あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

虚無のパズル-11


朝もやのかかったトリステイン魔法学院の正門前。
出発を前に、ギーシュとルイズが揉めていた。
「お願いだよ、ぼくの使い魔を連れていきたいんだ」
ギーシュは必死に訴えながら、足下の茶色い大きな生き物に頬擦りしていた。
はたしてそれは、巨大なモグラであった。大きさは小さい熊ほどもある、ジャイアントモールという種類である。
「ヴェルダンデ!ああ、ぼくの可愛いヴェルダンデ!」
「ねえ、ギーシュ、ダメよ。その生き物、地面の中を進んでいくんでしょ?」
「そうだ。ヴェルダンデはなにせ、モグラだからな」
「わたしたち、これからアルビオンへいくのよ。地面を掘って進む生き物を連れていくなんて、駄目よ」
ルイズがそういうと、ギーシュは地面に膝を付いた。
「お別れなんて、つらい、つらすぎるよ……、ヴェルダンデ……」
そのとき、巨大モグラが鼻をひくつかせた。くんかくんか、とルイズに擦り寄る。
「な、なによこのモグラ」
巨大モグラはいきなりルイズを押し倒すと、鼻で身体をまさぐりはじめた。
「や、ちょっとどこ触ってるのよ!」
ルイズは身体をモグラの鼻でつつき回され、地面をのたうち回る。スカートが乱れ、あられもない姿であった。
ギーシュはなんだかその光景を、眩しいものでも見るように見守った。
「やあ、ジャイアントモールと戯れる美少女っていうのは、ある意味官能的だね」
「止めなくていいの?」
ティトォがツッコミを入れる。
巨大モグラは、ルイズの右手の薬指に輝くルビーを見つけると、そこに鼻を擦り寄せた。
「この!無礼なモグラね!姫さまにいただいた指輪に鼻をくっつけないで!」
ギーシュが頷きながら呟いた。
「なるほど、指輪か。ヴェルダンデは宝石が大好きだからね」
「なんで?」
ティトォが尋ねる。
「それはきみ。美しいものにはみんな惹かれるものだろ?」
キザったらしく言いながら、ギーシュはルイズのそばに寄って、ジャイアントモールを優しく引きはがした。
この場合の『優しく』は、当然ルイズにかかっているのではなく、愛するヴェルダンデに対する気遣いだった。
ルイズは服の乱れを整えると、ギーシュを威嚇するように唸った。
「なにしろそのルビー、とても大きくて輝きも強い。ヴェルダンデが興味を持つのも分かるね。強き石には、精霊が宿るって聞いたことないかい?」
そう言ってギーシュは、ルイズの右手を取る。
「な、なによあんた」
ギーシュはその問いには答えず、ルイズの指の『水のルビー』を軽く爪で弾いた。
キィン、と甲高い音が響き、『水のルビー』が突然強く光りだした。
「きゃあ!」
ルイズは思わず悲鳴を上げる。ルビーの光はあまりにも強烈で、目を開けていられないほどだった。
「わわ、これはすごいね。予想以上だね」
ギーシュも光から目を庇いながら、『水のルビー』を指でトントンと二回叩いた。
すると光は小さくなって、ルビーは元通りの輝きを取り戻した。
ルイズとティトォは、目をしぱしぱさせている。
「あんた、いま何やったのよ?」
ルイズはギーシュを睨みつけ、尋ねた。


