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檄・トリステイン華劇団!!-02


   前回までのあらすじ
 大神一郎は帝國劇場のモギリとして働くごく一般的な男性。しかし、一たび帝都に害を
なす者が現れた時、霊的な力でそれを打ち倒す秘密部隊、帝國華劇団・花組の隊長に
なるのである。
 ある日、彼が列車の中で居眠りをしていると、いつの間にか知らない世界へと飛ばされ
ていた。よくわからないまま、現地の人に助けられた大神は、トリステイン魔法学院と呼ば
れる学校で、ニセ教師として過ごすことになった。そこで彼は、使い魔召喚の儀式に失敗
した退学寸前の落ちこぼれ魔法少女、ルイズと出会う。
 ルイズの霊的な才能を見抜いた大神は彼女につきっきりで指導することにした。そして
数日、いつものようにルイズと一緒に出かけていると、学院内に大神が元いた世界で戦っ
たことのある蒸気獣と呼ばれる化け物が出現したのだ。
 逃げ惑う学院関係者。光武(霊子甲冑)さえあればと歯ぎしりする大神に対し、教師の
一人であるコルベールが彼を地下室へと案内した。そこには、帝都で見た光武とそっくり
な機体が二体あったのである。
 大神は一緒にいた教え子のルイズとともに光武に乗り込み、蒸気獣を粉砕。さらに現れ
た巨大ゴーレムをも協力して打ち倒し、学院を守り切ったのである。


   檄・トリステイン華劇団!!

   第二話 わが愛は炎よりも熱く

 謎の蒸気獣の襲撃以降、それまでトリステイン魔法学院にニセ教師として過ごしていた
大神一郎は、その後正体はバレてしまったものの、学院を救った英雄ということで用心棒として
学院に残ることができた。
大神とともに蒸気獣撃退に貢献した教え子のルイズは、すっかり自信を取り戻し正規の
カリキュラムに戻ってしまったため、彼は基本的に暇。つまりニートである。
午前中は光武の整備をしたり、古文書を調べるコルベールの手伝いをし、午後からは警備兵
相手に剣の稽古などをするなど、比較的のんびりとした時間を過ごしていた。
事件から数日、とりあえず霊力も回復して(飯を食べて寝たら回復したが、パン食なので若干
回復が遅い)身も心も落ち着いた彼は、コルベールとともに魔法学院の地下に保管されてあっ
た光武を調べてみることにした。
 すると件の光武は彼が以前に使っていたものとは明らかに違う特徴を持っていたのだ。と
いうのも、本来の光武は蒸気機関と霊力を併用して動く、蒸気併用霊子機関と呼ばれるもの
をメイン出力装置としているのだが、この光武には大神の見たことのない鉱石がエネルギー源
として使われていた。
 コルベールの話によると、これは風石と呼ばれるもので、空を飛ぶために必要なものらしい。
もちろんそのような鉱石は大神の元いた世界にはないものだ。
 ということは、この光武はこの世界のオリジナル、もしくは彼が元いた世界の技術を合わせて
作られたものなのかもしれない。いずれにせよ技術畑ではない大神には、限界があった。
 光武については李紅蘭が一番詳しいはずだが、彼女のことを思い出すと彼女の着ていた
チャイナドレスはスリットがかなり高いところまで来ているので、下着を履いていたのだろうか、
などという、かなりどうしようもないことが頭をよぎる大神であった。


 そして二週間が経ったある日、大神はコルベールとともに学院長室に呼ばれる。そこには長く
白いひげを生やしたオスマン学院長が白いネズミの使い魔とともに待ち構えていた。ちなみに
この白ネズミについて、大神は変な話を聞いたことがある。以前学院長の秘書をしていたメガネを
かけた女性(大神好み)によると、使い魔のネズミがネズミ捕りにかかって死んでいたので、別の
普通のネズミとすり替えてみたのだが、学院長本人は気づいていないという。彼女の話が本当か
どうかはわからない。というのも、彼女は例の事件以降行方不明になってしまったから。学院長
本人に確認してみるという手もあるが、本当だったら怖いのでとてもそんなことはできない。
 それはともかく、学院長は数日前まで首都の学会に参加しており、昨夜帰ってきたばかりである。
それでも長旅の疲れを一かけらも見せずに元気でいるというのは凄い体力だ。未だにセクハラを
繰り返しメイドから往復ビンタをくらうだけのことはある。
「おお、久しぶりじゃのオオガミくん」学院長は笑顔で彼を迎えた。
「どうも、ごぶさたしています」そう言って軽くお辞儀をする大神。
「さて早速じゃが、キミに渡したいものがある」

