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雪と雪風_始祖と神(2)


 タバサが目を覚ますと、長門は北高の制服と悪い魔法使いのマントに身を包み、
椅子の上にはタバサの着替えが畳み置かれていた。

 タバサは髪を整えもせず学院の制服に身を包むと、引き出しから短い棒を取り出し、長門に手渡した。

「これは?」
「わたしのスペアの杖。持っていて」
「なぜ」
「皆、あなたが本当にメイジであるか疑っている。メイジでないものがマントを羽織るのは、
社会制度を揺るがす重罪。あなたの持っていた手製の杖では、身分を偽っていると自ら語っているようなもの」

 長門は杖を、玩具を与えられた子供のように振り回し、角度を変えて眺めた。

「メイジは杖で魔法を使う」

 様子を見かねてか、タバサは愛用の巨大な杖を手にすると、
風系統の魔法を唱え、髪に吹きかけた。すると寝癖も直り、髪が整えられている。

「これが魔法」
「そう」

 + + +

 二人が部屋を出ると、廊下では桃色の髪の少女と、褐色の肌に赤い髪の女性が言い争っている。

「あらタバサ、おはよう」
 声をかけたのは赤髪の女性である。
「ちょ、ちょっとキュルケ! 人の話は最後まで聞きなさい!」
 桃色ブロンドが眩しい少女の抗議を、赤髪の女性はたくみに退ける。
「はじめまして、タバサの使い魔さん。
あたしは、キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー。
キュルケでいいわ。あなたがどんな家の出か、昨日から学院中の噂よ?」
「長門有希。ユキ」
「ユキ――」
 聞きなれない響きに困惑するも、キュルケは親友の名前に思い至る。
「そうね、名前だっていろんな事情があるものね。よろしく、ユキ」
「よろしく」
「ふふ、使い魔は主人に似るっていうけど、あなたたちまるで姉妹みたいよ。そうそう、それと、この子が――」
「キュルケに紹介される言われはないわ。
ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ。どこの貴族か知らないけれど、よろしく」
 ルイズはぶっきらぼうに名乗る。
「それから、あたしの使い魔のフレイム」
 フレイムは小さく火炎を吐いた。

「な、なあ、どうしたんだ、俺は? って、セーラー服だあっ!」
 そしてもう一人、ルイズの後ろに立っていた黒髪の男が、
しなだれかかるように長門へ突進する――が、儚くもルイズの金的によって阻止された。
「ほら、行くわよ、犬!」
 男はルイズに引きずられるようにして、どこかへ去っていった。
「そうそう、彼はルイズの使い魔よ。まさか二人も、人間が召喚されるなんてね。
名前は、ヒリガル・サイトーンって言ったかしら。ただ、彼はあなたと違って平民だけど」
「そう」
「あら、あたし達もそろそろ行かなくっちゃ。ユキ、あなたの朝食も用意してくれている筈よ」

 キュルケにぶら下がるようにして、タバサと長門は食堂へと向かった。フレイムは外で朝食である。

 + + +

「それにしても、驚いたわ。雰囲気だけじゃなくて、食べ物の好みまで一緒だなんてね。
はしばみ草をあんなに美味しそうに食べるのは、タバサの他には、ユキ、あなただけよ」

 教室に話の花を咲かせるのはキュルケである。
 長門有希は、まるで最初からそこにいたかのようにタバサの隣に座っている。
ヒリガル・サイトーンこと平賀才人は、ルイズの隣の段になった床に腰掛ける。
 やがて豊満な中年の女性教師が教壇に立つと、生徒達は静まり返った。

「皆さん、今学期からこのクラスを受け持つシュヴルーズ、二つ名は赤土です。本年度の使い魔召喚の儀も大成功のようですね」

 『大成功』との言葉に、教室中に失笑が広がる。もっともそれは、もう一人の人間の使い魔に向けられたものであった。

「ゼロのルイズ! その平民はどこから連れてきたんだ?」

 ルイズとその使い魔が嘲笑される根拠は、ルイズが魔法の使えない『ゼロ』として認識されていることである。
使い魔も平民ならば、どんな言葉を浴びせたところで実害はない。
ところが、同じく人間の使い魔である長門有希に対しては扱いが異なった。
彼女がどんなメイジであるかが判明するまで噂にすることを避けよう、という空気が一夜にして出来上がっていたのである。

