あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ラスボスだった使い魔-23a


「うぬぬぬぬぬぬぅ~~……」
 名門貴族の息女にあるまじき唸り声を上げながら、ルイズは学院の外の平原でユーゼスを見ていた。
 いや、正確に言うと、ユーゼスとその周辺を見ていた。
 正体不明の……何だろうか、鉄やら何やらのカタマリ。これは別にどうでもいい。自分の使い魔が変な行動をするのは今に始まったことではないし、新しい『研究対象』というところだろう。
 紫の髪の男。…………どこかで見たような気がするのだが、思い出せない。まあ、顔を見ても思い出せないということは、それほど重要でもないのだろう。ルイズ的にもそれほど興味はないので、これもどうでもいい。
 その紫の髪の男と、ユーゼスにアレコレ指示を出されてワルキューレを動かしているギーシュ。本当にどうでもいい。
 ……どうでもよくないのは、ここからだ。
 何だか、常にユーゼスとつかず離れずの距離を保っている、自分の姉と。
 それを受け入れるでもなく拒絶するでもなく、サラッと姉と会話などをしている当のユーゼス・ゴッツォ。
「一体何があったのよ、もう……」
 自分の知っているユーゼスとエレオノールの関係と言えば、『研究者同士でレポートや意見の交換している』くらいの認識しかない。
 しかし、『宝探し』から帰って来てからの二人は……。
「うぬぬぬぬぬぬぅ~~……」
 再び唸り声を上げる。
 いや、特にどこが劇的に変化したというわけではない。
 ユーゼスは相変わらず他人に無関心で、それはエレオノールに対しても変わっては……いや、微妙に変わったような気もするような。
 言葉にすると上手く表現が出来ないのだが、何だか、こう……。
「……そう、注意を払うようになってるのよ」
 よくよく観察しないと分からないのだが、たまにユーゼスの視線がエレオノールを向いていることがあるのである。ギーシュになんてほとんど向けないのに。
 紫の髪の男にも視線は向けられているのだが、何だかそれと『エレオノールに対する視線』は種類が違う。これも説明は難しいのだが。
 そして、何よりもエレオノールだ。
 家族だから当たり前なのだが、ルイズとエレオノールの付き合いは長い。だから、ルイズはエレオノールがどのような人間なのかもそれなりに熟知していた。
 ……熟知していたはずなのだが、今の姉はどうにも自分の知識の中には見当たらない。
 まず、その雰囲気である。
 ルイズの中のエレオノールは、『プライドと高慢』という言葉が服と眼鏡を着用した『角ばった石』とでも言うような人間だった。
 しかし、それがユーゼスと一緒にいる時限定で、その『角』が丸くなったような印象を受ける。
「根っこのところは、変わってないと思うんだけど……」
 父親と母親と真ん中の姉以外にはどんな相手だろうと硬質な態度を崩さなかったはずの姉が、わずかであろうと態度を軟化させるというのは、物凄い違和感がある。
 更に、エレオノールの振る舞いや挙動にも変化があった。
 先ほど挙げたようにユーゼスはたまにエレオノールの方を見ているのだが、エレオノールもまたユーゼスにチラチラと視線を向けることがあるのである。
 そうすると、自然と二人の視線がかち合い、目がバッチリと合うことになるのだが……。
 その結果、あろうことか1秒もしない内にエレオノールの方から視線を外すのだ。
 しかも、何だかドギマギした様子で。
「あ、あり得ないわ……」
 エレオノールがエレオノールらしくないという事態に、混乱してしまうルイズ。
 何が何だか、よく分からない。
 ……さっきから『何だか』という単語を何度も思い浮かべているが、そもそもの理由が分からないのだから、これはもう『何だか』と表現するしかないのである。
 って言うか、何なのよ。
 アンタの御主人様は、このわたしでしょ。