「はい、なんでしょう」
「これじゃ」そう言って学院長は指輪を見せた。
「男性からのプロポーズはどうも……」
 ちなみに大神一郎、“そういう経験”は初めてではない。
「勘違いするな、そういう意味ではない」なぜか顔を赤らめる学院長。実に気持ち悪い。
「では、この指輪は一体なんでしょう」
「これは『召喚の指輪』と言ってな、召喚魔法のルーンが刻まれた石の付いた指輪じゃ。
これがあれば、魔法を使えない者でも物を召喚することができる」
「え? それって」
「あの鋼鉄のゴーレムを召喚するためのものじゃよ」
 鋼鉄のゴーレム、つまり光武のことだ。
「ミス・ヴァリエールは自分の魔法で召喚できるようになったというが、キミはダメだろう。
だからそのためのものだ。あれだけの物を馬や竜で運ぶのも骨じゃからの」
「でもこれは、大事なものなのでは……」
「ああ、アカデミーで開発を進めていた汎用魔法兵器の一つなんじゃが、戦争に使うより
はキミに使ってもらった方が良いと思って、持って帰ったんだ」
「しかし、自分のような者が……」
「そう謙遜なさるな。キミがワシを含めた学院の皆を守ってくれた、心ばかりの礼じゃよ」
「そんな……」
「もらっておきなさいオオガミさん」そう言って隣にいたコルベールが軽く肩に手を乗せる。
「は、はい。ありがたく頂戴いたします」
「うむうむ。それでいい。これは一旦召喚して、用が済めば元の場所に戻るという便利な
代物じゃ」
「それは凄い」
「ただし、ルーンの刻まれた石には限界があってな、そうじゃの。八回までしか使えんからな」
「八回ですか?」
「大事に使えよ。指輪の替えは、次に出来るまで時間がかかるゆえに」
「はい。わかりました」
「それからもう一つ。これはコルベールくんに渡そう」そう言って学院長は机の中から一冊の
本を出す。
「これは?」とコルベール。
表紙には何も書かれていないが立派な装丁の本だ。
「古文書の写しじゃよ。部下に命じてアカデミーの図書館から盗っ……、借りてきたのじゃ」
「これってまさか……」
「そう、オオガミくんの乗った鋼鉄のゴーレムに関する記述のある古文書じゃ。見つけるのに
苦労したというがの、この世界に起こっている異常を解くカギになるやも知れぬと思い持っ
てきた」
「失礼します。ちょっと読んでみてよろしいですか」そう言ってコルベールはパラパラと学院長
から受け取った本のページをめくってみる。
「どうじゃろう」学院長は自信満々で聞いてきた。
「さすが学院長。かなり重要なヒントになりますよ。これからどうすればいいか迷っていたところ
なので」
「そうか、それは良かった。これなら、オオガミくんが元の世界に戻れるヒントがあるやもしれん
からな」
「は!」
 元の世界に戻れる。最近忘れかけていたけれども、よく考えたらそれが最も目指さなければ
ならない目標のはずである。のんびりとした時間の中で緩みかけていた緊張感を再び引き
締める大神であった。


 オスマン学院長から貰った(借りた)古文書の写本によると、炎の衣と呼ばれるものが、
ゲルマニアという国の活火山地帯にある火の洞窟という場所に封印されているという。
 大神はその話を聞くと、今すぐにでも火の洞窟に行ってみたい衝動に駆られる。しかしそこには
大きな問題が二つほど存在した。

 一つはゲルマニアが外国であること。オスマンはトリステイン王国の臣民であるため、
自由な出入りができない。大神にいたっては無国籍だ。
 もう一つは、火の洞窟には炎を司る竜がいる、ということである。竜といっても王国で
飼いならされているような竜ではなく、幾人もの戦士を葬り去った悪の化身のような竜だ
という。
「竜なら、光武の力を使えばなんとか抑えられるかもしれません」
「しかし、どうやってゲルマニアの国境を越えましょうか」
 コルベールの居室兼実験室で二人が悩んでいると、突然ドアが開いた。
 思わずドアの方を見る二人。
「話は聞かせてもらったわ!!」
 そこには、赤髪で褐色の肌、そしてあふれんばかりの胸を持つ女子生徒がいたのだ。
「キミは……」
「あらやだ、一緒に戦った『仲間』を忘れちゃったの?」
 そう、彼女は大神とルイズが巨大ゴーレムと戦った際、人質に取られた学院長を救い
出した二人の女子生徒のうちの一人である。
「キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーよ。キュルケって
呼んでね、大神さん」そう言うとキュルケは軽くウインクをした。
「あう……」大神は年下の仕草に動揺しつつも聞く。「ところでキュルケ、キミはどこまで
聞いていたんだい」
「最初から最後までよ」
「盗み聞きとは感心しませんね、ミス・ツェルプストー」コルベールは動揺を覆い隠すように、
教師としての威厳を意識してやや強い口調で言った。
「ふふふ、本当に重要な話なら、結界の一つでも張っておくものでしょう?もし私が他国の
スパイだったらどうするわけ?」
 急に身構える大神。
「落ち着いて、別に私はスパイでもなんでもないわ。ただの留学生よ。もちろん家の方では
そういう仕事を期待しているけど、私、政治とかには全然興味ないのよね」
「じゃあなんだって俺達の話を」
「ふふ、ここからは内密にしましょう」そう言うとキュルケはドアを閉める。
「……」
 いつの間にか、キュルケの背後には青髪の少女が立っていた。背が低いのと、意図的に
気配を消していたようなので、その存在に大神はすぐには気付かなかった。
「彼女はタバサ、私の親友。知っているわよね、大神さんなら」
 そう、タバサもキュルケと共に巨大ゴーレムと戦った女子生徒だ。シルフィードと呼ぶ青い
風竜の使い魔を従えている。無口で、喋っているところをほとんど見ていないけれども、強い
魔力の持主であることだけは大神にもわかった。
 タバサが誰にも聞こえないような小さな声で呪文を詠唱すると、周囲は耳鳴りがするほど
静まり返る。
「タバサの魔法で音は遮断したわ。これで思う存分密談ができるでしょう、先生方」
「それで、君たちの話というのは」
「簡単よ。協力してあげたいの、大神さんに」
「ん?」
「私はゲルマニアの人間なの。だから私が手引きすればゲルマニアにも普通に入れるわよ。
万が一役人に捕まってもあなたたちの身の安全は保障するわ」
 コルベールの補足説明によると、帝政ゲルマニアは中央に君臨する皇帝の権威が弱く、
地方の貴族が半独立的な勢力を持っているという。その中でもキュルケの実家である
ツェルプストー家はかなりの領地と財を有しており、その影響力は皇帝に匹敵すると言っても
過言ではないらしい。
「だから大神さん。私を連れて行ってくれれば、仕事が楽になるわよ」
「……」
 大神は押し黙ったままキュルケの瞳をじっと見つめる。
 そしておもむろに彼女の前に出ると、キュルケの後の方にいるタバサに向けて言った。
「タバサ。もう結界を解いていいよ」
「……」一瞬目を見開いて、驚いたような表情をしたタバサだが、すぐに元の人形のような無表情
に戻り、口を素早く動かすと、再び外から音が聞こえ始めてきた。
「どういうこと?」とキュルケが大神に詰め寄る。
「キュルケ、二人きりで話をしないか」
「え……?」