 やがて始まった授業、寝息を立てる才人とは対照的に、長門は真剣に聞き入っている。


「では、まずわたくしが錬金の見本をお見せしましょう」

 ミセス・シュヴルーズが小石を錬金してみせると、教卓の上には、小さな塊が金色に輝いていた。

「ゴ、ゴールドですか?」
 とのキュルケの問いに、
「いいえ、真鍮です。私は土のトライアングルですからね」
 と謙遜して答える中、自らの能力のアピールも忘れない。

「それでは」
 沸き返る生徒を、シュヴルーズが静める。
「実際に皆さんに錬金していただきます」

 シュヴルーズは教室を眺め回し、一箇所で目を留めた。

「……ミス・タバサの使い魔さん、ぜひ錬金をしてみていただけないでしょうか?」

 予想だにしなかった人物の指名に、教室中がざわめき立つ。
小声に耳をそばだてれば、曰く、きっとどこかの大貴族の隠し子に違いない。
いや、これはミセス・シュヴルーズが貴族の名を騙った平民を炙り出すための作戦だ、などと云々。
なぜシュヴルーズが彼女を指名したかは定かでない。しかしシュヴルーズもまた、
長門有希のメイジとしての能力に興味を抱いたという想像は、外れてはいないと言えるのではないであろうか。
 ともあれ謎のメイジが魔法を行使するという事実に、全ての瞳が長門に注がれた。
 きょとんとしている長門に、タバサは行くよう促した。

「杖を向けて、小石を何かに変える。あなたならできる」

 小さくタバサが告げると、長門も小さく頷き、ミセス・シュヴルーズの脇に立った。

 長門は教卓の上に置かれた小石に杖を向け――、
杖を立てると目の前で回し始めた。まるで子供がまじないを掛けるように。
彼女が平民であると予想した生徒から失笑が沸く。
 だが嘲りは、すぐに驚きの声に掻き消された。
 まず、彼女が突然唱え出した、誰も耳にしたことのない高速言語による詠唱。
 そして、光の粒が一瞬見えたかと思うと、またも金色の塊が出現したことに。

「はいはい、お静かに。見ての通り、真鍮です。皆さんも、使い魔さんに負けないように学ばなくてはなりませんよ」
 生徒達を静めるように語りつつ、シュヴルーズは金属を手に取った。
 すると彼女の目付きも変わる。重さが、明らかに真鍮のそれではない。

「ミス……、これは、ゴールド、ですか?」
「そう」

 長門の返答が歓声の火蓋を切った。

 もっともこれは、謎のメイジ長門有希の正体を明かすものでは全くなかった。
しかし全寮制の退屈な生活の中、実力という謎が一つ解けた気がしたというだけでも、生徒に話題を提供するには十分だったのである。
中には彼女がメイジであるかそうでないかを賭けて、小遣いの全てを失った者もいた。

 + + +

 長門が席に戻ると、タバサを挟んで反対側に座るキュルケが、机の下に金貨の詰まった袋を見せる。
「ごめんね。胴元だったのよ」
「いいの?」
 友人の使い魔が賭けの対象にされていたことについて、長門が問う。
「いい」
 主人が、許しているのだからよいのであろう、そう判断した。

 シュヴルーズは事態の収拾に苦労したものの、やがて熱気は自然と静まる。
最後に一人残ったのは、眠気も一気に吹っ飛んだ様子で感動をまくし立てる、もう一人の使い魔であった。
「俺、こんなの初めて見たよ。最初は新興宗教かなにかの怪しい集団かと思ったけどさあ、魔法ってすげぇんだなあ」
「あ・ん・た・は・ねぇ!」
 ルイズは思わず立ち上がり、才人に詰め寄る。

「うんうん、同じ人間の使い魔だっていうのにこうも違うとは、やっぱり貴族と平民の間には、火竜山脈よりも高い壁が聳えているんだなあ」
 したり顔で語るマリコルヌを尻目に、シュヴルーズがルイズの言動を咎めた。

