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雪と雪風_始祖と神(1)


 トリステイン魔法学院の教師、ジャン・コルベールは困惑していた。
 年に一度の使い魔召喚の儀は、この年も順調に進行していた。
 ところが彼女が召喚したのは、使い魔として例のない存在であったのだ。

 草原には、召喚した主より10サントほど背の高い、
それでいて雰囲気の似た短髪の少女が、静かに遠くを見つめていた。

 コルベールは女生徒の実力を非常に高く見積もっていた。
 名前はタバサ。髪の色はガリア王家の青、ともすれば王族である可能性もある。
メイジの血統としては一流である。そして実技で垣間見た実力は、
他のメイジに能力を悟らせないことができるほどに、完成されたものであった。
 彼女に相応しい使い魔は、風の系統に相応しい竜やグリフォンといった聖獣であろうか。
韻獣が召喚されてもおかしくない。

 それが、まさか人間であるとは。
 人間を使い魔とすることを想像すれば、すぐに無能であることが分かる。
特別な能力など何もない。どんな小動物や虫であっても一芸には秀でている。
だいいち、人間を使うならば、社会的に契約を結べばよいのである。

 それでもなお、ただの平民であれば珍しい例として片付けることもできる。
 しかしコルベールは憔悴を隠しきれなかった。

召喚された少女は、マントを付けている――!

+ + +

タバサと召喚された少女は、ともに表情を変えようともしない。
遠巻きに生徒達が見守る中、コルベールはまず背の高い少女に話しかけた。

「突然のことで驚いているかと思いますが、私、このトリステイン魔法学院で教師をしている、
ジャン・コルベールと申します。一見しましたところ、どこかの魔法学院の生徒かと思われますが、
お名前をお聞きしてもよろしいですかな?」

 召喚された彼女の服装は、トリステイン魔法学院の制服に似通っていると言えないこともなかった。
膝上丈のスカートに革靴、カーディガンの中には制服と似た白い生地が見え隠れしている。
ならば、彼女はどこかの貴族の子女、他の魔法学院の生徒に違いない。
魔法学院の生徒が突然消えた、それも使い魔として召喚されたとあっては、
貴族同士の政治問題、ひいては戦争の種にさえなり得る。コルベールは彼女が何者であるかを確認しなければならなかった。

「ここは、どこ?」

 第一声が穏便なものであったことが、コルベールの脳裏を過ぎった悪い考えを、僅かではあるが掻き消した。
「トリステイン魔法学院ですよ、お嬢様。もしよろしければ、お名前と家名をお教えいただきたいのですが」
「長門有希」
 平坦な声である。
「ナガト・ユキ……、失礼ですが、その他に家名などはないのですかな?」
「ない」
「ではミス・ユキは」
「長門。あなたたちのいう家名」
「ミス・ナガトは、貴族ではないのですか?」

 通常、ハルケギニアの貴族の家名には『ド』『フォン』といった冠詞が付く。
ということは、名前ゆえに、彼女が平民であるという思考が成り立つ。
 彼女はいわゆる、貴族の位を剥奪されたメイジなのであろうか。

「ない」

 ユキ・ナガトのマントは素材こそ細やかな織であるが、縫製の質は低かった。
手にした杖も貧相な削り出しである。コルベールは、彼女が平民であるという確信を強める。

「失礼ですが、ディテクト・マジックを使用させていただいてもよろしいでしょうか」
「構わない」

 探知魔法を使用する、すなわちメイジであるかどうかを疑うことは、貴族にとって屈辱といえる。
 しかし平民となれば話は別である。
 結果として魔力が探知されなかったことで、彼は安堵の表情を浮かべた。

 コルベールは、召喚した主人に小声で伝える。
「ミス・タバサ、彼女は平民です」
 長門有希がメイジでないことを主人以外に伝えなかったのは、
貴族を詐称したという大罪によって、理不尽にも使い魔を失う事態を避けるためであった。

「儀式を続けなさい。人間を使い魔とすることは古今例がありませんが、例外は認められません。
なにより、ミス・タバサ、あなたの能力に照らし合わせるならば、
彼女はあなたに相応しい使い魔であるに違いありません」

 タバサはコルベールの言葉を最後まで聞かずに、長門有希に近寄ると、
立ち尽くしたままの彼女に口付け、契約を完了させた。長門有希に抵抗の様子はなかった。
 使い魔のルーンが刻まれた際の反応がないことを怪訝に思い、コルベールが訊ねると、
長門有希は胸元をはだけさせ、鎖骨の下にルーンが刻まれていることを示した。
 コルベールはまじまじとルーンを観察する。
 しかし年端も行かない少女の胸元を凝視する行為への視線に気付き、慌ててルーンを手元に書き留めると、
二人へ後ほど学院長室に同伴するよう伝え、残された生徒の召喚を監督するため戻っていった。