 学院内にある中央塔の最上階には、外を見張らせるベランダのような場所がある。
「風、気持ちいいわね」
 高いところなので、風も強い。キュルケの長い赤髪が風によって柔らかく泳いでいた。
「それで、二人きりで話したいことって? 悪いけど今夜は予約が入ってるから」
「いや、そういうんじゃない」
「なんだ。大神さん相手なら、予約もキャンセルしてもよかったのに」
 予約ってなんだろう、そう思いつつ大神は話を続ける。
「キミが俺達に協力する、本当の目的を教えてくれないか」
「本当の目的?」
「そうだ。俺達が火の洞窟を目指すのは、この世界の異変と俺が元の世界に戻るための
手がかりを得るためだ。ただ、それにキミたちが協力したところで、直接的な利益はないと
思うんだが」
「別に、ただ面白そうだからよ」
「そんな理由で連れて行くわけにはいかない」
「へ?」
「そんな理由で命を危険に晒すような真似はできないだろう」
「危険だなんて」
「俺達の話を最初から盗み聞きしていたのならわかるはずだ」
「それは……」
 不意に目を逸らすキュルケ。彼女とは付き合いは浅いけれども、それが何かを隠している
仕草である、ということくらい世界的なニブチンである大神にもわかる。
「似ているのよね、あなた」
「ん?」
「大神さんって、昔私が好きだった人に。いや、好きっていうより憧れていた人かな」
「それが」
「彼がね、その昔あの火の洞窟の竜退治に行くと仲間とともに出かけて行ったの」
「……」
「でも、戻ってこなかった」
「……」
「私は待ったわ。何日も何日も。それでも、戻ってこなかったわ。そうして何日待ったかわから
なくなったころ、私は決意したの」
「決意?」
「いつか私が強くなったら、彼の行ったあの場所に行き、彼の最期がどうなったのか確かめ
てやろうって」
「え……」
「そうしたらたまたま例の洞窟の話をしているじゃない?鋼鉄のゴーレムの話は初耳だけど、
これって神が与えてくれたチャンスなんじゃないかって思ってね。だから大神さん」キュルケは、
今度は目線をそらさず大神の方をじっと見つめた。
「なんだい」
「私も連れて行って。絶対に足を引っ張らないから」
「……、わかった」
 彼女の話が本当かどうか、なんてことはわからない。ただ、大神を見つめる視線は真剣その
ものであった。


 数日後の早朝。大神は旅の支度をして部屋を出る。
 数週間前に戦場となった学院の中庭では、シルフィードという名前の巨大な風竜と少女が二人。
一人はキュルケ、そしてもう一人はシルフィードの主人、タバサだ。
 コルベールは残念ながら仕事があるから行けそうにない。
 他に何か忘れているような気もするのだが……。
まあいい、とにかく出発だ。大神は二人を促す。学院長から貰った古文書の写しと召喚の指輪は
持っているから問題はないだろう。

   *

ルイズ・フランソワーズは早朝に目を覚ました。しかし身体が動かない。
これは金縛り?
以前大神に聞いたことがある怪奇現象。意識はあるのに身体が動かないという。ただ
完全に動かないというわけではない。両腕と両足が動かないだけだ。よく見ると縄で縛ら
れているではないか。しかも縄には魔法がかけられているらしく、縄ぬけができない。
「フガーッ、フガーッ!」
 自分の魔法で縄の魔法を打ち消そうとするも、口には猿轡(さるぐつわ)をはめられて
おり上手く喋れず、呪文の詠唱ができない。
 やったのはキュルケね。
 ルイズは心の中でそう確信した。
 確信はしたものの、寝起きでまだ心も身体も動き出していないうえに、もがけばもがく
ほど縄が食い込んでしまうのでどうにもならなかった。

