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ゴーストステップ・ゼロ-09


「メイジがこれだけ揃っておいて、賊の1人も捕らえられんとはどういった事じゃ!」
「は、全くもって面目次第もありません。」

翌朝、学院にコルベールと共に戻ってきたオールド・オスマンは学院の教師と3人の女生徒、正体不明の使い魔を前に怒声を吐いた。その様子は日頃、恒常的に秘書に対してセクハラを仕掛けている人物とは思えないほど猛々しいものだった。



ゴーストステップ・ゼロ シーン09 “土くれのフーケと名探偵”

    シーンカード:トーキー(繁栄/敵の正体露見。思いがけぬ味方。状況が将棋倒し的に進展する。)



「では、昨日の昼からの報告を聞こうではないか。」

オールド・オスマンの仕切り直しの言葉に秘書であるロングビルが応える。

「はい、それでは。
 昨日、学院における授業が終了し自由時間になった際、宝物庫前で魔法の練習をしていたミス・ヴァリエールの魔法が宝物庫の壁を直撃しました。
 これにより壁にかけられていた『固定化』が解除され、壁自体にもダメージがあった事は学院教師数名の確認が取れています。また、この魔法が唱えられる際にミス・ツェルプストーが、ミス・ヴァリエールを煽った事が確認されています。」

ロングビルの言葉に昨日宝物庫に来なかった教師陣から。「またですか…」とか「いい加減にして欲しいものですな」とか「全くこれだからゲルマニアは…」等と聞こえてきたが、ルイズやキュルケは見た目平静を装っていた。

「彼女達の処分については学院長からの裁定を頂きます。
 念の為という事で、事の次第の報告をミスタ・コルベールにお願いし。宝物庫の見張りも一応増強して当たりました。
 その後、10時前後に襲撃があったというのが簡単なあらましとなっております。」
「ふむ、ご苦労。
 そういえばミス・ロングビル、今日は珍しく遅刻したようじゃが、どうかしたのかね?」
「その件に関して今からご報告させてもらいます。
 実は今朝方より近在の村に赴いて、フーケの足取りが追えないかと聞き込みをしておりました。」
「ほう、流石に仕事が速いのう。で、何かつかめたかね?」
「はい、朝早くから畑に出ていた農民から聞いた話ですが、妙な人物が森の中にある樵小屋に出入りしていたと…。
 何でもフードを目深に被った怪しげな人物だったそうです。」
「なるほど、確かに襲撃を掛けてきた犯人もフードを目深に被っておりましたし、恐らく間違いないのではありませんか?」

ロングビルの言葉に教師の1人が賛同の意を表す。

「ふむ、してミス・ロングビル。
 その“土くれ”と思しき賊が潜伏しておる樵小屋というのはどの辺にあるのかね?」
「はい、学院からですと徒歩で約半日、馬で4時間というところです。」
「では、すぐに王宮に報告しましょう! 王室衛士隊に頼んで、兵隊を差し向けてもらうべきですわ!」

シュヴルーズがそう叫ぶと、オールド・オスマンは苦々しげに吐き捨てた。

「王室になんぞに知らせている間にフーケは逃げてしまうわ。第一、昨日王宮に急使としてミスタ・コルベールが来た上、今日の騒ぎを知られたらワシ等に無能の烙印が押されかねんわい。しかもこの事態は魔法学院の問題。
 それに、身に降りかかる火の粉一つ払えぬようで、何が貴族じゃ。我らだけでこの事件は解決する!」

その言葉を聞いたロングビルは密かに微笑む。
オールド・オスマンは一度咳払いをし、集まった教師たちを見回すと有志を募る。

「では、捜索隊を編成する。我こそはと思うものは、手にした杖を掲げよ。
 ……誰もおらんのか? どうした! フーケを捕まえ、名をあげようと思う貴族はおらんのか!」

オールド・オスマンが困ったかのように顔を見合わせる教師たちを一喝する。
その時、意外な人物から声が上がった。

「学院長。」
「お主は、確かミス・ヴァリエールの使い魔の。」
「ミスタ・スペンサーではありませんか。いや確かに、貴方ならば実力的にも問題はありませんが。」

学院の教師や生徒の誰よりも先に声を上げたのは[未だにメイジと思われている]ヒューだった。それに驚きの声を上げるオールド・オスマンとコルベールだったが、気にした風もなく言葉を続ける。