 そりゃ、エレオノール姉さまを気にするなとは言わないけど、もっとわたしを気にしなさいよ。
 むしろエレオノール姉さまより、わたしに視線を向けなさいよ。
「うぬぬぬぬぬぬぅ~~……」
 出来るのならばユーゼスにそう言ってやりたかったのだが、色々なプライドやら何やらが邪魔してそれが言えない。
 そのようなプロセスを経て、ルイズは詔(ミコトノリ)の考案もそっちのけでユーゼスとその周辺を見続けていたのだった。

 そして、ユーゼスが魔法学院に帰還してから4日目。
「……どうにか完成したな」
「ギルドーラのプラーナコンバーターが機体と微妙に合致しなかったので、即興で小型化を行うことになってしまいましたがね。いや、苦労しました」
 改造したビートルを眺めながら、ユーゼスとシュウは喋っていた。
「……ヴァルシオーネRという前例が無ければ、もう少し苦労したでしょう。EOTから魔装機系統の技術への差し替えを行っていて助かりましたね」
「お前のネオ・グランゾンも、科学とラ・ギアスの技術の融合らしいがな」
 ちなみにユーゼスは実際にネオ・グランゾンを見たことは無いので、それに関しては知識だけで語っている。
 エレオノールはゲンナリした様子でそんな二人に呟く。
「…………私は機械のことはよく分からないけど、それをアッサリとやってのけるアンタたちが異常だってことだけは分かるわ……」
「そうか? ……まあ、機械工学は私も専門分野ではないから、そう役には立てなかったのだが」
「いえ、特にレーダー関係や電装系などに十分にお役に立ちましたよ。さすがは『あのシステム』を開発しただけのことはあります」
「ふむ」
 彼らがやったことは、実のところはシュウが持参したプラーナコンバーター(魔装機というロボットから直接取って来たらしい)に少々手を加えてジェットビートルに取り付け、上手い具合にエネルギーが機体に行き渡るように調整を加えただけである。
 だが。
(……コイツら、自分たちの異常性を理解してないのかしら……)
 ロクな設備もないこの状況下において、あんな複雑で(エレオノールは)見たこともない機械をいじる作業を、わずか3日で完了させたことは『異常』以外の何物でもない。
 これで専門の設備があれば、おそらく丸1日で作業が完了していただろう。
 と言っても『機械整備のための専門の設備』など、ハルケギニアで生まれ育ったエレオノールには想像も出来ないのだが。
「では、試運転はどうします? 今すぐにでも飛ばせられますが」
「そうだな、早速飛行させてみるか」
 特に今すぐ飛行させる理由はないのだが、今すぐ飛行させない理由も見当たらない。
(どちらでも構わないのなら、取りあえず今すぐ飛行させてしまおう……とでも考えたんでしょうね)
 とかく『研究者』という人種は、思考や行動において無駄を省く傾向がある。
 同じ『研究者』であるエレオノール自身もそのような思考をすることがあるので、彼女にとってユーゼスの思考の追従は、割と簡単なことだった。
 ……ちなみにユーゼスにとっての『無駄』の代表格である『見栄』や『飾り』などは、貴族にとっては必要なことであるとエレオノールは考えている。
「しかし、今更ながら疑問があるのですが」
「何だ?」
 ユーゼスはビートルを眺めながらシュウに答える。
「あなたはこれを飛行させて、どうするつもりなのです?」
「……………む」
 ユーゼスの表情が、わずかだが動いた。
「……まさかとは思いますが、『ただ何となく整備して飛べるようにした』というわけではないでしょうね?」
「最初はミス・ヴァリエールの依頼で、調査がてらということだったのだが……」
 ううむ、と考え込むユーゼス。どうやら本当に『飛行させた後のこと』については考えていなかったらしい。
(そこで悩まれても困るんだけど……)
 エレオノールにしてみれば『原理がよく分からないから調べよう』、『転用や応用が出来るようならそれを考えよう』程度の考えしか持っていなかった。