   *

 朝の冷たい風が頬に当たる。
 東に向かって飛んでいるため日の出はいつもより早くなるはずだ。
「寒いわ大神さん」そう言って身を寄せてくるキュルケ。
「あまりこっちに寄らないでくれキュルケ。落ちてしまう」
 風竜の背中は大きいとはいえ、人が三人乗るには若干窮屈ではある。先頭にはタバサが
乗り、その後に大神とキュルケが二人並ぶように乗っている。
「悪かったねタバサ。付き合わせてしまって」
「……、別にいい」タバサは大神のほうを見ずに答えた。
 そして布袋から何かを取り出して食べる。
「何を食べてるんだい?」
「食べる?」
「やめときなさい。それ、ハシバミ草よ」後からキュルケが声をかけた。
「ハシバミ草?」
「すっごく苦いの。タバサはそれを乾燥させたやつをおやつ代わりに食べるの」
「それがいいのに……」やや寂しげにつぶやくタバサ。
「はは。クッキーとかに入れたら食べられるようになるかな」と大神は冗談まじりに言ってみる。
「なるほど。クッキー…、なるほど」その言葉を聞いたのか、タバサは一人で何かブツブツと
言っていた。
「ああ、一人思考モードに入っちゃったわね」とキュルケ。
「なんだいそれは」
「ああなったら、話しかけても無駄よ。一人で延々と議論しているの、頭の中で」
「はあ、そうか」
 シルフィードは一路東へと飛んで行くのであった。


 ゲルマニア帝国内マエル火山帯。小惑星の衝突によってできたと言われる盆地に街並みが
広がる。
 途中天候が悪化したため、予定より遅くの到着となった。夜になると危ないので、洞窟の探索
は明日にすることにしよう、ということで全員合意した。この日は麓の町で宿をとり、明日に備え
英気を養うことに。
 ちなみに火山の町ということもあってここには温泉が。
 温泉……!
 いやいや落ち着け大神一郎。そうだ、温泉はいい。日本を思い出す。温泉に入れば身も心も
リフレッシュするはずだ、と大神は無理やりに思考を健全な方向へと導いていった。
「大神さん」
「!!」
 大神が宿の部屋の中でウロウロしていると、部屋の外からキュルケの声がした。
「ああ、なんだい」ドアを開け対応する大神。なるべく平静を装っている。

「私たち、これから温泉に行くから」
「あ、そうなんだ」
「向い側の公衆浴場に行ってきますね」
「ああ、わかった。俺もちょっと疲れたけど、少し休んだら行こうかな」
「では」
 そう言って大神は、キュルケと別れる。
 そしてドアを閉めて考える。
 キュルケとタバサは温泉に行っている。
 ということは、
 彼の頭の中で例の選択肢が出てくる。



1.……体が勝手に温泉の方に……



 ちょっと待て! 全然選択肢になってないじゃないか、なんで項目が一つしかないの!
 大神は心の中で叫ぶがなぜか抵抗できない(本能に)。
 ふらふらと部屋を出ると、次の瞬間女性の悲鳴を聞いた。
「きゃあああああああ!!」
 急いで宿を出て悲鳴のした場所に走り出す。
 塀を越えるとそこは秘密の花園……。
「いやあああああああ!!!」
「いや、待ってくれ、俺はその……!」
 問答無用で大神は風呂桶をぶつけられ、鼻血を出してしまった。

   *

 その後、鼻の穴に綿をつめた大神は宿の部屋にいた。部屋の中には大神のほかに
キュルケとタバサ、そしてもう一人。いや、もう一匹と言った方が正しい。
「これは」
「火竜ね。火竜の子供」
「ほう」
「きゅううん」
 青のシルフィードとは違い、赤い外見の小さな、といっても中型犬くらいはあるドラゴンが
いたのだ。大きな瞳に嘴。そして翼もある。確かに小さいが形はしっかりと竜だ。
「この子が温泉に紛れ込んでいたんだな」
「そうなのよ。それえ大騒ぎになって」
「そうだったのか」
「ところで大神さん」
「どうしたんだい、キュルケ」
「裸が見たいなら私に言ってくれればよかったのに……」キュルケが熱っぽい視線を送ってくる。
「最低」一方氷のように冷たい視線を送ってくるのはタバサの方だ。
「いやいや、誤解だって。俺は女性の悲鳴が聞こえたから」
「まあ、そういうことにしといてあげる」
「そういうことって……、それはともかく、この子はどうするんだ」
「飼いましょう」
「ダメだよ」
「冗談よ。恐らく迷って麓におりてきたのね。明日山に帰してあげましょう」
「そうだな」
「きゅるるる」
 キュルケが竜の頭をなでると、気持ち良さそうに鳴く。まるで母子のようだ。

