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ラスボスだった使い魔-24


 タルブ一帯は、アルビオンの軍勢で埋められていた。
 村は焼き払われ、村人の姿は見えない。広い草原は兵士や傭兵、メイジなどでごった返している。更にその上空には竜騎兵や戦艦が陣取っている。
 彼らは、やがて来るであろうトリステイン軍との戦闘を今か今かと待ち構えていた。
 少なくとも初手はこれ以上ないほど上手くいっている。
 騙し討ちではあるが完全に敵の不意を突き、今頃あちらの本陣は大混乱だろう。この期に及んでこの大部隊に散発的な攻撃しかしてこないのがその証拠だ。
 浮き足立ってロクに統率も取れていない集団など、物の数ではない。そう時間をかけずにこちらの勝利で終わる。
 それがアルビオン軍のほとんどの人間が抱いている、この戦争の共通認識であった。
 そして、彼らの中から『もうこちらからトリスタニアに攻め込んだ方が良いのではないか』などという意見が出始めた頃に、それはやって来た。
 最初に気付いたのは、一人の竜騎士である。
 タルブ上空を哨戒していた彼は、上空約2500メイルほどのある一点に『影』を一つ見つけた。
 その『影』は少しずつ大きくなっていく。こちらに接近しているのだ。
 竜騎士は、その『影』を敵の竜騎兵だと判断する。
 彼は味方に敵の接近を知らせると、その竜騎兵を迎撃するために飛び出していった。
 ……随分と速度が早いようだが、所詮は一騎。この大軍団の前にかかれば、何の脅威にも成り得ない。
 そのような『常識的な考え』を持ちながら、竜騎士は敵に接近して―――
 ―――その姿をハッキリと肉眼で捉えた直後、自分の乗っている竜と共にその命を散らしたのだった。

「……………」
 機体に取り付けられている機銃を使い、ユーゼスは空を飛ぶ竜騎兵たちを次々と撃ち落していく。
(……もろいな、ハルケギニアの幻獣は)
 連発とは言え、たかが銃程度で絶命するとは。
 ユーゼスの知っている『怪獣』は機銃どころかミサイルやレーザーを食らってもピンピンしている場合がほとんどだったと言うのに、この『幻獣』はかなり脆弱である。
(……どういうことだ?)
 宇宙怪獣などはともかくとして、自分の世界の地球怪獣が『天然』であれほどの脅威となっていたことに、今更ながら疑問を抱いた。
 それともハルケギニアの幻獣が弱いのか。
 『星や世界が違えば生物の性質も違う』と納得してしまうのは簡単ではあるのだが、それに簡単に納得が出来ないのがユーゼス・ゴッツォという人間である。
(人間に飼い慣らされるような個体がそれほど強力であるはずもないが、それにしても攻略が容易すぎる……)
 生物は環境によってその能力を進化・強化・付随、あるいは退化させていくものだが、地球とハルケギニアの間にそこまでの違いがあるとも思えない。
 最大の違いと言えば、やはり環境の汚染度だろうか。
(ふむ、やはりあの時の私の考えは間違っていなかったのか……)
 ……地球に赴任したばかりの頃の話になるが、ユーゼスはあの星に怪獣が生息しすぎている理由を『地球の環境汚染が原因である』と考えていた。
 異常な環境が異常な進化を引き起こし、その結果として異常な生物を誕生させるのだ……と読み、よって大気を浄化し、環境を再生すれば、怪獣の出現も減るはず……と結論づけた。
 その理論は、実際には地球の美しさに魅せられたユーゼスが大気浄化を強行するための方便に近いものだったのだが、しかし今でもそれなりに筋の通った理論だとユーゼスは思っている。
(やはりあの強靭さは、地球の環境汚染が原因だったのだろうか……)
 ほとんど環境が汚染されていないということは、異常な進化を遂げる可能性もほとんどないということである。
(……やはりハルケギニアに度を越えた超技術など必要ないな)
 今後もコルベールあたりには自分やシュウの持つ技術が行き渡らないようにしよう、とあらためて決意するユーゼスであった。
「ちょ、ちょっとこの銃、強力すぎない!? 竜をアッサリ撃ち落とすって、どういう仕組みなのよ!?」
「すすす、すごいじゃないの! 天下無双とうたわれたアルビオンの竜騎士が、まるで虫みたいに落ちていくわ!」
 横の座席のエレオノールと後部座席のルイズが興奮してまくし立てるが、取りあえず無視する。
 戦闘中に余計な会話をしている余裕など、そうそう無いのである。