 実際、『特殊な油』という副産物を得ることが出来たのだから、目的の半分ほどは達成したとも言える。
 上手くすれば、このシュウ・シラカワがもたらした『プラーナ』とやらの研究に踏み出すことも可能だろう。現時点では不明な部分がかなり多いが。
 そんな感じに色々とエレオノールが考えていると、シュウからとんでもないセリフが飛び出した。
「やれやれ。……では、良い機会ですから東の『ロバ・アル・カリイエ』とやらにでも行ってみてはどうです? あなたの『故郷』に戻れるかも知れませんよ?」
「……………」
「!」
 『シュウを睨みつける』というユーゼスの行動にも驚いたエレオノールだったが、それ以上に『故郷』という単語にハッとした。
 ……当たり前の話だが、ユーゼスにも故郷はある。
 今更ながら、エレオノールはそんなことに気付いたのだった。

「……私の素性を知った上でその言葉を口にするとはな。お前が嫌味や皮肉が好きだとは思わなかったぞ」
 ジロリ、とシュウを見るユーゼス。
 ……彼にしては非常に珍しいことに、その顔には『ある感情』が浮かんでいた。
(イライラしてるって言うか、不機嫌そうって言うか……)
 こんな一面もあるのね、などと感心するエレオノールだったが、感心している場合でもなさそうだ。
 ユーゼスとシュウの間に、険悪な空気が漂いつつある。
 ユーゼスの視線には言外に『余計なことを言うな』というメッセージが込められていたが、対するシュウはその視線を軽く受け流して話題を続けた。
「これは失礼を。ですが、よろしいのですか? このビートルにせよ、あなたが持っているという鞭にせよ、あなたの『出身地』から現れた可能性が高いのでしょう? その因果律を辿れば……」
「……戻るつもりがあるのならば、召喚された直後に戻っている」
「そうですか」
 睨み続けるユーゼスに、シュウは飄々と言葉を放つ。
「……随分と不機嫌なようですが、『素性を調べても別に構わない』と言ったのはあなたですよ?」
「『無遠慮に触れて良い』と言った覚えなど無いがな。……あるいはそれは私の記憶違いか、『背教者』?」
「…………ふむ」
 それきり、ユーゼスとシュウの話は止まった。
 さすがのシュウも、それ以上に踏み込んで不毛な会話を続けるつもりはないらしい。
 だが、ユーゼスにとっては何やら触れられたくない話題のようでも、エレオノールにとっては気になる話題である。
 ユーゼスの故郷。
 本人からは『遠くから来た』とだけしか聞いておらず、具体的にどのような場所なのかはサッパリだった。
(聞いてみたい、けど……)
 シュウとの会話からすると、どうも聞いて欲しくはないようだ。
 しかし、気になる。
 とても、気になる。
 すごく、気になる。
 思わずチラチラとユーゼスを見るエレオノールだったが、ユーゼスは意図的に無視しているようだ。
(……何よ、無視しなくてもいいじゃないの)
 せめて『聞かないでくれ』とか言ってくれれば、こっちだってそれなりの対応をするのに。
 そういう『人に対して自分の意思を積極的に伝えようとしない』と言うか、『人との関わりを持とうとしない』点が、エレオノールのユーゼスに対する不満点の一つだった。
 何よりもタチが悪いのは、その自分の不満点をユーゼスが自覚していて全く直そうとしないことであり、それが更に彼女の不満を呼んでいる。

 そして、そんな不満そうなエレオノールの様子に、目ざとくシュウが気付く。
「おや、ミス・エレオノールは今の話が気になりますか?」
「えっ?」
 意図していたのとは別の人物から話が振られたので、エレオノールは驚いた。
 ……ちなみに、シュウはハルケギニアの貴族のことをユーゼスのように『ミスタorミス・“名字”』ではなく『ミスタorミス・“名前”』で呼んでいる。
 シュウは薄く笑みを浮かべながら、再びユーゼスに話しかけていく。
「このご婦人にあなたの『故郷』のことや『詳しい経歴』をお話ししてみてはどうですか、ユーゼス・ゴッツォ? 彼女も興味がおありのようですよ?」