「条件付きですが、それを飲んでくれるのなら俺がやりましょう。」
「ほう、言ってみたまえ。」
「じゃあ遠慮なく。
 まず盗品を取り返したらルイズお嬢さん達の事を不問にする事。上手い事捕縛できたら報酬を貰いたい、要は盗品を取り戻す事が出来たら、捕縛できなかったとしてもお嬢さん達の事を不問にしてほしい。
 こんなところかな。」
「なんじゃ、そんな事か。別に良かろう、元々ミス・ヴァリエール達がやらかした事に関しては厳重注意位で済ませるつもりじゃったしな。」
「ちょっと待って下さい学院長!不問にするつもりとはどういう事ですか!」

オールド・オスマンの言葉にかみついたのはギトーと呼ばれている風のメイジであった。

「不問にするしかあるまい、考えてもみたまえ。たかが学生、しかも実技では最低の評価を受け続けている生徒が学院長であるワシでも難しい事をやってしまった…。他人に聞かれたらどういう理由で処罰したのかと笑われてしまうわい。
 それとも何かね、君はミス・ヴァリエールと同じ事が出来るのかね?出来るのなら今からこの席は君のモノじゃが。」
「い、いえ。それは…」
「無理じゃろう?だったら不問にするしかあるまい。」

教師からの反論を封じたオールド・オスマンが改めてヒューを見ると、その周囲には3本の杖が上がっていた。

「ミス・ヴァリエールにミス・ツェルプストー、それにミス・タバサではないか。何事だね。」
「私も志願いたします。」
「いきなり何を、無茶ですわ!ミス・ヴァリエール!」

ルイズの言葉を聞いたシュヴルーズが悲鳴じみた声を上げる。

「使い魔にだけ危険なマネをさせるわけにはいきません!それに、これは自分がやった事の後始末でもあります!己の不始末を使い魔に拭わせて平然としているほど恥知らずではありません。」
「ま、借りを作るのは趣味ではありませんし、ヴァリエールに負けるわけにもいきませんもの。」
「心配」

3人のそれぞれの志願理由を確認したオールド・オスマンは深く頷くと笑いながら承諾する。
途端に教師陣から反対意見が湧き上がるが、ならば自分がいくか?と問われるとその言葉も小さくなっていく。

「お主達は彼女達の姿形だけを見て判断しとりゃせんか?
 一番小柄なミス・タバサは若くしてシュヴァリエの称号を持つ騎士だと聞いていおるし、ミス・ツェルプストーは、ゲルマニアの優秀な軍人の家系で。彼女自身も炎のトライアングルだと聞いておる。
 ミス・ヴァリエールに至っては昨日の出来事を見ても分かろう、失敗しておるとはいえスクエアクラスのメイジでも困難な事をやってのける才能を有しておる。
 その上、彼女の使い魔を勤めておるミスタ・スペンサーは強力な風の使い手と聞いておる。
 どうじゃ、この4人に勝てると豪語できるものはおるか?」

改めて聞くとあまり相手にしたくない面子であった、気のせいかロングビルの顔色も悪い。
オールド・オスマンはルイズたち六人に向き直ると杖を掲げた。

「トリステイン魔法学院は、諸君らの働きに期待する!」
「杖にかけて!」

ルイズ、キュルケ、タバサの3人は真顔になり直立するとそう唱和した。
ヒューは別に何も言わず立っているだけだったが、おもむろにオールド・オスマンに話しかける。

「学院長、少々いいですか。」
「何かね、ミスタ・スペンサー?」
「宝物庫の中の検証と、盗まれたモノの詳細を伺いたいんです。」
「ほう、それはまたどうしてかな?」
「証拠集めです。」
「いや、遺留品とかは特に無かったと聞いておるが。」

オールド・オスマンがロングビルをみると彼女も頷く。
そう、特に落としたものは無いはずだ。

「いや、一応念の為、というやつですよ。」
「よかろう。ミス・ロングビル、ミスタ・コルベール案内してあげなさい。」
「承知しました。」
「それと馬車はこちらで用立てておこう、準備ができたら人をよこすので存分に検証してくるといい。」
「ああ、そうだ学院長。俺が頂く報酬に関して杖に誓っていただきたいんですが?」
「む、うむ。良かろうミス・ヴァリエール達の件は問わない事、君が“土くれ”を捕縛した場合、ワシが出来うる限り、君の希望を叶える事をこのワシの杖にかけて誓おうではないか。」
「助かりますよ、学院長。」


