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雪と雪風_始祖と神(5)


5.

「あなたに、話すことがある」
 授業が終わり自室に戻ると、タバサは長門に、真剣な面持ちで切り出した。
「なに?」
「わたしのこと。それと、あなたにも関係がある」
 タバサは椅子に腰掛けると、ベッドに座る長門へと向き直った。

「あなたも知っている通り、タバサは偽名」
 一呼吸置いて続ける。
「わたしの名前は、シャルロット・エレーヌ・オルレアン。つまり、ガリア王弟の娘」
「そう」
「……驚かないの?」
「べつに」

 簡単な返答にもかかわらず、長門の口調には、けっして冷淡さはみられない。
それどころか、身分を明かしたというのに、シャルロットを、タバサでも王族でもない一人の人間、
使い魔と主人という関係ではあれど、友人のように見つめている変わりはないことに、タバサは気付いたのだった。

「……ありがとう。あなたが自分について話したときに、わたしも話すべきだった。ごめん――」
「気にしなくていい。わたしにとって時間は意味を持たない。ただ、知るか、知らないか。だから、話して」
 感情こそ表に出してはいないが、なぜかタバサは、言葉を続けることができない。
それでも、長門有希の言葉に促されてか、少しづつながら、自身の境遇について、彼女は語り出した。

「――それが、わたしがタバサと名乗る理由。そして、ユキ、あなたに、任務に協力してほしい」

 タバサが語ったのは、父を殺され、母親を人質に、駒として無謀な任務に狩り出されているという事実である。
もちろんタバサとしても、使い魔とはいえ友人を巻き込むことを後ろめたく感じている。

「……あなたを巻き込むのは不本意。拒否するのであれば、わたしは止めない」
しかし、はたして長門は、首を縦に振った。
「……どうして?」
「拒否する理由が見当たらない。これはわたしの選択。誰の指示でもない」
「わたしの使い魔だから?」
「違う。あなたのため」
 短いものながら、長門の言葉がタバサの胸をうつ。
仮にそれが、似たもの同士であるという理由であったとしても、二人の間に友情が芽生えていることに間違いはない。
あなたがタバサだから。それだけで理由は十分であった。

「わかった。でもそれは、母様の病を治すまで。機を待つ……」
「だいじょうぶ。話を聞く限りでは治療は可能と思われる」
「……できるだけ早く、こんなことは終わらせる」

 + + +

 フリッグの舞踏会が終わると、矢継ぎ早に使い魔の品評会がやってくる。
生徒にとっては、使い魔を通じて自身の力量を示すチャンス、
そして、トリステイン王家からやってくる来賓に対して家をアピールする絶好の機会でもある。

 しかしながらタバサにとっては、特に目立つ必要もないし、興味を持つ理由もなかった。
事実、長門有希が行ったのは、小石をそれと同じ大きさの金に錬金するという、
彼女がスクエアクラスのメイジであるという記号を示すだけの予定調和。
やがて一部には、ミス・ナガトはゴールドの錬金にしか能のない、歪んだ才能の土メイジであるとの噂も伝播したという。
しかしタバサにとって、そのようなことは何の問題にもならない。
それよりも彼女を悩ませたのは、前日の夜に届いた、一通の手紙であった。

 窓辺と椅子にもたれて書物を開くのは、タバサと長門の日課である。
しかしその晩に限っては、開け放たれた窓から飛び込んできた伝書鳩に、平静を破られた。

 それが何であるかを理解しつつ、タバサは鳩にくくり付けられた文書を開く。
「来た」
「なにが?」
「任務」
「そう」

 もちろん、いつか任務が舞い込むことは予想の範囲内であった。
しかし、その機会が思いのほか早くやってきたことが、タバサの心に葛藤を呼ぶ。

「あなたは、いいの?」
「いい。使い魔として、協力する」
 いや、タバサにとって、長門有希の召喚以来、これまで任務を命じられなかっただけでも、
幸運だったのかもしれない。仮に風竜のような移動手段となる使い魔を従えていれば、
これまで以上に都合のよい駒として扱われていたことは、想像に難くない。
ただ、長門有希の能力を持ってしても、自身の領地との距離が埋められず、
簡単には母の病を治しに向かえないことに苛立ちを感じてはいたが。

手紙には文書のほか、ガリア王の名が記された小切手や通行証、そして「武運を祈る」といった程度の、
内容がないも同然の信書も同封されていた。タバサは長門に、文書の内容を伝える。

