あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロの花嫁-10 B



ワルドは貴族達の列の後方でルイズの入場を眺めていた。
これが、あのルイズなのか?
謁見は初めてであろう、にも関わらず惚れ惚れする程毅然としており、進む足取りも確かなものだ。
ワルドの記憶にあるルイズは、貴族の令嬢というよりはお嬢さまといったイメージだ。
あどけない様で一生懸命ワルドの気を引こうと、たどたどしい言葉を紡ぐもすぐに話題に困り、頬を桜色に染めて俯き沈黙する。
そんな小さな女の子であった。
それがどうだ、この堂々とした様は。
凛とした様子で背筋を伸ばし、力むでもなく、怯えるでもなく、誇らしげに歩を進める。
謁見の礼に乗っ取り、片膝を付いて王を待つ。
それは男性用の儀礼であり、常のワルドならばその失敗にすぐに気付けたであろうが、あまりにも自然すぎた為、それこそがルイズの為の儀礼であると錯覚してしまった。
小柄な体躯でありながら、全身から放たれる覇気のせいか、見た目以上に大きな存在に見えてくる。
頭を振って自身を取り戻すと、マザリーニ卿の入場を待つ。
あの方ならばルイズの儀礼にも文句は付けまい。
そんな事を考えていたので、不意打ちをまともに喰らってしまう。
まさか王が出張ってくるとは思いもよらなかった。
臣下にあるまじき鋭い視線で王を観察する。
随分と衰弱されてはいるようだが、ただ居るだけで周囲を圧倒する眼光は健在である。
数十年に渡りトリステインを支えてきた誇りと自信は、いささかも衰えているようには見えない。
マザリーニがルイズの罪状を読み上げ、裁判が始る。
幾人かの証人、もちろん謁見の間に入る事を許された身分の者であるが、は王の御前という事で常よりも緊張した面持ちで証言を行う。
いずれもルイズにとって不利な証人ばかりだ。
モット伯も形振り構わず潰しに来たらしい。その意気は買うが、目的が復讐とは無様にも程がある。
しかし、あのルイズの不敵な様子はどうだ。
自分に不利な証言ばかりが並べ立てられているというのに、微動だにせず悠々と聞き流しているではないか。
こちらからは表情を窺い知る事は出来ぬが、背なから感じる気配に動揺は見られない。
だからこそルイズの表情が見える位置にいるマザリーニ卿も戸惑っているのだろう。
王は……変化無し。王の王たる所以を良くご存知だ。
面白い。王が出て来た事といい、ルイズの信じられぬ変貌といい。
ここで口を出さぬようなつまらぬ真似が、どうして出来ようか。
ワルドはマザリーニの許可を得て、発言の機会をもらう。
「陛下、数多の証言は伺いましたが、未だミス・ヴァリエール側からは一言の反論もございません。これに関しましてはいかがお考えでしょうか」
ここがマザリーニ卿が仕切っている場であったのなら、恐らくモット伯はマザリーニ卿の許可も得ずにワルドを罵ってきただろう。
しかし今この場には王が居る。
そのような無礼な真似は到底出来まい。
王は頷き、ルイズに反論を促す。
ワルドは厳粛な仮面の下、ルイズの真贋を見極めてやろうと瞳を光らせる。
『さあ、可愛いルイズ。君は一体何を見せてくれる?』



ようやく、発言の機会が回ってきてくれた。
ここで言い返さねば、裁判はモット伯の言いなりで決着してしまう。
しかし、出来るのだろうか。
証言は全て事実であり、ワルド様はああ言ってくれたが、反論しようにも出来ないだけだったのだ。
だが引けない。引けるわけがない。
ワルド様が、ああ、久しくお会いしていなかったワルド様は、こんな私を気にかけてくださっていたのだ。
私を信じ、こうして機会まで与えてくださった。これに応えぬなど貴族の名折れだ。
足が震えている。
何かを言わなければと思えば思う程、足の震えは激しさを増し、床に着いた膝がこんこんと叩く音が響いて聞こえる。
王を前にして、何と情けない有様か。
そう自らを叱咤するも、体の震えは止まってくれない。
駄目だ、このままでは確実に王に震える音が聞こえてしまう。

ええい、ままよ!

