あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

雪と雪風_始祖と神(7)


「――遅かったな、北花壇騎士と使い魔」

 音もなく消えた壁から現れた二人に視線を向けるのは、ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルドである。
いや、一人ではない。ウェールズと才人。そしてルイズもいるが、彼女が二人を見つめることはない。

 ワルドの輝く杖の先は、ルイズの心臓を正確に貫いていた。

 そしてルイズの背後にはウェールズ。
二人は、ルイズがワルドからウェールズを庇ったということを、一瞬にして理解した。
「子爵――、君はレコン・キスタ――」
 ウェールズは飛び退くと、ワルドに対峙する。

「ルイズ!」
 才人が怒りとともに切りかかるも、ワルドはデルフリンガーを杖で受け止める。

「ユキ?」
「おそらく二人とも偏在。こっちがはずれ」
「わかっている。――ごめん、キュルケ。ルイズを守れなかった」
「……その代わりに、王太子を守れる」
 タバサは長門の言葉を噛み締める。そう、今のタバサは北花壇騎士なのだ。

二人は、ともに目で合図すると二手に分かれ、才人の脇からワルドへと飛びかかった。
「――ウィンディ・アイシクル」
 タバサの氷の矢が舞う。
長門は傍らにある机を持ち上げると、ワルドへと投げつけた。机は無数の情報の矢となり、ワルドを襲う。
「エア・ハンマー」
 ウェールズもまた、得意とする風の魔法を放った。

 しかしワルドは才人を跳ね除け、ウェールズのエア・ハンマーを飛び退き避ける。
タバサの攻撃を風によってかき消し、長門に対しては更に偏在を一人増やすことで対処した。
情報の矢を全身に受け、新たに出現した偏在は、一瞬にして消滅する。
「偏在を使い捨てるだと……!? これが、スクエアか――」
 ウェールズが呟く。

タバサと長門は背後へと回り、扉を固めた。才人、ウェールズを含め、四人はワルドを包囲する格好となる。

 しかし、ワルドは余裕の笑みを浮かべ、言い放った
「杖と剣を収めよ。ここにいる僕を倒しても無駄だ。なぜなら、僕もまた偏在だからね。
――ウェールズ王太子を亡き者とすることに失敗したのは残念だ」
「出任せを! ルイズを殺してぬけぬけと!」
「待って」
 飛び掛ろうとする才人をタバサが制止した。
「このルイズは本物じゃない」
「何言ってるんだ、タバサ――。だってルイズは……、ルイズが――いない!?」
 確かに刺し貫かれたルイズがいた筈の場所には、血溜まりどころか、彼女の髪の毛一つ落ちてはいなかった。

「ルイズをどこへやった!」
「まだ分からないのか。君は主人に欺かれたんだ。僕の刺し抜いたルイズも偏在だよ。
今頃本物のルイズは、別の僕の偏在に眠らされている筈さ。
……少なくとも目的の一つ、虚無の担い手を連れ帰ることは達することができた。
さらばだ、ガンダールヴ。――そして北花壇騎士、このゲーム、僕にとっては引き分けだが、君にとっては勝ちのようだな」
 そう言い残すと、ワルドの偏在は、風に吹かれるようにして消え去った。

「……なんてこった。タバサ、説明してくれよ!」
 才人はデルフリンガーを杖にしてうなだれ、泣き崩れた。
「ルイズ、俺まで騙すことなんてないだろう――」

 + + +

 時はタバサと長門がニューカッスル城へと向かっていた最中に遡る。

 ルイズは偏在を生み出すと、本体は部屋に残ったまま、部屋の前に待つ才人に、偏在を同行させた。
「ごめん、サイト。でも……、わたしの力だけを求めようとしたワルドを、
どうしても信用できない。これも任務のためなの。わかって」
 ルイズの偏在は、ワルド――こちらも偏在である――とサイトとともにウェールズの寝室へ向かい、
アンリエッタからの信書を手渡すこととなる。

 ところが、ルイズが息を潜める部屋の扉を叩く者がいた。
「ルイズ、僕の愛しいルイズ」
 ルイズを小声で呼ぶのはワルドである。
 しかしルイズは動かない。
 するとワルドはサイレントを唱え、エア・ハンマーによってなんなく扉を蹴破った。