『――明日、トリステインよりアルビオン王国へ派遣される密使に同行し、
ウェールズ王太子をトリステインに亡命させよ。詳細はラ・ヴァリエール家三女への使者より情報を得ること。
なお至急の任務のため、即時行動開始せよ。任務完了後はリュティスにて報告のこと [北花壇騎士団長]』

「どういうこと?」
 タバサは長門有希に、現在のハルケギニアの情勢を説明する。
空中大陸アルビオンにおける内戦、旧体制に相当する王党派が敗北寸前であること、
そして、ガリア王家の血を引くタバサの耳にしていた、トリステイン王女アンリエッタとアルビオン王太子ウェールズが、
かつて恋仲であったということ――。長門有希がこれまでに読んだハルケギニアの書物の知識と合わせれば、理解は容易であった。

「この任務は危険」
 長門有希が口を開く。それはタバサへ意見するためのものであったか、単に事実を述べたものであったか。
「王太子を亡命させれば、アルビオン貴族派――レコン・キスタ――の次なる矛先は、トリステインに向かう。目的はなに?」
「あなたの言うとおり。目的は――、おそらく、気まぐれ――。だけどわたしはただの駒にすぎない。
わかって。わたしが駒なのは、ユキに母様の病を治してもらうまで」

 + + +

 そして、使い魔品評会の終わった夜。
「来た」
 タバサは、自室の扉を叩く音に、友人を招き入れる。
「タバサ、気付いているかもしれないけれど、ルイズの部屋に客人よ。たぶんあれは――」
「気付いてる」
 タバサと長門は椅子から立ち、キュルケに同行してルイズの部屋へと向かう。

 ルイズの部屋の前には、既に先客がいた。いつかルイズの使い魔と決闘した、土メイジのギーシュである。
タバサと長門有希は、彼とほとんど面識がない。
 無防備なままドアに耳をつけていた彼を引き剥がし、タバサは一同の周りにサイレントをかける。
 既にルイズの部屋にはサイレントの魔法がかけられていたが、おそらく風メイジによるものではないのであろう、
トライアングルであるタバサのサイレントを上掛けすることによって、部屋の内部の音が、わずかながら漏れ出した。

 彼女らが耳にしたのは、ルイズの部屋の客人は、トリステイン王女アンリエッタその人であること、
彼女が隣国ゲルマニアに嫁ぐことが政略として決定していること、そして結婚の障害となる、
かつてアンリエッタが、アルビオン王太子ウェールズにしたためた手紙をルイズに取り戻して欲しいということ……。
タバサにとってはガリアから送られた文書から予想できたことではあるが、
彼女が同行する対象と日時を見極めるためには、ルイズの部屋に聞き耳を立てることも必要なことである。

 タバサとキュルケは、概ね話が終わったことを確認すると、何事もなかったかのように退散した。
キュルケは自室へ遊びに来ないかとタバサを手招きするが、明日の出発に備え断る。
かといってキュルケは、そんなタバサをどうこういうわけでもない。

 その後ギーシュだけが、聞き耳を立てていたことに気付かれ、ルイズにエア・ハンマーをお見舞いされるのだが、
それはキュルケとタバサの感知するところではなかった。

 + + +

 翌朝、ルイズと才人、トリステインから派遣されたと思しき長髪の男、そしてなぜかギーシュが出発したことを確認すると、
タバサと長門も馬を駆り、アルビオンへ向かう港、ラ・ロシェールへと彼らを追った。

 最初は彼らに追いつかないよう、控えめに馬を走らせていたが、途中の駅で馬を乗り換える際にそれとなく問うと、
彼らは想像以上の速さで街道を駆け抜けていったようである。自然、タバサと長門も馬に鞭を入れる。

「どこで合流するの?」
 小休止を取りつつ、長門が問いかける。
「機会がなければ合流しない。単独行動。――うかつ。せめてキュルケがいれば、ルイズを追うことを不自然と思われなかったのに」

 確かに、キュルケのような因縁のないタバサがルイズを追うのは不自然である。
フーケの征伐に同行したというだけでは、言い訳としても弱すぎるであろう。
「身分を明かせば?」
「最悪、そうなる。おそらくミス・ヴァリエールは信用できる。でも、トリステイン王宮から派遣された男が問題。
ガリアがアルビオンに介入することを、悟られるわけにはいかない」