「来て」
 生徒達のざわめきをよそに、二人は学院を構成する塔のたもとに座り、本を開く。
 長門有希も文庫本を取り出すと、並んで読み始めた。

+ + +

「さて」

 学院長室には、オールド・オスマンと長門有希の二人だけが向かい合っている。
主人であるタバサも抜きにして話をしたいという、学院長の希望によるものである。
 水煙草の煙を燻らせつつ、オールド・オスマンは話を切り出した。

「単刀直入に言おう。おぬしは、メイジではないな」
「そう」
 余りにも無機質な反応に、オールド・オスマンは首をかしげる。

「どうしてわかったの」
「年寄りの勘じゃよ。まるで、なにか大きなもの――まるで始祖、いや、もっと遠くにある何か――が
流れているように見えたからのう。少なくともハルケギニア中どこを探しても、おぬしのような人間は見つかりはせぬ。
しかし、それがいったい何か、長く生きてきたつもりじゃが、分からないものはあるものじゃのう、ほっほ」
 オスマンの作り笑いに反し、サイレントの魔法がかけられた箱の中は、張り詰めた空気によって支配されている。

「ときにお主、この世界がどうやって作られたかを、説明できるかのう?」
「なぜ?」
「お主は、このハルケギニアを、あたかもその外から見ているようじゃからな」
 オスマンが切り出した問いは、教皇庁が相手であれば異端と認定されても文句の言えない内容である。
しかし長門は淡々と答える。

「……情報伝達手段を問わなければ可能。でも、あなたの理解できる言語を用いては、
情報の欠落があまりに多く、齟齬を修正しきれない。この世界の有機生命体に、
わたしの言語化する概念が理解できるとは到底思えない」
「ほう、面白い答えじゃ。ならば、全てが伝わらなくてもいい、少しばかりこの老いぼれに、どんなものかを聞かせてはもらえんか」

 しばしの沈黙の後、

「わたしは、この空間を作った人間を知っている。
けれど、あなたのいるこの空間が、彼女によって作られたかはわからない。そうかもしれないし、そうでないかもしれない」
 オスマンの表情が、はっきりと神妙なものに変わった。
「そうか、そうか。長く生きてきたつもりじゃったが、おぬしのようなことを言う者は初めてじゃ。
長生きはしてみるものじゃのう。ときに、"この世界を作った人間"とは?」
「この空間の知的存在に、そのことを伝達することは不可能。言葉を変えれば、禁則事項」
「ふぅむ、禁じられているとは、まさかお主が、異端と認定されることを恐れているのではあるまい」
「違う。あなたが、わたしがこの空間に存在する理由に関わっていないというだけ。だから伝えられない」
「……そうか、残念じゃのう。この老いぼれ、自分が必要とされていないことを面と向かって言われるのは久しぶりじゃ」
「――話はそれだけ?」

 席を立とうとする長門に、オスマンは今一度、声をかけた。
「ところで――、お主の扱いじゃが、周りの人間には、メイジということにしておくぞい。
なあに、メイジとして振舞うことは、おぬしにとっては簡単なことじゃろうて。振る舞いも、魔法もじゃ」
「どうして」
「お主のような存在が平民として軽んじられることが許せぬという、年寄りの思い付きじゃよ。
それに、お主を呼び出したあの女生徒にとっても、そのほうがやりやすいじゃろうて。
――さて、そろそろ次の客人が来る頃じゃ。慌しい話しじゃったが――。
それと、こんな世界に呼び出してしまって、済まなかったのう」

 オスマンは立ち上がると、長門を扉まで案内する仕草をし――尻を撫でた。

「うむ、触られて声一つ上げないとは、お主、人間でさえもないな?」
「……やはりあなたに話をしなくて正解」
「――冗談じゃよ。……そうじゃ、ところでお主の主人、ミス・タバサは書物の大好きな生徒でのう、
気も合うじゃろうて。お主の知っていることの少しでも、教えてやってはもらえんじゃろうか」
 書物という単語に長門の眉がぴくりと動く。
「……この学校に、図書館は?」
「おお、図書館ならあるぞい。それも、ハルケギニア中の書物を集めたものがの」
「使用許可を」
「もちろん自由に出入りして構わん。なにしろおぬしはメイジなんじゃからのう」
 長門は小さく会釈し扉を出た。それは、彼女なりの感謝の表現だったのだろう。