「――ワルド、手荒い登場ね」
 ルイズは杖を構えるも、偏在を操作している最中のこと、予備詠唱を開始することができない。
「……ルイズ、君がスクエアクラスの魔法に目覚めたとは聞いていたが、まだまだ鍛錬が足りないな。
まさか僕が、君の偏在の存在に気付かないとでも思ったかい? 
いかに同じスクエアとはいえ、経験の差が現れたようだね」
 唇を噛むルイズに向かって、ワルドは続ける。
「……そして偏在とは、生み出しつつも他の魔法を唱えられてこそのもの。
ただの身代わりではないんだ。もっともそれが、スクエアでなければ使いこなせない所以ではあるが――。
どうした、僕にかかってこないのかい?」

 ワルドにけしかけられ、ルイズは火の魔法、ファイアーボールの予備詠唱を開始する。
詠唱を完成しさえすれば、目の前のワルドを攻撃することは簡単だが、その瞬間にルイズの偏在は消失することとなる。
ワルドの言うとおり、偏在を維持しつつ他の魔法を放つことが可能なほどに、ルイズは偏在を使い慣れてはいなかったのである。

「そうだろうな、使えまい。偏在が消えれば、君の使い魔は、君が欺いていたことに気が付いてしまうのだから!」
 その言葉に、一瞬ではあるが、ルイズは確かに狼狽した。
 ワルドはその隙を見逃さない。
 魔法衛士隊の身のこなしでルイズに飛び掛ると、
ワルドは杖を持つルイズの手を掴み、自身の杖をルイズの喉元に突きつけた。

「それと、ここにいる僕をどうこうしても無駄だ。僕も偏在だからね」
 その言葉が真実であるかは定かでない。
しかし、ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルドが本体を含め四人で戦ったというトリステイン魔法衛士隊員の証言を基に、
彼の生み出せる偏在が三人までと仮定すれば、ルイズの部屋を訪れたワルドは本物ということになるであろう。
「――そう。……杖を奪わないの?」
 しかしルイズにとっては、彼が本物のワルドであろうと、偏在であろうと関係はない。
いくらスクエアメイジであるとはいえ、身体能力の差を覆すことは不可能である。
「奪えば偏在も消えるだろう? 協力してもらう。従えば使い魔にも、ウェールズにも危害は加えない。
なに、もし僕の言葉に嘘があれば、君の偏在でウェールズを守ればよいだろう。
……ほら、君の偏在が、ウェールズに信書を渡しているぞ?」
 ワルドは偏在を通じ、ルイズの偏在とウェールズを見る。

「うむ……、恋文は、燃やしたか――。よくできた王子だ。ならばもはや用はない。
そろそろ僕の偏在が、ウェールズの心臓を貫こうとしているところだ」
「ワルド!」
「それ、どうした。君も偏在を動かさなければ、幼馴染の思い人一人、守れないまま終わることになるぞ」
 ルイズは偏在を通じて、ワルドの偏在がウェールズの前に立つのを見た。
それと同時に自身の偏在を、ワルドとウェールズの間に滑り込ませる。瞬間、ルイズの偏在は、ワルドの杖に刺し抜かれた。

「よし、いい子だ、愛しいルイズ」
「……なぜ、こんな無意味なことを?」
「なに、君が、偏在が使えることを婚約者に隠していた罰さ。夢を見る子供のままかと思っていたが、
君は彼を選んだ。まさかこの僕が、使い魔の少年に負けるとはね」
「もうわたしはゼロじゃないの。あなたを崇拝する必要なんてないわ」
「そうか。ならば、そう思えるように君を変えればいい。――レコン・キスタの、虚無の力で……」
 そう告げるとワルドはルイズから杖を奪い取り、スリーピング・クラウドによってルイズから意識を奪い取った。
 ――そして、主を失ったルイズの偏在は、ウェールズの寝室から消失する……。
 ルイズの部屋を訪ねたワルド――それが偏在なのか、本体なのかは誰も知らない――は、
ルイズを抱えたままやすやすと城壁を飛び越える。

 すると城壁の外に待っていたのは、もう一人のワルドである。
「やったか」
「ああ」
 もう一人のワルドは、ルイズを抱えたワルドに、古ぼけた宝物を見せる。
「そうか、これが始祖のオルゴール。鍵は揃った……な。北花壇騎士よ、二対一で、この勝負、僕の勝ちだ」
 二人のワルドと眠ったままのルイズ、そして始祖のオルゴールは、レコン・キスタの軍勢の中へと消える。