「……わかった」
「考えがあるの?」
 長門は小さく頷く。
「環境情報を改竄する」
 すると、長門は高速言語を詠唱し――、タバサが瞬き一つすると、そこには彼女の最も親しい友人、キュルケ、らしき人物がいた。
「フェイス・チェンジ?」
 フェイス・チェンジは、水のスクエア相当の魔法である。流石のタバサも、使い魔のレパートリーに驚きを禁じえない。
「わたしの周りの環境情報を改竄した。どう?」
 しかしタバサの視線が顔から体、特に胸部へと移るにつれ――、表情が曇り出した。もはや語るまでもない。
「だめ」
「そう」
 長門有希も憂鬱な表情を浮かべた。おそらくハルケギニアに召喚されてから、初めてのことである。
 結局、どのように違和感なく合流するかを有耶無耶にしたまま、二人旅は続く。

 + + +

 アルビオンへと繋がる港町、ラ・ロシェールは、古代の世界樹を利用して作られた港と、
岩造りの建築物で構成される経済都市である。四方を峰に阻まれ、
街道こそ整備されてはいるものの、峠を封鎖することで守備は容易であるといえた。

その入り口となる山道の途中、タバサと長門は、手負いの馬を引く男二人に追いついた。
「ヒラガサイト?」
 タバサが声をかける。
「ん、誰かと思えば、タバサと長門さんじゃないか」
「どうしたの?」
「どうしたもこうしたも……」

「そうさ、聞いてくれないか」
 才人を遮り、ギーシュが一方的に話し出す。
「つい先ほどのことなんだが、物盗りに襲われてね。
あの男、ルイズの婚約者でトリステインのグリフォン隊隊長らしいんだが、少しだけ盗賊を相手にしただけで、
僕たちを置いて、ルイズと先に行ってしまったんだよ。相手が全員平民だからなんとかなったものの……。
まったく、彼がトリステイン貴族だなんて、到底信じられない。父に頼んで罷免してもらわなければ――」

「それで、タバサと長門さんはどうして?」
「彼、ギーシュと同じ」
「と、いうことさ」
「実はわたしたちも話を聞いてきた」
「なんだ、盗み聞きしてたのはギーシュだけじゃなかったのか? タバサらしくないなぁ」
「ぼ、僕は君達がいたことは秘密にしていたんだぞ!?」
 しかし才人はギーシュの言葉を無視し、
「ってことは、キュルケも来るんだろ?」
「来ない」
「どうして?」
「わたしと同行すると、キュルケに迷惑をかける」
「迷惑って……なぁ。もっとタバサらしくないぜ。友達なんだろ?」

「……待って」
「どうした、タバサ?」
「来た」
 耳をすますと、才人も背後から蹄の音が近付いてくることに気付く。
「まさか、また物盗りか?」
「違う」
 そして馬は、彼らの後ろに停まる。
「――タバサったら、あたしを置いていくなんてひどいわよ」
 聞きなれた声の主へと振り向くと、噂をすれば影、馬に跨っているのはキュルケである。
「タバサもルイズを追っかけたいなら、あたしに一声かけなさいな。迷惑なことなんて、
何もないんだから。それに、あたしがこんな面白そうなことに首を突っ込まないと思って?」
「ごめん」
「謝らなくてもいいのよ。タバサにはタバサの事情があるでしょうし。大丈夫、タバサの邪魔はしないわ」
 友人に対してばつが悪そうな様子で、タバサたちはラ・ロシェールへと峠道を下っていく。

 + + +

「確か、"女神の杵"亭という宿のはずだったんだが、おお、ここだここだ」
 一行が到着したのは、もはや人通りも少なくなった深夜である。
ギーシュが先頭に立ち、ラ・ロシェールでは最高級の宿に入る。

「サイト!」
 彼らを目にするやいなや、ロビーにいた人影が一つ、才人に飛び込む。
「ルイズ、どうしたんだ、こんな時間まで」
「だって、心配したんだから!」
 ルイズは才人にすがりつき、今にも泣き出さんばかりである。
「あらあら、ルイズもダーリンも……。あたしたちは退散しましょ」

 ルイズと才人を残し、四人は早急に部屋へと入ることにした。既に深夜であることもあり、
男性であるギーシュも同室とあいまったが、そこは男女比と、メイジとしての格の違いによって相互監視が働く。
トライアングルとスクエア相当の女メイジ三人に手を出そうとは、仮にスクエアであっても考えようとはしまい。

