あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ラスボスだった使い魔-23b


 アルビオン宣戦布告の報が入ったのは、それが行われた翌朝のことだった。
 完全に不意を突かれ、王宮の上層部が大混乱に見舞われたために伝令が遅れたのである。

 ルイズとユーゼス、そして何となく気まずそうなエレオノールは魔法学院の玄関先でゲルマニアへと向かう馬車を待っていた。
 王女の結婚式ともなれば、当然トリステインの名門ヴァリエール家も(事情があって領地から出られない者を除いて)総出で出席しなければならない。
 ならばルイズとエレオノールは一緒に向かった方が効率が良いだろう、という判断である。
 しかし馬車はいつまで経ってもやっては来ず、代わりにやって来たのは慌てた様子の使者だった。
 その使者は落ち着かない様子でオールド・オスマンの居室を訪ねると、全速力で駆けて行く。
「「「?」」」
 3人揃って首を傾げるが、首を傾げたところで疑問が解消するわけではない。
「……ちょっと、何があったのか確認して来ます!」
「あ、ルイズ!」
 その疑問を解消するべく、ルイズは彼の後を追っていった。
「ああもう、まったくあの子ったら……」
「あの行動力は御主人様の長所なのか、短所なのか……。判断に困るところではあるな」
「……そ、そうね」
「……………」
 残された銀髪の男と金髪の女は、二言三言会話を交わすと、それきり無言になった。
「……………………」
「……………………」
(……ミス・ヴァリエールが落ち着いてないな)
 自分に対して注意を向けてはいるが、話しかけてこない。
 視線をこちらに向けようとはするが迷った末にそれをせず、逆にこちらが視線を向けようとすると顔を逸らす。
(?)
 機嫌が悪いのか、それとも自分が何かエレオノールの機嫌を損ねるような真似でもしていたか。
 思い当たる節は……。
 ……強いて言うなら先日の『自分の内面への踏み込み』くらいだが、それだとすると踏み込まれた自分が機嫌を損ねるのならともかく、どうして踏み込んだエレオノールが機嫌を損ねるのだろうか。
(まあ、別に構わんか)
 精神状態がどうであろうとも、その能力さえ低下しなければ自分としては文句は無い。
 思考は徹底してドライに。
 人間は『単なる道具』として扱う。
 ユーゼス・ゴッツォとは、そうあるべきだ。
 そうして暗示のように心の中で呟き続けていると、ルイズが大いにうろたえた様子でこちらへと走ってきた。
「……どうした御主人様、そこまで慌てるとは珍しい」
「ルイズ! 貴族がそんな息を乱して走ってはいけないと、子供の頃から言っておいたはずよ!」
 二人揃って『ルイズが慌てていること』への意見を言うが、ルイズはそれどころではないとばかりに大声でまくし立てる。
「ア、アルビオン軍が、タルブに―――!!」

 いきなり宣戦布告したアルビオン軍が、タルブ村に陣を張った。タルブは炎上した。
 姫さまの結婚式は、無期延期になった。
 トリステイン王軍は、ラ・ロシェールに陣取ってアルビオン軍と睨み合っている。
「……………」
 ユーゼスはそれを聞いても大して驚かず、ただピクリと表情を僅かに動かしただけだった。
 見れば、エレオノールは口を手で押さえながら目を見開いて驚いている。
「ど、どうすれば……!」
「……別に何をしなくとも良いだろう」
「え?」
 焦るルイズに、ユーゼスは平然と答えた。
「戦争が始まったのだぞ? 個人で出来ることなど何もあるまい」
「う……」
 それは、その通りなのだが。
「……戦争は『流れ』だからな。先手を打たれて後手に回ったトリステインに勝ち目は薄いだろうが……」
「うう……」
 確かに、あの使者はトリステイン艦隊主力は全滅したと言っていたが。
「生き残るだけならば、そう難しくもないだろう。どこか安全な場所にでも身を隠して、戦後の身の振り方でも考えていれば良い」
「ううう……」
 それが一番、『賢い方法』であると理解は出来るのだが。
 だが、それでも。
「…………!」
 自分に何か出来ることは、姫さまのためにしてあげられることは……と思いながら、ふと周りを見回してみると、先日ユーゼスがその『機能』を説明した物が目に入った。
 学院の玄関から見える、飛行機械……改造ビートルを指差して、ルイズは確認する。
「―――ユーゼス。あそこのあの鉄のカタマリは、『空を飛ぶ兵器』だって言ってたわね?」
「……その通りだ、御主人様」
 ユーゼスは平然とそれを肯定したが、それに面食らったのはエレオノールである。
「ルイズ、あなた……!」
「黙っててください、姉さま!!」
「!」
 エレオノールは馬鹿なことをしようとしている妹を止めようとしたが、その妹に怒鳴られてしまい、思わず口ごもってしまう。
 ……ルイズが面と向かってエレオノールに反抗するなど、これが初めてのことだった。
「アレは飛べるのよね?」
「まだ試してはいないが、設計上はそのはずだ」
「戦えるのよね?」
「そのための武器は搭載している」
 平静な口調で答えるユーゼスとは逆に、ルイズの心はどんどん高揚していく。
「……じゃあ、まずはアレを実際に飛ばして見せなさい。行き先は言わなくても分かるわね?」
 強い視線を使い魔に向けるルイズ。
 ユーゼスは無感情にその視線を受けつつ、その言葉の『意味』を確かめた。
「それは命令か?」
「そうよ!」
「……了解した」
 主人の命令を了承するユーゼス。この少女が一度こうなったら、どんなに言葉を尽くしても意見をひるがえさないことは、経験として知っている。
 もはや諦めにも似た心境で、ユーゼスはルイズを連れて改造ビートルへと歩き出した。
 しかし。
「待ちなさい!!」
 ……当然と言えば当然の結果ではあるが、エレオノールに制止される。