「……………」
 と言うか、テンションの上がっているヴァリエール姉妹とは対照的に、ユーゼスのテンションは全く動いていなかった。
 戦争に参加する。
 引き金を引く。
 他人を傷つける。
 人殺しを行う。
 断末魔の光景を目にする。
 墜落の様子を眺める。
 あるいは、ボタン一つで大量虐殺を行う。
 これら直接的にせよ間接的にせよ『殺害』という行為に対して、ユーゼス・ゴッツォは良い感情を持っていない。
 だが、だからと言って悪感情を持っているわけでもない。
 好きでも嫌いでもない、『ただの行為』や『作業』として捉えている。
 自分が狙いを定め、銃を撃つ。弾丸が発射される。その弾丸が敵に命中する。敵は傷付き、血を流す。そして生命活動が停止する。それだけのことだ。
 奪う命の一つ一つに思いを馳せるような感傷や、その死に対しての悼み、哀れみなどは持ち合わせていない。
 そもそも、『命を奪う行為』は誰もがやっていることだ。
 生まれてから『人間以外の生命体』の肉を全く口に入れない人間など、ほとんどいまい。
 生命として成立する前の鳥類や魚類の卵すら、食べる者は無数にいる。
 また、『生命体としての形態』は異なるが、植物とてれっきとした生命体である。誰もがそれを躊躇なく摂取しているではないか。
 道の上を歩いていて、小さな虫や微生物を踏み潰さない者など、いるはずがない。
 このハルケギニアとて、それは同じだ。
 水と光と二酸化炭素さえあればやっていける植物はともかくとして、『動物』である以上、他の生命体を殺すことは逃れられない宿命なのである。
 それなのに、なぜ同じ人間だけを特別扱いしなくてはならないのだろう。
 ……顔見知りの相手である場合や、何らかの思い入れのある相手ならばそれも理解が出来なくはないが、今自分が相手をしているのは何の縁もゆかりもない他人である。
 ウルトラマンたちも宇宙刑事たちも、一度相手を『敵』と認識したら、ほとんどの場合は容赦などせず速やかにその相手を殺していたではないか。
 例外として、『殺人が出来ない』というプログラムを植え付けられている良心回路や自省回路を持つ人造人間たちについては―――ある意味『理想的』ではあるが、だからこそ苦しみ、悩み、もがいていた。
 感情ではなく理屈として、自分は『殺人』を嫌わないし、ためらわないし、苦しまないし、悩まない。もがく必要など全くない。
 ……もっとも、『暴力』は嫌っているのだが。
「か、火竜のブレスを浴びてもビクともしないって、どうなってるの、この乗り物!?」
「む」
 エレオノールの驚愕の声を聞いて、淡々と機械的に殺し続けていた精神がふと我に返る。
 見回してみると、敵の竜騎兵は全滅している。
 ユーゼスは残弾数を見てミサイルやレーザーを一発も使っていなかったことを確認しながら、ポツリと呟いた。
「……さて、艦隊に対してはどこまで通用するものか」

 一方、縦横無尽に飛び回る改造ジェットビートルの中で、ルイズはガクガクと震えていた。
 この機のスペックを全く理解していないので、竜騎兵程度の攻撃はまず当たらず、仮に当たったとしてもビクともしないことを知らないのである。
 ……ちなみにユーゼスやシュウと一緒にビートルの整備をしていたエレオノールにはある程度の知識はあったが、それでも手を固く握り締めたり、ビートルの性能にいちいち驚愕したりしている。
 ある程度知っているはずのエレオノールですらそうなのだから、知らないルイズはパニック寸前だった。
 しかし恐怖に負けてなるものか、とルイズはポケットの中をまさぐり、アンリエッタから貰った『水のルビー』をはめる。以前の任務の際の報酬として受け取っていたのである。
「姫さま、どうかわたしたちをお守りください……」
 今までずっと肌身離さず持ち歩いていた『始祖の祈祷書』を撫でながら、祈りをささげた。
(……そう言えば、もう結婚式は取りやめになったんだから、コレを持ってる意味もなかったのよね)
 祈りをささげながら、そんなことを考える。
(…………一応は『“始祖の”祈祷書』なんだから、コレにも祈っておきましょうか)
 気休めでも何でも、とにかく今は安心が出来る材料が欲しい。
 ルイズはそう考えて『水のルビー』をはめた手で『始祖の祈祷書』のページを開き……。
 その瞬間、ルイズの手の中にあったその二つが輝きだした。
「えっ!?」
 その光に驚いたルイズは思わず声を上げる。