ルイズはその場に立ち上がる。
立ってしまえば震えで床を打つ音など響くまい。
「証言数多あれど、当事者の言に勝るは無し。どうぞ、モット伯との直接対決をお許し下さい」

謁見の間に集まった貴族達から、大きなどよめきが起こる。
年端も行かぬ小娘が、海千山千の貴族を相手に何を語ろうというのか。
そも、王を相手にこんな大胆な発言を、謁見の何たるかも知らぬ小娘が言い放つ事自体、到底信じられる事ではない。
しかし、ルイズという名は知らぬが、ヴァリエール家の人間だというのであれば、納得出来ぬでもない。
大貴族ラ・ヴァリエール侯爵が、娘に貴族の何たるかを教えておらぬはずなどないのだから。
貴族達は、からかい半分、興味半分でルイズの動向に注視する。
王はルイズの言を認め、モット伯に進み出るよう言い渡す。
負けようはずがない、そうモット伯の表情が語っている。
しかしルイズは、既に法の勝ち負けなど眼中に無かった。

先に相対した時、水飛沫を割って飛び出した時と同じ射殺さんが勢いの視線をモット伯に叩きつける。
「モット伯! 私は貴方の所業を許せません!」
開口一番そう言い放ち、勢いそのままに自らの思う所を語り続ける。
「王より賜りし民を無下に傷つけ、自身の欲の為に扱わんとするその態度! それが貴族のやる事ですか!
 授かった民の安寧と平穏を守るべき貴族が! 事もあろうに夜伽の為に民を用いるとは! 恥を知りなさい!
 法を守りさえすればいい、そんな理屈は平民の理屈です! 貴族たる我々には法よりも重い名誉があるはずでしょう!
 それを蔑ろにし、あまつさえ開き直って王に訴えるなぞ伯の誇りは何処へ行ったというのですか!」
法でも理屈でもないそんな怒声に、モット伯のみならず、並み居る貴族達は皆言葉を失う。
ルイズは王に向き直り、頭を下げる。
「私は、そんな伯をお嗜め申し上げただけでございます」



ルイズは宮廷での立ち回りでモット伯を上回るのは不可能と考え、ならば貴族の誇り、その一点のみに絞って突破を図ったのだ。
他の事に関しては委細構わず、全てを受け入れると覚悟を決めた上でだ。
罰は免れ得ぬ、そういう事をしでかしたのだから。
証言も全て受け入れよう、モット伯の非難も尤もだ。
貴族位を剥奪されるかもしれない。
よろしい、ならばその後の尽力で必ずや返り咲いて見せよう。
その為にも法によらぬ自らの正義を、示して見せる必要があった。
ルイズが以降沈黙を保つと、モット伯は体勢を立て直し反論を重ねる。
一つ一つに言い返してやってもいいが、それはあまり効果的ではない。決闘の時もそうだった。
見ている者達が後で冷静になり、ふと振り返った時、彼等の心に残る一言を、そんな言葉を残せたか否かだ。
この裁判は負ける。受け入れよう。
だが、人生全てにおいて敗北したなどと思ってもらっては困る。
私はこの程度の危機で潰されたりはしない。
まだまだ私は戦える。それを諸侯にも、王にもお伝えしなければ。
恐れるな、前を向いて胸を張れ。
体の震えなど力づくで押さえつけろ。
私は必ずやここに帰ってくる。そんな気概を持つと皆に知らしめるのだ。

全ての詮議が終わり、王が裁可を下す。
「貴族にあるなじき傍若無人な振る舞い許しがたし。よってルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ、そなたの貴族位を剥奪するものとする」
厳粛な判決に相応しい重々しい王の声が謁見の間に響き渡る。
それでもルイズは動揺の欠片も見せず、恭しく頭を下げる。
そこに、思いも寄らぬ続きがあった。
「……しかし、貴族の誇り故これを為したとするそなたの心持ち、まっこと天晴れ也。故に機会を与えようと思う」
諸侯がざわつく中、王は声高らかに宣言した。
「これより50日の猶予を与える。その間にトリステイン貴族に相応しい功を挙げよ。さすれば此度の件は不問に処す」
たったの50日、戦があるでもなし、その間に功を挙げるなど不可能だ。
諸侯皆がこの延命はヴァリエール侯爵家への僅かばかりの配慮と受け取った。
しかし、一人ルイズのみが違う受け取り方をした。
感動の余り涙を溢しそうになる。