ニヤリと笑って会議室を辞したヒューは、ルイズ達と共に案内役のロングビルとコルベールに導かれて宝物庫へと歩いていく。


「そういえばタバサが持っている、シュヴァリエの称号を持つ騎士ってどういう事だ?確か二つ名は“雪風”だったろう?」
「2つ名と称号は別物よ。2つ名は貴方の“ゴーストステップ”と同じハンドル、対して称号っていうのは爵位とかそういうものね、役職と言い換えてもいいかも。
 シュヴァリエっていうのは最下級の爵位のこと。ただし実績が無いと貰えない、実力者の証みたいなものよ。あの子位の年齢でそれが与えられるなんて、普通無いわ。」

先のオールド・オスマンの言葉についてルイズに質問したヒューは、次いでコルベールに盗品について尋ねる。

「なるほどね。そうだ、コルベールの旦那。」
「何かね、ヒュー君。」
「盗まれた<破壊の杖>っていうのはどういった代物なんだい?」
「ああ、あれですか。あれはオールド・オスマンの私物で、なんでも命の恩人の形見だそうですぞ。
 外見は…そうですな。50サント位の長さの筒状で材質は鉄の様でした、色は暗い緑色をしていて所々に白い文字が書かれておりましたな。」
「で、どういった力を?具体的な名前が付いているんだ、学院長は力を知っていたんだろう?」
「いえ、詳しい事はそれほど。ただ、恩人の方が使った時にはワイバーンを一撃で殺害したそうです。」
「ワイバーンというのは?」
「力が弱い竜、基本的に前肢がない竜の事。普通の竜と違って知能が低い。」
「あら、ミスタの所にワイバーンはいないのですか?」

ヒューがワイバーンを知らない事に、疑問を持ったロングビルが質問をしてくる。

「ああ、昔は居たかも知れないがね。少なくとも俺は見た事が無い。
 しかし、そうなると厄介かもな…」
「まあ、何故ですの?ミスタほどの力さえあれば、フーケ如き簡単に捕縛できるでしょう。」
「いや、ただのメイジなら楽なんですけどね。そいつが強力な武器を持っているとなると困りものです。
 今までは『ゴーレム』だけを考えれば良かったんですが。“破壊の杖”を使ってきた時の事を考えないといけなくなりましたから。」
「確かに…、そう考えると厄介ですわね。
 ミスタ、ここが宝物庫ですわ。」

話している内に着いたのか、目の前には堅牢な扉がある。

「では鍵を開けますので少々お待ち下さい。」

そう言うと、ロングビルは数箇所に取り付けられていた錠前を開けた後、『アンロック』を唱えて魔法の鍵を解除する。

「それでは失礼。」

ヒューを先頭に宝物庫に一行が入っていく。
『ライト』で煌々と照らし出された宝物庫は、様々なガラクタや、そこそこ宝に見えそうな物で溢れ返っていた。

「ところで、普段<破壊の杖>はどこに?」
「あちらの棚ですわ。」

ヒューの質問にミス・ロングビルが答える。

「間違いなく?」
「ええ。先週、宝物庫の目録を作成したばかりですから。」

ロングビルに重ねて確認した後、ヒューは壁に残された犯行声明を見、次いで床とポケットロンを見比べながら棚の前まで移動したり、床に触れて何かの確認をしている様だった。
しばらく時間が経過した後、不安になってきたルイズがヒューに質問する。

「ねえヒュー、貴方何を目的に宝物庫に来たのよ。今は一刻も早くフーケの隠れ家に行くべきではなくて?」
「ん?いやいや。これでも色々と分かったんだけどな。」
「はい?分かったって何が分かったのよ。」

かがんでいたヒューは棚の前で立ち上がると、ルイズ達に向かって、とんでもない事を言い放った。

「フーケの大体の身長・体重・歩き方・それと育ち。あと人物像かな?」
「え!」
「何ですって!」
「!」
「な!」
「何ですと!それは本当かねヒュー君!」

驚く一同を前にヒューは、残された足跡から判明した事実と、それを基にしたプロファイリングを披露する。

「ああ、フーケが土の『ゴーレム』を使ってくれていたから楽だったよ。下手に『フライ』とかで入られたらお手上げだった。
 身長体重は…、そうだな大体ミス・ロングビルやキュルケ位。年齢は大体20代前半から半ば。
 歩き方としては背筋を伸ばしていて姿勢が良い、ルイズやタバサに近いな。恐らくそこそこ高い地位のメイジの家系か、礼儀に関してはかなり厳格な家庭の出だ。
 健康状態は良好、傷病は無い。
 人物像としては…そうだな、生真面目で計画性はあるが、その場の勢いで行動するタイプでもある。
 後は、そう…女性だ。」