 間もなく『水のルビー』からの発光は治まるが、『始祖の祈祷書』からの発光は依然として続いていた。
「ルイズ、どうしたの―――、!?」
 後ろにいるルイズの様子がおかしいことを察したエレオノールが振り向いて妹に尋ね、その光景に度肝を抜かれる。
「ね、姉さま、『始祖の祈祷書』が……!」
「そんな、どういうこと……!?」
 ユーゼスにも意見を聞いてみたいが、戦闘中でそれどころではないので話しかけることは出来ない。
 一体どういうことなのよ、とやたらと光り輝いて存在をアピールしている『始祖の祈祷書』を見つめるルイズだったが、目を凝らしてみると光の中に文字を見つけた。
「……これ、古代ルーン文字……?」
「―――読んでみなさい、ルイズ」
 呆然としたルイズの言葉を聞いて、神妙な様子でエレオノールがその朗読を促した。
「は、はい。えっと……。
 『序文。
  これより我が知りし真理を、この書に記す。
  この世のすべての物質は、小さな粒より為る。
  四の系統はその小さな粒に干渉し、影響を与え、かつ変化せしめる呪文なり。
  その四つの系統は、“火”、“水”、“風”、“土”と為す』」
「『小さな粒』……? ユーゼスのレポートにあった『ブンシ』や『ゲンシ』のこと……?」
 内容を聞いてエレオノールがブツブツと呟くが、ルイズは構わずに朗読を続ける。
「『神は我にさらなる力を与えられた。
  四の系統が影響を与えし小さな粒は、さらに小さな粒より為る。
  神が我に与えしその系統は、四のいずれにも属せず。
  我が系統は更なる小さき粒に干渉し、影響を与え、かつ変化せしめる呪文なり。
  四にあらざれば零(ゼロ)。
  零、すなわちこれ“虚無”。
  我は神が我に与えし零を“虚無の系統”と名付けん』……って、虚無の系統!? 伝説じゃないの! 伝説の系統じゃないの!!」
 ルイズは鼓動を早めながら、『始祖の祈祷書』のページをめくっていく。

 木造の艦隊に近付いていく改造ジェットビートルの操縦席に座りながら、ユーゼスは事態を楽観していた。
(……あれならばミサイルやレーザーを一発撃ち込めば、大破させることが出来るな)
 その分析に間違いは無い。
 所詮は木造……いや仮に艦が鉄で造られていたとしても、このビートルに搭載されている兵器を使えば確実に致命傷を与えることが出来るだろう。
 これは逆に言うと、『そこまでの威力を行使しても地球の怪獣には牽制程度にしかならない』ということになるのだが……。
 ともあれハルケギニアに怪獣はいないので、気にせずユーゼスは最も巨大な戦艦に接近していく。
 ……あのような巨大な戦艦は、大抵の場合は『旗艦』なのである。
 艦隊司令や重要人物が乗っているのだから自然と武装や人員は満載になり、その武装や人員を収容するために艦の大きさは増大していく。明解な理由だ。
 そしてその分かりやすい旗艦を狙い撃つためにミサイルのトリガーに指をかけて発射のタイミングを見計らっていると、艦隊がチカチカと光った。
「む?」
 直後、機体にガツンと何かがぶつかる。
「……対空砲火か」
 接近しているのだから迎撃されるのは当然である。今までほとんど一方的に攻撃するばかりだったので、そのことを失念していた。
 だがハルケギニアの技術力による砲弾など、ジェットビートルには大したダメージには成り得ない。
 『昔の物だから』というわけではないが、この機体はかなり頑丈に作られているのだ。
 ……頑丈と言っても、『怪獣の攻撃を受けても辛うじて不時着が出来る』程度の頑丈さだが。
 しかし攻撃を受け続けるのも気分が悪いので、機動性を駆使して回避することにする。
「………」
 大きく旋回する改造ジェットビートル。
 それにしても、先ほどまでワーワーキャーキャーとわめいていたエレオノールとルイズがやたらと大人しい。横や後ろを確認している余裕がないので彼女たちの様子は分からないが、どうしたのだろうか。
 ……まあ、静かな方が集中もしやすいので構うまい。
「ふむ」
 ともあれ、対空砲火のせいで少しやりにくくはなったが、それでもこちらの優位は動かない。
 適当な位置まで移動したら手早くミサイルを撃たなくては……などと考えていると、大砲の砲弾とは別の『何か』が飛んできて、数発ほどカンカンと機体に当たった。
「……何だ?」
 少なくとも砲弾ではない。音や衝撃が少なすぎる。
 ならば小さい散弾か何かをバラまいたのか……と、ユーゼスは一瞬だけ艦に装備された砲塔に目をやる。
