あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

鷲と虚無-14


「……そしてあの三人は使い魔になる事に同意したと」
コルベールが呟いた。
ここは学院長室。オスマンは先ほどやってきたコルベールの応対をしていた。
コルベールがここに来た理由はただ一つ。昨日、自分が退室した後どうなったのかを知る為だ。
「うむ。と言ってもミス・ヴァリーエルが給金を出す事と、学院側が仕事を与える事が条件じゃがな」
「なぜたかが平民三人にそこまで譲歩を?おまけに彼らの内一人はあなたに暴行を加えようとしたのですぞ?」
「彼らが全くの未知の世界からやってきたのは君も解っておるじゃろう?その知識を手に入れる事が出来るのなら安い買い物だと思わんかね?」
「……ええ。それは間違いありませんな」
思った通りの答え。もし彼が自分と同じ立場でも全く同じ事をしただろう、とオスマンは思った。
このコルベールと言う男の技術や知識への貪欲さはオスマン以上、殆ど変人の域に達しているといい。
最もそのおかげで三十を過ぎても女性とは全く無縁の生活を送っているのだが。

「一つお願いがあるのですが」
「何じゃね?」
「その内彼らを呼んでいろいろと話を聞くのでしょう?その時に私も同席したいのです」
予想通りの質問だったものの、オスマンは呆れた。
「君も物好きじゃのう。下手をすれば殺されていたかもしれん連中なのに」
「それはあなたも同じではありませんか?あなたもあの男から斬りかかられたんですから」
「む……」
オスマンはあの瞬間を思い出し、冷や汗が出そうになった。
あとほんの一瞬、杖を抜くのが遅れていたら、プッロは間違いなくオスマンを殺せていただろう。
あの炎蛇のコルベールをあっさりと人質に取れた事、そしてあの踏み込みの速さ。
あの二人が相当な手錬である事は明らかだ。恐らくはメイジ殺しに匹敵する力を持っている。
少なくとも10メイル以上の距離が無い限り、二度とあんな連中とは戦いたくないと言うのがオスマンの本音だった。

「あれは元々が事故の様なものですからそれ程は気にしていません。何はともあれ、怪我をする事も無かったのですから。そんな瑣末な事よりは、未知の国の知識の方にずっと興味があります。あなたもそうなのでしょう?」
確かにその通りだ、とオスマンは思う。彼は今、年甲斐も無く興奮している。
もう自分でも定かではないほどの長い時を生き、もはや自分を驚かせる物など何も無い。そう思っていたらこんな事件が起こった。
誰も聞いた事の無い、未知な世界の人間と話せるとは、何と言う幸運なのだろう!
オスマンは神と始祖に感謝せざるを得なかった。しかも彼らは魔法と言う物を全く知らないらしい。魔法が存在しない世界。
そんな物がどうやって成り立つのか、産業や生産の大部分を魔法に頼っている世界の住人であるオスマンには想像もつかない。
風習、技術、文化、宗教、政治、軍事、経済。彼の頭の中の疑問はどんどん増えていく。
しかもあの三人ならばあの男の正体について何か解るかも――

その時、ドアがノックされた。
「ミス・ロングビルかね?一体どうしたんじゃ?」
ドアが開き、ロングビルが豊かな緑髪を揺らしながら入ってきた。
彼女は軽く会釈すると、口を開いた。
「問題が発生しました、オールド・オスマン。ヴェストリの広場で決闘騒ぎが起きています」
知的興奮を味わっていたのを邪魔され、オスマンは鬱陶しそうに呟いた。
「やれやれ、暇を持て余した貴族の子供ほど厄介な物は無いわい。それで?一体どこのバカ同士が戦っておるんじゃ?」
「一人はギーシュ・ド・グラモン。そしてもう一人がその……昨日ミス・ヴァリーエルに召喚された少年なのですが」
「な、なんじゃとおっ!」
「なんですとっ!」
オスマンとコルベールはほぼ同時に、我を忘れて叫んだ