さて、いまから一年ほど前の話。
当時、魔法学院の一年生だったギーシュは、城下町の酒場『魅惑の妖精』亭でクダを巻いていた。
一見ただの居酒屋なのだが、可愛い女の子がきわどい格好で飲み物を運んでくれることで人気のお店であった。
魔法学院に入学したばかりのギーシュは、悪い先輩からこの店の噂を聞いて、こっそりと城下町まで足を運んだのである。
なるほど店内には、ほとんど下着姿のようなビスチェを身に付けた女の子たちが、まるで妖精のような笑顔を振りまいて給仕していた。
ギーシュはすっかり店の雰囲気に当てられて、そわそわ、きょろきょろと女の子を物色しはじめた。
ギーシュが普段のギーシュであったなら、地上にこのような楽園の花園を創られたことを、始祖ブリミルに感謝したことだろう。
しかし今のギーシュは、可憐な女の子たちの姿を見ても、どうにも気持ちが沈んでしまって、浮かんでこない。
「あら!こちらはおはつ?かわいらしい貴族のおにいさん!わたしは店長のスカロン」
楽園の花園に、ドクダミが混じっていた。『魅惑の妖精』亭店長、スカロンである。
黒髪をオイルで撫でつけ、大きく胸元の開いた紫のサテン地のシャツからもじゃもじゃした胸毛を覗かせている。
鼻の下と見事に割れた顎に、小粋な髭を生やしていた。強い香水の香りが、ギーシュの鼻をついた。
「今日は楽しんでいってくださいましね!トレビアン!」
身をくねらせながら、スカロンは一礼した。
その仕草はまるでオカマであった。というか、オカマそのものだった。
正直キモいのでギーシュはげんなりしてしまったが、ぐいとワインをあおるとスカロンに愚痴をこぼしはじめた。
「聞いてくれたまえよ。あれ、イカサマじゃないのかね」
『魅惑の妖精』亭に来る前、ギーシュは景気づけにカジノで博打をすることにした。
そしてものの見事に、財布の中身の大半をスッてしまったのだった。
はァ~~、と深ーいため息をつくギーシュ。そんな彼の周りを、一匹のハエがブ~ンと飛び回っていた。景気が悪いことこの上ない。
突然!ギーシュの耳元をギラリと光るナイフが通り過ぎた!
背後から投げられたナイフは、ギーシュの頬の薄皮を切り裂き、うっすらと血が滲んでいた。
額に脂汗を浮かべながら、ぎ、ぎ、ぎ、とまるで拙い人形劇の人形のような動きで、ギーシュは後ろを振り向く。
そこには果たして、あちこちに宝石が散りばめられた白いスーツとシルクハットを身に付けた、長身の男が立っていた。
男はナイフを投げたその手で、宝石だらけの趣味の悪いシルクハットのつばをちょいと持ち上げ、ニカッ!と微笑んだ。
「危なかったな!ハエだ!」
「億倍危ないよォーーーーーーーッ!!」
『魅惑の妖精』亭に、ギーシュの悲鳴が響き渡った。
「どうした少年、元気ないな」
男はフレンドリーに話しかけ、どっかりとギーシュの向かいの席に腰を下ろした。
「なんなんだねきみは!関係ないだろう!」
あまりにも無礼な男に、ギーシュは憮然とした。
杖を持っているようには見えない。貴族ではないのだろう。
宝石だらけの悪趣味な格好からして、おそらく大商家の二代目などに違いない。
こういう成金連中は、貴族相手にもまったく物怖じしないのだった。
「負けたんだよ、大負け。イカサマ、絶対」
「あー、あのカジノだろ?あそこはイカサマだって」
「知っているのかい?」
「さっき町に着いて、一番で入った」
「すると、きみもやられたか」
ギーシュはニヤリと、意地悪な笑みを浮かべた。
しかし男は不敵な笑顔で、握りこぶしほどの革袋を取り出してみせる。中身を机にあけると、エキュー金貨がジャラジャラとこぼれ落ちた。
「んにゃ、大勝ち」
「なんとまあ!」
ギーシュは驚きに目を見開いた。
「取り返したいんだろ、少年!どうだ、俺とひと勝負するか」
机に金貨を積み上げながら、男が持ちかける。
ぴかぴかの金貨を目の前にギーシュは揺らいだが、財布の中身を思い出すと冷静になった。
「いや、やめておくよ。これ以上取られたらたまったもんじゃない」
「ほわァ!」
突然男は奇声を発し、ギーシュにナイフを投げつけた。あわてて避けると、ナイフはギーシュの座っていた椅子の背もたれに突き刺さった。
「サソリだ」
「いないよ!どこにも!」
心臓をばっくんばっくん鳴らしながら、ギーシュが抗議する。
「む!肩にゴキブリが……」
「わかったよ!やるよ!やるやるやる!やればいいんだろ!」
かくして勝負が始まったのだった。
慣れた手つきでカードをシャッフルする男。カードはもちろん、開封したばかりの新品だ。
ギーシュは憮然として、机に頬杖を付いている。
男の顔に、不敵な笑みが浮かんだ。
(悪いが少年、俺は絶対に負けることはないのだよ)
机に置かれたシルクハットの宝石の一つ、緑色の宝石がぼんやりと輝きだした。
(いつも通り、相手の手札を教えるように)