 そして自分の眼球が捉えた情報が、予想と違うことに驚いた。
「アレは……」
 敵艦の舷側からは、確かに金属の砲塔が突き出ている。しかし、装備されているのは大砲だけではなかった。
 その細身の砲身―――いや、銃身を震わせて弾丸を吐き出し続けるそれは……。
「……機関銃だと?」
 初歩的ではあるが、確かに固定式の機関銃だ。
 よくよく目を凝らしてみると、後ろに銃を操作する人間が配置されている。いわゆる銃架というやつだろうか。
「どういうことだ……」
 ハルケギニアの技術レベルではせいぜいマスケット銃が精一杯であったはずなのに、いきなり機関銃とは。
 この短期間に発明されて装備されたのか……と考えるが、この魔法至上主義の世界でそんな『急激な技術の発展』や、まして『新装備の迅速な普及』などがなされる可能性は極めて低いはずだ。
 予想外の攻撃にさらされて混乱しかけるユーゼスだったが、『大砲からの砲弾』や『機関銃からの銃弾』だけではなく、『別の攻撃』もビートルを狙っていた。
 それにユーゼスが気付けたのは、持ち前の知的好奇心から敵の旗艦を観察していたためだった。
 『鉛の弾丸とは明らかに別の物』が、敵艦から発射されたのだ。
 ただ物理法則や慣性に任せて、真っ直ぐに飛んで来る物ではない。どう見ても『自力の推進力』を備えている。狙いはかなりあやふやだが、煙を巻き上げて迫るそれは、
「ミサイル―――いや、ロケット弾か!」
 どうなっている、と回避行動を取りながら珍しく焦った様子を見せるユーゼス。
(唐突に軍事技術の革命でも起こったのか? それとも……)
 ……それとも、誰かが技術供与を行ったのか。
 疑問は尽きないが、戦場においてそんな疑問を深く考えている暇などは、存在しない。

 ユーゼスはいきなりの『新兵器』の登場に慌てていたが、ルイズとエレオノールの姉妹はいきなりの『伝説』の登場という事態にもっと慌てていた。
「ルイズ、その本を私に渡して……いえ、内容が書かれているページを私に向けなさい!」
 これはまず自分が目を通しておくべきだと判断したエレオノールは、ルイズに祈祷書を見せるように命じる。
 『渡せ』と言わなかったのは、自分が持ったら本からの発光が消えてしまうと考えたためである。
 そして座席ごしにルイズに祈祷書を見せてもらったのだが……。
「見えない……!?」
 ルイズのように光の中に文字を見つけることは出来なかった。
 どうやらその文字とやらは、妹にしか見えないらしい。
 仕方がないので、続きを朗読させる。
「……えっと……。
 『これを読みし者は、我の行いと理想と目標を受け継ぐ者なり。
  またそのための力を担いし者なり。
  “虚無”を扱う者は心せよ。
  志半ばで倒れし我とその同胞のため、異教に奪われし“聖地”を取り戻すべく努力せよ。
  “虚無”は強力なり。
  また、その詠唱は永きにわたり、多大な精神力を消耗する。
  詠唱者は注意せよ。
  時として“虚無”はその強力により命を削る。
  したがって我はこの書の読み手を選ぶ。
  たとえ資格なき者が指輪をはめても、この書は開かれぬ。
  選ばれし読み手は“四の系統”の指輪をはめよ。
  されば、この書は開かれん。
  ブリミル・ル・ルミル・ユル・ヴィリ・ヴェー・ヴァルトリ』」
「………!!」
 エレオノールの頭の中で、急速に今までの情報が組み合わさっていく。
 『通常の四系統の魔法』を失敗し続けた妹。
 ユーゼス・ゴッツォに刻まれたルーン。
 始祖の使い魔と伝えられている、ガンダールヴ。
 それを使役する、自分の妹。
 王家に伝わる、年代物の『始祖の祈祷書』。
 妹にしか読めない、『虚無』に関する情報。
 始祖からのメッセージ。
 ……もう、答えは一つしか考えられない。
「『以下に、我が扱いし“虚無”の呪文を記す。
  初歩の初歩の初歩。“エクスプロージョン”』……」
 その後には古代後の呪文が続いているらしく、ルイズはそこで朗読を打ち切った。
 そして呆れたように呟く。
「……ねえ、始祖ブリミル。アンタ、ヌケてんじゃないの? この指輪がなくっちゃ『始祖の祈祷書』は読めないんでしょ? その読み手とやらも……、注意書きの意味がないじゃないの」
 その呟きにも一理はあるが、エレオノールは別の側面から『注意書き』について考えていた。
(……そこまで分かりにくい条件にする理由がある、ということ?)