「ルイズ! 自分から戦場に行こうだなんて、馬鹿げたことを……!! あなたが行ってどうするの!?」
「馬鹿げたことじゃないわ!! トリステインのために戦おうとすることが、どうして馬鹿げたことなの!?」
「っ、あなたは女の子じゃないの! 戦争は殿方に任せなさいな!」
「それは昔の話だわ! 今は、女の人にも男性と対等の身分が与えられる時代よ! だから魔法学院だって男子と一緒に席を並べるのだし、姉さまだってアカデミーの主席研究員になれたんじゃない!!」
「それとこれとは話が別よ! ……そもそもあなた、戦場がどんな所なのか知っているの? 少なくとも、あなたみたいな女子供が行く所じゃないわ!」
 激しく口論するヴァリエール姉妹。
 蚊帳の外のユーゼスは、取りあえず成り行きを見守っていた。
「でも……でも、姉さまやユーゼスがいじっていたアレは、戦うための『兵器』なんでしょう!? 自分に戦える力があるのなら、戦うべきだわ!!」
「……それはユーゼスの『戦う力』であって、あなたの『戦う力』じゃないの! いいこと? 例えどんな使い魔を持っていようとね、あなた自身は何も出来ない『ゼロ』のルイズなのよ!?」
「……!!」
 ギリ、とルイズは歯ぎしりする。
 どんな使い魔を持っていようと、自分自身は『ゼロ』。
 ユーゼスを召喚してからずっと付きまとっていたコンプレックスを姉にストレートに指摘され、更に頭に血が上った。
「メ、メイジと使い魔は一心同体も同然でしょう!! だったら、使い魔の力はわたしの力だわ!! ……わたしとユーゼスの間にはね、姉さまなんかが入って来れない大事な絆があるの!!」
「っ!!」
「……………」
 そんな強い絆はあっただろうか、と密かに首を傾げるユーゼスだったが、言われたエレオノールは激昂して言い返す。
「……『絆』? 『絆』ですって? たかが2ヶ月くらい一緒過ごして、主従関係を続けただけで? ハッ、じゃあ聞くけど、あなたユーゼスのことをどれだけ知ってるのよ!?」
(む?)
 何だか、話が変な方向に進んでいるような。
「た、確かに知らないことは多いし、認めもするわ! でもメイジと使い魔の契約は一生のことだもの、これから時間をかけて色々知っていくんだから!!」
「フン、その分じゃあなた、ユーゼスがあなたに召喚される前に何を研究してて、何をしようとしてたのか知らないんでしょう!?」
「なっ!」
 どういうことよ、とユーゼスを見るルイズ。
 『お前も質問しなかったではないか』と言おうとしたが、ややこしいことになりそうなので黙っておく。
 ルイズは小さな唸り声を上げると、『だったらこれはどうだ』と言わんばかりに反論した。
「だ、だったら、姉さまだってユーゼスが『サモン・サーヴァント』で開かれるゲートを感じられること、知らないでしょう!?」
「……何ですって?」
 聞いてないわよ、とユーゼスを見るエレオノール。
 『別に言う必要も無いだろう』と言おうとしたが、面倒なことになることは明らかなので言わないでおく。
 そしてそのままギギギギギ、と姉妹は睨み合った。