『はい』
男は素早くカードを配り、手札を確認する。準備はすべて整った!
「さあ、始めよう!」
「あ、なんかいる」
ギーシュは男の横でふよふよ浮かぶものを指差した。半透明で、非常に投げやりな造作の目と口が付いていた。
男はカードを片付け、金貨を革袋にしまい、店の出口へ向かった。
「帰る」
「待て待て、待ちたまえ。なんなんだね、いったい」
ギーシュが引き止めると、男はため息をつきながら振り返った。
「なんだ少年、精霊見えるのか」
男はふたたび席に着くと、悪びれもせず語りだした。
「はっはっは、いや、わーり、わーり。俺いつもこいつら使って勝ってんだ」
男は笑いながら、先ほど現れた『精霊』を指でちょいとつついた。
「せ、精霊の使役?先住魔法じゃないか!」
「ちげえよ、俺貴族じゃねえもん。強き石には精霊が宿っているって聞かねェ?俺はそいつらと会話ができる。そんで友達になれば、力を貸してくれるってわけだ」
そう言って、男はイヤリングの宝石を軽く爪で弾いた。
キィン、と甲高い音がして、もう一つの宝石の精霊が現れた。
これもまた、まるで子供の落書きのような情けない顔つきであった。
ふたつの精霊は並んで、ギーシュの目の前に来る。
何か起こるのだろうか、と固唾をのんで見守っていたが、特に何も起こらなかった。
精霊はただふわふわ浮かんでいるだけで、時々思い出したように手?らしきものをちょいと動かす程度だった。
殺気を感じたギーシュが机の下に潜り込むのと同時に、椅子の背もたれに新しいナイフが生えた。
ナイフを投げつけた男が、不機嫌そうに言う。
「せっかく内気なふたりが、ジョークを交えながら精一杯自己紹介してるんだ。笑えよ!」
「聞こえないんだよ!」
ギーシュは机の下に隠れたまま叫んだ。
「なんだ、声は聞こえないのか」
「宝石の精霊なんて、見たのも初めてだ……」
ギーシュはおそるおそる机の下から顔を出した。
「ってこたァ、呼び出したこともないんだな、もちろん。少年、その指輪見せてみろよ」
男は、ギーシュの左手の人差し指の指輪を指した。シンプルな作りのシルバーのリングで、小さな石がはまっている。
「一応、宝石だろ」
「これかい?まあ……」
「じゃあ呼び出してやるから、話してみな。自分のだから話しやすいはずだぞ」
ギーシュが何か言うより先に、男はギーシュの指輪を爪で弾いた。キィン、と甲高い音が鳴り響く。
指輪の宝石はぶるりと震えると、巨大な熊ほどの大きさの、何か丸いものを吐き出した。
巨体に似合わず小さな顔を下にして、それはギーシュにのしかかって、押しつぶした。
「もが!もがが!」
下敷きになったギーシュはもがいた。
突然現れたナニモノかに、店の女の子たちは驚いて悲鳴を上げた。
「きゃああああ!」
その悲鳴に客たちも慌てだし、われ先にと店から逃げ出して、パニックが起こった。
ギーシュを押しつぶしているナニモノかの身体は、まるで密度のぎっしりつまったマシュマロのようで、ギーシュはあわや窒息するかと思ったが、なんとか頭を外に出すと、助けを求めて精霊使いの男の姿を捜した。
男は呼び出した2体の精霊を引き連れて、まさに店から逃げ出そうとしていた。
「帰る」
「帰んな!」
ギーシュは必死で叫ぶ。
「きみね!これね!どうにかしていってほしいんだがね!」
「だってそれ精霊じゃないしー。悪魔だしー」
非常にやる気のない声だった。
そうしているあいだにも、ギーシュは『悪魔』の体にむぎゅうとつぶされていた。
「そう言えば……、この指輪、グラモン家に代々伝わるもので……、いわく付きとかなんとか……」
「言わないお前が悪い。じゃあな、アディオス少年」
「最悪だよ。もういいよ。帰りたまえよ」
いい加減ムカツイてきたので、ギーシュは男に投げやりに言った。
『…………』
と、突然ギーシュの耳に、奇妙な声が響いた。とても小さな声だったが、それは頭の中に直接響いてくるようで、はっきりと聞こえた。
不思議な声の主を求めて、ギーシュはきょろきょろとする。
そして、今まさに自分を押しつぶさんとしている『悪魔』と目が合った。
これは、まさか、こいつの。『悪魔』の声?
『……………』
そうだ、会話することができれば、なんとか抑えられるかもしれない。
こいつが何を言ってるのか理解するんだ!
ギーシュは魔法の呪文を唱えるときのように、意識を集中した。
『………………』
悪魔の言葉が、だんだんと意味を持った響きに変わっていく。
いいぞ、もう少しだ。
集中しろ。
『……………』
ギーシュの身体にかかる圧力はどんどん大きくなっていて、耐えられずにかはっと息を吐いたが、集中は途切れさせなかった。
くくく、苦しい。でも。
わかる。
もう少しで、わかるぞ……!
そしてついに、悪魔の言葉ははっきりとした意味を持って、ギーシュの心に届いた。

