あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

Zero May Cry - 01


Zero May Cry - 01


 その日は彼らにとっては少しばかり重要な日だった。
 勿論中には少しばかりではないほどに重要といえる者もいたが、とにかく重要な事には変わりはなかった。

 そして、こと彼女にとってはこの日は他の者と比べても特に重要な日になると言えた。

 いや―――重要な日になった。

 よもや、この日を境にあんな日々が初まるとは、夢にも思わなかっただろう。


「……………」


 彼女―――ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは、己が行った「サモン・サーヴァント」の儀式により現れた青年を見て失意に苛まれた。

 均整のとれた端整な顔立ちに、一見すると白か銀かは区別が付かない、鮮やかとさえ形容できる髪。
 紺色を基調としたコート。その下には対照的な赤のジャケット。黒のズボンに長いブーツ。身なりは悪くないが、さりとて優雅なわけでもない。
 ルイズ達から見れば、彼は文句なしに平民と表現できる人物だった。

「こ……こんなのが私の使い魔………」








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 俺はあの日、あの事件の後、彼女を護ると誓った。
 この右腕を受け入れ、憎しみを誇りに変え、俺は騎士になった。
 君を護る、君だけの騎士《ナイト》に………。








「キリエ!!」

 彼は夢の中で己に背を向けて歩いていってしまう人の名前を叫んだ。叫ぶ必要があったのはそれが自分の愛しい人だったからだ。
 だが、彼のその叫びに対する返事はなかった。
 代わりに彼の目に映ったのは彼の知らぬ、彼が夢の中で見た女性とは別の女性……いや、女性というには幼過ぎるか。少女といったほうがしっくりくる。そして周りには、彼女と同じぐらいの年頃の大勢の少年少女達。彼らは一様に彼に対して好奇心を感じさせる視線を送っている。
 彼の目前に佇む件の少女は、眠っていた状態から突然半身を起こして叫んだ彼に驚きの表情を見せていた。

「き、きりえって誰よ。私はルイズ。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール」
「ルイズ…ふら……? いや、んなことはどうでもいい。ここは何処だ? 俺は確か……」

 ルイズと名乗った少女は目の前の白髪の青年が何気なく口にした「どうでもいい」という単語で思わず激昂し、尻餅をついたような体勢の彼に食って掛かった。
 彼女にしてみれば己の使い魔となるべく男に「名前などどうでもいい」と言われたのだから無理もない。

 しかし少女はこの青年がどのような人物か知らない。―――当然と言えば当然だが、それがこの少女の些細な不幸だったのかも知れない。

「どうでもよくないわよ! 私は貴方の主人なのよ! 主人の名前も覚えられない使い魔なんて、聞いたことない!」
「つ、使い魔? なんだそりゃ?」

 青年は少女、ルイズの言う言葉の意味を分かりかね、思わずその言葉を反芻した。

「俺はミティスの森で昼寝をしてたんだ! ここは何処だ!? 俺はキリエの所に帰らなきゃいけねぇんだよ!」
「帰るって……! 貴方は使い魔なのよ!? 帰る所は私の所!!」
「なっ………!!」

 青年はルイズが放ったその一言にとうとう我を失った。いきなり知らない場所で目を覚まし、少し混乱していたせいもあるだろう。
 少女の胸倉を掴み、その小さな体躯を無理やり己の方へ引き寄せる。青年の突然の行動に驚き、ルイズはただ身を強張らせることしか出来なかった。

「ッざけんじゃねぇ!!! 俺はキリエを護るって決めたんだ!! なんで知らねぇお前のことを護らなきゃ……!」

 そこまで一気にまくし立てて、青年は自分が何をしているのかに気づいた。

 ―――自分よりも随分と幼い少女の胸倉を掴み、凄まじい形相と勢いで怒鳴りつけている。

 目の前には、涙目になり小さい声で「あぅ……あぅ……」と意味の分からない言葉を繰り返す少女の姿。
 そして彼らを取り囲み野次を飛ばしていた――その殆どを青年は聞いていなかったが――少年少女達もその迫力に黙り込んでいた。