(……これは『タルブに向かうかどうか』の言い争いだったはずなのだが……)
 いつの間にか、論点が全然別のものにすり替わってしまっている。
 まあ、これを修正するのも自分の役目だろう。
 ユーゼスは一歩前に進み出て、ルイズとエレオノールをなだめようとした。
「お前たち、いい加減にそのくらいで……」
 お互い、今は頭に血が上っているようだが、一度冷静になってくれれば議論の中心も元に戻るだろう、と思っていたのだが……。
「「アンタは黙ってなさいっ!!」」
「……分かった」
 頭に血が上ったヴァリエールの女が二人も相手では、自分程度ではどうにもならないようである。
「……大体ね、ユーゼス!」
 エレオノールがキッとユーゼスを睨みつける。
 この視線を受けるのも妙に久し振りに思えるな……などと思いつつも、ユーゼスは矛先が自分に向いたことに焦りを覚えた。正直、嫌な予感しかしない。
「あなたも『了解した』って人形みたいにルイズの言うことを聞くだけじゃなくて、少しは『自分の意見』ってものを持ちなさい!! ガーゴイルじゃないんだから!!」
「そう言われてもな……」
 『自分の意見』など持った所で、それを貫こうとする意志があるわけでもない。
 『自分の意見』を持とうとする気力も、そんなにない。
 それ以前に、持つつもりがない。
 ならば、彼女には『常識』を説くしかないだろう。
「……使い魔とは、主人に従うものなのだろう?」
 しれっと答えるユーゼス。
 その言葉を聞いて、エレオノールだけではなくルイズも硬直した。
「…………ユーゼス・ゴッツォ、少し確認するわよ?」
「何だ?」
「あなたが今までルイズの命令や指示に従ってきたのは、あなたが『使い魔』だから?」
「他に理由かあるのか?」
「……じゃあ、私の命令や指示に従ってきたのは、私が『あなたの主人の姉』だから?」
「『身分の高い貴族だから』というのもあるが。……それ以外に何がある?」
「ふ、ふーん、そう……」
「へ、へえー、なるほど……」
 ヴァリエール姉妹から発せられる怒りが、いきなり穏やかになる。
 いや、これは……。
(まるで拡散していたものを、一点に集中させているような……)
 ハッ、と気付いた時には、もう遅かった。
 ヴァリエール姉妹は同時に一歩を踏み出し、ユーゼスに詰め寄って、
「……ア、ア、アタマに来たわ!! 久し振りに!!!」
「どういうコトよ、それーーー!!!?」
 二人揃って、ユーゼスを怒鳴りつけたのだった。

「それじゃあ何!? アンタは今まで『使い魔だから』わたしの世話を焼いてたっての!!?」
「最初に雑用などを命じたのは、御主人様の方だったと……」
「それは確かにそうだけど―――それにしたって、『使い魔だから』!? 何なのよ、それは!!?」
「何なのよ、と言われても……」
 召喚した初日に『使い魔の仕事』として自分の世話を命じたのは、他でもないルイズなのだが。
 ユーゼスはどうにかしてルイズを落ち着かせようとしたが、そうする暇もなく今度はエレオノールに詰め寄られる。
「ならあの夜、私と話したことは何だったの!?」
「『あの夜』? ……いや、アレは単なる雑談のような物ではなかったのか?」
「はあ!? こ、この……!」
 ワナワナと震え始めるエレオノール。
 そして、とうとう彼女の中に溜まっていたものがあふれ出した。
「ああもう……! ……いいわ、もうこうなったら、変に遠慮するのなんて止めてやるんだから!!」
「? 今まで何を遠慮していたのだ?」
「黙ってなさい!!」
 何を遠慮されていたのか分からないユーゼスが思わず質問するが、その質問はピシャリと封殺されてしまう。
「これからあなたに対しては、言いたいことを言いたいだけ言わせてもらうわ!! あなたがそれに答えるなり、従うなりするのは自由よ!! 自分で決めなさい!!」
「わ、わたしだって、『使い魔だから』って理由だけで従って欲しくないんだから!!」
 エレオノールの言葉に触発されたのか、再びルイズがユーゼスに迫る。
 そして少しだけ口ごもりつつ、顔を赤くしながら問いを放った。
「……しょ、正直に答えなさい。ア、アンタ、わたしの所にいたいの? いたくないの? ホ、ホントのところはどうなのよ?」
「む……」
 そう聞かれても、困る。
「……お前の所以外に、どこに行けと言うのだ?」
「そ、それは……エレオノール姉さまの所、とか……」
 言いながら、チラリとエレオノールを見るルイズ。
「えっ!?」
 いきなり話を振られたエレオノールは、ルイズと同じようにカアッと顔を赤くした。
「?」
 ……ユーゼスは当事者、と言うかこの話の中心人物であるはずなのだが、話題に付いて行けていない。
「わ、わたしを選ぶのか、姉さまを選ぶのか、ハッキリしなさいよ!」
「……何?」
「そ……そうね、いつまでも宙ぶらりんは良くないわね。この際だから、ちゃんとしておかないと」
「いや、少し待って欲しいのだが―――」
「……………」
「……………」
 インターバルの申請を華麗に無視して、桃髪の美少女と金髪の美女の姉妹はモジモジしながら銀髪の男をチラチラと見る。
(何故、こんなことに……)
 困惑するユーゼスだったが、その疑問に答えてくれる者は誰もいなかった。