「名前は付けないのかい?」
 キュルケが子竜をあまりにも可愛がっているので、大神はそう聞いてみた。
「え?つけないわよ」
「どうして」
「だってこの子、いずれ山に返すでしょ?名前をつけたら情が移って返せなくなるじゃない」
「そうか」
 彼女の一応割り切っているのか。
「でもどうしてもっていうんなら、つけてもいいかも」
「ええ?」
「そうね、イチローとかどう?」
「却下で」
「もう。じゃあエリック」
 なぜ彼女がその名前にしたのか、理由までは聞かなかった。


 翌朝。この日も早い。大神たちは旅の準備を整え、火山帯へと向かった。目標は火の洞窟。
そこまでに行く道は領主によって閉鎖されているけれども、シルフィードに乗って飛んでいけ
ば問題ない。
 キュルケの腕には、昨日保護した火竜の子供がすやすやと寝息を立てて眠っていた。
 こうして見ると、彼女は母性が強いのかもしれない。別の一面を見られた気がして、大神は
少し新鮮な気持ちになった。
「見えた」
 タバサの声で下を見ると、そこには小さめの入口らしきものが見える。シルフィードは入れ
そうもないほどの大きさだったため、彼(彼女?)は外で待たせて、大神たち三人と火竜一匹
で行くことにした。
 入口こそ小さかったものの、洞窟の中はわりと広い。迷路のように入り組んでいるけれども、
迷うというほどではない。
「古文書によれば、この奥に伝説のゴーレムがいるという」タバサが小さな明かりを頼りに持っ
てきた古文書の写しを読みながら言う。目が悪くなりそうだ。
「何よ、意外とアッサリしているのね。あたしはてっきり巨大なドラゴンでも出てくるのかと思っ
たわ」キュルケはつまらなそうに言う。その後には火竜のエリックが、まるでカルガモの親子の
ように、後をついて歩いている。実にほほえましい。
 しばらく歩くと、大きく開けた場所についた。
「すごい……」思わず声の漏れる広さ。帝国劇場よりもさらに広い場所が洞窟の中に広がって
いた。
「見てタバサ、大神さん。あそこに石碑が」キュルケの指さすその先には確かに石碑のような
ものが見える。
 警戒しながら近寄ってみると、そこには文字が書いてあった。
「読める? タバサ……」心配そうにキュルケが聞いてみる。
「う、うーん。見た事もない字」とタバサらしくない返答をする。
あの勉強家のタバサが分からない字。一体どんな文字なのか。大神も興味本位でのぞいて
みると、
「あっ!!」
「どうしたの?」
「……?」
 それは見覚えのある字であった。いや、見慣れていると言ったほうが正しいか。
 漢字とかなで書かれた文字。それは間違いなく日本語なのだ。
 しかしなぜ日本語。なぜこんなところに。色々と疑問は浮かんだが、今は石碑に書かれている
文章を読むことが先決だ。
「読めるの?」
「ああ、これは俺が元いた場所で使っていた文字だ。ええと、なになに。『世界に異変が起きた時、
それを救う手段として炎の霊子甲冑をここに封印す。封印を解くカギは、使い手と伝説の……を……』
うーん」
「どうしたの?」
「すり減っていて上手く読めないんだ」
「随分古いものだしね。って、何?」
「どうした」
「それが、連れてきたエリックが……」
 よくわからないが何か震えている。

「光った?」
 火竜のエリックが赤い光に包まれているのだ。
「え、一体どういうこと」
「ねえキュルケ、あなたも」タバサがキュルケの方を見て心配そうに言う。
「へ?」
 つられて大神もキュルケの方を見た。
「どうなってるのよ!」
 すると、キュルケ自身も赤い光に包まれているではないか。
 続いて洞窟内が揺れ始める。
「地震か? 噴火か?」
 大神はパニックになりそうな自身の心を静めるよう努め、周囲を見回した。
 すると、石碑のあった場所の後の岩が音を立てて割れはじめた。
「なんだ?」
「これは!!」
 岩の割れ目から出現したのは、間違いなく光武、霊子甲冑であった。それも真赤な霊子
甲冑。トリステイン魔法学院の地下にあったものとはまた違う光武である。

「そこまでよ!!」

 洞窟内に聞き覚えのある声が響き渡った。
「誰だ!」
 よく見ると、紫色のローブを着た魔術師。あれは、以前魔法学院で巨大ゴーレムを操って
いた奴だ。
「お前は!!」
「ほっほっほ。また会ったわね。お宝の封印を解いてくれてありがとう。素直にそれを
渡せば、苦しまずに殺してあげますわよ」魔術師の不気味な声が洞窟内にこだまする。
 “それ”とは、間違いなく炎の衣、つまりこの赤い光武のことだ。
「誰が渡すものか!」大神は当然言った。
「そう、あなたならそう言うと思ったわ。では蒸気獣ども、やってしまいなさい」
 魔術師が手を広げると、広い洞窟内に何十体ともいえる蒸気獣が出現する。しかも学院で
見たものとは微妙に違う。色も赤に近いものだ。
「キュルケ、タバサ。キミたちは下がっていてくれ」
「でも大神さ……」
「いいから」
「……」
「タバサ」大神はじっと敵の様子を伺いつつ名前を呼ぶ。
「なに」
「これの使い方は、まだ聞いてなかったけど」そう言って自分の右手を彼女に見せる大神。
「召喚の指輪……」
「そうだ」
「召喚したいものを、強く念じればよい。ただそれだけ」
「ありがとう」
 そう言うと大神は、指輪をつけた右腕を固く握り、それを上に向かって付きあげた。
「光武、召喚!!」
 大神がそう叫んだ瞬間、指輪が光だし、その光は彼の足もとの地面に魔法陣を描き始める。
そしてその魔法陣から、トリステイン魔法学院の地下にある大神専用の白い光武が出現した。
「いいぞ」大神は素早く出現した光武に乗り込むと、レーダーで周囲の状況を確認した。
 状況は数的に不利。だがこまめに霊力を回復させながら各個撃破していけば勝機は見える。