「わ、悪い……。謝るから、落ち着けよ……」

 青年の余りの形相に完全に怯えた様子のルイズを、青年はこれまでの態度とは逆になるべく優しくなだめようと努めた。
 そこへ一人の男性が近づいてゆく。先程まで遠巻きにこちらをみていた男だ。彼は突然怒鳴り始めた青年に対しても落ち着き払った様子で青年に声をかけた。

「君の方も、落ち着きましたか?」

 思いのほか友好的に接され、青年はバツが悪そうに答えた。

「ああ……。悪いな、いきなり叫んじまって」
「無理もないさ。君もいきなり知らない場所に召喚されて混乱しているのでしょう? 説明は追ってしますので、今は儀式を済ませてもらえせんか?」
「儀式?」

 男が口にした単語に訝しげに首を捻る青年。
 そして、先程少女が言っていたことを思い出す。

「そういや……使い魔ってのは何なんだ? この嬢ちゃんには悪いんだけどよ、俺はさっさとフォルトゥナに帰りてぇんだよ」

 青年のその言葉に、男性は難しい表情を見せた。むぅ、と小さく唸りながら。
 男が見せたその態度に、青年は思わず冷や汗を流しながら叫んだ。

「でっ……出来ねぇのか!?」
「それは……………」

 男性―――教師、コルベールは青年から目を逸らしながら、どう答えたものかと逡巡した。
 理由は多々ある。まず先程青年が口にしたフォルトゥナというのは、会話の流れから察するに土地の名前なのだろうがこのトリステイン魔法学校で教師を務めるコルベールも聞いたことがなかった。

 そして―――何よりも。

 このように人間の使い魔が召喚されたというのは前代未聞の出来事だ。
 ―――流石はミス・ヴェリエール………と、今はそれは置いておこう。
 言ってしまえば生き物を使い魔にするというのは、その生き物を専属の奴隷にするのと同じようなものだ。いかに使い魔として召喚されたとは言え人間にそんな境遇を受けさせるわけには行かない。
 確かにその生き物の主人となる人間が出来た者ならば、その使い魔は奴隷というよりも寧ろ優秀なペット、信頼の置ける相棒、己に忠実な部下と表現できる関係になるだろう。
 しかしそれでも自由を奪う事に変わりはない。使い魔は常に主人の監視下に置かれ、主人の意思に反する行動は全て咎められる。逆に、主人が命令する事ならばどんな事でも従わなければならない。

 その役目を人に押し付けるというのだから―――。

「………済まない。この儀式は彼女にとっても一生を決めるものなんだ。どうか、君にもそれを理解して欲しい―――」

 コルベールが、苦渋に満ちた表情になるのも無理はない。
 そして先程からようやく落ち着きを取り戻したルイズは、コルベールからそう宣告をされる青年の顔をみて、思わず言葉を詰まらせた。

「…………………………」

 青年の顔は、まるで紙のように白くなっていた。呆然と、目の前の現実とこれからの事実を受け入れることが出来ないでいる。
 加えて―――何か大切なものを失ってしまったような、そんな心境を青年の表情は感じさせた。
 だから、ルイズは青年に強く当たろうとして、それが出来なかった。
 どこか彼を気遣うような、なるべく彼の励みになるような言葉を、無意識の内に探していた。

「あ、あの。べ、別に使い魔って言ってもそんなに辛いことじゃないわよ。身の回りの世話とかしてもらうけど、そんな大した事じゃないし。それにね、アンタがいくら平民みたいでも私がちゃんと生活は保障してあげるから………」