(……むう、どうにかしてこの状況を脱しなければ……)
 高ぶった感情を減少させるには、まずその注意を他の対象へと向ければ良い。
 そうすればベクトルが狂ったことにより感情の行き場がズレて、空回りした感情は勝手に霧散してしまう……はずである。
 要するに、話を逸らせば良いのだ。
 良いのだが……。
(どう話を逸らすか……)
 そもそも、最初の発端はタルブの戦場に行くかどうかという話のはずだったのに……と考えた時点で、ユーゼスに天啓がひらめいた。
 そう、キーワードはタルブである。
 ここで議題を最初の段階に戻しさえすれば、このよく分からない状況も終わる。そう思いたい。
 だが、どうやって……?
(……待て、論点を戻した所で、私としてはタルブに向かおうが向かうまいがどちらでも……)
 トリステインが滅ぼうがどうなろうが、大して興味も動かない。
 しかしここで『自分の意見』を持っていなければ、またアレコレと言われることは必至である。
(向かうべきか、向かわないべきか……)
 ユーゼスとしては『ハルケギニアへの干渉』はなるべく控えたい。しかし『ビートルを使った参戦』は……。
 そう言えば33年前にビートルを操縦した早川健は、コレを使ってどうしたのだろうか。
 ……タルブ村の住民の話によると、わざわざ燃料を満タンにして飛行させたらしい。ということは、『飛行させて使う必要があった』ということである。
 つまり、あの男は『ジェットビートルを使ってハルケギニアへの干渉を行った』のだ。
 いや、それ以前に快傑ズバットに変身したということは、もう人目をはばからず多大な干渉を行ったということではないか。
 早川健による干渉が良くて、何故ユーゼス・ゴッツォによる干渉が駄目だと言うのだろう。
(…………因果律を操作するわけでもないのだし、許容範囲内か……)
 普通ならまずこんな屁理屈のような思考方法はしないのだが、今は緊急事態なのである。仕方がないのだ。やむを得ないのだ。断腸の思いなのだ。
 そうと決まれば、あとは総力を挙げて強引に話を逸らすのみ。
「……………」
 ス、と視線をルイズとエレオノールに向ける。
「っ……」
「……!」
 二人は揃ってますます落ち着かなくなるが、そこでユーゼスは二人から視線を逸らして改造ビートルを見た。
「……こうしてはいられん、急いでタルブに向かわなくては!」
「え!?」
「はあ!?」
 我ながら白々しい口調だな、などと考えながらもユーゼスは話を続ける。
「何を驚いている、二人とも。そもそもこの話は『タルブに向かうかどうか』ということについての議論だったではないか」
「いや、それはそうだけど……」
「今はその話じゃなくて……」
 話が修正されそうになったので、強引に進めることにする。
「こうしている間にも人々が苦しんでいる……! 私はアレを使ってタルブに行く! 二人はここで待っていてくれ!!」
「「ええ!?」」
 驚くルイズとエレオノールをあえて無視し、ユーゼスは改造ビートルへと走っていった。