『目薬さしすぎると糖尿病になるって本当かな……』

心底どうでもよかった。
「……知らないよ……」
悪魔と心を通わせた瞬間、ギーシュはなんだかひどく投げやりな気分になって、ただ身体が押しつぶされるに任せてしまったのだった。
「しゃーねーな」
男がそう呟くと、ドンッ!と大きな音を立てて、ギーシュにのしかかっていた悪魔が横殴りに吹っ飛んだ。
悪魔はテーブルや椅子を盛大に巻き込んで、壁に激突した。
「げほ!げほげほ!」
悪魔から解放されたギーシュは、咳き込みながら、首を回して精霊使いの男を見た。
3体目の精霊が、男の横に現れていた。
この精霊は、前の2体とは違っていた。その身体は半透明ではなく、強い魔力を感じる。
ギラリと意志の強そうな目を持ち、一本の大きな角が頭に生えていて、両の手は拳闘に使うグローブのようになっている。
「ネオカーネリアンの石は、力強さや勇気を表す。仕事の成功を導く石だ」
精霊使いの男の服に縫い付けられた宝石の一つが、強い光を放っていた。
吹き飛ばされた悪魔が、丸い身体を転がし起き上がった。ギロリと精霊使いの男を睨みつける。
男がニヤリと笑った。
「やる気かい?おもしれえ、ちょうどいい掘り出しもんを見つけたんだ。悪いが試させてもらうぜ」
男が懐から、大粒の宝石を取り出した。
「カイアナイトの精よ」
男の呼びかけに答え、宝石は強く輝いて、宝石・カイアナイトの精霊が現れた。
腹に12本のトゲが生えており、大きさは悪魔よりもさらに二周りほど大きい。巨大な拳は、それだけで子牛ほどの大きさである。
その力強い姿を見て、男は満足そうに笑った。
「行け!」
男の命令と同時に、カイアナイトの精は巨大な拳を容赦なく悪魔に打ち下ろした。
悪魔はその強烈な一撃で、まるで風船が破裂したように、ぺしゃんこになってしまった。
さらに、カイアナイトの精は潰れた悪魔を床から引き剥がすと、大きな手でぎゅうぎゅうとこねまわした。
悪魔はみるみるうちに小さく潰されて、カイアナイトの精が最後にぎゅっと手に力を込めると、その手の隙間から、ぽたりとしずくが落ちた。
しずくはギーシュの指輪の宝石に吸い込まれ、石の表面に小さな波紋を起こした。
ギーシュは指輪をしげしげと眺めた。
「悪魔が、戻った……すごい」
男が手にしたカイアナイトの石を、指でトントンと二回叩くと、カイアナイトの精も宝石に戻っていった。
「はっはっは、一生感謝しろよ、少年!俺がいて良かったな」
「自分で起こして、自分で終わらしてりゃ世話ないよ」
ギーシュの冷たいツッコミに、男は笑った。
「でもよ、頑張りな、少年。精霊見ることができるってのは、それだけで才能なんだから」
ずっとふざけた調子だった男の声に、初めて真面目な響きが現れた。
男はギーシュの才能を、素直に賞賛していたのだ。
ギーシュの肩を軽く叩いて、男は誇らしげに笑った。
「立派なバケラッタークスになれよ」
「おいおいそんな名前なのかね、いやだな永遠にならないよ」
「じゃあな、少年。忘れねェよ」
「ぼくはもう、この記憶焼き消したい」
男は荷物を持つと、店の出口に向かっていった。
扉の前で、カッとかかとを鳴らして立ち止まった。
男は振り向き、金貨を一枚投げてよこした。
「マスター、騒がしたな」
男の投げた金貨は、スカロン店長の頭に当たった。
スカロンは、眉間にナイフを生やして、床に大の字に倒れていた。
それは果たして、ギーシュの周りを飛び回っていたハエに向かって投げられた、あのナイフであった。
ギーシュは叫んだ。
「最初の一撃で仕留めてるしーーーー!」


※その後、ギーシュの手当の甲斐あってスカロンは息を吹き返しました。


男の前ではああ言ったものの、やはり精霊使いの力は魅力的であった。
強い精霊の宿った宝石を手に入れることができれば、ドットクラスでも、トライアングルを凌ぐ力を発揮できるのである。
精霊使いの力の強さは、術者本人の強さによらない。実際、あの精霊使いの男本人は、ぶっちゃけたいしたことなかった。
必要なのは、石の魔力を引き出す才能。それだけなのだ。
ギーシュは悪魔と心を通わせたときの感覚をたよりに、こっそりと訓練を重ね、ついには宝石の精霊の声を聞く力を身に付けたのであった。