 + + +

「すまない――。子爵がレコン・キスタに通じていたと見抜けなかった、わたしの責任だ」
 部屋を支配した空虚を破ったのは、ウェールズであった。

「いや……、王太子のせいじゃありませんよ。ルイズは気付いてたんだ、ワルドが怪しいって。
だから俺を欺いてまで、あなたを守ろうとして――」
 才人の嗚咽が響く。

 そんな様子の才人に、タバサが近付きしゃがみ込む。
「すまない。わたしたちも、ワルドがレコン・キスタだと気付いていた。
それに、この部屋でなく、本物のルイズを助けに向かうこともできた。……許して」
 タバサもまた、変わらぬ無表情の中に、一言一言を噛み締める様子が見て取れた。

「いいんだ。こうすることを選んだのはルイズなんだから……。流石は貴族だよ。
自分を危険に晒して、一国の王子を救うだなんて――。俺には、主人を守ることもできなかった……」
 ウェールズとタバサは、もはや沈黙するほかない。

 しかしウェールズは心にまとわりつく靄をはらい、毅然とした態度で、ゆっくりと皆に語り出した。
「ミス・ヴァリエールの使い魔君。君が見た通り、アンリエッタの手紙は僕が燃やし、
もうこのハルケギニアに存在しない。君が主人の代わりに、トリスタニアに戻るんだ。
――そのときは、こう伝えて欲しい。ウェールズは勇ましく戦い、そして死んでいった、と。
それ、なにをしている、なにを泣いている。君の主人は、まだ生きているではないか。
わざわざ生け捕りにしたのだ、誇りがあるのならば、いかにレコン・キスタとはいえ殺しはしまい!」

 才人はゆっくりと立ち上がる。しかし目はどこか――ルイズの連れ去られたであろう、
どことも知れない場所を見、肩はがくりと落ちたままである。見かねたウェールズは、才人へ右手を差し出した。
「王太子……」
「わたしは戦う。ならば君も、戦って主人を取り戻すのだ。生きろ! 殉じる者がいる限り!」
「――ええ」
 才人も右手を差し出し、ここに王族と平民、本来ならばありえない組み合わせの二人が、握手を交わした。

「頼むぞ、ミス・ヴァリエールの使い魔君。――もうすぐ、この城からの最後の船が出港する。
……青い髪のメイジ殿。君達が誰なのかは知らないが、どうやらミス・ヴァリエールの友人との様子。
どうか、君達も同行し、使い魔君を守ってはくれないか。
万が一の際、いかに彼が手練れの剣士とはいえ、平民だけでは心許ないだろう」
「了解した」
 タバサと長門は臣下の礼をとる。しかし、
「ユキ」
 タバサの合図に、長門は小さく何かを呟く。

 するとウェールズは気を失い、倒れこんだところをタバサが受け止めた。
「タバサ! いったい何を!」
「ユキの魔法で眠らせた。スリーピング・クラウドのようなもの。トリステインに連れて帰る」
 問い詰める才人に、悪びれた様子もなくタバサは言う。
「――そうか、わかったよ。ルイズもそう言っただろうな。聞いてたんだろ、姫様とルイズの話。
恋人に使いを送ってまで伝えることが、ただ手紙を返してください、だなんておかしいもんな」
 才人はタバサににやりと笑いかけた。
「ルイズ、使い魔としてこの任務、俺が代わりに果たすぜ。待ってろよ、すぐに助けに行くからな!」

「ユキ、もう一度魔法をお願い。このままでは、ウェールズだとばればれ」
「わかった」
 長門の情報操作によって、ウェールズの顔は、鼻の低いさえない男へと変化した。
それはまるで、彼女がいつか思いを寄せた、同じ団員の男のようでもある。
 才人はウェールズの上着を脱がせると、自身のパーカーを代わりに着せる。
シャツ一枚では高度三千メイルの寒さが身に染みるが、泣き言は言っていられない。

 アルビオン空中大陸が船から離れていく。才人は、甲板に眠るウェールズの横で、ただ座り込んでいた。
時折デルフリンガーに話しかけられるが答えない。
 そしてタバサも泣いていた。親友の友人を守れなかったこと、
そして、あたかもアンリエッタのためを装って、ハルケギニアを戦乱に陥らせる行為に加担したことを。

 + + +

「タバサ!」
「サイト!」
 四人がラ・ロシェールに降り立つと、キュルケとギーシュがタラップへ駆け寄る。
「よかった……、本当によかった――! 
避難してきたアルビオンの王党派は、この船が最後の船だっていうから、もうダメかって!」

 しかし、タバサは一人進み出ると、無二の親友に向かって頭を下げる。
「――ルイズを、ルイズを助けることができなかった。あなたの、親友なのに――」
 そう言われて初めて、キュルケはルイズがいないことに気付く。
「そんな――、嘘でしょう? まだ船の中に……」
「本当なんだ、キュルケ。俺も、ルイズを――、連れて帰ることが、できなかった……」
 才人も嗚咽をこらえながら、同様のことを言う。
キュルケは、認めたくない事実と思いつつも、二人の様子に事実を信じざるを得ない。