 そしてしばらく走った末にビートルに到着し、急いでハシゴを上り、ビートルの搭乗口を開けて、中に入り込もうとして……。
「待ちなさい、ユーゼス!!」
「う……」
 女性の声が聞こえたので振り向いてみると、『フライ』なのか『レビテーション』なのかは分からないが搭乗口に向かって飛んで来るエレオノールが見えた。
「ユーゼス、止まりなさい!!」
「ぬ……」
 更に全力疾走でもしたのか、かなり息を切らしていながらだがルイズも自分が登ってきたハシゴの下の部分にいる。
(早く発進しなければ……)
 ガンダールヴのルーンを発動させて走る速度を上げておけば……などと後悔しつつ、このまま戻って来ないことも選択肢に含めて、二人に気付かない振りをしながら搭乗口を閉めようと手をかける。
 その瞬間。
「ちょ、ちょっと、どいて!」
「何?」
 それなりのスピードで飛行してきたエレオノールが正面からユーゼスに、ドガ、とぶつかった。
「ぐっ!」
「キャッ!?」
 そのままユーゼスはあお向けに倒れこみ、エレオノールはそのユーゼスの上に馬乗りになる。
「うっ……、な、何というパワーだ……」
「……貴婦人に向かって『パワー』とか言わないでもらえるかしら」
 この時、誰か別の人間がいれば『エレオノールがユーゼスを押し倒している図』を目撃することになったのだが、幸か不幸かそんな人間はいなかった。
 なお、ユーゼスはそのようなことには無頓着で、エレオノールは慌てていたのでそのことに気付いていない。
 そしていつまでも倒れこむような体勢のままでいるわけにもいかないので、二人が起き上がったまさにその瞬間、ハシゴを登ってルイズが現れる。
「ぜえ、ぜえ……い、いきなり、走り出すんじゃ、ないわよ……」
 呼吸を乱しながらも、ルイズはビートルの中に初めて入った。
「へえ、こうなってたんだ……」
 ジロジロとビートルの内装を見回すルイズだったが、ふとユーゼスとエレオノールが並んで立っていることに気付いて鳶色の瞳を細くさせる。
「ユーゼス、何だかウヤムヤになりそうだけど……」
「さあ、早く発進させなくてはな!」
 先ほどの話をウヤムヤにさせはすまいとルイズが再び話し始めようとするが、先ほどの話をウヤムヤにするべくユーゼスはやや強行的にビートルの発進手順に入った。
「……今回は普通に座ってベルトを締めるのだろうな、ミス・ヴァリエール?」
「と、当然でしょう!」
 赤面してうろたえながら座席に座り、ガチャガチャとベルトを締めるエレオノール。
 ルイズはそのやり取りに何か不穏なものを感じ取ったが、取りあえずは姉にならって自分もベルトを締める。
「さあ、余計な無駄話をしている場合ではない。一刻も早くタルブへ向かうぞ!」
「……………」
「……………」
 ジトッとユーゼスを見つめるヴァリエール姉妹だったが、ユーゼスはそんな視線など存在しないと言わんばかりに改造ビートルを発進させる。
 試運転なしで発進させるのは少々不安もあったが、改造ビートルは意外なほどスムーズに宙に浮き、飛行した。
「わ、わ、わぁ! 空を、空を飛んでる~~!!」
 なお、初めての飛行機械に興奮したルイズのおかげで、タルブまでの道中において詰問が再開されることは無かった。


 青い粒子を撒き散らしながら飛び立つ、改造ビートル。
 その様子を、魔法学院の一室から眺めている男がいた。
「朝早くから、随分と慌ただしい試運転ですね……」
 改造ビートルの改造作業のメインエンジニアにして、十指に渡る博士号を持ち、『メタ・ネクシャリスト』とも呼ばれている超天才科学者、シュウ・シラカワである。
「何だか修羅場ってたみたいですけどねー。いやはや、あれほどの朴念仁はなかなかいないでしょう。まさに10年に1人の逸材!」
 シュウの肩に乗りながら、飛んで行くビートルを見送るチカ。
「……ユーゼス・ゴッツォの女性関係はともかくとして、さすがに未調整のプラーナコンバーターでは不安が残ります。一応、アフターサービスはしておきしょう」
 そしてシュウはミス・ロングビル宛に『少し出かけてきます』と書置きを残して、部屋から姿を消したのだった。


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