 そんなルイズの様子を見ながら、青年は悲愴な表情のまま唇を笑みに歪めた。
 青年のその態度に、ルイズはどこかからかわれた様な心境になり、拗ねたように眉をひそめる。

「な、何よ」
「さっきとは随分と態度が違うぜ。………気遣うなよ」

 泣き笑いのような顔で言いつつ、青年は深い深いため息をついた。同時に、その顔を左手で隠すかのように覆った。
 そこで、ルイズは改めてこの青年の身なりを確認した。
 左手は普通だ。右手は………。

「………怪我してるの?」
「……何が?」

 言われてルイズは、青年の右腕を指差した。
 その右腕は包帯とギプスで覆われ、首からベルトで吊り下げられていた。明らかに骨折してる者の様子である。

 よく見れば青年は何処かの傭兵といった外見だ。背中には大きすぎる片刃の剣を背負い、腰に下げられている妙な入れものには……ルイズの知識の限り、それは銃というものだった。
 長い銃身を辿るとまるでレンコンのような弾倉。ルイズがもう少し銃についての知識があれば、その銃の構造がおかしい事に気づいただろう。
 銃身が上下に繋がり、銃口が二つ覗いている、その異様な外見に。

 ―――それは、人ならぬ者を撃つための武器故の構造だった。

「あんた………何者なの?」
「………話は後だ。儀式をするんだろ?」

 青年が放ったその言葉に、場の空気が代わった。ルイズはもとより、コルベールや周りの少年少女達も驚きの表情を見せている。
 ルイズは喜びと驚きの両方に、思わず瞳を細かく震わした。

 それは、この男に自分を受け入れられたという思いもあるからかも知れない。

「……い、いいの……?」
「……これからの事は、これから考えるさ。だから……今はこれでいい」


 ―――きっとキリエも、それを望んでいるはずだ―――


 そう、ここで激情にかられ、周りの人間に八つ当たりをしても決して愛しの人は喜ばない。それならば、今目の前の現実を受け入れその上で今後のことを考える。それでいい。そのはずだ。
 それにこの儀式には目の前の少女の一生が掛かっているという。そこまでお人好しになった覚えはないが、何の助け舟もなくこの少女を切り捨てるというのも気が引ける。
 だから青年は一度はルイズの使い魔になる事を決意した。今はこれでいいと、そう思ったから。


 だが、称賛に値する青年のその誓いは、ルイズが行った次の行動で粉々に砕け散ることになる。

「じゃ、じゃあ……行くわよ……」

 そう言ったルイズの顔が急に近づいてくる。その様子に青年は思わずぎょっとした。だが、青年が行動を起こそうとした時には既に遅きに失していた。

 そして。

「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。 五つの力を司るペンタゴン、この者に祝福を与え、我の使い魔と為せ」
「っ!!?!?」

 重なる唇。目の前には、ルイズの顔。

「ふはっ! な、何しやがるっ!!?」

 唇を離すやいなや、青年は先程の殊勝な心意気はどこへやら、頬を赤らめさせたままルイズを睨んだ。
 その視線に思わずたじろぎながら、ルイズは口を開く。

「だ、だって契約はこうしないと成立しないから……!」
「け、契約って………!」

 そう言われてしまえば反論は出来ない。青年は一度でもルイズの使い魔になると自分で決めてしまったのだから。


 ―――ゴメン、キリエ………その……何と言うか……ゴメン………


 と、そんな情けない懺悔をする青年に変化が訪れた。

「グッ!?」

 突然、左腕の甲が熱を帯びたかのように痛む。
 思わず青年は叫んだ。

「おいっ……! こりゃ何だっ!? これも契約の内なのかよ!」

 そんな青年にルイズは慌てて近寄り、肩を支える。

「だっ、大丈夫よ。使い魔のルーンが刻まれるだけだから……」
「るっ、ルーン……!?」

 言葉の意味が理解できずに、青年は己の左手を見つめる。その左手は最早熱だけでなく光も発していた。
 そこに彼が見たものとは。

「こ、コイツは……?」

 奇妙な文字列のような模様が左手の甲に刻まれていた。

 ―――これが使い魔のルーン……ってやつなのか?