『私の……私の覚悟が陛下に伝わったんだ! 陛下は、見ていて下さったんだ!』

更に深く頭を下げるルイズを他所に、王は退室し、謁見の儀は終了した。



与えられた部屋へと戻るルイズ。
退室も儀礼に乗っ取ってつつがなく行う事が出来た。
王が退室した後、すぐにルイズも謁見の間を後にした為、廊下には護衛の兵が立っているのみであった。
兵が敬礼するのにも気付かず、ルイズはふらふらと歩く。
当人はまっすぐ歩いているつもりなのだが、何せ今更ながらに震えが来てしまってもう、どうしたものやら。
顎はがちがち言っているし、足は足で腿から先が別の生き物にでもなってしまったかのように感覚が無い。
歩く際、自然に振られる腕の動きが狂ってしまっており、ふらふらと体が揺れるのはそのせいだ。
そんな自身の惨状にも、ルイズは気付けずにいた。
『……やっちゃったあ……』
これが一番素直なルイズの感想である。
王や諸侯の前で啖呵を切った挙句、モット伯の悪評を振りまくような真似までしてしまった。
もう絶対、モット伯との和解は不可能だ。
個体識別すら不能な程、顔をぼこぼこにぶん殴っといて嗜めるも何も無い。
挙句教会の尖塔に半裸で吊るすとか、自分でやっといて何だが、貴族云々より人としてどうかと思う。
悪いのは圧倒的にこちらだが、だからといってあの場で言われるがままに処分を受けるような真似も出来なかった。
ルイズの後ろには同罪のキュルケもおり、また更にその奥には燦、シエスタ、そして下手をすればタバサにまで累が及んでしまうのだ。
やり方はどうあれ、戦わぬという選択肢は存在しなかった。
彼女達にみっともない話を聞かせられるものか。
返すべき言葉もなく、怯え震えて一方的に攻め倒されるのみなどと、断じて認められない。
それに陛下はこうして意を汲んでくださったのだ。
50日以内に功を挙げるとなると、よっぽどの無茶が必要になるだろうが、何としてでもやり遂げなければ。
すぐに手柄を立てるというのなら、戦場が最適だ。
この近くで戦場というとアルビオンの内戦ぐらいか。よし、アルビオンは兄弟国であるし、そこに赴こう。
一兵卒からでも構わない、何としてでも敵大将首をもぎ取って来てやる。

ルイズはやはり気付いて無かったが、これからどうするかを考え始めた時から、全身の震えは消えてなくなっていた。



謁見の間を後にした王に、付き従って歩くマザリーニ。
「……猶予、ですか」
王は愉快そうに含み笑う。
「マザリーニよ、お主にはこの結末、読めていたのではないのか?」
大仰に肩をすくめて見せるマザリーニ。
「とんでもございません。それに、ミス・ヴァリエールのあの足掻き方はとても予想出来るものではありませんでしたから」
王は今度こそ声に出して笑い出す。
「くくくっ、はっはっは、あれには驚いたぞ。おかげで随分と楽に話を進められたわ」
「なる程、アンリエッタ王女といい、ワルド子爵といい、入れ込む訳です。あれは手放しとうございません」
「案外かの者ならば50日以内に手柄を持ってきてしまうかもしれぬな。カリンの娘というが、情の強い所といいそっくりだぞ」
「陛下、それは幾らなんでも高望みがすぎましょう。じっくりと、育てていくがよろしいかと」
二人は今後に想いを馳せる。
「マザリーニよ、ラ・ヴァリエール侯が彼女を手放すと思うか?」
「嫌が応でもそうさせまする。その為の御裁可でございましょう」
老齢とは思えぬ、王の高らかな笑い声が響く。
「ならば後は任せよう。十日後ぐらいが適当であろうて」
マザリーニは恭しく礼をする。
「承りました。お任せ下さいませ」