冗談ではない。大事な客人が怪我でもしたら――いや下手をしたら死ぬかもしれない。
そんな事を許す訳にはいかない。異世界の知識がかかっているのだ。
しかもあの少年は他の二人とは違う国からやってきている。彼がもし死ぬような事になればニホンという国について解らなくなってしまう。
「い、一体なぜじゃ!?なぜこんな事に?グラモン、グラモン……元帥のバカ息子じゃな?女の子の奪い合いか何かか?」
「それが少年がミスタ・グラモンを侮辱した事が原因だそうで……」
オスマンはう~む、と唸った。確かにあの生徒ならやりそうな事ではある。
だが原因はともかく、すぐに禁止させねばなるまい。
「教師の一人が止めに入ったのですが、うまく行っていないようです。彼は眠りの鐘の使用許可を求めています。どういたしましょうか?」
眠りの鐘とはその音を聞いた人間を、使用者を除いて全て眠らせると言うマジック・アイテムである。
この学院の中でも最も高価な宝物の一つで、子供の喧嘩騒ぎに使うのにはどう考えても不釣合いな物だ。
だが眠りにおちた多くの生徒達の後始末が大変とはいえ、この騒ぎを抑えるのにはうってつけの代物と言えた。
元々決闘は校則で禁止されているのだから口実は十分にある。

「仕方あるまい、許可しよう。すぐに宝物庫に行って鐘を取り、この騒ぎを止めなさい。急ぐように」
ロングビルは頷くと、すばやく部屋を出て行った。
後に残されたオスマンはため息をつき、頭を抱えた。
「やれやれ、いきなりこんな問題が起きるとは……これはとんだ問題児を抱えたかもしれんの」
「それよりオールド・オスマン。今彼らがどうなっているのか確かめた方が……」
オスマンは頷くと、杖を振った。すると部屋の鏡に広場が映し出された。
「……これは一体どう言う事でしょう」
コルベールが困惑したように呟く。
二人とも無力な平民がいたぶられている光景を想像していたのに、なぜかそこに映っているのはただの殴り合いだった。
「なんであの二人は取っ組み合いなんかをしとるんじゃ?」
「私に聞かれても困ります!」
眠りの鐘なぞ使う必要は無かったかもしれんの、とオスマンは少し後悔した。


才人を心配そうに見つめていたルイズとは対照的に、プッロは大きなあくびをしていた。
「……にしても退屈ですねえ。もっと面白く出来ないんでしょうか?これじゃ退屈でしょうがない」
「何を言っているんだ。剣闘士試合でも期待してたのか?」
もっとも、そう言ったウォレヌス自身が退屈さを感じられずにはいられなかった。
“決闘”が始まってからもう五分程経つが、勝負は双方とも互角と言った感じに進んでいた。
だが所詮は技巧など無いに等しい子供の喧嘩に過ぎない。仮にプッロかウォレヌスが乱入したとすれば、十秒もかからずに二人まとめて昏倒させられるだろう。
そんな児戯を見ていても面白みを感じられないのは自然な事だと言えた。だが、少なくともこれで才人が殺されるといった危険は回避する事が出来た。
ウォレヌスはあの蛮人の少年に特に思い入れがあるわけではない。だがそれでもプッロの言った通り、殺されれば少しは気分が悪くはなる。

そして奇妙な事に、この決闘騒ぎはある種の安堵をウォレヌスに与えていた。
つまり、この国の人間が自分達より劣った存在、つまり蛮人である事が再確認出来たからだ。
何故か?プッロは“ここでは貴族を怒らせた平民は殺されても文句は言えない”と言った。そんな“野蛮”な事はまがりなりにも法治国家であるローマではとても考えられない。
平民だろうと貴族だろうと、市民を殺せれば歴とした犯罪だ。例え執政官や大神祇官が物乞いや浮浪者を殺してもそれは変わりない。
権力を悪用した人間が都合の悪い人間を秘密裏に殺したり、強引に処刑させる様な事はあっても、公の場で“自分を侮辱したから”などと言う理由で殺人を犯す事など絶対に不可能だ。
ウォレヌスが生まれる数百年前に作られた、ローマ初の成文法である十二表法以前の時代ですらその様な事は考えられなかっただろう。