 ところがキュルケは言葉を荒げることもなく、タバサを胸に抱き寄せた。
「キュル……ケ?」
「あなたが気に病むことじゃないわ。あの子は、貴族の誇りを第一に考えて、トリステインのお姫様に殉じた……の、よ――」
 しかし、表面上は良心的な言葉を掛けようとするが、その涙は嘘をつくことができない。
「ちょ、ちょっと待てよキュルケ、ルイズは死んでなんかいない。ただ――、ワルド子爵に連れ去られて――」
「そ、それは本当?」
 キュルケはタバサを抱いたまま、才人へ顔を上げる。
「ああ。だから俺は――、ルイズを助ける。絶対にだ!」
「よかった――。生きてるんじゃない、あの子。ダーリン、あたしも協力するわ」
「……ありがとう、キュルケ。だけどその前に、ルイズの任務を俺が果たさなくちゃならない」
 そう言って、才人は後ろに寝かされた、才人によく似た彫りの浅い顔立ちの男を見やった。

「いったい、彼は誰なんだい、サイト」
 とギーシュ。才人はタバサに耳打ちする。
「……なあ、やっぱりギーシュには言わないほうがいいよな?」
「彼はトリステイン貴族?」
「タバサのクラスメイトだろ?」
「今回初めて会話を交わした」
「そうか……。ギーシュは、トリステインの軍隊のお偉いさんの息子らしいぜ」
「……ならば話すべき。わたしはガリア、キュルケはゲルマニア、そしてあなたはただの平民にすぎない。
トリステインの王宮に入るには、彼の助けを借りるのが一番」
「うーん、そうか、なあ」
 才人はギーシュへと向き直る。

「おいギーシュ、これが姫様に与えられた任務だって分かってるよな? このことは秘密にすると誓ってくれ」
「何を今更? 君に言われずとも、任務の内容を口外するなど、もってのほかさ」
「あたしも大丈夫よ、ダーリン」
「……ならいいけど」
 才人は、キュルケとギーシュへと事の次第を明かす。
「この人が、ウェールズ王太子だ」

「ええっ!?」
「大声を上げるな、ギーシュ」
 キュルケもまた、口に手をあて驚きを表現している。
「本当?」
 才人が頷くのに合わせ、タバサと長門も首を縦に振る。
「待って。これが証拠」
 長門はウェールズの前に進み出ると、顔に杖を当てる。すると彼の顔は、ウェールズのそれへと戻る。
「フェイス・チェンジ、そういうわけね。さすがユキというか……」
「ああ、さすが長門さんだよ。だから急いで、トリスタニアまで行かなくちゃならないんだ。馬か、馬車でもあれば……」
「わたしが探す。ここで待ってて。ユキ、ついてきて」
 有無を言わさず、タバサは馬車を探しに町へと消えた。

「四人乗り馬車を借りたい。トリスタニアまで、名義はギーシュ・ド・グラモンで」
 タバサは二頭立ての四人乗り馬車を仕立てさせた。
支払いは手持ちの金貨にて行い、ガリア王家の名の入った小切手を残すことはしない。
「グラモン家の者が来たら出発してほしい。すぐに戻る」
 それだけ言い残し、二人は才人たちを呼びに戻った。
「……四人乗りでいいの?」
 雑踏の中、長門がタバサに問う。
「いい。わたしたちはリュティスに向かう」
「そう」

 そして皆の元へ戻ると、こう伝えた。
「四人乗り馬車しか、借りることができなかった。
わたしとユキは、後から追いかける。先にあなたたちがトリスタニアに向かって」
「でも、いいのか、タバサ?」
「いい。ガリア人のわたしがいると、色々と面倒」
「あら、だったら、あたしも残ろうかしら」
 とのキュルケの言葉に、タバサは彼女に小さく耳打ちする。
「……そう、用事があるのね。詮索はしないわ。でも、絶対に帰ってくるのよ」
 タバサは小さく頷く。

「……また、嘘をついてしまった。――でも、報告を終えたら母上の元へ向かう。駒になるのは、これが最後……」
 二人は、才人、キュルケ、ギーシュ、そしてウェールズが乗った馬車を見送ると、
馬を二頭借り、ガリアの首都リュティスまで、早馬で二日の距離を駆けた。


新着情報

取得中です。