「……………」
 わずらわしそうな視線をエレオノールに向けるユーゼス。
 ユーゼスはシュウに対してはある程度だが強気に出れても、エレオノールに対してはそうではなかった。……実際は、感情をぶつけるべき相手かどうかの線引きが明確なだけなのだが。
 しかし抑えてはいても、そこに『感情』は確かに存在する。
(う……)
 こうもハッキリとした『感情』を込められた視線をユーゼスから向けられるのは、初めてだ。
 しかし……出来れば、もう少しプラス方面の感情を向けて欲しかった。
「……私の故郷や素性についての詳しい話が聞きたいか、ミス・ヴァリエール?」
 あの夜、焚き火を前に『かつての自分の野望』を語った時などとは比べ物にならないほど言いたくなさそうに、明確な嫌悪感すら込めて尋ねるユーゼス。
「それは……」
 下手に『聞きたくない』などと言っても、すぐに嘘だと見抜かれるだろう。
 かと言って、無遠慮に『聞かせなさい』と言うのも、ためらわれる。
 ……ならば、自分はこう言うしかない。
「気にはなるけれど……無理にとは言わないわ。話したくなったら、その時に話して」
 我ながら実に模範的、かつ中途半端な回答だ。
 ユーゼスは『そうか』とだけ呟くと、エレオノールからほとんど興味を失ったかのように視線を外す。
「…………っ」
 そのことが、何故か辛く感じる。
 だからだろうか。
 反射的に、すがるように問いかけてしまった。
「ユーゼス、故郷に……帰りたいとは、思わないの?」
(……あ……)
 問いかけてから、後悔した。
 『触れられたくない部分』だとアピールされた直後に、自分から触れてしまってどうするのだ。
 ユーゼスはエレオノールを一度だけ見ると、彼女だけではなく自分自身にも言い聞かせるように言う。
「もう存在していない。……そもそも、『故郷』など私にとっては何の意味もない物だ」
「……………」
 それだけ言って、エレオノールから離れるユーゼス。
 視線はもう、彼女には向けられていない。
「……どうして私って、こう……」
 残される形になってしまったエレオノールは、溜息を吐いて右手で額を押さえ……彼女にしては非常に珍しいことに、自己嫌悪に苛まれる。
 結局、本日の試運転は見送りとなった。

 解散した直後、少し離れた木の枝の上からその様子を見ていた青い鳥がパタパタと飛んで来て、その場に残っていた主人の肩に降り立った。
「御主人様、ちょっとからかい過ぎだったんじゃないですか?」
 シュウのファミリア(使い魔)、チカである。
 シュウはチラリとチカを一瞥すると、苦笑しながら言われた言葉を肯定した。
「……確かに、少々悪乗りが過ぎましたか。ユーゼス・ゴッツォとここまで深く話が出来るとは思っていなかったので、つい内面を探るような真似をしてしまいましたが……」
 その一連の言動や態度を思い出しながら、ユーゼス・ゴッツォの内面の分析を行うシュウ。
「やはり『私の知っているユーゼス・ゴッツォ』と共通している部分はあります。思考の回転はかなり早く、能力も高い……間違いなく優秀な人間と言えるでしょう。
 しかし外面では余裕を演じていますが、その実、割と感情的になりやすい傾向も共通していますね。まあ、そんなことだから『ユーゼス・ゴッツォ』は野望の達成が出来ないのでしょうが……」
「はあ……」
 どうやらシュウの主目的は『ユーゼス・ゴッツォの分析』にあったらしい。道理でアッサリと誘いに乗ったわけである。
 やけに気前よくプラーナコンバーターの調達に応じたとも思ったが、内面を分析するためにはその人間とそれなりに深く関わる必要がある。それがモノ一つで済むのなら、安いことだったのだろう。
(こういう回りくどいことばっかりやってるから、いまいちマサキに信用されないんだろうなぁ……)
 シュウのこのような迂遠なやり方は今に始まったことではないから、チカとしても慣れたものではあるが……なぜ普通に会話を重ねるなどの方法を取ろうとしないのだろう。