 + + +

「行く」
「どこへ」
「わたしの部屋」

 タバサと合流し、二人並んで塔を降りる。
 途中、桃色の髪の少女と、鼻の低い顔立ちに黒髪の少年とすれ違うが、互いを意識することはなかった。
タバサと長門は興味を持たず、桃髪少女と使い魔の少年にとっても、空気のような二人を意識する余裕はなかったのである。

 + + +

「座って」
 タバサはベッドに座り、長門有希は椅子に腰掛ける。二人、向かい合う格好になる。
 長門はおもむろに文庫本を開くが、ページが繰られることはない。

 沈黙を破ったのは主人であった。

「あなたは、メイジではない」
「そう」
「あなたは、何者?」
「オールド・オスマンにも、同じ質問をされた」

 貴族であればディテクト・マジックをかけるまでもなく、すぐに彼女がメイジではないと分かる。
 マントを身につけているにも関わらず、主人と共にフライの魔法を使用しようとしなかった様子、お粗末な作りの衣装。
 しかし身分を偽った平民であれば、彼女の立ち振る舞いに、もっと不自然さを感じてよいはずだ。
無口であることも、貴族でないことを悟られないための方策ではないかと考えたが、心を押し殺しているタバサ自身と同じ匂いを感じ、
長門有希が同様の人種であると、すぐに理解することができた。

そう、まるで長門の振る舞いは、貴族もメイジも存在しないかのようである。
タバサは、そんな存在に興味を持った。だからこそ、『平民』ではなく『何者』という問いを投げかけたのであるが。

 その間、長門はタバサの方向を見つめているが、焦点は合わせられていない。
強いて言えば、空、それも、双つの月よりも更に遠くの――

 再び長門の口が小さく動く。
長門有希もまた、タバサという人間を一目見て理解したのかもしれない。

「"いずれかの"銀河を統括する情報統合思念体によって作られた
対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェース。それが、私」
「それは、どういうこと?」
「わたしは、普通の人間じゃない」

表情を崩さない長門。タバサの目は僅かに見開かれる。

「この世界の概念を用いては、うまく言語化できない」
「あなたは、エルフ? 亜人?」
「違う」

 長門はおもむろに本を畳み、
「わたしは、この空間の外からきた」
「外?」
「そう」

 ――語り出す。作られた理由。ある者は神と呼び、自身にとっては観察対象である少女。
しかしただ一つだけ、
彼女がハルケギニアに転移する直前に発生した、致命的なエラーについてのみ、言葉をつぐんだ。

「荒唐無稽……」

 タバサの正直な感想である。

「でも、興味深い。――もしあなたの世界がその少女によって造られたのなら、このハルケギニアも――」
「わたしは、この空間も涼宮ハルヒによって創造されたと考えている。
そして、もしわたしの仮定が正しいのならば――、この空間が閉鎖空間であるとすれば、
この空間のどこかに、涼宮ハルヒは存在している」
「始祖に相当する存在――が、この世界にいる……?」

 風がページをめくる。
 異端。
 だがタバサは、冬の夜のように透き通った長門の瞳が嘘を語っていないことを、吸い込まれるように信じた。

「……もう一つ、聞いていい? あなたにとって、そのことは、話してもいいこと?」
「構わない」
「なぜ?」
「あなたに空間移動させられてから、わたしはスタンドアローンの存在。
つまり、情報統合思念体とわたしは、繋がっていない状態。異時間同位体とも同期できない。
わたしは、独立している。それに――」
「それに?」
「わたしはあなたの使い魔となった。それはあなたが、わたしがここにいる理由を担保している状態に相当する」

 長門有希は再び本を開く。今度は一定の間隔でページが繰られていた。
 タバサも窓辺に移り、使い魔と同じようにページを繰り出した。

 + + +

 二つの月が部屋を照らす。
 タバサは一冊を読み終わると、おもむろに長門に近付いた。

「本、好き?」
「ユニーク」
 一言に活字を追う喜びが込められていた。

「あなたの本は?」
「興味深い考察が記されている」
「そう」

 そして、タバサは手にした本を差し出した。

「読む?」
「一方的に借りることになる。わたしの本は、この世界のものとは異なる言語で書かれている」
「構わない。わたしがあなたに本を貸すだけ」
「わたしの本は、わたしが翻訳する。待って」

 + + +

 やがてタバサはベッドに入ると、布団の端を持ち上げ、長門を招き入れた。

「いいの?」
「いい」

 ガリア王家の青と、紫がかった少女の髪が並ぶ。
 タバサは長門に呟いた。

「シャルロット、それがわたしの名前。でも、人前ではタバサと呼んで」
「そう」
「あなたは、ユキ・ナガト」
「ユキでいい」
「いいの?」
「この世界の習慣に従う。それに、わたしはあなたの使い魔」
「わたしは、タバサ。そう呼んで」


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