「な、なななな何を証拠にそこまでの事を。」

何故か震える口調でロングビルがヒューに質問する。
だが、それは誰もが思った事なので特に誰も口を挟まなかった。

「うん、まあとりあえず身長からいこうか、基本的には歩幅なんだが、決定的なのはこの犯行声明のサインだな。」
「サインが?」

聞き返してきたルイズにヒューは空中に書く仕草をしつつ説明する。

「普通、こう壁に書き込む時は自分が見易い所に書くだろう?急いでいるなら尚更だ。で、お嬢さん達の中でぴったりくるのがキュルケとミス・ロングビルだったのさ。
 後、歩幅は身長や体格、年齢を測る上でかなり重要な証拠だ、タバサとキュルケではどうしても歩幅に差が出るだろう?それから、一定以上年齢を重ねる毎に歩幅は狭くなってくる。さらに、割り出した体格から性別も特定可能だ。」
「体重は?」
「身長が同じなら極端に体格が違っていない限り。大体の体重は絞り込める、そうだなこれ位だと…いや止めておこうか。」
「そうね賢明だと思うわよヒュー」

ヒューの背後でキュルケがにこやかに微笑んでいた。

「次に歩き方だが、これは足跡に込められた重心のかかり方だな。足跡に残っている土の減り方から見てもこれは歩く時の姿勢が良い証拠だ、この学院内の生徒でもそうは見ないな。とするとかなり厳格な家庭か、それなりに高い地位にいたと見てしかるべきだろう。
 歩き方に崩れが無いことから、健康だという事も分かる。」
「崩れ?」

タバサの質問に対して、実際に色々な歩き方をしながら説明をする。

「片足に怪我をしたり、病気に罹ると歩き方がどうしても不自然になるだろう?
 こう、怪我をした方の足の爪先が進行方向とは別の方を向いていたり、ふらついたり、歩幅にばらつきが出たり。」
「なるほど。」
「性格に関しては?」

というコルベールの質問に対しは、フーケの歩みを再現しながら話す。

「これは犯行声明と足跡の進行方向だな。
 犯行前の下調べがしっかりしているし、迷いが無い。何処に何があるか分かっていたのさ。こういった所からフーケは生真面目で計画性がある人物という事が分かる。

 昨晩の犯行時、『ゴーレム』から飛び移ったフーケは『ライト』も灯りも使わずに、暗い宝物庫の中で<破壊の杖>へ向かって一直線。他のお宝には目もくれず、サインを残してトンズラしたっていう寸法だ。
 ミセス・シュヴルーズの話じゃあ、サインはともかく『ゴーレム』を使いながら『ライト』っていうのはかなり無理があるらしいからな、これはしょうがないだろう。証言も録ってあるし間違いない。
 犯行声明に関して言えば最初から残すつもりだったのか、それともその場の勢いでやってしまったのか…、そこは捕まえて聞いてみないと分からないな。
 しかし、最初からやっているとはいえ。ご丁寧に自分を特定できるモノを残すという行為を毎度やっているのを見ると、性格的にもう残さざるを得なくなったんだろう。恐らく貴族というものに対して、何らかの感情があるんだろうな。
 とまあ、足跡や世間に流布している風評でこれ位のことが分かる。
 さて、見るべきものはもう無いし、そろそろ準備も出来た頃だろう、行こうか?」


ヒューの考察を聞いた一行はもう何も考えられず、ヒューの後を付いて行くのみだった。
後にルイズは“ミス・ロングビルに至っては、まるで死刑台に引き摺られていく死刑囚のようだった”と述懐している。