 翌朝、朝食のため階下へ降りると、才人とルイズは並んでソファで寝ている。どうやら一晩中、二人っきりでいたようである。
「ルイズったら、何人も男をはべらせてたと思ったら、今度はダーリン一人に入れ込んで、どうしちゃったのかしら、あの子」
「大丈夫」
 タバサは即答する。
「信頼できる人間が必要」
 公爵家と王家という違いはあれど、政略渦巻く中で生きてきたタバサにとって、
一人でも心を許せる人間がいることの大切さは、心に刻み込まれている。
彼女にとってキュルケがそうであり、また彼女の実家の執事、ペルスランもそうであるかもしれない。
そして長門有希も。
「ただ彼の心は、本心なのか、使い魔としてのものであるのか――」

「みんな、船は日没とともに出港よ。七番桟橋の、マリー・ガラント号」
 朝食の場にて、船の出港は、ハルケギニア本土とアルビオン浮遊大陸が最も近付くスヴェルの月夜、
すなわちその日の夜であることをキュルケが伝える。皆それぞれに、一日を過ごそうとしていた。
 タバサと長門は、アルビオンから輸入された書籍を探しに町へと繰り出すことで一致していた。
しかし宿を出ようとしたところで二人は呼び止められる。

「レディ、少し時間を頂戴してもいいかい?」
 声の主は、魔法学院で目にした長髪の男である。
「あなたは?」
「これは失礼」
 帽子を取りつつ、
「トリステイン王国グリフォン隊隊長、ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルドだ。ミス・タバサと、ミス・ナガトだね? 
君達のことは聞き及んでいるよ。謎のスクエアクラスの使い魔だとか」
 ワルドはうやうやしく礼をする。
「それで、何か用?」
「いや、それがレディにフラれてしまってね」
 レディ、がルイズを意味することに気付くまでの間、二人は一瞬戸惑いを覚える。

「あなたとミス・ヴァリエールに、どんな関係が?」
「自己紹介が足りなかったか。僕はルイズの婚約者でね。
とはいっても親同士、勝手に取り決めたものだが――、僕はルイズを本気で愛しているよ。
君達はおそらく、これがただの遠乗りではないことを察しているだろうが――、
思いがけずルイズに再開できて、僕の思いはいっそう深まったさ」
 しかし表面上、二人は眉一つ動かさない。

 ワルドは淡々と続ける。
「だというのに、昨日は部屋にも帰らず、今日も使い魔君と街に繰り出しているときたものだ。
婚約者としては、愚痴の一つも言いたくなるさ」
「何が言いたいの?」
 タバサと長門が同時に発したつれない返事に、ワルドは肩をすくめる。
「いや……、すまない、ただの愚痴さ。貴族らしからぬ発言を見せてしまった。
それでは僕も、外の空気を吸いにいくことにするよ」
 ワルドは二人に先んじて、宿を出ていった。
 顔を見合わせるタバサと長門。
「――どう思う?」
 と長門。
「わたしたちを観察していた。もしかすると、わたしたちの任務に気付いて――」

 + + +

 夕刻。一行は早めの食卓についた。才人の両脇にはルイズとキュルケが座り、
話の花を咲かせるも、タバサと長門、そしてワルドは無言である。
ギーシュも同様だが、彼は単に話し相手がいないだけであった。
「それにしてもルイズ、この宿、やけに客が少ないな。俺たちだけでほとんど貸切じゃないか」
 確かに見回せば、夕食を取っているのは一行だけである。
「今からアルビオンに渡ろうだなんて貴族はいないもの、仕方ないわ」
「そんなもんかなあ。でも昨日は、ギリギリ満室だったんだぜ?」
「日によって変わるわよ」

 しかしタバサは、風のメイジにだけ感じられる空気の変化を読み取っていた。
宿の外を動き回る人間の気配。それがもし、宿に閑古鳥が鳴いている理由であったとしたら?
 ついにタバサは、風に決定的な違和感を覚える。人間が動き出した。

長門に視線を向けると、同時に、長門もタバサへと振り向いた。
どうやら長門も何かを察知したようである。二人は同時に、カウンターの裏へと飛び込んだ。

「どうしたのよ、二人とも!?」
 と声を上げたのはキュルケであるが、彼女も続いてカウンターに飛び込む。
その様子を見て皆も続く。デルフリンガーを掴んだ才人はルイズの手を引く。その様子に、ギーシュも彼らの後を追った。