 そう判断して飛びだした。

   *

 胸が熱い。いや、胸だけでなく身体全体が熱い。
 キュルケの心臓は高鳴るばかりである。それはこの赤い炎の衣、いや、鋼鉄のゴーレム
を見てから。
 自身の体からあふれる赤い光。そしてゴーレムもまた、その光に呼応するようにわずかに
動いている。
 金属の塊のような外見にも関わらずまるで生きているかのような反応に彼女は戸惑った。
 もしかして自分も、大神一郎のようにこれに乗って戦うことができるのか。
 キュルケはそんな事を考える。まさか自分には、そうは思ったけれども、目の前のゴーレム
が呼んでいるようでならなかった。
 自分のすぐ後ろで自分を守るために戦っている者がいる。キュルケはそれを見ているだけで
やり過ごすような女ではない。
「タバサ」彼女は近くにいた親友の青髪の少女を呼んだ。
「なに」
「この子を、エリックをお願い」
 自分の足元でうずくまっていた赤い火竜の子供をタバサに預けると、彼女は赤い光武の元に向かう。
「はじめまして、私はキュルケ。あなたのパートナーになりたいの」
 彼女がそう言うと、赤い光武がまるで口を開くようにハッチを開き、操縦席を解放させる。
「良い子ね」
 そうつぶやくとキュルケは素早く光武に乗り込んだ。
 ルイズのやっていたことを見ていた、といっても彼女にとってははじめての体験。ハッチが閉じる
と一瞬視界が暗くなるが、すぐに明かりがつき周囲の状況が見えた。敵の姿ははっきりと視認できる。
「さあ、お楽しみの時間のはじまりよ」

   *

 斬っても斬ってもキリがない。やはり一人で戦うには限界があったか。こんな時に仲間がいてくれ
れば、とそこまで考えたところで大神は自分の弱さにいらだち頭を振る。そんな考えじゃだめだ。
 どうしてもあの光武を守り、また一緒に来た二人の命もまもらなければならない。
「なに!?」
 不意に噴きかかる火炎。赤い蒸気獣がはなったものと思われる。四方八方から炎が飛んでくる。
「心頭滅却すれば火も……」そこまで言いかけて止まった。やはり熱いものは熱い。光武は耐水も
そうだが、そこまで耐熱用の設計もなされていない。
 とりあえず素早さを生かして火の攻撃を避け、接近して斬る戦術を選ぶ大神。しかし敵もある程度
こちらの動きを読んでいるらしく、容易に近づけさせないような戦い方に切り替えてきた。
 数体の蒸気獣が一斉に火炎攻撃を仕掛けてこようとしたその時――

 地を這うような炎の波がその蒸気獣をなぎ払うように大神の目の前を走る。
「なんだ!」
『お待たせダーリン』
「きゅ、キュルケかい?」
『そうよ。助けにきたわ』
「キミも、動かせたんだね」
『無駄話は後、一気に倒しちゃおうかしら。それにしてもこの無線機っていうもの、便利よね』
 無駄話は後、とか言っているくせに無駄話をしているのは、キュルケであった。あの例の赤い光武に
乗っているようだ。光武は長い柄に斧状のものがついた、いわゆる長斧というやつであろうか。多少の
間合いなど気にせずぶった斬れる上に破壊力も強力だ。
 キュルケの出現にひるんでいる蒸気獣のスキをついて大神は斬りかかる。二刀流が接近した敵を
一体、二体、そして三体斬る。

『さすが、やるわねえ』
「危ないキュルケ」
 キュルケ機に急接近する蒸気獣を確認。
『問題ないわ!!』そう言ってキュルケは蒸気獣を一刀両断にした。
 接近戦も強いとは。
死角なしか?
大神がそう思った瞬間、蒸気獣はさらに間合いを広げで火炎攻撃をしようと移動しはじめた。
いくら長斧が広い間合いに使えるとはいえ、完全な飛び道具には及ばない。
『ダーリン!』
「ダーリンはよしてくれないか」
『そんなことどうでもいいの。とにかく、あなたは私を盾にして身を守って』
「な、何を言っているんだキュルケ」
『いいから私を信じて。私がこうするから、あなたは……』
 身を挺して仲間をかばうのは大神の専売特許のはずだが、キュルケにも何か考えがある
らしい。
「よし、まかせたキュルケ」
『まかせてダーリン』
「だからダーリンはなあ」
 蒸気獣が一斉に火炎と火球を飛ばす。それを真正面から受けるキュルケ。一瞬赤の光武が
炎に包まれ、さらに赤く燃え上がった。と、次の瞬間その光武の背後から大神機が飛び出し、
蒸気獣に最接近して斬りつける。
 荒方蒸気獣を斬り倒した大神は、すぐにキュルケの無事を確かめる。
「キュルケ!大丈夫か」
『平気よ。この機体、熱には強いらしいの。確かに無傷とまではいかないけど』
「よかった」
 しかしほっと一息ついたのも束の間。