 注意書きによると、『虚無』は術者自身の命すら危うくしてしまう類の物らしい。
 あるいは強力すぎて、使い方を誤れば取り返しのつかない事態になってしまうからか。
 しかしハッキリと『聖地を取り戻せ』と明記されている以上、この力を使わねばエルフには勝てないとも考えていたはず。
 とは言え、本当にブリミルがドジをしたという可能性も捨てきれないが……。
(…………頭がこんがらがってきたわ)
 もし6000年前に飛んで行けるのならば、今すぐに行って始祖ブリミルにこの件について問い質したい気分である。
 まあ、そんなことは神でもなければ不可能だが。

「……!」
 雨あられと撃ち込まれる弾丸や砲弾を回避するため、機体を大きく旋回させる。
 使用されているのは、初歩的な大砲と機関銃とロケット弾。
 頑丈さに定評があるジェットビートルとは言え、さすがにそんな攻撃にさらされ続ければ撃墜されてしまうだろう。
(……出所はともかく、あれらを存在させ続けるわけにはいかんか……!)
 ごく初歩的な銃火器では威力はそれほどでもないし、連射性や速射性も低く、命中精度も高いとは言えず、ハッキリ言って『単発では』ビートルの脅威には成り得ない。
 だが、これがハルケギニアの竜騎兵や人間相手にならば、十分すぎるほどの脅威になる。
 加えて、銃火器を作る技術力があるということは、どこかに必ずそれを製造するための工場があるはずだ。
 技術力や工業力のむやみな発展は、自然や環境の破壊を引き起こす。
 ……そのような愚にもつかない発展をする可能性がごく低いからこそ、自分はこのハルケギニアに高い価値を見出したのに、これでは何の意味もない。
 アレは、ここで潰しておく必要がある。
(とは言え、どうする……?)
 こうも弾幕を張られていては、近付くことも出来ない。
 ……出力を全開にして最大速度であるマッハ2.2を出せば話は早くなるのだが、ぶっつけ本番のプラーナコンバーターにそこまでの無茶が可能なのかは不明だ。
 戦闘中でなければテストも兼ねて最大速度を試しても良いのだが、さすがに銃弾や砲弾が飛び交う中でそんなバクチなど打てない。
 ユーゼスは『分の悪い賭け』というものが、大嫌いなのである。
 それにコンバーターに問題が無いとしても、ただまっすぐに直進するのならばともかく、旋回や回避運動をしながらではそんな速度は出せない。
 自分は戦闘機操縦の訓練など、全く受けていないのだ。
 マッハで機動を行った際に生じる過負荷など、とても耐えられまい。
 クロスゲート・パラダイム・システムを使ってそれをカット出来るかとも思ったが、そこまでフレキシブルな使い方など今までやったことが無いので出来るかどうか分からない。
 最も手っ取り早いのは超神形態になることだが、『戦争』などという俗で下らないことのために自分の研究成果や光の巨人の力を使いたくはない。そもそも『ハルケギニアへの過度の干渉を控える』という自分のポリシーを逸脱しすぎる。
(ええい、ギャバンがいれば……)
 思わず、とっくの昔に縁を切ったはずのかつての友人のことを思い浮かべてしまう。
 あの男ならコンバットスーツを着ているのでちょっとやそっとの過負荷など全く気にしないだろうし、そもそも電子星獣ドルがあれば一網打尽に出来る。
 ……そもそも、何故自分はこんなことをしているのだろう。
 自分の担当は『現場』ではなく、『後方支援』や『研究』や『分析』のはず……と、ふと気付いてみると自分の思考が銀河連邦警察にいた頃のものに戻っていたことに気付いた。
(……かなり焦っているな)
 回避運動を取り続けながら、内心で苦笑する。
 このまま撤退するのも一つの手かも知れないな、などと考えていると、後ろからガチャガチャと金属音が聞こえた。
 先頭中に振り向くわけにもいかないので、声を上げて確認を取る。
「何をしている?」