一行は学院に残ったコルベールに見送られて、2頭立ての荷馬車でフーケの潜伏先へと進む。
道案内兼御者としてロングビルが同行していた。

「済みませんね貴女にこんな事までしてもらって。」
「い、いいえ、こんな事しかできなくて心苦しい位ですわ。全く先生方にも困ったものです。」
「いや、そう一概に責めても仕方ないでしょう、聞いた話ではあまり戦いに向いた感じはしなかったし。
 俺としては懐に入るものが出来て助かる位ですよ。おっと、これは秘密にしておいてくれると助かるんですが。」
「まぁっ。ふふ、分かりましたわ、先生方には言わないでおきましょうか。
 けど、ミスタ・スペンサーって言動だけ見てるとメイジには全く見えませんね。失礼、失言でしたわ。」
「いやいや、よく言われますよ。
 昔から身体を使う方が好きでしてね、良く勉強しろと怒られました。」
「あら!あれ程の知識や力をお持ちなのに?」
「ああ、あれは仕事の都合上仕方なく身についたものでして。いや、柄にも無く講義をしてしまい、お恥ずかしい限りで。」
「いいえ、とても分かり易かったですわ!けれど、あれ程の観察術を一体何処で…失礼、何度も嫌になってしまいますわ、普段こんなお喋りではないんですけど。」


馬車を御しているロングビルとヒューはにこやかに会話を続けている。
その会話を聞きながら、荷台にいるルイズをはじめとする3人の女生徒は呆れるような視線をヒューに向けていた。

「しかし、まぁよくも立て板に水の如く言葉が出てくるわね。」
「だけど嘘は言っていない。」
「勘違いは助長しているけどね、話だけ聞いていると何処の天才メイジだって話よ。」
「まぁね、嘘は言ってないけど、間違いは肯定しない代わりに否定も訂正もしないもの。」

思考を切り替える為か、ルイズは頭を振った後にキュルケとタバサにこれからの事について、小声で話しはじめた。

「ところで潜伏先に着いたらどうする?」
「ヒューに斥候をしてもらった後、誰か一緒に中に入ってもらうのがいいんじゃない?」
「じゃあ私が!」
「いえ、ここは。」

タバサはここで言葉を切ってロングビルを見る。

「ええっ?言いたくないけどミス・ロングビルって…」
「だから。」
「そうか、ヒューが目の前にいたら。」
「ああ、なるほど。うん良いんじゃない?楽できるし。
 そういえば、評判だけ聞いてるとフーケが狙ったのって悪名が高い連中ばっかりなのよね。まぁ、平民からの支援が受けやすいっていう理由があったのかもしれないけど…。ところで2人に聞きたいんだけど、窃盗で死罪っていうのはどうなのかしら?」
「ちょっとキュルケ!貴女、罪人を庇うの?」

フーケの事を気楽そうに語るキュルケにルイズが噛み付く。

「違う違う、罪と罰が等しくないんじゃないかって事。
 ヒューからあっちの量刑を聞いた時に思ったんだけど、こっちって貴族に対しては量刑が甘いんだなって思ったのよね。」
「そ、それは貴族には相応の義務があるから。」
「フーケが狙っているのはその義務を果たしていない連中よ?」
「う。」
「流石に見逃せとは言わないけどね、動機や目的如何では情状酌量の余地はあるんじゃない?」
「それにしていない罪まで課されかねない。」

平民と貴族に課せられる刑罰の軽重に関して意見を述べるキュルケに、ルイズが抗弁するが、どうにも分が悪い。
そんな中、タバサが一つ意見を投げ入れた。

「どういう事?」
「自作自演でフーケの仕業に見せかけて、国に払う税を誤魔化す…というやり方もある。」
「そういえば、確かフーケの犯行とされているものには極端に間隔が短いものがあったわね。」
「じゃあ、ここはフーケの動機や目的を聞き出して、それから決めるって事?」
「それで。」
「まぁ、いいわ。但し、どうしても許せなかったら容赦なんてしないわよ。」

3人の間で一応の合意をとりまとめたルイズは、ロングビルと仲良く会話を続けているヒューを見て呆れたように溜息を吐く。フーケがいると報告があった、樵小屋まであと少しという場所での会話だった。



フーケがいると思しき森の入り口で、一行は馬車から降りて、徒歩で樵小屋に向かう事にする。
樵小屋が見える場所まで来た一行は、茂みに隠れてこれからの事を相談する事にした。

「そういえばミス・ロングビルは宝物庫前で魔法を使っていましたが、メイジだったんですか?」
「え?ええ、貴族としての名は失いましたが。土のラインですわ、土のトライアングルといわれるフーケに対して無力なのがお恥ずかしい限りですが。」
「じゃあ、馬車の中で決めた通りで大丈夫ですね。
 ヒュー、斥候を頼める?」
「ああ、それが妥当だろう。」
「中に誰もいないなら、ミス・ロングビルに『ディティクト・マジック』と、<破壊の杖>を確認してもらう為に行って貰うから。ちゃんと守りなさいよ。」
「分かってるさ。」
「え?ミス・ヴァリエール?」