「これで勝った気にならないことね!!」

 先ほどの魔術師が叫ぶ。
「お前の目的は一体何だ!なんのために光武を狙う!」
「あなたに話してやる義理わないわよ!!さあ出でよ竜型蒸気獣、メカギドラ!!!」
 洞窟内に魔術師の声が響き渡る。
 と同時にタバサが抱いていたエリックがじたばたと赤い光を放ち暴れ始めた。
「あっ」たまらず手を離すタバサ。
 地面に落ちた火竜の子供は、よろよろと立ちあがると赤い目を光らせる。
「まさか……」
「ふっふっふ、あれがこの地の秘宝を守る伝説の竜の子孫さ。そして私は、そいつに少し仕掛けを
させてもらった」
「仕掛けだど!?」
「蒸気獣として我らの手駒になるようにな」
「なんだって?まだ子供じゃないか」
「何を言っているかね。あれはその赤いゴーレムを出すための道具だよ」
「き、貴様……」
 モニター越しに見える魔術師に対して、大神は強い怒りを感じた。
『エリック!!』
しかしそれ以上に憤っていたのは――
「キュルケ!!」
 大神が叫ぶよりも早く、キュルケの乗る赤い光武は魔術師に向かって斬りかかっていた。
「よせ!!」
 しかしキュルケの構える長斧は魔術師には届かず、途中で巨大な火球によってはばまれてしまった。
『きゃああ!!』キュルケの叫び声が無線を通じって聞こえてくる。
 地面に落ちるキュルケ。しかすすぐに体勢を立て直す。
『はあ、はあ、あの子に……、何の罪もないエリックになんてことを』
「キュルケ落ち着くんだ!」叫ぶ大神。
 しかしその声は届かない。
「ふふふ、私を倒したければメカギドラを倒してからにするんだね」
 そう言って魔術師を守るように出現したのは、首が三本もある機械と竜を融合させた化け物であった。
 再び戦闘態勢に入るキュルケに対して三本の首が襲いかかる。

「まずい!」
 キュルケの機体は、熱に対しては強いが物理攻撃に関しては大神の機体とそう大差は
ないはずだ。しかも大きな武器を持っている分素早さも劣る。
「すまん!!」そう言って体当たりでキュルケの機体ごと吹き飛ばす大神。
『きゃあ!!』無線からは悲痛な叫び声が聞こえていた。
「大丈夫か」
『何するのよ!』
「焦るなキュルケ。冷静になるんだ」
『私は冷静よ!』
「それのどこが冷静だっていうんだ。まともにやり合って勝てるあいてじゃないだろう」
『だから魔術師だけを狙うの!あの子をあんなにして、許せない』
 キュルケは幼い火竜の子供を悪魔のような形にした魔術師に対して本気で怒っている。だから
といって、怒りに身を任せて戦っても勝てる相手ではない。
「魔術師を倒してもあの子は元には戻らない!冷静にこの場の対処を考えるんだ」
『なにを……!』
「キュルケ、危ない!」
 真横から接近してくる竜の首攻撃に、大神がキュルケを守るように割って入ったため吹き飛ば
されてしまった。
『大神さん!!』

   *

 不覚だ。一生の不覚。
 ツェルプストーともあろう者が怒りで我を忘れてしまうなど。
 奴らは冷静に悪事を働いた。故にこちらも冷静に罪を裁かねばならない。
 キュルケはきっと正面の三本首のドラゴン、メカギドラを見据える。
 これはもうあの子ではない。悲しい事実だけれども仕方のないことだ。ただ、彼女は人が思うほど
別れには強くない。
 エリック――
 タバサ、大神一郎。この場にいる人はこれ以上誰も死なせたくない。それは彼女が持つ偽らざる
本心であった。
 だから、ごめんなさい――
 キュルケは長斧を振う。
 接近戦ならば長い首の攻撃も、それほど意味をなさず、やたら炎も吐けないはず。
 それまでにないダッシュでメカギドラの懐に潜り込んだキュルケは長斧でひとつ目の首に斬りつけ、
そしてもう一つの首にも斬激をくらわせる。
そして返す刀で最後の首を斬りつけようとした瞬間、すでに真後に竜の首が迫っていた。
キュルケは敵の耐久力を見誤っていた。彼女が思っているほどダメージは与えられなかったようだ。
やられる!!
そう思った瞬間、背中に衝撃が走った。
これはやられたか。一瞬目をつぶるキュルケ。しかし、背中を貫かれたような感覚はない。
もう死んだから?
それとも光武というものは耐久力が高いのか。
どちらも不正解だった。
『大丈夫かキュルケ!』
「大神さん!」
 キュルケの背中では、大神がしっかりと竜の首の攻撃をガードしていたのだ。

