたロングスカートに身を包んだ黒髪にそばかすの娘が、トランクを抱えて立っている。

「や、やあシエスタ。久しぶり」
「あれ、そちらの方は――。今日はミス・ヴァリエールとご一緒じゃないんですか?」
「……ああ。いろいろあってな。ルイズはいま学院にいないんだ……」
「そうなんですか。浮気はいけませんよ、サイトさん」
「そ、そんなんじゃないって。ところでどうしたんだい、いきなり呼び止めて」
「ええ――。それがわたし、休暇を貰って、今から田舎に帰るんです」
「そりゃまたどうして」
「アルビオンが攻めてくるって噂ですよね。だから、田舎のほうが安全だろうって、コックのマルトーさんが――」
「この学院だって、これで結構安全だとは思うけどなあ。そりゃ、泥棒に入られたりはしたけれど」
「うーん、でも、大丈夫ですよ。ただの田舎ですもの、盗るものなんてなんにもないですから。
そうだ、今度遊びに来ませんか? 馬でしたら半日もかかりませんから。タルブっていう、ワインがおいしい村なんですよ」
「……ああ。考えとくよ」
「つれないですねー。もう、おこっちゃいますよ! ぷんぷん!」

 才人が苦笑いを浮かべるのを見つつ、シエスタは笑顔で去っていった。
彼女が荷馬車に乗り込むのを確認するまで、才人は視線を外さない。

「……じゃ、行こうか」
「あれは、誰?」
「ん……、メイドのシエスタ。友達だよ」
「あなたは――、浮気者?」
「ち、違うって」
「浮気はやめたほうがいい。不幸」
 不幸、という言葉に、長門はいつになく語調を強める。
「わかってるさ。今の俺は、ルイズを助けることしか考えちゃいないよ。――もしかして長門さん、浮気されたことある?」
「何を言っているの?」
 その言葉に、長門有希の目の色が変わった。長門は才人に向けて杖を構える。
「じ、冗談だって。ほ、ほら、早く行こうぜ。シエスタならまだいいけど、二人でいるところをギーシュに捕まったら、なんて言われるか」
 長門を後ろから押すようにして、二人は女子寮塔の階段を上る。

 + + +

 寮塔の一角、ルイズやキュルケ、タバサの部屋と同じフロア、日の当たらない側に位置するのが才人の部屋である。
本来ならばメイドが雑務を行うために設けられたものではあったが、ベッドと机が運び込まれ、一応の体裁は整えられていた。

「……それで、話なんだが」
 椅子には長門が腰掛け、才人はベッドに座り話を切り出す。
「アルビオンが攻めてきたら、俺は戦場に行こうと思う」
「なぜ?」
「ルイズほどのメイジだ。わざわざ誘拐するなら、何かの目的があるはずだろ? なら、戦争に連れて来るんじゃないかって」

「それで、どうするの?」
「助け出す。それ以外にないさ。それで、お願いがあるんだ。
……頼む! 同郷のよしみだ。どうか俺がルイズを助け出すのを、手伝ってくれないか!」
 才人はベッドから降りると、長門有希へ土下座した。

「あなたの言ったことは、無計画で無謀」
「分かってる。だけど、ルイズが来るとしたら、そこしかないじゃないか」
「――ただ、わたしたちも、戦場へ向かうつもりでいた」
「……へ? なんで?」
「あなたと同じ。彼女を発見できるとすれば、確立が一番高いのはそこ」
「でも、わたし"たち"って言ったよな。長門さんだけじゃなくて、タバサも行くってことか?」
「わたしたちがアルビオンに向かうとき、キュルケに頼まれた。ルイズをよろしく、と。
なのに、わたしたちも彼女を守ることができなかった。だから」
「……そうか。わかった。頼むよ、長門さん。それに、タバサにもよろしく」
「ええ」

 + + +

「……それで、どうする? もう少しゆっくりしていくか?」
 一通りの話を終えると、才人は椅子に身を預ける。
「帰る。そろそろタバサも起きているはず」
「そうか。じゃあ、頑張ろうな。絶対にルイズを助け出すんだ」
 長門は深く頷いた。そして、扉に手をかけようとしたのであるが、
ふと足元を見ると、埃を被ったノートパソコンが壁に立てかけられていることに気が付いた。

「これは?」
「ああ、俺のパソコン。電池切れで動かないけどな」
「……見せてもらって、いい?」
「え? いいけど――」
 長門有希はテーブルにノートパソコンを開くと、杖を向け、高速言語を詠唱した。
そして、電源ボタンを押す。すると、電源が投入されたことを表すLEDが点灯する。
「あれ、……動いて、る? どうして」
「バッテリーを錬金した」
 もちろん実際には、魔法ではなく情報操作であることは言うまでもない。
「そうか、流石だな……」
「触っても、いい?」
「ああ、いいけど、あんまりフォルダの中は見ないでくれ」
「了解した」

 長門有希は黒い画面を立ち上げると、目にも止まらぬ速さでキーボードを叩く。
次々とウィンドウが出ては消え、描画の追いつかない画面が点滅した。

「あのー、長門さん? 何をされているので?」
「このコンピューターを通じて、ハルケギニアに張り巡らされた情報網へのアクセスを試みている」
「そ、そうか」

 才人には、彼女がなにをしているのか、全く理解できない。
なにせ、パソコンにはケーブル一つ繋がってはいないのだから、
何らかのネットワークに接続していること自体、あり得ないことなのである。
しかし、長門有希が力強くエンターキーを押し、画面の表示を見つつ発した言葉には、才人も思わず目をみはった。

「わかった」
「なにが?」
「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは、今、アルビオン空中大陸とトリステイン王国の間の海上に存在する」
「海の上? ――ってことは!」
「そう。船の中。彼女は、トリステインに侵攻するアルビオン軍に同行している」
「そうか! 待ってろよ、ルイズ! すぐに助けてやるからな!」

 気持ちを高ぶらせる才人を尻目に、長門はノートパソコンを閉じ、タバサの部屋へと戻っていった。
今まさにアルビオン軍がトリステインに向かっているという事実に才人が思い至るのは、長門が部屋を出た後であった。

「おきてる?」
 長門はタバサに問う。
「おかえり」
「――アルビオン軍がトリステインに向かっている。ルイズを、助けに行く?」
 タバサは首を縦に振る。
「わたしたちにも、責任の一端がある」
「了解した」
「……わたしは母を助けられなかった。ならばせめて、友人を――」
 タバサは母を思い、そして、友を思った。
それは彼女にとって初めての、自身の宿命から離れた、生きるための目的である。


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