更には貴族と平民の間に大きな格差が存在するらしいと言う事もウォレヌスを更に安心させるのに役立った。
ローマも遠い過去には貴族が平民を搾取していた頃もあったらしいが、ここ数百年の間その様な事はなくなっている。
貴族と平民は平等な権利を保有し、一年に一回選出される国家の最高指導者である二人の執政官も、片方は平民でなければならないと法で義務付けられている。
ノビレスと呼ばれる、政治職を独占する一種の特権階級は存在するが、それは従来の貴族階層と有力な平民家によって構成される物だ。
現在ローマで続いている内戦も、閥族派と平民派と二つの派閥に分けられているが、これは単純な貴族と平民の争いではない。
閥族派は権力を元老院に集中させ、平民集会と平民の代表である護民官の力を制限させたい。平民派はその逆で、平民集会と護民官の権限を強めたい。
閥族派はノビレスなどの既得権益層の人間が多く、平民派はその逆で新興勢力の人間が多く属している。
双方とも大半は利権争いで参加しているに過ぎないが、逆に言えばそれこそが階級闘争ではない事の証拠だった。

平民派の貴族も、閥族派の平民も数多い。そもそも平民派の指導者とされるカエサル自身が名門貴族の出身だし、
逆に閥族派の指導者だった今は亡きポンペイウス、そして現在の指導者の一人と目されるカトーは両方が平民家出身である。
そしてパルティア遠征で戦死した、ローマ一の大富豪と呼ばれていたクラッススは平民家の出身。
逆にウォレヌスが生まれた頃にローマで粛清を繰り広げたスッラは名門貴族であるコルネリウス氏の分家の出身でありながら若い頃は貧窮し、娼婦のヒモの様な事をして食いつないでいた。
つまり、現在のローマでは上流階級と下流階級に間に大きな差はあっても、それは貴族と平民の差ではない。絶大な財力と権力を有する平民家もあれば没落し、貧窮した貴族家もいる。
そして有力な平民家と貴族家は婚姻を繰り返し、純血を保った貴族家などはもう存在しないと言っていいだろう。

だがここトリステインでは貴族が平民を殺しても問題は無いと言う点を見る限り、貴族と平民の間には相当な格差が存在するようだ。
これらの事がウォレヌスを納得させた。例え奇怪な魔術が使えようと、やはり連中の性質は理性より感情を優先させる蛮人のそれだ、と。
彼らの法はローマのそれより数百年遅れている上に、いまだに貴族と平民の間に大きな格差が存在する。
そして貴族の力が強いと言う事は、この国は恐らく王制が存在するのだろう。あの野蛮で劣った、蛮人向けの制度が。
どんなに凄い力を持っていても、こいつらは所詮は蛮人でしかない。ウォレヌスはこう考え、安心した。

才人の繰り出したアッパーがギーシュの顎にまともに当たり、ギーシュはそのままどさりと地面に倒れこんだ。
「おっ、いいのが入ったぞ」
プッロが楽しそうに言い、そして群集が才人にブーイングを浴びせた。
「……これで終わりかしら?」
ルイズが呟いた。ギーシュは倒れたまま動かない。
(これでこの茶番も終わりか)

だがギーシュはよろよろと立ち上がった。彼の鼻からは血が流れており、その目は血走っている。
「どうする?降参か?」
才人は勝ち誇った様に言った。
すると、ギーシュはブルブルと震えだし、
「ふ……ふざけるなぁぁぁ!」
と叫んだ。そして薔薇の花を模した杖を取り出し、言い放った。
「なぜだ!この僕が薄汚い平民と殴りあわなければならない!?そしてなぜ平民に殴られて地面に倒れなければいけない!?こんなバカな事があってたまるか!」
彼は杖を振り、杖から薔薇の花びらが三枚落ちた。
するとその花びらが見る見る内に大きく膨らんで行き、姿を変え、あっと言う間に三体の甲冑になった。
「なんじゃありゃ!?」
プッロが仰天した様に叫んだ。そして群集もざわざわと騒ぎ始めた。
太陽の光で鈍く光っているその青銅の甲冑は、女性を模しているのか胸部が膨らんでおり腰も細い。
主人の命令が無い為か、その場で佇んだまま動かない。