全てが終わり、与えられた一室で一休みするルイズの元に、まずアンリエッタが、すぐ後にワルドが訪れる。
ワルドはキュルケを伴っており、謁見の間での一部始終は既にキュルケに伝えてある。
「ああ、ルイズ。何という事でしょう……このような悲しき結果になろうとは……ですが心配しないで下さい。私が何としてでも復権出来るよう取り計らいますから」
ルイズも王女が口利きしてくれた事は聞いている。
幼い頃の思い出を頼りに、ここまでしてくれた王女には感謝の言葉も無い。
感激を言葉にしようと口を開きかけたルイズに先んじて、ワルドが王女の言葉に応じる。
「いえ妃殿下、その必要も無いかと存じます」
「子爵? それはどういう……」
ワルドは順序だてて王の裁可の中身を説明する。
そも猶予というのがおかしい。
ヴァリエール家へ配慮するというのであれば、そもそも当主抜きで一族を処断するなどという事があってはならない。
それが如何な結果であろうと、ラ・ヴァリエール伯は不服に思うであろう。
しかし、そちらに配慮してしまうと今度はモット伯が収まらない。
ここまでの下準備が問答無用で全て無に帰すなどと、他の貴族に対しても示しがつかぬ。
だから王に求められているのは、罪の判定を下しつつ、ルイズに累が及ばぬよう裁く手段である。
「おそらく陛下は近いうちに退位なされるおつもりでしょう」
核心を突きつけたのだが、何とも間が抜けた話で、誰もそこに気付いてくれなかった。
仕方無いのでわかりやすく説明する。
「退位の際の恩赦がございます。これが50日以内に行われればルイズの罪は不問となるかと」
今度こそ伝わってくれた。
余りの驚きに蒼白になるルイズとアンリエッタ。
当事者であるルイズ、そして嘆願を行ったアンリエッタ共に、まさか王がそこまでしてくれるなどと想像だにしていなかったのだ。
そして王の思惑にも気付いているワルドはそこから先を口にはしなかった。
これで二人は王に対し巨大すぎる負い目を背負う事になる。
アンリエッタには女王としての自覚を促し、ルイズには王家への更なる忠誠を。
翻せば王はそこまでして二人の行く末を案じているという事だ。
アンリエッタはともかく、ルイズにまでそうする王の気持ちを、ワルドは理解出来る気がした。
謁見の間での凛とした態度、王を前に堂々と貴族の誇りを語る気概、覚悟を決めたなら一切言い訳をせぬ潔い姿勢。
これこそ人を惹きつけて已まぬ、為政者に必要な得がたい資質なのだ。
並みの人生を送っている貴族には生涯得られぬソレを、この年にして手にしているのだ。
そんな人間をどうして処断なぞ出来ようか。
ルイズとアンリエッタの二人は王への畏れ多さに、身震いしながら手を繋ぎあっている。
巨大すぎる恩は、感謝以上に申し訳無さが先に立つ。ルイズがシエスタにしてやったのと同じ事である。
今後、二人は共に力を合わせて王への恩返しを行わなければならない。
同じ立場に居る者同士、お互いを支え合わんと必死にそれぞれの手を握り、重圧に耐える。
これを期に、二人の絆は余人の踏み込めぬ領域へと、更に深く結びついていくだろう。
王はまだ未熟な次の王に、信頼の置ける腹心を用意してやったのだ。
おかげでワルドの思惑は完膚なきまでに粉砕された。
にも関わらず、清々しさしか感じえぬのは何故だろう。
トリステインの由緒正しき貴族などと偉ぶってみても、所詮は有象無象の集まり。
自身の持つ力と比してみるにそうとしか思えなかったのだが、そのワルドをして同じ条件で同じ事が出来るかどうか、そう思える人物達に次々と出会う。
無論自分が彼等以下だなどと思ってはいない。
その全てを力づくで捻じ伏せる自信もある。
しかし、ワルドの目の届かぬ所でこういった存在が大量に生まれているかもしれないとなれば話は別だ。

世界は、ワルドが今まで思っていた以上に、手強い相手なのかもしれない。

その思考が脳裏に纏わりついて離れない。
そんな考えを持つようになったのも、魔法も使えぬか弱い少女であったルイズの変貌が大きな要因である事は間違いなかった。

自国の事ではないので仕方がないとは思う。
当然といえば当然であるし、結果がこうなった以上、自分もお咎めなしとなりそうだ。
例のモット伯も直接ぶん殴ったルイズに恨みはあれど、こちらにはさして興味を示さなかったようだ。
何となく不愉快で、つい、ぼそっと口をついて出てしまった。
「私、空気じゃない?」
キュルケの言葉に誰も応えてくれないのも、まあ仕方が無い事なのだが。