 既に痛みも気にするほどではなくなっており、青年はまじまじとそれを眺めた。
 やや距離を置いたところで、その模様を目にしたコルベールの瞳が薄く細められていたが、青年はそれに気づかない。
 青年の様子を見届けたルイズは、ここまで彼に尋ねていなかった一番大事な事を初めて尋ねた。

「ねぇ、まだ名前……聞いてなかったわよね?」

 ルイズのその言葉に、青年は短く己の名を告げた。彼のその頭の中からは既にルーンの事は薄れてきている。

「………ネロ、だ」

 青年―――ネロのその返事に満足したのか、ルイズはようやく安堵の表情を見せた。
 その顔を眺めながら、ネロはそこにキリエの顔を重ねてしまっていた―――。








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 その後、全ての生徒の儀式は終了したという事になり、彼らは教室へ戻ってゆく。余談だが彼らが平然と空を飛ぶのでネロは少々面食らったとか。
 そしてその場にはコルベールに呼び止められたネロとルイズのみが残った。

「ネロ……君でよろしいかな? 君のその左手のルーンを少し見せてくれないか?」
「あ、ああ………?」

 ルーンの事など全く知識のないネロは、やや訝しげに首を捻りつつも大人しくコルベールに従った。
 何か不都合があったら自分自身にとっても困る。そう思ったからだろう。

 しかし、コルベールが言った言葉はそんな彼の不安とは大きくかけ離れたものだった。

「フム……。これは珍しいルーンですね。少し時間を頂けませんか? スケッチを取らせてもらいたいのですが……」
「俺は別にいいけどよ」

 素っ気無さ気に答えて、ネロはそっぽを向いた。早くしろと言いたかったが、彼の理性が喉まででかかったその言葉を飲み込む。
 しかし彼が言うまでもなく、コルベールのスケッチは手早く終了した。
 ネロの方もその間に落ち着きを取り戻したのか、徐々に普段のふてぶてしさを取り戻していた。

(さて……どうしたもんかな、これから)

 そんなことをネロが考えていると、コルベールがルイズへ指示を出していた。

「それじゃ、ミス・ヴァリエール。彼にこの学園の案内をしてあげなさい」
「えっ……でもそれじゃこの後の授業は……」
「特別に、大目に見ましょう」

 コルベールのその言葉に、ルイズは大人しく従った……………のだが。

「いや、お前は授業を受けてろ」
「「……は?」」

 コルベールとルイズの二人分の声がネロへ返ってきた。
 当のネロは眠たそうに大きなあくびを一つしている。

「昼寝の途中だったから、俺眠いんだよ。どっか寝かせてくれる場所はねぇのか?」
「ダメよ! わざわざ先生が授業を免除してくれるって言ってくれてるのよ? そのご好意を無駄にする気!?」

 ルイズのその言葉にネロはやれやれとかぶりを振って、眠たそうな目を擦りながらとっとと歩き出した。
 その勝手な行動にルイズも腹を立てたのか、後ろから彼に追いつきふくらはぎ辺りを軽く蹴る。

「いてっ。何すんだよ?」
「自分の主人を置いて何処に行く気なのよ!? もう、さっきから勝手なことばっかり言って!」
「じゃあ早くその学校の案内とやらをしてくれよ。ルイズ……だっけ? お前の部屋にベッドとかねぇのか?」
「ご主人様と呼びなさい! 大体、ご主人様のベッドで寝るつもりなんてどんだけ生意気なのよ!」

 ルイズの変わらぬ態度に、ネロは最早処置なしとばかりに肩をすくめながら彼の前を歩き出した彼女の後をついていった。
 そんな二人の様子を、コルベールは苦笑いをしながら見送った。彼の目には、二人がまるでじゃれあっているように映ったのだろう。








 ―――ネロは気づかない。己の今の立場を。

 ―――事態は彼の想像を遥かに超えていることも。








―――to be continued…….


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