目の前でゴーレムが出現するのを見てウォレヌスは愕然となった。
花びらが鎧人形になる。これはウォレヌスが今まで見た魔法の中でも最も奇怪で、信じられない物だった。
話に聞くのと実際に見るのでは大違い。魔法の様な、否、魔法その物だ。
しかもルイズによればそれらは自分で動き、戦い、その力は普通の戦士三人に匹敵すると言う。
正直な話、現実味が全く感じられないが三体の甲冑は実際に目の前にいるのだから信じざるを得ない。
そしてウォレヌスは後悔した。蛮人が信義を守るはずが無いのは常識ではないか。
そんな事は歴史が何回も証明している。こうなる事を予測し、保険として剣を持ってくるべきだった。こんな物を相手に素手ではどうしようもない。

「て、てめえ!汚ねえぞ!約束はどうなった」
才人は後ずさると、焦燥した顔で声を張り上げた。
無理もない、あんな物を相手にしては勝ち目が無いのは誰にだって明らかだ。
「うるさい!」
ギーシュはそう一喝すると、群集の方を向いた。

「諸君!彼らが僕に浴びせた罵詈雑言を思い出して欲しい!彼らは平民の分際で僕をバカ、エセ紳士などと呼び、あろう事か腰抜けとまで言った。
この様な事が許されて良いのか!?断じて否!彼らは早急に処罰を受けて然るべきなのだ。わざわざ彼らに有利になる様なルールに従う必要など無い。
貴族のみに許された特権である魔法を用いて即刻裁きを与える事こそが貴族としてのつとめだと思うが、いかがだろうか!」

それに負けじとルイズが前に進み出、ギーシュに批判を浴びせた。
「あなたね、要するに負けそうになったから魔法を使いたいだけでしょ?屁理屈をこねるのもいい加減にしなさい!」
だがギーシュは全く退かなかった。才人にノックアウトされた事が、かえって彼に更に火をつけてしまったようだ。

「屁理屈?屁理屈をこねたのは彼らの方だろう!さっきはまんまと丸め込まれたが、彼らは要するに、“お前は自分たちより強いから手を抜いて戦え”こう言っているのだ!
自分の能力を使うのは卑怯でもなんでもない、当たり前の事、そして貴族の能力は平民のそれより優れている。それだけの話だ!手を抜く必要などない!」

なんと、群集は彼を支持し始めた。
彼らが見たかったのはあくまで貴族に打ちのめされる平民であり、それは魔法でだろうが素手でだろうが関係無かった。
才人達の言い分を支持したのは単にそちらの方が面白いと思ったからであり、彼らにとって公平さなどどうでも良かったのだ。
そしてギーシュが負ける危険が出てきた今、彼らは躊躇無くギーシュを後押しする事を決めた。
貴族は平民より優れていなければならないと言うトリステインにおける大前提。
その大前提は例え子供の喧嘩だろうと崩されてはならないのだ。

そしてウォレヌスはギーシュの言う事にも一理あると認めざるを得なかった。
要は魔法を武器や道具であるか、それとも能力や技能として扱うかの違いだ。
弓を使える人間が、だからと言って弓を決闘に持ち出せば卑怯と呼ばれるだろう。
だが拳闘を心得ている人間が拳闘で戦ってもそれは当たり前の事でしかない。魔法はどうなのだろうか?

そう思った時、ギーシュの声が耳に響いた。
「ワルキューレ!あの三人を攻撃しろ!」
その命令と共に、三体のワルキューレはそれぞれ才人、プッロ、ウォレヌスに向かってゆっくりと歩き始めた。
ウォレヌスは即座に今の考えを捨てた。そんな事よりも今は自分達にゆっくりと近づいてくるあのバケモノどもを何とかする方が先決だ。
素手ではどうにもならないのは明らか、剣が必要だ。ウォレヌスは躊躇無く叫ぶ。
「ヴァリエール……すぐに部屋に戻って私たちの剣を持ってこいッッすぐにだッ」
「え?そんな……」
「いいからさっさと行け!」
ルイズは戸惑った様に立ち尽くしていた。だが数秒経つと意を決した様に走り出し、すぐにウォレヌスの視界から消えた。