学園へと戻るに当たり、てっきり馬車でも用意してくれるかと思っていたのだが、どうもモット伯の嫌がらせは続いているようで。
仕方なく馬を二頭借り受け、ルイズとキュルケは城を後にする。
道中言葉は無い。
馬を走らせているのだから当然だが、どちらも思う所あってか思考に耽っている。
半ばまで走破した所で、不意にルイズが手綱を緩める。
少し疲れたのかとキュルケも付き合い、二頭は並んでかっぽかっぽと歩きだす。
「ねえキュルケ」
「何よ」
声をかけときながら、その後の言葉を続けない。
キュルケも急かすような真似はせず、ただ馬の蹄の音だけが聞こえてくる。
ルイズは色々と頭の中で整理しているのだろう。
時折首をかしげ、かと思えばぽんと手を叩き、しかしまた眉根をひそめて考え込む。
どれほどそうしていただろう、ようやくルイズが口を開いた。
「あのさ、アンリエッタ様やワルド様、凄い私の事褒めてくれてたじゃない」
「そうねえ、立派だったってそう言ってたわ」
「あれ実は全然そんなんじゃないのよ。勢いっていうか、何ていうか……」
「勢いで王と謁見したの? それはそれで凄いと思うけど」
キュルケが混ぜっ返すと、ルイズは急にムキになって怒鳴り散らす。
「そういうんじゃなくて! その、さ。元々シエスタ助けに行ったのだってサンが危なかったからだし、
 そりゃモット伯のやり口が気に入らなかったのは本当だけど、そんな誇りだとか名誉だとかなんて、
 全然あの時は考えて無かったし。もちろん陛下に嘘言ったつもりはないわよ。それでも……その……」
何となくルイズが言いたい事は伝わって来た。
「みんなが言う程ご立派な自分でも無いのに、よってたかって褒められて、王にも大層なご配慮頂いて、今更へっぽこな自分に嫌気でも差したって事?」
てっきり怒鳴り返してくるかと思っていたのだが、ルイズは殊勝にも小さくコクンと頷いた。
「……名誉とか誇りとか大事だってずっと思ってたわよ。でも法を犯してまで押し通すなんて思っても見なかった。
 それが正しいって、そう思えたのだって、私がどうしたからじゃなくて……」
「サン……よね」
キュルケが言葉を続けると、またこくんと頷いた。
「あの子と居ると、自分がもっと頑張らなきゃって、もっと立派な貴族でなきゃって、そんな気になるの。
 使い魔に煽られてるなんて主人失格かもしれないけど、全然頭に何てこなくて、そうしてると何でか……」
「気分、良いわよね。どんな目に遭っても後悔なんて全然する気にならないのよ」
今度は大きく何度も頷く。
「そう! そんな感じよ! 後悔どころか、むしろそうしなきゃきっと自分が後悔してたって、そう思えるのよ!」
遠くを眺めるように地平線に目をやるキュルケ。
「本当……不思議な子よね」
「あの子と居ると、こうありたいって自分にどんどんなっていけるのよ。私が目指す貴族の姿に、そうだったらいいなあってそんな私に」
ルイズの方を見ていないので表情はわからないはずなのだが、ダンスでも踊っているような軽快な口調を聞けばどんな顔しているかは誰でもわかる。
たった今王との謁見を最高の形で決めて来た友人を、キュルケは複雑な想いで見やる。
「アンタもね」
「は?」
「何でもないわよ」
サンだけじゃなくて、アンタも充分不思議な生き物よ。と続けるのは止めにした。
ルイズに引きずられながらも負けられないと踏ん張っている身としては、それを素直にこのやたら強がったりヘコんだりと忙しい、無茶ばかりする友人に伝えてやる気にならないのであった。



二人が学園へ戻ると、正門前で燦とシエスタの二人が待ち構えていた。
ルイズとキュルケの姿を見るなり、二人は心配そうに駆け寄ってくる。
「だ、大丈夫じゃった? 変な事されんかった?」
「お城に呼び出されたと聞きまして……やはり私のせいで……」
キュルケが抗議の視線をルイズに送る。その目が誤魔化したのではなかったのか、と言っているのでルイズは見えないフリをした。
責任を感じているだろう二人の表情は晴れない。
ルイズは、良いも悪いも責任も、何もかもを腹の内に飲み込んで、にかっと笑った。

「別に、何も無かったわよ」




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