   *

 メカギドラの攻撃を防いだキュルケと大神は、再び間合いを取る。広い間合いは不利だ。なんとかして間合いを詰めなければならない。
「キュルケ、聞こえるかい?」
『なに、ダーリン』
 すっかり元の調子に戻っている。冷静さを取り戻したようだ。
「今度は俺が前に出る。それで一気に片をつけよう」
『いいの?相手は火炎攻撃もできるのよ』
「俺の武器じゃあ間合いが足りない。キミの武器なら間合いといい威力といい十分だよ」
『私の武器でも、威力は……』
「大丈夫、その後二人で力を合わせれば問題ない」
『二人で……?』
「そうさ」
『わかった。あなたを信じるわ、ダーリン』
「じゃあ、行くよ」大神は一気にダッシュをかける。
 その動きを追尾するキュルケの存在をしっかり意識しつつ、光武の持つ二本の刀を十字
に構える。
「うおおおおおおおおお!!!!」
「ギシャアアアアア」メカギドラが口から炎を吐きだした。この機体は、炎にはあまり強くない。
しかし。
「心頭滅却すれば火もまた涼し!!!」やせ我慢だ。
 敵の炎に屈せず、更に前進する。
「今だ!!!」
 三つの頭が一斉に火を吐いたと同時に、大神の後にぴったりとくっついていた赤い光武が
飛び出す。火を吐いている時、頭はかなり無防備になっている。
『とりゃあああああああ』
 一気に斬るキュルケ。狙ったのは固い皮膚ではなく、目。
「ギャアアオオオオオオ」
 苦しむメカギドラ。
 そこに大神が叫ぶ。
「行くぞ!!」
『いいわよ』


《来て、ダーリン!!》
《やはりダーリンはちょっと》
《いいからやるわよ》
《おう!!》


《Das Backen von Hize grose Brandung (炎熱の大波)》


 メカギドラがひるんだ所に合体技を仕掛け、敵を完全に粉砕した。

 しかしそれは同時に、自分たちのいる場所を危険に晒す行為でもあった。
 大きく揺れる地面。
「まずいな、これは」
 洞窟が崩れるかもしれない。
「ダーリン!タバサは私が助けるから、あなたは出口の確保をお願い」
「わかった!」
 もう、どちらが隊長かわからない状況だが、そんなことは言っていられない。とりあえず、
大神は光武の力をフルパワーで使い、崩れかかる出口の穴を開き、障害物を取り除いた。

   *

 なんとか洞窟を脱出した大神たち三人。
 しかしキュルケは、塞がった洞窟への入口を見ながら沈み込んでいた。
「キュルケ」声をかける大神。
「なによ」
 ややぶっきらぼうな返事。今は一人でいたのかもしれないけれど、大神は話を続けた。
「あの子は、エリックはこの洞窟の守り神だったんだね」
「そう、なのかな……」
「だったら、その光武があいつらに取られなくてよかったじゃないか。エリックとその親が
代々守ってきたものが。これからはキミが守るんだ、それを」
「ダーリン」
「だからダーリンはやめてくれと」
「私を元気づけてくれるの?」
「いや……、まあ。落ち込んでいるキミはらしくないというか」
「やだ、嬉しい!」そう言うとキュルケは大神の首に巻きつく。
「ちょっと、よせキュルケ!ほら、タバサも見ている」
「……私は何も見ていない」そう言ってハシバミ草を食べるタバサ。
「やめなさい。って、そうだ。まだアレをやっていなかった」大神が首に絡みつくキュルケを
引き離しながら言う。
「アレ?」
「そう、戦いに勝った時はいつもやるんだ」
「もしかして……」
「さあ行くぞ、タバサもおいで」
「私は遠慮しとく」
「あんたも来なさい。私にだけ恥ずかしい真似をさせないで」そう言ってキュルケはタバサの
服を掴み引き寄せた。
「じゃあ行くぞ」


「勝利のポーズ!!」


「決めっ!!」

   エピローグ
 いつものアレもやったところで、帰り支度をはじめる三人。そんな中、大神はあること
を思い出したのでキュルケに聞いてみる。
「ところでキュルケ、ここはキミの憧れの人に関係する場所じゃなかったのかい?」
「え?あこがれ」
「花の一つでも手向けたほうがいいんじゃないかな」
「え……?ああ、ああ」何かに気がついたように、彼女は手をポンとついた。
 キュルケは、かつて憧れの人が火の洞窟に竜退治に行って帰ってこなくなった、と言っ
ていたのだが……。
「どうしたんだい」
「あれはウソよ」
「はあ!?」
「だってダーリンって真面目だから、単に面白そうだから連れて行ってくれっていっても連れて
行ってくれないでしょう?」
「そ、それって」
「ごめんなさいね」
「………!」
「もしかして怒ってる?」
「当たり前だろうがあああああ!!!!」
「結果オーライじゃないのお!!!!」
 こうして、大神たちの今回の旅は終わりを告げたのであった。

   *

 トリステイン魔法学院の中庭で、空を切る音が響く。
「ふんっ、ふんっ」
 ルイズは木刀で素振りを繰り返していた。
「ふう……」一通り練習を終えたルイズは汗を拭きながら空を見る。
 空は広く、気持ちが良いくらい晴れ渡っていた。
「私の出番は、まだかしら」



      お し ま い




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