「ぐふっ!」
ワルキューレの拳を腹に食らい、才人は派手に吹っ飛んだ。相手にすらなっていない。
だがプッロもウォレヌスも、ワルキューレの相手をするのに手一杯で、とても才人を助けられる様な状況ではない。
幸い、ワルキューレの拳はそこそこの速さを持っているが、直線的な上に動作が大げさだ。
例えるなら、図体だけはでかい喧嘩の素人。よけるのはプロの軍人である二人にとってそう難しい事ではない。
だが、避ける事はできてもダメージを与える事が出来ない。それも当然だろう。
青銅の板を素手で打ちぬける人間など神話の英雄くらいだ。
ウォレヌスはワルキューレの大振りなパンチを避け、その隙をついて渾身の力を入れて蹴り付けてみた。
だが蹴られた箇所が少しへこんだだけで、ワルキューレは殆ど意に介さず攻撃を再開した。
(チッ、これではこっちの体力が先につきてしまう……)
例え相手の攻撃があたらなくても、こちらは動けば動くほどスタミナを消耗してしまう。
そして相手は青銅の人形だ。疲労を感じる事など無いだろう。その内こちらの体力が無くなってしまう。
そうなったら最後だ。更にうれしい事にこちらには相手に打撃を与える手段が全く無い。
(クソったれが!こんなクソガキに良い様にされるとは!)
ウォレヌスは心の中で毒づいた。

ルイズが剣を取りにいってから五分程が経過した。
才人は殴られては倒れ、立ち上がってはまた殴られを繰り返す。
これはもはや決闘などではない。ただのリンチと言った方が正しいだろう。。
既に彼の顔面は腫れ上がり、鼻から血がとめどなく流れ、左腕はおかしな方向に曲がっていた。
群衆の囃し立てる声が聞こえる中、ウォレヌス達はワルキューレの拳を避け続けた。
だがどうする事も出来ない。

「おいガキ!てめえには恥って物がねえのか!こんな人形に任せるんじゃなくて、自分で闘え!」
プッロが苛立ったように叫ぶ。
「先ほども言ったろう?貴族なら魔法を使うのは当然だ。そもそも平民如きを貴族が直接相手する事自体がおかしいのだよ」
「てめえ……!」
「そろそろ降参したらどうだね?僕のワルキューレを相手にここまで持ちこたえたのには驚いたが、君たちも解っている通りこのまま続けてもいずれは君たちの体力がつきるだけだ。跪き、心の底から謝罪すると言うのならば許してやろう」
ギーシュの顔には嫌らしい笑みが浮かんでいる。完全に勝利を確信しているのは明らかだった。
だが才人はボロボロになりながらも、その笑みを跳ね除けるようにはっきりと言った。
「……へっ。謝罪?ふざけるなよ。今からてめえをぶっ飛ばすってのになんで謝る必要がある。弱すぎるんだろ、お前の銅像」
「どうしようも無い程愚かなんだね、君は」
ギーシュはやれやれと肩をすくめて見せた。

ウォレヌスは才人の根性に驚き、そして感心した。
無論、ウォレヌスも謝る気など全く無い。それでもあんな状態になってもまだ大口を叩けるとはただ事ではない。
しかも彼はまだヒゲも生えない年齢の少年に過ぎないのだ。
ただのバカなのか、それとも相当の勇気を持っているのか。もしくはその両方か。
(それにしてもあの娘はいつ戻ってくるんだ!これではラチがあかん!)

「ウォレヌス!プッロ!」
その時、ルイズの甲高い声があたりに響いた。彼女は息を切らし、群集を掻き分けながら叫んだ。
その腕には二振りの短剣と二振りの短刀が抱えられている。
「これでしょ、あんた達の剣って!一応ナイフみたいな奴も持ってきたけど――」
だが群集を抜け出し、ウォレヌス達がどの様な状況にあるのかを見ると同時に彼女の言葉が止まった。
ギーシュがワルキューレ達に「止まれ」と命令する。ルイズを巻き込むのを恐れた為だろう。