(友達いないから、人づきあいの方法とかが分かんないのかなー)
 主人に聞かれたら殺されても文句が言えないことを考えるチカだが、当然そんなことはおくびにも出さず会話を続ける。
「でもこのまま険悪な雰囲気ってのも、いけないんじゃないですか?」
「そうですね。お詫びはしておかなくてはなりませんか」
 魔法学院へと歩き出すシュウ。ネオ・グランゾンの中で睡眠をとっても良かったのだが、ミス・ロングビルの口ぞえで取りあえずの寝床は用意してもらっていた。
「しかし、試運転が出来なかったのは少し惜しかったですね。プラーナコンバーターの調整も行いたかったのですが……」
「未調整だったんですか、アレ?」
「サフィーネが所持していたギルドーラは、かなり長い間使用していませんでしたからね。起動させた際に、何か不具合が起こる可能性もあります。
 いつぞやのサイバスターのように機能不全を起こしたり、突然コンバーターが停止したり、下手をすると爆発するかも知れません」
「……危なくないですか、それ?」
「普通の人間であれば危険でしょう。しかし使用するのはユーゼス・ゴッツォです。そうそう心配することもないとは思いますが……」
 だが自分の手が入っている以上、可能な限り『完璧』に近付けたいとも思う。
「……やはり、試運転には立ち会っておくべきですね」
 それさえ済めば、自分の仕事も終わりである。


 その日の夕方、ユーゼスは久し振りにルイズの部屋の中にいた。
 一人で廊下を歩いていたら、やたらとイライラした様子のルイズに呼び止められて『詔がどうのこうの』と言われて部屋まで引っ張られたのである。
 ユーゼスとしても気分転換をしたいところだったので、黙ってルイズが読み上げる詔とやらを聞いていたのだが。
「炎は熱いので、気をつけること」
「……それは単なる注意事項だ」
「風が吹いたら、タル屋が儲かる」
「……深い言葉ではあるが、詩的な印象は全く受けないな」
 このような調子で、主人の詩の才能のなさを知るだけの結果となった。
「ああもう、文句ばっかり! じゃあアンタは何か思いつくの!?」
「思いつく訳がないだろう」
 詩など考えたこともないのだから、すぐに思いつけと言われても無理だ。
 ルイズは唸りながらユーゼスを睨み、『今日はもうやめる』と言ってベッドに横になる。
 そして不機嫌なままで使い魔に問いかける。
「…………今まで、どこに行ってたのよ」
「一言で言うなら『様々な場所』だ。ミス・ヴァリエールに色々と連れまわされたのでな」
 相変わらず淡々と語るユーゼス。
 それ自体には安心したのだが、サラッと『ミス・ヴァリエール』という単語が出て来たのでルイズの不機嫌度は増した。
「…………エレオノール姉さまと、何をしてたのよ」
「宝探しと、研究についての話と……昔語りくらいか」
「昔語り?」
「互いの過去を語って聞かせただけだ。どうにも似たような話だったので、面白味も何もなかったがな」
「ど、どんな話をしたのよ」
「?」
 やけに食い付いてくるな、などと思いながら詳細を少しだけ語る。
「これまでの人生はほとんど研究に打ち込んで、それなりに実績を残して、現在に至る―――という話をしただけだぞ」
「……ホントにそれだけ?」
「他に言いようがない」
「そう、そうなんだ……」
 妙に安心したような顔を見せるルイズだが、更に話は続く。
「あの外の広場にある……何だかよく分からない、大きな箱みたいなのは何?」
「空を飛ぶ兵器だ」
「兵器?」
「アレを使用して飛行し、搭載された銃などを使って巨大な怪獣……いや幻獣を攻撃したりする」
「……それで幻獣を倒せるの?」
「倒せる場合もあったはずだ」
「何よ、その表現……」
 実際にその通りなのだから、仕方がない。
 と言うか、随分と昔のことなのであまりよく覚えていないのだが、ジェットビートルに限らず防衛チームの戦闘機が単体で怪獣を撃退したケースなどあっただろうか?