 すると、ポツリポツリとルイズが喋り始めた。
「いや……、信じられないんだけど……、上手く言えないけど、わたし、選ばれちゃったかもしれない。いや、なにかの間違いかもしれないけど」
「?」
「……いいから、コレをあの巨大戦艦に近付けて。ペテンかもしれないけど……。何もしないよりは試した方がマシだし、他にあの戦艦をやっつける方法はなさそうだし……」
「何を言っている?」
 戦場の空気に当てられて、気でも触れたのだろうか。
「ま、やるしかないのよね。分かった、取りあえずやってみるわ。やってみましょう」
「ミス・ヴァリエール」
「…………悪いけど、今はひとまずルイズのいうコトを聞いて」
 ワケが分からない。
 これは本当に撤退した方が良いか、と理性を保っていそうなエレオノールに提案をしようとすると、ルイズは後ろからユーゼスを怒鳴りつけた。
「ああもう、近付けなさいって言ってるでしょうが! わたしはアンタの御主人様よ!! 使い魔は! 黙って! 主人の言うことに従うッ!!」
「……………了解した」
 従わなければ後ろから首を絞められかねない勢いだったので、渋々だが引き受ける。
 ……とは言え、どうやって近付いたものか。
 砲撃は続き、回避運動も続く。
 武装は両舷に設置されているので、側面は論外。
 艦の底にも砲身を確認出来るので、真下も却下。
 と、なると……。
「キャッ!?」
「ちょ、ちょっと、もう少しゆっくり出来ないの!?」
 グン、と機体に負荷を受けながら、ジェットビートルは上昇する。
 横も下も駄目ならば、上に行くしかない。
「……ふむ」
 予想通り、そこは死角だった。砲弾も銃弾も存在していない。
「それで、この後はどうするのだ?」
 と言うか、この位置からミサイルを撃てばそれで終わるのでは―――とも思うのだが、主人のやる気を削ぐのも何なので黙っておく。
 そして、余裕が出て来たので振り向いてルイズの様子を確認したユーゼスは、そこにある光景を見て仰天した。
「えっと……、コレどうやって開けるのよ!?」
 なんと飛行中だと言うのに、搭乗口を開けようとしているのである。
 馬鹿かお前は、と言おうとしたが、どうせ言ってもまた怒鳴られて黙らされるのが目に見えているので、初めから黙っておく。
 まあ、そう危険な場所でもないのだし……と搭乗口の開け方を教えようとしたら、ジェットビートルに衝撃が走った。
「!」
 一体何だ、と驚くが、すぐに新たな敵だと思い至る。ここは戦場なのだ。
 前方を見ると、素早く動く風竜に乗った騎士が一人。
 その竜騎兵は小刻みに動いて、こちらに上手く狙いを付けさせてくれない。
 ……顔の確認こそ出来ないが、相当な手練だろう。まともに戦えば、一筋縄では行くまい。
 だが。
 あいにくとこちらは、ハルケギニアの範疇の『一筋縄』ではない。
 そして何より、ユーゼスは目の前の竜騎兵に対して『ある感情』を明確に感じていた。
 これから事を成そうという時に現れた障害に対する感情とは、すなわち……。
「邪魔だ……!」
 ユーゼスの苛立ちに反応して、左手のルーンが輝いた。
 身体が軽くなり、反応速度が上昇する。
 ガンダールヴの特殊能力を実感しながら、ユーゼスは引き金を引き、ミサイルを発射した。
「―――――」
 そしてある程度ミサイルが離れた位置―――まだ敵には届いていないポイントで素早く機銃を撃ち、ミサイルを撃ち落とした。
 すると盛大な爆発が発生し、しかしその爆風は敵には全く届かなかった。
「よし」
「どこが『よし』なのよ!?」
 エレオノールがわめいて文句を言ってくるが、取りあえず無視。
 ……このような至近距離であんな小さな的にミサイルを発射しても、スピードが乗らずに回避されるに決まっている。
 どうせ回避されることが分かりきっているのならば、その逃げ道を限定させれば、行動も読みやすくなる。