「ふうん、そんなことがあったの。ギーシュが精霊使いのまねごとをしてるって噂、ホントだったのね」
ルイズは、『水のルビー』とギーシュの顔をしげしげと交互に眺めた。
「おや、誰から聞いたんだい?精霊使いの力は、下手をすると異端と取られかねないからね。秘密にしているはずなんだが」
「モンモランシーよ」
「ああ、モンモランシー。愛するひとに隠し事をするわけにはいかないからね。秘密にしてくれと念を押したのに、いけないレディだ」
ギーシュは格好を付けて髪をかきあげた。そんなギーシュを、ルイズは呆れ顔で見ている。
「モンモランシーだけじゃないわよ。ソーンのクラスの赤毛の子」
「む」
ギーシュの顔に冷や汗が浮かぶ。
「3年生の金髪さん」
「ぐ」
「おおかたあのケティって一年生にも話してるんでしょ。なにが秘密だか。あんた、女の子の気を引くために、誰彼かまわず触れ回ってるんじゃない」
「むむむ……」
ギーシュの顔に冷や汗がダラダラと流れた。
ギーシュの使い魔モグラの瞳がきらりと光った。そしてモグラはルイズに飛びかかると、ふたたびルイズを押し倒した。
「きゃあ!」
「ヴェルダンデ!」
ギーシュが叫ぶ。ヴェルダンデは、その愛くるしい瞳でギーシュを見つめていた。
ああ、ヴェルダンデ!ご主人様を困らせるルイズをやっつけてくれたのかい?
きみは本当にかしこいね。可愛いね。困ってしまうね。
ギーシュが感激していると、ヴェルダンデはルイズの右手の『水のルビー』に、ふたたび鼻を押し付けた。
実は単に『水のルビー』に夢中になってるだけかもしれなかった。
ルイズがモグラの下敷きになってじたばた暴れていると……。
一陣の風が舞い上がり、ルイズに抱きつくモグラを吹き飛ばした。
「誰だッ!ぼくのヴェルダンデに何をするんだ!」
ギーシュが激昂してわめいた。
朝もやの中から、一人の長身の貴族が現れた。羽帽子をかぶっている。ティトォは、あっと小さな驚きの声を上げた。
この人、確か……
「すまない。婚約者が、モグラに襲われているのを見て見ぬ振りは出来なくてね」
「婚約者?」
その言葉に、ギーシュとティトォはおどろいた。
「ワルド様……」
ルイズが、震える声で言った。
長身の貴族は、羽帽子を取ると一礼した。
「姫殿下の命により、君たちを助けるために同行することになった。魔法衛士隊、グリフォン隊隊長、ワルド子爵だ」
ワルドは顔を上げると、人なつっこい笑みを浮かべて、ルイズに駆け寄ると、抱え上げた。
「久しぶりだな!ルイズ!ぼくのルイズ!」
ぼくのルイズ!なにそれ!ギーシュは、憧れの魔法衛士隊隊長のそんなふるまいに、口をあんぐりと開けていた。
ルイズは頬を染めて、ワルドに抱きかかえられている。
「相変わらず軽いなきみは!まるで羽のようだね!」
「……お恥ずかしいですわ」
「彼らを、紹介してくれたまえ」
ワルドはルイズを地面に下ろすと、ふたたび帽子を目深に被って言った。
「あ、あの……ギーシュ・ド・グラモンと、使い魔のティトォです」
ルイズは交互に指差して言った。ギーシュとティトォは、深々と頭を下げた。
「きみがルイズの使い魔かい?人とは思わなかったな」
ワルドが気さくな感じでティトォに近寄った。
「ぼくの婚約者がお世話になっているよ」
「はい。よろしく」
ティトォはワルドに人のいい笑顔で返した。
ワルドが口笛を吹くと、朝もやの中からグリフォンが現れた。鷲の頭と上半身に、獅子の下半身がついた幻獣である。
ワルドはひらりとグリフォンに跨がると、ルイズに手招きした。
「おいで、ルイズ」
ルイズは声をかけられると、ちょっと躊躇うようにして、俯いた。
ルイズはしばらくモジモジしていたが、ワルドに抱きかかえられ、グリフォンに跨がった。
ワルドは手綱を操り、杖を掲げて叫んだ。
「では諸君!出発だ!」


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