 異星人連合ETFの円盤の迎撃くらいはしていたはずだが、その他の活躍と言うと……。
(……移動手段と、変身前のウルトラマンが乗っていた、という記憶しかない……)
 そう言えば『自分の世界』に来た時も戦闘機を持参していたな、などと回想するユーゼス。

 過ぎ去った過去に思いを馳せていると、横からルイズの声が飛んで来た。
「ホントに飛べるの、アレ?」
「飛べる……はずだがな。実際にはどうなるかは分からん」
 タルブからここまでは飛行が出来たが、あれはプラーナコンバーターに換装する前の話である。
「試運転をしようかとも思ったが、あまり進んで行おうという気も起こらなくてな」
 実際には『行う気はあったのだが途中でやる気が無くなった』なのだが、それを正直に主人に言うのもためらわれた。
 ……まさか『聞かれたくないことを聞かれたので不機嫌になった』、などとは言えない。
「ふーん、意外に気分屋なのね、アンタ」
「……そうかも知れんな」
 思い当たる節がありすぎるので、否定も出来ない。
 そしてルイズは少し真剣な顔になってユーゼスに問いかける。
「とにかく、これだけはハッキリさせておきたいんだけど」
「何だ?」
「エレオノール姉さまとは、何もないのよね?」
「……? 質問の意図が分からないのだが」
「い、意図って……」
 『何もない』とは、どのような意味なのだろう。
 レポートなどのやり取りをしているのだから『無関係』ということはあり得ない。それはルイズも分かっているはずだ。
 自分と彼女の間で、特に事件があったわけでもない。
 強いて言うのなら、先ほど内面に踏み込まれかけたので『人間』としての個人的評価がダウンした程度だが、それだから特にどうということもない。
 ユーゼスは『能力の評価』と『人間性の評価』をほぼ切り離して考えているので、多少ソリが合わなくても『人材』として優秀ならば平気で同志や片腕としてスカウトしていた。
 さすがに個性が強すぎる場合は切り捨てるが、その辺りは割り切っているのである。
 ……過去にスカウトした人間のラインナップも、神官ポー、異次元人ヤプール、帝王ゴッドネロス、東方不敗マスターアジア……は駄目だったので代用品としてウルベ・イシカワ、トレーズ・クシュリナーダと、一部を除いて性格にかなり難がある面々だ。
 エレオノールも扱いにくいが、あの連中に比べればまだマシと言える。
 ……よくよく考えてみれば、過去を詮索されるのを遠慮したいのなら下手に身の上話などはせずに、業務上の話だけを事務的に行えば良いのである。
 ちなみにエレオノールは今、『これからどうやってユーゼスと接すれば……』と少しばかり悩んでいるのだが、そんなことは彼の知る所ではない。
(大体、『他の人間と関係を持つ』というのが私らしくなかったのだ)
 と、そのようにしてハルケギニアの人間との付き合い方をあらためて確認するユーゼスだったが、彼の主人の少女はモゴモゴと口ごもっていた。
「……その……まあ、姉さまと、アレコレすると言うか……」
「アレコレ? 具体的に言って欲しいのだが」
「ぐ、具体的に……!? …………いや、この反応からすると『そういうコト』は無さそうね……」
 なら別に良いか、と一人で納得してルイズはベッドから起き上がる。
「そろそろ夕食の時間ね。食堂に行きましょうか」
「何が聞きたかったのかはよく分からなかったが、分かった」
 いつもの調子を取り戻したルイズと、多少強引ではあるが召喚された当時の調子に戻ろうとするユーゼスは、共に食堂に向かうのだった。


 ワルドは竜騎兵隊の隊長として、『ロイヤル・ソヴリン』号改め『レキシントン』号に乗り込んでいた。
 この戦艦は、先日新たに誕生した『神聖アルビオン共和国』代表の旗艦として、トリステイン王女とゲルマニア皇帝の結婚式に向かっているのだ。