 すると火矢が射られるとともに、十数人はいようかという傭兵が、宿へと雪崩れ込んできたではないか。
カウンターの酒瓶が割れ、頭上からガラス片と酒が降りかかる。
一人フロアに残ったワルドは、テーブルと椅子を風魔法でなぎ払い、
即席のバリケードとすると、彼もまた皆の元へと飛び退く。
「さて、彼らの狙いは僕とルイズのようだが――」
 ワルドの言葉に、タバサと長門が頷く。キュルケも事態を理解しているようである。
「二手に分かれる」
「うむ、僕らは裏口から出る。君達は、ここを食い止めていてくれたまえ」
 ワルドは才人とルイズに先に行くよう促し、カウンターの奥、裏口へと向かう。

「な、いったいどうしたんだ? 僕らも後を追わなくては……、って、なにをするんだい!?」
 一人事態を理解できていないギーシュを、タバサが杖で叩き黙らせる。
と同時に、固定化のかけられた天井が抉り取られ、赤く染まる空が露になった。
 見ればそこには、いつか見たのと同じ、体高三十メイルほどのゴーレムが立っている。

「おやおや、またあんたたちかい? ん、ヴァリエールはいない、……今日はおまけもいるようだね」
「まさか、フーケじゃないの? あのあとトリステインの衛士に引き渡されたはずじゃ?」
「おまけとは、グラモン家を馬鹿にしたな!?」
 驚くキュルケとギーシュをよそに、タバサは長門に問う。
「このままでは船に間に合わなくなる。どうする?」
「わたしが出る」

 フーケの登場によって、場の空気は膠着する。矢の洪水こそ一時的に止んだものの、
カウンターの外に一歩出れば狙い撃ちされるか、フーケのゴーレムに踏み潰されるかのどちらかである。
だというのに、長門有希はカウンターから飛び出した。いや、まさに躍り出たという表現が正しい。

 しなやかに伸びる跳躍は、フライの魔法を使用したものとは思えない。
巧みに体を捩じらせ、飛び交う矢を逸らそうとする。
 しかし、一本、また一本と矢は身体を貫き、彼女が着地する頃には、マントとセーラー服を真紅に染めていた。
それでも長門有希は、顔色一つ変えてはいない。
傭兵たちが怯んだ一瞬を見逃さずに、長門有希はゴーレムに向け、再び跳躍する。
そして、彼女は空中でゴーレムに正対し、両腕を胴体に向けた。
と――、腕は白い光となって伸び、ゴーレムを貫通する。

「な、なんだって? 動きな、どうして動かないんだ、あたしのゴーレム!?」
 釘付けにされたゴーレムは、もはやフーケの制御を受け付けない。
光の棒となった長門の腕はやがて消え、ゴーレムには大穴が残るのみである。もはや自壊するほかなかった。
「ちっ、一度ならず二度までも……。何者だい、杖もなしに。まさかテファと同じ――?」
 タバサが風魔法により土煙をかき消すと、そこにフーケの姿はなかった。
傭兵たちも彼女の敗走に気付き、次々と"女神の杵"亭を去る。
テーブルと椅子の散乱した床には、四方から矢に貫かれた長門だけが残った。

「ユキ!」
 タバサが駆け寄ると、長門有希を貫いていた矢は輝く砂に変わり、散り散りに消え去る。
力を失い倒れこもうとする長門を、タバサは抱き止めた。
「しっかりして、いま、治癒の魔法を……」
「いい。肉体の損傷はたいした事ない。すぐに再構成可能。それより、船に――」
 一瞬、いつかフーケの杖を消し去ったときと同じ、輝く砂が長門にまとわりつくのをタバサは目にした。
それと同時に、顔や太腿、露出している部分の傷口が、縫い合わせるように塞がり、その跡は皮膚に沈み込むようにして消えた。

タバサの身体に掴まりつつ、長門は立ち上がる。
「だいじょうぶ。あなたの任務が大事」
 確かに、矢に貫かれたはずの長門の服とマントは、何事もなかったかのように穴は塞がり、染み一つなくなっている。
「ユキ、あなたには、驚くばかり……」
タバサは使い魔の能力を一瞬に理解し、長門の言葉に頷く。背後の友人を一瞥すると、使い魔と二人、港へとフライで飛び去った。
「タバサ! ルイズを頼むわよ!」
 背中に仲間の声を聞きつつ、世界樹を駆け上る。


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