ルイズは才人に駆け寄った。才人は弱々しく呟く。
「よぉ……」
「よぉ、じゃないわよ!あんた何やってんのよ!?腕が折れてるじゃない!」
「言っただろ……下げたくない頭は下げられないって。それに……ほら、お前をあのあだ名で呼んだ事を謝らせてないしな……」
「そんな事で……そんな事でなんでそこまで出来るのよ?あんたは良くやったわ。誰もバカになんかしない。降参しなさい!命令よ!」
ルイズの鳶色の目から、大粒の涙がポロポロとこぼれ始める。
(泣き出した……?まさか彼の為に泣いてるのか?)
ルイズが自分達を体のいい奴隷くらいにしか考えてないと思ったいたウォレヌスはあっけにとられた。
だがそれもほんの一瞬の事。
「ヴァリーエル、我々に剣を渡せ。今からこの青銅人形を片付ける」
ウォレヌスは既にワルキューレの力を把握していた。戦士三人に匹敵すると言うのは明らかに誇張だ。
もしくはこの国の戦士と言うのが大した強さではないと言う事か。
武器さえあれば倒せない相手ではない。所詮は青銅製。鉄の武器に耐えられる強度は無い筈だ。
一対一なら攻撃を空振りした隙をつき、関節部分を狙えば勝機は十分以上にある。

「ルイズ、もうここまでだ。そんな剣如きでは僕のワルキューレは倒せない。それは解ってるだろ?」
ギーシュが自信満々に言い放つ。だがルイズは何も言わない。
「君の使い魔はとんでもなく強情だ。腕を折られても降参しないなんて、ある意味感心したよ。その意気に免じて、もし君が彼に代わり一言謝罪すると言うのならこの場で事を収めよう。それで終わりにしようじゃないか」
ルイズは才人を見、次にプッロとウォレヌスを見た。
そしてゆっくりと口を開いた。
「ギーシュ・ド・グラモン。わ、私の使い魔達があなたを侮辱した事を――」
「やめろ!」
あんな体のどこにそんな力が残っていたのか、才人は思いっきり叫んだ。
「なんでお前が謝るんだよ……俺が謝る必要すら無いのにお前がやっちゃ何がなにやら解らなくなるだろ!」
「で、でも……」
今度はプッロが苛立った様に声を張り上げた。
「お嬢ちゃん、いいからさっさと剣を渡せ!剣さえありゃこんな人形二秒で片付けられるからよ!」
「やれやれ」
ギーシュはそう呟き、再び杖を振った。新たなワルキューレを出す気かと思い、ウォレヌスは身構えた。

だが花びらは甲冑ではなく、剣に姿を変えた。ギーシュはそれを握ると、才人の方に向けて放り投げた。

「使い魔君。君のその愚劣なまでの勇気に少しは敬意を表そう。それは見ての通り平民どもがメイジにせめて一矢報いようと磨いた牙、剣だ。
今ここで一言“ごめんなさい”と言って手打ちにするか、それを握るか。好きにするといい。そしてルイズ、謝罪する気が無いと言うのなら抱えているその剣を他の二人に渡したまえ。
一人だけ武器を使うのでは“不公平”だろう?」

ウォレヌス達への皮肉のつもりか、不公平と言う言葉に妙なアクセントをつけた。

才人は戦うどころか剣を握れるかどうかさえ怪しい状態にあるのは明らかだ。
それでも彼は剣の方に歩き始めた。
「絶対に駄目!それを握ったらあいつはもう容赦しなくなるわ!お願い、降参して!」
ルイズはすがるようにして言った。才人は弱々しく、だが確かな動きで首を振った。
「すまねえなルイズ……下げたくない頭は下げられないんだ。こればっかりは曲げるわけにはいかねえ」
そして才人は剣の柄に手を飛ばし始めた。ほぼ同時にウォレヌスはルイズにむかって走り始める。
(これではラチがあかん)
力ずくでも剣をルイズから奪うつもりだった。
だがその時、その場にいた誰もが全く予想もしていなかった音が周りに響き始めた。鐘の音だ。
(鐘……?なんでこんな時に……)
ウォレヌスがそう思った次の瞬間、彼と広場にいた全ての人間の意識が闇に落ち、全員が糸の切れた人形の様に崩れ落ちた。


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