少し狼狽したように、ルイズに反論しようとしたロングビルだったが、対するルイズは、馬車の中で考えていた言い訳でその反論を封じる。

「申し訳ありません、ミス・ロングビル、私達は<破壊の杖>がどういった形なのか憶えていないもので。」
「そ、そうですか、ならば仕方がありませんね…。」
「当てにさせてもらいますよ、ミス。…じゃあ行ってくる。」



ルイズ達から離れたヒューは、すぐに姿が見えなくなる、森を迂回して影が多い所から近付くつもりだろう。
次にヒューを見つけたのは樵小屋の前だった。それを見たロングビルは感心していたが、次の瞬間、本当に驚きの悲鳴を上げそうになった。

【ルイズお嬢さん聞こえるか?】

突如、ヒューの声がルイズから聞こえてきたのだ。
そちらを見ると、主のルイズは手首を顔の横に持って来て、手首に巻きついている安物のブレスレットにも見える“それ”に話しかけていた。

「ええ、大丈夫。問題ないわ。」
【窓から確認した限り人はいない、気配も感じない。ミスを寄越してくれ。
 それからお嬢さん達はシルフィードを呼んで上空で警戒していてくれると助かる、フーケの姿が見えるかもしれないし、仮に『ゴーレム』で襲ってきてもそっちの方が戦いやすいだろう。
 そうそう、もし『ゴーレム』が出たら“これ”で教えてくれ。】
「そうね、わかったわ。
 申し訳ありませんがミス・ロングビル、お願いします。」
「え、ええ。非才の身ですが出来るだけの事はやってみますわ。」

ロングビルが樵小屋に走って行った事を見届けると、タバサは上空に待機させていたシルフィードを呼び寄せ、ルイズやキュルケと共にその背に乗り込んで、大空へと舞い上がった。
キュルケはロングビルの後姿を見ながら、「私だったらもう挫けてるわ」と気の毒そうに1人つぶやいた。


樵小屋に来たロングビルは、扉の横にいるヒューの顔を見て怪訝な顔になった。何と、ヒューの顔…正確には目の周りを、黒い仮面じみたモノがついていたのだ。

「やあ、ミス助かります。」
「い、いえ、別にいいのですが…。その、顔についている仮面は?」
「ああ、これですか。“便利な道具”です。」
「そうですか、それでは『ディティクト・マジック』を…あら?」

早速、『ディティクト・マジック』を使おうと思ったロングビルだったが、ここで奇妙な事に気付いてしまった。

「どうかしましたか?ミス」
「い、いえ。確かミスタは風のスクエアクラスのメイジでは?」
「は?一体何の話ですか?」
「いえ、ミスタはメイジでは?」
「いいえ?」
「は?」

ふと疑問に思った事をヒューに尋ねたロングビルだったが、それはあっさりと否定される。それはもう清清しい位に。

「何か勘違いしておられるようですが、私はただの平民ですよ?」
「え?だって。オールド・オスマンもミスタ・コルベールも…。ええ!」
「言っておきますが、≪俺は一言も“自分はメイジだ”などと言った覚えは無いが?≫」

ロングビルはぞっとした、確かにこの男はメイジではないのかもしれない。しかし、“メイジではないという事が、この男が無害だ”なんて事の証明になりはしないのだ、半人前の学生が作ったとはいえ青銅のゴーレムをいとも簡単に切り裂き、人の目に留まらない程の速さで動く。
この距離で対峙している以上、最早この男の手に命が握られていると思わなければならないだろう。
もしかすると、この仮面もこの時を意図して付けていたのかもしれない、口元に浮かんでいる笑みが否応もなく不気味さを演出していた。

「わ、分かりましたわ、では。」

青い顔で返答したロングビルは、改めて『ディティクト・マジック』を扉に対して使用する。

「魔法の痕跡はありませんね、大丈夫です。」
「よし、では入ろうかミス。」
「え、ええ。」




所変わってこちら上空のルイズ達。
3人とも気まずそうな顔でルイズの左手首から聞こえてくる会話を聞いていた。

「あ、あんまりだわ…」
「同情…」
「うわー」



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