 そして港町ラ・ロシェールにてトリステインからそれなりの歓迎やら挨拶やらを受けた後、トリステインの艦隊と合流し、結婚式の行われるゲルマニアの首府、ヴィンドボナに向かう。
 ……外面上は、そういうことになっている。
「要するに、来客を装った騙し討ちを仕掛けるわけか……」
「言うな、子爵。やる気が削がれる」
「これは失礼しました、艦長」
 ポツリと呟いた言葉が、隣に立っていたサー・ヘンリー・ボーウッドに聞こえたらしく、釘を刺されてしまう。
 ワルドは頭を下げつつ、内心ではこのボーウッド艦長に同情していた。
(『実直な軍人』という人種は、こういう時には辛いものだな……)
 上からの命令には絶対服従で、非常に忠実。軍人として優秀すぎるために『反抗する』という行動も選択肢に入れられない。一度作戦が始まれば非常に徹する。
 このボーウッドという男は、命令に対して徹底して『個』というものを殺し続けなければならず、しかもその生き方が染み付きすぎている。
 おそらく、一生この生き方を貫くことになるのだろう。
 それだけならばワルドとしても『よくある話』で片付けられるのだが、問題はボーウッドに色々と指示を飛ばす『艦隊司令官・兼全般指揮執行者』にあった。
「……艦長、こんな近付いて大丈夫なのかね? 長射程の大砲を積んでいるのだから、もっと離れたまえ。私は、クロムウェル閣下より大事な兵を預かっているのだ」
 サー・ジョンストン。一言で言えば、政治屋である。
 クロムウェルの信任はそれなりに厚いのだが実戦の経験などは全く無く、ハッキリ言ってしまえば、この場においては邪魔以外の何物でもなかった。
 しかし地位としてはボーウッドやワルドより上に位置しているため、ぞんざいに扱うことも出来ない。
(……この光景は、どの国でも同じだな)
 かつて自分がグリフォン隊の指揮を執る時も、トリステインの重鎮たちが『ああだこうだ』と的外れな指示を出すことがよくあった。
 とは言え、ボーウッドもその辺りのあしらい方は心得てはいるようだ。
「サー、新型の大砲と言えど、射程いっぱいで撃ったのでは当たる物ではありません」
「しかしだな、何せ、私は閣下から預かった兵を無事にトリステインに下ろす任務を担っている。兵が怖がってはいかんだろう。士気が下がるではないか」
「そうですな」
 やり取りの後、ボーウッドはジョンストンを無視して命令を下し始めた。
 とりあえず意見は聞いておいて、その後に淡々と『自分の方法』で効率良く進行させる。賢いやり方だ。
(しかし、『新型の大砲』か……)
 ワルドは、クロムウェルの傍らに立っていた得体の知れない……東方のロバ・アル・カリイエからやって来たという触れ込みの、小太り体型の大柄な男を思い出す。
(デブデダビデ、とか言っていたな)
 確かに聞き慣れない響きの名前ではある。東方ではそのような名前が使われていると言われたら、そう納得するしかない。
 あの不気味な雰囲気さえなければ、すんなり納得も出来たのだが。
(……得体が知れないと言えば、あの『紫の髪の男』……)
 目撃証言程度ならばそれなりに得ることは出来たが、いまだ実際に発見するまでには至っていなかった。
 まあ、これから戦場に向かおうと言うのに、いつまでも不確定要素について考えるのも好ましくはあるまい。
 あの男のことも気になるが、今は目の前の戦場だ。
 状況は既にアルビオンの『ホバート』号を自爆させ、その罪をトリステイン艦隊旗艦になすり付ける段階を通り越し、艦隊戦という名の一方的な蹂躙に入っている。
「さて、私も仕事をして来ますよ」
「気をつけてな、子爵」
 艦長の言葉を背に、ワルドはかつての祖国を攻撃するべく風竜の元へと向かった。


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