「ミス・ヴァリエール」
「は、はい、先生!」
「使い魔の彼が驚くのも無理はありませんが、人前で大声を上げるなど、貴族の振る舞いではありませんよ」
「すみません……」
「あなたが自らを恥じれば、それでいいのです。ですが、そうですね。
授業が中断してしまいましたが、ミス・ヴァリエール、今度はあなたに錬金してもらいましょう。
まさかゴールドとは言いません、あなたが錬金したいものを思い浮かべればよいのです」

 教室中が凍りついた。
「ミセス・シュヴルーズ、危険です!」
「そうだそうだ!」
 抗議の声が飛ぶ。しかし、
「やります!」
 と言い切るルイズを、誰も止めることはできなかった。

 背後にルイズの詠唱を聞きつつ、タバサと長門は連れ立って教室を出た。

 だが長門は、ルイズの魔法によって発生する事態を察知したかのように身をひるがえし、教室へと舞い戻った。
そして、詠唱を完成させる直前のルイズへ飛び掛る。
もし長門を知る者がその光景を見ていたとすれば、
怪光線を発するコンタクトレンズを奪い取ったときと同様であると評するだろう。

「謎の大メイジ、ご乱心か?」
「流石はスクエアクラス、一目見てルイズの危なさを察知するとは」
と、沸き上がる者半分、悲鳴を上げるもの半分である。

「痛い!」
 しかし、ルイズの悲鳴に皆が凍りついた。
「何をするのよ、いきなり! あなた、わたしの太股を噛んだでしょう」
 確かに彼女の太股には、噛まれた跡が赤く並んでいる。生徒達はドン引きである。

「おおぅ、禁断の百合の園がトリステイン魔法学院に咲くのかぁ~! おねえさま~!」
 一人妄想に浸るマリコルヌを教室の全員が積極的に無視しようと努めようとする中、長門は机上の小石を指差した。
「錬金して」

 ルイズは一瞬、あなたの言うことが分からないといった顔をするも、立ち上がると教卓に向き直る。

「い、いくらあなたがゴールドを錬金できるからって、あてつけはやめてちょうだい。だけど……、見てなさい、わたしの錬金」
 一旦は過ぎ去ったかと思われた危機の再来に、教室にいる全員が机の陰に隠れる。
 しかしいつの間にか、長門の背後には、教室に戻ったタバサが、隠れることもなく立っていた。

「イル」
「アース」
「デル」

 + + +


 予想された大爆発は起こらない。
 そして、そろそろと机の上に顔を出した生徒達が、金色の塊に気付くのに時間は掛からなかった。

「よくできましたね、ミス・ヴァリエール。見事な真鍮……、いえ、なんということでしょう、これは、ゴールド、金ですよ」
 シュヴルーズは目を丸くするが、生徒達は絶句した。これまでゼロと罵ってきたルイズ、
魔法の才能と胸の大きさ以外は完璧な彼女が魔法に目覚めれば、馬鹿にしてきた自分たちはどうなるか。
打算的な考えを持たない生徒達にとっても、ゼロが魔法に目覚めたことは大事件である。
 しかし誰よりも驚いていたのは、当然ながらルイズであった。
「うそ……、わたしが、金を、錬金……」
 本来ならば喜んでしかるべき場面であるが、あまりにも唐突な出来事に、彼女は素直に喜びを表すことができない。
それでも人生に追い風、それも突風が吹き出したことは理解できた。

 もはや収拾の取れなくなった生徒達を尻目に、長門とタバサは席に戻る。
「何をしたの?」
「わたしの錬金? それとも?」
「両方」
「わたしは、ただ原子の……物質を構成する小さな粒の配列を再構成しただけ。彼女についても、情報を書き換えた。同じこと」
「物質の状態を変えるということ?」
「この空間の言語に翻訳するのならば、近い行為と言える」
 タバサは長門の言葉を自分なりに咀嚼し、続けて問う。
「病気を治すことは可能?」
「可能」
 長門は即答する。
「病に蝕まれている者がいる。治してほしい」
「分かった」


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