 今の行為によって、敵はミサイルのことを『飛んで来る爆弾』と認識したはずだ。
 そして、『先ほどの攻撃は爆発させるポイントを誤ったのだ』とも。
「―――――」
 続いてミサイルを3発ほど、“相手のやや下方に向かって”連射。
 3発はそれぞれ左右と中央の3方向に向かっている。
 爆発の衝撃力は、すでに見せ付けた。
 直撃などしたら即死、中途半端な回避も意味がない、迎撃しても爆風の影響からは逃れられないかも知れない。
 よって、敵の取る行動は1つ。
 唯一空いている、上に逃げるしかない。
「っ!」
 敵が上に方向転換した直後、ガツンという衝撃と共に風防の正面ガラスにわずかにヒビが入った。
 どうやら風魔法を放たれたらしいが、このジェットビートルは音速を突破する機体なのだ。その際に生じる衝撃波に比べれば、ちょっとやそっとの風魔法などは大した問題ではない。
 しかし何発も連発で受ければ危ないことは間違いないので、短時間で決着をつけるべくスロットルを操作して急加速を行う。
 まずは直進。
 ドン、という衝撃と轟音。
 どうやら音速を突破してしまったようだが……この際だ、別に構わない。
 先に発射したミサイルに追いついた(ミサイルはビートルの下を並行して飛んでいる)時点で機体底部のジェット噴射口に火を入れ、機首を垂直まで上げる。
 続いてミサイルを遠隔操作で自爆させ、同時に背部のジェット噴射口を全力で噴射。
 ミサイル爆発によって生じた衝撃と、ユーゼスの感情・生体エネルギー……プラーナを吸って得た推進力を使い、ビートルは急激な勢いで垂直上昇する。
 横で『女性の絶叫』が、後ろで『少女の悲鳴』と『何か人間大の物が転がる音』がしたが、無視。
 そしてそのまま上に向かって直進。
 向かう先には、敵の竜騎兵。
「む?」
 ……何か半透明な膜のような物が、カーテンのように機首にかかっている。
 この時ユーゼスに現象を考察している余裕があれば、この『膜』は自分のプラーナがカタチになって展開されたものだと気付けたかもしれないのだが、今はいちいち考えている暇などない。
(この位置は砲撃の死角でもあるし……、最大速度を試してみるか)
 ある程度の安全が確認されたのならば、そうためらう必要もあるまい。
 ユーゼスはそう判断すると、プラーナコンバーターの出力を上げていく。
「……!!」
 ビートルは瞬く間に、当初の設計上の最大速度を突破した。
 そして衝突する直前、敵の竜騎兵は見事な反応で自分の乗る風竜から飛び降り、脱出しようとしたが……。
「ぐ、うぉぉおおおおおおおっっ!!?」
 機体を覆うプラーナの膜がその身体をわずかにかすめただけで、遠くまで吹き飛ばされてしまった。
 飛ばされた際の叫び声に、どこかで聞いたような覚えがあったが……、特に思い出す必要も感じないので放っておくことにする。
「ふう……」
 邪魔な敵を撃退したことで、ユーゼスはようやく一息をつく。ビートルを減速させて戦闘機動から通常機動に戻すことも忘れない。
 それにしても今回は危なかった。
 普通なら、急加速の過負荷などには耐えられなかっただろう。身体能力を向上させるガンダールヴのルーンの効力が無ければ、もっと別の戦法を考え出さなければならないところだった。
 ともあれこれで主人も、心おきなく自分のやりたいことを行えるはずだ。
 きっとヴァリエール姉妹の二人も満足げな、あるいは安堵した表情をしているに違いあるまい。そう思って、横のエレオノールと後ろのルイズの様子を確認する。
 そして振り向いた瞬間に『乱暴すぎるわよこの馬鹿』、『わたしたちを殺すつもり』という賛辞の言葉を受け、姉妹そろっての平手打ちという祝福を受けた。
 かなり痛かった。


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